十三話 ハレノヒニフルアメ
ゲンヤとの話合いから、五日後、拘留中のカミンスキィー親子の処分が決定した。
局員にあるまじき行為だとして二人とも階級及び全ての保有資格の剥奪と懲戒免職処分となり、財産は全て没収され、被害者に慰謝料として分配され、身柄は拘置所に送られ裁判を待つ身となっている。
今までの罪を見積もっても十年以上の懲役刑は免れないだろう。もっとも刑務所を出たところで無一文であり、社会的信用も失っている中、再就職も恐らくままならないだろう。
彼らにとって残りの余生はまさに生き地獄になるであろうが、今までの事から当然の報いかもしれない。
一方
108部隊でもゲンヤが自分を含め、部隊員全員に一ヶ月の減給処分を下した。誰もギンガを守ってやれなかったという連帯処分であったが、隊員たちは皆この処分を甘んじて受けた。
記事にあった絵描きの
A氏にはアリサが直接交渉を行なった。A
氏曰く「金を掴まされ、しょうがなくやった」と供述していたが、アリサは微笑みを浮かべ「今後この問題を掘り返すことがあれば・・・・分かっていますよね?」の言葉だけでA氏の了承を取り付け、誓約書にサインまでさせた。そしてナギが書いたネット上の掲示板についてもアリサが手を回し、逆にカミンスキィー親子の非道を匿名で掲載したところ、ギンガに対する誹謗・中傷の時よりも掲示板は荒れ、すぐにギンガについての誹謗は沈静化した。
そして今回の被害者であるギンガは更生担当官に復帰し、再びナンバーズの更生にあたっている。
ようやくいつもの日常が戻った中、良介は、はやてに一本の通信を入れた。
「はやて、近いうちにはやて達と話したいことがある。できたらなのはやフェイトも一緒がいい」
「わかった、なのはちゃんとフェイトちゃんには私から言ぅとくわ」
「すまない。それと話し合う場所は、訓練場のような対魔法防御がしっかりした場所にしてくれ」
「 ? 了解や。それもこっちで手配しとくわ」
はやては何故、集合場所が訓練場なのか疑問に感じたが、取り敢えず良介の言う通りにした。
「ああ、予定がついたら連絡をくれ・・・・はぁ〜」
はやてとの通信をきり、良介は深いため息をついた。
公園の時は八神家の住人からの非殺傷設定の殺戮魔法だったが、今回はそれプラスなのはとフェイトの魔法も加わると思うと気が重い。いや、もしかしたら殺傷設定かもしれないとまで思った。
数日後、みんなの予定と訓練場の貸出許可が取れ、八神家の住人となのは、フェイト、良介は指定された訓練場に集合した。
「それで良介、なんで訓練場に皆を集めたん?」
はやてが今日の集合の要件を聞く。
「今日は皆にどうしても言っておかなけりゃいけない大事な話があってな・・・・」
「大事な話?」
「ああ」
「どんな話なん?」
「それは・・・・その・・・・・だから・・・・あのな・・・・」
歯切れの悪い良介に短気なヴィータが声をあげる。
「なんだよ!!話があるならハッキリと言えよ!!」
(はっきりと言えばお前は絶対キレルだろうがぁっ!!)
心の中でツッコミ、ジト目でヴィータを見る良介。
「な、なんだよ?あっ、もしかして、この前やった『お前を倒せば恋人になれる』ってやつをまた、ここでやるのか!?」
ヴィータが「今度こそ負けねぇぞ」と期待に満ちた目で良介を見る。
シャマルも目をキラキラさせ、なのは、フェイト、はやては頬を赤らめている。
シグナムも同じく頬若干赤く染め、恥ずかしそうに視線をずらしている。
「いや、そうじゃねぇんだ・・・・」
否定され、一同はガッカリする。
「実は・・俺・・・・・俺・・今度ギンガと結婚することにした」
覚悟を決め、皆に結婚話を言う良介。
その直後、
「「「「「「なっ・・・・・なんだってぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」」
良介の結婚話を聞き、訓練場に集まった六人の声が響き、訓練場が揺れた・・・・ように感じた。
「なんでだよ!!なんでよりにもよってギンガなんだよ!!」
ヴィータが物凄い勢いで良介の胸倉を掴み、良介を揺する。
「良介さん、あの時にもう懲りたと思っていたのですが、やっぱり調教がたりませんでしたか?」
シャマルがにこやかに言うが、こめかみはピクピクと引きつっており、かなりご立腹なのが分かる。
「宮本、納得のいく説明をしてもらおうか?」
いつでもレイヴァテンを抜刀できる体制のシグナム。ギンガと再開した時と同様全力で握っている為か、刀身がカタカタ震えている。
「兄さん!!」
「リョウスケ!!」
「どういうことかきっちりと説明してもらうで〜」
なのは、フェイトは目に涙を浮かべ、はやては昏い瞳でガン見してくる。
良介は震えながらも包み隠さず全てを話した。
八神家の住人の魔法を食らって入院したとき、ギンガから告白され、そのあとギンガを抱いたこと。
ギンガとデートをしたこと。
その時にペンダントをプレゼントしたこと。
上層部のボンボンにギンガが貶められ、精神的に参っていたこと。
雨の中、ギンガに告白したこと。
そしてギンガのお腹の中に自分の子供がいることを・・・・。
ギンガの妊娠を知ったとき、皆は真っ白になった。
「にし・・・・にしん・・・・・妊娠・・・・・」
「兄さんが・・・・兄さんが・・・・・・」
「こど・・・・子供・・・・・良介の子供・・・・・」
「私がなるはずだったのに・・・・・私がなるはずだったのに・・・・・」
「ちきしょうやっぱり胸か・・・・・胸なのか・・・・・」
「宮本がギンガと・・・・宮本がギンガと・・・・・」
完全に現実逃避している六人。
三十分後、現実に戻った六人に良介は話を続ける。
「お前たちが納得いかないこともあるだろうが、今回のことは全て俺に責任がある。殴りたければ殴れ、あの時みたいに魔法をぶっ放したいなら、ぶっ放せ!!ただし、ギンガには絶対に手を出すな!!今のギンガはギンガ一人の体じゃないんだ・・・・この通りだ!!頼む!!」
土下座までして頼み込む良介に一同は毒気を抜かれる。
良介がわざわざ訓練場を集合場所にしたのは公園の時の二の舞を起こし、なのは達に迷惑をかけまいと言う良介なりの気遣いだった。
(そっか、あの時見た女の人はギンガだったんだ・・・・)
フェイトはあの時見た光景を思い出し納得した。
「なのは、フェイト、ヴィヴィオの父親になれずすまん・・・・」
「兄さん・・・・」
「リョウスケ・・・・」
「はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、俺は今でもお前たちを本当の家族だと思っている。ギンガの母親のクイントが昔、言っていたんだ・・・・『たとえ血が繋がらなくても家族は心で繋がっている』と、・・・・今度はギンガと俺の子供が、八神家の新しい家族に加わるんだ。・・厚かましいのは十分承知している。でも・・・・どうか、どうか笑顔で迎えてやってくれ!!」
良介は土下座したまま叫び続ける。
「宮本の事情も承知したし、気遣いも分かった・・・・だから今回はこれで勘弁してやる・・・・顔を上げろ!宮本良介!!」
シグナムが良介に近づき、顔を上げた良介の頬に思いっきりビンタ(平手打ち)をした。
「そやね。良介をまた病院送りにして、ギンガやナカジマ三佐に迷惑かけとうないしなぁ・・・・それに良介の嫁さんに子供やったら、私達は喜んで迎えたるで・・・・心配せんといて」
はやては微笑みながら良介とギンガの結婚を認めた。
はやてはギンガとの結婚は認めだが、それとこれとは話が別であり、良介ははやてを含む残り五人全員からビンタ(平手打ち)をもらい、その日は解散となった。
訓練場を出た六人はそのまま居酒屋に直行し、その日は皆浴びる程の酒を飲み、口々に愚痴を言い合った。
特に日々アプローチをかけていたシャマルとヴィータの荒れ方が一番酷かった。
フェイトは初めての失恋に大号泣とやけ酒をし、いつの間にかなのはとはやてがそれを慰める役になっていた。
管理局の有名人たちがやけ酒をしている光景に店の従業員達は終始引き気味だった。
はやて達にギンガとの結婚話をしてからしばらくして、良介の下にゲンヤから依頼が来た。
その依頼はナギとの騒動で、遅れていたナンバーズの更生プログラムの手助けをしてくれというものだった。
「これは俺より、アリサの方が適任なんじゃねぇか?」
依頼のメールを見ながらアリサに声をかける良介。
「そうね、教育とか更生なんて、良介はそれとは真っ向に対立してきたもんね」
「うるせぇ」
「でもね、ゲンヤさんの依頼の中にはナンバーズに趣味や個性を持ってもらうために、是非、良介にもきてほしいんだって」
「なんだ?そりゃ〜」
「まぁいいじゃない。愛しの婚約者と一緒に仕事が出来て、その上お金も貰えるんだから」
アリサにそう言われ、良介は渋々ながらゲンヤの依頼を受けた。
ギンガと共に更生施設内の教室に入ると、良介はナンバーズの警戒に満ちた視線に晒された。
ナギの一件で男に対し、警戒を抱くようになったナンバーズの皆。
「今日は私の他に特別担当官の人を紹介します」
ギンガはそんな皆の警戒を和らげるかのように良介を紹介する。
「え〜先ほどギンガから紹介のあった特別担当官の宮本良介です。よろしくお願いしま〜すぅ〜」
良介は何とも投げやりな挨拶をする。
「ちょっと!良介、真面目にやりなさいよ!!これも立派な仕事なんだから!!」
良介の態度にアリサは注意を促す。
「アリサ・・・・皆見てるぞ・・・・・」
良介とアリサのやり取りをナンバーズの皆はジッと見ていた。
「もう、良介のせいで恥をかいたじゃない!!こういうのは最初の印象が大切なのよ!!」
「俺のせいかよ!?」
突然、良介とアリサの二人漫才が始まると、ナンバーズのみんなは唖然とした表情でそれを見ていた。
「私は良介の助手のアリサ・ローウェル。アリサでいいわ」
ようやく二人漫才が終わり、アリサの紹介も無事終わると、本日の更生プログラムが始まった。
さすが天才少女と言うべきか、アリサの教えは合理的で一切の無駄がない。
チンク、セイン、そしてチンクにべったりのノーヴェはギンガとアリサの授業を受け、残りのメンバーは良介と一緒に絵を描いている。
ちなみにモデルはウェンディが務めている。
「リョウスケさん!!美人に描いてくださいっス!!」
「分かったから、動くな!!それと少し黙れ!!」
落ち着きのないウェンディをモデルにしたのは間違いだったと良介はモデルであるウェンディを描きながらそう思った。
最初は寡黙トリオに絵の描き方を指南していたのだが、オットーが「良介さんの描いた絵が見てみたい」と言って、寡黙トリオの無言上目攻撃の前に屈し、一緒に絵を描いている。
もし、ここで断ればギンガとアリサから何を言われるか分かったものではないからだ。
「ほれ、出来たぞ」
「見せてくださいっス!!」
「「私も」」
「僕も」
良介はウェンディの絵が描かれたスケッチブックをウェンディに手渡し、そこに寡黙トリオが群がる。
「こ、これがアタシっスか!?」
ウェンディはスケッチブックに描かれた自分を見て声を上げる。こころなしかスケッチブックを持っている手も小さく震えているようにも見える。
「・・・・凡庸な絵だね」
「テレビで観た名画とは程遠いね・・・・」
「うるせぇよ」
オットーとデェイチの辛辣な言葉にそっぽを向く。
「でも、ここに描かれているウェンディ・・・・楽しそうに笑ってる・・・・・」
ディードの言う通り、スケッチブックの中には厚生施設の芝生の上に胡座をかきながら、楽しそうに笑っているウェンディの姿が描かれている。
「ありがとうっス!良介さん!!アタシこの絵、大切にするっス!!」
感動のあまり良介の手を握ってお礼をいうウェンディ。
「ま、まぁ・・・・気に入ってもらえて何よりだ」
褒められてまんざらでもない様子の良介。
その後、ウェンディがあまりにも自分が描かれた絵を自慢するせいか、他のナンバーズ達も自分の絵が欲しくなり良介に頼んで絵を描いて貰った。
表情が乏しい寡黙トリオの絵は皆、微笑んで描かれており、その絵を見ているモデル達も描かれている絵と同じように微笑みながら自分達が描かれている絵をジッと見ていた。
ノーヴェは「お前がどうしても描きたいって言うなら描かれてやってもいいぞ」と言ったが、良介が「いや、別に無理して描きたくないし・・・・」と言い返したら、仲間ハズレになるのが嫌なのか、「いいから描け!!」と涙目になり、強引に絵を描かせた。
あとがき
はやて達との
O☆HA☆NA☆SHIを済ませた良介君。ただそれだと内容が足りないので、今回は厚生施設にいるナンバーズの皆と絡ませてみました。
もう一話挟んでから二人の結婚式を描きたいと思っています。
では次回にまたお会いしましょう。