時空管理局 第四技術部。
マリエル・アテンザはデータの整理に追われていた。
レイジングハートとバルディッシュに組み込んだ、カートリッジシステム。
元々、近代ベルカ式用に作られていたそれを、インテリジェントデバイスに組み込むという前代未聞の改造を行ったのだ。

万が一もあると、二機の強化プランを必死に組んでいるのだ。

しかし実動データが来る度に、ほぼ全てを修正しなければならず、終わりが見えない作業に、マリーはガックリと項垂れた。

「うん…?」
ドアの向こうから、バタバタと複数の足音が聞こえた。
また第3技術部が、五機合体型デバイスとか訳の分からない物を作って、暴走させたのだろうかと思っていると、ここのドアが開いた。
「え……?」
入って来たのは数人の武装局員。そして、何故かトレンチコートを着た背の高い男性だった。
「確認する。第4技術部所属、マリエル・アテンザだな?」
「そ、そうですけど……あなたは?」
「時空管理局査察部所属、狼周明(ロウ・シュウメイ)だ。すまないが……時間を頂こうか?」
「さ、査察官……!?如何してですかッ!?」
査察官と聞き、マリーが驚く。ロウは目を鋭く細め、言った。
「……お前さんには、情報の外部漏洩の疑いが掛かっている」



   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

       第十六話   謀略の聖夜



管理局で大きな動きが始まるより前に、時間は遡る。アースラ内で、クロノはデータを調べていた。
連音の辿り着いた事件の真相。その裏付けを行っているのだ。
「やはり……連音の読み通り、試作デバイスに関わっている」
試作型デバイスの概要はそれぞれ、火炎、氷結、電気の魔力変換機能を搭載したミッド式。
武装局員の戦力向上を計り、新しい汎用デバイスの可能性として、開発計画が行われたようだ。

実際に魔力変換は、攻撃魔法ならそれだけで威力が上がる。

しかし、この魔力変換というのはそれなりに高度な技術であり、一般の魔導師には難しい。
その上、そういった機能を搭載したデバイスもかなり少ない。

その理由は汎用性の低さ。
例えるなら、火炎の変換機能を持ったデバイスを使い、電気や氷結を使う事は難しい。
そして、何より現状ではコスト面が大きい。

そういった理由から、変換機能は一部のカスタムデバイスに装備されるに限られていた。

「ローコストの新たな変換機能の為の、実動データ収集を目的とした完全カスタムデバイスの開発。
確かに、成功すれば……人手不足の管理局に、少なからず助けとなるだろう。だけど……!」
グレアムの真意を知った今、クロノにはこの計画の真実が見える。
巧妙に隠された、本当の目的。


変換機能氷結特化型 試作ストレージデバイス―――開発コードネーム《デュランダル》。


それこそが闇の書に対して用意された、ギル・グレアムの切り札。
幼き少女と共に闇を葬る、聖なる剣。



「――あれ?どうしたの、クロノ君?」
「っ…?」
ドアが開き、エイミィの声が聞こえた。クロノは慌ててモニターを消していく。
「うん、ちょっと調べ物をね……」
「なんだ、言ってくれればやるのに……」
「いや、個人的なことだから……それに丁度終わった所だし」
クロノはそう答え、部屋を後にしようとする。その何処か余所余所しい態度に、エイミィは首を傾げた。
「――あっ、そうだ。闇の書に関するユーノのレポート、なのは達にも送っておいてくれたか?」
「うん。なのはちゃん達も、闇の書の過去に関しては複雑な気持ちみたい……」
「………そうか」
クロノは少しだけ顔を伏せた。
それなりに一緒にいるエイミィには、それが何か隠し事をしている時の顔だとすぐに分かった。

しかも相当に深刻な、おいそれと人に相談できない時の顔だ。

「――もし何かあったら、遠慮無く言ってね?」
エイミィがそれだけを告げると、クロノは小さく頷いた。








時は進み、年の瀬迫った十二月二十三日。
クリスマスイヴ前日である。

ヴォルケンリッターは蒐集の為に世界中を飛び回り、局はそれを追い切れないでいた。

なのは達も数回出撃をしたが、結局は後手に回り、遭遇する事はなかった。



そして、連音はいつもの山中にいた。
「――頼まれておりました品、こちらにございます」
竜魔衆の下忍から小さな箱を受け取る。蓋を開け、中身を確信した。
「確かに受け取った。ご苦労」
「――では」
下忍はそのまま、木々の影に消えていった。

「さて、仕込みを始めようかな……」
枯れ木を集めて火を起こし、湯を沸かす。

連音は苦無を取り出し、少しだけ息を吐いた。


これからやろうとしている事は、一種の保険だ。
だが、出来るなら徒労に終わって欲しいと、願わずにはいられなった。








仕込みを終え、連音が山を下りたのは夕方頃。
街並みはクリスマス一色に染まり、イルミネーションが煌びやかな光を放っていた。

「そうか、明日はクリスマスイヴか……」
すっかり忘れていたが、明日は聖夜なのだ。

とりあえず、何かプレゼントでも用意しておいた方が良いかと、連音は適当に見て回る事にした。
「えっと、なのなとフェイト、すずかに忍姉、ノエルさんとファリンさん……後は恭也さんと美由希さん、フィリス先生……はやてと……久遠に神咲さんぐらいか?」
指折り数えると結構な数になってしまい、苦笑する。
数が数だけに、小物系にしようと店を探した。






適当に選んだ店で、プレゼント用の小物を買う。
小物と言いつつ、結構な量の為にそれなりに重い。


「――連音様?」
「あっ、ノエルさん。こんばんは」
掛けえられた声に振り返れば、私服姿のノエルがいた。
こんな時間に、ノエルが屋敷以外にいる事は、とても珍しい事だった。

「どうしたんですか、こんな所で?」
「実はファリンが、クリスマス用の料理に使う調味料をひっくり返しまして……余り一般向けの物ではないので、こうして買いに来たのです」
ノエルは、手に提げた袋を見せる。
「はぁ……ファリンさんらしいといえば、らしいですね」
連音が苦笑すると、ノエルは深い溜め息を吐いた。
「こんな事で認識をされても困るのですが……もう少し、しっかりしてくれないと……」
そんなノエルの思いを聞き、連音はやっぱり苦笑いするのだった。


夕日が海鳴の町を焼く。その光景を連音は好きでなかった。
「夕焼け……か」
それはかつて見た、煉獄という名の地獄。その写し絵。
自然と心が掻き乱される。

「連音様。宜しければ今夜は、屋敷の方に御出でになられませんか?」
「……え?」
「明日は折角のイヴですから、忍お嬢様もすずかお嬢様も、きっと喜ばれます」
「う〜ん……それじゃ、お邪魔します」
「お邪魔する、などと他人行儀です。月村の屋敷は……連音様の家でもあるのですから」
ノエルは微笑を湛えて言った。連音はそれを見て、ノエルに気を使わせてしまったと気が付いた。

「すいません」
「謝る事でもありませんよ」
「……そうでしたね」
連音は少し恥ずかしげに笑った。






「ただいまー」
すずかが玄関ホールに帰宅の挨拶を響かせる。
何時もならば、ここでファリンが「お帰りなさい、すずかちゃ〜『どんがらがっしゃ〜ん!』
と、こういった感じなのだが、今日は違った。

「おう。おかえり、すずか」
「ただいま、連音く………………………………………………んんっ!?」
ひょっこり顔を出した連音に、すずかはフリーズし、結構な間を置いてから再起動した。

海鳴に住んでいると、自然と良いリアクションが取れる様になるんだろうか、などと連音は思ってしまった。


「―――でも、泊まりに来るなら一言、言って欲しかったよ。ビックリしちゃったもの」
「いや、そう決まったのも、ついさっきだから……」
リビングでファリンが入れたお茶を飲みつつ、二人は他愛ない話をしていた。
「それじゃあ、今日はうちに泊まるんだね?」
「まぁ、ノエルさんに誘ってもらったしな。これから…きっと忙しくなるから」
「年末だものねぇ……」
多少なり、思考にズレが生じるのは仕方ない事だ。すずかは一応一般人であり、連音は完璧に一般人ではない。

「…?その紙袋は何?」
「ん?あぁ、これか?これは……」
連音は足元の紙袋から一つ、リボンで包装された小さな箱を取り出した。

それをポ〜ン、と、すずかに放って渡した。
「っと……何?」
「一応、クリスマスプレゼント。物に関してクレーム付けるな?」
「……折角のクリスマスプレゼントなんだから……後一日、待って欲しかったかな」
「別に、今日渡しても同じだろ?」
「全然違うよ。そういう所をちゃんとしないと……女の子に嫌われるよ?」
すずかは少し唇を尖らせながら、しかし顔を少しばかり赤らめている。
それに気付かず、連音はそういうものなのかと、少し頭を捻った。

「で、開けないのか?」
箱をそのまま手の中で遊ばせるすずかに、連音は尋ねた。
「うん、明日まで取って置こうと思って……他にも入っているの?」
「あぁ、なのなにフェイトに忍姉、ノエルさんとファリンさん……後は恭也さんに美由希さん、フィリス先生、はやて、久遠に神咲さんの分」
指折り数えて並べる連音。改めて、よくもこんなに、送る相手がいるものだと思う。
すずかはそれを聞いて「あれ?」と思った。自分の聞き間違いだろうか。
「………アリサちゃんのは?」
「…………………………おうっ!?」
「ほ、本当に忘れてたのっ?」
「すずか、他言無用だ。知ってしまった以上、お前も同罪だぞ?」
「えぇ〜っ!?わたしもなの〜ッ!?」
余りの理不尽さに、すずかが納得できないと抗議の声を上げた。しかしそんな事をあっさりと無視して、連音はどうするか考える。
「とにかく何か用意するか……いや、あいつにプレゼントを贈る義理は無いよな……?」
「もう、連音く〜んッ!!」

と、いう様な取り留めの無いおしゃべりをしていると、ドアの向こうからリビングを覗き込む影があった。
「じ〜〜〜〜〜〜〜……」
すずかからは背になっているので、気が付いていない様だが、連音からは丸見えであった。
しかし、余りにもあからさま過ぎて、ツッコミを入れる気にもならない。

しかし、このままにしておいても色々面倒臭そうなので、連音は声を掛けてみた。
「ファリンさん、何やってんですか……?」
「えっ!?」
驚いたすずかが振り返った。
「うぇえ!?気付いてたのですかぁっ!?」
ファリンも、気付かれていたとは露も思わず、驚きの声を上げた。

というか、本気で見つかっていないと思っている辺りにこそ、ツッコンでおきたい。
「ファリン、何でそんな所にいるの?」
「そ、それはもちろん!このファリンが、空気を読める子だからですよ!!ハッ!?」
「しまった」と、口を塞ぐファリンだったが、既に時遅し。

「ファリン〜ッ!!」
すずかが叫ぶや否や、ファリンは脱兎の如く逃走した。
そしてすずかも、それを追い駆けようにリビングから出て行った。

一人残った連音は、お茶を飲みつつ、月村家の日常に少しだけ安らぎを感じていた。







いつも通りの時間。それはあっという間に流れていく。
時は、十二月二十四日の朝。


制服に身を包んだすずかが玄関ホールにいた。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、すずかお嬢様」
「いってらっしゃい、すずかちゃん」
ノエルとファリンが、揃ってすずかにお辞儀をする。

「あ、そうだ。連音君、今日は学校、お昼までなんだけど……時間ある?」
見送る為に顔を出していた連音に、すずかは尋ねた。
「うん?まぁ、特に急用が無ければ……なんでだ?」
「実は放課後……はやてちゃんにサプライズで、プレゼントを持って行こうって話になってて、それを買いに行くんだ。
なのはちゃんやフェイトちゃんも、一緒に行くんだけど……良かったら連音君もどうかな?」
「う〜ん、一考するって事で良いか?」
すずかの提案に、連音は歯切れの悪い答えを返した。

正直、なのは、フェイトと共に、はやての病室に行く事は避けたかった。

守護騎士に一緒の所を見られれば、絶対に厄介な事になると、予想は容易にできるからだ。
尤も連音がいなくても、病室で鉢合わせたりなどしたら、一気に最悪の展開になるだろうが。


すずかは少しだけ寂しそうな顔をしたが、「うん、分かった」と返した。
それにちょっとだけ罪悪感を覚えながらも、連音にはそれに気が付かない不利をした。



すずかが学校に向かい、忍も大学に向かった。

イヴの翠屋は、カップルや家族連れの為に、営業時間が普段よりも遅くなるらしく、忍も午後から、翠屋の方に出ずっぱりになるという。

実質、夜までは屋敷には猫とメイドしかいない。


という事で連音は、猫のまどろむ陽だまりにいた。
「ふあぁ……ぁふ」
風も無く暖かな冬の日差しを受けて、思わず欠伸をしてしまう。
それに釣られたかのように、周りにいる猫達も揃って欠伸をする。

空には雲も無く、これでもかと言うほどに良い天気であった。


そんな平和な光景に、ノエルは優しげな眼差しを送っていた。




そんな時だった。

風が庭をサァッ、と吹き抜けたのは。

木々が葉を鳴らし、草花が揺れる。


それは一瞬の事。少しだけ戻った寒さに、猫達は首を竦める。


パキン。


「「――ッ!?」」
森の方からした枝の踏み折られる音に、連音とノエルが反応する。

ノエルは手にしていた特製の箒を構え、連音は苦無を握り、一瞬で動ける体勢に変える。


月村家の敷地内には、過去に起きた事件を教訓に、様々なセキュリティが施されている。
しかもそれを監修したのは誰あろう、連音の兄、辰守束音である。


潜入工作、暗殺などのプロフェッショナルが念密に組み上げたそれを、全てすり抜けてくる事は、さしもの高町恭也でさえ不可能である。


それなのに警報も何も無く、本丸手前まで何者かの侵入を許してしまっていた。

得体の知れない相手に、ノエルは連音を庇う様に踏み出す。
「何者です…!?」
ノエルが怒気を孕ませた声を、森に向けて放つ。その徒ならぬ気配に猫達も、自然と連音の後ろに隠れる。

そして数秒後、ノエルが動こうとした瞬間、それは現れた。
「いやいや、大したもんだ……ここのセキュリティといい、その反応の速さといい……」
現れたのは、古ぼけたトレンチコートを着た、背の高い中年程の男。
頭に、やはり年季の入ったボルサリーノの帽子を被り、先刻までとは違う、威風堂々たる雰囲気を纏って、彼は連音達に向かって歩を進めた。

「あぁ、そう警戒しないでくれるか?不法侵入に関しては詫びるが、別に害を与えに来た訳じゃあない」
「トレンチを着たタフガイ気取りの不審者を、はい、そうですかと信じると?」
「思わないだろうなぁ。だが、事実は変えようが無い」
そう言って、男は連音を見やった。口元が僅かに歪む。

「坊主が、辰守連音だな?」
「―――さぁ?」
「こいつはまた、ひねた坊主だな……」
言葉とは裏腹に、面白そうに「ククク…」と笑った。

男からは嫌な気配はしない。だが、底を決して見せない曲者。そういった印象であった。
「俺は狼周明。坊主にちぃっとばかし、用が在って来た。付き合ってもらえるかい?」
「お断りします」
「話の内容を聞かずに即答か。こりゃ良いや、ハッハッハッ!」
ロウと名乗った男は、声を上げて笑った。

「坊主、マリエル・アテンザを知っているだろう?」
「ッ!?マリエルさん……?」
その名を聞き、連音はロウという男が、管理局に関わる人間だと分かった。
「連音様、その方をご存知なのですか?」
「えぇ、一応。その人の事を知っているのは、ある関係者だけです」
連音はノエルの質問に答えつつ、魔導の封印を解く。そして、ロウに向かって念話を送った。

“――その名前を出すって事は、時空管理局の人ですか?”
“おっ、やっと念話が通じたか。やれやれ……うんもすんとも無いから、こっちの情報が間違ってたかと思ったぞ?”
“それで、俺に何の用ですか?”
“あぁ、そうだったな。改めて、俺は時空管理局 査察部所属の査察官、狼周明だ。坊主には話を聞きたいだけだ”
“話……?”
“実はな、マリエル・アテンザは今、情報漏洩の疑いで、うちが身柄を抑えている”
“ッ!?”
“内部からそういった告発があるのは珍しくないんだが……どうにも、今回は妙なのさ”
“どういう事ですか?”
“どれだけ調べても、そういった痕跡が発見されないのさ。で、坊主に話を聞こうと思ってな”
“それで、どうして俺に話を聞く事になるのか、全然分かりませんが?”
“その告発の内容に、『外部の人間と接触した』ってのがあってな、マリエル・アサンデが最近接触のは、坊主だけなのさ”
“…………”
連音は深々と、溜め息を吐いてしまった。
そういった疑いを受けてしまったのは、明らかに自分のせいだ。

“まぁ、無理にとは言わないがね。どっちにしろ俺的にはシロだ。坊主の話が無くても数日中には解放だ”
“……いえ、行かせて貰います”
連音はそう答え、ノエルに向いた。

「すいませんが、どうやら俺に用事があるようなので、ちょっと行ってきます」
「連音様……ですが」
ノエルは心配そうな顔をした。
それはそうだろう。相手は警報も無く、屋敷まで踏み込んできた不法侵入者なのだ。

悪人に見えない気もするが、それはイコール、連音を行かせて良い事にはならない。
ノエル・K・エーアリヒカイトにとって、辰守連音は守るべき存在なのだ。

しかし連音は、いつもの様にヒラヒラと手を振って笑った。
「大丈夫ですよ……っと、すずかには急用で行けなくなった、と伝言をお願いします」
「ですが……!」
「じゃあ、行ってきますね」
ノエルが何かを言う前に、連音はロウの脇を抜け、森に足を踏み入れた。
「じゃ、俺もこれで失礼させてもらう」
その後を追うように、ロウも森に姿を消した。

「………」
ノエルは消えてゆく気配に、嫌なものを感じた。
それは半年前、連音から数日留守にする、という電話を受けた時と似た感じだった。

そして連音は、瀕死の状態で帰ってきた。

もしかしたら、という考えがノエルの脳裏に過ぎる。
瞬間、駆け出していた。

自分の足ならば、すぐに追いつける筈だ。地を蹴り、その身を風に変え、森に跳び込む。

行かせてはならない。
忍の、すずかの、ファリンの、家族の辛い顔を見たくない。
何より、もう二度と、あんな姿の連音を見たくない。


「――っ?」
ノエルは足を止めた。
おかしい。どれだけ探しても二人の姿が無い。人の足で、自分を振り切るなど不可能の筈だ。

だが現実として、ノエルは二人を見つける事が出来なかった。

何故なら、二人は既に時空管理局へと転移していたからだ。
「くっ…!」
ノエルはギュッと拳を固め、空を仰いだ。

いつの間にか、青空には雲が差し始めていた。






とある次元世界。赤い大地を眼下に見下ろし、ザフィーラは飛んでいた。

シグナム達は、今日は揃ってはやての見舞いに向かい、蒐集を行えない。
しかし、時間も余り残されていない現状、ザフィーラは単独で蒐集に当たっていた。

「むっ…!?」
おもむろにザフィーラは足を止めた。蒐集対象を見付けた訳ではない。今、目の前にいるからだ。

仮面を着けた、件の男が。


「守護騎士よ、久しいな……」
「何の用だ……?」
ザフィーラは警戒しつつ、男を注視する。僅かでも妙な動きをすれば即、行動を起こせるように。
しかし、仮面の男は「くくく」と笑った。

「そう警戒するな。蒐集の状況を確認しに来ただけだ……それで、後何ページ残っている?」
「…………」
ザフィーラは迷った。残りのページはあと僅か。今のペースならば、数日中にも完成させる事ができるだろう。

問題は、それを相手に伝える事の意味。

相手の意図が分からない以上、下手に答えを言う事は出来ない。

すると、ザフィーラの迷いを察したのか、男は仮面の奥で「フッ」と笑った。
「どうやら、闇の書の完成は間近なようだな……結構な事だ」
「……貴様の目的は何だ?何故、闇の書の完成を助ける……!?」
「フッ……闇の書の完成、そのものが我が望み……それだけの事だ」
「……?」
ザフィーラには理解できなかった。闇の書が完成すれば、主は絶対的な力を得る。
その力の前に、洗脳や脅迫は意味をなさない。
つまり仮面の男には、完成を助ける事のメリットが何もないのだ。

「それで……闇の書は後、どれほどで完成する……?」
「………残りは47ページだ」
「………そうか。では、ラストスパートを手伝ってやろう」
「何――ッ!?」
その瞬間、ザフィーラの胸を衝撃が襲った。
貫くように飛び出す他者の腕。そこに握られる光――ザフィーラのリンカーコア。
「あ…ぐぁ……っ!」
眼前の相手には、何も動きは無かった。それなのに何故。
混乱する思考の中、仮面の男の手が上がる。と、そこにザフィーラが持っていた闇の書が現れた。

その時、ザフィーラは気付いた。
今、仮面の男の片手が空いている事に。


仮面の男が闇の書を掲げる。
「闇の書……蒐集」
“Sammlung”
闇の書が開き、闇色の光がザフィーラのリンカーコアに当てられる。

「グァアアアアアアアアッ!!」
闇色の光はザフィーラの魔力光に染まり、その力を喰らい続ける。
果て無き地の果てに、苦痛に満ちた絶叫が響く。

「さぁ、始めよう……罪深きモノよ」
目の前から声が聞こえる。
「さぁ、告げよう……数多の悲劇の終焉を」
すぐ後ろから、全く同じ声が聞こえる。

(一体、何が……!?)

しかし、その意味を理解する前に、ザフィーラという存在は世界から消滅した。












時空管理局にある、とある一室。ドアが開き、すっかり疲弊したマリエルが顔を出した。

「あぁ〜、シャバの空気は美味しいわね〜!」
「マリエルさん、シャバって……」
連音の証言で、ようやくマリーの無実は証明された。
しかし、手続きを踏むのに時間が掛かってしまい、地球は今頃夕方近いだろうか。
「悪かったな、手間を掛けさせて」
ロウはそう言うが、表情は全く悪びれていない。
向こうにしてみれば、職務を果たしただけなので当然ではあるが、マリーは不服そうな顔をしていた。
「本当にビックリしましたよ!誰ですか、意図的な情報漏洩とか、私に濡れ衣を着せた人はッ!!」
「生憎とこういったのは匿名でな。その上、基本的に秘匿される。その相手を調べる事も容易に出来ないのさ」
そう言ってロウは肩を竦ませた。
確かに、送ってきた相手が簡単に特定されたりすれば、匿名の意味も無い上、能登の事を恐れ、そういった行動を起こせなくなるだろう。

しかし、今回はそうも行かない。ロウは「誰による告発なのか、調査する」としている。

ともあれ、連音の役目もこれで終わりと、転送ポートに向かおうとした時だった。
「――ッ!?」
室内になだれ込んで来たのは、十人程の武装局員。それらが全員、一人を包囲し、デバイスを構えた。
「おいおい、何の騒ぎだッ!?」
「え、えぇっ!?」
突然の事態に浮き足立つ三人。しかし、武装局員は何も答えず、代わりに素早く、―――連音の身柄を押さえた。
「うぐっ!?」
腕を背に回され、壁に押し付けられる。
「腕のデバイスを取り上げろッ!」
一人が叫び、右腕に嵌められていた腕輪が奪い取られる。そして代わって、その腕には冷たい手錠が掛けられた。

「ちょっと待て、お前ら!何やってやがる!?」
『それは、私から説明させてもらうよ』
ロウの前に空間モニターが出現する。そこに映った人物に、三人は表情を変えた。
「ギ、ギル・グレアム提督…!?」
「グレアムのおっさん…!?何でアンタが…!?」
「っ……!」
『彼は、現在捜査されている闇の書事件に関して……管理局側の情報を流し、その完成を幇助した疑いがある』
そうして別のモニターに映るのは、私服姿の連音とシグナム。そして同じく、私服姿のシャマルと連音。






同時刻。時空艦船アースラ。
そのブリッジに武装局員と、制服姿の局員が踏み込んでいた。
「……一体どういう事か、説明を願えるかしら?」
艦長リンディ・ハラオウンは、制服姿の局員の前に立ちはだかっていた。

「民間協力者の少年、辰守連音を知っていますね……?」
「えぇ、それが何か?」
「先ほど……管理局に対するスパイ容疑で、身柄を拘束しました」
「――ッ!」
「それに合わせ、この船に共犯者、あるいは何かしらの盗聴行為等が為されているか、捜査を行います。
それに際し、艦長以下全クルーは此方の指示に従っていただきます」
局員は、正式な書類をリンディに見せた。そして、そこにサインされた名前に目を見開いた。

(グレアム提督……ッ!?まさか、クロノの言った通り……!?)

クロノから報告を受けた時には、俄かには信じられなかった。
だが、現実として事態は急転しようとしていた。






『今頃はアースラにも、捜査の手が入っている頃だろう』
「………なるほど。これが、アンタのやり口って事か」
『こうなってしまった事……とても残念に思うよ』
モニター越しに視線を交差させる、連音とグレアム。
「……一つ、答えてもらおうか?」
『……何かね?』
事件に関わる事でも聞かれるのかと、グレアムは考えていた。
だが、何を聞かれようとも、動揺してボロを出す事など無い。その自信はあった。

だが連音の言葉は、グレアムの予想を大きく外れるものだった。

「アンタは言ったな。友達や、自分を信頼してくれる人の事は、決して裏切ってはいけない、と」
『ッ……!?』
「今のアンタは、その言葉に答えられるか?」
僅かにだが、グレアムの表情に揺らぎが見える。そして二人の会話に、周りの局員達も動揺を抑えられなかった。

その隙を、連音は逃さなかった。
袖口から、ボールペン程の筒を取り出し、指で捻って、床に落とした。
カツーン、という音が響いた瞬間、爆発が起きた。
物凄い勢いで白煙が上がり、視界をあっという間に塞いでしまう。

「ゲホッ!ゴホッ!!」
「ごほっ!何だこれは……ゲホ!?」
連音の至近距離にいた武装局員全員が、白煙をもろに吸い込んでしまい咳き込んだ。
その隙に体を入れ替えて、体を押さえていた局員を弾く。
すぐさまジャンプし、同時に背中に回されていた両手を、足の下から抜いた。

「ドアを開けろ!!煙を外に!!」
武装局員の一人が叫ぶ。次いでドアが開かれ、白煙が通路に流れ始める。
その瞬間、連音は白煙の流れに乗って通路に飛び出した。

煙を裂いて、連音は一気に通路の向こう側まで走り抜ける。
「しまった…ゴホッ、ゴホッ!!」
薄くなる煙の中から飛び出し、数人がそれを追い駆けるが、最早間に合わない。

「申し訳ありません、提督…ゴホッ、むざむざと……すぐに手配を掛けます」
『うむ。既に転送ポートは押さえてある。彼の行く先は間違いなく、97管理外世界だろうからね。
後はドックに入っている時空艦船にも、転送ポートの使用制限をかけてもらおう。
彼を本局から出してはならない……閉じ込めるのだ』
「了解しました!」
グレアムの指示を受け、残った武装局員が動き出した。

「………グレアムのおっさんよぉ……」
『何かな、ロウ査察官?』
「―――あんた、俺らを利用しやがったな?」
モニター越しにロウは、その名の如く狼の様な鋭い視線をグレアムにぶつけた。
『――何の事かね?』
その視線だけで、一般の犯罪者ならば恐怖に震えるだろう程のそれを、グレアムは平然と受け止める。

ロウは苛立ったように舌打ちした。
「アンタはあの坊主がここに来るように、マリエル・アテンザが情報を流しているというデタラメを、うちに流した。
調査をすれば、必ず坊主に当たると確信してな。もしそうでなくても、そうなるように誘導を掛けるつもりだったんだろう……?」
『……何か、証拠でもあるのかね?』
「ねぇさ、何もな……」
ロウはそう言って、モニターを消した。

証拠は無い。だが、このタイミングが作為的であるのは明らかだ。
調べればすぐに明らかになる筈だ。
しかし、そんな事に気付かないグレアムではないと、ロウは思っている。
(なら、如何してこんな行動をしやがった……?)
グレアムの意図が読み切れず、ロウは再び舌打ちした。

「あ、あの……?」
「うん?何だ、まだ居たのか……もう良いぜ、さっさと帰りな」
煙で涙目になったマリーに、ロウはそっけなく言い放つ。
しかしマリーは何か言いたげに、その場を動こうとしなかった。
「あの……」
「――何だ?言いたい事があるなら、さっさと言え……!」
何処か苛立ちを抑えられない様に、ロウは語尾を荒げる。
「ヒッ…!あ、あの……本当なんですか…さっきの話って……?」
「………」
「グレアム提督が……ウソの情報を流して、私が捕まって……でもそれは、あの子を捕まえる為だって……」
「俺の勘と状況証拠だけだがな……間違いないだろう。余りにもタイミングが良過ぎる。大体、あんな証拠があるのなら正式にアースラに通報すれば良い。
それ以前に……捜査に加わっていないおっさんが、どうやってあんな証拠を掴んだ?」
「あっ…!」
ロウの指摘にマリーが声を上げた。
つまり、あの証拠の写真が捏造した物か、もしくはグレアムが、密かに動いているという事になる。

そして、そのどちらにも正当な理由は付けられない。
しかし二つには、共通する理由はある。

辰守連音を自分の手で捕らえる為の口実。

「どうしてそこまで、あの坊主に拘るのかは知らんがな……」
そう締めくくると、ロウは部屋を出て、何処かへと行ってしまった。

一人残されたマリエルは、どうしたら良いか分からず、そこに立ち尽くしていた。


「――すまないが、少々聞きたい事がある」
そんなマリエルに声を掛けた人物がいた。

彼女が振り返ると、上級仕官服に身を包んだ人物が立っていた。







人気の無い作業用通路。
連音はそこにいた。

鎖の継ぎ目に呪符を貼り付け、印を結ぶ。
「符術、爆砕……っ!」
符が光り、爆発する。熱と閃光が手と腕を焼くが、継ぎ目にもダメージが入った

後は強引にそれを引き剥がすべく、力を込める。
「ふっ……くぅッ!!ぉおおっ!!」
ギシギシと軋みながら、鎖が歪み始める。
「ぐ……がぁあああッ!!」
最後に気合を込め、一気に鎖を引き千切った。飛び散った破片が床に落ちる。

錠は残ったままだが、とりあえず両手の自由が戻り、連音は息を整える。

(グレアムがこんな行動に出たのは、いよいよもって計画が最終段階に来たという事だ……。
このまま時間を待てば、それで奴は終わりだが……アースラが抑えられた以上、その前に此方が負ける事になるかもしれない)

はやてが覚醒し、封印されれば此方の負け。一刻も早く、地球に戻らなければならない。
連音は、この場所から一番近くにある転送ポートを目指す。

作業用通路は各階の天井と床下にあり、連音は天井から通路を覗き込んだ。
(二人か。やはり、局員が見張りについているな……さて、どうするか?)
向こうも、転送ポートさえ押さえておけば安心だと踏んでいるだろう。

倒して進む事は容易いが、少々気が引ける。
かといって、手段を選んでいられる状況でもない。

仕方がないと連音は覚悟を決め、天井から通路に降り立った。
その音に武装局員が気付いて振り返るが、その瞬間には連音は駆け出していた。
その速さに局員が驚き、慌てて攻撃を掛けようとするが、構えた次の瞬間には連音の姿が眼前から消え去った。

「なっ――!」
「消えたッ!?」
驚愕に目を見開く二人だったが、それはすぐに終わる事となった。

「グッ!?」
「がふっ…!?」
首筋と腹部に打ち込まれた打撃が、刹那の間に意識を刈り取ったのだ。
崩れ落ちる局員を支えながら下ろし、連音は転送ポートのドアを開けた。

転送ポートの使い方は二つ。

一つは転移魔法による発動。
PT事件時、ユーノがなのはを結界内部に送り込むのに使ったのがそれに当たる。

もう一つは機械操作による転送。
これはエイミィが、なのは達を海鳴に帰す時にやったものだ。

連音は転送ポートの中に足を踏み入れ、転移術式の発動に入ろうとした。

「――ッ!?」
鳴り響く警報。
『現在、転送ポートは使用制限が掛けられています。転移魔法によるポートの使用は出来ません』
「くそっ……なら時間は掛かるが、手近な世界に跳んでから転移するか……ッ!?」ここから離れようとした時、突如としてドアが開き、数人の局員が駆け込んできた。踏み込むや否や、魔力弾が連音に向かって一斉に放たれる。
連音はそれを躱し、壁を蹴って天井を更に蹴る。br> 「何ッ!?」
一瞬で懐に飛び込まれ、うろたえる局員の間をすり抜ける。
そのまま通路に飛び出し、一気に駆ける。

「ま、待てッ!うわッ!?」
すぐさま追おうとするが、全員が揃ってすっ転んだ。見れば、足に細い糸が巻きつけられ、それが全員を繋いでいたのだ。
「何だ、これは!?くそ、取れない!!」
「どうなってるんだ!?」
「クソッ!物理破壊でぶっ飛ばす!!」
「バカ、止めろ!!俺の足まで吹っ飛ばす気かッ!?」
「こちら、第四班!対象の確保に失敗!対象は中央区画に向かって、尚も逃走中!!」
『了解。近辺の武装局員は中央区画に。転送ポートの警戒も怠るな』

通信で各武装局員に指示が飛ぶ。それを受けて局内を走り回る姿があちらこちらで見られ、局員の中に不安感を覚える者も現れ始めた。







「あー、面倒臭いっ!!」
連音は素直な感想を吐き出しつつ、走っていた。
転移行おうとすると何処からか邪魔が入り、未だに転移出来ないでいた。

ここは管理局、その本局である。いわば虎穴の最奥に居る様なものだ。
そこかしこから駆けつける武装局員に、連音は嫌気が差していた。

いっその事、纏めて叩き伏せようかとも思ったが、武装局員はあくまで職務を果たしているだけだ。
しかもグレアムの策略によって、である。

といっても向こうも仕事な訳で、怪我をさせない程度に打ち据えれば良いだろう。

「…………やっちまうか?」
「何をやる気だ、君は?」









それから少し後、グレアムの執務室に報告が入った。
「見失った…!?」
『はい。転送ポートを中心に捜索を続けていますが、一向に……』
グレアムは口元に手をやり、思考する。
(誰かが匿ったのか?いや、本局内に彼の逃げ場は無い筈……どういう事だ?)
「まだ、調べていない箇所は無いか……?」
『中央棟の上層階のみです。ですが、あそこのセキュリティを抜ける事は不可能です』
中央棟上層階には、提督階級以上の管理局員の執務室等があり、そこに至るルートは厳しいセキュリティによって守られている。
それはかつて、執務長官を務めたグレアム自身、良く知るところだ。

そして同時に、その場所にある『ある物』の存在も。
(だがもしも、彼があそこに向かったとすれば……いや、彼が『あの事』を知っているとは思えないが)

しばし思考し、グレアムは指示を出した。
「至急、上層階の捜索を。万が一という事もある」
『了解しました』
モニターが消え、グレアムは深い溜め息を吐いた。

既に最後の賽は投げられた。
計画の完遂まで、何としても彼を封じておかなければならない。

何故ならば、彼の後ろには竜魔衆――そのトップがいるからだ。

若く、才能豊かな魔導師。高町なのはとフェイト・テスタロッサ。
そして若くも優秀な執務官、クロノ・ハラオウン。

だが彼らでは、闇の書の足止め程度が精々だろう。
あれを破壊する事は不可能だ。計画の邪魔にはならない。

だが、その不可能を覆す可能性を持つ存在がある。

竜魔の忍。それが唯一の懸念事項。
既存の魔法とは一線を画すその力。常人を超えた身体能力。
計り知る事の出来ないポテンシャルが、計画を阻む事になるかも知れない。


その不安は、かつて辰守宗玄の戦いを見た事があるからこそ、抱くものだった。

計画が終わるまで、何としても本局内に閉じ込めておかなければならない。






中央棟上層階入り口。
そこには三重層のセキュリティゲートがある。

ゲートは不正に通る事はできず、何かしらの異常を感知すればすぐに警報が鳴り響く。
ゲートを通る為のパスワードは極限られた人間のみが知り、それ以外には上層階の人間の許可が無ければ開く事は無い。

重厚な門の前に、連音はいた。
その隣には仕官服を着た男と、何故かマリーの姿もある。

「何で、マリエルさんがいるんですか?」
「いや〜、何か流れ的に帰るタイミングを見失っちゃて……」
そうこうしている内に、ゲートが開かれる。

仕官服の男に続き、二人がゲートを潜る。三人が通ると、ゲートは音を立てて閉じた。

門を隔てた其処は、まるで音一つすら嫌うかの様な静寂の中にあった。
マリエルは若干、緊張の面持ちでいる。

エレベーターに乗って移動したその先、そこが目的の場所。


「失礼します。ツラネ・タツガミを御連れしました」
『―――どうぞ、入って』
室内から主の許可を得、ついに最後の扉が開かれた。


シックな装いの室内。両の壁際には本棚があり、中には本がぎっしりと詰められている。
床にはライトブラウンの絨毯が敷かれ、部屋の中央には黒の革張りのソファーと、足の低い長テーブル。

そして、入り口と向かい合うように、高級そうな執務用の机。

対となる革張りの椅子には、部屋の主が鎮座していた。


「いらっしゃい。また、会えたわね……?」
そう言って、部屋の主である老女――本局統幕議長 ミゼット・クローベルは微笑んだ。
「ミゼットさん……」
そして客人が二人、ソファーに腰掛け、連音の顔をジッと見ていた。

「ほう、これがソウジロウの孫か…………全く似ておらんな?」
立派な髭を蓄えた、青を基調とした制服と白のマントを纏った老人が言う。

「だが、その佇まいは良く似ている……アイツと会ったばかりの頃を思い出すな……」
グレーを基調とした制服に身を包んだ、金髪の老人が懐かしそうに笑った。

「何故、御三方が勢揃いしているんですか……!?」
信じられないとばかりに、仕官服の男は頭を抱えてしまった。

「そんなの…ソウジロウの孫の顔を見に来た、に決まっておるだろう?」
髭の老人があっさりと答える。

「仕事はどうなさったんですか!?そんなお暇があるのですか!?」

「暇は無いが、サボるのもたまには悪くない。特に、ソウジロウの事を思い出すとな」
金髪の老人が、さも楽しそうに笑った。

「………お願いですから、秘書官を泣かせる様な事は控えて下さい……」
男はガックリと肩を落とした。


連音は状況を把握できず、困惑していた。
ミゼットはともかく、他の二人は誰なのか。宗玄と知り合いのようだが、それが何故ここにいるのか。

とりあえず、マリーに二人が誰なのかを聞こうと思い隣を向いた。
「マリエルさん……っ!?」
連音は驚きで目を見開いた。
何故なら、マリーは口を開けたまま目を見開き、完全に思考を停止させていたからだ。

なので、男の方に尋ねた。
「誰なんですか、この人達は?」
「……向かって左手にいらっしゃるのが、法務顧問相談役 レオーネ・フィルス提督。
右手側にいらっしゃるのが、武装隊栄誉元帥 ラルゴ・キール提督だ」
「……つまり、偉い人なんですね?」
「偉いどころか、【伝説の三提督】とまで呼ばれている偉大な方々だ……はぁ……」本当にまいったのか、男は深い溜め息を吐いた。













――コンコン。

グレアムがいる部屋のドアがノックされる。
「――どうぞ」
グレアムが許可を出すと、軽い音を立ててドアがスライドした。
「失礼します」
現れた顔に、グレアムは僅かながら驚いた。
「レティ君?一体どうしたのかね……?」
内心で戸惑うグレアムに、レティは微笑をもって答えた。

「グレアム提督。あなたをアースラに対する捜査妨害、及び犯罪幇助の罪で身柄を拘束させて頂きます」

レティの後ろから入って来た武装局員が、グレアムにデバイスを突きつけた。













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