儚い希望に縋り、戦う者達がいる。
その思いを知りたいと、戦う者達がいる。
そして唯一人、真実に向かう者がいる。

戦うしかないその先に、希望はあるのだろうか。

しかし今は、一時の安らぎを。



   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

       第十一話   仮初めの平穏



ノエルの運転する車は、住宅街を走る。
やがて見えてきた一軒家。

そここそが、八神家である。
その門前に車を止め、連音は先に車を降りる。

後部トランクを開けてもらい、車椅子を取り出して助手席前に出す。
ノエルがドアを開け、はやてを抱き抱えて車椅子に乗せた。

「ありがとうございます、ノエルさん」
「いえ。連音様も、こちらで……?」
「えぇ。ノエルさんも仕事があるでしょうし、ここからなら、すぐに帰れますから」
「かしこまりました。では、ここで失礼致します」
ノエルは仰々しく頭を下げると、運転席に乗り込み、車を発進させた。

それが見えなくなるまで見送って、「さてと」と、はやては連音に向いた。
「連音君、良かったらお茶でも飲んで行かん?」
「ん〜……そうだな。急いで帰る必要も無いし、お邪魔しようか」
出来るだけ自然に、連音ははやての申し出を受けた。

ドアの向こうで待つ現実を思うと、言い様の無い恐ろしさを覚える。
だが、ここで退いていては、真実に辿り着く事は出来ない。

(とにかく、あくまでも辰守連音として………気を付けないと)

変に緊張をしていれば、騎士に怪しまれる。
かといって、不自然に気を緩めようとすれば、はやてに怪しまれるだろう。
自然体。難しいが、それ以外に遣りようが無い。

連音は覚悟を決め、はやての車椅子を押した。






「……!?はやてちゃん!?」
玄関でした音に、シャマルは敏感に反応した。同時に、ザフィーラとシグナムもその顔を上げた。

そしてすぐにドアが開く音がし、はやての明るい声がリビングまで届いた。

「ただいまーっ!」
「っ!お帰りなさい、はやてちゃん!!」
すぐさま、シャマルは玄関に走り出し、

ガツンッ!!
「痛ァッ!?」

角に足をぶつけた。


ヒョコヒョコとしながら、シャマルがはやてを迎えに出てきた。
シャマルの奇妙な登場に、はやては呆れたような顔をし、連音も目をパチパチとさせていた。
「シャマル……相変わらずのドジッ子やな〜。そういうんが似合うんは十八歳までやと、物の本に書いてあったで?」
「シャマルさんて、何歳?」
「既に十八は超えとるなぁ〜、残念な事に」
「――そいつは残念だな」
「ままならんなぁ〜、ほんまに」
「何の話をしてるんですかぁああああああッ!!」

「何を騒いでいる、シャマル?」
「…ッ!」
と、言いながら姿を現した人物を見て、連音は反射的に反応してしまった。
戦場と違って普段着を纏い、同じく桃色の髪を束ねた、剣の騎士の姿。
「ただいま、シグナム」
「お帰りなさ……何者だ、貴様…?」
はやてに向けた微笑が、連音を視認すると一変した。
鋭く、射抜くような視線がぶつけられる。
警戒、というよりも威嚇に近い気配を発しながらシグナムが言うと、それに慌てたシャマルが割って入った。
「ダメよ、シグナム!彼は、はやてちゃんの大切な人なんだから!!」
「なっ!?主はやての……!?」「なっ!何をいきなり言うとるんや!!」
シャマルの発言に、シグナムとはやてが驚きの声を上げた。

“シャマル、どういう事だ…!?”
シグナムが念話を飛ばす。
“夏に、はやてちゃん宛に小包が送られてきたでしょ?風鈴ときし麺と”
“む?あぁ、そうだったな………ちょっと待て!まさか…!?”
“そう!そのまさかよ!”
“この少年が……辰守連音か………!?”
“そう!何れは、はやてちゃんの御婿さん!すなわち、私達の新しい主になる人よ!!”

“シャマル!自重せぇええええええええええっっ!!”

“ひゃあっ!?き、聞こえてたんですかッ!?”
“………丸聞こえや”
奇妙なポーズで驚くシャマルと、顔を真っ赤にしたはやて。そして、警戒の色を薄めたシグナム。
幸いにして、連音はシグナム達に正体を感づかれないように、車中の会話の後に魔導を封じていたので聞こえる事は無かった。

なので連音は、状況の変化に首を傾げるばかりであった。

「と、とりあえず上がって下さいね。あ、スリッパスリッパ……はい、どうぞ?」
シャマルが出したスリッパを履き、連音ははやてと共にリビングに入る。
初めて足を踏み入れたはやての家を、まじまじと見回してしまう。
「――で、何でカーテンが閉まってるんだ?」
「そうやな。シグナム、開けてくれるか?」
「はい」
言われるまま、シグナムがカーテンを開けると、日差しが室内を明るく照らした。

「へぇ…結構、片付いてるんだな?」
「そりゃあ毎日、ちゃんと掃除してますから」
そう言って、はやてが胸を張った。
リビングは雑誌などもキチンと片付けられ、床にも埃は無い。
毎日、というのは伊達や見栄ではないようだった。

「じゃあ、お茶入れてくるから。連音君は適当に座ってて?」
「あぁ」
はやてがキッチンに行こうとすると、またまたシャマルが立ちはだかった。
「はやてちゃん!お茶は私が入れますから!!はやてちゃんは!連音君と!寛いでいて下さい!!」
「ッ……わ、分かったわ……」
有無を言わせないシャマルの迫力に、はやてはたじろいでしまった。

連音はしばし呆然としていたが、はやてと共にソファーに向かった。
適当に座ると、はやてもその隣に来ようとするので、連音はその体を支え、引っ張ってやる。
「ありがとう。車椅子って、結構体がこるんよね〜」
「確かに。ずっと座っているのはキツそうだな……」
「うーん」と背伸びするはやてを見て、本当に思ってしまう。

「シグナムもそんな所に立っとらんと、座ったら?」
「は、はい、ある……はやて」
「主」と言いかけ、それをとっさに呑み込み、シグナムもソファーに腰掛けた。
「おいで、ザフィーラ」
「うおっ!?」
はやてが呼ぶと、青い狼がトテトテとやってきたもので、連音はビクッとしてしまった。
「大丈夫、噛んだりせえへんから。大人しいよ?」
そういうはやての後ろで、ザフィーラは連音の顔をジッと見つめている。
何処と無く、値踏みをされている感じがするのは気のせいではないだろう。
「ヴィータはおらんの?」
「あいつはまた、何処かに遊びに行ったようです。夕方頃には帰ると言っていました」
「そうかぁ。せっかく連音君が来てくれたんに……」
「――いえ、むしろ居ない方が……良いと思います」
とある日の出来事を思い出し、汗が頬を伝う。
幾らヴィータでも、はやての前ではしないだろうが、はやての見えない所で何をするのか、想像するに怖い。

どういう事だろうかとはやては考え、連音は思い当たる節があるなと思ったが、顔を知られていないと気が付いて、頭を傾げた。
(とりあえず、ヴィータは蒐集に向かっているようだな……さて、如何するか…)

「は〜い、お茶が入りましたよ〜♪」
連音が考えていると、ご機嫌なシャマルが鼻歌を歌いながら、トレーを持ってやって来た。
三つのカップを三人の前に置いていく。
それを、それぞれ手に取って、口元に近付けていく。

ピタリ。シグナムとはやての手が止まった。

「……シャマル?」
「何、シグナム?」
「これは……【普通に】入れたお茶だろうな?」
何故か、普通を強調して言うシグナム。
「もうっ!何言ってるのよ、シグナムッたら!!」
そう言って、プーッと頬を膨らませるシャマルに、シグナムは苦笑してしまった。
それはそうだ。幾ら何でも、主の大事な客人に変な物を出す訳が無い。
お茶と言いながら、底が見えない。例えるなら泥水のような、濃いコーヒーと言えば通じる程に黒さのそれ。
その割には一切の匂いがしなくても、それでも、これは普通のお茶なのだ。
仲間を信じずに、何が将か。

やれやれと、シグナムは改めてカップに口を近付ける。

「大事なお客様に【普通の】なんて出せる訳が無いでしょッ!?」

ブハッ!!
盛大にシグナムが噴いた。シャマルの言葉が間に合わず、残念ながら謎の液体は僅かに口に入ってしまったのだ。

ゴホゴホと咽ながらシグナムは、涙を浮かべながらシャマルを睨みつけた。
「おはえ…っ!はひほはひは……!!」
「何を出したって……私の自信作、『シャマル特製ブレンドVer7.0』名付けて『シャマルダイナミック♪』だけど…?」
「あほはおはえは……!!」
「アホって……夏の失敗を糧に、ついに完成したのに!!」

確かに恐ろしい進化を見せている。
ただ一口未満、触れただけでシグナムの舌を完全に麻痺させてしまったのだ。
そこでシグナムはハッとした。
はやてと連音にも、魔のシャマルブレンドが出されているのだ。
「あふひはや……!」
シグナムが急ぎ振り返ると、呆然とするはやてと、その足元で泡を吹いて倒れ伏したザフィーラの姿があった。
そしてその前には、はやてに出されたカップが落ちている。
はやてが口にする瞬間、カップを口で奪い取ったのだ。
その際、不幸にもシャマルブレンドが口に流れ込み、一瞬の内に意識を刈り取られてしまったのだった。

守護獣ザフィーラ、ここでも“死亡確認”である。
他が何処なのかは誰も知らない。

ともかく尊い犠牲を払い、はやては救われた。
だが、連音は?

「……ん?」
良かった、まだ飲んでいない。安堵したシグナムだったが、すぐに戦慄が襲った。
「これ、不思議な味ですね……何のお茶ですか?」

「「…………」」
訂正、既に飲んでいた。なのに、連音は平然としていたのだ。
この事実にシグナムとはやてが驚きの表情を浮かべる。
そして死亡した?ザフィーラも、その瞳だけを向けていた。

「連音君……何ともないの?」
はやてが恐る恐る尋ねると、連音は首を傾げた。
「まぁ、豪く変わった味だとは思うけど………それが、どうした?」

やっぱり、凄く良い子だわ。
それが連音に対する、シャマルの印象であった。

なんと恐ろしい少年だ。
それが連音に対する、シグナムの印象であり、ザフィーラの感想でもあった。

流石、本物の忍者は違うなぁ。
はやては連音の毒物耐性に感心していた。

四者三様の印象を受けている等知らず、連音はカップを置いたのだった。





「―――さて」
やっと舌の麻痺が抜けてきたシグナムが、連音を見据える。

ちなみに三人の前には、シグナムが入れた新しいお茶が置かれている。
ザフィーラは白いシーツを掛けられ、冥福を祈られた。

“勝手に…殺すな………!!グフッ!”
必死に念話でツッコミを入れてきたが、それが最後の力だった。


そしてシャマルは、自らの生み出した悪魔によって灰になっていた。


「こんなに朝も早く、どうして此処に?」
「昨日、俺もすずかの家に泊まってて……はやてを送る序でに、ここまで送ってもらったんです。
で、せっかくならお茶でも、とはやてに誘われて……そんな感じです」
「まぁ、そんな感じや」
「そうですか……ところで」
シグナムの目は、連音を見据えたままあった。
「何故、泊まっていたのか……聞かせてもらえるか?あそこは女性ばかりだろう?
そんな所に泊まるという事は……それなりの理由が在ると思うのだが……?」
「………」
シグナムの視線が、何故か痛い。
まるで、尋問を受けている様な気分だった。いや、事実そうなのだろう。
だがその内容は正直、連音には意味が分からないものだった。
「それなりの理由も何も……連音君は、すずかちゃんの親戚やで?」
「そ、そうなのですか…!?」
連音に代わってはやてが答えると、シグナムは僅かに驚きの声を上げた。
「そうやで。それに前に海鳴に来とった時も、泊まってたんやし……何かおかしい?」
「そ……そうですね……失礼しました」
にこやかに凄むはやてに、シグナムはすっかり肩を落としてしまった。
「わたしやなくて、連音君に言うべきやろ?」
「申し訳ない。不快な思いをさせてしまった……この通りだ」
はやてに促され、シグナムは深々と頭を下げる。
「いや、別に気にしてませんから……」
そう口で言いつつ、連音はその行動に改めて確信を持った。

シグナムと、はやての関係性である。
先刻からのシグナムの口調。そして一度だけ口にした「主」という言葉。
確信は既にあったが、それでも確証を得た。

(やはり、はやてが闇の書の主………なら、この家の何処かに闇の書が…それとも、ヴィータが持って行ったか…?)
蒐集に単独で向かったのなら、闇の書も持っていったと考えるのが自然だろう。
出来るなら、闇の書の状態を確認したかったが、仕方ないと諦める。
(後は、騎士達がどうして書の完成を目指しているかだが……間違いなく、はやての指示ではないな)
はやての性格を考えてみても、闇の書の力を欲したり、誰かを傷つける様な行為をやらせる筈がない。
ならば、一連の行動は騎士達の独断である可能性が高い。

しかし、そうするとまた問題がある。

(シグナム達は、秘密裏に蒐集を行っている……とすると、はやてを欺いているという事だ。
だが、守護騎士は主の命令に服従する筈。それを裏切ってまで、闇の書の完成を目指す理由……一体、何だ?
魔導師襲撃事件が、蒐集を始めた時期だとしたら……何故、いきなり行動を起こした?)
やはり、この事件の根幹はその辺りにありそうだ。


「――じゃ、長居してもあれだし……そろそろ俺は帰るよ」
しかし、今日はこれ以上得る物は無さそうだと、連音はお茶を飲み干して立ち上がる。
今日の目的はあくまでも、辰守連音の顔見せである。その辺は充分に果たしただろう。
「えっ…まだ、良えやろ!?」
「向こうには、朝に帰るって約束したし…心配を掛ける訳にも行かないだろ?」
連音が言うと、はやては「あぁ、そうやったな」と思った。

「約束、か……そうだな。それは、守らなければな……」
どこか悲しみを帯びた瞳を見せるシグナム。
「…シグナム?」
「いえ、何でもありません。はやて、私は彼を途中まで送っていきます」
「うん。お願い」
「じゃあな、はやて」
「また何時でも、遊びに来てな?」
「あぁ、分かった」


はやてに見送られ、連音とシグナムは八神家を出た。


別段、見送りなど必要無いのだが、シグナムと二人きりになれるのは何かしらを聞きだせる可能性があった。
しばらく歩いていると、シグナムが足を止めた。
「――すまんが少し、付き合ってもらえるか?」
「……はい」
シグナムが向かう方に、連音も向かう。

少し行くと、小さな公園があった。
そこで連音とシグナムは、向き合うように立った。

バレたか。それとも、何かしらの不審を与えてしまったか。
連音は表には出さず、しかし内心、緊張と焦りを覚えた。

最悪、この場での戦闘すら覚悟をする。

しかしシグナムの行動は、連音の想像を大きく外れるものだった。

「……ッ!?」
背を正し、そして深々と、シグナムはその頭を下げたのだ。
連音は突然の事に驚かされてしまった。
「な、何で頭を…?」
「それは、辰守連音……お前が彼女の、はやての命の恩人だからだ」
「えっ…!?」
「はやてから聞いた。我々が目覚…こちらに来る前、はやての命を救った、と」
「まぁ、そんな事も在りましたけど……でも、俺もはやてに助けられましたから…お互い様ですよ?」
「それでも……私は、お前に礼を言わなければならない。お前がはやてを救ってくれたから…我らは今、此処にいる事が出来る」
「シグナム……さん」
「お前のおかげで、我らは掛け替えの無い人と、出会う事が出来た。だからこそ……ありがとう」
そしてシグナムが、静かに顔を上げた。
「それだけを言いたかった……すまなかったな、寄り道をさせてしまった」
「いえ……どっちみち、家には近いですから。ここまでで大丈夫です」
「そうか……では、ここで失礼する。出来るなら…また、遊びに来てくれ。歓迎する」
「――はい」

シグナムは満足したのか、微笑を浮かべたまま公園を後にした。
「敵に頭下げて……礼なんて言うなよ………」
その姿を見送りながら、連音はポツリと零した。






マンションに帰った連音がドアを開けると、そこには子犬フォームのアルフが座っていた。
「……ただいま、アルフ」
「………言う事はそれだけかい?」
「フェイトは、もう学校に行ったか……」
「とっくに行ったさ……って、そうじゃないだろッ!?」
アルフはバシバシと、前足で床を叩く。
「ちょっと、ここに座りな!!」
「何で?」
「良いから、座るんだよッ!!」
「……何だよ」
言われるままに、連音は床に座った。
玄関に向かい合って座る、子犬と少年。中々にシュールな絵面だ。


「フェイト、今日は朝の練習をしなかったんだ……」
「昨日、戦闘をしたからな。慣れないカートリッジなんて使えば、そりゃ疲れるだろうさ」
「それだけじゃないよ。昨日の夜からずっと、何か考え込んでるみたいなんだよ……!」


「あんた、フェイトに何か言っただろ!?」
「何かって……なんだよ、急に」
アルフの言葉に、連音は怪訝な表情をする。
「昨日、あんたが出て行った後から……フェイトの様子がおかしかったんだよ…!」
「……?」
尚更、意味が分からない。
そもそも昨夜のミーティング以降、フェイトとは話をしていないのだ。
だのに連音が出て行った後で、何をフェイトにしたと言うのか。

「どうして、俺が何か言ったと思ったんだ?」
「そんなの、ずっとフェイトが「レンが…」ってブツブツ言ってたからだよッ!!
さぁ、キリキリ白状しな!フェイトに何を言ったんだい!?事と次第によっちゃあ容赦しないよ……!」
そう言って牙を剥き出しにするアルフだったが、如何せん、子犬状態では無駄に可愛いだけである。
とは言え、アルフが?を吐く筈も無く、フェイトが自分のせいで悩んでいるのは事実なのだろう。
だが、どれだけ考えても、やはり思い当たる節は無い。

「俺は何も思い当たらないけど……とりあえず、フェイトが帰ったら聞いてみるよ。それで良いか?」
「……チッ、仕方ないね」
ここまで言って、何も思い当たらないというのなら仕方ないと、アルフも一応納得をした様だ。

(やれやれ……今年って、女難の相でも出てたか?)
元日に引いたおみくじの結果を思い出しながら、連音はポリポリと頭を掻いた。

「来年は……良い年にしたいなぁ〜」
後、一ヶ月程でやって来る来年に希望を見出そうとする。


尤も、それは初日の出と共に儚く消えてしまうのだが。



ともあれ、フェイトが帰ってくるまで時間がある。
連音は自室に入ると、ゴロリとベッドに横になった。





連音が帰ってきた事を知り、リンディはドアを軽くノックした。
コンコン、と軽い音が響く。
「……?」
反応が無いので、リンディは首を傾げた。
もう一度ノックする。しかし、反応は無かった。
試しにドアノブを回す。と、カチャリと音を立ててドアが開いた。

「連音君、ちょっと良いかし……あら?」
部屋を覗くと、ベッドに横たわった連音の姿。
静かな寝息が、リンディの耳に届く。

起こさないように気を付けて、静かに近付いていく。
「あらあら……可愛い寝顔ね………」
連音の寝顔を覗き込んだリンディは、つい微笑ましいものを感じてしまった。

こうして寝顔を見ていると、普段の大人びた言動が嘘の様に思える。
(そうよね……この子も、なのはさんと同い年の子どもなのよね……)
その振る舞いを見ていると失念してしまうが、連音はクロノと同い年ではなく、フェイトやなのはと同い年なのだ。

身長も、クロノよりも高い為にどうしても忘れてしまう。

リンディは静かに部屋を後にした。




「………ん?寝てたのか……」
それから数時間後、連音は目を覚ました。
時計を見ると、午後二時を回っている。昼食は完全に食べ逃したようだ。

「そろそろ、フェイトの帰ってくる時間か………ッ!」
そう呟いて大きく背伸びをすると、背骨がボキボキと音を鳴らした。
ベッドを降りて部屋を出ると、タイミング良く玄関のドアが開かれた。
「ただいま…」
帰ってきたフェイトだったが、アルフの言う通り、何処無く様子がおかしいように見えた。
少し俯いた感じで、元気が無さそうだった。

連音が居る事にも気が付かず、そのまま自分の部屋に入ってしまった。
「おかえり〜……………って、無視かい」

しばらく待っていると、着替えたフェイトが出てきた。そのまま、やはり連音に気付かず洗面所に入ってしまった。
パシャパシャと水音が聞こえ、それが止むと、フェイトはそこで盛大に溜め息をついた。

「ハァ〜……どうしたんだろう……?」
「何だが?」
「昨日、レンが女の人の所に行ったって聞いてから、何かこう……苛々してる感じで……」
「何だ、それ?」
「そんなの、分からないよ……だからこんなに悩んで………ッ!?」
そこまで言ってようやく、フェイトは自分が誰と話しているのか気が付いた。
顔を上げれば、鏡越しに見える連音の姿。
「レッ……レレレレレッ!………レンッ!?」
慌てて振り返り、そのまま後退りするが洗面台にぶつかってしまい、それ以上下がれない。
「そんな!何で!?何時からそこに居たのッ!?」
フェイトは顔を真っ赤にして、その目に涙まで浮かべて、完全にパニックを起こしていた。
「何時からって………最初から居たんだが」
「う、ウソ……!?」
そんなフェイトの反応に、本当に気が付いていなかったのか、と連音は苦笑いを浮かべた。

「――で、何だって俺の事で苛々するんだ?」
場所をリビングに移して、連音とフェイトは向き合って座っている。
フェイトの足元にはアルフが伏せている。
「――分からない」
フェイトは伏せ目のまま、そう返した。
「う〜ん……」
非常に厄介な話だった。原因がフェイト自身にも分からないのでは、手の打ちようも無いからだ。
しかし、自分にその要因がある以上、「分かりませんでした」で、アルフは納得しないだろう。
アルフの視線の気配を、足元にビンビンと感じるからだ。何時でも咬み付く気満々である。

如何したものかと考えを巡らせ、そして思いついた。
「よし、今から訓練をしよう!準備して屋上に来いッ!」
「え…?な、何で…!?」
戸惑うフェイトに、連音はキッパリと言い放つ。
「原因が分からない以上、考えるだけ無駄な事!だったら、ヘロヘロになるまで体を動かすのが一番だ!!
そうすれば、きっとスッキリするだろうさ!!」
「えっと……そういうものなの…かな?」
そんな体育会系のアイデアに、いまいち着いて行けないフェイトだったが、朝の訓練をしていない事を思い出し、承諾した。

連音はそのまま屋上に上がり、フェイトは汚れても良いようにと、聖祥の体操着に着替えた。
如何した事か、さっきまで陰鬱な感じだったのに、少しばかり心が弾んでいる。

鏡に映った、そんな顔をした自分を見て、苦笑してしまった。




屋上に繋がる階段を上り、ドアを開けると、その音に連音が振り返った。
「おっ、来たか……って何だ、その格好?」
「聖祥の体操着……なんだけど……変、かな?」
「いや、別に。むしろ魔法衣の方が――」
「――え?」
「ゴホン、何でもない。とりあえず、準備運動をするか。寝てたからな……俺も体を起こさんと」

軽いストレッチを行って、そこから本格的なものに移っていく。
向かい合う様に腰を下ろし、足を開いてそれを合わせる。
お互いの手を掴み、連音はゆっくりと後ろに倒れ、フェイトの上半身を引っ張った。
「へぇ…結構、柔らかいな」
「そ、そうかな……?」
体を戻すと、今度はフェイトが倒れる。
「よいしょ……っとぁ!?」
フェイトは、するりと倒れる自分の体にビックリしてしまった。

見れば、連音の体はペッタリと地面に着いてしまっていた。
「うわぁ……レン、凄いねぇ〜!!」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
「そうか?人間の骨格は、誰しも同じだけ動くように出来てるんだ。フェイトだって、これ位は行くさ」
「そうかな…?」
「そうだよ」
そんな話をしながら、二人は入念に体を解していく。

そして連音は立ち上がり、フェイトを引き起こした。
「ストレッチは、こんなもんで良いだろう。じゃあ、始めようか……琥光!」
“了解 起動”
「起きて、バルディッシュ…!」
“Yes,Sir”
互いにデバイスを起動させる。
「おっと、結界結界……」
連音が札の付いた苦無を四方の角に飛ばすと、錘状の結界が屋上を覆った。。
「今回は魔法を使った、近接戦に重点を置いた訓練をしよう。
フェイトの場合、魔法と合わせて訓練した方が、やはり効率が良いだろうし」
「魔法を使うの?じゃあ……」
「魔法衣を着た方が良いな」
「うん、そうだね」
二人は光に包まれ、そしてバリアジャケットと忍装束を纏う。
その姿を見て、フェイトはふと疑問に思った事を聞いてみた。
「レンのそれ……」
「…?これか?」
フェイトが指差したのは、連音のマフラーだった。
「どうして、そんなに長いの?」
「どうしてって……忍者のマフラーは長い物と、昔から相場が決まっているのさ」
「そ、そうなんだ……知らなかった」
ここになのはがいれば、的確にツッコミを入れただろうが、生憎と彼女は翠屋のお手伝いで不在だった。


忍者のマフラーは長いのが普通。
この間違った知識が修正されるまで、実に六年を要する事になるのだが、それはまた別の話。




魔法とデバイスを使った戦闘訓練とあって、フェイトは連音の動きに対応していた。
だが、それも最初だけ。今は徐々に押し込まれ始めている。

「クッ……!」
「どうした!脇が甘くなってるぞ!!」
琥光の一撃をバルディッシュの柄で防ぐが、衝撃に吹き飛ばされる。
(強い……!空間が限定されただけで……こんなにも違うの!?)
フェイトは連音の強さに、驚きを隠しきれなかった。

ジュエルシードを巡って、何度か戦った事はあった。
その時も、強いと感じていた。
でも、それは誤った認識だと分かった。
連音の本当の強さは、限定された空間でこそ最大限に発揮されるのだと。

今までは、相手の土俵で戦っていたのだと。

「ウァッ!!」
振り抜かれた一撃が、バルディッシュを弾き飛ばした。
そして、刃先がフェイトに突きつけられた。
「これで王手。まだまだだな……この程度で負けるようじゃ、本気のシグナムには敵わないぞ?」
「本気の…!?」
「あぁ。あいつらはその……どういう訳か、相手を殺さないように手心を加えているようだ。
もしも最初から殺す気で来ていれば……間違いなく、今頃お前は墓の下だ」
「ッ……」
連音の言葉に、フェイトは渋い顔をした。
パワーアップしたバルディッシュを手に、シグナムと互角、とまでは言わないまでも、それなりに戦えると思っていたからだ。
しかし手心。つまりは殺さないように手加減をされているのなら、フェイトの思いはとんだ見当違いである。

「まぁ、向こうだって今のフェイト相手には、それがキツイって思ってる筈だ」
「うん……」
「とりあえず、方向性を決めないとな」
「方向性?」
フェイトが首を傾げて聞き返すと、連音は頷いた。
「長所を伸ばすか、短所を補うか。本当は短所を補いつつ長所を伸ばすべきなんだが……時間は限られてるからな。
フェイトの長所、スピードをより磨き上げるか……短所である、防御の薄さを補うか。
どちらを選ぶかで、今後の訓練も変わってくる。フェイトはどっちに行く……?』
「………わたしは」
連音の言葉に、フェイトは悩んだ。
時間が無い以上、どちらかに重点を置く必要がある事は理解できる。

防御を上げればそれだけ、シグナムとの打ち合いにも幅が生まれる。
速さを高めればそれだけ、シグナムに攻撃を打ち込めるチャンスが広がる。

数秒の間を置き、フェイトは結論を口にした。
「わたしは、前者を選ぶ」
「その心は?」
「防御を上げても、彼女には届かないから。それに、どんな攻撃でも当たらない程に速くなれば……!」
「実は、もう結論は出ていたか?」
「少し考えてたんだ。でも迷ってて……でもレンのおかげで、ちゃんと決められた」
そう礼を言って笑うフェイト。
「――で、何かあるんじゃないのか?速さを上げる為の、アイデアみたいなのが……」
照れくささを隠す様に、連音は言った。
「うん。一つだけ考えたのがあるんだ……見てくれる?」
そう言うと、フェイトの体が金色の光に包まれた。

“Barrier jacket,Sonic form”

光の下から、マントやスカート部などを廃したBJが現れた。
その両手には二枚、両足には三枚ずつ、高速起動用のフィンが展開している。
「レンの目から見て、どうかな……?どこか直した方が良い所とか、あるかな……?」
「う〜む、そうだなぁ………」
フェイトに助言を求められ、連音はジッとフェイトの姿を見た。

「………あ、あんまりジロジロ見ないで。……何か、恥ずかしい……」
最初はちゃんと立っていたフェイトだったが、連音にまじまじと見られる恥ずかしさに体を隠してしまった。
「ジロジロって……ちゃんと見ないと、何も言えないだろう!?ほら、ちゃんと見せろって」
「あうぅ……」
モジモジとしながらも、仕方なく隠した体を戻す。フェイトは恥ずかしさに耳まで真っ赤になってしまっていた。
(自分から言っておいて、その反応は無いだろ……!?)
心の中で文句を言いつつ、連音は気になった辺りを指摘した。

今の姿は単純に速度を上げる為に、装甲を排除しただけの物だ。
「とりあえず、左手以外の三肢の装甲だけは、強化した方が良いだろうな。
防御力を削るなら、その分だけ別途対応が利くようにした方が良い。俺に言えるのはそんぐらいだな」
「装甲か……こんな感じ、かな?」
フェイトは新しくBJを構成し直す。
右腕に、左と同じ装甲が創られ、足にも更に装甲が追加される。
「ま、そんな所だろうな。じゃあ、早速それでもう一戦…やるか?」
「――はい!」


早速、フェイトのソニックフォームのテストを兼ねた戦闘を開始する。
「たぁあああああっ!!」
「クッ…!」
高速から繰り出される連撃は、連音ですら反応が遅れる。
“瞬刹”
連音は一気に加速し、間合いを離す。が、しかし。
「なッ!?」
その眼前には、フェイトが既に攻撃態勢で存在していた。
「ハァッ!!」
振り下ろされる一撃を受け流し、背後に回りこむ。
そのまま回転し、フェイトの背を狙う。
しかし、フェイトは一瞬で加速し、更にその背に回りこんだ。
反射的に飛び退いて一撃を躱し、そのまま大きく後ろに飛び退いた。

(こいつは…予想以上だな)
態勢を整え、連音は苦笑いを浮かべる。
最高速度も然る事ながら、その本当の力は急制動にある。
加速力と停止力。それはこの狭い空間でも遺憾なく発揮されていた。

(やれる……このソニックフォームなら、レンの速さに追いつける…!!)
フェイトは連音の速さに対応出来た事で内心、興奮していた。
“Haken Form”
バルデシッシュが魔力刃を展開させる。
超高速からの斬撃。防御を度外視した以上、攻めるのみ。

フィンが強く羽ばたき、一気に攻勢を掛けた。

「ハァアアアアアアアアッ!!」
気合と共に一気に刃を振り下ろす。
連音はそれに反応出来ていない。これで決まる。フェイトはそう、確信した。

「――ッ!?」
しかし、空を切った。
まるで掻き消えるように、連音の姿は消え去っていた。

「――大したもんだ。以前までの俺なら、充分に倒せただろうな」
「ッ!?」
フェイトはその声に驚き、振り返る。屋上ギリギリの所に、連音は立っていた。

「ウソ……!?何時の間にッ!?」
「だが、今の俺相手には……そう易々とは行かないぞ?」
連音はゆっくりと駆け出し――。
「――ッ!?」
そして、フェイトの眼前に現れた。
「破ぁッ!」
連音は振り上げた琥光を真っ向から叩きつけた。
バルディッシュで受け止めるが、その一撃は重く、フェイトは軽く吹き飛ばされてしまった。
「キャアアアアッ!!」
「もう一発!!」
連音は一瞬でフェイトのサイドに踏み込み、その腹部に一撃を狙う。
「―ッ!!」
とっさに体を捻り、それを躱す。そのまま大きく間合いを離した。

「ッ……ハァ……ハァ………!」
フェイトは乱れた息を整えつつ、しかし混乱していた。
(何で…!?どうして……!?)
高速移動系魔法が発動した気配は感じていない。それなのに、それに匹敵する速さ。
どうやったらそんな事が出来るのか、フェイトには想像も付かなかった。

そして連音は、自身の体の具合を確かめていた。
(やはり魔力強化で、神速の負荷はかなり軽減されるな……頭はちょっと痛いけど)
「さて、テストはこのぐらいで充分だろう……どうする?」
「ッ!まだまだ……!」
「……だろうな」
火が点いたフェイトの瞳には揺るぎが無い。
連音は嘆息しつつも、自身、そろそろ試したい手札を切る、絶好の機会とも思えた。
これからの事もある。これ以上フェイトに、疲労やダメージを与える事は好くない。

フェイトは更に速く、鋭く。と、翼に魔力を込める。
「―――ハァッ!!」
烈風を巻き起こし、フェイトが突撃を掛ける。






そして、フェイトの視界は暗転した。









「………うん…?」
フェイトはゆっくりと目を開いた。
最初に見えたのは、茜色に染まった空、そして雲。
遠くに聞こえるのは、烏の鳴き声。
「あれ…?わたし……痛っ!」
横たわっていた体を起こそうとすると、痛みが走った。

「あぁ、無理に起きない方が良いぞ?」
「レン……?」
顔を動かせば、座り込んだ連音がいた。
「わたし………そっか、負けちゃったんだ…」
「訓練であって、模擬戦じゃなかったのに……まったく」
「うん……ゴメン。でも、あの凄い速さは何だったの?それに、わたし……何をされたの?」
「生憎だが、種明かしはしないぞ?」
「えぇ…?」
「ま、一つだけ教えると……魔導が全てじゃないって事だ」
「…?」
連音の言葉に、フェイトは首を傾げた。

「さて、と……」
装束を解除し、連音は立ち上がるとフェイトに近付き、その体を持ち上げた。
「え!?えぇっ!?」
横抱きにされたもので、フェイトは驚きと羞恥に、真っ赤になる。
そして自分が既に、体操着に戻っている事に気が付いた。
「あ…あの、自分で歩けるから……!!」
「駄目だ。大人しくしてろ」
手足をバタつかせて降りようとするフェイトを、連音は制した。
「あ…あう……」
「そうそう。じゃあ部屋に戻るぞ」
「う、うん……」
「ところで、件の苛々はどうだ?無くなったか?」
「えっ…?あ……うん、無くなったみたい……」
胸に手を当てて、フェイトはそう答えた。
「そうか、そいつは良かった。これで、アルフに咬まれないで済むな」
「―――っ!?」
そう言って笑う連音の顔を見て、フェイトは胸を締め付けられる様な感覚を覚えた。

そしてそれは、連音がフェイトを部屋に運んだ後も、しばらく残っていた。






そして、それからしばらくして、エイミィが帰ってきた。
「ただいま〜!」
「お帰りなさい、エイミィさん。今日は何処に行ってたんですか?」
「ユーノ君とクロノ君と、闇の書の情報を集めに、本局にね」
「闇の書の情報?そんなのあるんですか?」
連音の疑問は当然だった。今までも、管理局は闇の書と戦闘を行っていた事は利いている。
そんな情報がるのなら、もっと早くに提示される筈である。

その疑問に、エイミィは苦笑いを浮かべて答えた。
「あはは……本局のデータベース【無限書庫】は、ハッキリ言ってとんでもない数の本やデータが集まってるの。
でも、ほとんどが未整理だから、普通はチームを組んで、年単位で捜索するんだけど………そのせいで、すぐに情報が引き出せないのよ」
「でも、それなら今回は?」
「だから、ユーノ君なんだって。スクライアの一族はそういった調べ物が得意らしいの」
「じゃあ、二人は本局に?」
「明日は、艦長も行くんだよ?」
「………アースラ、ですか?」
「うん。ようやく試験航行。でも、これで動きやすくなるよ!」
エイミィは二カッと笑って見せたが、しかし、連音の内心は複雑だった。

(………はやてと騎士たちと……何があったのか、つかめていないのに……)



連音の思いとは裏腹に、事態は停まる事無く進んでいく。








「ここが、無限書庫……」
本局、無限書庫に足を踏み入れたユーノは、その圧倒的な書籍の量に圧倒されていた。
「そう。管理局の管理をうけた世界のあらゆる書籍やデータが、ここには集められている……。
幾つもの歴史が詰まった、言わば【世界の記憶】が納められた場所よ」
リーゼアリアが言う。
「でも、ほとんど未整理だから……何処に何があるか……大丈夫?」
リーゼロッテがユーノに尋ねると、ユーノはハッキリと頷いた。
「過去の歴史の調査は、僕らの一族の本業ですから。検索魔法も用意してきましたから……大丈夫です」
「そっか、君はスクライアの子だっけね……」
「私もロッテも仕事があるから……ずっと、て訳には行かないけど……なるべく手伝うよ」
「可愛い愛弟子、クロ助の頼みだしね〜♪」
「アハハ……ソウデスネ……」
リーゼロッテの言葉に、ユーノは引きつった笑いを浮かべた。


それは、クロノが彼女達と再会した時の事を思い出したからだ。






「リーゼ……久しぶりだ、クロノだ…!」
「わぉ〜!クロ助〜ッ!!お久しぶりブリ〜っ♪」
と言って、ロッテはクロノに飛びつき、その豊かな胸に顔を埋めさせた。
「ろ、ロッテ…!わぶっ!こら、止め……!!離せコラァッ!!」
何とか引き剥がすが、しかしロッテはニヤニヤと笑っている。そんな反応も予想内なのだろう。
「何だとこの〜!久しぶりに会った師匠に冷たいじゃんかよぉ〜!!ほ〜りほりほり〜!!」
そしてロッテは更にクロノを抱き締め、その旨で締め上げる。
「うぁああっ!?アリア!これを何とかしてくれーッ!!」
クロノは最後の希望を求めて、アリアに助けを求める。
「良いじゃないか、久しぶりなんだし。それに、まぁ何だ……男なんだし、まんざらでもなかろう?」
そう言って、ニタリと笑うリーゼアリア。クロノの顔は見る間に絶望に染まっていった。
「そんな訳ない………うわぁっ!」
いきなりロッテに押し倒され、クロノはそのままロッテに蹂躙されていく。
「うにゃ〜ん♪」
「うわ、止めろ!そこを触るなぁ!!ヤメロォオオオオオッ!!」
しかし、それを止める者は誰もいなかった。





(あんなのを、毎回やられてたのかな……?)

そう思うと、クロノの事がちょっとだけ可哀そうに思えるユーノだった。














「携帯電話?」
夕食を食べ終えた後、フェイトは学校での話をした。
フェイトが携帯電話を持っていないという話から、明日、見に行く事にまで進展してしまったのだ。
ちなみに、フェイトは気が付いた時にはそうなっていたのだ。その指揮を取っていたのは当然、金髪の才媛である。
「はい。もし時間があったら……で、良いんですけど。ダメ、ですか?」
「明日は土曜日だから、学校は半日ね……。本局に行く前、少しなら大丈夫よ?」「っ!あ、ありがとうございます……!」
フェイトは何度も頭を下げる。
それを見て、リンディは優しげな笑みを湛えるのだった。








夜。連音は今日も御神流の訓練に参加していた。
といっても、見学である。
時折、全身が軋むように痛むのだ。

それは、フェイトとの訓練で使った、新技による反動だった。
かなりの負担になると、予想も覚悟もしていたが、ここまでとは予想外だった。

(調節が甘かったのと、神速自体にまだ、体が慣れていないのが原因かな……?)ともあれ、まだ実戦向きでない事は分かる。
使う時は一撃必殺。そう心に決めて、連音は恭也と士郎の訓練を眺めていた。

「今日は見学だけなの?」
素振りを終えた美由希が、汗を拭きながら連音の隣に腰を下ろす。
「え、えぇ……昨日の戦闘でちょっと……」
そう言いながら、少し間を空ける。顔は一瞬だけ美由希に向けただけで、その後は恭也達の方に向いたままだ。
「…?」
その行動に美由希は首を傾げた。

美由希の上は黒のシャツ一枚であり、汗を吸ったそれは美由希の肌にピッタリと張り付いている。
一見地味な印象のある美由希だが、その実、忍やノエルにも劣らない程にスタイルが良い。
フラッシュバックする、暴走時の記憶で明確に思い出せるシーン。
それは恭也との戦いではなく、美由希の肌であったりする。

それが今、連音の傍で無防備に晒されているのだ。一瞬とはいえ、見てしまった以上、如何しても意識してしまう。

悲しいかな、連音もやはり男の子なのだ。


「結局、逃げられちゃったんだっけ……その相手には」
「えぇ……でも、まだこれからですから……」
「でも、気を付けてね?連音君に何かあったら、なのはも心配するし……はやてちゃんだって……」
「………美由希さん」
「…何?」
「もしも、恭也さんと戦わないと行けなくなったら………如何します?」
「恭ちゃんと……?」
美由希が聞き返すと、連音は小さく頷いた。
何故、連音がそんな事を聞いてきたのかは分からなかったが、真剣な質問である事は分かった。
「そうだね………もしも、恭ちゃんが間違えているのなら………それを止める為になら、戦えるよ」
「もし、恭也さんが間違ってなかったら……?」
「それでも多分……戦える。だって、そんな事になったらきっと、どっちかが絶対に間違ってるもの」
「………」
「それにね………信じてるから」
「信じてる…?」
「もし、自分が道を間違えても……恭ちゃんが絶対に止めてくれる。もし、恭ちゃんが道を間違えても……私が絶対に止めてくれるって。
だから、誰かの間違いを知ったのなら……全力で止めてあげて?連音君なら、きっと出来る事だと思うよ?」
「正しい事が、それが本当に正しい事か……それはきっと、終わってからじゃないと分からない事だから。
正しいと思ってやった事が、本当は間違っているかもしれない。なら、信じた事をするしかないよね?」
美由希の手がそっと連音の頭に添えられる。
「連音君は自分が信じた道を……そのまま進んで良いと思う。もし間違えていたら……その時は私達が、絶対に止めてあげるから」
「っ…!?」
美由希は連音に向かって優しく微笑んだ。
「後は、如何するか……それは、自分で決めなくちゃ…ね?」
「……そうですね。自分で決めた道でなきゃ……信じる事なんて、出来ないですよね……」
その言葉を聞き、美由希は満足そうに頷いた。

「さて!良かったら、組み手に付き合ってくれるかな?出来たら、で良いけど…?」
「……はい、御相手させてもらいます……!!」








それは、一時の平穏。
すぐに戦いの時は訪れる。


遥か時の向こうに予言された終焉まで……後、僅か。













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