十五話 ウェディングノヒとテンシガマイオリタヒ

 

 

「汝、宮本良介はこの女。ギンガ・ナカジマを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかな時も共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを神聖な婚姻の名のもとに、誓いますか?」

カリムが婚姻の誓いを良介に問うと、

「誓います」

白いタキシードを着た良介は静かに、そして力強く答える。

良介の誓いの言葉を聞いたカリムは頷き、

「汝、ギンガ・ナカジマはこの男。宮本良介を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかな時も共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを神聖な婚姻の名のもとに、誓いますか?」

良介と同じく、婚姻の誓いをカリムがギンガに問うと、

「誓います」

薄水色のウェディングドレスを着たギンガは静かに答える。

この日、ベルカ地区にある教会で良介とギンガの結婚式が行われた。

カリムが聖職者として、式の進行と立会人を行い、修道女のシャッハがパイプオルガンを演奏し、参列者たちが祝福の歌を歌い、新たに夫婦となった二人を祝福する。

ナンバーズの更生プログラム期間が終了するのと同時に良介とギンガの二人は結婚式を挙げ、この日晴れて夫婦となった。

やはりギンガのお腹が目立つ前に式を挙げたいと言う両者の見解のため、二人はギンガが非番の日を利用して、式場やドレスなどの準備をしていた。

更生プログラムが終了したナンバーズの内、チンク、ノーヴェ、デェイチ、ウェンディはナカジマ家の養女となり、セイン、オットー、ディードは聖王教会で修道女見習いとしてカリムとシャッハの下でお世話になっている。

ちなみに彼女たちは今日の式の準備を行い、式にもちゃんと参加している。

「うぅ〜ギンガ〜綺麗だぞ・・・・クイントの奴に見ぜでやりだがっだ・・・・・」

ゲンヤは漢泣きをして花嫁姿のギンガを見ている。

ヴァージンロードを花嫁姿のギンガと共に歩いていた時は歯を食いしばり何とか涙を堪えていたゲンヤであったが、此処に来て感極まって涙を流した。

ギンガは本日付で「ナカジマ」の姓から「宮本」の姓へと変わった。

「良介さん・・・・ギンガさんに飽きたらいつでも私の下にきてくださいね〜」

シャマルも滝のような涙を流しながら花婿の良介を見ている。

「うぅ〜リョウスケ・・・・リョウスケ・・・・・・」

ヴィータはハンカチを噛みながら目に涙を浮かべて良介を見ている。

「ギン姉綺麗〜」

スバルはキラキラとした眼差しでギンガを見ている。

「ホント、先輩にはもったいない位ね・・・・」

ティアナも苦笑しながら花婿、花嫁姿の二人を見ている。

 

 

「では、誓いの口づけを・・・・」

良介がギンガの顔を覆っているウェディングベールをゆっくり丁寧に持ち上げる。

「良介さん・・・・」

「なんだ?」

「良介さん、私、今、物凄く幸せです・・・・」

「何を言っている?これからもっともっと幸せにしてやるさ・・・・もちろんこれから生まれてくる俺たちの子供もな・・・・」

「次元世界一・・ですか?」

「当然だ・・・・」

「良介さん・・・・」

「なんだ?」

「愛しています。これからも・・・・そして永遠に・・・・」

「ああ、俺もだ・・ギンガ・・・・お前を愛している・・・・永遠に・・・・」

重ねられる唇。

それと同時に会場内は歓声と拍手で溢れ返った。

「神聖なる婚姻の下、二人を夫婦として認めます」

カリムが夫婦の婚姻書にサインし、これにより良介とギンガは正式に夫婦となった。

 

 

式は無事に終わりいよいよ女性陣達にはお待ちかねの時間、ブーケ・トスとなった。

「スバル、ブーケ・トスってなに?」

デェイチがスバルにブーケ・トスのことを尋ねる。

「ブーケ・トスはね、今からギン姉が手に持っているあの花束をこれから投げるの。その花束をとった女の人が次の花嫁さんになれるって言われているの」

「なにぃ〜!!」

「それ本当っスか!?」

「嘘じゃねぇだろうな!?」

「あ、あくまでそういわれているだけだからね〜」

ナカジマ家の新しい姉妹たちにスバルは迫られタジタジである。

「お〜い、ブーケ・トス始まるで〜」

はやてがスバルたちに声をかけ、女性陣はブーケ・トスが行われる場所へと移動する。

 

 

「そぉれ〜」

ギンガの手からブーケが空高く舞い上がり、やがて重力に引かれて地上へと落ちてくる。

激戦の中、ブーケを勝ち取ったのは・・・・

「ふぇ?」

なんとヴィヴィオだった。

決して狙って投げたわけではないが、ブーケはきれいにヴィヴィオの小さな手の上にストンと落ちた。

「ヴィヴィオが次の花嫁か!?」

「う〜ヴィヴィオ、羨ましいっス」

「そんな!!ヴィヴィオがお嫁に行くなんて・・・・誰!?ねぇ、相手は誰なの!?」

「お、落ち着いてフェイトちゃん!!」

ブーケ・トスもさながら、式後の宴会もドンチャン騒ぎだった。

ゲンヤとヴォルケンリッターの騎士たちは早々に良介に絡み、何度も同じことを言い続け、旧六課の隊長陣やナンバーズの皆はギンガに初体験のことや妊娠について興味津々な様子で色々聞きまくっていた。

良介は迫るゲンヤ達に終始タジタジで、ギンガは顔を真っ赤にしながら質問に答えたり、惚気話を話して、宴会を楽しんだ。

 

 

それから時は流れ・・・・。

 

 

ミッドにある病院の産婦人科の分娩室の扉の前で、良介は落ち着かない様子で、ウロウロしたり、時折立ち止まって分娩室の扉を見ている。

「はい、力んで!!」

「んっ!!あっ!!くっ!!うっ・・あああああっ!!」

分娩室の中からは絶えず出産に苦しむギンガの苦しそうな声と担当の産婦人科医の声が聞こえる。

「頑張ってギンガ!!もうちょっとだから!!」

「は、はい・・・・うっ・・・・あああああっ!!」

史上初の戦闘機人の出産という極めて特殊な状況なため、万が一を想定し、出産の場にはギンガ達の身体のメンテナンスを担当しているマリエル・アテンザ技術官も同席し、ギンガを励ましながら出産の動向を覗っている。

 

「っ!?」

ギンガの声が聞こえるその度に良介は立ち止まり、心配そうに分娩室を見る。

陣痛が始まってからかなりの時間が過ぎている。

担当の医者が言うには稀に見る難産らしい。

「良介、少しは落ち着けよ」

分娩室の近くにあるソファーに座っていたゲンヤが良介の行動に見かねて声をかける。

「・・・・とっつぁんも落ちつけよ・・・・缶コーヒー・・逆さに持ってるぞ・・・・」

「えっ?」

良介に指摘され、ゲンヤは自分が手に持っている缶コーヒーに目をやると、良介の言うとおり、ゲンヤは缶を上下逆さに持ち、缶の底を必死にカリカリとひっかき、缶を開けようとしていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

互いに落ち着こうということで、ゲンヤは缶コーヒーを置き、良介はソファーにどっかりと腰を下ろす。

しかし、数分後には良介はソファーの上で貧乏揺すりを始める。

「だから、落ち着けって・・・・・」

「でもよぉ、とっつぁん。やっぱり気になるじゃねぇか・・心配になるじゃねぇか。ちゃんと無事に産まれてくるか・・・・出産後ギンガは無事なのか・・・・」

「だがな、ここでお前が出来ることはなにもねぇ。今はギンガと自分の子の無事を信じて待つしかねぇだろう?」

「・・・・」

ゲンヤの言葉を聞き、興奮している心を鎮めるため、良介は目を閉じ瞑想をする。しかし、時折、眉をピクリと動かし、薄目を開けたりして、お世辞にも集中しているとは言えない。

 

やがて・・・・

 

オギャー オギャー

 

分娩室の中から、新たな生命の誕生を知らせる産声が聞こえた。

「っ!?」

その声を聞くや否や良介は分娩室の中へと飛び込んだ。

「ギンガ!!」

「旦那さんですか?」

「はい!!」

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。母子ともに問題ありません」

看護婦さんからギンガの様態と生まれてきた子供の無事を聞き、良介はホッとすると同時に目を潤ませながら、出産を終えたギンガに声をかけた。

「よくがんばったな、ギンガ!娘だ!俺たちの子供だぞ!!」

良介はそっと、産声を上げ続ける生まれたばかりの娘をギンガのすぐそばに横たえる。

ギンガは出産のため、著しく体力を消耗しており、喜びの声をあげることは出来なかったが、歓喜の涙を流し、娘の誕生を喜んだ。

 

「俺もとうとうお爺ちゃんか・・・・クイント・・・・見ているか?ギンガに子供が・・・・俺たちに孫が出来たぞ・・・・」

娘の誕生を喜んでいる良介の後ろで、ゲンヤは小さく呟いた。

初孫に嬉しいのか、その目には光るものがあった。

赤ん坊の洗浄も終わり、赤ん坊と共に病室へと移ったギンガの下に皆が出産祝いに来た。

「おめでとう、ギンガ、良介」

「へぇー生まれたばかりの赤ちゃんってこんなんなんだ。かわいい!!」

「かわいい!」

「ちっちゃーい!」

「ほんと、ちぃっちゃくってかわいい!!」

「将来はお母さんに似て美人さんになるで、きっと・・・・それにしてもかわええな」

皆口々に「かわいい かわいい」と言うので、ウェンディは気になってベビーベットを覗きこんだ。

生まれたばかりの赤ちゃんを見たウェンディは声をあげて言い放った。

「うわぁぁぁぁ宇宙人みたいっス!!」

「やかましい!!」

 

ゴン!!

 

あまりにも失礼な物言いに良介はウェンディに拳骨をお見舞いした。

「い、痛いっス。良介さん、グーで、グーで殴ったっス!!」

「自業自得だ!!バカが!!」

「まったくだ!!空気よめ!!」

チンク、ノーヴェはウェンディに注意する。

 

 

皆に祝福されて、生まれた良介とギンガの娘。

ギンガが優しく微笑みながら眠る娘を抱き上げる。

すると良介の目にはすぐ傍でクイントが同じく微笑みながらギンガに寄り添いあっているように見えた。

後日、良介はスケッチブックではなく、ちゃんとした画材を購入し、その場面の絵を描いた。

 

絵の題名は「天使が舞い降りた日」

 

その後、この絵は額縁に入れられ、今もナカジマ家の居間に飾られている。

結婚して、娘が生まれてから、良介は孤独を愛していた剣士から家族を愛する剣士として愛妻家兼親バカな父として日夜仕事に励んでいる。

アリサはギンガと共に娘の世話と良介の仕事のバックアップを担当している。

アリサ曰く「この子が大きくなったらどこに出しても恥ずかしくない立派なレディーに育ててみせるわ!」と、意気込んでいた。

天才少女のアリサならば任せても問題はないだろう。それは良介もギンガも了承している。

ギンガは子育てに専念しており、現在、管理局を休職中。

赤ちゃんと子育てに興味があるのか、休日にはよくチンクが着て、一緒に娘の面倒をみている。

ミヤはアリサが助手として現場に立つ機会が少なくなったため、良介とコンビを組んで毎日現場を飛び回っているが、「ミヤも赤ちゃんの世話がしたいですぅ!!」と、愚痴っている。

八神家の皆も非番の日は宮本家で過ごすことが多い。

ギンガと結婚したことで、やはり家族が増えたことが嬉しいのだろう。

はやては娘の面倒を買って出ることが多く。ヴィータは娘と一緒にお昼寝をしている姿をよく見かける。

 

 

騒がしいながらも大切な家族や仲間と共に過ごす平和な日常。

 

 

それこそが宮本家にとっての最大の幸せなのだろう。

 

 

あとがき

ようやく良介君とギンガさんが夫婦になりました。

いざ、結婚式の場面を書いてみると思ったほど、ページがいかなかったので出産場面も足しました。

申し訳ないorz

結婚式の場面で若干違うようなところがあってもミッド・ベルカ式と思って下さい。

結婚して子供が生まれてもまだこの物語は続きます。

読者の皆様もう暫くお付き合いの程をお願いします。

では次回にまたお会いしましょう。




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