二十九話 コドモノヒ  小さくなった私の旦那様

 

 

「ああ、ギンガ。・・後は私がやっとくから、良介を起こしに行ってあげて」

「わかりました」

ギンガとアリサの二人が朝食を用意して、ギンガが良介を起こしに行く・・・・・。

いつもと変わらない宮本家の朝の台所の風景。

ギンガは寝室に行き、まだベッドの中で眠っているであろう良介に声をかける。

寝室に入ったとき、ギンガはもしかしたらという期待を僅かながらも抱いていた。

しかし、寝室のベッドに盛り上がる小さな膨らみを見て、表情には落胆の色があった。

「・・良介君、朝ですよ〜」

ギンガの言葉に反応して、布団にくるまった小さな塊がモゾモゾと動き出す。

「ん・・・・ぅん」

ベッドから這い出た彼は、まだ眠いらしく喉を鳴らし、目をこすりながら体をムクッと起こす。

寝ぼけ眼でギンガと眼が合うとニパーっと嬉しそうな笑顔をギンガにむける。

ギンガは昨日と変わらない自分の旦那の姿に一度ため息を吐くが、良介の笑顔に対し、ギンガも落胆の表情を瞬時に引っ込め、良介に笑顔をかえす。

今ギンガの目の前のベッドの上に居るのは良介だ。

紛れもなく、ギンガの旦那の宮本良介だ。

ただし、ギンガの目の前に居る良介はヴィヴィオより少し大きい程度の身長で、手足も短く全体的に細い。たくましかった肉体は見る影もなく小さく、肌もスベスベで女の子が憧れるくらいだ。

「ふぁぁぁ〜おはよーございます。ギンガお姉ちゃん」

「はい、おはよう」

子供姿の良介は元気よく朝の挨拶をギンガにする。

 

 

良介の体が子供サイズになってしまった理由は一週間前に遡る。

その日のミッドは暗雲がたちこめ、時折雷が鳴っている。

「出来たか?シャマル?」

「ええ、タッカーの研究所にあった薬のリストから作ったあの時と同じ薬よ」

シャマルは小瓶に入った薬をはやてに見せる。

「ようやった!!シャマル!!前回はフェイトちゃんに妨害されたが、これで良介をまた女にして、今度こそ、あのおっぱいを・・・・ぐへへへへへ・・・・あはははははは!!」

はやての不気味な笑いと共にミッドに大きな雷が鳴り響いた。

 

 

「お茶会?」

「せや、海鳴にいた頃はよくすずかちゃんの家でやったろ?それでな今度家でお茶会をやろうと思うてな、皆に声をかけとるんよ。せやから良介達も来てなぁ」

はやてからの突然のお茶会の招き、どうしようかと、思ったが、せっかくの誘いなので、桜花の散歩がてら、良介ははやての誘いを受けることにした。

後日、八神家の中庭で開かれたお茶会。

テーブルの上にはケーキやクッキー、シュークリームなどのスイーツの他にサンドイッチ等の軽食も用意されていた。

「はやてさん、お誘いありがとうございます」

「いやいや、気にする必要はないで、ギンガ。ギンガと桜花ちゃんも私ら八神家の一員なんやからな」

はやては笑顔でギンガと桜花を出迎える。

招待客が全員集まった所で、お茶会は始まった。

皆、お茶を飲みながら世間話に花を咲かせたり、用意されたスイーツや軽食に舌鼓をうっている。

そんな中、はやての計画は決行された。

はやてはシャマルから受け取った小瓶の蓋を開け、ティーカップに注がれたお茶に小瓶の中の薬を混入する。

「良介」

「ん?なんだ?」

「良介、これミッドでも珍しいお茶なんよ。せっかくやから飲んでみて」

はやてから手渡された一つのティーカップ。

良介ははじめ、そのお茶を怪しく思い、出されたお茶を凝視する。

ティーカップの中には普通の紅茶と変わらない色の液体が入っており、暖かそうな湯気を出している。

良介はカップを受け取り、まず匂いを嗅いでみる。

しかし、出されたお茶は別に変な匂いはせず、普通の紅茶の匂いと何ら変わらない。

試しに一口飲んでみると、確かに味は紅茶とは違う独特の渋さがあった。しかし、甘くもなく渋すぎるわけでもない。特に問題なさそうなので良介はそのままそのお茶を飲んだ。

(よしっ!やった!!やったで!!これでもう一度、良介を女にできるで!!そして今度こそあのおっぱいを!!フフフフフ・・・・)

はやては心の中で勝利に近い確信を得た。

その後、お茶を飲み干した良介をはやてはチラチラと遠巻きで見ていたが、良介が一女になる気配は一向にない。

そこで、はやては薬の製作者であるシャマルに話しかける。

「な、なぁ、シャマル、あの薬本当にタッカーが作ったモンと同じなんか?一向に女になる気配がないんやけど・・・・」

「変ね・・・・」

薬を作ったシャマル本人も良介にまったく変化がないのを不審に思った。

「もしかして、あの薬一回しか効き目がないのかしら?それとも飲ませるのではなく、体に浴びせないとダメなのかしら?」

「そ、そんな・・・・」

はやてはシャマルの仮説を聞き、ショックを受けていた。

さすがに薬をぶっ掛けようとそれば、良介は怪しむのは必然。それに薬のストックは無い。よってこの状況では諦めるしかなかった。

その後もお茶会の間、ずっと良介の様子を伺っていたが、結局良介が女になることはなかった。

 

 

「なんか・・はやての奴、お茶会の時、少し元気がなかったな・・・・・」

「きっとお茶会の準備で疲れが出たのでしょう?」

良介達が、自分の家に帰り、はやての様子が少し変だったことを良介は思い出した。

しかし、ギンガの言う通りかもしれないと思っていたとき、アリサが突然良介に話しかけた。

「良介・・・・アンタ少し背が縮んでない?」

「え?」

アリサに言われ、はじめて自分の身長の変化に気づく良介。

確かにアリサの言う通り、良介の身長はギンガと同じ位になっていた。

本来の良介の身長はギンガよりも一頭程、高い筈だったのに・・・・・。

皆が疑問に思っている中、良介の体に変化が出始めた。

 

ドックン

 

「うっ!」

良介は突然片手で胸を抑えながら倒れ、苦しそうに呼吸する。心臓は波打つように激しく鼓動をし、息遣いもあらい。

(か、体が熱い・・・・まるで骨が・・溶けているみたいだ・・・・この感覚・・前に・・・・そうだ・・タッカーの研究所で・・・・まさか、また・・・・また、女になっちまうのかよ!?)

「良介!!」

「良介さん!!」

アリサとギンガが心配し、駆け寄ると、良介の体はみるみるうちに縮んでいき、ようやく止まった頃には、ヴィヴィオより少し大きい程度であった。

 

「な、なんだよ!?これは!?」

良介は女にはならなかったが、ブカブカの服に小さくなった自分の手を見ながら、声をあげると同時にショックを受けていた。

この前女になったかと思ったら今度は子供に逆戻り、ショックを受けても仕方がない。

 

「良介、あんたこうなったことに心当たりは?」

アリサが良介に子供に戻るような心当たりがないかを聞く。

「ねぇよそんなもん!!」

「変なものを食べたとか、変なものを飲んだとかは?」

「変なもの?」

アリサの指摘を受け、良介は今日一日を振り返って今日これまで口にしたものを思い出す。

えっと・・・・・確か朝はベーコンエッグにトースト・・・・それからサラダとコーヒー・・・・

昼はラーメンと餃子・・・・それから・・・・それから・・・・・

(「良介、これミッドでも珍しいお茶なんよ」)

良介は今日、食べたり、飲んだりしたモノを思い出していくうちにはやてに薦められたあの変なお茶に行き着いた。

「ハッ!?はやてのやろぉぉぉー!!」

「良介さんっ!?」

勢い良く表に飛び出していく良介をギンガは追いかけた。しかし、家の近くで、息を切らせていた良介を見つけた。

「ハァハァハァ・・・い、息が・・・ハァハァハァ・・・続かねぇ・・・・ハァハァハァ・・・・」

「体が小さくなって、体力も衰えたんですね・・・・」

「うそー!!」

良介は今までの人生の中、必死に鍛えてきた体が再び、昔のひ弱な体に戻ったことにまたもショックを受けていた。

それから、アリサが運転する車で八神家に向かった宮本一家。

 

 

「それで、詳しく話を聞こうか?」

八神家に着いた良介は始め、八神家の人たちに不審がられた。

ヴィータには、「なんだ?この生意気なガキは?」と言われ、

シグナムはギラギラした肉食獣のような視線を向けられ、

シャマルは「小さな良介さんハァハァハァ」と、呼吸を荒くして良介を見てくるし、

はやてからは「なんやこの子は?良介に似とるが、迷子なんか?」と、迷子扱いされた。

アリサとギンガが居なければ、自分が良介だと分かってもらえなかったかもしれない。

その後、はやての話を聞くと、はやては女になった良介のおっぱいをどうしても触りたくて、シャマルに頼んで、タッカーの作ったあの時の薬をなんとか再現してもらったらしい。

「・・・・はやてさん」

「シャマル・・・・・」

「ど、どないしたん!?ギンガ!?」

「りょ、良介さんそんな怖い顔をしないでください。せっかくの可愛い顔が台無しですよ〜?」

「黙らっしゃい!!」

「やかましい!!」

「「少し、OHANASHIしようか?(しましょうか?)」」

この後、八神家にはやてとシャマルの悲鳴が木霊したのは言うまでもないだろう。

 

 

「まったく、あいつらと来たら」

未だに機嫌が悪い良介は頬を膨らませて怒っている。

しかし、その仕草は怖いというよりも何となく可愛い部類に入る。

「まぁまぁ良介、女になった時でも数日で戻ったんだし、今回もすぐに戻るわよ。・・きっと・・・・」

「アリサ、お前人事だと思って・・・・」

アリサが慰めるが、それでも良介は家に着くまで、機嫌が悪かった。

 

「良介、お風呂一人で入れる?なんなら私かギンガが入れてあげようか?」

良介が一人で風呂に入ろうとすると、アリサがニヤニヤしながら良介に聞いてきて、それを聞いた良介は、

「子供扱いするな!!」

と、声をあげ、風呂に入った。その様子をギンガは心配そうに見ていた。

夜、九時を過ぎ、良介は欠伸を何度もして、目を眠そうにこする。そんな良介にアリサが声をかける。

「なに?良介もう眠いの?」

いつもならばまだ起きている良介が仕事もOFFだったにも関わらず、九時で眠くなるなんて、珍しいことである。

「体は子供ですからね・・・・それに今日は色々あって疲れたのでしょう。今日はもう休んではいかがですか?」

ギンガに休むように勧められ、良介はそれに賛成する。

「悪いがそうさせてもらうわ・・・・ふぁ〜・・・・」

そう言って欠伸をし、良介は目をこすりながら寝室へと向かっていった。

 

 

翌朝、ギンガが何時ものように良介を起こす。

「良介さん、朝ですよ。起きてください」

「ん・・・・ぅん」

シーツの中からはまだ眠そうな良介の声が聞こえる。

そしてモゾモゾとシーツから顔を出す良介。

しかし、姿は昨日の夜同様お子様体型のままであった。

「おはようございます。良介さん」

ギンガがいつもと同じように朝の挨拶を良介にすると、良介は首を傾げ、ギンガを不思議そうに見つめ、ギンガに聞いた。

「お姉ちゃんだぁれ?」

その言葉を聞き、ギンガは固まった。

 

 

おまけ

 

 

「今回、機動六課でも新聞を作ろうと思うとるんや!!」

突然、はやてが新聞を作り出すと言い出した。

「私らの活動内容やイベントなどを記し、多くの人に私らを知ってもらおうと思うとる!!」

「それは分かった。・・なのにどうして局員でもない俺が今日、ここに呼ばれないといけないんだ?」

そこにはなぜか、六課の隊員でもなければ、局員でもない良介の姿があった。

「ええやん、良介も八割方は局員みたいなもんやし」

「まぁ、変な事を書かれなければ別にいいけど・・・・」

渋々了承する良介。

「そんな訳で、写真係にはナカジマ三佐の部下でカメラが趣味のへの28号さんに協力してもらうことになったんや!」

はやてが、隣に立つへの28号を紹介する。

「やぁ、僕はへの28号、フリーのカメラマンさ!」

「いや、ちげーだろう」

局員にも関わらず、自らをフリーのカメラマンと言うへの28号にヴィータがすかさずツッコム。

「写真の素材は完璧さ!こんなこともあろうかと普段から君たちの写真は撮っておいたんだ!・・・・幾らで買うかい?」

「何撮った!?」

良介が大声でへの28号に詰め寄り、

「ほぉーそれは是非とも見せてもらいたいものだな・・・・」

「内容次第では、ちょっとお話を聞く必要があるねぇ・・・・」

他の皆は一斉にデバイスをへの28号に向ける。

「い、嫌だな〜冗談に決まっているじゃないか!!ハハハッ」

「命が惜しかったらそう言う冗談は言うなよ。・・ここでは・・・・」

良介がへの28号に忠告を入れる。

「さて、話を戻して、僕のオススメの写真はコレさ!!・・・・ドアを潜ろうとした際、天井に頭をぶつけた宮本・・・・」

「えっ!?」

「・・を、ちょっと羨ましそうに見つめるヴィータ三尉」

「おい、コラ!!これじゃあ、アタシが身長にコンプレックス持っているみたいじゃねぇか!!」

ヴィータはプンスカと怒り、への28号に詰め寄る。

(持ってるだろう!!)

(持っているですぅ)

(持ってるね・・・・)

(持っているな)

(持っとるやないか)

(持っているよね)

(持っているわね)

への28号以外の皆が心の中でヴィータにツッコンだ。

「心配無用!!そう言うと思って・・・・コラっておいたよ」

もう一枚差し出された写真には、写真に写る良介の下半身部分にはモザイクを掛けられた何かが合成されていた。

「「コラ!!」」

良介とヴィータの大声がその場に響いた。

 

 

あとがき

定番の性別変換に続き、今度は幼少化を書いてみました。

お子様良介君のセリフから性別変換編とは違い、今回はもう一つ違う要素も含めました。

おまけの元ネタは生徒会役員共からです。

動で畑さんシリーズを見て、面白かったので書いてみました。

では次回にまたお会いしましょう。




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