二十六話 ケンカヲシタヒ 夫婦喧嘩はザフィーラ(犬)も喰わない。

 

 

夫婦・・・・それは互いの合意により適法の婚姻をした男性と女性のこと・・・・。

夫婦・・・・それは一般的に、共同の経済生活を営み、子どもが誕生した場合それを保護し二人の子として養育する男女のペアのこと・・・・。

 

そしてそんな夫婦にも色んな夫婦がある。

オシドリのように仲の良いオシドリ夫婦。

夫が妻より小さいノミ夫婦。

世間的には仲がいいことを装っているが実際の仲は冷め切っている仮面夫婦。

 

そんな様々な夫婦関係の中でも宮本家の良介とギンガは間違いなくオシドリ夫婦が当てはまるだろう。

しかし、人間社会に犯罪や戦争が絶えないように例えオシドリ夫婦でも喧嘩はする。

今回はそんな宮本家のお話・・・・・・。

 

 

「良介さん!これはどういうことですかぁ!?」

「だからさっきから言ってんだろうがぁ!!それは誤解だって!!」

この日、宮本家から男女の言い争う大声が聞こえた。

「じゃあ、これは何ですか!?これはっ!?」

ギンガが乱暴にテーブルへと叩きつけた男物のYシャツには女物の香水の匂いが染み付き、あちこちにキスマークがついている。そしてシャツの近くにはピンク色のカードがあり、カードには『また来てね、良ちゃん(^ε^)』と書かれた丸い女文字とキスマークが書いてある。

何故、良介がこんなカードを持ち、シャツにキスマークと女物の香水の匂いを着けたのかというと、事の発端はとある女性の依頼から始まった。

良介に依頼を頼んだその女性はストーカーの被害に困っており、そのストーカーの撃退を良介に依頼した。

そして良介は依頼通り、ストーカーを撃退し、駆け付けた陸の捜査官にストーカーの身柄を引き渡して、帰ろうとしたとき、依頼人の女性が良介に「是非、お礼がしたい」と言ってきた。

その女性はミッドで高級バーや有名キャバクラを幾つも経営する実業家だった。

最初は渋った良介だったが、こんな機会でもなければ高級バーで高い酒を飲むことなんて出来ないだろう。

そう思った良介は、

「それじゃあ、一杯だけ・・・・」

と言って依頼人のお礼に付き合った。

しかし、それがいけなかった。

滅多に飲めない高級酒(しかもお礼として振舞われたので無料)の誘惑に負け、良介は深酒をし、大勢の美人ホステス達を周りに侍らせ、王様気分になった良介。

ホステス達からのキスの雨と高級酒のお酌でその夜は盛り上がり、ギンガに連絡をすることも忘れ豪勢な一夜を楽しんだ。

そして家に帰った時は既に太陽が登っり切った頃で、家の玄関を開けるとそこに待っていたのは瞳の色を金色に変え黒いオーラ全開のギンガだった。

そして、話は冒頭の両者の口喧嘩に戻る。

「お酒を飲むなとは言いません!でも、遅くなるにしても電話の一本もかけられなかったんですか!?それに私というものがありながらキャバ嬢なんかにうつつを抜かすなんて信じられません!!」

連絡を入れなかったのも理由の一つだが、最大の理由は良介がホステス達にうつつを抜かした事・・・・つまりギンガはヤキモチを焼いていたのだ。

しかしその気持ちが、本来ギンガが持っている好きな人に対する感情や言葉使いの不器用さが災いし、いつの間にか喧嘩に発展してしまったのだ。

「うるせぇ!!深酒で酔っている中、電話を入れようなんて理性が残っていると思ってんのか!?それに誰と酒を飲むかは俺の勝手だろうが!!」

良介もギンガと同様の不器用さから変にムキになってしまい怒鳴り返す。

 

二人の口喧嘩は段々エスカレートしていき、声のボリュームもあがり、内容も次第に荒々しくなっていく。

既に桜花は二人の大声を聞き、涙目となっており、アリサとミヤが必死に泣かさないようにあやしている。

そこへ、喧嘩の終止符を打つかのようにギンガが良介に言い放つ。

「もう!我慢できません!!私、実家に帰らせてもらいます!!」

「ああ、そうかい!!実家にでもどこにでも勝手に帰りやがれ!!」

売り言葉に買い言葉、遂にギンガは別居を言い出し、良介もそれに同意する。

ギンガは自分の着替えやある程度の荷物そして桜花の着替えやオムツ、ミルクを纏め、宮本家から出ていった。

 

ギンガが桜花を連れて出たていった後、アリサも今回の事は良介に非があると言って、「ギンガ達を連れ戻すまで、この家の敷居は跨がせないからね」と言って良介を家からつまみ出した。

なぜ、アリサが良介をつまみ出せるのかというと、実はミッドにある宮本家の建設費はアリサが殆ど出しており、いうなればアリサは宮本家の影のドンであったのだ。

そのアリサから家のことに関して言われれば良介は何も言えなかった。

だからと言って、つまみ出されてすぐにギンガを追いかけ、謝るほど、良介は殊勝ではない。

「くそっ、どいつもこいつも」

悪態をつきながら良介はクラナガンの町をさまようかのように歩き始めた。

 

 

シグナムはこの日、所属する部隊の飲み会に参加し、とある居酒屋で部隊の同僚達と共に夜の一時を楽しんでいた。

すると、

「くそっ、ギンガの・・・・アリサの・・・・バカヤロー・・・・!!」

聞き覚えのある声がした。

シグナムが声のした方を見ると、そこにはカウンターでやけ酒をしている良介がいた。

良介の珍しい姿にシグナムは良介に近づき声をかけた。

「どうした?宮本。お前がやけ酒なんて珍しいな」

「ん?おおおぉー!シグニャムじゃないかぁ〜」

シグナムが声をかけると、相当酔っているのか、呂律が回らず、シグナムをシグニャムと言う良介。

確かに良介が座っているカウンターには酒瓶やお銚子が所狭しと置いてある。

「シグニャムって・・・・お前、相当酔っているな?・・・・ギンガかアリサに迎えに来てもらった方がいいんじゃないか?」

ギンガ、アリサという名前を聞き、とたんにアルコールで気持ちよく酔っている良介の表情が不貞腐れた表情になり機嫌が悪くなる。

「フン、いいんだよ!あんにゃ奴ら!!もう勝手に実家にでもどこにでも帰りやがれぇ!!」

両手を挙げ、うがーっ、と高々にそう叫び終わると、良介は崩れるようにカウンターに突っ伏した。

「・・・・何かわけでもあるのか?」

「・・・・・・」

「宮本?・・おい、宮本!!おい!!」

声をかけても体を揺すってもうんともすんとも言わない良介。シグナムが顔を覗き込んで様子を見てみると、良介はぐぅぐぅ と、寝息を立てていた。

「やれやれ」

シグナムは同僚に一言挨拶を入れた後、良介を担いで、八神家へと帰った。

 

翌日、八神家で目を覚ました良介は何故、自分が八神家に居るのか分からなかったが、シグナムから理由を聞き、納得した。

それから、シグナムは何故、良介がギンガとアリサの名前を聞き、機嫌を悪くしたのかを聞くと、理由は単純明快「喧嘩した」の一言だった。

ギンガと喧嘩したせいで、良介は自分の家に帰ることが出来ないことも話したが、喧嘩の理由は話さなかった。

シグナムから良介の現状を聞いたはやては快く、「しばらく家にいてもええよ」と言ってくれた。

はやて達もどうせ二、三日もすればどちらかが折れて謝って仲直りしるだろうと思っていた。

しかし、事態ははやて達の予想を裏切る結果となった。

良介とギンガが喧嘩をして既に十日以上経っても良介はギンガに謝りにいかないし、ギンガも良介に謝りに来ない。

シグナム曰く、「宮本もギンガもどちらも変な所で頑固だからな」と呟いていた。

はやて達が良介とギンガのことを心配している中、ナカジマ家でも同様の事態が起きていた。

 

「だからねぇ・・・・・・・というわけなのよ」

「はぁ〜」

「それでね、良介さんったら・・・・・・・なのよ」

「・・・・・」

「ねぇ、ちゃんと私の話聞いているの?」

「き、聞いております。ギンガ姉様」

ナカジマ家に戻ったギンガはほぼ毎日チンクを相手に愚痴っている。

それでも初日よりは幾分マシだった。

別居初日、いきなり桜花を連れてナカジマ家に戻ってきたギンガは桜花の面倒をゲンヤとチンク達に任せ、一人、自分の部屋でやけ酒をしていた。

心配になったチンクがギンガの部屋を見に行き、酷いようであれば止めるように言いに行ったのだが、これがいけなかった。

チンクがギンガの部屋に来てみると、そこには一升瓶の酒をラッパ飲みしながら、酔っているギンガの姿があった。

それはとても娘(桜花)には見せられる様な姿ではなかった。

酔っ払っているギンガは部屋に来たチンクに絡みつき、愚痴を言い始めた。

「まったく良介さんったら〜妻であるわらしを差し置いてよりにもよってキャバ嬢とイチャツクなんて・・・・」

「ぎ、ギンガ姉様・・・・も、もうそれぐらいにした方が・・・・やけ酒や深酒は体に毒ですし・・・・・」

「うるしゃい!!チンクシャ!!」

「ち、ちんくしゃ!?」

良介同様、深酒をし、完全に酔っ払っているギンガは呂律がおかしくチンクをチンクシャと呼び、私を「わらし」と言っている。

「丁度いいわ、チンクシャ・・・ちょろっとわらしに付き合いなさい」

「えっ? いや、でも・・・・それ以前に未成年の飲酒は・・・・」

チンクは未成年と言うが、ギンガは結婚後、何度か良介の晩酌の相手をしており、酒にはある程度の耐久はついているのだが、今回は酒の量が多く、アルコール度数も高い為に完全に酔っている。

「わらしの酒が飲めないのかぁ〜!!」

ジト目でチンクを睨み、絡んでくるギンガ。

「い、いえそのようなことは決して・・・・」

酔っ払ったギンガにチンクはどう対処すればいいのか分からずタジタジである。

「じゃあ、飲みなさい!!ホラ!!」

ギンガは強引にチンクの口に一升瓶を宛がい、そのままの勢いで強引にチンクに酒を飲ませる。

初めての飲酒に慣れなかったチンクはそのまま酔い潰れ、ギンガの部屋で夜を明かした。

 

と、まぁこんな感じに別居初日にギンガの愚痴と酒に付き合ってしまったせいで、チンクはなし崩し的にギンガの愚痴と酒の相手となってしまった。

しかも他の妹達は「巻きぞいはゴメンだ」と言う感じで誰もチンクを助けようとはせず、チンク一人をギンガの生贄に捧げた。

父であるゲンヤまでも今のギンガに何か言える雰囲気ではなく、チンクが「父様、ギンガ姉様を何とかしてくれ!!」と頼んでも「こればっかりはギンガと良介の問題だからなぁ・・・・」と、お茶を濁していた。

そんな父の言葉に「そんなぁ〜」とチンクは涙目だった。

そして連日愚痴と酒の相手をしていれば流石のチンクでも嫌気がさす。

そこでチンクは自分よりもギンガと付き合いが長く妹である、スバルに相談した。

実の妹ならばこういう時の対処法も知っていると思ったからだ。

スバルはまず、チンクから喧嘩の経緯を聞いた後、良介の今の居所を聞いた。すると、良介は今、八神家にいると分かり、スバルは家主であるはやてに相談を持ちかけた。

はやてとスバルは早く二人に仲直りしてもらいたく、作戦を練った。

そして計画は立てられ、実行された・・・・・。

 

 

良介は病院の通路を走っていた。途中看護師さんから「病院内は走らないでください!!」と、注意されたが、呑気に歩いている状況ではなかった。

昼間、副業の露天絵描きをしていると、はやてから通信が入り、「ギンガが事故にあって危険な状態なんや!すぐ行ったって!!」と言われ、良介は翔ぶが如くギンガが搬送された病院へと向かったのだ。

「ギンガっ!!」

そしてギンガがいる病室のドアを開けた。

 

ギンガは病院の通路を走っていた。やはり、病院内を走っているという事で看護師さんから注意を受けるが、そんなのを気にしている余裕はなかった。

ナカジマ家で家事と桜花の面倒をみていたギンガの下にスバルから「ギン姉、大変だよ!!宮本さんが大けがをしたって!!」と、良介のケガの報告を聞き、ギンガは急いで病院へと向かったのだ。

「良介さん!!」

そして良介がいる病室のドアを開けた。

 

 

「ギンガっ!!」

良介が病室のドアを開けるとそこには誰もいなかった。

「あ、あれ?病室間違えたかな?」

一度外に出て病室番号を確認するが、番号は間違っていなかった。良介がそのまま病室の中にいると、

「良介さん!!」

勢いよく病室のドアを開けてギンガが飛び込んできた。

「ぎ、ギンガ?」

「り、良介さん?」

病室で良介とギンガは鉢合わせした。

 

 

「そろそろええころやな?」

「そうですね」

時間的に良介とギンガ病室で鉢合わせし、仲直りした頃だろうと思った、はやてとスバルは二人のために用意した病室へと向かった。

上手くすれば惚気最中の二人の姿を見る事が出来るかもしれない。そうしたら思いっきりからかってやろうと二人はそう思いながら、病室のドアを開けた。

しかし、そこにいたのは惚気ていた二人ではなく、激しく言い合いをしていた良介とギンガの姿。

二人の作戦は失敗に終わった。

もし、どちらかが本当に怪我をしていれば二人はそのまま仲直りをしていたかもしれないが、五体満足という事になれば話は別だった。

しかも会話の内容から二人が仕組んだことだとバレ、危機感を感じ一目散にこの場から逃げ出そうとした時、

「はぁ〜やぁ〜てぇ〜」

「スぅ〜バぁ〜ルぅ〜」

背後から怨念のような声が聞こえた。

二人が恐る恐る振り返ると、そこには互いに黒いオーラを出している良介とギンガがいた。

「どこへ・・・・」

「行くんだ?」

ブロッコリーみたいな名前の戦闘民族のように低い声ではやてとスバルに行き先を聞く、良介とギンガ。

はやてとスバル達二人にとっては良介とギンガのことを思っての行動だったのだが、今の二人にとっては煩わしいお節介だったようで、それが二人の怒りを買ったのだ。

「りょ、良介、暴力はアカンで・・・・暴力からは何も生まれへんよ・・・・」

震える声で、良介に弁明するはやて。

「お前に言われたくねぇよ!!」

復活早々公園でボコられた件を未だに覚えている良介ははやてを見逃すつもりはないようだ。

「ぎ、ギン姉〜 こ、これは・・ふ、二人のためを思って・・・・」

「スバル、今まであなたの悪戯には多少、目を瞑ってきたけど、今回のは・・・・ねぇ・・・・」

両手をポキポキと鳴らしながらスバルに近づくギンガ。

「ぎ、ギン姉〜暴力はいけないよ・・・・怪我をしたら大変だし・・・・」

スバルもはやて同様声を震わせながら弁明するが、やはりギンガもスバルを許す気は無いようだ。

「大丈夫よ。ここは病院だもの。怪我をしてもすぐに治療できるから」

微笑みを浮かべるギンガであるが、やはり怖い。

「少し・・・・」

「頭冷やそうか?」

『こいつらは本当に喧嘩をしているのか?』という疑問が浮かび上がるほど、息がピッタリあった攻撃で良介とギンガは、はやてとスバルに御仕置きをした。

その後、床に倒れピクピクと痙攣をしているはやて達を放置して、

「「フンっ!!」」

良介とギンガは顔を背け、それぞれ別方向へと歩きだして行った。

 

二人はこのまま別れてしまうのか?

 

それても仲直りが出来るのだろうか?

 

それはまだ誰にも分からない。

 

そしてそれは喧嘩の当事者たる本人たちでさえも・・・・・

 

 

あとがき

仲が良い事に越したことはないが、夫婦生活の中で一回も喧嘩をしないのはおかしと思い、今回宮本家で夫婦喧嘩を勃発させてみました。

他の人に「こんな理由で喧嘩するか?」と言われそうですが、仲の良い夫婦だからこそ、ほんのちょっとの事で簡単に互いの感情が爆発するのではないかと思いこのような形になりました。

微妙な感じもしますが、どうか成り行きを見守って下さい。

では次回にお会いしましょう。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。