十話 アメノヒ
「アリサ!!」
家に帰った良介は早速スバルから聞いたあのナギとかいうキザ野郎についての情報をアリサに集めてもらうことにした。
「良介!あの記事を書いた奴の正体が分かったわ!!」
「ナギ・カミンスキィーって奴か?」
「どうして知ってるの!?」
「さっきそいつと会った」
「どこで!?」
「108部隊の隊舎で・・・・」
そして良介はなぜ、ナギがギンガを中傷する記事を書いたのかその理由をアリサに話した。
話を聞いたアリサは不快感を露わにした。
「サイテーね、自分のモノにならなかったからってこんなことするなんて、男の風上にも置けないクズね」
「ああ、そこでアリサ・・・・」
「分かってる。・・・・ゴミ掃除をするんでしょう?」
「流石アリサ、話が早くて助かる」
不敵な笑を浮かべる二人。
この瞬間、権力者の落日はカウントを始めたのだった。
「やっぱり、クズはクズね・・・・」
「ん?」
「あのナギって奴よ。叩けば叩くほど埃が出てきたわ。本人は巧妙に隠しているつもりなのでしょうけど・・・・」
アリサは様々なサイトやコンピューターにアクセスとハッキングを繰り返したり、顔馴染みの情報屋とコンタクトを取り、ナギに関する情報を集めに集めた。
すると出るわ、出るわ、今までナギがやってきた不正の数々が・・・・。
親が管理局の上層部にいることを盾に、ナギは気に入った女の子を片っ端から犯してはもみ消す、そんな行為を繰り返していた。
しかも、自分の意のままにならないときは、親と自分の権力を盾に本人や親族に対し圧力をかけたり、部下たちを使って嫌がらせをしたり、あることないことを周りに言いふらしたり、ネット上に流したりして、社会的、世間的に潰す。
まさに今のギンガがその状態に陥っている状況だった。
更に今の地位も親の権力で手に入れたものであり、スバルやティアナのように試験を受けて昇進したわけでもなければ、なのはの様に何か大きな事件を解決させたわけでもない。
そして女性問題の他にも公金横領、違法賭博等の金に関する犯罪行為も行なっていた。
「なにが『こんな最低な奴がなぜ局員をやっているのか!?』だ、それはこっちのセリフだっつぅの」
良介はナギの悪事を見ながら不快そうに言う。
「それだけじゃないわ。カエルの子はカエルの子、クズの子はクズの子ね、こいつの親も結構酷いわよ」
「ん?」
アリサはナギの父親であるカミンスキィー中将のデータも良介に見せる。
レイモンド・カミンスキィー。
本局所属の中将。
一人息子のナギを溺愛しており、今までナギが起こしてきた不祥事や事件を揉み消してきた実行犯。
さらに本人も女性問題に未成年者の売春斡旋、公金横領、脱税、テロリストやマフィアなどの犯罪組織へのロストギアの横流し、麻薬・質量兵器の密売などの犯罪に加担していた。
そして
J・S事件の時、多くの局員がガジェットと必死で戦っている中、自分たち親子は安全なシェルターに隠れ、宴会騒ぎをしながら外の様子を楽しんで見ていたという。「本当に・・局員どころか、人間の風上にも置けないクズ野郎共だな?」
「そうね。刑務所にぶち込む前に去勢手術をさせようかしら?」
男に犯され、弄ばれた挙句、無惨に殺された過去を持つアリサからは黒いオーラが出ている。
こうした女を食い物にする男をアリサは特に嫌っている。
「それで、どうやってこのゴミ共を始末する?」
二人のデータ情報が提示された空間パネルを見ながら良介がアリサに尋ねる。
「権力には権力を、ってね。今まで自分たちがしてきたことをそのまま返してやるわ。とりあえずもう少し情報を集めて、報告書を作成、その後、レオーネお爺様とオーリスに協力をしてもらう形にしましょう」
「そうか・・・・頼むぞ、アリサ」
「ええ、任せておいて」
アリサは再び空間パネルを操作し始める。
それから数日後、良介も報告書の作成を手伝っている中、突然スバルから通信が入ってきた。
「宮本さん、大変!!」
「どうした?スバル?そんなに慌てて?」
「ギン姉が・・・・ギン姉が・・・・」
「ギンガがどうした!?」
「ギン姉と連絡が取れなくなっちゃったんだよ!!・・ギン姉が、行方不明になっちゃったんだよ!!」
「なんだって!?」
「昨日の夕方、隊舎に報告書を出した後、行方が分からなくなっちゃって、家にも厚生施設にも戻らないし、端末に連絡をいれても電源を切っているみたいで・・・・どうしよう・・・・ギン姉にもしものことがあったら私・・・・私・・・・」
スバルは泣いており、通話の向こうからは涙声と鼻を啜る音がする。
「落ち着け、スバル!!俺も今から探しに出るから、何かあったら連絡しろ!!こっちも連絡するから!!いいな!?」
「わ、わかった・・・・」
スバルからの通信を切った後、良介はギンガを探しに外へ出た。
夕方頃から降り始めた雨の中、傘を差していては早く動けないため、良介は傘も差さずに夜のクラナガンの町を走りまわった。
一人の大切な少女を探すために・・・・・・。
「くそっ・・・・・・ギンガの奴、どこにいやがる?」
良介は思い当たる場所を片っ端から探しまくった。
クラナガンの繁華街を中心に、
屋台通り
ファミレス
ファーストフード店
ネットカフェ
ゲームセンター
漫画喫茶
本屋
音楽ショップ
カラオケボックス
バッティングセンター
ビジネスホテルをはじめとする宿泊施設
ギンガとスバルが体のメンテナンスのために来る施設
クラナガンにある良介が思いついたギンガが行きそうな所は全部回ったが、どれも空回り。
途中、スバルに連絡を入れたが、スバルの方もまだ見つかっておらず、更生施設にも自宅にも戻っていない。
念のため、自分(良介)の家、なのはやはやての家にも行っていないか確認を取るが、これも空振り。
ペンダントを買ったアクセサリーショップにも行ったが、来ていないし、見かけてもいないと言う。
(くそ・・・・ギンガは一体どこだ?どこにいったんだ?)
「ハァハァハァハァ・・・・」
クラナガンの町中を走り回ったせいで、流石の良介も息が完全にあがっていた。
雨と汗でシャツが肌にベットリと付着し、ズボンと靴下も雨でグッショリ濡れ、靴の中には雨水が入り不快だが、今は着替えに戻る時間さえも惜しい。
「くそっ・・・・」
ビルの壁に手を付き、息を整えていると、
『約束の場所は私たちが再会した場所で・・・・・』
たまたま街頭テレビで放送されていたドラマのセリフが聞こえ、そのセリフが良介の頭の中で妙に響いた。
約束の場所・・・・?
私たちが再会・・・・?
(っ!? もしかしたら・・・・)
良介は「当たってくれ!!」と自分の勘に言い聞かせながらその場所へと走った。
そして・・・・・
「見つけたぜぇ〜ギンガァ〜」
唸るように漸く見つけたギンガに声をかける良介。
「あっ・・・・良介さん・・・・」
ギンガが居た場所。
それは良介とギンガが再会をしたあの公園の良介がよく絵描きをしている場所だった。
雨の降りしきる中、ギンガは傘も差さず、膝を抱え、地面に座りこんでいる。
昨日からずっとここにいたのか、それとも街を徘徊していたのかは分からないが、着ている服は雨と泥で汚れている。
「どうしたんですか?雨の中、傘も差さずにこんなところで・・・・・」
「それはこっちのセリフだ!!このバカが!!」
「あは、あははは・・・・・良介さんにバカって言われるなんて・・・・・・」
ギンガは笑っているが、相当無理をしているのがわかる。
よろよろと力なく立ち上がるギンガ。
その目は虚ろでとても弱々しい。
「・・・・良介さん、私・・もう、疲れちゃって・・・・・あの記事に書かれていること・・・・・事実ですもんね・・・・・」
良介から視線を反らし、独り言のように語り始めるギンガ。
「・・・・・」
「無抵抗の絵描きさんを殴ったのも、私が人間じゃないってことも・・・・・私が・・・・私が・・・・」
「もういい、黙れ・・・・」
「父さんやカルタスさんがどんなに頑張って庇ってくれても他の人は奇異の視線でみてきたり、まるで犯罪者を見るような目で私のことを見てくるし・・・・」
「黙れ!!」
「これ以上、私が居たら、父さんやスバル・・ナンバーズの皆に迷惑が掛かるし・・・・・こんな私なんて・・・・私なんて・・・・」
(頼む、もうこれ以上・・・・何も言わないでくれ!!)
良介は自虐し続けるギンガにこれ以上何も言ってほしくはなかったが、これ以上言えばギンガの精神が壊れてしまうのではないかと思ったからである。
しかし、良介の願いも空しくギンガは止めの一言の様に力なく・・・・弱々しく、良介に尋ねるかのように言った。
「・・・・もう、いないほうがいいです・・よね?」
「もういい!黙れって、言ってんだろ!!」
良介は声をあげ、思わずギンガを抱き締める。
「だって・・私がいたら皆に・・・・迷惑を・・・・・だから・・だから・・私が・・私がいなくなれば・・・・・それに・・・・私が居なくなっても・・・・誰も・・・・・」
ギンガは良介に抱かれ、すすり泣きながら、か細く言う。
「ギンガ・・・・それ以上言うなら強制的に黙らせるぞ・・・・」
声を低くし、脅してでもギンガを黙らせようとする良介。それでもギンガは口を閉じることはなかった。
「でも・・・・でも・・・・」
「やかましい!!・・んっ・・・・・」
良介は自虐し続けるギンガを黙らせるため、ギンガの唇を自分の唇で塞いだ。そして自らに問う。
俺が今、抱きしめている目の前の女は本当にあのギンガなのか?
これがあのギンガなのか?
俺を追いかけ回し、いつも偉そうに説教をしてくるあのギンガなのか?
仕事と気と食い気しかないあのギンガなのか?
今抱きしめている女はこんなにも脆く・・・・。
こんなにも優しい女じゃねぇか・・・・・・。
「ぷはっ・・ギンガ、やっぱりお前はバカだ!大バカだ!!」
「良介さん・・・・・」
良介はギンガの唇から自分の唇を離すと、ギンガが何かを言う前に先制して、真剣な表情で声をあげてギンガに問い質す。
「ギンガ!!お前・・・・お前がいなくなって誰も悲しまないと思っているのか!?俺やアリサにミヤ、スバルやゲンヤのとっつぁん、なのは達が悲しまないと思っているのか!?お前が行方をくらませて俺やスバルがどれだけ心配したと思っている!?」
「・・・・・」
「そんなことも分からねぇお前はバカだ!!大バカ野郎だ!!」
ギンガを抱きしめる腕に自然と力が入る。
もう二度とギンガを離してしまわないかのように・・・・
もう二度とギンガが一人で何処かに行ってしまわないかのように・・・・
「・・・・そう・・ですね・・・・私は良介さんの言うとおり・・バカだったのかもしれませんね・・・・・」
ギンガもようやく自分がバカな行動をしていたのだと自覚したらしく、涙を流しながらも本来の笑みを浮かべ始めた。
「ギンガ・・・・こんな状況じゃあ説得力がないかもしれないが、あの時の返事を言わせてくれ・・・・・」
「えっ?」
『あの時の返事』その言葉にギンガの脳裏に病室での出来事がフラッシュバックした。
もしかしたら自分は振られるかもしれない。
もし、そうなったらどうする?
もし、振られたらどうする?
世間からは犯罪者のような視線に晒され、その上、好意を寄せている良介から振られたら・・・・捨てられたら・・・・・
・・・・もう自分は生きてはいけないかもしれない・・・・・・
そんなネガティブ思考しか思い浮かばないギンガであったが、そんなギンガの事情を知るはずもなく、良介は語り続ける。
「俺は・・・・宮本良介は・・・・お前を・・・・ギンガ・ナカジマを愛している・・・・俺はお前が好きだ・・・・ギンガ・・・・・」
良介はギンガの耳元で優しく囁きギンガに告白する。
「えっ!?」
突然の良介の告白にギンガは戸惑う。
もしかしたら、自分は良介から同情されてこんなことを言われているかもしれないと、そんな思いがよぎった。
だが、次の良介の言葉でそんな思いは消え失せた。
良介はギンガと面と面に向かって真剣な表情で語る。
「勘違いするなよ。決してお前に同情して言っているわけじゃねぇ。・・お前なら俺の性格をよく知っている筈だ。俺が同情でこんなことを言う奴じゃないと・・・・・」
「・・はい・・・・・」
そうだ、彼の性格は彼を追いかけている自分が一番よく理解している。その自信が良介の告白を同情ではなく真実へと導く。
「ギンガ、もう一度言うぞ!!俺はお前を愛してる!!ギンガ、俺はお前のことが好きだぁぁぁぁ!!」
良介は再びギンガを抱きしめながらギンガに告白する。
雨の降りしきる夜の公園に良介の叫び声が響く。
「はい・・・・ありがとうございます。・・良介さん・・・・こんな私を愛してくれて・・・・」
ギンガも良介の背中に手を回し、良介を抱きしめる。
「『こんな』なんて言うな・・・・お前はミッド・・・・いや、次元世界で最高の女だ・・・・」
「良介さん・・・・」
「ギンガ・・・・」
二人は再び雨の中でキスをした。
それは互いの気持ちを確かめ合うかのようだった・・・・・。
その時のキスの味は何とも湿っぽくて・・・・涙の味がした。
あとがき
遂に良介君がギンガに告白しました。
ここまで色々あった二人ですが、ようやく恋人同士になれました。
告白のシュチュエーションが一昔のアニメやドラマっぽいですけど、気にしないでください。
そして、次回はギンガの体調の異変の原因が判明します。
では、次回またお会いしましょう。