二十二話 ジョナンノヒ 狂戦士共
ヴァイスが新しい恋に目覚め、ゲンヤが良介とヴァイスの今後に頭を悩ませている頃、
108部隊隊舎を出た良介はクラナガンを歩いていると、周囲の視線がやたらと気になった。男という男は皆、振り返り熱い視線を向け、女は良介の胸を見て、羨むか嫉妬の視線を向ける。
(くそ・・・・何なんだ?さっきから周囲からの視線が・・・・)
隊舎とは違い、人の量がまるで違うことにより、良介はようやく周囲の視線に気が付いた。
視線を気にしつつ歩いていると、非番なのか、私服姿で歩いている顔なじみの姿を見つけた。
「おーい、シグナム!ヴィータ!」
良介は片手をあげながら声をかけ、二人を呼び止める。
「ん?」
「誰だ?あいつ?」
突然見慣れぬ女から声をかけられ、シグナムとヴィータは首を傾げる。
「どうした二人とも?」
「お前誰だよ?」
ヴィータが警戒感をあらわにして聞いてくる。(一応管理局の制服を着ているため、ヴィータの警戒レベルはそこまで高いものではない。)
「はぁ?何言ってんだよ。年柄年中顔を合わせている仲じゃねぇか」
「アタシの知り合いにおめぇみたいな化け物おっぱいはいねぇよ!」
ヴィータの雰囲気は、良介の胸を見て、警戒感から一気に不快感へと変わる。
「・・・・まさか・・宮本か?」
シグナムは良介の雰囲気を感じ取り、確認するかのように聞いてくる。
「おう、そのとおり。さすがシグナムだな」
「えええええええっー!!」
目の前の化け物おっぱい女が良介だと分かりヴィータは驚愕の声をあげる。
「ふむ、妙な薬を浴びて女にか・・・・それは災難だったな・・・・・」
「ああ、まったくだぜ」
三人は近くのカフェに入り、良介が何故、女の姿になった理由を話す。
「むぅ〜・・・・リョウスケに負けた・・・リョウスケに負けた・・・・羨ましくなんかねぇ・・・・羨ましくなんかねぇ・・・・羨ましくなんかねぇぞ・・・・」
ヴィータはさっきから負のオーラを放ちながら、良介の胸を穴が開くほど凝視し、念仏のように同じ言葉を繰り返している。
正直言って怖いので、良介はヴィータに話をふらず放置している。
「それで?元に戻るのか?」
シグナムも同じ理由なのかヴィータを放置して良介と会話をしている。
「さあな。・・でもなんとかなるんじゃねぇ?」
「相変わらずの楽天家だな・・・・」
その後、良介とシグナムは二人でお茶を楽しんだが、ヴィータは相変わらず不機嫌であった。
そしてこっそり二人には気づかれぬよう誰かに連絡を入れていた。
カフェを出た後、ヴィータが、「お前この後暇か?」と、聞いてきたので、良介は特にこの後予定が無い事を告げると、「それじゃあちょっと付き合え」と、言われ強引にヴィータに付き合わせられることとなった。
歩いている途中、まだ重心が変わったことに慣れていない良介はコケそうになり、とっさに受身を取るが、重心以前に失念していた事があった。
「くっ!?・・・・・いってぇー!!」
「どうした?リョウスケ?」
「おそらく胸が押しつぶされたのであろう。・・・・あれは結構痛いぞ」
体験者、シグナムはそう語る。
「くそっ・・・・いってぇ〜・・・・」
涙目になりながら胸をおさえる良介。ブラも着けておらず、サラシも巻いていないため、受身の衝撃が直に胸を直撃したのだ。
そしてやけになったのか、
「あーもうっ! 嫌だ!!いっそ切り落としてぇー!!」
と、自らの胸を睨みながら叫ぶ良介。
すると・・・・・
「ほぉ〜そんなに邪魔か?その無駄にでっかいおっぱいは・・・・・?」
ヴィータが再び負のオーラ全開で、俯きながら良介に尋ねる。
「ヴィ、ヴィータ・・・・・?」
ヴィータの様子がおかしいのに気づいた良介は恐る恐るヴィータに話しかける。
「そんなに邪魔か?その無駄にでっかいおっぱいは?えええっ!?それならアタシが介錯をしてやろうじゃねぇか!!お望み通り、アタシがその無駄にでかいおっぱいをペッタンコにしてやるよ!!」
「ヴィ、ヴィータ・・・・なぜグラーフ・アイゼンを構えている?」
ヴィータはいつの間にかグラーフ・アイゼンを起動させていた。そして天高く振上げると、
「往生せぇやぁ!!化け物おっぱい!!」
力いっぱい良介に向かって振り下ろしてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁー!!」
クラナガンに良介の悲鳴が響いた。
「ヴィータちゃん、待った?」
ヴィータが良介に粛清を行った後、良介たちの下に私服姿のなのはがやって来た。
「うわぁ、本当に兄さんが女の人になってる!!」
「なのは?なんでここに?」
頭にでっかいたんこぶを作った良介が何故ここになのはが来たのかを聞く。
「アタシが呼んだ」
どうしてここになのはがいるのか疑問に思った良介に、ヴィータが答える。
「なんで?」
「面白そうだからだ!!」
ヴィータは腰に手を当てて言い切る。
「それにしても兄さん、男の人の時もそうだけど、女の人になってもやっぱりカッコいいねぇ〜それにすごく美人さんだし・・・・ここはちゃんと姉さんって読んだほうがいいのかな?」
なのはが良介をマジマジと見つめる。
「いや、普段どおりで呼んでくれ・・・・」
「でも、今の兄さんは女の人だし、周りから変な目で見られちゃうよ?」
「ぐっ・・・・ぬぅぅぅぅ・・・・じゃあ苗字で呼べ」
「え〜」
良介を苗字で呼ぶのに、なのはは不満の様子。どうしても女性化した良介を「姉さん」と呼びたいらしい。
「いいじゃないか宮本、ずっと女で居るわけではないのだから。高町の願いを叶えてやっても」
「シグナムの言うとおりだぜ、リョウスケ」
シグナムは普段通りの表情だが、ニヤニヤ顔でヴィータは言う。
「駄目なのぉ〜?」
涙目で迫るなのは。
(これじゃあ俺がなのはを苛めているみたいじゃねぇか・・・・周囲もヒソヒソと何か言っているし・・・・)
周囲の視線を気にした良介は、
「だぁーもう!分かったよ!!好きに呼べ!!」
ヤケクソになり、叫ぶ。
「ところで、にい・・・・姉さんは胸に下着、着けてるの?」
なのはが良介の胸を見ながら聞く。
「はぁ?そんなもん着けるか!!俺は男だぞ!」
「そんなのダメだよ!!胸って言うのはとてもデリケートなんだよ!!ちゃんとしないと形が崩れちゃんだよ!!それだけ大きいんだから、大切にしないとそれに着けないと余計に目立ちゃうよ」
なのはは良介の胸を心配しつつ、胸について力説する。
「ふむ、それならば我々で宮本の下着を選んでやろう」
「賛成!!」
シグナムがとんでもないことを言い、なのはもそれに賛成する。
このままでは体も服装も女になってしまうと思った良介はその場からの逃走を試みるもヴィータのバインドによって捕まってしまった。
「どこへ行くんだ?リョウスケ?」
「きゅ、急用を思い出しまして・・・・」
「嘘だな」
「な、何をおっしゃいますヴィータさん。私は決して嘘など・・・・」
「リョウスケ、お前、突発的な嘘をつくときは言葉使いが敬語になるんだよ」
「しまった!」
声をあげ、自らの墓穴を後悔するが、時既に遅し、ヴィータはグラーフ・アイゼンを肩に担ぎ、満面の笑みで良介に問う。
「アタシ達が直に選んでやるんだ。嬉しいだろう?・・リョウスケ?」
「は、はい・・・・」
未だに早く走れることの出来ない良介に残された選択肢は「
YES」か「はい」の二つに一つしかなかった。
デパートに連行・・もとい、なのは達と共に来た良介は早速、婦人下着コーナーへとやって来た。
店員がメジャーで良介の胸のサイズを測ると、そのサイズの大きさを聞き、なのはは羨ましそうな顔をし、ヴィータは歯軋りをして、悔しがっていた。ちなみにサイズを測った店員も羨ましがっていた・・・・。
サイズを聞いた後、三人はそれぞれ思い思いの下着を選んだ。
なのはは、「姉さんは美人さんなんだから、こういう下着がいいと思うの」と、言って選んだのはフリルやリボンがついたシックな下着。
シグナムは「宮本は激しい運動をする機会が多いから、あまり邪魔にならないようなものがいいだろう」と、言って装飾の少ないシンプルな下着を選ぶ。
ヴィータは「いやいや、良介はアタシと違って『大人の女』なんだからこういうのが似合うんじゃねぇか?」と、やたら大人の女という部分を強調し、ニヤついた顔で、際どい下着を選ぶ。
なのはとシグナムはともかくヴィータは明らかに遊んでいる。
「じょ、冗談じゃねぇ・・・・あんな下着、着れるか!」
なのは達は下着選びに夢中になっている。逃げるのは今しかないと思った良介はその場からそっと退散した。
「姉さ・・・・あれ?姉さんは?」
「見あたらないな・・・・」
幾つかの候補を選んできたなのは達が先ほどまで良介が居た所に戻ると、そこに良介の姿はなかった。
「まさか・・・・」
「逃げたな・・・・」
「リョウスケぇー!! あのやろぉぉぉぉー!」
せっかく面白い下着をつけ笑いとばしてやろうと思っていたヴィータは良介が逃げたことに大激怒。
「ふ、フフフフ・・・・・あははははは・・・・・」
「た、高町?」
突然、なのはが狂気に満ちた笑い声を張り上げる。その行動にシグナムは引き気味。
なのはは折角、良介の為にと思った行為を無碍にされたのが許せなかったのだ。
「姉さん!絶対に逃がしませんよ!!」
笑いをやめ、次元犯罪者も真っ青な覇気を体から放ち意気込むなのは。
「探すぞ、なのは!まだ遠くへは行ってない筈だ!!」
「了解なの!!」
ヴィータも同様の覇気を出し、なのはと共に良介を探しに行った。
「やれやれ」
シグナムは半ば呆れる感じで二人の後を追った。
「行ったな・・・・?」
魔王化したなのはと狂戦士化したヴィータが去ったのを確認した良介は試着室からこっそり出た。
良介はあえて、遠くへは移動せず、向こうが勝手に移動してくれるのを待っていたのだ。
試着室から出た良介はスタッフ専用の連絡通路を通り無事、デパートを脱出した。
局員の制服ということで、デパートのスタッフは深く怪しむことはなかった。まさか局員の制服がこんな形で役に立つとは良介自身も思わなかった。
居るはずも無い良介を探し回っているヴィータとなのはが諦めたのはそれから二時間後のことだった。
「ただいまー」
良介が家についたのは既に辺りが薄暗くなってからだった。
「おかえり・・・・」
出迎えたギンガは良介の姿を見たとたん固まった。
「あの〜どちらさまでしょうか?」
「えっ?」
戸惑いながら良介が誰なのかを聞いてくるギンガに良介も戸惑う。
「もしかして、ご依頼の方でしょうか?」
女性化した良介を依頼人かと思い込んでいるギンガ。
「いや、俺だから、良介だから!」
自分を指差しながら自分の名前を言う良介。
「・・・・えええっ!!本当に良介さんですか!?」
ギンガは驚いているが未だに信じていない様子。しかし、ギンガの腕の中に居る我が子は、
「ぱぁー・・ぱぁー」
一目で良介だと分かったようだ。
「そうですか・・・・変な薬で・・・・・」
ギンガは念のため、今日、捕り物の指揮を執っていたゲンヤに確認をとり、ようやく女の姿になった良介を良介だと認めた。
「それにしても良いプロポーションね・・・・特に胸が・・・・」
アリサが女になった良介の体をまじまじと見つめる。
「今日は厄日だ・・・・」
「まぁ、それについては同情するわ。ところで良介」
「ん?」
「ちゃんとブラは着けているんでしょうね?」
(またそれか!?)
外でなのはに散々ブラジャーを着けないと胸がどうのこうの言われ、家でもアリサに言われるのかと思った良介はげんなりした。
「アリサ、まさかお前までブラを着けないと胸を痛めるとか言って、俺にブラを着けさせる気か!?」
「一応聞いただけよ。それに良介の性格上着けてないだろうし、どんなに言っても着けないだろうし・・・・」
「だったら聞くなよ!!」
「でも、着けないと、揺れて痛いんじゃない?」
「確かに・・・・ちょっと胸の辺りがヒリヒリする・・・・」
「だったら・・・・」
何か思いついたのか、アリサは救急箱から大量の包帯を持ってきて、
「これを使って、サラシにしたらどう?」
「そうか!その手があったか!さっそくやってくれ!」
「いいけど、着けるのは出かけるときにしたら?」
「歩くたびに揺れて痛いの!!」
「わかった、わかった。でも着けるのはお風呂に入ってからにしなさい」
アリサにそう言われ、良介は風呂へと向かった。
「あの・・・・アリサさん・・・・」
「ん?何?ギンガ?」
良介が風呂に入っている間、アリサはギンガに呼び止められた。
「・・・・わ、分かったわ・・・・それじゃあ、今夜はあの子の面倒は私が見るわ・・・・」
「ありがとうございます・・・・」
風呂から上がり、アリサに早速サラシを巻いてもらい、夕食を食べた後、良介は先に休むことにした。
「それじゃあお休み」
「え、ええ・・お休み良介・・・・」
アリサは寝室に向かう良介に何故か同情するような視線を送ってきた。
それから深夜になり・・・・
・・・・ん?・・なんだ?
なんか、重い・・・・・まるで、何かが乗っかているような・・・・・。
・・・・ん?
腹部に何やら重みを感じ、良介は目を覚ました。
「あっ、良介さん・・・・・」
目を開いた良介の視界に飛び込んできたのは良介に覆いかぶさっているギンガの姿。
しかも、良介のパジャマの上着のボタンとサラシを外し、両手で良介の胸を揉んでいる。ちなみにギンガの格好も似たような感じで下は下着一丁で、上もパジャマのボタンを全開にしている扇情的な格好をしている。もちろん胸には下着をつけていない。
「ちょっ!ギンガ何やってんの!?」
「良介さん・・・・実は・・私・・・・久しぶりに女の人の体が恋しくて・・・・・」
「なっ!?」
いきなりとんでもない事を言うギンガ。
新婚旅行以降、良介とギンガは頻繁に肌を重ね合うようになったが、今回はあまりにも非生産的というか、同性?同士はないだろうと思っている良介。
「だったら自分の体を思う存分触っていろよ!!」
「自分のだと・・・・その・・・・盛り上がりにかけるというか・・・・空しいというか・・・・良介さんと結婚してからスバルと触り合いをする機会も減ったので・・・・これはチャンスだと思いまして・・・・」
(ギンガさん!?まさかそういうユリシーズ的な趣味をお持ちでしたの!?っていうかスバルもまさかそっちのヒト!?)
ギンガの隠れた性癖に驚く良介。ちなみにスバルも訓練校時代、六課時代にティアナをその百合の毒牙で甘噛みしていたことを良介は知らないし、ティアナ自身も、もちろんそんな恥ずかしいことを口外する筈がないのでその事実は未だ公にはされていない。
「だから、良介さん・・・・今夜は・・・・私の相手になってください・・・・!!」
ギンガが良介に迫ってくる。しかもすごく興奮しているのか瞳の色がいつの間にか金色になっているし、目つきがタッカーの研究所で見たはやてと同じ肉食獣の・・・・いや合成獣の目つきと同じだ。
「ちょ、待って、ギンガ・・・・ア―――ッ!!」
宮本家にクラナガンに続く、本日二度目となる良介の叫び声が響いた。
あとがき
胸にコンプレックスをもっているヴィータが巨乳化した良介を放っておく訳がないと思い、絡ませてみました。
また、
MAD等でスバルがティアナの胸を揉むシーンを見たので、姉のギンガもそんな百合要素を含んでいるのではないかと思い、最後のオチで良介君にけしかけました。あと魔王化したなのはがこのまま引き下がるハズがありません。
今回に引き続き次回にも魔王化なのはを登場させる予定です。
では次回にまたお会いしましょう。
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