二話 ゲンジツノヒビ
「・・・・・なぁ」
「はい?」
未だに入院中の良介はベッドの傍の椅子に座り、手慣れた仕草で果物の皮を剥いている人物に話しかける。
「お前、仕事は?」
椅子に座る人物に対し確認するかの様に聞く良介。
「あれ?聞いていませんでしたか?私、今停職処分中なんです」
停職処分中だと言うのになぜか嬉しそうに答えるギンガ。
「停職中なら家に篭って昼寝でもしていろよ暇人」
「もう、誰のせいで停職になったと思っているんですか?」
「自業自得だろ?お前がバカ力で一般人をぶん殴ったんだから」
良介はアリサからギンガの現状(停職処分中)のことを聞いており、「もしかしたら平日や時間帯に関係なくギンガが来るかもしれない」と言われていたのだが、まさか連日良介の病室に訪れ、面会時間終了までいるとは思ってもみなかったのだ。
「バカ力って、ソレ酷いです。それにあの時はその・・・・」
言葉を濁らすギンガ。
宮本良介の死後、スバル同様ギンガも現実から逃げていた。
ある日、公園で行った無許可の露天営業を取締の真下、絵描きを殴り倒した時、表面上はたんたんと仕事をこなしていたギンガだったが、精神面は酷く不安定な状態で、文句を言ってきた絵描きともめている最中、今まで溜め込んでいた悲しみ、怒りなどの全ての感情が爆発したのだ。
「と、兎も角!私が好きでしていることだから良いんです!!」
強引に現状を丸め込もうとしているギンガ。
「だけどなぁ、こういうのってアリサの仕事の筈だろう?・・っていうかアイツらどこ行ったんだ?」
なぜか入院中の良介の世話はもっぱらギンガが行なっており、本来ならば自分の世話はメイドであるアリサの仕事だと良介は思っていた。
しかし、そのアリサは週に二、三日程度にしか良介の病室に顔を出さない。
「アリサさんとミヤさんは管理局や良介さんがお仕事でお世話になっている方々に事態の説明に回っています」
生前、良介は、管理局は元より各管理世界、そして管理外世界まで幅広く様々な依頼をこなしており、それらの仕事先には良介の訃報はまたたく間に広がり、良介が復活した今、アリサとミヤはその取消とこれからも変わらない関係修繕のためにこうした仕事先をあちこちをかけずり回っている。
「成程、それでお前が俺の世話を買って出たのか?」
ギンガの説明を聞き、アリサがなかなか病室に顔を出さない理由を聞き、納得した良介。
「はい、どうせ暇人ですから」
先程の良介の言葉を気にしているのか、皮肉を込め言い返すギンガ。
「ま、まぁ、そういう理由があるなら仕方ないとして・・・・・お前はなんでここにいる?」
良介は自分の病室にいるもう一人の人物に話しかける。
そこには良介の復活祝い兼見舞い品の高級菓子を食べているスバルの姿があった。
ミッドでも有名な存在、宮本良介の復活は管理局と聖王教会に訃報の時よりも早く知れ渡り、三提督や聖王教会の騎士カリム、シャッハ、管理局のハラオウン親子をはじめとするミッドでも指折りの権力者や有名人から大量に祝いの品が届いた。
しかも皆、権力と金が有るため、良介にとって一生縁のないような高級なお菓子や果物が占めていた。
「モグモグ・・・・ゴクン・・・・私も今、ここに入院しているんですよ、宮本さん」
口元にお菓子のカスを付けながら、それを拭うことなく病院にいる理由を話すスバル。
良介との再会後、塞ぎこんでいたスバルの精神はみるみる内に回復したが、体の方はまだ完全に回復しきれていないので現在も入院中であった。
「だったら自分の病室に居ろよ!それから俺の菓子を勝手に食うな!!」
「え〜いっぱいあるんだからいいじゃないですか」
「そのいっぱいあった菓子の半分以上はお前の胃袋に消えてんだよ!!」
「だってコレ、ミッドでも老舗で有名なお店のお菓子なんですよ!!」
「知らねぇよ!!でも、それそんなに有名なのか?」
「当たり前じゃないですか!!コレ普通じゃ、滅多に買うことの出来ない高級なお菓子なんですよ!!今食べなきゃ、次はいつ食べられるかわからないほど高いんですよ!!」
お菓子の箱を手に持ちながら良介に力説するスバル。
「それならお前の退院祝の時にゲンヤのとっつぁんにでも買ってもらえ!!」
「えぇ〜お父さんのお給料じゃ、こんなに沢山は買えませんよ〜宮本さん、何わかりきったこと言ってるんですか?」
父親に対し、サラリとひどいことを言うスバル。
「そのセリフ、とっつぁんの前では絶対に言うなよ。とっつぁん号泣しちまうぞ」
「わかってますって
♪」そう言って再びお菓子に手を付けるスバル。
「だから食うなって!!」
大声でスバルにツッコミをいれる良介。
そんな良介とスバルのやり取りをギンガは微笑みながら見ていた。
「はい、剥けましたよ。良介さん」
ギンガは先程から皮を剥いていた果物を切り分け、皿に盛りフォークを刺す。
「おう、すまんな、ギンガ」
良介が果物を食べようとすると、
「はい、良介さん、あーん」
フォークに刺さった果物を良介の前に出すギンガ。
「・・・・・・」
ギンガの行為に良介は一瞬思考が停止した。
「うわ〜ギン姉、大胆〜」
スバルはギンガの行為に声を上げる。
「・・・・・あのよぉ?ギンガ・・・・」
「はい」
「俺は手を怪我している訳じゃないから自分で食えるんだけど・・・・・」
「でも病院に入院しているので病人には違いありませんよね?」
「あのなぁ・・・・・・・」
息を吸い、肺活量を高める良介。
そして、一定の量がたまり
「そんな小っ恥ずかしいこと出来るか!!」
と、声を上げる。
「なら、この果物は私が全部食べちゃいますよ〜」
得意げな笑みを浮かべるギンガ。
「て、テメェー汚ねぇぞ!!」
反対に良介は苦虫を潰したかのような顔になる。
(目の前の果物はメロンではないが、滅多に食えない高級果物・・・・スバルじゃねぇが、この機会を逃したら次はいつ食えるかわからねぇ・・・・)
もし、ここで断ればギンガは確実に目の前の高級果実を予告通りすべて一人で平らげるだろう。
一時の恥ずかしさを我慢して高級果実を食べるか?
それとも意地とプライドを貫き通し、高級果実を諦めるか?
考えた末、良介の下した決断は・・・・・
「こ、今回だけだからな・・・・・こんな恥ずかしいことするのは・・・・・
//////」あっさりと高級果実の誘惑に屈した。
「フフ、それじゃあ良介さん。あ〜ん」
「ぐっ・・・・あ、あ〜ん
//////」顔を赤く染めながら良介は高級果実を口にするが、結局あまりの恥ずかしさのせいで味がわからなかった。
そんな二人の様子をスバルはお菓子を食べつつニヤニヤしながら見ていた。
「パパーっ」
午後になり、仕事を早めに切り上げたなのはがヴィヴィオを連れて良介の病室を訪れた。
既にヴィヴィオ流の挨拶になっているのか、ヴィヴィオは良介に飛びつく。
「だから俺はパパじゃないって言ってるだろうが」
ヴィヴィオの言う「パパ」を否定しつつも「まんざら悪くないな」といった表情でヴィヴィオを抱き上げる良介。
なのははヴィヴィオを抱き上げている良介の近くで微笑みながら佇んでいる。
その構図はまさに夫婦そのものであった。
「・・・・・」
そんな三人の様子を見ていたギンガはチクリと胸に小さな痛みを感じた。
面会時間が終わり、自宅へ帰ったギンガは自室のベッドの上で先程良介の病室で見た良介とヴィヴィオの光景が頭から離れなかった。
そして、そんな二人を優しい眼差しで見つめてたなのはの姿も・・・・。
良介を「パパ」と呼び懐いているヴィヴィオ。
自分よりも魔導士として優れた才能と魔力を持ち、幼少の頃から良介を「兄さん」と呼び、良介を慕い自分の知らない良介を沢山知っているなのは。
(・・・・私じゃ・・・・敵いっこない・・・・よね・・・・)
良介と公園で再会した日に気付いた自分の想い。
彼を・・・・宮本良介を一人の男性として愛しているという想い。
しかし、良介を愛し、良介を慕っている女性たちは皆、なのは同様魔導士としての能力は高く、良介との繋がりも自分より深い人物達ばかり。
公園で再会し、彼と口づけを交わしたが、キス程度おそらく皆済ましているだろう。
自分の想いを伝えたい。
でも彼に拒絶されるのが怖い。
彼が自分のことをどう思っているのか知りたい・・・・・。
自分は一人の女性として好かれているのだろうか?
それとも・・・・・・。
不安要素は多々ある。
元々彼とはよく言い合いもしたし、頭にきて、おもわず殴ってしまった数も数えきれない。
なりより自分は彼を一度殺している。
そんな自分を彼が愛している筈がない。
(辛いよぉ・・・・苦しいよぉ・・・・)
(良介さん、貴方は私のことをどう想っているんですか?)
ベッドに横たわりながら、ギンガの脳裏に映ったのは良介が他の女性と共に笑顔を浮かべ、二人の間に出来た子を抱き上げている姿。
自分はただそれを黙って見つめることしかできない。
良介のそんな姿を想像したギンガは無意識のうち涙を流した。
宮本良介という人物は知らず知らずの内、ギンガを変えていた。
戦闘機人ではなく、一人の少女へそして一人の女へ・・・・恋を知った一人の女性へとギンガを変えていた。
あとがき
今回から本格的に物語がスタートです。
恋する乙女、ギンガさんを描いてみました。
実際に原作?(名無し
ASさんの作品)でもギンガは良介に告白していませんし、良介もギンガに告白していないので、ギンガさんは恋煩い中です。素人なので、まだまだかもしれませんが、生暖かい目で見守ってください。
作者さんへの感想、指摘等ありましたら
投稿小説感想板、フォームの始まり
に下さると嬉しいです。