闇の世界。連音は防御プログラムと対峙していた。
防御プログラムといっても、本体ではなく、その端末。

強大すぎる存在の、意思を代行する存在。

しかし、その存在の言葉に、連音は何か違和感を覚える。

「闇の書の……真の守護騎士だと?」
『ソウダ。今在ル守護騎士プログラムハ、カツテノ管制プログラムニ命ジラレ作リ出サレタ存在。夜天ノ残照ニ過ギナイ。
我ガ欲スルハ、我ノ意思ニ忠実に従イ、速ヤカニ闇ノ書ヲ完成サセル存在。
今ノ守護騎士ノヨウニ、下ラナイ感情ニ惑ワサレル事ノ無イ存在。

――――ソレコソ即チ、真ナル闇ノ書ノ守護騎士ナリ』

「なるほど……夜天の書の守護騎士ではなく、闇の書の為に動く、闇の書の為の守護騎士。
俺を、そいつにしようという訳か……」
連音は琥光を握る手に力を込めた。

ここは防御プログラムが、異物を閉じ込める為に作り出した内部隔離世界。

それを管理する者――― つまり目の前の相手を破壊しなければ、ここを出る事は出来ない。

逆に破壊できれば、はやての所まで一気に降りる事が出来る。

「俺は、騎士なんてガラじゃないんでね……丁重にお断りさせて貰う!!」
『抗ウカ……良イダロウ。無駄ナ足掻キト知リ、絶望スルガ良イ』

防御プログラムの両腕に、帯状魔法陣が輝く。


次の瞬間、闇の世界に閃光が奔った。




   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

        第十九話  甦る女神達



深い深い闇の底。車椅子に横たわる、八神はやて。
(眠い……)
余りにも強い眠りへの誘い。
はやては必死で、瞼を閉じまいと堪えていた。

「――そのまま御休みを……我が主。あなたの望みは、全て私が叶えます」
ぼやける視界に見えるのは、人影。良くは見えないが、とても綺麗な気がする女性。何故、彼女は自分を、シグナム達と同じく主と呼ぶのだろう。

「目を閉じて、心静かに夢を見て下さい……」
(わたしの……望み?わたしの望みって……何やったっけ……?)

「……夢を見る事。悲しい現実は全て、夢となる……安らかな眠りを」

(…………そう……なんか?)

聞こえる声に何か違和感を覚えるが、上手く考えられない。

落ちて来そうになる瞼を、必死で抑える。眠ってはいけない。

(…? 何で……何で、眠ったらあかんのやったっけ……?)
思い出そうとするが、思い出せない。頭が上手く働かない。

でも、これだけは分かる。
それは、とても大切な事だということ。

(わたしの……本当の望みは…………?)








海鳴市の海上。
戦いの舞台を移して、なのはと闇の書が激突する。

「クッ!!」
なのはがとっさにシールドを展開する。直後、闇の書の拳がシールドにぶち当たり、辺りに火花を撒き散らした。

だが、均衡はあっさりと崩れ去る。

「――あぁッ!?」
澄んだ音を立てて、なのはのシールドが砕け散る。桜色の破片が舞い散る中、闇の書が返す刀を打ち放つ。

“Schwarze Wirkung”

拳に闇色の光が集まり、それをなのはに振り下ろした。
「……ッ!!キャアァアアアアアアアッ!!」
なのははギリギリで、レイジングハートで受け止めるものの、いとも容易く生みに叩き落されてしまった。

盛大に波飛沫を上げ、落ちるなのは。桜色の光が、徐々に暗く冷たい海に沈んでいった。

「…………っ!?」
見下ろしていた闇の書が、それに気付いた。
何かが急速に浮上してくるのを。


なのはは派手に水柱を上げて、再び戦場に舞い戻った。

息は上がり、全身はずぶ濡れで、それでもその瞳は揺らぐ事無く、強く輝く。
“リンディさん、エイミィさん……戦闘位置を海の方に移しました。市街地の火災をお願いします!!”
『大丈夫。今、災害担当の職員が向かっているわ』
それを聞き、まずは善し。と、なのはは続けた。
“それから、闇の書さんは駄々っ子ですが、何とか話は通じそうです。もう少し、やらせて下さい!!”
なのはは、パートナーを握る手に力を込めた。

「行くよ、レイジングハートッ!!」
“Yes,My Master”


リンディは心配半分、呆れ半分といった面持ちだった。
やらせて下さいと言いながら、彼女は止めても絶対にやるだろう。

それに闇の書と戦える戦力は、今はなのはだけだ。
どちらにせよ、彼女に頼る他は無い。

「無理しないで。なんて、言える雰囲気じゃなかったわね……」
「局員到着。火災の鎮火を開始します」
アレックスの報告に、リンディは頷いた。

指揮官として、最大限を尽くさねばならない。


今戦っている子供達が、少しでも無事に帰ってこられるように。





なのはは闇の書を注視しながら、現状を考えていた。
バスターもバインドも、闇の書には通用しない。

今までの戦い方では通じない。

なのはは、カートリッジを交換しながら必死に考えた。
「マガジン、残り三本……カートリッジは十八発。スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな……?」

自分の最強の手札、スターライトブレイカー。
これを切るにはどうしたら良いか。

収束砲は時間が掛かる。その隙を狙われれば、一溜まりも無い。

バインドは通じない。つまり、チャージタイムが取れない。

なのははどうすれば良いかと、必死に考えを巡らせた。


その時、レイジングハートは言った。
“手段はあります”

「え…?」

“命じて下さい。【エクセリオンモード】を”
「……ッ!?ダメだよ!あれは、本体の補強をするまで使っちゃ行けないって……!!
わたしがコントロールに失敗したら……レイジングハート、壊れちゃうんだよ!?」
“Call Me”
「っ……!」
“Call Me,My Master”

レイジングハートは、ただ繰り返す。
その命令を、と。

それは奇しくも、ヴィータに襲撃された時に酷似していた。

あの時も、自分はレイジングハートに教えられた。

信じる、という事の意味を。


「お前も、もう眠れ……」
闇の書が言う。しかし、なのはは首を振った。
「いつかは眠るよ……。だけどそれは、今じゃない。
今は、はやてちゃんとフェイトちゃんと、連君を助ける……!それから、貴方も……!!」
「っ!?」
なのはが、レイジングハートに命じる。
悲しみを撃ち抜く為に、悲しい今に負けない為に。

必死に戦っている人達の為に。

絶対に、後悔しない為に。

「レイジングハート、エクセリオンモード……ドライブッ!!」
“Ignition”

レイジングハートを帯状魔法陣が覆う。

音叉上の先端が延長し、鋭角に変化する。根元には四本の突起パーツが出現する。


レイジングハートは杖から、鋭い槍に近い形状となった。

エクセリオン。それは自分の意思を貫き通す、その体現とも言うべき姿。


「繰り返される悲しみも、悪い夢も、きっと終わる……終わらせられるっ!」
なのはは、エクセリオンモードとなったレイジングハートを構えた。
力強く、魔方陣が光り輝く。

“Photon Lancer,Genocide Shift”

闇の書の周囲に、無数のフォトンスフィアが形成される。

「――ファイア」
一声をトリガーに、金色の魔弾が一斉に発射される。

“Flash Move”
なのはは一気に加速し、横方向に飛び出す。それを追ってマシンガンの様に魔力弾が襲い掛かる。

「くっ!?」
何発も被弾しながら、しかし、なのはは更に加速を続ける。

一気に急上昇し、追撃を振り切る。
闇の所の上を取るとすぐさま反転し、放つのは連射魔法。
「ディバインバスター、チェーンショット!!」
“Divine Buster,Chain Shot”

先端にスフィアが形成され、そこから散弾の如く魔法弾を発射する。
経験により効率化されたそれは、次々にフォトンランサーを相殺していく。

「――ッ!?」
発射台を潰され、闇の書の弾幕がついに崩される。
すぐさま、なのはが砲撃体勢に入った。
薬莢が跳び、全身に魔力が迸る。

「――バスターッ!!」
桜色の閃光が,闇の書を捕らえ、一気に呑み込む。

爆発が巻き起こり、黒煙が視界を塞ぐ。

なのはは間合いを開きながら、反撃に備えた。
(ギリギリで防がれた……反応が早過ぎる……!!)
なのはの思った通り、直撃ではなかった。黒煙の向こうから、無傷の闇の書が姿を現したからだ。

リミッターを解除した全開状態。それでも直撃を防がれる。
苦戦は必至と、なのはは更なる覚悟を決めた。

戦っているのは、自分だけじゃない。
離れていても、独りじゃない。


なのはの心は、一切の揺らぎを起こしてはいなかった。








緑豊かな草原。山も鮮やかな緑に染まり、吹き抜ける優しい風が、青い香りを鼻に運んで来る。

フェイトは大きな木の幹に寄り掛かり、アリシアはスケッチブックにその風景を写生していた。

さわさわと鳴る草の音に混じって、アリシアの鉛筆の音が風に溶けていく。

「――うん?」
ふと、耳に聞こえたのは雷鳴。
山の向こうを見れば、真っ黒な雲が広がり始めている。
雲が多くなっている事には気付いていたが、こうも早く崩れるとは、アリシアも思っておらず、
慌てて出してあった筆記具を片し、スケッチブックと共に傍らのバッグに放り込む。
「フェイト、一雨来そうだから帰ろう……フェイト?」
アリシアは、只ぼんやりとしているフェイトに首を傾げた。

「どうしたの?何処か調子悪いの?」
「ううん、大丈夫……。ごめんなさい、わたしはもう少し……ここにいる」
「……そうなの?っと、降って来ちゃった!?」
慌てて、アリシアも木の下に入る。

「あ〜あ……傘、持って来れば良かったわね……」
アリシアはフェイトの隣に腰を下ろし、嘆息した。
雨足は強くは無いが、雨宿りしている内に止むかどうかは微妙そうだ。

雨音だけが、静かに世界を包み込んでいく。


「…………ねぇ、アリシア。これは……夢、なんだよね?」
「………」
「あなたはあの時、消えてしまった。何より、あなたが生きていたら、わたしは生まれなかった」
「…………そうね」
「母さんは、全部が終わるまで……あんな風に笑ってくれた事は無かった」
「本当に、優しい人だったんだよ?優しかったから、優しすぎたから……壊れてしまった。死んだ私を……生き返らせる為に。
でも、自分の最後を知って……やっと、本当の自分に戻る事が出来たんだ」
「うん……」

二人は顔を見合わせる事無く、言葉を繋げる。

「ねぇ、フェイト……夢でも、良いと思わない?」
「……?」
「ずっと、ここにいよう?そうすれば皆、一緒に過ごせる。私も、あなたのお姉ちゃんでいる事が出来るから……。
あなたが欲しかった幸せ……全部、ここにあるんだから……」






「わたしが……欲しかった幸せ………?」
「健康な体……愛する者達との、ずっと続いていく暮らし。眠って下さい、そうすれば、夢の中であなたはずっと……そんな世界にいられます」
「ッ………!」

違う。

絶対に違う。

はやての中にあったものが、形となって見えてきた。
穏やかな日々を望んだ。家族と共に過ごす日々を願った。健康な体を欲した。

それに間違いは無い。




現実は悲しくて、辛くて、でも、それだけではない事をはやては知っている。

たった一つのきっかけで、世界は変わるのだ。


それを教えてくれた、大切な人がいる。
悲しみを背負って、痛みに苦しんで、それでも尚、進んでいこうとする人がいる。
その辛く苦しい現実の中で、はやては多くの、大切な人達と出会う事が出来た。


だから、はやては言う。

「―――せやけど、それはただの夢や……!」

襲ってきた眠気は、すでに消え去っていた。








海上でぶつかり合う閃光。
幾たびか繰り返し、桜色の光は大きく弾き飛ばされた。

なのはは何とか体勢を立て直し、レイジングハートを構え直す。
闇の書が両手に漆黒に魔力球を構成する。
「一つ覚えの砲撃、通ると思ってか……」
「通すッ!!」
なのはがキッと、闇の書を強く見据える。

「レイジングハートが力をくれてる、命と心を掛けて応えてくれてるッ!!」
カートリッジが爆発し、薬莢が飛び出すと、レイジングハートに六枚の、桜色の翼が展開される。
「泣いてる子を、救ってあげてって!!」
“A.C.S,Stand by”
「アクセルチャージャー起動!!ストライクフレームッ!!」
“Open”
なのはの足元に魔法陣が展開され、強大な光を放つ。
そしてレイジングハートの先端とサイドフレームに、赤い魔力刃が展開された。

「エクセリオンバスター、A.C.Sッ!!」
翼が激しくはためき、強力な推力を生み出す。魔法陣に足を張り付かせ、ギリギリまで押さえつける。
「――――ドライブッ!!」
なのはが魔法陣を蹴り、高速で飛翔する。風を切り裂き、真っ直ぐに。
回避する時間を与えない。必中の一撃。

(ッ!?早い!!)
闇の書はすぐさまシールドを展開させ、ストライクフレームがそれと激突する。
凄まじい衝撃と火花が散り、その威力を嫌というほどに思い知らせる。

なのはは歯を食いしばり、ひたすらに攻め続ける。
どんなに阻まれても、絶対に退かない。
どんなに強固な壁でも、絶対に貫いてみせる。

「――――届いて!!」
「何……ッ!?」
なのはの声が、思いが通じたか。
闇の書のシールドを、ストライクフレームがついに貫通した。

闇の書は動けない。
フレームが刺さっている以上、動くにはシールドを解くしかない。
だが解いた瞬間、確実に貫かれる。

回避も、防御も出来ない。

だが、この状態でなのはが如何様にするのか。
まさか、ゼロ距離から砲撃を撃つなど在り得ないだろう。

――そう、思い込んでいた。


レイジングハートがカートリッジを連続爆発させる。
フレームの先端に、光が収束する。

それに呼応して、翼が強大な光を放ち、巨大に変貌する。

「ブレイク―――」
「まさか……っ!?」

「―――シュートッ!!」


閃光と爆発が、一瞬で二人を呑み込んだ。





彼方に光る閃光。
それを恭也達は、ただ見ているしかなかった。

眼下に見える、海鳴の町を覆っていた結界が消滅していく。

それによって海鳴市は、管理極の張った結界に完全に包まれる事となった。

桜色の光が、徐々に消えていく。
「あれが、なのは……なのか?」
「はい。今、闇の書という存在と戦っているんです……」
恭也の脇の、ふん縛られたままのユーノが頷く。

ユーノを締め上げて(その必要が在ったかは謎だが)吐かせた内容は、驚くべきものだった。

魔法、次元世界、管理局、そしてロストロギア。

まるでSFファンタジーな話を聞かされ、すぐに信じる事が出来なかった。
だが現実に、なのはは空を飛び、海の上で戦っている。

誰もが信じるしかない状況にあって、自分達には何も出来ない現実に、歯痒い思いを抱く。

恭也は、ユーノを縛っていた鋼糸を解く。
「え…?」
「――もう行って良い。行って……なのはを助けてやってくれ」
恭也の言葉に、ユーノは少し驚きながら、他の四人を見た。
皆、一様に頷く。

「分かりました。なのはは絶対に守ります……!皆さんは、ここから動かないで下さいね!」

ユーノは地面を蹴って、高々と飛び上がった。
そしてそのまま、海上へと飛んでいった。



「大丈夫かい、ユーノ?」
「アルフ……酷いじゃないか!見捨てるなんて!!」
「いや〜、だってあの兄ちゃんすっごい殺気でさ〜、動けなくなっちゃって……」
苦笑いするアルフに、ユーノはガックリと肩を落とす。

「とにかく、今はなのはの方だ。急ごう!!」
「あいよっ!!」



ユーノの飛び去った先。海上を見つめながら、忍もまた不安に駆られていた。

この事件に連音が関わっているのは、最早確実だ。

ボロボロになって帰ってきた連音の姿が、今も鮮明に思い出せる。

(連音、ちゃんと無事に帰ってきなさいよ……!)






なのはのバリアジャケットは所々焦げ、黒ずんでいた。

息は上がり、押さえた左肩に痛みが走る。

「ほぼゼロ距離……防御を抜いてのエクセリオンバスター直撃。これでダメなら……!」
“Master!”
「……ッ!?」
レイジングハートの声に、なのはは上を見上げた。

そこには悠然と立つ、闇の書の姿。
なのはと対照的に、傷一つ負ってはいない。

通用しなかった?

いや、そうではない。

闇の書は、封鎖領域を維持出来ない程に追い詰められた。
直撃が効かなかった訳ではない。

エクセリオンは通じる。
なのはの心に、闘志は未だ消えない。

「……もう少し頑張らないと、だね?」
“――Yes!”


















降りしきる雨が、深い静けさを乱す。
フェイトは首を横に振った。
「ごめんなさい……それでも、行かなくちゃ……」
紅玉の瞳が涙に揺らめく。

ここは幸せで、だけど此処にいてはいけない。
今を、戦っている仲間がいるから。

「………良かった」
「え……?」
「もし頷いてたら、引っ叩いてやろうと思ってたのよ?」
そう言いながら、アリシアはヒラヒラと平手を振った。

アリシアは近付くと、静かにフェイトに手を伸ばした。
「――ッ!」
そのまま、その小さな体を優しく抱き締めた。
「ずっと、あなたが心配だった……心のどこかで……ずっと、過去に縛られていたから。
でも、あなたはそれを振り切った。過去でなく今を……未来を選んだ。もう、心配は要らないわね……」
「えっ……?」
フェイトの体から、青白い光の粒子が立ち上る。それはそのまま、アリシアの体に吸い込まれるように消えていった。

「あの日……消えていく中で、私はあなたの中に自分の心を残した。あなたが独りになってしまう事を知っていたから……」
「アリシア……!」

そっと手を離し、アリシアはフェイトの涙を拭うと、その手に何かを握らせた。
手を開くと、そこには金色に輝く物。

閃光の雷斧、バルディッシュ。

「行ってらっしゃい、フェイト……」
「アリ……お姉ちゃん……っ!!」
フェイトは感極まり、アリシアに抱きついた。その胸で、大声を上げて涙を流す。
「忘れないで……?私はアリシア・テスタロッサ。住む時間が違っても、住む世界が違っても……私は、あなたのお姉ちゃんだから……」
「忘れない……絶対に忘れない……!!」

フェイトの柔らかな髪を撫で、そして、フェイトを静かに離した。

グシャグシャになったフェイトの顔に苦笑しつつも、アリシアは木の下から雨の中に歩み出た。

その体を、すぐに雨が濡らしていく。
空をジッと見上げ、アリシアは深く溜め息を吐いた。
「――ごめんね。私も、もう行かないと……。世話の焼けるのがいるから……」

そして大きく息を吸い込んで、木の向こうに声を掛けた。
「だから……後はお願いね、リニス?」
「リニスっ!?」
フェイトが振り返れば、そこには傘を差したリニスの姿があった。

「はい。後はお任せを……アリシア」
「っ!お姉ちゃんッ!?」

振り返ったフェイトの目の前で、アリシアの体は蒼く、光り輝いていた。

まるでそれは――――ジュエルシードの輝き。
「―――ッ!!」
眩い輝きが世界を照らす。凄まじい魔力が、柱となって天を貫いた。
一瞬の嵐。それが治まった時、アリシアは光の欠片を残して姿を消していた。


天を覆っていた、雨雲と共に。



「――行きましょう、フェイト」
「……うん」
リニスに言われ、フェイトは歩き出す。始まりの場所――時の庭園へと。











「わたしは、こんなん望んでない!あなたも同じ筈や!違うか……?」
覚醒したはやてが、闇の書に問い掛ける。
「私の心は、騎士達と深くリンクしています。だから、騎士達と同じように、私もあなたを愛おしく思います。
……だからこそ、あなたを殺してしまう……自分自身が許せない」
「っ……!」
彼女の本当の思いに、はやては驚いた。
知っている。同じ苦しみを持っている人を。

「自分にはどうにもならない、力の暴走……。あなたを侵食する事も、暴走して、あなたを喰らい尽くしてしまう事も……止められない」

あぁ、彼女は自分が嫌いなのだ。
どうにも出来ない咎。抗えない罪。それが彼女を闇に縛り付けている。

「……覚醒の時に、今までの事、少しは分かったんよ。望むように生きられへん悲しさ……わたしにも、少しは分かる。
シグナム達と同じや……ずっと悲しい思い、寂しい思いしてきた……せやけど、忘れたらあかんっ!」
「……ッ!?」

闇の書がハッとする。はやては両腕に力を込め、立ち上がろうとしていたのだ。
思わず手を伸ばし、その体を支える。

「あなたのマスターは、今はわたしや!!マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん……」
はやては闇の書の頬に触れる。
「わたしは知ってる。どれだけの悲しみに苦しんでも、立ち上がって戦う、強い人の事を……!!
わたしは知ってる。どんな悲しい事も、寂しい事も、必ず終わらせられる事を・……!」
はやてと闇の書を包むように、白い魔法陣が光り輝く。


跪く闇の書に、はやては告げる。
「名前をあげる……もう、闇の書とか、呪いの魔導書とか、言わせへん。わたしが呼ばせへん!
わたしは管理者や。わたしには、それが出来る……!」
「ッ!無理です……自動防御プログラムが止まりません。管理局の魔導師が戦っていますが……それも、もう……!」
「無理やない……!止まって……!!」
涙ながら訴える闇の書に、はやては力強く命じる。
白の魔法陣が、更に強い輝きを放った。


「っ……?」
なのはの目の前で、その変化は起きた。闇の書がその動きを、錆び付いたように鈍らせたのだ。

『外の方っ!えっと……管理局の方!?こちら……そこにいる子の保護者、八神はやてですッ!!』
突如として、闇の書から声が聞こえた。それは、幼い少女の声。なのはが驚きに目を見開く。

「ッ!?はやてちゃん!?」
『えっ……なのはちゃん!?何で……?ほんまに!?』
今度ははやてが、なのはの声に驚きの声を上げた。
「うん、なのはだよ!色々在って……闇の書さんと戦ってるの……良かった、連君が間に合ったんだね……」
なのはが、安堵の溜め息を吐く。
はやてが目覚めているという事は、彼女を覚醒させる為に向かった連音が、無事に到着したという事だ。

『……れんくん?』
聞いた事の無い呼び名に、はやてが聞き返す。
「そう、連君……連音君も、そこにいるんでしょ!?」
『……えッ!?』
「…………えっ?」












「ハァ……ハァ……ハァ………ッ!!」
闇の檻の中に、激しい息遣いが響く。

腕や足、肩からは、命の雫が滴り、身に纏った装束を染め上げている。
ぽたぽたと落ちる雫は、闇の中に解けて消えていく。

背中には、煌々と闇を照らす刻印の翼。しかしその全てに亀裂、破損があった。

『――モウ諦メヨ。オ前ニ、我ヲ倒ス事ハ出来ヌ』
「――うるさいッ!」
連音は地を蹴り、一気に駆け出す。

防御プログラムが両手を前に突き出すと、周囲に闇色の魔法陣が幾つも現れた。

『貫ケ、血ノ槍』
「チッ!!」
瞬間、魔方陣から真紅の槍が飛び出し、連音に襲い掛かった。
しかし、瞬刹で一気に加速し、それを全て躱す。
そのまま防御プログラムの脇を抜ける瞬間、神速の領域から琥光を振り上げた。

「―――っ?」
ボトリ、と何かが落ちる。防御プログラムがそれを見ると、自分の左腕が無くなっている事に気が付いた。

しかし、彼女は全く動じる気配が無い。

すると、切り落とされた腕が闇の中に沈み、防御プログラムには代わりの腕が現れた。

(またか……!!)
向こうと、こちらの攻撃力は同じ。
だが、それ以外が圧倒的だった。

向こうはどれだけ攻撃を当てても、すぐさま再生する。

対して連音は、傷は塞がってもダメージは残るし、失った血は戻らない。
しかも刻印によって、徐々に体力を削り取られていく。



しかし、刻印無しで戦える相手でもない。


「何故だ……?」
『……?』
「お前は自分を闇と、呪いと言った。何故、何の為にお前は世界を滅ぼす……!!」何か突破口を見出そうと、気になっていた事をぶつける。


どの道ジリ貧なら、じっくり考えて動く。

とにかく今は、時間が欲しい。


(頼む、話に乗ってくれ……!)

祈るような気持ちの連音。
そして防御プログラムが口を開いた。

『―――全テハ、主ノ願イ』
「―――何?」
『主ノ願イ……ソレハ、アラユル次元世界ニ存在スル、全テノ人ヲ滅ボス事……』
「な……ッ!?」
思いつきで尋ねた事は、とんでもない答えを引き出してしまった。

同時に理解した。
人にかけられし呪い。
つまり、『あらゆる次元世界に存在する人類に、かけられた呪い』という意味だったのだ。

『我ハタダ……主ノ願イヲ叶エル。ソノ為ニ存在スル道具ダ……』
「そんな事を……はやてが望んでいるというのか!?」
『否。我ガ主ハ唯一無二。管理者ハ、我ノ主ニ在ラズ』
「――ッ!!」
突如、下から漆黒の槍が飛び出す。
とっさに躱すも、足を掠める。
「ぐあっ!?」
太腿を切り裂かれ、鮮血が飛ぶ。

バランスを崩した瞬間、更に槍が襲い掛かり、連音の体を貫いた。

「ぐぁああああっ!?ガァッ!!」
激痛の中、連音は琥光を振るい、槍を切り砕く。

澄んだ音を立てて、槍は砕け散った。

急所を掠め、ダメージが致命的になりつつあった。
「琥光!!カートリッジロード!!」
“発動”
カートリッジを爆発させ、眼前に巨大な術方陣を生み出す。
刻印の翼が強く輝き、全身に膨大な魔力が流れ出す。その圧力に傷口から血が噴き出すが、構わず魔力を高めた。
防御プログラムは、とりあえずシールドを展開した。何をしようとも、無駄に終わるのだから。

「―――魔導破・轟龍!!」
連音は術方陣に向かって踏み込む。術方陣に触れた瞬間、連音の体が強大な魔力に包まれ、轟音と共に発射された。
その衝撃は咆哮の如く、その姿は龍の如く。

『――ッ!!』
防御プログラムが目を見開いた瞬間、シールドを打ち砕き、その体を閃光が貫いた。
グラリと揺れ、防御プログラムが倒れ伏した。


「―――ッ!ハァッ!ハァ…ハァ……ハァ………」
全身を弾丸に変え、目標を貫く―――魔導破・轟龍。

これ以上の手札は無い。これで駄目ならば―――


『……ヨモヤ、コレホドトハ……』
「……ッ!?」
『無限ノ再生ガ無ケレバ、危ウカッタヤモ知レナイ……』

次の瞬間、連音の体を闇が縛り上げた。
「ぐぅっ!?」
全身に魔力を込めて外そうとするが、ビクともしない。


もがく連音の前に、闇が柱のように盛り上がる。
それが弾け、中から防御プログラムが姿を現した。その体には一切の傷が無い。

『我ヲ破壊スレバ、ココヲ出ル事ハ可能。サレド、無限ノ再生ヲ持ツ我ヲ破壊スル事ハ不可能……』

「―――ぐぅッ!!」
闇が、連音を呑み込むように、徐々に纏わり付いて登って来る。
そして同時に、連音の体が段々と沈みこんでいく。

「くそ……このっ!!」
まるで闇が細胞の一つ一つを侵食していく様な不快な感触。
連音は必死にもがいた。

『恐レル事ハ無イ。闇ノ中デ、オ前ハ永遠トナル……』

「ぐぁ……あぁあああぁぁ……ぁ……」


『―――サァ、闇ニ沈メ』


そして波紋だけを残し、竜魔の忍は闇に沈んだ。









「どういう事や!?連音君は何処にいるんや!?」
はやてが取り乱し、問いただすと、闇の書はポツリと零した。

「不法に内部に入り込もうとした彼は……防衛プログラムが構成した、隔離空間内に閉じ込められています。
恐らくそこで、ワクチンプログラムと……戦闘状態にあると思われます」
「っ!?そんな……すぐに連音君を解放せな!!」
「不可能です。隔離領域には、管制プログラムはアクセスできません。
管理者権限か、ワクチンプログラム.が破壊されない限り……彼は解放されません」

「――つまり、早う管理者権限を取り戻さなあかん、いう事やな……」



『なのはちゃん、お願いや!何とかその子を止めて!!魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、
その子が奔ってると、管理者権限が使えへん!!今、そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから!!』

「ぅ…え……?」
何とかと言っても、どうすれば良いのか、なのはにはさっぱり分からない。
まだ魔導師になって一年も経っていない上、知識は無いに等しい。

どうすれば良いか迷うなのはの頭に、助け舟がやって来た。

“なのはっ!!”
「っ!?ユーノ君!!」
“話は聞いた。分かり易く伝えるよ!?今から言う事をなのはが出来れば、みんな外に出られる!”
「――うんっ!」
“どんな方法でも良い。目の前にいる子を、魔力ダメージでぶっ飛ばして!全力全開、手加減無しでッ!!” 「えっ……?」
ユーノが、キッパリと簡潔に言い放つ。

迷った時、ユーノはそれを振り払ってくれる。
嵐の海で苦しむフェイトを助けたいと思いながら、しかし迷っていた自分の背中を押してくれた。
そして今も、自分に行く道を示してくれる。

指針を得たなのはは、力強く頷き、そして笑った。
「さっすが、ユーノ君!!」
レイジングハートを両手で握り、先端を闇の書に向ける。
「―――分っかり易い!!」
“まったくです”
なのはの足元に、魔法陣が力強く輝く。


ユーノが言うのならば、自分はそれを、無条件で信じる事が出来る。
それは、二人が繋いで来た絆の証明でもあった。


自由に動けない闇の書が、砂龍の触手を召喚し、攻撃態勢を取る。

「バレル展開!中距離砲撃モード!!」
“All Right,Barrel Shot”

杖の後方が延長し、光の翼が大きくなって羽ばたいた。
先端に光と、大気が吸い込まれるように、力が充填されていく、
カタカタと、先端が震えだす。限界まで集中した力を、なのはは一気に解放した。
「―――ッ!!」
瞬間、風がライフルの弾丸のように発射され、闇の書を叩く。
吹き抜ける突風をガードするも、すぐにその両腕が剥がされ、全身が空間に磔にされた。

砲撃補助魔法、バレルショット。

砲撃の威力と命中率を高め、相手を固定し、砲撃の安定性を高める複合魔法。

バレル―――すなわち、相手を桶(バレル)の底に叩き込み、砲撃という水から逃れられなくする。









「――神様は、本当にいるのかもしれませんね?」
庭園へと向かうその道程。リニスは自分の思いを語る。
「……ずっと、心配でした。あなたとアルフと、プレシアの事が……。
プレシアの為に戦うあなたと、あなたの為に戦うアルフ。そして、アリシアの為に全てを犠牲にするプレシア。

その行く先は―――不幸と破滅。

「だから、願っていました……。あなた達を救ってくれる誰かを」
「リニス……」
「あなたは出会えたんですね。そして、プレシアも……」

見えてくる庭園の入り口。そして、そこに立つ庭園の主の姿も見えた。

フェイトはリニスから離れ、一人プレシアの前に立った。
「……行くのね?」
プレシアは、フェイトの手に納められたバルディッシュを見遣り、言った。
「はい……」
「そう……」
フェイトの答えにプレシアは膝を折り、そっと、その頬に触れる。

「もう少し……お母さんでいたかったのだけれど……」
「母さん……!?」
不意に、ギュッと抱き締められる。
「子供はいつか……親の手を離れていく。アリシアもあなたも……きっと、いまがそうなのね」
伝わる温もり。感じる鼓動。もう二度と無いと思っていたそれが、フェイトに染み渡っていく。
「だから今度は……ちゃんと送らせて? あなたの”旅立ち”を……」








「――夜天の主の名に於いて、汝に新たな名を贈る……」
それは、闇を断ち切る言霊。
名は、そのものを縛る呪であると、連音は言った。

それを知ってか、はやては新しい名を彼女に贈る。
「強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール……」
それは、光に満ちた言霊。
罪を許し、心を救う、新しき響き。

「―――その名は、リインフォース」

それは、美しき破邪の福音。












玉座の間。フェイトはその中央に立ち、バルディッシュに尋ねる。
「帰ろう、バルディッシュ……ザンバーフォーム、行けるね?」
“Yes Sir,Zamber Form”

バルディッシュが起動し、フェイトがバリアジャケットを纏う。
カートリッジが爆発し、携えた長柄は先端の回転と共に短くなる。宝石部を中心に展開し、歪なトライデントの様に変形した。
そこから巨大な、金色の刃が生み出され、バチバチとスパークを放つ。

「バルディッシュ!フェイトをお願いね!!」
“Yes,My Miester”
リニスの声にバルディッシュが宝石部を輝かせ、答える。

「疾風迅雷……!」
足元に魔法陣が輝き、フェイトは構えたバルディッシュで、周囲を撹拌するように横に回す。
スパークが床を、壁を走り、伝わっていく。

フェイトが担ぐ様にバルディッシュを構えると、奔っていた紫電が勢いを増した。

「スプライト……ザンバーッ!!」
フェイトが刃を振り下ろす。その余波が世界を吹き抜け、消し去っていく。


――行ってらっしゃい、フェイト――


「――行ってきます、母さん」

一粒の涙だけを残し、夢の世界は砕け散った。












(ここは……何処だ?)
光の一片すら無い、本当の闇。
倒れ伏した体に力は入らず、その先端から、闇に解けていくのだけが分かる。


         ――これで終わりなの?――


誰も存在できない筈の闇の中、声がとても良く響く。

(誰だ……?)
聞き覚えのある声だが、思い出せない。


        ――あなたは、もう諦めたの?――


またも声が響く。
声の主は何処にいるのか。何を言いたいのか。連音には分からない。


     ――あなたが、全てを遣り尽くしたと言うのなら、何も言わない――

だが、何故だろう。


         ――私は、それを受け入れる――


この声が届くたび、体に力が甦る。
両腕に力を込め、体を起こす。


      ――もし、そうでないのなら……立ち上がりなさい――


見えない先に精一杯、手を伸ばす。


          ――そして私は――


不意に何かが触れた。温かく、か細い何か。
それを感じた瞬間、世界を覆っていた闇が反転し、光に包まれた。



『―――悲しみを抱いて空を舞う、あなたの翼になる』









『―――ッ!?』
ずん、という音を立て、闇から手が飛び出す。防御プログラムが驚く中、更なる異常が世界を襲った。

『ナ……何ダ、コレハッ!?』

凄まじいまでの魔力が嵐となり、檻の中を蹂躙した。
その中心に跪くは、闇に沈んだ筈の者。


その全身からは、琥珀色と蒼白い魔力光が螺旋を描いて立ち昇っている。

『バカナ……完全ニ堕チタ筈……!?ソレニ、コノ魔力…… 一体、何ガ!?』

再び輝きを取り戻した刻印の翼が、大きく広げられる。

「―――琥光……烈の型!!」
“御意。烈乃型、起動”
琥光がカートリッジを爆発させると、連音は鞘に琥光を納め、眼前に構えた。

琥珀色の光に包まれ、その姿が大きく変化する。

光が砕け、手にズシリとした感触。


忍者刀は、大きく反りの入った大太刀へと変貌していた。


烈の型。
斬撃に重点を置いた、琥光第三の姿にして――――その真の姿。


連音は鞘ごと、上段にそれを構える。
鞘に片手を置き、僅かに鞘から刀を抜いて、大きく振り被る。


『クッ……!ドレ程ニ強大ナ魔力トテ……我ヲ破壊スル事ハ不可能……!!』
「………ッ!!」
連音は一気に駆け出し、その間合いを詰める。
後、半歩で刃の間合いとなった瞬間、神速の領域に入る。


そして、同時に瞬刹を発動させた。



――――バァアアアアアアンッ!!


破裂音に似た音が響き、連音は防御プログラムの前に立ち、背を向けていた。
防御プログラムの両腕の手甲は完全に砕け散り、そしてその体は―――― 一太刀に両断されていた。





相手は刃を防ぐべく両腕を交差し、上段を防御する。
しかし、連音はそのまま刀を中ほどまで抜くと、強引に間合いを伸ばした。

長柄となったその鞘で、両腕を粉砕。そのまま振り抜く。
その勢いに前のめりになったまま刀を抜き切り、踏み込みの膝を深く折り曲げる。

そして、羅刹による肉体能力の完全解放。片足で全身を跳ね上げる。

地面ギリギリを刃が滑り、がら空きの体を一閃した。


これら全てを、神速の限界時間――― 一秒で行ったのだ。





無影に拠る必殺の技。

「―――絶技、乱龍」

乱龍。
御神流奥義 薙旋を元に編み出した、全ての動きを連動させて、一切の隙を与えない必殺の連携。



連音はゆっくりと立ち上がり、刃を振ってゆっくりと琥光を鞘に当てた。

『フフフ……アハハハ………ッ!!』


防御プログラムが狂ったように笑い出す。
しかし、連音は背を向けたまま、納刀を続ける。

『見事……ダガ、我ニハ無限ノ再生ガ在ル。コノ程度…………ッ!?!?』

防御プログラムが、一転して表情を変える。

――――初めて見せる、戸惑いと恐怖の色に。


『莫迦ナ……何故!?何故、再生シナイ!?』
ひび割れた腕は更に亀裂を増し、両断された体にも大きく亀裂が走り出す。


『―――無駄よ。あなたは、もう終わり……』
『――ッ!?』
連音の口を通し、連音でない者の声が響く。

「無限の再生……確かに脅威だった。だがそれは、お前の能力じゃない。それは、本体とのリンクがあってこその力……」
『だから私が……そのリンクを”破壊”したの。もう、あなたは再生出来ない……』
「お前の敗因は、自分の能力を過信した事だ。恐怖を知らない者に……竜魔は倒せない」

『……ッ!?ガァア……ッ!!』
両腕が砕け散り、体の亀裂が顔にまで達する。

『貴様ハ……誰ダ!?コノ魔力……人間ニ持テル筈ガ無イ……!!』


防御プログラムが叫ぶ。
それに応じて、光が現れる。連音の後ろに浮かび上がる、金色の女神の姿。

『さようなら、愚かな檻の主。もう二度と会う事はないでしょう……』
『――――グォオオオオオオオオオッ!!』


怒りと絶望の咆哮。
しかし連音は冷酷に止めを刺す。

「―――滅せよ」

チン、と軽い鍔鳴りが響き、断末魔すら許さずに全てが砕け散った。











触手がなのはに向かって一斉に飛び掛かる。
「―――っ!?」
砲撃体勢を取っているなのはに、これを躱す事は出来ない。


「「チェーンバインド!!」」

その時、なのはの後方から、オレンジと緑の鎖が飛び掛かり、触手を全て絡め取った。
「良かった、間に合った!!」
「お待たせ、なのは!!」

「ユーノ君っ!アルフさんっ!!」
頼もしい援軍に、なのはが喜びの声を上げる。

「防御は僕達が引き受ける。だから、早く!!」
「――うんっ!!」


レイジングハートの両端に、帯状魔法陣が展開される。
「エクセリオンバスター、フォースバーストッ!!」
カートリッジを連続爆発させ、強大な魔力スフィアが構成される。
「――ブレイク……シューーーートッ!!」
それは見る間に巨大化し、弾けた。

何本もの砲撃が絡み合い、うねりを上げて闇の書に襲い掛かる。
着弾した瞬間、圧倒的な魔力爆発が起こり、太陽のような輝きへと変わって夜の海を照らした。






光が溢れる中、アルフがハッとして見上げた。
「っ!フェイトォッ!!」
そこにいたのは、闇の書に取り込まれた筈のフェイト。
アルフの声にフェイトは視線を向け、笑った。
「良かった、フェイトちゃん……!」










「―――?何だ、この光は?」
『どうやら、はやてちゃんが目を覚ましたみたいね?』
アリシアの言葉に、連音は肩を竦めた。
「やれやれ……俺の苦労を無駄にしてくれたか……」
口ではそう言いながら、連音は少しだけ笑っていた。
傷は痛むが、それよりもずっと心が軽い。

その足元に、白の転移魔法陣が光り輝いた。









『新名称【リインフォース】認識。管理者権限の使用が可能になります』
「うん……連音君は?」
『先ほど、転送プログラムの発動を確認しました。取り込んだ者は全員、恐らく、すでに外に転送さているでしょう』
闇が晴れ、光の中ではやてはその声を聞く。

『ですが、防衛プログラムの暴走は止まりません。管理から切り離された膨大な力が、直に暴れ出します……』
「うん。まぁ、何とかなるやろ……まずは………管理者権限、発動……!」
『―――防衛プログラムに割り込みを掛けました。数分ですが、暴走の遅延が出来ます』
「うん……それだけあったら充分や。ほんなら次は……」

はやての周りに、四つのリンカーコアが現れる。
「リンカーコア送還。守護騎士システム、破損修復……」

主の言葉に、光が強く輝く。
そして、遥か彼方に消えた器が再生される。



「―――おいで、私の騎士達」

リンカーコアが消え、リインフォースを通して騎士達の復活を感じる。


「―――ほんなら、行こか……リインフォース」
『―――はい、我が主』






なのはたちの前には、巨大な闇色のドームと、白い小さな光玉。
世界は未だ揺れ続け、滅びに向かって進み続ける。

その闇のドームこそが、暴走の始まる場所。絶対防衛線。



アースラからの指示に従い、もうすぐ現着するクロノを待つなのは達の目の前で、それは起こった。


白い光玉が突如強く輝き天地を貫いた。
余りの眩しさに、全員が顔を逸らす。

その光が徐々に収まっていくと、そこには四つの影があった。


白く輝く魔方陣と、護る様に光玉を囲む者達。


「ヴィータちゃん!?」
「シグナム……ッ!?」



「――我ら、夜天の主の下に集いし騎士」
「――主在る限り……我らの魂、尽きる事無し」
「――この身に命在る限り、我らは御身の下に在り」
「――我らが主……夜天の王、八神はやての名の下に」


守護騎士達が、誓いの言葉を紡ぐ。
それは絶対の忠誠。それは絶対の覚悟。

主を護る、騎士としての盟約。






「リインフォース、わたしの杖と甲冑を!」
『はい』
はやての体に、黒地に白と金のラインが入った、ノースリーブとミニスカート、手には黒のオープンフィンガーグローブ。
足にも、黒の短いブーツ型の靴が装着される。

それらを身に着け、はやては眼前の杖を見据える。
その瞳は、碧色に染まっていた。

杖を掴もうとする手が、少しだけ止まる。


これを掴めば、今までの世界が終わる。
平凡で、穏やかだった時間は消え、続くのは戦いの道だろう。


フッ、とはやては笑った。


怖いのではない。少しだけ――――嬉しいのだ。

傷つけたりする事は嫌いだ。だけどもう、見送るしか出来ない自分ではなくなる。

もしも、もっと早くにこの杖を掴んでいたら、あの時、彼と一緒に空を待っていたのだろうか。


(……アホな事、考えてもうたな……)

はやてはガシリと、杖を掴んだ。




砕け散る光。その中から現れたはやてに、なのはが歓喜の声を上げる。

はやては、なのはに微笑を返し、そして杖――シュベルトクロイツを掲げた。

「夜天の光よ、我が手に集え!!祝福の風リインフォース……セーット、アーップッ!!」

杖から白と黒の魔力光が混じり合い、解放される。

腰から下を覆うように、シグナムと同じ様なガード付の腰巻が。
上半身には、シャマルと同じ様な長袖のジャケットが。
髪の色が色素を薄め、その上にリボンだけのシンプルな、ヴィータと同じ形状の帽子が装着される。


そしてその背に、黒い六枚の羽根を羽ばたかせ、夜天の王がついに降臨する。









冷たく暗い夜を終わらせる為、戦士達と女神達が復活した。
迫る滅びに立ち向かう為に。

未来を、その手に掴む為に。













だがその中に、辰守連音の姿は無かった。












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