〜動きだした宿命、狂いだした歯車〜













Side瑠斗










さてさて、夏も終わりを迎えてさらにしばらくの時間が経って、あたりでは紅葉狩りのシーズンとなり行楽地では家族連れが目立ってきた。
そして、それは我が家でも例外ではなく……


「シャマル、これはどこの鞄に入れればいいんだ?」
「それは瑠斗君の方に入れてくださいね、あっ、お弁当は拳太君の方にお願いします。」
「転ぶんじゃねえぞ、そしたらギガントだからな!」


我が家も今日は幼馴染を交えて紅葉狩りの時間である。
家族で話し合った結果、河野と結貴ちゃんとシグナム達を合わせることに問題はなく、このまま合わせないでいるのも友達としてどうかと思うとのことで、本日親睦会と言う名目で紅葉狩りをすることになった。


「俺の防御力にそれは即死ルートですよ〜」
「その方面も今後の課題に加えていこうと思ってる。」


はあ、と盛大にため息を吐いて拳太は鞄の中に弁当を詰め込んで行く。最近になってさらに訓練の密度が上がってきて、俺達は休みに入ればその日一日中訓練に割り当てている、中でも最近は実践が多くなってる。
まあ、あの変な仮面の男が襲撃してきたのが一番の要因だと思うんだよな。


「アリサちゃん達も連れて行ければ良かったのに…」
「塾があるんじゃしょうがないだろ、はやても用があるって言ってたし。」
「小さいのに忙しいんだな……」


塾とか家の手伝いとか私用とかで、伶哉達の友達は誘うことが出来なかった。
何でもその子たちは聖祥の小学校に入ってるらしい。
噂によれば、かなり頭の良い小学校で育ちのいい子供が集まってるとかなんとか……まさに俺達平民とは天と地との差がある。


「まあまあ、お友達となら遊ぶ時間はいっぱいありますし、今日は皆で楽しみましょう、ね?」
「まあ、そうだな。」
「瑠斗―!!バナナはおやつに入る〜?」
「バナナはデザートで持って行った方がおやつ代の節約になるぞ〜!!」
「遠足かなんかかこれ……」


バタバタと上へ下へと駆けていく家族、それもそうだ、俺達はまだ一回も遠くに出掛けたことがない。
夏は忙しかったし、春先は論外だ、時期的にも今がベストのタイミングだろう。


「全員!用意はいいかい?」
『もっちろんさ〜!』









こうして、やけに大きい荷物を抱えながら俺達家族は駅へと向かう。
ザフィーラもミルキーも今は人型で歩いている、自慢になるけど家の女性陣は都会に出ればスカウトされかねない空気を放っていた。
中には声をかけようとする勇気ある若者(俺よりは年上だけど)、がいたがシグナムの厳しい視線にその場に硬直した。


「家族連れ……には流石に見えないか?」
「まあ年の差は何十も行ってなし………見た目だけだけど……」


実際何歳だこいつら……数百年以上前なのは知ってるけど詳しいところも知りたいものだ。
そう言えば……ミルキーは五歳以下……だよな。
人を見かけで判断するのは早計だと言うことを身近で確認。


「全員でお出掛けなんて初めてでドキドキします。」
「そうですね〜私は結構フラフラさせてもらってるんですけど。」
「私たちはこの町の地理以外は詳しくないからな、こういう場も必要だろう。」


そういうザフィーラも今日はちゃっかりとキメ込んでいる。ちなみに我が家のお出かけの時のファッションは全てシャマルとミルキーが選んでいる。
前に拳太が脱がされそうになってたのを思い出し、アイツは案外役得なポジションにいるんじゃないのかとちょっとだけ真面目に思ったりする。
駅前で二人が待っていた。
結貴ちゃんは一度俺達を見かけたことがあるらしいが、やっぱりこの光景は不思議なようで驚いていた、河野は少し落ち着け。


「よ、とりあえずお前らとシグナム達は初対面だよな、挨拶開始だ。」
「うちは山田結貴です、大分前から瑠斗の友達をやってるよ。」
「お、おおお俺は河野和樹って言います!いやこんな綺麗な方達だったとは!!あなた達みたいな美人とご一緒できるなんて……本当に瑠斗は羨ましい……なんで世界ってこんな不条理なんだ畜生―――!!」
「おやおや、初めまして河野君、有馬ミル………じゃなくて有馬ましろと申します、これからよろしくお願いしますね〜?」


流石にミルキーは偽名を通すらしく、まさに今考えた感溢れる名前を自分に付けた、おい河野、お前ん家のお母さんだってかなり美人だろうが。
でもまあ、もうシグナム達が有りならこのくらい通るだろう。
実際河野と結貴ちゃんはそれぞれ挨拶を交わしていた、前々から思ってたけどお前ら結構許容範囲大きいのな……
あと河野、あんまりシグナムの胸ばっかり見てるとバッサリいっちゃうから気をつけてな。


「ところで、シグナムさんたちは何処の出身なんですか?
「ドイツら辺、母国の言語はそこに近いところらしいよ。」


多分、闇の書とかデバイスはそこらの言語で話してた気がする。
そもそもあっちの世界を知らないんだよな俺ら、ミルキーは何回か行ったことがあるって言ってたけど。
魔法って言うからには怪しい空気バリバリなのかと思っていたが、十年以上前の写真を見せてもらいその考えは所詮空想何だと実感した。
ビルは高いわ、何だかわからない機械はあるわ、デバイスはアレだわで実はこっちよりも数世紀以上進んだ技術をお持ちの先進世界ともいえる場所だった。
だがシグナム達の生まれの元は、そこではない世界らしい。


「ふぅん……遠いところからわざわざ、日本はどうですか?僕的にはお気に入りなんですけど。」
「いいところだ、後敬語は使わないでもらえないか?私たちも有馬の家族だからな、同等の立場で話したい。」
「うん、僕もそのつもりだった、少し話そうよ?カズやウチについても話したいからさ。」
「ああ、でも私たちの話でいいのか?なんなら家での瑠斗の話でも構わないが……」


こっちはこっちで盛り上がってる、結貴ちゃんはどうもシグナム達に興味を持ったようで、積極的に話かけている。
僕とウチを使い分けている結貴ちゃんは初めて見る人は話し方に違和感を覚えるかも知れないがシグナム達にそれは杞憂だったようだ、柔らかい物腰でお互いに話し込んでいる。


「ねえねえシャマルさんは料理出来るんですか?」
「あ……ああと、ええ………出来ますよ!」
「はいはいそこ、平気で嘘吐かないこと、一昨日新品のテフロン加工のフライパン(3200円税抜き)を真っ黒にしたことを忘れてるのは家の家族に一人もいないぞ。」
「拳太君!?そこは私の顔を立てようと思わないんですか!?」
「ふっ……被害者は増えないに越したことはないからな。」


………こっちはこっちで盛り上がってる、こうなると俺は話相手がいなくて暇だな……
前を歩いてるチビッ子どもは買っておいたアイスとお菓子に夢中になってるし、ザフィーラとミルキーも二人で今後の犬生活(ザフィーラは否定)について真面目に論議してる。
駅に入ると休日で行楽日和とあってか割と混雑している、これは電車の中は満員に違いない。
全員で並ぶよりも一人でまとめて買った方が早いので俺はとりあえず目的地までの切符を買うために並んだ。
そもそもあいつ等は切符を買えないしな………ところで移動費で七千はボッタじゃないかい?


「そもそも俺がこうしなきゃ家の奴等は切符を買えないのはどうしたものか……」


シグナム達は論外、伶哉と姫菜は一度小学校の授業で教えてもらったみたいだけど切符を買うことが出来ない。
拳太はそもそも遠出をする気がないらしく、個人で電車に乗らない、その上、上りと下りの違いも分からないので一人で行ったらどこか遠くへ行ってしまいそうだ。
人数分の切手を買って戻ると、結貴ちゃんとシグナムが、


「今度から皆に買わせてみたらいいんじゃない?」
「ふむ、一人で出かけることができるようになるのは確かに魅力的だ。」
「シグナム、お前は温泉巡りがしたいんだろ?」
「ああ、この国の湯は中々のものだからな、いくつか回りたい場所もある。」


シグナムの見るテレビは二つ、毎週火曜の7時にやる(その際のリモコン合戦は凄惨たる有様)旅行番組や古い時代劇、白黒のやつがお気に入りらしい。
その際に影響を受けたのか、それとも元々風呂好きなのかシグナムは家で一番の長風呂をする。


「いっそのこと皆で温泉旅行にでも出かけるか?冬休みにでも、雪景色が綺麗なところとか調べてさ。」
「ああ、そうだな……私としては冬だけではなくそれからも行ってみたいものが。」
「そのときはウチらもついて行ってもいい?」
「私は構わない、仲間が増えるのは喜ばしい。」


すっかり打ち解けた様子でシグナム達は話し合っている。
これならもっと早く合わせても良かったな、俺達が考えているほど世間の目は厳しく出来てないみたいだ。
河野も結貴ちゃんも家の近所の人たちも、もちろん俺達もシグナムを人間として見ている、知らないだけかもしれない、知ったらどうなるか分からないけど、今こうして皆で暮らしている。
それが、今の当たり前だ。


「なあ、シグナム…今度お前らが行きたい場所を紙に書いておいてくれ。」
「……?ああ、分かった。」
「可能な限り、でいいならだけど。」


………右腕が疼いた。
どんなに庇おうとしてもそれが表情に出そうになる、後ろを向いてさっさと動き出した。
幸いシグナムは気づかなかったようだ、俺は落ち着くのを待ってから皆に切符を配った。
恐らく闇の書の影響……俺は右の手先から麻痺が始まって今では肘までそれが侵食してきている、それは突発的に起きる、飯を作ってるとき、魔法の訓練をしてるときお構いなく動かなくなる。
恐らくこれが一番最初にシャマルが言ってたことだ、






―――――――闇の書の異常、それも生命に関わるもの。
腕はまだ良い、魔力を通していつも通りに動かすことは可能だし、まだ左腕がある。
だが、臓器はそうもいかないはずだろう………
この侵食具合を見るに、俺はもう三年も保たないはずだ、早くて2年以内に心臓まで達して死ぬ。


「切符はそこの改札に通してな、楽しいからって向こう側からもう一回入れるなよ!!」
「そんなヘマしねぇよ、アタシらだってテレビっ子だぜ!!」
「そうですよ〜?一般の知識ならそれなりにあるんですから。」


これは恐らく、闇の書を完成すればその解決法、または解決することができるだろうが、俺が生きてる間は……俺達が生きてる間はそれはないことだ。
だから黙っておく、ここで行ったところであいつ等を苦しませるだけだ。
それは、あいつも……拳太も分かってる。


「腕、やっぱり痺れるか」
「まあな、お前は左腕大丈夫か?」
「まあな、いつでも動くように用心してるから。」


それでシグナムの相手をしてるんだから恐れ入る、底が知れないよコイツは……
今のところは俺と拳太だけだが、レイやヒナもこんな症状が出てくるのは時間の問題かもしれないし、もしかしたら最後の一人は何事もなく生きていくのかもしれない。
………その時のことは考えないようにしよう……
今は何事もなく、全員が平和で楽しい時間が過ごせるように願いながら。










「おお〜!!見ろよヒナ!!葉っぱが真っ赤だぜ!」
「ヴィータの魔法陣みたいだね、綺麗。」
「さて、こうしててもしょうがないですし、場所取りをしましょうか?ザフィーラ様、ちょっと空いてる場所にこのビニールシートを敷いてきませんか〜?」
「ああ、了解した、そういうことだ、先に行くぞ瑠斗。」
「任せた、いい場所頼むぞ。」


ザフィーラとミルキーは広い敷地いっぱいの赤や黄色を楽しみながら場所を探しに行って見えなくなった。
それに続いていくように姫菜、ヴィータ、シャマル、伶哉もいなくなっていく。
拳太はシグナムと辺りを回ってくると言って音も立てずに消えていく、結局最後に残ったのは俺と河野、結貴ちゃんだけになった。
今思い返しても、こう最後まで付き合ってるのはこの二人だけだと思う。
幼稚園から結貴ちゃんとは友達だった、小学生では河野が引っ越してきて知り合った、他にもダチと言える奴はいるけどこの二人はやっぱり特別だ。


「いや〜シグナムさんもシャマルさんもましろさんも美人だー!!」
「カズはもうちょいその心根を直した方がいいよ。」
「そうだな、お前が俺のダチじゃなければ今頃アスファルトにファーストキスを奪われてる頃だ。」
「嫌だね!!男である限り俺は俺のままで生きる!」


そこがお前の魅力だよ……
思わず前言撤回しそうになったのは心に留めておこう。


「本当に羨ましいわ、あんな人たちと一つ屋根の下………もう嬉し恥ずかしのイベントが……」
「痛い苦しいイベントなら毎日一回は起きてたぞ?」


俺はともかく拳太は凄い、シグナム→ヴィータ→シグナム……×∞
見てるこっちが縮こまりそうになるわ。
ザフィーラ曰く、「防御力の低さを補う為にシグナム達なりの訓練なのだろう……」と言っていたが、その前に病院のベットに住み着くようになっては意味のない気がするぞ?


「でも、ようやく僕たちもいつも通りになってきたね?最近はめっきりだったし……今日はその分遊ぼうよ?」
「オールナイトだな!?今日の夜は瑠斗ん家に泊まろうぜ!!」
「許可する、だけどシグナム達に聞いてからな。」













Side拳太









やっぱり日本は良い所だ……
こういう所に来ると嫌でもそう感じる、ここにお茶の一つでもあったらまた格別なんだろうけど生憎近くに自販機は無い。
………ちなみに人気もない、ここはどこでせう?


「シグナ〜ム……あんまり奥行くのは駄目だって、危険立入禁止!!の看板見えなかったぁ?」
「私は危険じゃないから問題ない、それに、別について来なくてもいいんだぞ?」
「今戻ったら迷子確実だって、俺土地勘まったくないんだから。」
「じゃあ黙ってついて来い。」


自分は平気って……子供かお前は。
そもそもスカートでよくこうも急な坂を登れるものだ、道なんてありゃしない。
その上スカートのせいで上の見れない俺はかなり危険な状況である、もし足を滑らせたら魔法無しではただでは済まない。


「シグナム〜?位置交換しない?俺からだと……その…さ…ほら。」
「私は気にしないぞ?」
「無理無理無理無理!!あんさんそら女としてどうですか!?」
「私たちは家族じゃないか、女も男もあるものか。」


いや〜……あるよね?絶対にその認識間違えてるからね?
恥じらいは日本の女が持つべき矜持だからね!?……日本人じゃないけど…
家族でも下着を見せるなんて一部の人たちしかいないから!思春期の男がいるなら尚更だから!!
だがまあ、所詮俺の心の叫びの声は届かず……


「はぁ……先に行くぞ、魔法で見えないようにはしておく。」
「助かります。」


便利だな……魔法、上を見ても大丈夫だわ。
視覚妨害や幻影は俺の十八番だけど、元々シグナム達に教わったものだ、使えて当然だろう。





坂を登りきると、シグナムはそこにお茶の入った水筒を置いて、俺の背負ってるリュックからビニールシートを取り出してその場に敷いた。
その場に完成した簡単ピクニックセットを前に、しばらくの考え事の後俺は座り込んだシグナムの隣に距離を置いて座った。


「もう少し詰めたらどうだ?結構小さいだろう。」
「いや、俺はここでいいや、肩ぶつかりそうだし…」
「……結局、この六ヵ月お前から私やシャマル、人型のミルキーに触れることはなかったな。」
「いや…どうも意識しちゃって……」


シグナムが怪訝な顔をする。
少し怒ったような声色で


「姫菜は大丈夫じゃないか、同じ家族で女だろう?」
「うんまあ、そりゃ生まれた頃から一緒だったし、女としては見てないから。」
「それは姫菜に失礼だ、姫菜も後10年もすればいい女に化けると予想するぞ?」
「そうは言っても……なんだろうなぁ、なんか違うんだよなぁ……」


我ながらハッキリしない。
苦手とは言っても嫌いってわけじゃあない、俺も男だしな。
ただ、そうじゃあ無いんだよな、もっとこう……口には表せないようなにか?
それが分かれば苦労しないが、少しだけ昔、事のキッカケになった時の事は覚えてるけど今話すことじゃない。


「話が逸れたが…今の話からいけば、家族なら大丈夫だと私は思うのだが……」
「そうだな〜、ただの思春期なのかもな、相手を妙に意識しちゃうって言うの?」
「だが瑠斗に聞けばお前は小学生からこんな感じだったと言っていたぞ?だとすれば何か他に理由があるだろう?」


シグナムは最近こんな話題が多い。
それはシグナム曰く、「いつまでたっても本気を見せないから対策を練っている。」とのことだが、何回も言ってたように、こっちは全力でやっている。
だけどシグナムがそう言うってことは俺は目に見えて手を抜いてるんだろう、数ヵ月も同じ屋根の下で過ごしていれば、戦闘に関してシグナムは嘘を吐かないと知ることができる。


「じゃあ真面目に話す、これが大きい理由になるかもしれない。」
「……ああ…」


シグナムが目を閉じて、これから俺が言わんとすることを深く考えるように動きを止めた。
俺は一回溜め息を吐いて、


「女ってさ……すぐ怪我しそうじゃん?」
「………は?」
「何だか脆いってイメージがあるんだよ、骨とかすぐ折れちゃいそうだし、傷なんてつけたらもう切腹ものみたいな?」
「…………」


シグナムが無言のまま立ち上がって、俺が背負ってきたリュックを漁りはじめる。
ガサゴソという音を聞きながら、ふと不安になってシグナムに声を掛けてみた。


「どうしたんだシグナム?そこには弁当と水筒と、あとお前が隠しいれた木刀しか入ってないぞ?」
「……そら、受け取れ。」


今言った木刀が投げられる、とりあえずキャッチ。
シグナムはポケットに手を突っ込んだまま立ち上がる、そこには若干殺気が……


「………女性を大切にするという心意気は確かにお前らしい……だが、私は気に入らない。」
「え〜……と…?もしかして、ここで訓練ですか?」
「私たちは守るものだ、それをどうして否定するような言葉を言ってくれるんだ?」


ゆらり……ゆらり…ゆらり
シグナムは俯いたまま体をゆらゆらさせている、空気が読める俺はここから訪れるであろう展開をどう避けるべきか考えた。


「あのぉ?怒っていらっしゃいますかぁべしっ!?」


言葉の途中に思いっきり振りかぶったレヴァンティンが薙ぎ払われて俺の顔面に直撃する。
瞬間的に受け身を取ったからどこも負傷してない、いつもだったそこで待ってくれるシグナムは鬼のように乱打してくる。


「今ここでお前の認識が変わるまで叩きのめしてくれる!!」
「ちょ……木刀でレヴァンティンは無……死ぬわ!!」












開始から三十分、周りの木に被害を多大に出しながら逃げていた俺だが、怒ったシグナムに敵うわけも、逃げ切れるわけもなく、いつも通り連結刃に絡められて目の前まで引きずられた。


「さて、覚悟はいいな?」


拳を鳴らしながらシグナムが笑顔でお出迎え。
シグナムは子供のような、俗に言う天使の……この場合女神の笑み+青筋を浮かべて、その顔を俺の顔ギリギリまで近づけた。
それでも動かない俺にシグナムは関心したようで、


「ほう、この距離でも逃げようとしないか、大丈夫になったのか?」
「ふんっ!ほら殴ってみろやい!!」


今までの……さっきまでの俺だったらそれこそ首だけでも逃げようと思ったところだが、今の俺はどうも色々諦めちゃってるようで、もう何でもコイヤ!!状態です。
目の前のシグナムとは息のかかる距離、傍から……今丁度俺達を見つけたミルキーからすればキスの瞬間に見えなくもない……あれ?ミルキー?


「お……お二人がそんな関係だなんて……」


とか言いつつ、手に持ったデジタルカメラはしっかりと作動してる辺りミルキーらしい。
とか思っていると、これから訪れるパターンの解析が全自動で行われていく。


1.ミルキー、カメラを皆に見せる
2.俺とシグナムのBADEND
…………いやいや、認めないよ!?何冷静に考えちゃってるの俺!?
同じようにシグナムも考えたのか慌てて距離を取って弁解を始める。


「こ……これは誤解だ!!ただ私は拳太の弱点の克服をしようとしただけで……」
「いえいえ大丈夫ですよ、私……薄々気づいてたんです……シグナム様は、年下趣味なんじゃないのかと……」
「えっ!?俺初めて聞いたぞそんなこと!!」
「そんなわけあるか!!だからミルキー!!話を……」


ミルキーはいつの間に近づいたのか、シグナムの肩をポンっと叩いた。
そして慈愛に満ちた優しい笑顔で、


「私は……いつでも貴女の味方ですよ?」
「しないでいいっ!!」
「冗談ですよ〜、知ってますって、最初から見てましたから。」
「また性質の悪い冗談を……何の用だ?」
「はいは〜い、いやですね〜席を取ったから呼びに来たんじゃないですか?」
「そうか・・・・・」


ジャララララとレヴァンティンが剣の姿に戻っていく、その際に俺に傷一つつけないのは流石と言う所だ。
咳を一つしてシグナムが俺に手を伸ばしてくる、それを俺は掴んで立ち上がる。


「お?」
「む?」
「あら?」


三者ともこの行動のどこかに疑問を持った。ミルキーは首を傾げ、シグナムは考え込む、俺はシグナムの手を掴んだ手を見つつ……その違和感の正体に気づいて一つ手を打った。


「何だ、案外アッサリと克服できたな。」
「本当か?少し失礼するぞ。」


シグナムはそう言って俺の手を掴んでくる、だがちょっと引きたくなる気持ちがあるだけで、どうしても駄目というわけじゃあない。
………これは……克服出来たってことだよな?


「やったじゃないですか拳太君!!これであっちの人疑惑も晴れますよ〜!!」


ミルキーは何の表現か、俺に抱きつこうとする。あとその疑惑はお前しか持ってないから。
………触れる瞬間、ふと脆く壊れていく女のイメージが頭をよぎった。


「っ!?やっぱ無理!!」


一瞬で後退して息を整える、鼓動は早くなってるし冷汗が止まらない。
ミルキーは不服そうにこっちを見て来たけど、俺はそれどころじゃない。
今までの中でもハッキリとしたイメージに、今まで一緒にいたミルキーにすら近づくことを躊躇う。
もしかして……逆に酷くなったのか?これ……?


「……え〜…と?拳太君?もしかして〜?」
「ごめん、無理だった。」
「では私は何故平気なんだ?」


そう言ってシグナムは俺の肩を叩く。
うん、確かに平気だ。変なイメージも湧かなければ嫌な汗も出てこない、若干嫌だなぁと思うけど我慢は出来る。
え〜このまま行くと俺って不味いんじゃないか?
それはないと思いたいが、苦手から嫌いにランクアップするようなことがあるとすると俺は本当にあっちの人の烙印を押されてしまう、それだけは避けたい。


「もしかしたら、シグナム様に慣れてしまった分他の女性に敏感になってしまったのでは?元々の耐性のパラメーターを振り分けたみたいに。」
「かもな……どうしよう……」


結局、その後はなんの解決もしないまま俺達はミルキーの取った場所へと向かった。














Side無し







本当に、この家族の元に召喚されて良かったと思う。
シャマルはベンチに座って目の前で遊ぶ伶哉と姫菜、ヴィータを眺めながら今までの生活を振り返った。
ただ当たり前のように道具として扱われてきた日々、だけどそれでも何も言わずに耐えてきた。
人を殺めたことがある、仲間を見殺しにしたことだってある。
全ては主の命令だったから、逆らえない運命だったから。


(だけど今は違うの……)


こうして自由に、平和に一人の人として生きている、それだけで幸せだ他に何も望むものはない。
シャマルはポケットからクラールヴィントを取り出した、召喚されてからまだ一度も他人の血で汚れていなかった自分のデバイスは、前からそうだったように思ってしまうほどだった。
そう……だったのだ。


(私は……私たちは失いたくない。)


今闇の書の蒐集は約100ページ、だがそれは瑠斗や拳太たちは知らないことだ。
兆候は前から出ていた、二人が腕の不調を隠していることも大分前から知っていた、だがシャマル達はそれを今の今までになるまで“ただの不調”で片づけていた……否、片付けようとしていた。
信じたくなかった、自分たちのせいで大事な家族が蝕まれているなんて考えたくもなかった、だが状況はそれを許してくれはしない、時間がそれを嘲笑うかのように刻一刻と二人の体を侵して言った。


(私たちは、家族を守るの……何をしてでも……)


時間は夏の終わり、確か今年で最も暑い日の夜に遡る―――








暑さは関係なく、拳太とシグナムはいつものように庭で訓練をしていた。
シグナムからすれば未だに拳太は本気を出してるようには見えないのだろう、いつもよりも厳しくあたっていた。
そんな光景を見てシャマルは微笑む、いつも平和だと。


「剣筋が甘い!暑くて負けましたなんて理由にはならないぞ!!」
「知ってるよ!こっちも本気でやってるって。!!」


一閃、と同時に二つの金属音がするのは拳太のスピードがあってこその技術だが、シグナムも負けてはおらず、受けるのではなく受け流し体勢を崩し、さらに鞘で薙いで拳太を塀まで吹き飛ばした。


「でも中々様になってきてますよね、どうですヴィータちゃん?」
「褒めたかねぇけど認めてやるよ、毎日毎日よくシグナムに付きあえるな。」
「そうね、他の皆も毎日の訓練は欠かさないし、大きくなったら管理局で働いてもいいんじゃないかしら。」


三人は二人の戦いを見ながらそう言った、確かに四人は元々こっち方面に才能があったのかメキメキと実力をつけていった、中でも姫菜は自分たちを凌駕する力を持っている。
確かに四人の将来を考えると管理局に勤めた方がいいのかもしれないが、自分たちがいたのではそれは無理な話だろう、良くて保護観察、悪くて牢獄だ。


「そろそろ夕食か……拳太、最後にするぞ。」
「ぜぇ…ぜぇ……やっとか。」


夕食の気配を感じたシグナムはそう告げるとレヴァンティンを正面に構える、それと同じように拳太も。
しばらく動かない二人は、ヴィータのまばたきの次の瞬間に動き始めていた。
一瞬で間合いを詰めた二人は攻撃と防御あるいは回避の応酬を繰り返す、完全にこちらの世界とは違った感覚の動きに、ヴィータは思わず目を見張る。
時間にしてこっちでは十数秒のはずだが、さっきまで息を切らしていなかったシグナムは肩で息をし始め、拳太は逆に集中していて今まで飄々としていたのが違う人間の様に落ち着いている。


「あわわ〜!?いつの間にあんなことが出来るようになったんですかね?」
「シグナム、本気出さなきゃいいけど。」
「いや、もう遅ぇよ、見ろよカートリッジロードしてやがる。」


今までにここまで拳太がシグナムに食らいつくことはなかった、いつもは訓練途中にいいのを一撃もらって動かなくなるからだ。
今はなにがあったのか、拳太は一切話さず構えたまま微動だにしないそこまで集中するようなことがあったのだろうか。
そうヴィータが思案していると、もう一度二人は先ほどの続きを始めた。
シグナムが声を上げる、


「何故いつもそうしない!!」
「……」
「ふっ、本気と言うわけか!!」


嬉しそうにシグナムが動く、だが表情とは裏腹に攻撃には容赦がない、完全に急所を突いた一撃で倒すだけを考えている。
拳太は相変わらず、無表情のままその攻撃を全て紙一重でかわし、そのままデバイス“黒曜”でカウンターを入れる。
シグナムはそれを屈んで避けると足払いをして拳太の体勢を崩し上から叩きつけるように拳を振りかざした。


「はぁっ!!」


さらに追い打ちをかけるように紫電一閃を振りおろし、動かない拳太に止めを、流石にミルキーも止めに入る一撃を加えた。
……庭に突風が吹いた……
シグナムがそう感じた頃には、拳太の姿は消えていて後ろから魔力反応が近づいてきていた。


「ちぃ!!」


半ば自棄だった、受け流すのも容易で避けるのも造作もない、だがそれでもシグナムは振り切った。
絶対に当たる筈のないと踏んだ攻撃は、しかしデバイスを落とした拳太に直撃していた。
弾き飛ばされ滑るように転がっていった拳太は、立ち上がる頃にはいつもの拳太だった、笑いながら黒曜を拾う。


「まいったまいった、汗で滑っちまった。」
「……そうか、今日はここまでだ。」


シャマルが近づいてきて拳太に治癒をかける、今は平然としているが、あの一撃は何所か骨が折れていても不思議ではない。
幸い左腕の打撲で済んだようだ、骨に異常は見当たらない。
そう判断して治癒を対象の傷に合わせて魔法を微調整をしていく。ふと、その左腕に違和感を感じた。


(魔力を通した痕跡が残ってる……)


あれだけの戦闘を行ったのだそれは体に魔力を通して強化していてもおかしくない。
だが、断続的なその痕跡にシャマルは違和感を覚えた、何度も何度もそれも大分前から同じように魔力を通している。
直に触れて正確に調べてみたいが、拳太はそれを許してくれない。


「ねえ拳太君、最近どこか調子悪いところありますか?このついでに治療しちゃおうと思うんですけど。」
「いや特に、シグナムに鍛えられてからは健康そのもの、あるとすれば疲れくらいだ。」
「そうですか……左腕、大丈夫ですか?」
「ああ、楽になったありがとう。」


左腕を回す拳太を見る限り異常は見当たらない腕に魔力を通している形跡もなく正常に動いているのがわかった。
心配のし過ぎなのだろうか、シャマルは若干の不安を覚えながらキッチンから聞こえる瑠斗の声に慌ててキッチンへと向かった。







(おかしい……あそこまで集中するとは……)


夕食、家族で食卓を囲みながらシグナムは一人考え込んでいた。
おかしいというのは拳太のことだ、今日は確かに暑いので軽く終えるつもりだった。それは拳太もわかっているし、そうでなくともあの男なら軽く流すつもりでやっている。
それが今回はあんな結果になった、それだけが釈然としなかった。
確かに最初の応酬では手を抜いていた、あそこで倒そうと思えば倒すことができた。だが少しばかり楽しくなってしまって長くやろうと思ったのは事実だ。
だが拳太はそれを極限まで集中して、最後には自分を倒そうとした。そこだけが納得できなかった。
拳太はなにがあっても自分の体に一撃入れないようにしていた。当たる攻撃は寸止めもしくはレヴァンティンで受けきれるようにしていた。
だがそれは今回は無かった。確実に最後の攻撃の瞬間、拳太は切り捨てるつもりで自分に攻撃してきていたはずだ。


「拳太、あの時の感覚は覚えているか?」
「いや、もう無我夢中でやったからなにも覚えてない、しいて言うなら最後に集中が切れたくらい。」
「そうか、いつもあれくらいなら私も気を引き締め直さなくてはいけないと思ったのだがな……」


嘘を言っている様子は無い。左利きの拳太は先ほど痛めた腕を庇うように右手で箸を持っている。
違和感が拭いきれなかった。確かに本気で薙いだが殺傷威力は骨を折らないように下げてあった、なのに拳太は左腕を上げようともしない。
シグナムがそう考えていると、リビングに箸が落ちる音が響いた。


「おお…スマンな、落とした。」


瑠斗は右足側に落とした箸を見つけると、体を捻るように左手でそれを掴んでキッチンでそれを洗って帰ってくる。
違和感が、形を持って確証へと変わった。


[みんな、後で話がある。]
[どうしました〜?瑠斗君たちへの回線切って私たちだけとは。]
[シグナム……あなたも気づいたの?]


シャマルがそう言うとシグナムは頷いた、シャマルの表情が変わる。
ヴォルケンリッターとミルキーが理解するには十分すぎる判断材料だった。美味しそうにサイコロステーキを頬張っていたヴィータも箸の動きを止める。


[今日の深夜、全員が寝静まったころにリビングへ、大事な話がある。]
[ああ、承知した。]
[ついに……来てしまいましたか……]


ミルキーの一言で楽しかった食卓の空気がガラリと変わった。
だが実際変わったのは自分たちだけで瑠斗達は普段通り談笑している。気付かれなかったのは幸いだった。
美味しかったはずの夕食が、今だけはそう感じていられなかった。









指定した時間通り、五人はリビングに集まった。今日の疲れもあってか拳太は早くに寝たし、瑠斗達にも可哀相だが睡眠薬を飲んでもらった。
不審に思われないようにはそうする他に方法が見つからなかったし、シャマルが検査するには意識が途中で目覚めないようにしなければならない。
結果は想定していたものの、さらに上を行っていた。


「どうだった……」


二階で瑠斗達の検査を終えたシャマルが暗い顔で戻ってきたときには結果は分かっていたが、だが聞かずにはいられなかった。
意を決したようにシャマルが口を開く。


「多分このままだと……数年の後には臓器まで麻痺が進んで……」


言っている途中でシャマルが泣き崩れる、それはもう手の施しのないことを言外に告げていた。
悔しさのあまりにシグナムが壁を殴る。


「どうしてだ……どうして気付かなかったんだっ!!」
「ご……ごめん……ううっ……」
「お前にじゃない……私に言っているんだ。」


あれほど近くにいながら自分は何も気付けなかった、毎日一緒にいて戦ってきた家族なのに……
今思い出しても遅いが今日の戦闘、拳太の動きがいつもと違ったのも頷ける。
……集中出来たのではなく集中せざるを得なかったからだ、腕に魔力を通しながら、且つ自分に気づかれないように戦う方法……結果として気付かれたがそう考えれば納得のいく話だった、だがどうして気が付かなかった。
シグナムが殴りつけた壁が変形し、ザフィーラが止めようとすると、


「………っ!!方法ならある!闇の書……闇の書を使えば!?」


縋るような声でヴィータがそう言った。確かにその考えはある、だがそれは………
全員が下を向く、それもそうだ家族を裏切ることになるのだから。その中でミルキーが全員を代表するかのようにヴィータに言った。


「ヴィータちゃん?それは瑠斗君達を裏切ることになりますよ?」
「…っ……でもどうしようもねぇだろ!?アタシだってやりたきゃねえよ!!でもやらなきゃ死んじまうんだろ!?」
「不忠の騎士と言われるのも甘んじて受けますか。」


ミルキーからすればそれが最後の質問だったのだろう。ヴィータは、ヴォルケンリッターは即答だった。


「我らは主を守るもの……」
「我らは主の為に存在し、主なくして存在できない。」
「だから守るんだ!人殺しはしねえ!!でもそれ以外ならなんだってやる!!」
「汚名だけで済むなら、どんな屈辱だって耐えてみせるわ。」


(ああ、この人たちは……)


なんて優しいのだろうか、少し前までは他人だったのにも関わらず、今では命令を破ってまで家族を守ろうとする。
もっとも、自分もそうだが。


「安心しました、まああなた達がしないと言っても私は一人で完成させるつもりだったんですけどね。」
「ミルキー……スマンな、私達がいなければお前も約束を破らずに済んだのに。」
「目の前で家族が亡くなるのに指を咥えて見ている人なんていませんよ?気になさらないで下さいな?」


守ることが唯一自分に下された命だから、その方法は選ばない。
後数年、時間は十分に残されている、だが早く集めることに越したことはない、今日動き出したっていい。いや、むしろ早く元に戻すのだ。
ミルキーにいつもの笑顔が戻った。


「では皆様〜、各々全力を尽くして蒐集を開始しましょう!」
『応っ!!』












「……ル……シャ………シャマル?」
「は!!?ええとえ〜……はいなんでしょう?」
「どうしたんだよ慌てて、ミルキーが場所取りしたから弁当にしようだってよ。」


伶哉が着けてる腕時計は確かに12時を軽く越えていた、一時間以上も考えていたようだ。
お腹を空かしたヴィータが苛立って伶哉に当たっているのを見て、やっぱりこの光景が一番自分たちが望んでいた光景なんだと再認識させられる。
自然と笑みがこぼれた、


「?シャマルどうしたの?急に笑い出して。」
「ふふっピクニックは楽しいですね姫菜ちゃん?」
「みんなで行けばどこでも楽しいよ!海でも、山でも砂漠でも、どこでも。」
「ですよね〜、楽しいですよね。」


シャマルはポケットから飴を三つ取り出すと、暴れ回る二人と姫菜に配った。













Side瑠斗







うん、この煮物美味い!!俺が作ったやつだけど。
まあしょうがないか……俺たちの中で料理が作れるのは俺とミルキー、後意外にも拳太だけだし、シグナム達が来てからは料理のレパートリーも増やしたし料理に関しても勉強し始めたし、美味く作れるようになるのは当然って言ったら当然だろうけどさ。


「うん、この煮物美味い!!これはましろさんが作ったんで?」
「はい〜私が愛情込めて作ったんですよ〜?」
「うほー!!おかわりっす!!」


おいミルキーちゃっかり嘘を吐くんじゃない、お前が作ったのは出し巻き卵と野菜のおひたしとかだろうが、あと河野は遠慮しろ。
もう分かるだろうが今日の昼弁は和食で攻めてみた、だがまあ欠点と言えば上から落ちてくる葉っぱがくっ付くのはいただけない、水分が多いからくっついて嫌な感じになってしまう。


「……ところで拳太はなんでそんなに離れたところで食ってるんだ?」
「いや……それがだな、ちょっと大変なことになりまして。」


マイ弁当箱に自分の分を盛っておいた拳太はビニールシートの端の端、足を半分地面に放り出していた。
なんだか来る時よりも疲れてるように見えるのは気のせいだろうか?いや気のせいじゃない。
まあ気にすることじゃないだろ。


「そうそう、料理といえば私も一つ作ってきたんですよ?」
『げ……』


皆(河野、結貴ちゃん除く)がシャマルに聞こえないように喉の奥でそう言ったのを確認。
そう言ってシャマルはリュックから隠れて作ったであろうおかずが入ったタッパーを取り出した。見た目に騙されようものならちょっと料理と言うものを見つめ直してしまうそれを自慢げに河野と結貴ちゃんに差し出した。


「どうぞ?私の自信作、魚の煮付けです。」


料理名だけ聞くと料理が上手い人なのかと思いがちだが、実は見よう見真似で作った形だけの煮付けだとは口が裂けても言えない。
シャマル、実は今日と言う日に賭けてたな………
河野が口に運ぶのをシャマルが緊張した面持ちで待っている。


「いいんすか?いやー俺は幸せもんで………す?」
「何故疑問形にっ!?」


シャマル、完敗………










「うう……まさか醤油がだし汁で砂糖が塩だったなんて……」
「ついでに言えば身は崩れてたし味は染み込んでなかったし選んだ魚は鮭だったけどな。」
「ぐはっ!!」


血を吐く勢いでシャマルがその場に崩れる、うん良いリアクションだぞ。
その後河野は気合で鮭のなにかを一気にかき込んで完食した、その後座り込んで真っ白になっていた。ちなみに結貴ちゃんは辞退して俺の作った煮物を食べてた。
今は帰りの駅の道、夕暮れに染まった道路は紅葉狩りの帰りの人たちでいっぱいだ。


「あっ俺ちょい親父に連絡するわ。」
「おう、空(そら)さんによろしく言っておいてくれ。」


河野がその場を少し離れて俺達の家に泊まる旨を伝えていると、結貴ちゃんも携帯でメールをし始めた。
ミルキーが俺を小突く


「ねえ瑠斗君?今思ったんですけど、女の子泊めちゃっていいんですか?世間一般宜しくない気がするんですけど〜」
「だいじょぶだいじょぶ、年に数回は俺達も向こうに泊まりに行ってるし、別に初めてってわけじゃないから。」
「ああ〜、そういえばそうですね〜」


納得して手をポンと打つミルキー、すると河野は俺に携帯を渡してきて


「親父が代わってくれってさ。」
「おお、はいはい……もしもし瑠斗です。」
:ああ、瑠斗君、久しぶりだね。:
「三日前にもお会いしましたよ、空さん。」


っていうかこの人は一日ずつ合わないといつも久しぶりだった気がする。
どこかで研究者をやってるって聞いたんだが、SO○Y辺りだろうか?
奥さんの名前は一子(いちご)さん、二人とも若い若い。


<まあそうなんだがね、いつもすまないね和樹は迷惑をかけてないかい?>
「いや、今日はおれんとこの身内が……」
:そうかい?でもまあ楽しくやってるかな?:
「まあ、今日は河野預かってもいいですか?」
:構わないよ、どのみち今から私も研究所の方に戻らなくてはいけなかったしね、妻の方に今度ケーキでも持って行かせようか?:
「いいですよそんな、長い付き合いじゃないですか。」


一子さんも仕事をしていて忙しいのにそんなことで時間を削ってもらいたくない。
空さんは一子さんがいないときはたまに家に来ては家の晩飯のおかずを数品パクっていくことがあるけど見返りに拳太のパソコンを改造していく。
案外ハイスペックになってるのでギブアンドテイクの精神で付き合ってきた仲だ、遠慮なんて無い。


:そうかい?まあ私が出来るのは君たちが大学に行った時の論文の代筆やパソコンの改造ぐらいだけどいつでも言ってくれて構わないよ。:
「十分っすよ、じゃあ河野はこっちで責任を持って預からせていただきます。」
:ああ、頼むよ。:


向こうが切ったってことはもう話すことはないらしい、俺は液晶を閉じて携帯を河野に渡して結貴ちゃんに振った。
親指を立てたところを見るとこっちも大丈夫らしい、となると今日の晩飯を買いに行くことになりそうだ。


「なあ河野、結貴ちゃん?夕飯なにがいい。」
「アタシ鍋!」
「俺ヴィータちゃんに賛成っ!!」
「うちもそれでいいよ、でも奮発してよね。」


……え?これ豆腐と昆布がメインの鍋じゃ駄目系?
肉なんてこの人数でやったら戦争になりますよ?結局拳太は被害被らないしヴィータかミルキーの一人勝ちだぞ。
荒れ果てた食卓を想像して却下、鍋を三つにしてみんなで分ければ問題起きなさそうだな。

「ようし!!今日は牛を食うか!!」
「わあい、今月の食費は今日で消えますね〜」
「うん、だからめい一杯食えよ、そしたら極貧生活の始まりだからな!!」


帰りもテンションが落ちることなく、俺達は紅葉狩りの会場を後にした。









『いただきます。』


買った……ごっそりと買ってもうた……ざっと三万くらい。
そりゃ11人分の肉とか野菜とか新しく追加した鍋とか合わせたら行くかもしれんが、ここ半年でいくら使ったんだ俺達?
多分………親父の給料1年分くらいは使い込んだだろう、服(一番手痛かった)、食器、家具類にお小遣い……うん使い込んだ。
基本的に我が家は収入が国からの支援金に婆ちゃんが送ってくれるお金くらいだ、このまま食いつぶしていけば……割と一生保っちゃうかもしれないけどこのままじゃいけないだろう。


「いやー、結局ニューお鍋が四つですかー二人で一つの鍋なんて豪勢ですね〜」
「おいましろ!!アタシの肉だぞそれは!!」
「戦場で余所見は禁物ですよ〜?言葉よりも行動しなくては〜」
「じゃあ俺はこれだけ取ればいいや、後はシグナムで食べてくれ。」
「ああ、だがもう少し肉を取ってもいいぞ?あと豆腐も取れ。」
「ほらほら姫菜ちゃん、お肉食べて下さい。」
「ヒナ肉嫌いなの〜」
「案外ザフィーラってベジタリアン?俺に気を使わないで肉食ってもいいよ?」
「すまんな……」


公平におみくじで決めた結果がこれ。
ミルキーとヴィータは予想通りにお鍋の上の戦争を始めてるし………拳太はやたらと食わされてるし姫菜は駄々こねてるしザフィーらは遠慮してるしで、絶対人選間違えた食卓の神が上空でほくそ笑んでるに違いない。


「ほんっと、俺達腐れ縁……」
「おお……シグナムさんたちとの楽しい夕食が………」
「カズ、ほらしらたきだよ食べな。」


ええい!しらたきを食った後にコーラを自棄酒の様に飲み干して河野は辺りを見回す。何かを探しているみたいだったがどうやらそれが見つからないみたいで、


「あら?ミルキーは何処行ったんだ?」
「あ…本当だ、いつもなら僕達にすり寄ってくるのに…」


不味い……すっかり忘れてたがミルキーは河野達にとってはチワワでしかなく、しかもその本人は今まさに死闘を繰り広げてるわけで………


「ミルキーは、ちょっと今病院に行ってるんだ。」
「あれ?病気になっちゃったの。」
「いや肥満でダイエット中……最近動いてないから太っちゃって。」


あ……笑顔にどす黒い何かが混じってこっちに飛んでくる……
だが俺もここを凌がなければいけない、バレるよりはマシだろう。


「病院でそういうのあったっけ?」
「特別に頼んでもらったんだ、今月中には見違えてる筈だから。」


こっちに砕けた箸の破片をやっぱり笑顔で飛ばそうとしていたミルキーの手が止まり、何かを考えるように鍋を見つめると残りをヴィータに差し出した。
手の中の箸の破片が初期と比べて何倍も小さくなってるのは俺の気のせいだと思いたい。


「そうか……今の俺の気持ちを分かってくれそうなのはミルキーくらいなのによ。」
「いや〜ミルキーもそれは困ると思うよ?」
「チクショー!!俺に可愛い彼女がいれば!!」
『無理無理』
「コーラ持ってこぉおおい!!」








「第3回!!俺主催の王様ゲェェムァ!!」
『きゃ〜!!』
「わー……」
「おおー……」


夕食後、何だか知らないリミッターが外れた河野は割りばしを工作しそんな事を言い始めた。ミルキーとシャマルはノリノリだが俺と結貴ちゃんはやる気のない返事をした。
シグナムが不思議そうな顔をして拳太にそれが何なのか聞いている、ザフィーラも同様、ヴィータはとりあえずノっかってみている。
ちなみに第一回は学校の放課後、第二回は結貴ちゃんの誕生日会で行われたと言っておく。


「説明しよう!!王様ゲームとは、王さまが命令したことは絶対に守らなくてはいけないのだ!!」 「へえ〜……じゃあ拳太が隠してるアイスとかシュークリームとかもアタシがもらったりできるのか?」
「いや、番号があってそれを指定した人に何かさせたりしたりするものだからそれは無理かな?」
「っていうか俺が隠してるのは知ってるんだな……」
「おう、でもどこに隠してるかは知らねえからここで一気に奪ってやろうと思ってよ!」


王様=酷いことをする人、のイメージがあるのかヴィータはそんなことを言った。
民衆から税を奪い取るように拳太からも菓子を奪う気でいるとは……眼鏡のさえない男の子をいじめているちょっとポッチャリしてる男の子が目に浮かぶ。


「ところで、どこに隠してるんだ?」
「食うなよ……ボソボソボソボソ……」
「うっそぉぉ!!」


和室の畳の下の収納から始まり屋根裏、本棚の後ろ作り物の土の中…エトセetc……アリもビックリの収納力。
それにしても……早く食わないと腐るぞ……シュークリーム。


「じゃあこの中から一本箸を選んで下さいね、赤いやつを引いたら王様ですからね。」
「すまん、俺はパス……やらなきゃいけないものがあるんだ。」


拳太は寝巻のままそう言って自分の部屋に籠ってしまった、多分宿題かなんかを片付けるつもりだろう。
なんだかんだで俺達は魔導師やってるが本業は学生、それを疎かにしてたらどうしようもない。実際ここ最近はあんまり勉強に集中してなかった気がするし。
ここらでみんなとの差を縮めないと進学は危ういかもしれない。


『王様だ〜れだ!!』


掛け声と一緒に全員が箸を引く。俺は十番と出た。
王様はザフィーラらしい、一人赤い印を見つめて何を言おうか考え込んでいる。
しばらくして、


「では八番、全員に飲み物を入れてやってくれ。」
「うん、麦茶でいいよね?」
「ああ、頼む。」


姫菜がそう言ってキッチンに向かっていくとシャマルも続いて出ていく。確かに一人でこの人数分のコップを持ってくるのは厳しいだろう。
ザフィーラらしい命令に内心ホッとした、このまま行けば波乱のないまま一日が終わることだろう。
俺はやたらと張り切る河野が暴走した時の対応策を考えながら、夜食を作るかどうか考えはじめるのだった。










Side拳太





空さんの改造した家のパソコンはハイスペックの極みにあり、もう普通のパソコンなんて使えないくらいだ。
どこから持ってきたかは知らないが容量が見たこともないようなフラッシュメモリにCPU、後はリアルタイムで世界の様子が見れるソフトに音声合成ソフト。
内容に関して疑問だらけだが、役に立つから突っ込まないようにした。


「闇の書……検索っと……」


結果は目に見えてる。向こうの世界のものがこっちの世界で検索にかかるわけじゃなく出たとしてもゲームのアイテムとかそんなものしかない。
下から持ってきた闇の書を持ってページをめくってみるが、何度見たって全てのページは白紙、蒐集されないままだった。
それは俺達が望んだことだからいい、これで蒐集されてたら今からでも殴り込みに行く所だ。


「でもまあ、お前も生きてるんだろ?」


俺がそう言うと闇の書が浮いて部屋を漂う。
生きてるというよりは意識があるに該当するのだろうが、何て言えばいいか……なんか愛嬌のある動きをするんだよな、この本。
だけどどこか大人っぽいたち振る舞い……不思議だなぁ……


「お前も喋れたらいいのにな、シグナム達は分かるみたいだけど。」


たまに独り言が激しいと思えば闇の書と話してる。話の内容は知らないが多分大事なことだろうから聞かないことにした。
蒐集をしてないんだったら俺たちは家族のしてることに最低限文句を言いたくはないからな。
そうしていると正面からバサバサと音が聞こえてきた。


<今は話せませんがこういうことは出来ます>
「まじで!?」
<主の魔力を微量消費することになりますが……>


そう闇の書は自分のページに書き込んだ。こんな機能は事前の説明じゃ話されなかったんだけどな。
構わないよというとページをめくって新しく書き込んでいく。


<守護騎士と私はプログラムでリンクしているので意思疎通が現状で可能です。ですが主と会話ができるようになるには私の蒐集が四百を超えなければなりませんので。>
「そっか、辛いか?」
<いえ、私はこうして皆と共にあることが幸せです。>
「ごめんな、本来の機能を果たせてやれなくて。」


そもそも闇の書は魔力を集めて記憶するものだ、それを俺達は自分の都合で蒐集せずに手元に置いている。
それはシグナム達はともかく、闇の書は不服なんじゃないだろうか?俺はそう思って聞いてみたが闇の書は考える暇もなく即答した。
俺も男であるため、一人の為に皆に言ったことを撤回するのは抵抗があるからこれ以上考えないようにした。


「この際だから聞くけどよ、闇の書って魔法の知識が詰まってるんだよな?」
<はい、主が完成させた時、力の一部としてそれらを提供させていただきます。>
「その中に催眠系ってある?自分の認識してるものを別の対象にすり替えるやつ。」
<あるにはありますが……どうしてですか?>
「いやな…今日ちょっと女性の苦手意識が悪化しちゃって、戦闘になったらヤバいからここらで対応策を練ろうと思って。」


人間の精神は脳から来てるものだから魔法でそこをいじくっちゃえば俺でも女性と対等に戦うことができるかと思ったんだが、闇の書の反応は芳しくない。
ゆっくりとしたスピードで文字が書かれていく、


<主が望む魔法はありますが……それは賛成しかねます。>
「やっぱり?シグナムにもそう言われたよ、お前はどう思ってそう言ってる?」
<現状本である私に言われてお怒りになられるかと思いますが、それでは主の成長はございません。体質的なものならまだしも精神的なものを魔法でどうにかしようというのはいかがなものかと。>
「シグナムも同じこと言ったよ、ちなみに自分でもそう思う。」
<では何故このような質問を?>


……相手が本だからだろう、俺は結構本音の部分で話すことが出来ている。
ちょっと恥ずかしいけど闇の書は口?が固そうだし言ってもいいだろう。


「シグナムとヴィータはさ……俺が本気出してる時が楽しいみたいなんだよな。」
<ええ、烈火の将もよく言っています。>
「でもいくら俺が本気って言ってもどうもそれは本気じゃないみたいなんだと、一回だけ本気を出した……と言っても無我夢中だったからあんまり覚えてないけど、その時以外も俺なりには全力でやってたはずなんだよ。」


あの時は動かない左腕をどうにかして隠さないとと思って必死に反撃してたから気が付かなかったけど確かにあの時はよく動けたと思う。
怪我してると余計に集中出来る時があるように、俺も同じように集中してたんだろう。
だが集中してない時、確かに俺はシグナム達を女に当てはめて戦ってるのかもしれない

<つまり、無意識の内に手心を加えていると……>
「そうだと思って今みたいな魔法でカバーして本気で戦えないかと思ったわけ、シグナムはその一回の本気が忘れられないみたいだったからあの状態で戦ってやれば嬉しいかなって思って。」


俺がそう言うと闇の書は空中で小さくフルフルと震えてからページを捲って書きはじめる……もしかして俺…今笑われた?


<恩返しですか、普段のあなたからじゃ想像もできませんね。>
「言うなって、恩はいつも感じてるし何かの形で返したいって思ってたからさミルキーに聞いたんだよ、そしたらシグナムには成長の具合を見せたらどうだって。」
<良いと思います、白き守護獣はそう言ったところに敏感です、参考にして間違いはないと思います。>
「意外だったけどね。」


いっつもニコニコ笑ってる、ついでに何考えてるかも分からない、可愛いものが好き、割と自分に自信あり、犬モードなら触れる、が俺のミルキーのイメージだったが俺の相談を聞いた時には意外にも俺以上に相談に乗ってくれた。
今日ちょっと苦手になってしまったわけだが……今度ビーフジャーキーでも買って行ってやろう。


<結果だけ言うと主は苦手意識を克服しなければいけませんね、それも魔法に頼らずに。>
「今日ちょっと悪化したけど……そうだな、いつまでもこのままじゃどうしようもないし。」
<……少しきつい事を言ってもいいでしょうか?>


ということは何となく俺の問題点が闇の書には見えているんだろうか?
だったら遠慮してもらうことはない、どんなに厳しい言葉でも受け止める気合いがなければ深く根付いた俺の苦手意識は克服できないだろう。
闇の書は<では……>と書くと俺の目の前で一度揺れる……咳ばらい?


<主は覚悟が足りません、おそらく今から私の言う覚悟はこの家族の中の誰よりも低いでしょう。>
「誰よりも……姫菜よりも?」
<ええ、確実に。>


それは何だろうか?確かに他人の為に死ぬような覚悟は今のところ持ち合わせてないけど、あと異性に触れる度胸も。
闇の書はパラパラとページに書きながらどんどん進んでいく


<あなたに足りない覚悟は恐らく他人を傷つけることです。>
「うっそだあ、だって俺人……男限定だけど簡単に殴れるぜ?」
<顔や急所にも傷つけられますか?>


あれ?それはしたことがないかも………ないな。確かに俺は思い返してもそれに類似することをしたことがない。
だが別にわざわざ相手を傷つけてどうするんだ?一番簡単な方法は相手を動けなくすることだと思うんだが……


<今は多分効率からそんな事を言ってるのでしょう、今まで主にはそうすることで倒すことができる相手か、もしくは狙う必要のない人しかいなかった。>
<白き守護獣に聞いたところ主は相手の顔など目につくところを傷つけるのを恐れている傾向があります。しかもそれが女性になるとさらに激しさを増します。そしてその理由は……お母様との約束。>

正解だった。だけど俺が母さんとその約束をしたのはミルキーが使い魔になる以前幼稚園に通っている頃の話のはずだ。
“女の子は殴るな、顔は殴るな、傷をつけるな”この三つは俺が絶対に守れと言われてきたことだ。


<正確には私はもちろん守護騎士も恐らくはご兄弟もお知りにはならないでしょう。ですがあなたはそれを守り続けた、結果、あなたは無意識のうちに対象である女性を傷つけないように触れない、関わらないと決め込んでいてそれが苦手意識に繋がった。> 「でもさ、俺は確かにそうだとして姫菜と瑠斗、伶哉はどうなんだ?確かに約束は俺にしかされなかったけどあいつ等も相手の顔に傷つけるなんてできないと思うぞ。」


そもそも俺達家族は至って普通の学生、学童であって不良ではない。小さな喧嘩はたしかにしたりするけど問題が起こったことはない。
それも俺達が相手を傷つけたことがないからだ、その点で言えば瑠斗達も抵抗があるに違いない。
闇の書は即答した。


<出来ます。あの方たちは何よりも家族を優先しています、それこそ運命共同体のように。誰かが襲われるようなことがあればあの三人はその人を殺めることだってするでしょう。>
「……俺には出来ないって?」
<ええ、主にはその覚悟はありません。傷つける覚悟も傷つけられる覚悟も……それともおありですかその覚悟が。>
「ないね、まったくない。認めるよ、俺はチキンです、だけど言っておく俺だって家族は大事だ。」


命張れるかと言ったら……微妙なところだけど助けられるものは助けるぐらいする。
だが確かに命を狙われたからと言ってその人を殺すことができるかと言えば……俺にはそんな覚悟がない。
その差が、今の俺とあいつ等との差なんだろう。約束を守るあまりに自分の覚悟を捨てた俺と、大切なものの為に約束を破る覚悟があるあいつ等……


<結局は覚悟の問題です。主は覚悟をお持ちにならない、ですが約束を破るという覚悟さえお持ちになれば自然とあなたは女生と触れ合えるはずです。>
「いや、目的はそっちじゃないんだけどな……覚悟ね、ありがとよ、参考になった。」
<力になれて光栄です、では私は人の目につかないように烈火の将の部屋に行きます。>
「ああ、送っていくよ。」


俺は自分の部屋のドアを開けるとそのままシグナムの部屋の本棚に闇の書を入れておく、ここに入れておけば河野たちに気づかれることはないだろう。
ページを閉じてしまってもう対話が出来ないけど、俺は扉を閉じる前に一言言った。


「ありがとよ、覚悟…考えてみるよ。」


そう言ったら闇の書は小さく発光した。















Side無し











探知魔法を使ってこの家で現在動いてるのは自分たちだと確認してからシャマルは騎士たちに連絡を入れる。
あの後の馬鹿騒ぎは深夜まで続き、瑠斗の静止が掛かるまで続いた。今の自分たちは急がなくてはならなかったがあの時間が無駄だとは思っていない。
全員で出ていくと気取られる可能性があるので準備の出来たものから順番に家を出ていく。


「では、行ってきますね。」


誰も聞いてないがシャマルはそう言って家を出る。仮面の男の襲撃以来何もないと言っても警戒を怠るわけにはいかないので家には厳重に結界と防衛魔法を組み込んだ。でもまあ、あの兄弟が簡単にやられるはずがない。
自分たちからすればあっという間にあの兄弟は力を身につけていった。両親が優秀な魔導師であるとはミルキーに聞いていたがこうも才能溢れるところを見ると、あのまま一般人として暮らしているのは惜しいと思ったことはある。
蒐集が終わって自分たちが罪を償ったのならあの子たちに管理局を勧めてみよう。
きっと誰もが認める魔導師になると保障出来る。だが今は……
……きっと、救ってみせますから。
自分たちを救ってくれたように、自分たちも救うのだ。シャマルはそう心で繰り返し、海鳴の街へと向かった。









あとがき
というわけで次から本編に突入になります。
テンポが遅いということで本編はテンポよく行きたいと思います、じゃないと終わらなそうなので……
あと更新が遅いのは勘弁して下さい、テストやら試験やらで忙しくなっていて中々パソコンの前に座る余裕がないんです。
でも今さらA`sってどうなんでしょうね?自分が言ってもなんですが……
とりあえず早く完結できるようにしたいと思います。






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。