二十七話 ナカナオリヲシタヒ 喧嘩するほど仲がいい

 

 

良介とギンガが夫婦喧嘩をしてから既に半月(約十五日程)が経ったが、互いに未だ仲直りの兆しは見られない。周囲の皆はこのまま二人は離婚してしまうのではないのか?と心配している。

しかし、当の良介もギンガも互いの心の中では、「本当は謝りたいけど、今更なんて言えばいいのか分からない」そんな後悔の念に駆られていた。

そんな中、良介にフェイトから依頼が入り、ある犯罪組織の検挙に手伝って欲しいと言われ、良介はその検挙に参加した。

この悶々とした鬱憤を晴らすには丁度いいと思ったからだ。

組織の構成員はアジトを包囲した管理局の投降勧告に対し、これを頑なに拒否、構成員は魔法の他にも拳銃・ライフル・手榴弾など、大量の質量兵器を投入し、激しく抵抗した。

その結果、局員との間に大規模で激しい戦闘が起きた。

 

敵の抵抗に対し、管理局側は構成員を上回る大勢の局員を投入する人海戦術に出た。

そしてその結果、管理局、組織側、両陣営に大勢の死傷者を出し、この犯罪組織は壊滅した。

戦闘終了後、フェイトと良介は組織のアジト内で負傷者の捜索を行っていた。

それは敵味方に構わず行なった。

捜索中、一人の瀕死の構成員が最後の力を振り絞って手にした拳銃をフェイトに向ける。

その構成員はフェイトの背後に倒れており、フェイトは未だ気付いていない。

やがて、構成員は引き金に力を入れ、引き金を引いた。

「フェイト!!」

「えっ?」

 

バキューン!!

 

バキューン!!

 

バキューン!!

 

アジト内に銃声の乾いた音が響いた。

「うっ・・・・くっ・・・・」

「りょ、リョウスケぇぇ!!」

良介の着ていたワイシャツがジワジワと赤く染まっていく。

構成員の最後の反撃に気がついた良介は咄嗟にフェイトを突き飛ばし、銃の射線上からフェイトの体をずらし、自らが射線上に入ったのだ。その結果、良介は構成員が撃った凶弾に倒れた。そして銃を撃った構成員はそのまま息絶えた。

「リョウスケ!リョウスケ!」

傷口の一つである腹部を手で押さえ倒れる良介と良介の体にしがみつくフェイト。

「リョウスケ!誰か!・・誰か!来て!!」

(くそっ・・・・こんなことならさっさとギンガに謝っておけばよかったぜ・・・・)

フェイトの叫び声を聞きながら、良介はギンガと喧嘩したままの現状を後悔しつつ意識を手放した。

 

 

その頃、実家であるナカジマ家では、ギンガはいつもと同じように家事をこなしていた。

そんな中、一本の電話が入った。

「はい、ナカジマでございます」

「ギンガ!!」

「お父さん?」

ギンガが受話器を取ると、相手は父親であるゲンヤからだった。そして電話先のゲンヤは何やら慌てた様子である。

「どうしたの?そんなに慌てて?」

「よく聞け、ギンガ。良介が大けがをして病院に搬送された!!」

ゲンヤは慌てて言っているが、知らせを聞いたギンガの方は至って冷静だった。

「お父さん、それはスバルに頼まれたの?それともはやてさん?」

若干不機嫌になりながらその情報の出所をゲンヤに尋ねる。

「何を言ってんだ?ギンガ?ともかく、良介はミッドのセントラル救急病院に搬送された。俺は先に行くが、お前もすぐに来い。それじゃあ・・・・」

良介の搬送先を言うとゲンヤは電話を切った。しかし、ギンガは病院に行く気などサラサラなかった。

どうせまたスバルが懲りずに手の込んだお節介を焼いたのだろうと思ったのだ。

しかも今度は父であるゲンヤまで巻き込んで・・・・。

その後も、なのはやアリサからも同様の通信が入ったが、ギンガはそれらに一切応じなかった。

知人からの連絡事項を無視し、引き続きギンガは夕食の準備をしている中、チンクがテレビをつけると今日フェイトが行った取り締まりのニュースが大々的に報道されていた。

報道されていた理由は、やはり両陣営に多数の死傷者が出たためであろう。

そのニュースを見ていたチンク達が今回の検挙による管理局側の死傷者リストの中に聞き覚えのある名前が表示され、声をあげた。

「ぎ、ギンガ姉!!大変っス!!」

「どうしたの?ウェンディ?」

「ギンガ姉様、コレを見てコレを!!」

「ん?」

ギンガがテレビ画面をみると、そこには自分の最も身近で最もよく知る名前が出ていた。

画面に報道されていた名前の中には『宮本 良介』の名前が重傷者リストの中に表示され、救急車に乗せられる良介の姿が僅かながらも映った。

「っ!?」

ギンガは今になってゲンヤやなのは達が言っていたことが事実だったのだと、悟った。

そしてギンガは桜花の面倒をチンク達に任せ、慌てて外へと飛び出した。

向かう先は良介が搬送されたセントラル救急病院。

 

ギンガが病院に着くと、手術室の前でゲンヤ、アリサ、フェイト、なのは、スバル、はやてがいた。

「ギンガ、お前今まで一体どこで、何をしていた?」

ゲンヤが低い声を出し、ギンガを睨む。その様子から彼が怒っているのはその声と表情で十分に分かる。

「そ、それは・・・・・」

ギンガは気まずそうにゲンヤから視線を逸らす。

「あ、あんな・・・ナカジマ三佐。ギンガをあまり責めないでやったって・・・・」

はやてはスバル共に良介とギンガを仲直りさせようと以前に今の現状に似た事を行ったことを話した。

 

「ごめんなさい。お父さん・・・・ギン姉が遅れて来たのはアタシの所為でもあるの・・・・だからギン姉を叱らないであげて・・・・」

スバルは前にあんなことをしなければギンガが遅れて病院に来ることはなかっただろう。と、思いギンガを必死に弁護した。

「事情は分かった。だが、この件は後でキッチリと片をつけろ。・・それよりも今は・・・・良介の無事を祈るだけだ・・・・」

ゲンヤは未だ手術中と赤く灯った手術室の扉を見る。

「それで・・・・良介さんの容態は?・・・・・」

ギンガが震える声で良介の容態を聞く。

「弾の一発が心臓の近くで止まっているらしいわ」

アリサがさっき看護師さんから聞いた良介の容態をギンガに説明する。

「そ、それで良介さんは助かるんですか?」

「・・・・助かるかどうかは・・・・五分五分みたい・・・・・」

「そ、そんな・・・・」

フェイトから良介の生死の確率を聞き、ギンガは声だけでなく体も震えている。

(こ、こんなことになるなら意地を張らず良介さんに謝っていれば良かった・・・・・)

ギンガも良介と同じく変な意地を張らずに謝っておけばこんなことにはならなかったのではないかと思っていた。すると、手術室のドアが突然開き、看護師の一人が慌てた様子で出てきた。

「どうかしたんですか?」

フェイトが手術室から出てきた看護師に尋ねる。

「実は患者さんに使う輸血用血液が不足して、このままだと患者さんの容体が危険なんです」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

看護師の言葉を聞き、全員の頭の中に、良介の死という絶望的な未来が脳裏をよぎった。

「患者さんの血液型は何型なんですか?」

「・・型です。どなたか、患者さんと同じ血液型の方はいらっしゃいませんか?」

「残念ながら私は違う」

「私も・・・・」

「アタシも」

「私もや・・・・」

皆の血液型が良介と不適合と言う中、ただ一人、

「私の血を使ってください!」

ギンガが名乗り出た。

「私も良介さんと同じ血液型です。でも念のため一応調べてください」

「分かりました。では採血室の方へ・・・・」

「は、はい」

ギンガは看護師と共に採血室へ向かい採血をして調べた結果、良介と血液型が一致し、ギンガの血液は良介に輸血された。

ギンガの血を輸血された良介は何とか一命を取り留めた・・・・。

 

 

翌日・・・・。

「ん?・・・・んぅ・・・・ん」

重い瞼を開け、良介は目を覚ました。

(どうやらまだ生きているみたいだな・・・・俺も案外しぶといね・・・・)

目を覚まし、良介の目に最初に映ったのは白い天井に自分の腕に刺さっている点滴。そしてベッドに突っ伏して眠っているギンガ。

「・・・・ギンガ・・・・・」

良介は眠るギンガの姿を見て、無意識的に眠るギンガの頭を撫でた。

するとそこに、

「ギンガに感謝しろよ」

良介が起きたのに気がついたのか、ゲンヤが病室に入ってきた。

「ギンガは自分の血をお前に分けただけでなく、夜通しお前の看病をしていたんだからな」

そう言ってゲンヤは自分が着ていた上着を脱ぎ、ギンガに羽織らせる。

「・・・・・」

「良介、ギンガがここまで世話をしてくれたんだ。いい加減仲直りしろよ。婚約の時、ギンガを不幸にしたら許さねぇって俺が言うと、お前は次元世界一ギンガを幸せにするって大言を吐いたんだ。男なら言ったことにはちゃんと責任を持てよ。いいな?」

ゲンヤは良介に釘を刺すと、病室を後にした。

「ん・・・・んぅん・・・・」

ゲンヤが病室を出た直後、ギンガが体をよじり、目を覚ます。

「おはよう、ギンガ」

「お、おはようございます。・・良介さん・・・・」

いつもの癖で互いに朝の挨拶はするが、その後は両者に気まずい空気が流れ、互いに視線を逸らしている。

「ギンガ・・・」 

「良介さん・・・・」

何かを言おうとすると、互いにタイミングが合い、言う事が出来ない。

「ぎ、ギンガからいいぞ」

「い、いえ、良介さんから・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

互いに譲り合い、また気まずい空気と沈黙が病室を支配する。

このままでは埒が明かないと判断した良介は、意を決して切り出す。

「ギンガ、この前はすまなかった!!この通りだ」

良介はギンガに頭を下げ、ギンガに謝罪する。

「い、いえ。そんな・・・・私の方もあの時は熱くなりすぎましたし・・・・」

良介の謝罪を聞いて、ギンガの方も良介に頭を下げる。

「いや、あの時俺が飲む前に電話を入れていればこんなことには・・・・」

「そんなことありません。良介さんも仕事での付き合いがありますし・・・・」

「それでもだ。お前を幸せにするっていいながらこの有様・・・・情けねぇ・・・・」

「そんなことありませんよ。良介さんは私にとって掛け替えのない大切な人です」

「ギンガ・・・・」

「良介さん・・・・・」

二人の距離が次第に近づき、やがて両者の唇が重なり合う。

半月ぶりのキス・・・・。

二人はしばしの間、久しぶりのキスに酔いしれた。

「怪我の功名」とはよく言ったものだ。

こうして二人の仲は以前と同じく、元に戻った。

病室の外でこっそり二人の会話を聞いていたゲンヤは一安心し、後日宮本家にギンガが戻ることによって、チンクもようやくギンガの愚痴と酒の相手から解放されるだろう。

事実、ギンガが宮本家に戻っていたった時、チンクは酒の無い夜はこんなにもすばらしいものだったのかと涙を流す程であった。

 

 

それから暫くして、良介は無事退院し、ギンガが宮本家に戻り何日かの時間が過ぎて・・・・・。

「ギンガ、これはなんだよ!?これは!?」

「だから・・それは・・・・その・・・・」

宮本家に良介の大声が響き、ギンガは気まずそうに視線を逸らす。

クリーニングに出したギンガの服からホストクラブのカードが出てきたのだ。

クリーニング屋は服をクリーニングする前にポケットの中身を調べ、出てきたカードを見つけると、服とは別の小さなビニールに入れて渡してきたのだ。

それを運悪く良介が受け取り、見つけてしまい今、こうしてギンガに問いただしているのだ。

ビニールの中にあるカードには『また、来てね。待っているよ。ギンガちゃん』と、書かれていた。

ようするに良介はホストクラブのホストにヤキモチを焼いたわけである。

「だから・・・・それは・・・・この間友達に無理やり・・・」

「そんなの断れよ!!お前は俺よりも友達やホストを選んだのか!?」

「なっ!?幾ら旦那様だからって妻である私のプライベートまで縛る気ですか!?」

良介の言葉にカチンときたのか、ギンガも声を荒げて言い返す。

「なんだと!?」

「なによ!!」

ギンガの言葉に良介もカチンときて同じく声を荒げる。

 

「あ〜あ。またやっているわ。あの二人・・・・」

「二人とも進歩がないですぅ・・・・」

言い合いをしている良介とギンガを呆れながら涙目の桜花をあやしつつアリサとミヤは二人の姿を見ていた。

『喧嘩するほど仲が良い』そんな言葉があるように、こうした喧嘩を重ねながらこの夫婦の絆は深まっていくだろう。

二人の夫婦生活はまだまだ始まったばかりなのだから・・・・。

 

 

おまけ

 

その日、六課のオフィス内にある会議場で、隊長陣、FD陣、ロングアーチ陣を含めた六課全員で今度の休日に開かれる管理局の運動会について話し合いが行われていた。

「それじゃあ次は、機動隊対抗リレーの選手やな?」

参加競技に適切なメンバーを当てはめていく中、一課〜六課までの機動隊で行われる対抗リレーの選手選抜になり、はやてが選手を発表する。

「まず、最初の走者はなのはちゃん」

「にゃ?アタシ!?」

運動が苦手ななのはがいきなり選手に選ばれ驚きの声を出す。

「アタシ、走るの苦手だから、シグナムさんかフェイトちゃんの方がいいんじゃ?」

「なのはの場合は走りだけじゃなくて、運動全般が苦手だろうが」

「はぅ!?」

ヴィータのツッコミに何も言えないなのは。運動会は極力魔法使用禁止で当然このリレー競技でも魔法の使用は禁止されている。使えば即失格となりポイントが大幅に減点される。

「次はシグナム、その次は私自身が走るでぇ、その次はフェイトちゃん、アンカーはスバルにやってもらう」

リレーのメンバーを言い渡し、そしてはやては何故このメンバーなのか説明をする。

はやての作戦は一番最初に足の遅いなのはで相手の油断を誘い、次に運動能力が高いシグナムでなのはの差を埋め、その次に平均的なはやて自身を入れ、後半は運動能力が高いフェイトとスバルを入れ、一位を狙う作戦だった。

 

そして当日、空は晴々と澄み渡り、競技は何の問題も無く進んでいく。そしていよいよ機動隊対抗リレーとなった。

はやての読み通り、なのはは六位だったが、その差をシグナムが一気に埋め、はやてがその状態をキープし、第四走者のフェイトにバトンを渡す。

「頼むで、フェイトちゃん!!」

「任せて!」

バトンを受け取り、フェイトはトラックを疾走する。

そんな中、

(フェイトちゃん・・・・フェイトちゃんをアンカーでなく第四走者にした理由を今なら言えるで・・・・それは・・・・)

はやてはトラックの上を走っているフェイトを見ながらフェイトを第四走者にした理由を心の中で呟いた。

(それは・・・・胸の差でギリギリ勝利というシュチュエーションがどうしても許せなかったからや・・・・からや・・・・からや・・・・)

はやての本当の理由も知らず、フェイトは走っている。

(体が軽い・・・・今日は貞操帯を付けてないからかな?)

はやて同様、フェイトにも言えないことがあった。

二人の本当の思惑は兎も角、はやての表向きの作戦で、六課は見事一位を取れた。

 

 

あとがき

イメージ的には良介君はB型、ギンガはA型と言うイメージが強いんですが、それだと良介君が死んでしまうので良介君とギンガは同じ血液型と言う設定にしました。

喧嘩の話が僅か二話という短い話でしたが、小説内では半月(約15日)は喧嘩していたので、やや長かったと思ってください。

特にチンクにとってはかなりの忍耐を使った筈。チンクお疲れ〜

おまけの話は生徒会役員共からネタを頂きました。

胸の大きさで、はやてと会長、フェイトとアリアが一致したので・・・・。

次回は喧嘩編のエピローグ的な話にする予定です。

では次回にまたお会いしましょう。




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