夜天の王の帰還。守護騎士達の復活。
悲劇に向かっていた道は強い思いによって、ここで大きく変換される。


されど一人、闇に捕らわれたままの魂があった。


闇が躍る聖夜は、まだ終わらない。



   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

     第二十話  聖夜、永遠の夜が終わる刻(前編)



足元に転送魔法陣が光り輝き、連音はやれやれと嘆息した。
はやての覚醒で、事態を打開する手段は僅かに見えてきた。

尤も、それを地球でする事になったのは、痛い所ではあるが。


被害は、決して軽くないだろうから。



ともあれ、今はここを出る事が先決。連音は転送されるのを待った。

『――ッ!?ツラネッ!!』
「何――ッ!?」
突如として真下から、無数の闇が襲い掛かる。それは魔法陣を破壊し、連音の体を絡め取った。

「うぐ……ッ!?」
ギリギリと締め付けられ、苦痛の声が漏れる。

『―――逃がしはしない』
「何……!?」

深遠より、それは浮上した。
『口惜しい……我は切り離される……。されど、闇の書在る限り、我は不滅。我在る限り、闇の書もまた……不滅』

闇から現れた巨大な体躯は異形の一言に着き、禍々しきその頭部には、先まで戦った防御プログラムと同じ姿があった。

『もうすぐ我は、意思を失う……されど、我はこの世界を滅ぼさなければならない』
「っ……!させると思ってるのか……!?」
『故に、汝はここに留まるべし……そして、この世界を滅ぼし……真の、闇の書の守護騎士となれ』
「グッ……!?」
ガクン、と強力な力に引き摺られ始める。
瞬間、暴風が吹き荒れ、そこに存在する全てを、彼方に吹き飛ばさんとする。
『さぁ……共に堕ちよ』
「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
『―――ツラネェエエエエエエエッ!!』
アリシアが必死に押さえようとするが、それごと、全ては弾き飛ばされた。






















人間が憎い。

大事な人を奪った、この世界が憎い。


力を恐れ、しかし愚かなまでに求める者達。


あぁ、この怒りは、憎しみは、絶望は――――。


全ての世界から【人】という存在が消え去るまで、きっと消えはしない。

ならば、私は世界を滅ぼす呪いとなろう。


夜空に輝く星は、人々の命と運命を現しているという。

ならば私は、夜天の星の全てを葬る闇となろう。


管理者権限発動。
――――名称変更『闇の書』。

これから頂く夜に、星など要らない。
一筋の光も許さない闇こそが相応しい。


私が死しても尚、世界を滅ぼす為に手を加えよう。


人間のいる、どの世界へも向かうように、ランダムの転生機能を。

主が蒐集を行うように、その命を人質とするシステムを。

守護騎士の記憶を改竄し、夜天の書に関する記憶を排除。

それらを統括する存在として、防衛プログラムを改変。

何者にも破壊されない為に、無限の再生機能を。

何者にも修復されないよう、夜天の書のデータを抹消しよう。



そして、人間を抹殺する中核として、私の意識を複写し、潜り込ませよう。


私は噂を流す。闇の書という、持ち主に大いなる力を与える魔導書がある、と。


餌は撒いた。後は勝手に喰らいつき、そして滅んでいく。
何処までも愚かで、救い難い生き物達は……唯の一人すら、その存在を許しはしない。




『―――今まで、私は幾つもの世界を滅ぼしてきた』

『なのに何故……?何故、邪魔をする……?!』

『人に、存在する価値など無いというのに……!!』


「―――ッ!!?」
突き抜けるのは果てしない絶望――――否、果てしない闇。

たった一人の人間が世界に絶望し、人間に絶望した……その記憶。



再生されるのは、悪夢。
それは少年の全てを呑み込み、狂わせんとする。


「グァ…アァアアアアアアアア………ッ!!」
喉が血を吐かんほどに絶叫し、瞳が枯れんばかりに涙を吐き出す。

発狂しそうなほどの苦痛が駆け巡り、心が崩壊するほどに悲鳴を上げた。









『――――ツラネッ!!』
「―――ッ!ハッ!?」
アリシアの声に、連音はハッと目を覚ます。
「っ………今のは、夢……か?」
全身から汗が噴き出し、気持ち悪さが伝わる。

数度、頭を振ってから、周囲を改めて見渡す。
辺りには内部空間と同じように、闇がたゆたう。

「琥光、どれ位……意識を失くしていた?」
“九十一秒”
「一分半か……ここは何処だ?」
『多分、闇の書の防衛プログラムが創った内部空間……閉じ込められたみたい』
アリシアの言葉を聞き、連音は少しだけ、意識を失っていた時の事を考えた。

流れ込んできた殺意と悪意、そして絶望。
もしもあの夢を、防衛プログラムが―――その中に隠された『複写された意思』が見せたものならば、どんな意味が在るというのだろうか。

「……今はとにかく、外に連絡を取らんとな。琥光、外と連絡は?」
“現在、十九回目 試ミ中”
連音も思念通話を試みるが、余りにもノイズが激しく、頭が痛くなった。









同時刻、外は騒然となっていた。

なのはは、フェイトが解放された時にいなかったので、はやてと共に脱出するとばかり思っており、
はやては転送プログラムの起動を確認したという言葉に、すでに外に出ていると思い込んでいた。

フェイトにいたっては、連音が中にいる事どころか、駆けつけた事さえ知らなかった。


この状況で何故、連音の名が出るのか分からない騎士達は、なのはとはやての説明を受け、衝撃を受けた。

今まで敵と思っていた相手と、はやての恩人と思っていた相手が同一人物であったのだ。
それも仕方ない事だろう。


「リインフォース、どういう事や!?転送プログラムは、ちゃんと起動したんやないんか!?」
『はい、間違いなく……同じく取り込んだフェイト・テスタロッサが、そこにおります』
リインフォースの言葉に、はやてがフェイトを見る。いきなり見られ、フェイトがちょっとだけ驚いた顔をする。

「せやったら、何で……何で、連音君はおらんのや!?」
『…………ッ!?まさか……欺かれたッ!?』
「欺かれた……?」
はやてが聞き返すと、リインフォースは全員に聞こえるように説明した。

『彼がいた場所は、防衛プログラムのすぐ傍。管制プログラムである私の転送を邪魔できるのは……』
「防衛プログラム……って事は!?」
全員がハッとして、海上に生まれた闇のドームを見下ろした。

「――― 一体、何があった!?」
「っ!クロノ君ッ!!大変なのッ!!」
上空から掛けられた声に全員が振り返り、なのはが必死な形相で訴える。
「クロノ君、連音君が!!」
「レンが……レンが!!」
「ちょっと待て!落ち着け!!」
更にフェイトとはやてに迫られ、クロノは慌てて制した。
三人揃って喋られては、何があったのか全く分からない。

「ユーノ、何があったんだ?」
この中で一番、冷静さを保っているであろうユーノを選び、説明を求める。
ユーノは頷いて話し始めた。

「連音君がはやてちゃんを覚醒させようと、闇の書の中に入ったんだけど……脱出を、防衛プログラムに邪魔されたみたいなんだ。
そして多分、あそこにいる…………と、思う」
ユーノがドームを指差して言うと、なのは達がうんうん、と頷いた。

クロノはそれを聞き、手で顔を覆って盛大に溜め息を吐いた。
「ったく、幾ら何でも無茶過ぎるだろう……!?それで、連音があそこにいるのは確認できたのか?」
転送座標のミスという事も在る。もしかしたら地球の裏側か、いしのなかにいる。かもしれない」
「クロノ君!全然笑えないよ!?」
「とにかく……仮に、あそこに連音がいるのだとしたら……事態はとてつもなく困難になる」

連音の救出と、防衛プログラムの停止。
二つ同時の成功率は――――無いに等しい。


天秤に掛けるしかない。
クロノは爪が食い込むほどに、強く拳を握った。

どうか、見つかって欲しい。何処か遠くで。




『クロノ君、皆……連音君のバイタルを確認できたよ……』
エイミィが、厳しい口調で伝える。
それだけで全てが分かってしまう。しかし、誰もその続きを待った。

『目の前の淀み……防衛プログラムのある場所から……ッ!』


「「「――――――ッ!!」」」


彼女達は、否応無く選択を迫られた。

連音を助けるか、世界を守るか。


その犠牲を考えれば、重きは後者にあるのは当然で、考えるまでも無い。

それに連音を救出する手段も、現状では――――無い。



『……こえ……か?』
「え……?」
シャマルは、突然聞こえた何かに辺りを見回した。そして自分の指に嵌められたクラールヴィントを見る。

気のせいかと思っていると、再び宝石が点滅した。
『おー……れか、聞こえ……か!?』
「ッ!?連音君ッ!?」
シャマルが余りの驚きに叫び声を上げる。
しかしノイズが酷く、殆ど聞き取れない。

「クラールヴィント、感度最大!!」
“Jawohl”
指輪からペンデュラムに姿を変え、四つの宝石がアンテナのように伸びる。

魔力を集中し、何とか声を拾おうとする。
「エイミィッ!」
『了解!』
クロノの声にすぐさま反応し、エイミィがコンソールを凄い勢いで叩き始める。
『―――見つけた!ノイズ消去……感度増幅……よし、そっちに送るよ!?』
エイミィが最後のキーを叩くと、クラールヴィントからハッキリと連音の声が聞こえた。

『おーい、誰か聞こえないか〜?』
なのは達の混乱とは全く違う―――聞き様によっては、呑気とも取れる程に落ち着いた声。

「つら「連君ッ!?」「レンッ!?」「連音君ッ!?」えぇっ!?」
シャマルが口を開いた瞬間、なのは達がそれを押し退けて喋り出した。
『うおぉっ!?』
「おい、君達!!」
クロノが何とか治めようとするが、《三人寄れば何とやら》という訳ではないが、収拾の糸口さえ掴めない。

「連君、大丈夫なの!?」「レン、怪我とかしてない!?」「連音君、無事やな?無事やよな!?」
『あ、あぁ……大丈夫。はやてもフェイトも出られたか……良かった良かった…』

「「「全然良くないッ!!」」」

『あのさ……誰か一人にしてくれ。俺は聖徳太子じゃないんだ……三人一片じゃ解り辛い』
通信の向こう側が、それを見守るメンバーには手に取るように分かる。
物凄く苦笑いをしているだろう。

「じゃあ、わたしが話すよ!」
「待って、わたしが……!」
「いや、ここはわたしが話すから!!」

これがトリオのコントなら、「どーぞどーぞ」とでも行きそうな流れだが、生憎とそうはならない。


「―――いい加減にしろッ!!」
「「「―――ッ!!」」」
収拾がまったく着かない事態に、ついにクロノが怒鳴った。
「彼が心配なのは分かる!だが、事態は一刻を争うんだ!!この通信だって、何時切れてもおかしくは無いんだぞ!?
―――僕が話す。文句は無いね……?」
「「「……はい」」」
本気で怒られ、シュンとする三人を尻目に、クロノが進み出た。

「聞こえるか、連音?」
『あぁ……良い怒鳴りっぷりだったぞ、クロノ?』
「茶化すな。時間が無い。そっちの状況を教えてくれ」
『脱出する時、派手に邪魔をされた。で、気を失って……目覚めてみれば闇の中だ』
「侵食はされていないのか?」
『どうやら、大丈夫らしい……とはいえ、何時までかは分からないがな……』
連音の言葉を聞き、クロノは表情を厳しくした。
「こちらの方も、状況を説明する。君達も一緒に聞いてくれ……」
クロノが振り返り、なのは達に言う。全員が頷いたのを見て、話を続けた。

「切り離された防衛プログラムが後、数分で暴走を開始する」
『その際、私が割り込みを掛けた。更に数分程度だが、遅延した筈だ……』
「……その時間で、この暴走を何らかの方法で停止させる手段を考えないといけない。
そして…………平行して、君の救出プランも考えなければならない……」
『…………クロノ、分かってるんだろ?』
「あぁ……それでも、だ」
『なら、はっきり言おう。俺の救出は………考えるな』


はっきりと言い切る連音に、クロノは目を伏せた。そう言うだろう事は、分かっていた事だからだ。
「ちょっと待って!」
溜まらず、なのはが口を挟んだ。
それに続いて、はやてらも加わる。
「自分を助ける事を考えるなって……何を言っとるんや!?」
「そうだよ、レン!はやての言う通りだっ!!絶対に、何とかするから……!」

『俺を助けようとして……結果、世界を壊されて……お前らは、それで良いのか?』
「で、でも……っ!」
『今は、暴走を止める事だけを考えろ。他の事に気を回す余裕は無い筈だ』
「それでも、わたしは嫌だよッ!!大事な友達を……助けられないのは……嫌だ……!」

なのはの悲痛な叫びに、誰もが顔を伏せる。

「レン……諦めないで。絶対に助けるから。だから……お願い………」
フェイトが涙の粒を零しながら吐き出す。

「連音君……何とかするから、わたしが何とかするから!!」
「主はやて、もう……」
シグナムが、はやての肩に触れる。
「っ!もう……もう何や!?わたしは―――」
「これ以上……彼を困らせてはなりません」
「……ッ!!」
「……死にたくない。しかしそれでも、覚悟を決めた。その覚悟を……無駄にしてはいけません」
「そんなん……何でや……!」
シグナムの言葉に、はやてが泣き崩れた。何も出来ない、することの出来ない自分に怒りが込み上げた。


『……クロノ、一つだけ聞いて良いか?』
「……何だ?」
『もしかして…………俺が死ぬ事を前提に……話してないか、お前ら?』
「………………何?」

連音の発言に、全員がクラールヴィントを、呆気に取られた風に見遣る。

波の音だけが異様に、良く響いた。


『お前らなぁ……俺を殺す方向で、どんどん話を進めるなぁああああっ!!』
「いや、そうとしか聞こえなかったぞ!?」
『どっちもなんて中途半端になるだけだから、暴走を止めるのに集中しろと言ったんだ!!
誰も「構わず、俺ごとやれ!」とか言ってないだろうが!!……俺は、自力で脱出する。心配するな』
「出来るのか……!?」
クロノが驚きに満ちて聞き返す。それは全員が聞きたいことだった。

『出来る……確率は低いがな』
「低いって……どれくらいなの?」
『4、5%……ぐらいかな?』
「えぇっ!?たった、それだけなの!?」
なのはが驚きに絶叫する。
『あのな……4、5%って、結構高い確率だぞ?百回やれば四回は、二十回やれば一回以上は成功するんだぞ?』
「自分で低いって言ってたでしょ!?」
『俺が言う分は良いんだよ!!論じる必要も無い!俺には脱出手段があるが、そっちには救出手段が無い……だろ?』
連音が言うと、なのはは押し黙った。
「安心しろ。せっかく用意したクリスマスプレゼントを、無駄にする気は無いさ。それに俺の夢は、こんな所で終わって良いものじゃない……!」
「連君……」

『クロノ、そういう……から……ッ!?ノ…ズが……!?』
「ッ!連音!?」
『そっち……まか…た……!』

ブツン。と通信が途切れる。

「エイミィッ!」
『ごめん、完全に切れた……』
「分かった……引き続き、探してくれ」
『了解』


クロノは深く息を吐き、全員に向き直った。
「とにかく、僕達は暴走の停止に集中する……良いね?」
「でも、クロノ……」
「フェイト、僕達には時間が無い……連音は脱出する。そう、信じるしかない」
「……うん」

フェイトも渋々ながら引き下がり、改めて事態への対策を話し合うのだった。





そして、通話が途切れてしまった連音はといえば、さて如何したものかと頭をポリポリ掻いていた。
「やれやれ、切れちまったか……」
『一体、どんな方法を考えるのか……想像するに恐ろしいわね……』
「う〜ん、脱出前に吹っ飛ばされないと良いんだが……」
防衛プログラムは、例えるなら魔力の塊だ。それを破壊するには相当の大出力が必要となる。

だからこそ、その破壊には魔導砲【アルカンシェル】の使用を前提として、作戦を考えていたのだ。

「本当なら、どっか生き物のいない世界……被害が少ない場所で、と思っていたんだが……油断したな」
『油断……?』
アリシアの疑問の声に、連音は頷いた。
「蒐集は一人につき一度。まさか、守護騎士だけは例外だったとは思わなかった……」
闇の書との戦闘に入る前、レイジングハートから琥光に、簡単な経緯が纏められたデータが送られていた。

それを聞きながら、連音は内心で舌打ちしていたのだった。

闇の書の絶対条件。蒐集の限定。それに例外があるとは思わなかった。

発掘された膨大なデータの中から、守護騎士が蒐集されたデータはあった。
しかし、もしかしたら見落としがあったのかも知れない。

いや、恐らくは在ったのだ。

アガスティアは、情報収集型ロストロギアである。
その能力は無限書庫すら凌駕するだろう。

人的ミス以外に、在り得ない。


今更そんな事を考えても、如何しようも無いが。



「今は脱出の事を考えよう……ところで、アリシア?」
『何……?』
「―――お前、何でいるんだ?」








『今更ぁああああああああああああああああああああっ!?』
アリシアが盛大に突っ込んだ。
耳元で大きな声を出され、連音は耳を押さえて顔を歪ませている。

『今までずっと、普通に話してたよね!?それで、今になってそれを聞くの!?期限切れもいい所よ!?』
「いや、ずっと疑問ではあったんだが……まぁ、後で良いかと……」
『未来を誓った相手を後回しにするのッ!?』
「未来過ぎるだろッ!……で、一体どうして?」
ぐいぐいと詰め寄るアリシアから視線を外しつつ、連音が尋ねる。
物凄いジト目で見られているのを、ヒシヒシと感じる。

『っ……もう良いわよ。えっと、時の庭園で消えた後……ツラネとは会ってるわよね……覚えてる?』
「あぁ……もう二度と会えない、そう思っていたんだがな……」
『ふふっ……また逢えて嬉しい?』
「茶化すな。それで?」
少しばかり照れているだろう顔を見て、アリシアはクスクスと笑いながら続けた。
『うん。それからずっと、私はツラネの中で眠っていたの……ジュエルシードの力で』
「ジュエルシードの力?」
『私がジュエルシードを使って願ったのは……ツラネを守る事。その力が残っていたみたい。
多分……ツラネが重傷を負ったせいね。その結果、私の魂はツラネの中に戻ったの……』
連音は時の庭園で瀕死の重傷を負った。その際、アリシアがジュエルシードの力を使い、連音の命を繋ぎ止めていたのだ。
魂の対価となるのは、魂のみ。ジュエルシードの力によって連音の魂をアリシアの魂が支える事で、命を保つ事が出来た。

その残滓―――魂の欠片が、消え逝くアリシアを引き寄せたのだろう。

『そして、この世界……死に最も近い世界がフェイトの中の、私の心を目覚めさせた。
そして魂が、その心を呼び寄せた……あなたの元へと私を導いてくれた』
アリシアはそっと、自分の胸に手を当てる。そこにある何かを愛おしむ様に。

「なるほど……だが、あの力は何だったんだ?」
アリシアが復活した理由は取り合えず分かったものの、疑問はもう一つ在った。

防衛プログラムの端末とのリンクを破壊した謎の力。
およそ人の身には納める事の出来ない、強大な魔力。

そのどちらも、アリシアは持っていない筈である。


『あれかぁ……あれはねぇ〜……えっと……』
余程言い難いのだろうか、アリシアは腕を組んで首を捻っていた。
「………」
そうして待っている時間が勿体無いと思ったのか、連音は琥光にカートリッジを込め始めた。
カシャン、カシャンという音が良く響く。

『ちょっと!そっちから聞いておいて、それは無いでしょ!?』
「言い難い事なら、無理には聞かない。それに、そろそろお喋りも終わりにしないとな……」
ガシャン。と、カートリッジを詰め終え、連音は言った。

「どうせ、ジュエルシードの力が関係しているんだろう?」
『アハハ……お見通し?』
「何となくだがな……」

アリシアは長い髪を弄りながら、苦笑いを浮かべながら答えた。
『私……ジュエルシードの力を、二回使ったでしょう?特に二回目……ジュエルシードの魔力で実体化して……。
その影響なのか……何か、ジュエルシードの力をコピーしちゃったみたいなのよね〜』
「………ほう」
『リアクション薄ッ!?』
「あれだけの陰氣の中で、何十年も正気を保つ程の魂を持っているんだ。それぐらいは在り得るだろう……」
『まぁ、ジュエルシードみたいに次元震を起こしたりはしないし、”願いを叶える力”も、条件が細かいみたいだけどね………ッ!!』

その時、内部空間を地震が襲った。しかし、地面の無いこの世界で自信など起こる筈が無い。

『この世界……結構、不安定みたいね』
「外と通信できたのも、そのせいだな……そろそろか?」
徐々に、揺れが大きくなっていく。それと共に闇の揺らめきも大きくなっていく。


連音は琥光を抜き、鞘を柄頭に当てる。すると琥珀色の光に包まれ、それは長柄の姿となった。
「琥光、長巻乃型……!」
長巻――薙刀に似た姿となった琥光を、舞い踊るように振るう。

白い光が、闇に基線を描く。
「五行―――顕現!!」
足元に、純白の術方陣が光り輝いた。
「我が身、この世に唯一つ……我が刃、常に心と一つ也!我が身に刻むはその御印!我が魂に刻みし誓い、今こそ果たす力となれッ!!」
背に現れる、竜魔の翼。全身に刻み付けられる刻印。

「―――禁術発動!刻印の行ッ!!」


再び羽ばたく力持つ翼。
『……連音、本当に脱出できるの……?』
不安さを隠し切れず、アリシアが尋ねる。
「俺一人なら、無理かも知れなかったが……アリシアがいるなら、絶対に脱出できる。だから、”信じろ”……!」
『………うん、”信じる”。あなたの言葉を……!』
アリシアの体を、蒼白い光が包み込む。
それが連音の魔力と混じり合い、刻印の翼を更に輝かせた。











海鳴海上では、いよいよ暴走が開始しようとしていた。
『皆、暴走開始まで後五分だよ!!』
エイミィの声で、全員の顔に緊張が走る。

「全員、最後の確認をする!!防衛プログラムのバリアをヴィータ、なのは、シグナム、フェイトの順に攻撃し、バリアを破壊。
その後、はやてと僕で足止めし、砲撃のチャージタイムを取る」
「そうしたら、私達の一斉砲撃で破壊。コアを露出させて……」
「ユーノ君達の強制転移魔法で、アースラの前に転送。後はアルカンシェルで蒸発させる……だよね?」
フェイト、なのはが言葉を続け、クロノは頷いた。

「その間に何とかして、連音君が脱出してくれる事を祈るしかないな……」
はやてがそう零すと、全員が何とも言えない表情になった。

現状で、士気を落とすような事を言うべきではないが、それでも思ってしまう。


通信はあれ以降復活せず、決まった作戦も伝える事が出来ない。

状況は一刻を争い、チャンスはたった一度。しかも、余りにもギャンブル染みている。

士気の低下は、作戦成功率を下げる事になりかねない。



「大丈夫だ。心配は要らない」
「っ!?クロノ君……?」
ポン、とクロノの手がはやての頭に乗せられた。
「あいつは無茶はするが……嘘を吐く奴じゃない。絶対に脱出する……そう信じるんだ」
「うん……そうやね。絶対に大丈夫や。ちゃんとクリスマスプレゼント、貰うんやから……!」


「ッ……」
そんな様子の二人を、フェイトは何故か複雑な面持ちで見ていた。
(何でだろう……凄く、嫌な感じがする……)
苦しいような、モヤモヤした感覚が、胸に広がっているのを感じる。

「フェイトちゃん、如何したの?まだ何処か痛むの?」
共にシャマルの回復魔法を掛けて貰い万全となったのにと、なのはが心配そうに顔を覗かせ、フェイトは慌てて首を振った。
「ううん!何でもないよ……大丈夫……!」
「……そう?余り、自分だけで抱え込まないでね?不安で緊張してるのは、皆一緒だから……」
なのははフェイトが、緊張と不安に襲われていると思ったようであった。
フェイトは頷いて、少しだけ深呼吸する。
(集中するんだ……わたしがミスしたら、レンが……帰って来れなくなる……!)



さて、そんな様子を遠目から見ていたシャマルは、視線を動かし、はやてとクロノ、フェイトを交互に見ていた。
そして、「ふむ…」と思考する。

(もしかして、クロノ執務官ははやてちゃんの事を……!?ありえることだわ!だって、はやてちゃんはあんなに愛らしいのだものっ!
でも、そんな彼の事をテスタロッサちゃんは気になっていて……あぁ!何ていう、とらいあんぐるハート!?
でも、はやてちゃんに連音君という決まった人がいるの……全てを丸く治めるには……そう、クロノ執務官とテスタロッサちゃんを、くっ付けちゃえば良いのよ!!
流石、流石よシャマル!!伊達に悪魔参謀と呼ばれた訳ではないわ!!リンカーコアを抜くだけが能じゃないのよ!!攻撃魔法だって使えるんだから!!)

勘違いの上に、思考が脱線までしてしまっていた。






アースラからの中継映像を、本局内でグレアム達も見ていた。
作戦に関しても、先ほど伝えられた。

「……若いな」
「……若いという事は、それだけの可能性と、未来を純粋に信じられる……そういう事なのでしょうね」
レティが、ティーカップに口を付ける。一口、紅茶を飲み、続けた。

「――『大人は、未来を守る為に戦い、子供達は未来を掴む為に戦う』という言葉をご存知ですか?」
「…………あぁ、知っているよ。クライド君の口癖だったからね……」
「私は、思うんです。闇の書にあんな子供達が立ち向かうのは……きっと、必然だったのだと。らしくないとは思いますが……」


その時、クロノからの通信が届いた。
『見えていますか、提督?』
「あぁ、見えているよ……」
『闇の書は呪われた魔導書でした。その呪いは幾つもの人生を喰らい、それに関わった多くの人達の人生を狂わせてきました。
僕も母さんも、多くの被害者遺族も………こんな筈じゃない人生を進まなきゃならなくなった。そしてそれは、提督やリーゼ達もきっと……』

クロノはデュランダルのカードを取り出す。
『失くしてしまった過去は、変える事が出来ない。だから……!!』
“Start up”
その手の中に、氷結の杖が起動する。
『今を戦って、未来を変えます……!!』
「―――ッ!!」
クロノの力強く、真っ直ぐな言葉。その瞳にグレアムは、在りし日の幻影を見た。


(―――そうか。これが、君の答えなのか……クライド君)


未来を信じる。
より素晴らしい未来を掴めると信じる。

彼は信じたのだ。
生き残った者達が、その子供達が、より良い未来を掴む事を。だから、彼は最後まであそこに残ったのだ。


時を越えて、世代を超えて、グレアムはクライド・ハラオウンの答えを確かに受け取ったのだった。









『暴走開始まで後二分……皆、準備は良い?』
「全員、配置に付いてくれ!!」
クロノの指示に、全員が動き出す。
なのは達は囲む様にポジションを取り、その時を待ち構える。

「あたし等はサポート班だ。あのウザいバリケードを上手く止めるよ……?」
「うん…!」
「あぁ」
アルフ、ユーノ、ザフィーラが準備に入った。三人の先制が口火を切る事になる。


闇色のドームの周囲に蠢く触手。
その内側に、闇色の柱が吹き上がった。
「始まる……!」
それは、膨大な魔力の塊。
それと共にドームが膨張していく。

「夜天の魔導書を……呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……」

ドームは球体となり、ついに破裂した。
「―――闇の書の、闇」


『――――――――――――ッ』
声とも音とも区別が付かない波動が、海上に、海鳴市全域に響き渡った。

禍々しきは、連音を闇に捉えたモノの、そのままの姿。
しかし意識はすでに無く、破壊の本能のみがそれを突き動かす。


「チェーンバインド!!」
「ストラグルバインド!!」
アルフとユーノの放ったバインドが、闇を守る触手に絡みつき、そのまま引き千切る。
「縛れ、鋼の軛ッ!でぁああああああああああッ!!」
眼前に展開された魔法陣から、光の鞭が振るわれ、触手を斬り捨てていった。

僅か数撃で、壁は粉砕されたのだった。

先制攻撃を受け、闇が吼える。


「ちゃんと合わせろよ……高町なのはッ!!」
「っ!ヴィータちゃんもね!!」
初めて名前を呼ばれ、なのはは嬉しさに口元を歪めながら、しかしきっちりと言い返す。
それを受け、ヴィータもニッと笑った。

「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!行くぜッ!!」
“Gigant Form”
カートリッジが爆発し、戦槌が角柱状の巨大なハンマーへと変形する。
「轟天……爆砕ッ!!」
それを一気に振り上げるとハンマーヘッドが更に、闇と同等の大きさまで巨大化した。

「ギガント・シュラークッ!!」
柄が大きく撓り、巨大なる一撃が闇に叩き込まれた。
大きく波が起こり、闇がその巨躯を僅かに沈める。そして第一層が破壊された。

なのはが、すぐさまそれに続く。
「高町なのはと、レイジングハートエクセリオン!行きますッ!!」
魔法陣が輝き、レイジングハートを天に向けて構える。
“Load Cartridge”
連続してカートリッジが爆発し、光の翼が再び閃いた。

先端を振り下ろすように闇に向けて構え、砲撃態勢に入る。
「エクセリオンバスターッ!!」
そこに、再生した触手が遅い繰るが、すでに止める事は出来ない。
“Barrel Shot”
バレルショットが触手を薙ぎ払い、砲撃ルートを確保する。
「ブレイク―――」
一際に魔法陣が光り輝き、桜色の光が収束していく。
放たれた閃光が道筋を走り、バリアに食い込むと、ついに本命を撃ち放った。
「シューーーートッ!!」

全てを吹き飛ばす砲撃が、第二層を跡形も無く粉砕した。


「――次!シグナムとテスタロッサちゃん!!」

闇に異変が無い事を確認し、シャマルが指示を出す。


闇の真後ろに陣取っていたシグナムが、レバンティンの柄に手を掛けた。
「剣の騎士、シグナムが魂……炎の魔剣、レヴァンティン……!」
刃を静かに抜き放ち、空に掲げる。
「刃と連結刃に続く……もう一つの姿」
柄頭と鞘を連結させると、カートリッジが爆発し、鞘がレヴァンティンの姿へと変わった。
“Bogen Form”
そして、そのまま更に弓の姿へと変形する。
魔力で構成された弦が張られ、刃を流用して生み出された矢を生み出す。
カートリッジを爆発させ、フローターフィールドにしっかりと踏ん張り、弓をキリキリと引く。
足元には、その闘志を顕現したかのように紅蓮の炎が渦巻き、矢は紫の魔力に染まって輝く。
「翔けよ、隼―――!!」
狙い済まし、放たれるのは正しく一撃必殺。
“Sturm Falken”
烈風を無き起こして解き放たれた隼は、瞬く間も与えずバリアにぶつかり、それを巻き込んで爆発する。

残る障壁は後一枚。

そして、それに対するのは―――金色の刃を携えた黒衣の魔導師。

(レンはまだ脱出できていない……もう、時間が無いよ……!!)

ここで手を休めれば、すぐにバリアは復活してしまう。そうなれば、暴走までに破壊できるかどうか難しくなる。
逡巡する時間は一秒も無い。
ギリ、と歯を噛み締め、フェイトが覚悟を決める。

(レンは脱出する!絶対にする!!だから……わたしはっ!!)

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー! 行きますッ!!」
金色の魔法陣が光り輝き、カートリッジが連続して爆発する。
「ハァッ!!」
巨剣を大きく振り被り、回転の勢いを以って不可視の斬撃を撃ち放つ。

旋風は軽々と触手を切り払い、闇を螺旋の檻に閉じ込める。
動きを封じた事を確認し、フェイトがバルディッシュを天に掲げた。
天空より紫電が降臨し、金色の刃に更なる力を与える。
バルディッシュを両手で握り締め、全身のバネを使って一気に振り下ろす。
「撃ち抜け、雷神―――!!」
“Jet Zamber”

伸びた金色の刃が紫電を伴って、バリアを僅かな拮抗の内に叩き切る。更にそのまま本体そのものをも斬り捨てた。
斬り捨てられた破片が飛び散り、辺りに派手に水飛沫を起こす。

『―――――――!?』
闇が、苦痛とも悲鳴とも取れる声を発する。

全てのバリアを破壊され、ついに闇の本体が攻撃に転じる。
海中から幾つもの、レンズのような物の付いた触手が出現する。

それは防衛プログラムの攻撃システム。魔力をレーザーのように発射し、敵を切り散らすのだ。

チャージがすぐさま始まる。撃たれれば防御ごと命を貫く。


だが、させまいと動く影があった。


「盾の守護獣ザフィーラ!!我が前で、攻撃なんぞ――――撃たせんッ!!」
魔法陣が眼前に輝き、無数の牙が砲台を切り裂き、穿ち、寸断する。


反撃を封じた事を確信し、シャマルが上空に待機する影に叫ぶ。
「――はやてちゃん!!」

八神はやては、闇の―――夜天の書を開き、魔法を構える。
『宜しいのですか?まだ、辰守連音は脱出しておりませんが……?』
『……大丈夫や。連音君はな、嘘を吐かへんもの……何も心配要らん』

連音は言った。脱出すると。ならば、自分にそれを疑う事など在り得ない。

自分に出来る事は、連音が帰ってくる場所を守る事だ。


だからこそ―――

「彼方より来たれ、やどりぎの枝……銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
闇が見上げる上空に、ベルカ式魔法陣が展開され、その中心と周囲に、六つの光が生まれる。

「石化の槍―――ミストルティンッ!!」

はやてがシュベルトクロイツを振り下ろすと同時に、七つの閃光が降り注ぐ。
それは楔の如く闇を穿ち、突き刺さった箇所から変色が始まる。
『――――――ッ!!』
瞬く間に広がったそれは、闇を物言わぬ石へと変えてしまった。
僅かな残響を残し、人の形を取っていた部分が崩れ落ちていく。


だが無限の再生は、石化した部分を切り捨て、新たな姿を構成する。更にはフェイトが切り裂いた断面からも再生が始まる。

より禍々しく、闇はその姿を変える。
まるで恐竜の顔のようなものが生まれ、更に、槍の様に尖った先端の触手が生まれる。

「ウワッ……!?」
「何だか……凄い事に……」
見る者全てに嫌悪される外観に、アルフとシャマルが堪らず不快さを口にする。
『流石にきついね。並みの攻撃じゃあ、ダメージを与えた傍から再生されちゃう……!』
アースラで状況を確認しているエイミィが、苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「エイミィ、連音が脱出するような気配はあるか?」
『ううん、何にも無い……如何するの?もう時間が無いよ!?』
エイミィの言葉は、そこにいる全員に聞こえている。
残りのフェーズはクロノの凍結と、なのは、はやて、フェイトの物理破壊指定の一斉砲撃のみ。
つまり、最終フェーズ前以外に、脱出タイミングは無いのだ。
皆がクロノに注目した。

「あいつは、嘘を言う奴じゃない……プランの変更は無しだ!行くぞ、デュランダル!!」
“OK,Boss”
クロノはデュランダルを構え、詠唱を開始する。

「悠久なる凍土……凍てつく棺の内にて、永久の眠りを与えよ……」
足元に魔法陣が輝き、周囲から魔力を持った氷の粒が舞い散る。
それが海に触れると、一瞬で氷海へと変貌した。

分厚い氷が闇を押さえつけ、触れる箇所から凍りつかせていく。

「―――凍てつけッ!!」
“Eternal Coffin”
デュランダルの宝石部が光り、闇が凍りついた。


しかし、生物を永遠に凍結させる事のできるエターナルコフィンを受けても尚、闇は完全に封じられる事無く暴れ続ける。



これで残るは破壊のみ。
ギリギリまで待って、精々数十秒が限度。

全員が祈るような思いでいる中、クロノが叫んだ。
「なのは、フェイト、はやて!!」
「「「―――ッ!?」」」
それは、最終フェーズ移行のサイン。
「クロノ君ッ!?まだ―――」
「これ以上は持たない……ッ!!」
なのはの叫びを、クロノが憤りを抑えながら否定する。

このまま再生されれば、暴走で世界は崩壊する。
同じ作戦を実行できる余力も無い。

間に合わなかった。絶望が心を占めるその時だった。
『クロノ君、皆ッ!!防衛プログラムが!!』
「―――っ!?」
慌てた様子のエイミィの声に全員がハッとする。


「何だ、あれは……!?」
凍結された防衛プログラムから、スパークの様なものが奔っている。
『防衛プログラムの魔力が急激に増大ッ!?皆、逃げてッ!!』
エイミィの声と同時か、闇から発せられたスパークが、氷海を蹂躙し、辺りに雷光を走らせる。

「これは……まさかっ!?」
「連君の力……!?」
「まさか、そんな……っ!!」
かつての、時の庭園での戦いを知る者達が驚愕する。

感じる魔力はクロノのもの。それが全てを結論付けていた。

「連音の……エレメント・チェインか!?」
エレメント・チェイン。
管理局で付けられた、五行の力の別名である。

先天的魔法か、レアスキルかと物議を醸し出すその力は、多くの属性に対する絶対的なアドバンテージとなる。

その力が生み出す電気魔力。それは天を貫き―――

「「「キャアアアアアアッ!!」」」
「「うわぁあああああああっ!!」」
「くぉおおおおおおおおっ!!」


―――幾つもの轟雷となって降り注いだ。

丸太のような雷は、氷の大地を蹂躙し破壊していく。

何とか直撃を避けられたが、余波を掠めただけでダメージが大きく、全員が所々を焦げ付かせ、動きが完全に止まってしまっていた。

闇はそのまま大きく口を開ける。
スパークが更に広がり、その中に強大な魔力が注ぎ込まれていく。

「ぐっ……マズイ……!!」
その斜線上には――――なのはの姿。

「―――ッ!?」
向けられる悪意に、なのはの体が強張る。
動こうとしても、全身が痺れて言う事を聞かない。

回復しきる前に、あれは放たれ、そして自分は――――消滅させられる。



「なのはッ!!」
「なのはちゃん!!」
必死になのはを助けようとするが、誰も動く事が出来ない。
体内に残る闇の魔力が、魔法の行使を邪魔しているのだ。


そうしている間にも闇はチャージを続け、ついにそれを終えてしまった。

『―――――――』


咆哮が響き、それが放たれ―――――








その瞬間、白く巨大な何かが”内部から”突き出し、魔力弾ごと、闇を引き裂いていた。行き場を失った魔力が暴発し、自身を爆砕する。


砕け飛ぶ頭部。そして空間に残された巨大な爪痕。





誰もが呆然とする中、その向こうには獰猛な瞳が輝いていた。




















では、拍手レスです。



※犬吉さんへ、シャドウブレイカーの感想です。
やっとここまで来ましたね。連音・・・まさかそんな方法で隠していたとは。驚愕です。
そして、はやてが心を保てている・・・!と思ったのもつかの間、連音のことでやはり堕ちてしまいましたか。どれだけ連音がはやての心の支えになっていたのかわかります。
私としてはヒロインははやてだと思ってます。連音にははやてを助ける為頑張って欲しいです。それでは次の話も期待して待ってます。


感想ありがとうございます。
琥光の隠し方は、書いていて痛くなりましたw

はやてにとって、連音は特別な存在です。恭也や忍、那美といった交友関係も全て連音が最初ですから。
はやてと連音のシーンは、特にヒロイン性を意識して書いています。
猫さん達には、原作以上の悪役になって頂きました。

本編の展開が多く、連音の出番がここまで少なかったのですが、やっと活躍できましたwww

ハッピーエンドを目指して頑張りたいと思いますので、どうか最後までお付き合い下さい。




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