アリスがやって来た日の翌日。
機動六課では、八神はやてによる朝礼が行われていた。
「―――もう知っている人も多いでしょうが、昨日よりこの機動六課に新しい人がやって来ました。
この場で改めて、挨拶をして頂きたいと思います。ではシスター、壇上へ上がって下さい」
「はい」
はやてが壇上を降りると、入れ代わってアリスが階段を登る。
「聖王教会より派遣されてまいりました、アリス・ノーランドと申します。
日々の雑話から罪の懺悔、某部隊長によるセクハラの相談まで、幅広く承ります」
「何かピンポイントで指摘されてる!?」
「あっ…私、相談してみような?」
「そして早速、十年来の友人が裏切りおった!!」
なのはのちょっとした呟きに、はやてのツッコミが唸る。
「ふむ、私も少し相談してみようか………」
「私もちょっと……」
「ちょっ、家族にも裏切られた〜っ!?」
ロングヘアーをポニーテールにまとめた局員――シグナムと、白衣を着たい医務官――シャマルにもツッコミが光った。
「皆さん、どうぞ宜しくお願いいたします」
――――パチパチパチパチ。
アリスが深くお辞儀をすると、局員達から大きな拍手が起こった。
「では、八神部隊長にお返しします」
「今までの発言を完全にスルーッ!?………こいつは、手練やな………!!」



「………これ、朝礼よね?」
ティアナは朝の爽やかな空気の中で、しかし頭痛を覚える。
「あはは、アリスさんってやっぱり面白い人だね〜、ティア」
「そう言って笑えるあんたが、心底羨ましいわ………」
ティアナは深々と嘆息して肩を落とす。スバルは意味が分からず、小首を傾げた。
「ティアさん達楽しそうだね、エリオ君」
「そ、そうかな………あれ?」
「どうかしたの?」
「いや……ちょっと」
エリオの視線の先に、キャロも向いてみる。そこには二人の保護責任者の姿があった。
ただ、いつもと様子が違う。
自分達に向けるような優しい瞳も、仕事中の真剣な表情でもない。

不安と困惑、そんな視線を送る先には―――アリス。
「フェイトさん、どうしたんだろう……?」
「………」
二人が不安げにフェイトを見ていると、その視線に気付いたのか、フェイトは振り返って微笑を返す。
だが、それは何処かぎこちなく、二人はますます不安を覚えてしまう。
「ッ……」
そんな二人の表情にフェイトも表情を曇らせた。


「――じゃあ、朝礼はこれで終わります。今日も一日、頑張っていきましょう!!」




   魔法少女リリカルなのはStrikerS ファントムアリス

         第二話   過去の残影





午前の通常業務を行う機動六課では、一つの異変が起こっていた。
「ちょっと、フェイトさん!?参考資料はそれじゃなくてこっちです!!」
「……えっ?」
「テスタロッサ、こっちに別部署宛のが届いてるぞ?」
「……えっ!?」
「フェイトちゃん、これサイン入ってないで?」
「えぇっ!?」

機動六課所属の執務官、フェイト・T・ハラオウンのポンコツ化である。

書類の小さなミスから、捜査報告書を丸々破棄するなど、既に午前の業務で両の指を超えるミスを連発している。

“一体どうしちゃったんだろ、フェイトちゃん?”
“昨日の捜査会議から、ちょいおかしいとは思っとったけど……”
“シャーリーが言うには、ジェイル・スカリエッティが事件の主犯かも知れないって事で、色々思っているみたいって事だったけど……”
“これは、それとはちゃうな。何や……心此処に在らずって感じやもの”
十年来の友人二人は、フェイトの様子に関して念話で話し合った。

昨夜の会議でも、フェイトはペーパーの資料を散らばらせたり、空間モニターに移す映像を間違えたりした。
結局、調査報告の殆どをシャーリーが行ったほどだ。

普段は優秀なフェイトがそうなってしまうのは、何かメンタル的な影響を強く受けた時である。

一つの例を挙げれば、フェイトが初めて執務官試験を受けた際、とある事情からメンタルに影響を受けた結果、試験を落としてしまった。


その時の事は、なのはもはやても良く知っている。では今回は、何が彼女をそんな風にしてしまったのか。
“う〜ん………はやてちゃんは何か思い当たる事、ある?”
“いや、昨日何かあった事ぐらいは想像つくんやけど……そもそも、昼に出て次に会ったのは会議室やで?
これは考えてもどうしようも無いし、本人に聞いてみるしか無いんやないかな?”
“……そうだね。流石にこの状態が続くのは………うん、いただけない”
“じゃあ、私はちょっと出なあかんから。後はなのはちゃん、宜しくな〜”
“うん分かっ………えっ?”
脊髄反射的に返事をしかけ、なのははギリギリで留まる。
「はやてちゃんっ!?」
はやての言葉の意図を察したなのはが、勢い良く振り返る。するとそこには、入口前でこちらに振り返るはやてとリインの姿。
「じゃ、そういう事でっ!!」
「はやてちゃーんッ!?」
シュタッ、という音でもしそうな程、素早く手を上げると呼び止める間も無く、さっさと行ってしまった。

「に、逃げられた……」
なのはの伸ばした手が、ガクリと落ちる。
「わぁっ!?備品発注データが飛んだッ!?」
「あぁっ!?これ、送り先の部署が違いますよ!?」
「え!?ご、ごめん……どれ!?」
そうこうしている間にも、ポンコツ化したフェイトによる被害は広がり続けている。「ウッ……!?」
皆の助けを求める視線が、なのはに突き刺さる。
「………フェイトちゃん、ちょっと良いかな?」
「ゴメン、今手が離せないから……!」
「お願いッ!今のフェイトちゃんだと、被害が広げるだけだから!!」
なのはの悲痛な叫びに、フェイトはその手を止めて振り返る。
「………」
なのはが頷いて返し、そして周りを見回す。そしてがっくりと肩を落とした。
「ゴメン、ちょっと外すね………」
フェイトはどこか顔色も悪そうに、なのはに付き添われて事務室を後にした。

「―――うし、全員必死にやってやれ!!昼にはきっちり終わらせるぞ!!」
『―――了解ッ!!』
二人が出ていくと、ヴィータが檄を飛ばす。そして総員一丸となって遅れを取り戻すべく、奮起した。









隊舎の入り口すぐにあるホールのソファーにフェイトを座らせ、なのははその隣に腰掛ける。
「……一体、何があったの?何か、悩んでるよね?」
「………悩んでなんて」
「嘘だよ。フェイトちゃんの今の顔………初めて出会った頃に良く似てるもの……」
「え……っ!?」
なのはに指摘され、フェイトは反射的に隠す様に自分の顔に触れ、顔を伏せる。
「私で良かったら話してくれないかな?それとも、私じゃ何の力にもなれない?」「そんな事ないよっ!でも……」
ハッとして顔を上げたフェイトだったが、すぐに顔を伏せてしまう。

「言えない事、なの……?」
なのはが尋ねると、フェイトは小さく首を振った。
「何て言えば良いのか……………なのは」
たっぷりと間を開け、フェイトが零す。
「何、フェイトちゃん?」
「アリスさんって………誰かに似てると思わない?」
「えっ……?」









隊員寮前にアリスはいた。その手には竹箒と塵取りという、酷くアナログな掃除用具を持っている。
「シスター、そういう事は私の仕事ですから……」
そう言うのは、寮母を務めるアイナという女性。
当然、寮の周りの掃除などという雑務も彼女の仕事である。
「すみません。でも、やらせて下さい。教会では良くやっていたんで、やらないと落ち着かないんです」
「……じゃあ、私は寮の中を掃除していますから、何かあったら呼んで下さいね?」
「は〜い」
仕方ないと、アイナは寮の中へと消え、アリスは早速掃除を開始した。





鼻歌交じりに箒を動かすアリスの姿を覗き見る、二つの影。
「それで、アリスさんが誰に似ているの?」
「……母さん」
「えっ?」
「プレシア母さんに、似ているんだ」
「っ……!?」
フェイトの言葉になのはは驚き、改めてアリスの事を見る。
しかし、なのはには似ているとは思えない。

それというのも、なのはがプレシアの事を見たのは、アースラのモニター越しに見た一度だけである。
しかしフェイトが言う以上、相当に似ているのは疑いようも無いだろう。
「もしかしたら彼女は………母さんのクローンかも知れない」
「えっ!?そ、それは突飛過ぎないかな?もしかしたら……普通にプレシアさんの親戚筋とか。むしろこっちの方が、可能性は高いんじゃないかな?」
「そんな事無いよ。だって、あんなに似ているんだもの。母さんと関係が無いなんて思えない。
でも、母さんが私の前に……ううん、他の誰かが母さんの遺伝子から、作り出したのかも知れない。
もし、使われたのが”F”の技術なら………母さんの記憶を持っている事になる」
「……流石に考えすぎだと思うよ?」
「でも、もしそうだったら………」
なのはが気のし過ぎだと言ってみても、フェイトの心はやはり曇ったままであった。
フェイトにとって、プレシア・テスタロッサはそれ程に大きい存在であると、改めて思い知る。
「……なら直接、聞いてみるしかないんじゃないかな?」
「えッ!?」
なのはの提案にフェイトは驚きの声を上げる。
「だって、ここで考えても何にもならないもの。答えの出ない事を悩むなら、その方が良いと思うの」
「で、でも……」
なのはの言う事は何処までも正しい。何を考えても推測――想像の域を出ない。
ならば其処から進む為に必要なのは、恐らく全ての答を知っているだろう人物に問う事である。
だがそれは、フェイトにはとてつもない勇気の要る事であった。

「――――あれ?」
なのはが寮の方を向くと、そこにいる筈のアリスの姿は影も形も無くなっていた。「いなくなっちゃった……何処に行ったんだろ?」
慌てて物陰から出て見回すが、何処にも人影は無かった。


「――――ワッ!!」


「「わぁあああッ!?」」
背後から大きな声を掛けられ、二人が素っ頓狂な声を上げる。ビックリした表情で振り返ればそこには、探していた人物の顔。

「あ、ア、ア……アリスさんっ!?」
「アハハ……すっごい声だったわね。そんなに良いリアクションをするなんて、いや〜、驚かせた甲斐があったわ」
二人が呆然としている顔を見て、アリスは子供っぽく笑う。

“れ、レイジングハート……どうして気付かなかったの!?”
“バルディッシュ……どうして教えてくれなかったの?”

二人は呆然としたまま、互いのパートナーに問い掛ける。
しかし、返ってきたのは全く同じ答えだった。

“声を掛けられるまで、センサーに一切の反応はありませんでした”

「「―――ッ!?」」

アリスの得体の知れない部分に、二人は驚きの表情を浮かべる。

「二人揃って何をコソコソと覗いていたのかしら?」
「えっ!?……気付いてたんですか?」
「なのはちゃん、あれで隠れていたつもりなら……甘いわね。カムフラ率が低過ぎるわよ?」
「うぅ……って、カムフラ率って何ですか!?」
「アハハハ……!」
なのはが微妙な顔をするので、アリスはつい笑ってしまった。
「……それで?私に何か、用があるんじゃないの?」
「えっ!?えっと……その………」
なのはは思わず言葉を詰まらせ、フェイトを見る。それに釣られて、アリスもフェイトを見た。
「あ……えっと………何て言えば良いのか……」
二人の視線にフェイトは戸惑い、気まずそうに視線を逸らした。
「どうやら、言い難い話みたいね………立ち話もなんだし、中で話しましょうか?」
「……はい」
アリスに誘われ、二人は寮の中へと入った。




寮内のロビーのソファーに、向かい合う様にして三人は腰掛ける。
「それで、何か悩み事……なのかしら?」
座して向かい合い、なのは達は緊張に包まれる。
“それで、なのは……どういう風に聞くの?”
フェイトが念話で尋ねる。直接聞くという手段を提案したのはなのはであり、当然の質問をフェイトはした。
“………”
“な、なのは……?”
“………考えてなかった”
「えぇーっ!?」
余りの事に、思わず素で大声を上げてしまう。
アリスもいきなりフェイトが大声を上げて立ち上がったものだから、ビックリした顔をしているが、それどころではない。
「考えてなかったどういう事!?直接聞くって言ったのは、なのはなんだよっ!?」
「にゃはは……だって、考えて分からないなら聞けば良い……って、それしか考えてなかったんだもん」
余りにもお気楽な発言に、フェイトは軽く眩暈を覚えた。
本人に悪気がない事は分かる。だが、流石にこれはないだろう。


うな垂れるフェイトに、なのはは罪悪感を覚えつつ、しかしある事を思いついた。
“あっ、そうだ。聞く前にアリスさんの顔、ちゃんと確認してみたら?”
“え……?”
“だって、昨日は暗がりで見ただけで、それ以降はまともに見ていないんでしょ?だったら………ね?”
“そ、そうだね……よし”
フェイトはジッとアリスの顔を見た。睨みつけるような視線に、アリスは若干引いてしまう。
「えっと、何で睨まれているのかしら……?」

“どう、フェイトちゃん?”
“眼鏡のせいかな………昨日とは印象が違う気がする”
改めて見ると、あれ程に感じた似ている雰囲気を、余り感じられない事に気が付く。

ならばと、なのはは機転を利かせた。
「アリスさん、眼鏡を外して貰って良いですか?」
「全然機転が利いてないよ、なのは!?」
直球ど真ん中を投げるなのはに、フェイトがフルスイングなツッコミを入れる。
「別に良いけど……」
「すんなりと応じるんですか!?」
あっさりと眼鏡を外したアリスにも、ツッコミが飛ぶ。が、すぐにその表情が変わった。
眼鏡を外したその顔は、正しくフェイトの感じた通りであった。

似ているというには、余りにもそっくり過ぎる。髪型など細かい所は違うが、しかしそれでも、似ていると断言できるほどだ。
「っ……アリスさん」
フェイトはゴクリと固唾を呑み、勇気を持って真実に切り込もうとする。
「《プロジェクトF》というものを、聞いた事はありますか……?」
「ッ!? フェイトちゃん!?」
フェイトがその言葉を口にした事に、今度はなのはが驚く。

プロジェクトF。
F計画やプロジェクトF・A・T・Eとも呼ばれる禁忌の研究。

それは科学による死者蘇生の答え。記憶転写型クローン生成技術の総称。

ある科学者によって組み上げられた基礎理論をフェイトの母、プレシア・テスタロッサが完成させた。
だが、それは外部へと漏れ出し、幾つかの悲劇を今も生み出している。



アリスは今迄にない程に真剣な表情をし、眉を顰める。
「プロジェクトF………あの、忌まわしい計画の事ね。あんなものにまで手を出して……何故、人は望むのかしら?」
「「―――ッ!?」」
知っている。その事実に二人は、思わず拳を握ってしまう。
「じゃあ、やっぱり……!!」
「アリスさん、貴方は……!?」
「……え?私は違うわよ?」
食い入るような二人に、アリスは慌てて否定した。

「だって、私はこれでも《G》はあるんだから。《F》なんて意味ないでしょう?」「………………………え?」

豊かな乳房を腕で持ち上げて言われた思いも寄らぬ回答に、たっぷりの間が空く。そして、フェイトが有らん限りの声で叫んだ。


「誰が何時、バストのカップの話をしましたかーーーーーーっ!?」






「っ……!?」
信号待ちの車内で、はやては反射的に、隊舎の方角へと振り返った。
「今、誰かがおっぱい談義をしている気がするでっ!!」
「はやてちゃん、信号が変わったですよ。バカな事言ってないで、早く発進するです」
「はぁ〜あ……最近は皆、ノリが悪いなぁ〜………」
末っ子に冷たくあしらわれ、はやては渋々、アクセルを踏むのだった。







「………あれ?『プロジェクトF』ってあれでしょ?誰でもFカップになれるって言う、最新の豊胸美容術……」
「全然違います!!というか、そんなのがあるんですか!?」
「今月号のVEVEに特集されていたけど?全く、そこまでして大きくしたいなんて……信じられないわ」
「………VEVE、まだ置いてあるかな?」
「なのは、何で微妙に食いついてるの!?」
「フェイトちゃん、女子の美容に対する欲望は無限なのよ……」
「話が脱線しまくってるですけど!?とにかく、プロジェクトFは、そんなんじゃありませんから!!ふざけてるんですかッ!?」
勇気を振り絞って言った自分が馬鹿らしく思えてしまったのか、ソファーを力一杯叩く。
「ふざけてはいないわ………じゃあ、それはどういうものなの?」
「っ……!?そ、それは………」
一転して鋭い視線をアリスにぶつけられ、フェイトは言葉を詰まらせる。
向こうはこちらの言う事を聞いてくれた以上、こう尋ねられて「何でもない」と言う事は流石に出来ない。
少なくとも、フェイトの性格では無理な話である。

此処に至って、フェイトは漸く気付く。
アリスはこちらの性格を知った上で、何も聞かずに言う事を聞き、そうする事で、自分の質問に対する答えを、断り辛い状況を作っていたのだと。

アリスはニッコリと笑って、最後通告を出した。
「―――答えてくれるわよね?」
「……はい」


プロジェクトFを二人によって説明され、アリスは神妙な面持ちになる。
「記憶転写型クローン、ね………それで?」
「え……?」
「まだ、肝心な事を説明してくれていないわ。あなたが、私をクローンだと思った理由……私が、あなたの知った顔だったからじゃないの?」
「………」
アリスの言葉にフェイトは表情を曇らせる。
まるで全てを見透かした上で、こちらが話す事を促されている様な錯覚を覚えてしまう。

「……母に、似ているんです。いえ、似ているというより………瓜二つで」
「お母さん……って、リンディ・ハラオウン統括官に?」
「いえ、そっちではなくて………その……」
「じゃあ………プレシア・テスタロッサ、かしら?」
言いよどむフェイトにアリスが続ける。その名前に、二人が幾度目かの驚きの表情をする。

「どうしてアリスさんが、プレシアさんの事を……!?」
「何度か言われた事があるのよ。で、その人と私が似ているから……クローンじゃないかと?」
「……はい」
フェイトが頷くと、アリスは呆れたという風に肩を竦めた。
「流石に、それは突飛過ぎないかしら?大体、クローニングなんて設備は大掛かり、技術も繊細で、余程の事じゃないと考えないと思うけど?」
「母は優秀な技術者で、魔導師としても一流でした……プロジェクトFも、基は母が完成させた技術です………」
「創られる理由は十分にある、と………でも、私は違うわ。ちゃんと家族がいるし」
「ご家族……ですか?」
「母と妹がね。でも、母はもう亡くなったし、妹とも十年は会っていないかしら。あ、勿論、ちゃんとした血縁関係よ」
「ッ………すみません」
「別に謝らなくても良いわ。気にしてないもの」
微笑を湛えて答えるアリスに、フェイトは余計に後ろめたいものを感じてしまう。
それは故人の事を言わせたという事よりも、『家族』という言葉を怪しんだ自分への思いだった。

「―――という訳で、そろそろ良いかしら?お掃除の続きをしなくちゃいけないし」
パン、と手を叩いて、アリスはすっくと立ち上がった。
「―――えっ!?ちょっと待って下さいッ!まだ話は……!!」
慌ててフェイトも立ち上がった。彼女が嘘を言っているとは思わないが、それは全て、彼女が主張しているだけで証拠は何も無い。
まだフェイトの疑問が解決した訳ではない。

だが、次にアリスの発した言葉が、そんなフェイトの思考を一瞬で押し止めた。
「仮に私がその人の……あなたのお母さんのクローンだったとして………あなたはどうしたいの?」
「えっ………?」
「ただ事実を知りたいだけ?私を保護したい?それとも、私にお母さんになって欲しいの?」
「そ、それは―――ッ!?」
「もっとシンプルに聞くわ。個人としてのあなたと、執務官としてのあなた……私に質問しているのは、どっちのあなたなの?」
「っ……!」
まるで心を覗いているかのような言葉に、フェイトは驚きで目を見開いた。

フェイト個人は、アリスの言葉を信じられるものと感じている。
しかし執務官としての自分はそれだけで納得はできない。何故なら、プロジェクトFでなくとも、クローニング自体が犯罪行為なのだ。
彼女の言葉を裏付ける証拠、それが必要だと知っている。

ならば今、自分はどちらの自分でここに居るのか。事実を知って、自分は何をしたいのか。

尋ねられて初めて分かった。ここにいるフェイト・T・ハラオウンはどちらの立場にいるのか。
それさえも分からない、という事に。


「……それにね、もしも私が誰かのクローンだったとしても………あんまり気にしないかな?」
「え……っ!?」
「たとえ記憶を完全に写そうと……それが、どれだけ優れた技術でも………人は、誰の代わりにもなれない。
それは、自分という存在だけが………唯一絶対、自分に許されたものだからよ。
だからこそ命は尊く、それ故に失う痛みは果てしない…………そうじゃないかしら?」
「「…………」」
アリスの言葉が、波紋のように二人の心に響く。
見据える瞳は不思議なほど澄み切り、まるで鏡のように自分を映し出す。

「あなたは、それを知っている筈………でしょう?」

一言一言が重く、強く、そして優しい。
迷子を導くかの様に言われた言葉に、フェイトの瞳からは一粒の雫が零れた。
「あっ………」
慌てて拭おうとするフェイトに、アリスはそっとハンカチを差し出す。
「私は私の真実を自分で決める。他の誰が何と言おうと……それを変える気はないわ」
「………っ!?それって………!?」



―― 何が真実かは……フェイト、お前が決めれば良い ――



甦るのは、その身の真実を知った時、彼女に勇気を与えた言葉。
今は何処にいるのか、生きているのかさえ分からない。遠くへと消えてしまった、大切な人の言葉。

まさかそれを、他の人間の口から聞く事になろうとは、フェイトは思っていなかった。

「だから後は、調べるなり何なりして……自分が納得する答えを見つけて頂戴」









あの後、フェイトとなのはは寮を出て、隊舎へと戻っていた。
事務室へと向かう廊下で、フェイトは足を止めた。
「どうしたの、フェイトちゃん?」
それに気付いたなのはが振り返る。
「私……最低な事、したよね」
ポツリと零すフェイト。

アリスの事をプレシアのクローンではないかと疑い、彼女の存在を否定するような発言をしてしまった。
そもそも事件性が在るのならともかく、それさえ不明な状況で面と向かって言う必要は無かった筈である。

自分がやった事は、過去にプレシアがやった事と同じ様なものだと、今更になって気が付く。

「でも、アリスさんは気にしてないって……」
「本人が気にしていないから、何を言ってしまっても良いの?」
「そういう訳じゃないけど……でも、フェイトちゃんが気にしてても仕方ないんじゃないかな?
それにアリスさんも言ってたけど、フェイトちゃんがちゃんと納得すれば良いんじゃないかな」?
「それは分かってるけど……」
フェイトは歯切れ悪く答える。
なのはの言う事は正しいが、自分が納得できる答を見つけるには、アリスの事を調べる以外には無い。
最低限、彼女に“肉親”がいる事を調べなければならない。

だが、それをやってしまえば、恐らく自分は自分の事を許せないだろう。
身勝手な理由で人を疑い、調べるのだから。そこには自分の想いも、正義も無い。

彼女の身元が怪しいというなら話は違う。だが彼女は聖王教会の騎士、カリム・グラシアが正式に派遣したシスターである。
アリスの身元を探れば、遠からずカリムの耳にも届くだろう。
彼女は六課の後見人も務めている。最悪の場合、六課の運営に影響を与えてしまう可能性がある。

だが、クローンともなればその裏には必ず、何らかの犯罪組織が関わっている。

しかしそれは、アリスがクローンであると言う仮定に基づいている。


まして、今はジェイル・スカリエッティに関する捜査も行わなければならなず、私事に時間を割く余裕は殆ど無い。




「――でも、改めて思ったんだけど……そんなにプレシアさんに似てたかな?」
「……絶対に似てる。私が言うんだもん、間違いないよ」
「そっか。でも、私は………フェイトちゃんに似ている気がしたんだけどな〜」
「えっ……!?」


プレシアとフェイト―――そのオリジナルであるアリシアには当然、遺伝子的繋がりがある。

髪や瞳の色は違えど、親子であるプレシアとアリシアは似た顔立ちである。
それはつまり、フェイトとプレシアの顔立ちも似ていると言える。

そして、アリスがプレシアと瓜二つという事は、必然的にフェイトとも似ているとなる。


「似てる……?私とアリスさんが………?」
「うん。何て言うのかな………もっと、フェイトちゃんが大人っぽくなったら、あんな風になりそうだなって」
「………」

理論では確かにそうなるが、だがしかしフェイトは全く予想外の言葉を聞いたように驚いた。

自分はプレシアに似ていると思った。だから、彼女が母のクローンではないかと疑った。
だが、なのはの言葉を信じるなら別の可能性が生まれる。


それはすなわち、自分よりも前に作られた―――もう一人のアリシアのクローン。

恐らく記憶転写以前に、髪や瞳の色のせいでプレシアに失敗作の烙印を押されて、破棄された存在。

「〜〜〜〜〜ッ!!」
そこまで考えて、フェイトはブンブンと頭を振った。これでは、さっきの繰り返しになってしまうだけだ。


(ダメだ、今はアリスさんの言葉で納得しておくんだ……!私はここに何をしに来たの!?)
執務官としてレリック事件解決と、恐らくはその裏にいるであろうジェイル・スカリエッティの逮捕。
アリスの事はその後。全てが終わってからでも充分に間に合う事だ。

そう、自分を無理やりに納得させ、フェイトはなのはと共に事務室へと向かった。








二人が去った後、アリスは表の掃除を再開した。
テキパキと手際良く箒を動かし、ゴミを集めていく。

ふと、寮の窓に映った自分の姿に気付き、眼鏡を外して髪を掻き揚げてみる。
「う〜ん………そんなに似てるかしら?」
などと呟きながら、自分の顔をまじまじと見つめていた。









フェイトのポンコツ化によって齎された被害が、一応の終息を見た昼過ぎ。
隊舎内に設けられた食堂では午前の業務を終えた職員達が、昼食を取っていた。
その中で、疲労の色の濃い職員は言わずもがな、事務室にいた面々である。
「あぁ……キャラメルマキアートが美味しい……」
「カフェオレってこんなに癒されるんだな……知らなかった」
などと、彼らは口々に甘さを賛美していた。
「もっとだ、もっと砂糖を……」
彼らの脳は、どれだけ糖質を欲しているのだろうか。


現時刻、クラナガンで一番糖分の摂取量が多いであろう空間に、アリスも遣って来ていた。
しかし席には着かず、何故か壁際に立って、食堂全体を見回していた。

「ふむ………」
「―――あっ、シスターッ!!」
暫くそうやっていると、アリスに気付いたスバルがブンブンと手を振った。
その姿はさながら、はち切れんばかりに尾を振る犬の様だと、アリスは思ってしまった。

これは行くまで振り続けそうだと思い、アリスはスバル達の席に向かった。
「こんにちは、今日も四人で食事?」
「はい! シスターはあんな所で何をしていたんですか?」
当然の疑問を、容赦なくスバルは尋ねてきた。
「別に深い意味はないわ。ただ、随分と疲れている人が多いなぁ〜って思っただけ」
アリスは質問に答えつつ、空いている席に腰掛ける。
「今日もまた、見事な山が生まれているわね………これ、何人分になるのかしら?」
「基本、スバルに取らせているので分かりませんし、知るのも恐ろしいので考えません」
ティアナがスパゲッティ山を開墾しつつ答える。
「――で、あなた達も良く食べる方なの?」
と、話をサラダ山の向こうにいる二人にも振ってみる。果たして、ひょっこりと顔を出した赤い髪の少年は苦笑いしつつ答えた。
「最初はむしろ疲れて食べられなかったです。最近になってから漸く、普通に食べられるようになりました」
「私もそんな感じです。でも、エリオ君……少し食べる量、増えてきてるよね?」
「そ、そうかな……?あんまり自覚ないけど……」
二つの山の陰に隠れて見えないもう一人――キャロがそう言うと、エリオは自分の取り皿を見た。
言われてみれば、確かに増えてきたかも知れないと、こんもりと盛られたパスタに思ってみたりした。

「ところで、アリスさんは食べないんですか?」
「今、お皿とフォークを取りに行ってもらったから……あ、来た来た」
「クキュ〜!」
フリードが皿とフォークを咥えて飛んで来たので、手招きして呼んでやると、フリードは差し出したアリスの手の上に、静かに降り立った。
「ありがとう、フリード」
「キュクー」
アリスが食器を受け取って頭を撫でてやると、フリードは心地良さそうに鳴いた。
そんな光景に唖然とする、フォワードメンバー。
「………キャロ、フリード取られてるわよ?」
「………はっ!?ふ、フリードぉ!?」
ティアナの声にキャロがハッとして、慌てて白竜を呼んだ。


「―――ところで、皆は他の人達とはご飯を食べたりしないの?」
「他の人……ですか?」
「そう。例えば隊長さんとか……?」
サラダを取りつつ、四人に尋ねてみる。
「そう言えば……無いですね」
ティアナは思い出しつつ、サラダを口に運んだ。
「あたしも訓練でイッパイイッパイだし……全然ですね」
スバルもそう答え、アリスがエリオたちを見ると、二人も頷いた。

(う〜ん、これは何と言うか……もうちょっと、気に掛けた方が良いかしら?)

四人の答に、アリスは少しだけ不安を覚えた。







午後からは、新人メンバーは訓練を開始するというので、アリスはそれを見学させてもらう事にした。
といっても、訓練スペース内には入れないので、見渡す事が出来るヘリポートからであるが。

空間モニターに映るのはフォワードメンバーと、教導をするなのは、ヴィータの姿。
今回の訓練は模擬戦形式。
なのは、ヴィータの両名に対して、決まった攻撃を命中させる事で撃墜扱いとなる。
「流石に魔力リミッターが付いているとは言え……技術や経験が無くなる訳じゃないから、苦戦してるわね……」
なのは達隊長陣には、一部隊の保有戦力制限に基づき、魔力リミッターが付けられている。

かといって、魔力以外の運用技術が制限される訳ではない。

フォワード陣と隊長達とを分けるのは、技量と経験の差。
「あぁ……また撃墜された」
キャロがブーストを掛けてティアナが射撃するが、コントロールが甘く、なのはのシューターに潰されてしまった。
そのまま、距離を詰めたヴィータがティアナに一撃。シューターがそのままキャロを撃墜した。

残るのは、近接型二人。
「この状況を覆すのはかなり難しいけど………どうかしら?」
二人のスタイルは、かたや接近しての一撃必倒、高速接近からの一撃離脱とかなり似通っている。

この場合の戦術も当然存在するが、経験値の少ない二人では、それを打つことは出来ないだろう。

スバルがウイングロードを展開。ヴィータに向かって正面から突撃を仕掛ける。

当然、ヴィータはそれを許しはしない。シュワルベフリーゲンで迎撃。
スバルは、リボルバーナックルのタービンを回転させ、カートリッジを発動。そのまま烈風の拳を打ち出した。

ヴィータはそれに冷静に対処。バリアを使って受け止める。
「よっし!!」
その瞬間、スバルがウイングロードをヴィータの下に差し向けた。
シールドで受け流すように鉄球を躱すと、そのまま滑り込むように下っていく。
「何っ!?」
自分の股を潜るように抜けたスバルに一瞬、意識を奪われる。
「エリオッ!!」
「ハイッ!!」
その声はヴィータの後方。つまり、スバルのウイングロードの上から。

狙いに気付いたヴィータが動く。が、それよりも速く、エリオが突貫した。

エリオの加速力は未だ成長途中とはいえ、目を見張るものがある。
最大速度まで一気に加速した一撃が、ヴィータを貫いた――――かと思われた。
「―――甘いよ」
「うわぁッ!?」
エリオに向かい、頭上から幾つものシューターが襲い掛かった。無防備な背中を撃たれ、ウイングロードから弾き飛ばされる。
「エリオッ!?」
驚くスバルに、上空から襲い繰るものがあった。
「目の付け所は良かったけど……こっちが二人いるのを忘れたら駄目だよ?」
「わ、忘れてはなかったんですけどぉ………あぁあああああああッ!?」
スバルの断末魔の悲鳴と共に爆発。模擬戦はフォワード陣の全滅で終了となった。








訓練を終えたフォワード陣が、訓練スペースから出てくる。全員、疲労の色を隠せず、うな垂れていた。
そしてなのはは、訓練スペースの後処理をしていた。ヴィータはそんななのはの事を待っている。

「お疲れ様です。高町一尉、ヴィータ三尉」
「シスターアリス?どうしたんですか、こんな所に……」
アリスが声を掛けると、二人がこちらに振り返った。
「いえ、訓練を見学していたのですが……終わったようなのでちょっと。そういえば、ハラオウン執務官は参加されないのですか?」
「フェイトちゃんは六課の執務……法的な部分とか捜査で、こっちには余り顔を出せないんですよ」
「そうなんですか?」
「今頃は、午前中のあれこれで滞った業務に、あくせくしている頃だと思いますよ?」
「なるほど……やっぱりお仕事は、サボったらいけないわよね?」
「……つ〜か、あんたは何でここに来たんだ?何か用か?」
アリスがうんうんと頷いていると、その後ろからヴィータがジト目で尋ねてきた。
「えぇ。高町一尉にちょっと聞いてみたい事があって……」
「私にですか?」
「高町一尉の教導は、殆どが基礎訓練と模擬戦で占められていますよね?一体、どうしてなのかと思いまして……」
「どうして……ですか?」
「戦技教導隊といえば、最新の戦闘技術や新型武装の研究、開発に携わったり、訓練部隊の仮想敵、技術教官を務めるとお聞きしています。
その教導隊に所属する若手No.1エースの教導が……厳しいとはいえ、基礎と模擬戦の繰り返しというのは、些かおかしく思えまして。
やはり、何かしらの理由があるのですか?」
「あぁ、なるほど。そういう事ですか」
ポチポチとキーを操作しながら、なのはは答えた。
「確かに……戦技教導というと、そういったイメージがありますよね。でも、私はそういうのは、余り好きじゃないんです」
「好きじゃない?」
「優れた技術や戦術は、後からでも身に付きますよね?でも、基礎は違う。積み上げてきた時間が、そのまま現れます」
「だから徹底的に基礎と、戦闘経験を重ねる為に模擬戦を……?」
「はい。無理に背伸びをしなくても、皆は強くなれる。魔法戦闘は、自分の力を生かし切る知恵と戦術、そしてチームワークですから」
なのはは幾つかあったモニターを順に閉じていく。
「……それは、ご自分の経験から来るものですか?」
「っ……!?」
最後のモニターを閉じようとしたなのはの指が、一瞬止まった。同時に、アリスの後ろに立っていたヴィータの表情も変わる。
突き刺さるような視線を背中に受けながらも、しかしアリスは表情を崩さない。
「……どういう意味ですか?」
なのははキーを押し、モニターを閉じる。
「空尉にもそういった経験があったからこそ、そういう教導をするのかと思っただけですけど……何か?」
「……いえ。確かに、それもありますね。昔の自分は本当に……バカだったから」
「――もう良いだろッ! あんたと違って、こっちは忙しいんだよッ!!」
どこか自虐的に笑いながらなのはが答えると、背後から苛立ち混じりの怒声が響いた。
驚いて振り返ると、その横をズカズカと、不愉快さを露にしたヴィータが通り過ぎる。
一瞬、ギロリと睨み付けられたので、アリスは思わず半歩ばかり身を引いてしまった。
「行くぞ、なのは。シャーリーに渡す訓練スペースのデータ報告、纏めとかねぇと!!」
「えっ?ちょっと……ヴィータちゃん!?」
ヴィータはなのはの手を掴み、ぐいぐいと引っ張って行ってしまった。
「あらら、凄い剣幕……もしかして、地雷だったかしら?」
少しばかり踏み込みすぎたかと、アリスは苦笑いを浮かべた。







「ちょ、ちょっとヴィータちゃん!?そんなに引っ張らないでよ!! ……ヴィータちゃんっ!!」
なのはが必死に懇願するが、ヴィータは足を止めず引っ張り続ける。なのはは仕方なく、腕を強引に引き剥がした。
「―――もしかしてヴィータちゃん……あの時の事、まだ気にしているの?」
「別に……そんなんじゃねーよ」
「それなら、どうして?」
なのはが更に尋ねると、ヴィータは苛立ち雑じりに自分の頭を掻き毟った。
「むかついたんだよッ! 何にも知らねぇくせに、ウダウダと下らねぇ事を聞きやがるから……!」
「ヴィータちゃん……」
「っ………行くぞ。仕事があるのは本当なんだからな」
プイ、とそっぽを向いて、ヴィータは隊舎に向かって行ってしまった。
「ちょっと待って、ヴィータちゃん!?」
なのはは慌てて、その後を追い駆けた。













時は流れ、現在は夜。
機動六課フォワード陣、全員がミーティングルームに集合していた。

「―――全員おるな。ほんなら始めようか?」
部隊長八神はやては、全員を確認するように会議室を見回してから、口を開いた。

「さて、早速やけど……明日、機動六課は出張任務を行うことになったから」
「出張任務?随分と唐突だね……」
「まぁ、なのはちゃんがそう言う事も分かるよ。ちゃんと説明するから、聞き逃さんようにな?」
そこで一区切りすると、一同の顔を見やった。
「……まず、今回の出張任務は聖王教会からの正式な依頼や。教会とこの六課はレリックの捜索、確保において協力体制にある。
とはいえ、こっちがレリックだけ追っとれば良いのと違って、向こうは別件でも動いている訳やけどな。
………今回、教会の方にロストロギアを運搬していた船が事故を起こして、積荷が別世界に落ちてしまったという情報が届けられた。
そして聖王教会から機動六課に、その回収依頼が回ってきた。さて、ここまでで何か質問は?」
「はい。質問、よろしいでしょうか?」
「ほい、ティアナ」
手をすっと上げたティアナを、はやてが指差した。
「教会は何故、自分達で回収を行なおうとしないのですか?」
「う〜ん……何でやと思う?」
質問に質問を返し、はやては意地悪く笑う。

ティアナは執務官志望である。もしも合格し、念願叶えば、自分の力で事件を捜査しなければならない。
当然、はやてもその事を知っている。自分が試されていると感じたティアナは、考え始める。
(回収に戦闘等の危険が伴う?いや、そもそも教会には、教会騎士団という固有戦力があるし、戦力的にはここにも負けてない筈。
………つまり、教会は回収に行けないから依頼してきた?騎士団が行けず、私達が行ける場所……)
「もしかして、ロストロギアの落ちた場所というのは……管理外世界ですか?」
「ご名答。ま、もっと正確に言うと………その管理外世界いうんが……私らと関係の深い場所なんよ」
「関係の深い場所……まさか、それって!?」
何かを察したのか、なのはが声を上げる。それに次いでフェイトもはっとした表情を見せた。










「管理外97世界……現地惑星名地球。場所は日本の海鳴市………これ、何の冗談ですか?」
アリスはモニターに浮かんだ文字を見て、何とも言えない表情をした。それを見て、もう一つのモニターに映るカリムがニッコリと微笑む。
『何の冗談でもないですよ?明日の朝、はやて達はそこに向かいます。あなたには、それに同行して欲しいのです』
「……同行?でも、任務である以上不自然だと思いますけど?」
『大丈夫。こちらから正式の書面を送っておきます。あなたなら、土地勘もあるでしょう?』
「土地勘って……そこまで詳しい訳ではないんですけど?」
『それでも、フォワードの子達よりは知っているでしょう?』
「まぁ、そうですね……でも、良いんですか?」
『何がですか?』
「機動六課、動かしたくはないんでしょう?」
アリスがそう指摘すると、今度はカリムが苦笑した。
『本当なら、そうしたかったのですけどね……落ちた場所が何と言うか……これも、聖王の導きなのでしょうか……?』
「任務は口実で、ただ里帰りをさせてやりたい……と?」
『……それも、確かに理由の一つです』
「――出張任務、了解しました。お土産は何が宜しいですか?」
アリスが肩を竦めながら尋ねると、カリムは顎に指を当て、考える素振りを見せた。
『そうですね………良い茶葉があれば。後は何か美味しいお菓子でも』
「分かりました。どちらも心当たりがありますから、楽しみにしておいて下さい」『お願いしますね』


カリムが通信を切ると、アリスは改めて出張先を確認した。
「何度見ても、海鳴市よね………」
海鳴市。無限とも言える広がりを持つ次元世界において、僅か一年の間に二度もロストロギア事件の中心となった町。
次元世界の中心ミッドチルダならまだしも、管理外世界でそんな事例は、アリスの知るでは限り存在していない筈である。

オカルティズムを語る気はないが、三度目となれば流石に、何かしらの因子がここには在るような気さえしてしまうのも、仕方ない事だ.

「はてさて、どうなりますやら………」

自室の窓から見上げる夜空は、地上の輝きで星が霞んで見えていた。






























では、拍手レスです。


犬吉さんへ>
新シリーズ、見たぞー! 続き、楽しみにしていますね。


>読んで頂き、ありがとうございます。
すっかり遅くなってしまって、申し訳ありませんでした。

自由奔放、悪戯大好き、如かして人を惹きつける魅力を持つ謎のシスター。
そんな彼女の存在が、機動六課にどう影響していくのか、お楽しみ下さい。





拍手はリョウさんの手によって分けられております。
どなたに当てたものか、宛先をお書き下さいますよう、ご協力をお願いします。

あなたの拍手が無事、作者の方々のもとに届きますように。











作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。