三話 イチヤノユメ
(微裏な表現あり)
あれからギンガはいつも通り病院へ行き、良介とスバルの世話をする日々が続いた。
良介もスバルも徐々に回復していき、退院はもう間もなくである。
そしてギンガの停職期間も終わりが近づいている。
そんなある日、ギンガの姿は良介の病室ではなく、スバルの病室にあった。
良介は入院費をタダにしてもらう代わりに病院内で無料の手作りアイス(材料費病院持ち)を朝から配り歩いていた。
本来ならばこんなことは許可されるはずはないのだが、この病院の院長が良介と飲み友達ということで、特別に許可がおりたのだ。
良介の手作りアイスは結構評判で、スバルは朝一で良介の下へと向かいすでに十五個のアイスを平らげている。
しかし、本来の食欲を取り戻したスバルは十五個のアイスだけではまだまだ満足がいかず、ギンガに見舞品の果物の皮を剥いてくれと頼み、果物が来るのを待っている。
良介の見舞品と違い、なのはとティアナから貰った一般的な果物の詰め合わせだが、スバルにとってそんなのは関係なかった。
果物を待っているスバルがギンガを見ると、今日のギンガはどこか元気がないように見えた。
「ギン姉どうしたの?」
「えっ!?」
突然スバルから声をかけられたギンガは手元の果物からスバルの方へと視線をむける。
「えっと・・・・何かな?」
「ギン姉今日元気がないなぁと思って・・・・」
「そ、そんなことないよ」
「嘘!!」
スバルがギンガの方へ顔をズィっと寄せる。
「ねぇどうしたの?何があったの?」
「うん・・・・実は・・・・・」
やはり仲の良い姉妹。隠し事は出来ず、ギンガは先日良介の病室で見た良介となのはとヴィヴィオの光景。そして自分の想いをスバルに語った。
初めは恥ずかしがっていたのだが、途中からは真剣な顔で良介に対する想いを言われてはスバルの方も真剣に相談を受けならざるを得なかった。
「それで・・・・ギン姉は宮本さんとどこまでいったの?」
「あの・・・・その・・・・・」
良介との関係を聞かれ、ギンガは真剣な表情から一転し、顔を赤くして、スバルに耳打ちする。
「ええぇぇぇぇ!まだキスしか済ませてない!?」
「スバル!!声が大きい!!」
「あわわわわごめん」
大声を出したスバルを慌ててなだめるギンガ。
「で、でもギン姉、良介さんが復活してもう半月以上経つけど告白とかしないの?」
「・・・・・」
ギンガだって良介に自分の想いは伝えたい。でもその半面、彼に拒絶されるのが怖いのだ。
それに公園で再会した時、八神家の人たちも自分と同じぐらい彼のことを想っているのはこの目で見て、その嫉妬の凄さをこの目で見て、肌で体験している。
「ねぇギン姉・・・・ギン姉はこのままでいいの?」
「えっ?」
「ギン姉も知ってる通り、宮本さん・・・・なのはさん達にかなり好かれているんだよ。それにティアだって密かに宮本さんを狙ってるよ・・・・・」
「・・・・・」
スバルからの衝撃の一言。
なのは達、地球組のメンバーが良介の事を好いていることは知っていたが、まさかティアナまでもが、良介に好意を寄せていたのは知らなかった。
「もし、ギン姉が本気で宮本さんに告白したいのなら私はなのはさんやティアよりもギン姉を応援するよ。・・・・でもこのまま何もしないでウジウジしているつもりなら私はギン姉よりもティアを応援するよ!!」
「・・・・」
「ティアだってなのはさん達に遠慮してずっと気持ちも伝えずに、見守っているだけなんだよ。これじゃティアが可哀想だよ!!」
スバルにしては珍しく姉のギンガに向かって怒鳴る。
ギンガは申し訳なさそうな表情で俯く。それはティアナへの罪悪感から来ている。
「それでどうするの?ギン姉?」
「・・・・・分かった・・・・私、良介さんに告白する!!」
告白することを決意し、その後、ギンガはスバルと共にどんな風に告白するかを相談した。
「まず、告白できるシュチュエーションを考えないとね」
「シュチュエーション?」
「告白するならやっぱり夜だね!上手くいけばそのままギン姉と宮本さんはロマンチックな夜を・・・・・」
「す、スバル?」
スバルのテンションはゴシップ話に食いつく主婦のノリで、そのまま妄想の世界へとタイブ。そのノリに若干ギンガは引き気味である。
「でも退院した後だと宮本さんと二人っきりになるのは難しかもね・・・・」
漸く現実の世界に帰ってきたスバルは顎に手を置き考える。
「え?」
「昼間だと必ず誰かが宮本さんの所にいるし、家じゃ、アリサさんとミヤちゃんが常に宮本さんの傍にいるし、それにギン姉が呼んでも宮本さん絶対に来ないよ・・・・」
確かにギンガに対してどこか苦手意識のある良介のことだ。ギンガが『話したいことがあるので来てください』と言ってもソレに応じるとは思えない。
「・・・・と、いうことは?」
「宮本さんが入院している今がチャンスだよ!!ギン姉!!」
「で、でも面会時間とかあるし・・・・」
「それなら夜になるまでここで隠れていなよ!!ついでに看護婦さんの巡回時間やコースも教えるから!!」
「あ、ありがとスバル・・・・」
スバルから巡回時間や巡回コースを聞いたギンガはゲンヤに今日は友達の家に泊まると連絡し、夜のため、スバルの病室で仮眠をとった。
(告白か・・・・良介さん・・・・私の想いに答えてくれますか?)
ギンガは良介のことを想いながら夜のその時を待った。
夜、看護婦の巡回が終わった頃、良介の病室に一人の訪問者が来た。
「・・・・さん・・・・りょ・・・・さん・・・・・良介さん・・・・」
「・・・・ん?・・・・・な、なんだ?」
自分の名前を呼ばれ続け、良介が目蓋を開けるとそこには何故かギンガの姿があった。
「ぎ、ギンガ!?お、お前、こんなところで何してんだ!?」
面会時間はとっくに過ぎており、ギンガがこんな時間に病室にいるのはあまりにも不自然だった。
「あっ あの・・・・ですね・・・。
//////」ギンガは椅子に座り、ここにいる訳を話し始めた。
ギンガ曰く良介にどうしても二人っきりで話したいことがあるそうだ。
昼間では他の見舞い客が来て話せないため、夜になるまでスバルの病室に匿ってもらっていたらしい。
「それで話ってなんだ?」
「あの・・ですね・・・・」
ギンガは顔を赤くし、両指をもじもじと絡ませながら話始めた。
「実は私・・・・・私は・・・・・りょ・・・・・良介さんのことが好きです!!」
「は?」
病室の時間が一瞬停止する。
「ぎ、ギンガ。すまないがもう一度言ってくれないか?」
聞き間違えかもしれないので、良介はもう一度、ギンガにさっき言った言葉を繰り返してもらうよう促す。
「だ、だから私は良介さんの事が好きなんです!!
//////」
やっぱり聞き間違いじゃ無かった。
今、ギンガはなんて言った?
好き?
俺のことが?
確かにギンガは母親のクイントに似て女の中では美人の分類に入り、面倒見もいい女だが、真面目過ぎて融通の利かない部分もある。
だが、それを含めてもギンガはいい女だろう。そんな女が社会のはみだし者の俺のことが好き?
これは夢か?
そうだきっと夢に違いない。
良介は夢だと結論づけ、
「・・なんだ。夢か?」
そう言って布団をかぶろうとする。
「ゆ、夢じゃありません!!私、本当に良介さんのことが好きなんです!!」
夢ではないとギンガに言われ、再び思考の世界にタイブする良介。
夢ではない?
それじゃあどういうことだ?
・・・・ああ、そうか「好き」にもたしか
loveとlikeの二つの意味があったな。
ミヤの奴も以前、俺のことが好きだと言っていたがそれはあくまでマスターとして俺の人間性が好きであり愛情の好きの
loveではなくlikeの方だと言ってたな。アリサも同じようなことを言ってたし・・・・・。
それならギンガは俺にとって妹なわけだし・・・・。
ギンガの言う「好き」を
likeの「好き」の方だと結論づけて良介はギンガに答える。「俺もギンガのことは好きだぞ」
「ほ、ホントですか!?」
ギンガはパァッと花が咲いたような笑顔で聞き返す。
「ああ、ギンガは俺にとって妹のような存在だからな」
「妹のような存在」と言われギンガの表情が一転した。
「・・・・妹・・・・・ですか・・・・・」
「おう、昔、クイントに息子にならないかって言われてな・・・・結局それは叶わなかったが、俺は今でもギンガやスバルのことは妹だと思っている」
あの世でクイントと再会し、その時にした会話を懐かしむように語る良介。
一方、ギンガの方はというと、好きは好きでも「妹」として好きと言われ肩透かしを食らったかのようにガッカリとするが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
この千載一遇の機会を逃すわけにはいかない。その想いがギンガを突き動かした。
ギンガは椅子から立ち上がり良介をベッドに押し倒す。
スプリングの軋みと、シーツに人が倒れる音が重なる。
「ちょっ・・・・いきりなりなにを・・・・んっ」
突然自分を押し倒したことに文句を言おうとした良介の唇がギンガの唇によって塞がれる。
さすが戦闘機人というべきか、体は物凄い力で抑えられ、身動きもままならない。
「・・・・っぷは・・・・お前いったい何を・・・・・」
「私は・・・・良介さんを・・・・良介さんを、一人の男性として好きなんです!!・・・・んっ・・・・」
ギンガは目に涙を浮かべながら再び良介の唇を塞ぐ。
突然のギンガからの告白。
キスをされながら良介の頭の中にあの世でクイントに言われたあの言葉が思い浮かぶ。
(「良介君、ギンガかスバルのどっちか貰ってくれない?」)
あの時は恥ずかしさのあまり「あいつらと一緒になったら、俺が不幸になっちまう」
と、軽口で返したが、ギンガに押し倒されキスをされている現状で、良介の思考回路と理性は激しく動揺していた。
「ぷはっ・・・・ぎ、ギンガ・・・・とりあえず降りてくれ・・・・俺の理性がまだ有るうちに・・・・」
このままでは理性を失い、本当にギンガと一線を越えてしまうと思った良介はギンガに離れるように頼む。
しかし、当のギンガ本人は
「告白の返事は今でなくてもいいです。でも、今だけは・・・・今だけは、私のわがままを聞いて下さい・・・・一夜の夢だと思ってもかまいませんから。こんな私でも妹ではなく女として・・・・一人の女として見てくれるのなら、このまま私を抱いてください!!」
潤んだ瞳で抱いてくれと頼んだギンガに良介の理性の九割が吹っ飛んだ。
ギンガ自身も大胆だと思っていたが、どうしても「妹」の位置から「女」の位置へと変わることを良介に認められたかった。
押し倒されていた状態からギンガの力を上回る物凄い力で上下を逆転させ、逆にギンガを押し倒す良介。(最もこの時、ギンガは多少力を緩めていた。)
再びスプリングがギシギシと軋む音が病室に小さく響く。
そして残った一割の理性でギンガに最終確認をとる。
「本当にいいのか?ギンガ?俺なんかに抱かれて?後で後悔してもしらないぞ・・・・」
「後悔なんてしません・・・・それに・・・・私は良介さんじゃなきゃ・・・・嫌です・・・・・」
「分かった・・・・んっ」
ギンガの返答を聞き、良介の理性は完全に吹っ飛んだ。
再会したときと同じ濃厚なキスをしながらギンガの衣服を脱がしていく良介。
キスをされつつ良介の着ている病院着を脱がしていくギンガ。
そして互いにあられもない格好になったとき、ギンガは恥じらいを宿し、だが確かにそこに期待を込めて言う。
「私、その・・・・男の人とこういう事するの、初めてで・・・・だから、えっと・・・・・」
甘く蕩けるような声で囁く。
「優しく・・・・抱いてください・・・・」
と、それはとてつもなく甘い・・・・過剰なまでに甘い請いだった。
良介を見つめる瞳も、良介に告げる残響も、良介を想う心までも。その全てがあまりにも甘く甘美だった。
「あ、ああ・・・・でも、こうゆうのは・・・・女を抱くのは初めてなんだ・・・・下手かもしれないが・・・・そこは許してくれ・・・・」
「は、はい・・・・来て・・ください・・良介さん・・・・
//////」その後、良介は本能の赴くまま獣の如くギンガに食らいつき、ギンガの体を貪り、ギンガを犯した。
良介はひたすらギンガを求め、
ギンガは良介を受け入れ、受け止めた。
そして二人は互いに意識を失うまで延々と体を重ね、交わった。
「んっぅぅ・・・・あれ・・・・もう、朝?」
カーテンの隙間から差し込む朝の光にギンガは身をよじると共に目を覚ました。
肌に感じるのは自分以外の人の温もり。
そこでギンガははじめて自分が一糸纏わぬ全裸姿で、良介に抱きつき、良介の腕に抱かれていることに気が付いた。
脳裏には昨夜の事がありありと思い出され、ギンガは頬を赤く染める。
(私、良介さんと・・・・しちゃったんだよね・・・・)
一夜の長く、そして短い一時、自分が純潔を捧げた事をギンガは改めて噛み締める。
首筋や胸に付けられた口付けの跡が白い柔肌に幾つもの赤い跡を残し、戦闘機人の自分にも備わっていた子を宿すためにある女特有の器官に目一杯注がれた彼の熱い精は未だにその余韻を感じさせる錯覚さえある。
愛する男に純潔を捧げたという実感はギンガの心を甘く撫でる。
その嬉しさか、ギンガは傍で眠る彼に寄り添い、彼の厚くたくましい胸板に頬ずりをする。
そこで気がついたのだが、最初の方は声を抑えていたが、最後の方はなりふり構わず嬉声をあげていたので、他の入院患者に聞かれていないかが気がかりであった。
しかし、確かめたくても確かめられない。
ギンガは聞こえていないことを祈るしかなかった。
朝の巡回が来る前にギンガは服を着て、眠る良介にも病院着を着せた。
しかし、良介はベッドに寝たままの状態だったので、乱れ着状態だったが、全裸姿よりはましだろう。精々「寝相が悪い人だ」と思われる程度だ。
さらに自身の純血が着いたシーツは病院出入りのクリーニング業者のカートに入れ、新しいシーツを布団部屋から調達し、シワを寄せベッドマットに乗せた。
そしてギンガは病室を後にした。
未だ眠る良介にキスをして・・・・・・
良介はあまりにも深い眠りについていたのか起きる気配は全くなかった。
(良介さん・・・・たとえ、一夜かぎりの夢だとしても私は幸せでした・・・・)
後にギンガを見た病院の医師や看護師は「僅か一晩でギンガの姿がとても綺麗になった」と語っている。
そして良介を見た医師や看護師は「僅か一晩で良介が少し窶れた様に見える」と語っている。
しかし、この一夜の夢が後に良介とギンガの運命を大きく動かすきっかけとなることを二人はまだ知る由もなかった。
あとがき
原作の良介君の今後はわかりませんが、この世界の良介君、祝・童貞卒業おめでとう。
僅か三話で、早急すぎる流れかもしれませんが、良介君が入院中の今だからこそチャンスだと思い、ギンガと絡ませました。
当初はゲンヤさんが入院中の良介を訪ね、婚姻届けを強引に書かせようかと思いましたが、やはりギンガから告白させようと考え直し、このような形にしました。
この時のギンガさんは自分は戦闘機人なので、妊娠することはなく、自分の子宮もハリボテだろうと思っています。