春麗らかな日差しを受けて、桜も美しく咲き乱れる。
それは出会いと別れの季節を象徴するかのように時に凛々しく、時に儚い印象を与えた。

卒業式。
一つの終わりと新しい始まりを告げる、誰もが経験する一大行事。
それはここ聖祥大付属小学校も多分に漏れなかった。

止むを得ない事情のある生徒以外はそのまま中等部に全員が上がる。
面子が変わらないせいで、余りピンとこないかもしれないが、やはり卒業というものは大きな意味を持つ。


そして今日、俺の義妹達は卒業を迎える。



 To a you side エクストラ   桜の咲く頃に



「あ〜、クソ。ネクタイなんて息が詰まるぞ!?こんな防寒着を、何でこんなに暖かいのに着けなきゃならねーんだ!」
現代の侍こと俺――宮本良介は元居候先の家主の手によってきっちり結ばれたネクタイに苦しめられていた。

正確に言えばこの第一ボタンまで締められたYシャツにもだな。
更に言えば、このスーツだ。

うちのメイドさんに「フォーマルは一着でも持ってなさい」などと言われて買った既製品。
買ってから一度も着る事なく、箪笥の肥やしとして立派に働いていたのを無理やりに引きずり出した。

「うーっ!息苦しいわ!!」
「駄目よ良介君。ちゃんと着けとかないと」
「全く……ネクタイもまともに出来んのか………」
「そういう恭ちゃんも、Yシャツまで黒系ってのはどうかと思うよ?」
「……愚妹よ、明日の朝日を無事に拝めると思っているなよ……」
「ちょっと!軽くないよ、それ!?」

今日はなのは達お子様どもの卒業式。
俺としてはガキの行事にどうして参加させられているのか?

それは語ると本当に短い……一週間前のこと。



「おにーちゃん、来週はなのはの卒業式なんです」
「ほぉ、それがどうした?」
「なのはは是非ともおにーちゃんに来て欲しいのですが?」
「めんどいからヤダ」
「フェ、フェイトちゃんやはやてちゃんも卒業式なんですよ!?」
「同じ学校だからな」
「じゃ、じゃあ来てくだ」
「やだ」
「……」
「………ぅぐ!こら、何で涙ぐむッ!?」
「だって…おにーちゃんが……」
「待て、泣くな!お前が泣くと………!」
「み〜や〜も〜と〜……?」
「ホラキタァアア!!!」



病的なシスコン男に追い掛け回され、いやいや卒業式に引き出される事になったのだ。
断ると泣くし、その都度命の危機に晒されるのは余りにも馬鹿らしい。

で、俺にできる事は首を縦に振ることだけだった。

……まぁ、その事にも恭也が真剣抜こうとしやがったが、なのはによって沈黙させらていたがな。


ドタキャンでもしようと考えていたが、それすら見抜かれ、朝一で美由希が迎えに来るし。

どうしてこうも卒業式になんて拘るんだ……?


式自体は俺の経験したとおり、やはりどこも変わらない内容だった。

卒業証書授与で、名前を呼ばれ、大きく返事をするガキ共。
人数が多いからはっきり言って退屈極まりなかった。


俺の隣で恭也はまっすぐになのはを見ていて、

桃子はひたすらにビデオを回し、
美由希はデジカメを片手になのはの出番を待つ。


正直、ここまで熱くなれる理由が分からんな。


在校生が送辞を述べ、卒業生が答辞を述べる。

子供らしく、今まであった思い出という名の、学校行事の羅列を全員で大声で言うというバカらしさ。



そして、卒業生の退場をもって全ての進行は終わりを迎えた。


ちなみに俺の近くに陣取っていた某騎士共と含め、全員余りに恥ずかしい態度をとりまくったので
きっちり他人の振りをした事を伝えておきたい。



もちろん、そんなのムリだって分かってるさ。





さて、卒業式も終わり、グラウンドでは他の生徒達も家族やら友達やらと談笑している。

なのはもはやてもそれぞれの家族と。
フェイトはここに来れないプレシアに代わってリンディが来ている。
プレシアからのメッセージを預かってきたらしく、それを見せていた。


「家族ね……」

昔の俺なら確実に鼻で笑っていたであろう光景。
偽善と欺瞞。その一つの形。

自分の知っている事が全てで、それ以外を……こういう家族の絆とかいうのを全て嘘っぱちだと思っていた。

それも今となっては、そういうのも確かにあると知っている。


今だって親なんてのはろくでもないもんだと思ってるし、それを変える気も無い。
それが、俺にとっての親だからだ。



「おにーちゃん」
「んぁ?何だ?」
俺らしくもない考え事をしている内になのはが俺の所まで来てやがった。

待て、そこの黒いの!何だその…隙あらば斬る、みたいな気配は!!

ったく……シスコンも程々にしとけよ?

「で、なんだよ?」
「おかーさんが皆一緒の写真撮ろうって、早く!」
「おい、こら、引っ張るな!!」

なのはの子供とは思えない力に引っ張られ、連れてこられたのは桜の木の下。

既に子供だけの写真は撮ったらしく、後は集合写真ということらしい。

なのはを挟んで右に桃子と美由希。
左には俺と恭也。

「おにーちゃんはなのはの隣です!」
「だとよ。良かったな恭也?」
「………」
「お前、何を取り出そうとしてやがる!!」
「安心しろ。俺の剣は大切なものを守る為のものだ」
「どこに安心する要素を感じろと!?意味わかんねえし!」
「ならさっさとなのはから手を離せ」
「俺掴んでないだろ!!さっさと離せ、なのは!?」
「いやです♪」

その無邪気極まりない笑顔を止めろ。
いいか、無邪気ってのは時によっては悪より性質が悪いんだぞ!?


ほ〜ら、後ろから黒いオーラが……。



その後、俺の後ろから黒いオーラが漂い続けたのは言うまでもない。


どうにか命の危機(写真を撮るだけでなんで?)を乗り越えやっとネクタイを緩める。


「今更だが、何で家族の集合写真に俺を入れる?」
「それはおにーちゃんが、なのはのおにーちゃんだからです」
「その台詞は恭也に言ってやれ。主に俺の命の為にな」

そう言いつつも俺はなのはの頭をワッシャワッシャと撫で繰り回してやる。
「はわ、はわぁぁあああ!!?」
珍妙な声を上げて喜ぶ我が義妹。うむうむ。


「あの…リョウスケ?」
「ん?何だフェイト?」
「えっと……」
何やらもじもじとして何かを言おうとしているフェイト。

……なのはの視線が痛いのは何でだ?

「フェイトちゃんは良介と一緒に写真を撮って欲しいんやよね〜?」
と、脇から出てきたのははやて。
「あ、フェイトちゃんの後はわたしもやから」

お前ら…俺と写真撮って何が面白いんだ?
「だって、わたしと良介は……家族やろ?」
ジッと俺の顔を覗きこんでくるはやて。

「ったく……しょうがねえな………おい、何笑ってんだ、リンディ!?」



結局、フェイト、はやてとも写真を撮らされた。

フェイトの方はすんなり行ったが、はやての方は……異様に疲れた。
理由?聞く必要があるか?

とりあえず、こぶだらけの湖の騎士が倒れてるとだけ言っておこう。


「お疲れ様、良介君」
「本当に疲れた……こんなのは二度とゴメンだぞ……!」
俺がそう言うと桃子のやつがクスクス笑いやがった。むかつく。


「それにしても……」
ふと、桃子が零す。
「あの子ももうあんなに大きくなったのね…。こうして見てられるのも後少し、か……」


後少し。そう、少しなんだな。

中等部に上がれば三年で卒業だ。
この世界でも義務教育の終了で、成人ではないが、法律上、一応は大人の方に分類される。
ま、実際そんなに甘い話ではないが。

しかし、なのは、はやて、フェイトは既に今から道を決めている。


ここから遠い異世界。そこにある時空管理局という所にスカウトされ、そこに行くと決めている。

あと三年。そうしたらあいつらはこの世界からいなくなる。
帰って来る事もあるだろうが、それだって頻繁ではない。

今だって、チョコチョコと任務をこなしているのだ。

本格的に所属となれば。


「良介君……」
「……何だ?」
「なのはの事、お願いね……。どうか守ってあげて?」
「………俺より強いやつをどう守れと?」

つい、いつもの調子で返してしまう。

桃子が冗談でこんな事を言っているんじゃないと分かっている。
だが、魔法も剣の才能もない俺に何が出来る?

「良介君は気付いてないだけよ。自分がどれだけ強いのか…」
「はぁ?」
「どんな時でも自分のままでいられる。そしていつも誰かの心を支えられる事。
それって……強いって言わないかな?」

すまん。背筋が寒くなった。

「何だ、そのくさいセリフは!?」
「もう。こっちは真剣に言ってるのよ?」

そんな事は分かってる。だが、俺が誰かを支えてる?
何を言ってるんだ?俺はいつも……いや、どうでも良い。


ともかく、桃子にはまだ借りがあるし。

「出来る範囲で。後、面倒ごとはゴメンだ。それでよけりゃ…な」
「……ありがとう、良介君」


チッ…ガラにも無い事言っちまったな。

ボリボリと後頭部を掻きながら桃子に背を向ける。
……今、「クスッ」て聞こえたぞ?嫌な予感……。


「桃子さん的には、将来的になのはと色々あって、義理の息子になってくれたりすると嬉しいんだけど?」
「ないから!絶対にないから!!」
「え〜っ!?桃子さん結構本気なのにーっ!」
「知るか!」
「だって、良介君はなのはの初恋の人なんだしぃ〜?」
「初恋って……そんなのはしかみたいなもんだろ!?」


あぁ〜、ホラ、そういう事言うから黒いシスコンが目をキラーンて……。

つーか、いい加減にしろ!!お前は!!





ま、仕方ねえ。言っちまったもんは言っちまったもんだ。

ガキの頃の憧れだとか、初恋だとかいつかは薄れて消えちまう。

その時までぐらいなら付き合ってやるか。


この家族ごっこに、な。



「とりあえず、真剣は無しの方向でーーーーーーーッ!!」

「待てぃ、宮本ぉおおおおおーーーーーーーッ!!」

「おにーちゃーーーーーーーん!!」



あぁ、やっぱ家族なんざ碌なもんじゃねぇ!!!










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