夜が明け、海鳴の町に朝日が昇る。
月村の屋敷で朝食をとったはやてと連音は、忍とファリン、すずかに、連音とはやては見送られる。
ノエルの運転する車が玄関前にやって来る。
「じゃ、はやてちゃん。また何時でも遊びに来てね?」
「はい、ありがとうございます、忍さん。すずかちゃんもまた、うちに来てな?その時こそ、御馳走するから」
「うん!楽しみにしてるね」

にこやかな談笑をするすずかとはやて。その脇で連音は忍に顔を突きつけられていた。
「連音も、時間作って、また遊びに来なさいよ?」
「――出来るだけそうするよ」
「言葉だけじゃないようにね……それと」
「ん…?」
「無理だけは……しないようにね?」
「………うん、大丈夫」
言葉では止められない。言葉では不安を消す事は出来ない。
それでも、互いの心を言葉に乗せて。

そして、車は月村邸を後にした。



   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

       第十話  約束は闇の彼方に(後編)



八神家のリビングはカーテンが引かれて薄暗く、その隙間を縫って朝日が差し込んでいる。
シグナムはソファーに座り、静かに目を閉じていた。
その傍にはザフィーラが控えている。

「シグナム……はやてちゃん、もうじき帰ってくるそうよ」
「……そうか」
リビングのドアを開け、シャマルが入って来た。その腕には桜色のエプロンが掛けられている。
「ヴィータちゃんは、まだ…?」
「かなり遠出らしい……夕方には戻るそうだ」
エプロンを着けながら尋ねたシャマルに、シグナムは答えながら立ち上がった。
そのまま冷蔵庫を開け、中にあるミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
「――あなたは?」
「――何がだ?」
少し不安そうな顔をするシャマルにシグナムはチラリとだけ視線を送り、すぐに戻した。
「大丈夫……って、大分、魔力が消耗しているみたいだから」
「お前達の将は、そう軟弱にはできていない。大丈夫だ」
そう言って、微かに口元を歪ませる。
そんなシグナムの事を見て、シャマルはふと微笑んだ。
「あなたも……随分と変わったわよね。昔は、そんな風に笑わなかったわ」
「……そう、だったか?」
「あなただけじゃない。私達全員……随分変わったわ」
彼女達の過去と今を表すように、シャマルの顔を差し込む朝日が照らし出す。

「みんな……はやてちゃんが、私達のマスターになった日からよね?」
「………そうだな」



ノエルの運転する車が、月村家の私道を走る。
はやては助手席に、連音は後部座席に、車椅子はトランクにしまわれている。
「――そうですか、ご親戚の方々でしたか」
「えぇ。もう、最初はビックリしてもうて〜」
「ですが、賑やかで宜しいですね」
「そうですね。何やこう……毎日、無闇に楽しいです…!」
本当に楽しそうに言うはやてを、連音は少し複雑な思いで見ていた。

“……なぁ、はやて?”
「っ…!?」
いきなり念話を送られた事に驚き、はやては目を丸くした。
“ちょ…何や、思念通話なんて?”
“ちょっと聞きたんだが……シャマルさん以外にもいるのか?”
“うん、おるよ。シャマルは会ったから良ぇとして……後、二人と一匹や”
“……どんな人達なんだ?”
“どんなかぁ〜……会ったら分かると思うけど……えっと、他にはシグナムとヴィータと、ザフィーラや。
シグナムはポニーテールの凛々しい感じで、ヴィータは三つ編みの私ぐらいの子で、こう……ツンデレみたいな”
“……つんでれ?”
“何でもない。ちょっと人見知りする感じかな……?で、ザフィーラは大きな犬や。毛並みがモフモフで気持ち良いんやで〜?”
“………そうか”
やはり、はやての口から出てきたのは連音の知る騎士達の特徴と名前であった。
ザフィーラはアルフと同種の、狼の守護獣だった筈だがと思ったが、認識の違いだろうと聞き流した。

“いつ頃から居るんだ?”
“えっと……連音君と分かれてから、大体一ヶ月後。わたしの誕生日からやから……半年以上やな”
“半年、か……”
連音はクロノから聞いた、魔導師襲撃事件の起きた時期と鑑みた。
少なくとも四ヶ月近くの間、騎士達は何の事件も起こしていない事になる。

それが何故、いきなりこんな事件を起こしたのか。
余程の事情が、そこには在る気がした。

そしてはやては、ふと思い出していた。
(もう……皆が来てから、半年以上にもなるんやな……)










六月四日。午前零時。
「あ……あぁ………!」
はやては突然の事態に完全にパニックになっていた。

夜も遅くなったので寝ようと思った矢先、突如として机に仕舞ってあった一冊の本が独りでに浮き上がり、闇色の輝きを放ちだしたのだ。
それと共に、家全体が激しく揺れだしたのだ。

まるで封印のように鎖で十字に縛られたそれは、表紙が生き物の様に血管らしきものが脈打ち、
今にも鎖を引き千切らんと、膨れ上がっていた。
(何やこれ!?何なんや……!?)
はやては、先々月の出来事で、今まで知らない不思議世界の存在を知っていた。
とはいえ何の前振りもなく、自分の目の前でこんな事が起こられて、対応できるわけも無く、
まして、それを如何にかするだけの何かを、はやては持っておらず、ただ、事の成り行きを見守る以外に無かった。

(連音君…!連音君ッ……!!)
心の中で、ただひたすらに連音の名前を呼び続ける。


― Ich befreie eine Versiegelung ―


バキィィィィィン!


「――ッ!?」
声がすると、ついに鎖が引き千切られ、本はバラバラとページを捲って行く。
その全ては何も書かれておらず、白紙だった。
やがて全てのページが捲り終わると、バン、と本は閉じられ、ゆっくりとはやての前に下りてきた。
「あ……」
はやての前にあるのは、金色の剣十字。
闇色の中で、金色に光るそれに、はやては言い様のない恐怖を覚え、後退さる。


―Anfang―


その言葉が聞こえた瞬間、眩い光がはやてを照らし、その胸から白く光る何かが浮かび上がってきた。
「え…えぇ……!?」
それは静かに、本に向かって引き寄せられ、そして一際強い輝きを放った。

「う……あぁ!?」
思わず腕で目を隠し、顔を逸らす。

その間にも、巨大な魔法陣が展開され、更に輝きを放った。



やがて全てが治まると、はやては恐る恐る腕を離した。
少し視界が白み、シパシパとするが何とか目を開く。

見ると、先程はやての胸から出てきた光は宙に浮いており、そこにはさっきの本は無かった。
何がどうなったのか分からないまでも、何かが終わった事に安堵するはやて。
そうして態勢を戻そうとした彼女は、更なる驚愕に襲われた。
「―――ッ!?」

壁と床に沿うように、大円と、頂点に小円の在る六芒星、その上に重なるように剣十字の魔法陣が回り、
一人しかいなかった筈の部屋に、いつの間にか同じような衣で立ちをした四人の男女が膝を着き、その頭を下げていたのだ。

「――闇の書の起動を確認しました」
一番前に居る女性が言葉を発する。

「――我ら、闇の書の蒐集を行い、主を護る、守護騎士にて御座います」
先程の本を抱えた、左隣の女性が続ける。

「――夜天の主の下に集いし雲」
後ろの大柄な男性が続ける。

「――ヴォルケンリッター……何なりと、命令を」
そして右隣の少女が、最後と思われる言葉を発した。

はやては何とかそれを聞き取る事は出来た。
だがしかし、二転三転する事態に少女の脳はついて行けず、すぐに限界を迎えてしまった。

その結果。

「―――きゅう」
ぱったりと意識を失ったのだった。

何かが微かに聞こえる中、はやては思った。
世の中は、まだまだ不思議に溢れかえっているのだ、と。








「……うん?」
はやてが目を覚ますと、そこには見慣れた天井が広がっていた。
(ここ……海鳴大学病院か……?)
如何して自分はそこに居るのか、はやては思い出そうとした。
(えっと…何か、凄い事が……)
「はやてちゃん!?」
「ふえ…あ、石田先生……!」
掛けられた声に思考を中断され、はやてが顔を向ければ、そこには主治医の石田先生の顔があった。
はやては横たえていた体を起こした。
「体は大丈夫?」
「はい。何とも……」
「そう。なら、良かったわ……」
「えっと……すんません」
本当に安堵している表情を浮かべる石田先生に、はやては何となく謝ってしまった。
そんなはやてに石田先生はクスッと笑い、そして表情を変えた。
「ところで―――誰なの、あの人達は?」
「―――へ?」
指差す方に、はやてが視線を向けると―――
「――ブッ!」
思わず噴いてしまった。
体躯の良い男性看護士四人に囲まれ、睨まれた四人が居たのだ。
それを見て、はやては全てを思い出した。
背中に嫌な汗が伝っていくのが良く分かった。

石田先生は、不審の目を隠す事無く彼女達に向けた。
「一体、どういう人達なの?春先とはいえまだ寒いのに……はやてちゃんに上着も掛けずにここまで運び込んできて……。
変な格好はしてるし……言ってる事は訳が分からないし………どうも怪しいわ」
(一体全体……何を言うたんや……!?)
はやては苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「えっと……その……何と言ったら……」
このカオス全開な状況を、自分が如何にかしないといけないのだと思うと、また気を失いたくなった。
本当の事を言う事は出来ないし、変に?を吐いて、向こうがそれを台無しにしてきたら、とばっちりを喰らうのはこちらである。
(せめて、あの人らと口裏を合わせる事が出来たならなぁ……)


“ご命令を頂ければ御力になれますが……如何致しましょう?”
「ッ…!?」
突然、頭に響いた声にはやては驚いた。視線を送れば、あの時一番前に居た女性がこちらに向いていた。
その現象が何なのか、はやては知っていたからだ。
“これ、思念通話……魔導を使えるんか!?”
“――はい”
連音と自分以外に、これが出来る人間を知らないはやてにとって、この事実は驚きの一言だった。
だが、これは渡りに船というものだ。
これならば気付かれる事なく、口裏を合わせる事ができるからだ。

“ほんなら命令というか、お願いやけど……ちょう、わたしに話を合わせてくれる?”
“……?…はい”
恐らくメンバーのリーダーと思われる彼女に話を付け、はやては石田先生に向き直った。

「えっと……あの人達は……わたしの親戚なんです!!」
「えっ、親戚……!?」
「そうです!遠い祖国から、わたしの誕生日をお祝いに来てくれたんです!!」
「……?」
石田先生は顎に手を当て、何やら考えている。
「それでもって……ビックリさせようって態々、仮装までしてくれて……!
でも、わたしがそれにビックリし過ぎてもうたって言うか……そんな感じで……なぁ〜!?」
もうヤケクソもいい所であった。
自分で言っておいて、何という嘘だろうか。
純日本人の親戚が外人とは、無理にも程がある。
どうせなら小父さんの家族だとか、親類とか言いようが会っただろうと、今更思ってしまう。

だがしかし、言ってしまった以上、これを貫き通す以外に道は無い。
後は彼女達、ヴォルケンリッターに賭けるしかなかった。

だがしかし、リーダーらしき人物はどう見ても、嘘が上手いようには見えない。
汗が、背中に一杯伝っている。

「そ、そうなんですよ〜!」
リーダーが少し戸惑った状態であった事を察した金髪の女性が、一歩前に出てきた。
それを見て、リーダーもそういう事かと理解したのか、
「その通りです」
とだけ言った。

「…………う〜ん」
釈然としないながらも、石田先生は一応それで分かってくれたようだ。
「あはは……はは……」
「口裏合わせる相手を間違えたなぁ〜」と、はやては乾いた笑いを浮かべていた。


「それでは、お騒がせしてすみませんでした」
先程ナイスフォローを入れた女性が、石田先生に頭を下げた。
病院に借りた車椅子に乗ったはやては、まだ戸惑いを消せずにいた。

何故なら、自分は彼女達の事を何にも知らないのだ。

“えっと……聞いても良ぇかな?”
“……何でしょうか?”
リーダーの凛々しい声が、頭に響く。
“そうやな〜。聞きたいことは多いけど……まずは名前、教えてくれる?”
“私はヴォルケンリッターの将、剣の騎士シグナムです。左に居りますのが鉄槌の騎士ヴィータ。
右に居りますのが、盾の守護獣ザフィーラ。そして、あれが……湖の騎士シャマルです”
“えっと……シグナム、ヴィータ、ザフィーラにシャマルか……うん、覚えたで”
“他には何か?”
“えっと……”

「はやてちゃん…!」
突然、廊下の向こうから声聞こえた。
「っ!?フィリス先生…!」
向こうを見れば白衣を着た小柄な女性が、綺麗なロングのシルバーブロンドを揺らしながら走ってくる。
フィリスははやての前にやって来ると、その様子を見て安堵の溜め息を吐いた。
「はぁ〜、良かった…大事無さそうで」
「御心配をお掛けしました」
「ううん。体はもう平気なの?」
「特に何か異常があった訳やないですから」
「そうなの?でも、無理はしないでね……ところで」
「はい…?」
「この人達は……どちら様?」

はやては、早急にここを離れる決意を固めたのだった。
こんなに心臓に悪い説明を何度もしたくない。






肌寒さと、通り過ぎる人々の好奇の視線に耐え切って、はやて達は何とか家に帰って来た。
その道程で、シグナム達から闇の書、そして自分達の事の説明を受けた。



そして、今ははやての自室である。

「そうか〜、成程。この子が闇の書っていう物なんやね……?」
今はすっかり大人しくなった闇の書を、まじまじと見ながらはやては言った。
ちなみに騎士達は、最初に現れた時のように膝を着いて畏まっている。
「物心付いた時には棚にあったんよ。綺麗な本やから大事にはしていたんやけど……。
それがまさか、そんな不思議満載なアイテムやったとは……世の中は面白いなぁ〜♪」
「覚醒の時と眠っている間に、闇の書の『声』を聞きませんでしたか?」
シャマルが尋ねると、はやては「う〜ん?」と、首を捻った。

はやては自分の机に向かうと、ゴソゴソと引き出しを漁った。
「わたしは魔法使いでも忍者でもないからなぁ〜……漠然とやったけど」
「―――は?」
「ううん、何でもない。っと、あったあった」
はやてはメジャーを見つけると、手にとって騎士達の前に戻った。
「とりあえず、闇の書の主としてみんなの衣食住、きっちり面倒見なあかんいう事は分かったよ」
「――は??」
呆気にとられる騎士達に、はやてはにっこりと笑って見せた。
「家はあるし、料理も得意や。とりあえず、皆の服を買わんといけんから……サイズ、測らせてな?」

はやての言葉にまたも呆気に取られる騎士達。
しかし、騎士達には主の言に逆らうという選択肢は無く、促されるままに立ち上がった。

「まずはヴィータからや」
「あの……ちょっ…!」
戸惑うヴィータに手を回し、手際良くサイズを測る。
「じゃあ次………あ〜、三人とも」
「はい…?」
「立たれたら測れんから。座りなさい」
促されしゃがむ三人。

「う〜ん…ザフィーラの腕、太いな〜!ガチガチや〜♪」
「………///」←微妙に顔が赤くなっている。

「うおっ!?何という凶器や!?これはH・A・N・Z・A・Iやで!?」
「あの……サイズを測るのでは……ひぅっ?」

「ほほう、シャマルのも中々……」
「やん!?お戯れは御止め下さい!!」
「クッ!?そんな悪戯心を刺激するような言葉……どりゃーッ!!」
「キャアーッ!?」
久々に、八神ダイブが炸裂しました。


サイズを無事測り終え? はやては騎士達と共にデパートに来ていた。
本当ならば、はやて一人で行くつもりだったのだが、騎士達がそれを好しとする筈も無い。
はやてがどう言おうと、「自分達は主を御守りする事が使命です」の一点張り。
はやて自身、心の何処かで家を彼女らだけにする事に不安も覚えていた。

彼女達を疑っている訳ではない。
ただ単にこの世界、この国の常識に欠けた騎士達が何かをやらかしそうな不安である。

例えば配達が来て、家の敷地に入った瞬間、不審者と思って襲ってしまうかもしれない。

それを信じていないと言うのだとか、そういうツッコミはスルーするとして。
ともあれ、はやては騎士達と常識研修も兼ねてここまでやって来たのだった。

ちなみにあの寒そうな格好では目立つので、ヴィータ以外は仕舞われていた両親の服を引っ張り出して着て貰っている。
ヴィータには自分の上着を着せてある。

ザフィーラは「服は必要ない。狼の姿でいれば問題は無い」と主張し、服を着たがらなかったが、
はやてに「服だけやなし、今日のご飯の買出しもするから男手は必須や!」と言われ敗北。男物のコートを着させられた。


「うわぁ……結構広いですね〜」
シャマルは吹き抜けのフロアを見上げ、感嘆した。
「とりあえず婦人服売り場からやな………四階か」
「では、行きましょう………む?」
はやての車椅子を押していたシグナムだったが、不意にその足を止めた。
「どないしたん、シグナム?」
「いえ……あの男が、こちらを見ているようなので」
「うん?」
はやてがシグナムの見ている方を向けば、確かに青年がこちらを見ていた。
全身を黒で固め、唯一白いのは吊った右腕だけである。

この青年の事を、はやては知っていた。
「何や、恭也さんか」
「御知り合いの方ですか?」
「そうや。せやから、そんな怖い顔せんで良えよ」
「む……申し訳ありません」
言われて、シグナムは自分が厳しい顔をしている事に気が付いた。

“どうしたの、シグナム?”
“シャマル……いや、あの男の徒ならぬ気配にやられたようだ”
“徒ならぬって……そんなの感じなかったわよ?”
“私には分かる。あの男……我らと同じく、心に強き”刃”を持つ者のようだ”

「恭也さ〜ん!」
「やぁ、はやてちゃん。買い物かい?」
恭也は人波を避けながら、はやての前にやって来た。
「ええ。恭也さんは、大学やないんですか?」
「今日は午後だけだから、これからだ。ところで……」
「はい?」
「この人達は……何者だい?」
(うっ、やっぱり聞かれた……!)
はやては内心でドキリとしながらも、恭也に言った。

「えっと……この人達は遠い親戚で……わたし昨日、誕生日だったんで、それを祝いに来てくれたんです」
「――そうか、はやてちゃんは昨日が誕生日だったのか……すまない、そうと知っていれば何か用意したんだが……」
「いえ、そんな気を使わんで下さい」
「そうか?じゃあ……誕生日おめでとう、はやてちゃん」
「――ッ!はい、ありがとうございます……!」
元気良く笑顔を見せるはやての頭を、恭也は優しく撫でる。
ゴツゴツとした感触が妙にこそばゆく、はやてはつい笑ってしまった。

「それじゃ、俺は行くから」
「はい。今度、お店の方も行かせて貰いますから」
「あぁ、是非来てくれ。じゃあね」
恭也はそう言ってデパートを後にした。

「さてと、じゃあ上に行こうか?」
「――主はやて」
「何?」
「あの男……かなりの手足と見ましたが、一体何者なのですか?」
「手足って……まぁ、確かに強い事は強いらしいけど……」
はやては恭也が戦っている所はおろか、剣を振っている姿すら知らない。

だがしかし、暴走した連音を倒した事実を考えれば、その実力は知る事ができる。
「でも、わたしの中では二番目や……!」
それでも、はやての中では連音が一番であり、それを譲る気は無かった。
それをどう受け取ったのだろうか、シグナムの目が一瞬、本当に一瞬だけギラッと光ったのを、はやては見逃さなかった。
「シグナム……今、何を考えたん?」
「―――いえ、特には何も」
「………」
「………」
はやての視線に、シグナムの頬にツツ〜ッと、汗が伝った。
その光景にヴィータは呆れ、シャマルも苦笑いを浮かべている。
「シグナム。一つ所に留まるのは控えるべきだ」
「むっ!?そ、そうだな……では、移動しましょう、主はやて」
仕方無しに、ザフィーラが助け舟を出すと、シグナムはすぐさまそれに乗っかった。
はやてのジト目はそのままだが、シグナムが車椅子を押すので、それが彼女に直接触れる事はなかった。




無事に騎士達の服と食料の買出しを終え、山の様な荷物を抱えて帰路に着いたのは日も傾き始めた頃だった。


ようやく一息と言いたい所だが、そうも行かない。何故なら、騎士達の使う部屋が必要になるからだ。
月に一度程度でハウスクリーニングは来るが、基本はやての行き来する以外の場所は掃除が行き届いていない。

簡単に床を拭き、ベッドのシーツを変え、窓を開けて空気を入れ替える。
はやての指示の下、慣れない作業に手間取りながら、部屋を使えるように出来た時には日も暮れ始めていた。


「ふぅ……」
予想以上の疲労に、つい溜め息を吐いてしまう。
「しかし……目覚めて早々、こんな事をするとは………いや、今までもこんな事は無かったな」
床を拭いた雑巾をバケツに放り込み、外に向かう。
水撒き用の水道に汚れた水を捨て、雑巾を洗い直す。
冷たい水が手の感覚を奪う中、シグナムは不意に空を見上げた。

闇の書の守護騎士として生まれ、目覚める度に剣を振るってきた。
主の敵を斬り捨て、討ち滅ぼし、蒐集を行い、力を奪い、ただ、それの繰り返し。

物の様に扱われ、蔑まれ、それでもただ、闇の書と主を護る為に。


守護騎士プログラム、ヴォルケンリッター。それはそういう存在。

その筈だ。


「なのに何故………私はこんな事をしているのだろう……?」
掃除の事を不満に思っている訳ではない。
主に与えられた部屋を、自分の手で使えるようにする。というのは当然の事と思う。

不思議な主だ。
闇の書の主でありながら、今までと、何もかもが違う。

その幼さも、そして何より自分達に対しての接し方。


笑う。睨む。呆れる。戸惑う。はしゃぐ。意地を張る。


たった半日で、どれだけの顔を見ただろう。

空に、飛行機が飛んでいく。その後ろに雲が尾を引いて、そして流れていく。


「おい、シグナム!何時までやってんだよ!!終わったんなら退けよ!!」
「…ッ!?すまん、今退く……」
ヴィータの声で我に返り、シグナムは雑巾を絞って立ち上がった。
空のバケツを持ち上げ、裏の物置に向かった。






ヴォルケンリッター。
雲の騎士の名の如く、これから彼女達は変わっていく。

八神はやてと言う、風に吹かれて。







「騎士甲冑?」
その言葉を聞いたのは、騎士達の覚醒から数日が過ぎた頃だった。
本を借りる為、はやては騎士達を伴って図書館に来ていた。

その時シグナムの口から発せられたのが、それだった。

はやての言葉にシグナムが頷く。
「えぇ。我らは武器は持っていますが、甲冑は主に賜らなければなりません」
「自分達の魔力で創りますから、状をイメージをして頂ければ」
そう二人に言われて、はやては顔をしかめた。
甲冑。つまり鎧は戦う為に纏うものだからだ。
「う〜ん、そっか〜……そやけど、わたしは皆を戦わせたりせぇへんからな………」
つまりそんな物は必要無いのだ。しかし、こうも言うという事は、シグナム達にとって大きな意味を持っているのだろう。

となれば、やはり与えなければならないのだろう。
だがしかし。と、何度か繰り返して、はやてはパッと閃いた。

(そうか。態々、鎧でなくてもそれらしい服やったら……)

その時に浮かんだのはやはり連音の姿。
一見して忍者と分かる服装を思い出し、閃いたのだ。

はやてはシグナム達に振り向いて言った。
「せやったら、服で良ぇか?騎士らしい服!なっ!?」
「はい、構いません」
シグナムが了解すると、はやての心が弾みだした。
「それなら資料を探して、格好良ぇのを考えてあげななぁ〜!!」
シグナム達に似合う、それに相応しい服。

早速、はやての頭の中ではイメージが始まっていた。



とりあえず目的の本を借り、外で待っていたヴィータとザフィーラと合流する。
「では、私とザフィーラは本を持って先に戻っております。ヴィータ、シャマル、主を頼むぞ」
「えぇ、任せて」
「――ヴィータ、頼むぞ」
「りょーかい」
「今、何で言い直したのッ!?」

残念ながら、その疑問に答える事は誰にも出来なかった。







「ここは……何のお店ですか?」
「ここは、結構大手の玩具屋さんや」
看板に書かれている【といざるす】の文字を見上げるシャマルに答える。
「玩具店、ですか……?」
中に入ったはやて達はヌイグルミ売り場を抜け、真っ直ぐに進んでいく。
「ええから、ええから。こういう所にこそ、それっぽい材料があるんやで?ほら、こういうんとか」
はやてが手に取った物を見て、シャマルは「なるほど〜」と頷いた。

「ヴィータは何か……ん?」
「どうしました……ヴィータちゃん?何を見ているのかしら?」
振り返ると、ヴィータがヌイグルミをじっと見つめていた。
二人が戻って近寄ると、その視線の先にはウサギのヌイグルミ。
他のヌイグルミが前にあるのに、これだけ何故か、後ろの壁に寄りかかるようにしていた。
可愛さや愛らしさとは逆方向に向かったような、シンプルなデザインのそれを、ヴィータは食い入る様に見ていた。

「ヴィータ、それが気に入ったん?」
「ッ!?や、別にそんなんじゃ……!!」
はやての声にドキリとしたヴィータが振り返り、慌てて首を振った。
「買うても良えよ。ヴィータが欲しいんやったら」
「あ……う…ホント?」
顔を赤くしながら、ヴィータが消え入りそうに尋ねる。
「本当や」
はやてがニコリと笑って答えると、ヴィータの顔がますます紅潮し、同時に喜びで感情が爆発しそうになった。

そんなヴィータの姿に、シャマルは少なからず驚きを感じていた。



資料に使えそうな本を買い、夕暮れの公園を散歩がてらに通る。
「う〜ん、良い風ですね〜。天気も良かったですし」
「絶好のお散歩日和やったな〜」
そんな会話をする二人の後ろを、ヴィータは紙袋を抱えてついて行っていた。

そんな様子に気が付いたはやてが声を掛けた。
「ヴィータ?」
「…?」
「――もう、袋から出しても良ぇで」
「――っ!」
その言葉を聞くや否や、ヴィータは袋から先程のヌイグルミを取り出した。
手の中に現れたそれに、ヴィータは再び沸きあがる喜びを隠す事無く、その顔に満ち溢れさせていた。

「はやて!あり――」
しかし、はやて達は先に行ってしまっていた。
最後まで言葉を言えず、しかしヴィータはその代わりに、満面の笑みを浮かべて二人の後を追いかけた。







時は移り、世間は夏。
太陽は遥か真上に昇り、アスファルトとコンクリートをジリジリと焼いていく。
「あっちぃ〜……」
「本当ね〜……流石にこれは……」
この日は連日連夜の猛暑に続き、今年最高気温を観測していた。
さしもの騎士も太陽には敵わず、熱線を浴びて溶けてしまいそうな顔をしていた。

シャマルは日傘を差し、ヴィータは帽子を被っているが、それでも熱気は強烈だった。
「どっか入って休もうぜ〜?」
「そうね〜……あっ、あそこにしましょうか?」
シャマルが指差した先には、オープンテラスのある喫茶店。
流石に、この日差しでは座っている客は居ない。

二人は喫茶店の入り口を開ける。
カウベルが音を響かせ、隙間から冷気が流れ出す。

「いらっしゃいませ〜。何名様ですか?」
「二人です」
「では、こちらにどうぞ」
店員に案内された席に着き、出された冷水を口にして、シャマルはようやく一息吐いた。
ヴィータはパタパタと襟元を扇ぎながら、メニューを見ていた。

「――あれ、確かはやてちゃんの?」
「え……あっ、あなたは……!」
突然声を掛けられシャマルが振り返ると、そこには以前にデパートで会った青年、高町恭也が居た。
あの時と違って、白のYシャツに黒のスラックス。そして店名のロゴが入ったエプロンを着けている。
「ここで、働いていらっしゃるんですか?」
「働いているというか、ここはうちの店ですから」
「えっ!?そうなんですか…!?」
「えぇ。どうぞ、ゆっくりしていって下さい。注文が決まったら、遠慮なく声を掛けて下さい」
そう言い残し、恭也は言ってしまった。
シャマルはその背中を無意識に、視線で追い掛けてしまう。
それはこの店に居る他の女性客も同様であった。

少しして注文する物が決まったので、店員を、出来れば恭也を呼ぼうとして手を上げると、
「はいは〜い、ご注文はお決まりですか〜?」
と、案内をしてくれた店員が現れた。

コトリ。何故か、アイスコーヒーとオレンジジュースがテーブルに置かれる。

「あれ?あの……まだ、注文は……」
「え?あぁ、それはサービスです」
「サービスって……」
「あなた達って、はやてちゃんの家族の方なんでしょ?だったら、御近付きの印に」
「はやてちゃんを知ってるんですか…!?」
「もちろん。はやてちゃんは大事な友達だから。あ、私は月村忍。気軽に「忍ちゃん」って呼んでね」
「そうでしたか……でも、せっかくのご好意ですが」
と、断ろうとした所で、忍の指がちょいちょいと動く。

何だろうかと視線を動かせば、そこにはストローを差してオレンジジュースを飲んでいるヴィータの姿。
「ヴィ、ヴィータちゃん!?何で飲んでるの〜!?」
「ん〜?何でって……良いじゃん、飲んでくれって言ってるんだし」
「あぁ……もう!」
「うんうん。人の好意は素直に受け取るのが一番よ。で、注文は?」
「はうぅ………このシュークリームと、ブルーベリーレアチーズを……」
「はい!翠屋特性シューと、ブルーベリーレアチーズですね〜、少々お待ち下さ〜い!」
ニコニコとしながら、忍は厨房に向かった。


渋々ながら、シャマルもアイスコーヒーに口をつける。
ほろ苦い香りと味わいが舌を滑り、咽喉に落ちていく。


やがてやって来たシュークリームとチーズケーキは絶品で、二人揃って感嘆の声を上げてしまった。

「あれ、シャマルさんとヴィータちゃん?」
「え…?」
声が掛けられたので向けば、優しそうな印象の制服姿の少女。
「あぁ、那美だ!ちわ〜!」
「こんにちは、那美ちゃん」
「こんにちは、ヴィータちゃん、シャマルさん。今日はお二人で何処かに?」
「えぇ。その帰りなんですけど……余りに暑くて、ちょっと避難を。那美ちゃんはどうして制服なんですか?」
それは当然の疑問だった。
何故なら今は八月。学校は夏休みである。
高校生の那美も当然、その筈である。
「今日は用事があって、学校に行っていたんです」
「分かった!ホシューってやつだ!!」
ヴィータが、シュークリームのクリームを口元に付けてそう言うと、シャマルの顔が凍りついた。

「ヴィ、ヴィータちゃん!!そういうのは言ったらダメーーッ!!ごめんなさい、那美ちゃん…もう、本当に……」
平謝りするシャマルに、顔を真っ赤にしながら那美が言った。

「―――課題用に借りていた本を、返しに行っただけです」

シャマルが更に平謝りした事は、言うまでも無い。



「そういえば、此間はパイをありがとう。とても美味しかったわ」
「いえ、はやてちゃんの家に行くって言ったら、耕介さん……うちの寮の管理人さんがお土産にと、持たせてくれた物ですから」
「へぇー。結構やるじゃん、その管理人」
「あれ?那美も来たの?何にするの?」
「あっ、忍さん。じゃあ……冷やし宇治茶を」
「ムッ、裏メニューを注文するとは……腕を上げたわね!?」
「この間、恭也さんが教えてくれたんですよ」
「おのれ恭也め……まだ、天然フラグメイカーの気が抜けないか……!!」
「誰が天然フラグメイカーだ」

ゴンッ!

恭也の盆が忍の頭に、垂直に振り下ろされた。悶絶する忍を尻目に、恭也は那美に声を掛ける。
「くぁああああああ………!?」
「まったく……いらっしゃい、那美さん」
「はい、こんにちは恭也さん」

すっかりとシャマル達のテーブルは賑やかしさを増していた。


こんな風に、気兼ねない歓談をする時が来ようなどとは、思いもしなかった。

夏の日の午後は、涼しい翠屋の中で、暖かな時間を過ごしたのだった。


翠屋を出たシャマルの手には、家に待つはやてやシグナムらへの、お土産のケーキがあった。



その脇を、一台のリムジンが通り過ぎて行った。
「――今の、凄い魔力を感じたけど……?」
「――んなの関係ねぇだろ!?さっさと帰ろうぜ?」
「………そうね。今の私達には、関係無い事よね……」





そのリムジンは翠屋の前に停まり、そして三人の、はやてと同い年ほどの少女が降り、翠屋の中に入っていった。



























平穏なる時は、穏やかに過ぎていく。


そして、十月二十七日。
それは夢の終わる、運命の日。


診察を終えたはやてはヴィータと待合室にいた。
シグナムとシャマルは今後の知慮方針について話があると、石田医師に呼ばれている。


「――こんにちは、はやてちゃん、ヴィータ」
現れたのは毎度の黒尽くめの青年、高町恭也。

ちなみに、ヴィータが呼び捨てなのは「ちゃん付けで呼ぶな!!」と言う本人の強い意向によるものだ。
「オッス、恭也!」
「こんにちは、恭也さん。定期健診ですか?」
「あぁ。サボると後が怖いからな、面倒でも来なければならないんだ……」
恭也は本当に、参ったという風に嘆息した。

フィリス医師の整体術は効果は在るが、中々どうして、凄まじいの一言である。


尤も、それだけ恭也を含めた御神流の剣士の体が、酷使されているという証でもあるのだが。
そんな恭也を見て、ヴィータとはやては互いを見合って、笑っていた。







「命の……危険!?」
「はやてちゃんが……!?」
石田医師の言葉に、シグナムとシャマルの顔が凍りつく。
「えぇ……。はやてちゃんの足は、原因不明の神経性麻痺だとお伝えしました。ですが、
この半年で、麻痺が上に進んでいるんです。この二ヶ月は特に顕著で……」
はやての病状を語る石田医師の表情は、より曇っていく。
「――このままでは、内蔵機能の麻痺に発展する危険性があるんです」
「「―――ッ!?」」
その宣告に、二人は衝撃を受けた。

脳裏に走ったのは、闇の書の存在。
そして、自分達の存在。


石田医師の診察室を出て、二人は廊下にいた。
シャマルは残酷すぎる事実に顔を覆って泣き伏せ、シグナムはぶつけようの無い憤りを壁に叩きつけた。
「何故ッ!?……何故、気が付かなかった……!!」
「ごめん…ごめんなさい……!私……!!」
「お前にじゃない……!!自分に、言っている……!!」
ギリッ、と噛み砕かん程に歯を食い縛り、拳を壁に叩きつける。


石田医師の話と、自分達の記憶。それを照らし合わせた時、答えは出た。


闇の書の呪い。それこそが、はやてを蝕む元凶であると。


生まれた時から共に在った闇の書の力を、リンカーコアが未成熟なはやてが受け入れる事は出来なかった。
それ故に抑圧された強大な魔力がはやての体を蝕み、正常な機能を奪い、生命活動すら阻害していた。

そしてそれは、守護騎士プログラムが起動したはやての誕生日を境に、加速を始めた。
徒でさえ強い負担を受けているリンカーコアが、守護騎士プログラムの起動、つまり第一の覚醒を迎えた事で、より大きくなったのだ。


それが、シグナムの出した結論だった。



深夜の海浜公園で、その事実はヴィータとザフィーラにも告げられた。
「………」
「――助けなきゃ」
俯いていたヴィータがポツリと零す。
「はやてを…助けなきゃ!!シャマルッ!!」
「――ッ!?」
堰を切ったように、ヴィータはシャマルの腕を掴んだ。
「シャマルは治療系、得意なんだろ!?そんな病気ぐらい治してよぉっ!!」
「――ごめんなさい、私の力じゃ、どうにも……」
「――!!」
残酷な答えに、ヴィータの手から力が抜ける。
悲しみと怒りがごちゃ混ぜになり、涙となって際限無く溢れ出す。
「何でだよ………何でなんだよーーーーッ!!!」

はやては優しくて、温かくて、なのに、どうしてこんな事になる。
何も悪い事をしていないのに。なのに、どうして。

答えのない嘆きを、ヴィータは吐き続けた。


「シグナム……」
ザフィーラの声に、シグナムは握っていた手を開く。
そこに収められていたのは、剣を模ったアクセサリーだった。

「――我らに出来る事は、余りに少ない………だが…!」
少ない。つまり、出来る事は在る。

はやてを救う為に。
それが主を、裏切る事になるとしても。


それが告げられた時、騎士達の目に迷いは無かった。





あるビルの屋上。
騎士達は覚悟と決意を持って、そこに立っていた。



シグナムが、直刃の剣を構える。

――はやてを蝕むのは闇の書の呪い。

シャマルがリングのはめられた手をかざす。

―――はやてが闇の書の主として、真の覚醒を得れば。

ザフィーラが地に、その爪を食い込ませる。

――――はやての病は消える。少なくとも、その進みは停まる。

ヴィータが、戦鎚を構える。

―――――はやての未来を血で汚さない為に、人の命は奪わない。

雷鳴が、これから先の未来を暗示するかの様に響き渡る。

――――――だが、それ以外ならばどんな事でもする。それが例え、騎士の誇りを捨てる事であろうとも。


――現マスター八神はやては、闇の書には何も望みは無い――

(申し訳ありません、我らが主……)

――この家で仲良く過ごす事。それが今のお仕事や。約束できる…?――

(唯一度だけ……あなたとの誓いを)

――誓います。騎士の剣に懸けて――




(―――破ります!!)




光り輝くのは、彼女達がこの世界に現れた時と同じ魔法陣。

そして纏うは主に与えられた、新しき騎士の衣。


はやての心が込められた、唯一無二の守護騎士の鎧。



「――我らの不義理を、御許し下さい!!」





そして、四つの閃光が四方に飛び散った。


行く道は優しき主の心を裏切る道。その果てにあるのは、主を救うという希望。




騎士達のいなくなった世界は、強い雨に打たれた。



まるで、彼女達の心を映すかの様に。













時は戻り、全てが砂で覆われた世界。

ボロボロに傷付き、アイゼンを引き摺りながら砂丘を歩くヴィータ。
その後ろには息絶えた砂竜の姿があった。

「クソッ……はやてから貰った騎士服……こんなにグチャボロにしやがって……。
まぁ、騎士服は直るし、そこそこページも稼げたから……良いけどよ…………わぶっ!?」
亀裂が入っていた足部のパーツが割れ、ヴィータはバランスを崩して顔から、砂に突っ込んでしまった。

「い……たく…………ないっ!!」
叫ぶように、顔を引き上げる。全身が悲鳴を上げる中、それでも、それに耐える。
「こんなの……全然……痛くない……!」
震える足に力を込めて立ち上がる。

「昔とはもう……違うんだ」
アイゼンを杖代わりに、前に進みだす。
「帰ったらきっと……温かいお風呂と……はやてのご飯が待ってんだ……。優しいはやてが、ニコニコ待っててくれるんだ」

この砂の様に渇き切っていた自分の心を、満たしてくれた全て。

「そうだよ……アタシは今……すっげぇ幸せなんだ…………だからッ!!」

突如、砂が隆起し、新たな砂竜が姿を現す。
ヴィータを見つけ、その不気味な牙を蠢かせる。

ヴィータはギラリと目を光らせ、アイゼンを振り上げた。
「こんなの、全然!!痛くねぇーーーッ!!」

砂竜の突進を飛翔し回避すると、そのまま真っ向から突っ込んだ。


「ダァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
















護るべき者の為に、騎士達はその力を振るう。
それは騎士として、あるべき姿。


だが、その果てに在るものは尚も深い闇。



夜天の星の下、誓った約束。

はやてとの誓い。



そして騎士達の誓い。






闇は、それをも呑み込んで、最後の運命を待つ。
















では、拍手レスです。



※いつも見させて頂いてます。
この話はオリ主と恭也、忍が本当の兄、姉みたいに接している場面が多く、それがホントウに好きです。
これからも楽しみにしています。

以前も頂いた方でしょうか?
あの時は書き切れなかったので追加で。

なのは本編の話自体、魔法の無い人は蚊帳の外な部分が多く、そこが凄く気になっていました。
そういった事もあり、連音には魔法に関係なく、支えてくれる人や繋がりを作って行くという流れがある訳です。

現状はこの二人が大きく出ていますが、他のキャラとの繋がりも、これから大きくなっていきます。





拍手は、リョウさんの手によって区分けされております。
宛名を書くことで、その負担も随分と軽くなります。
是非とも何方宛か分かるように、お書き添えの程お願い致します。











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