灰色に染まる空。草木の生えない荒野に、赤いゴシックドレスの少女が立っていた。
その肩に戦鎚を担ぎ、足元に岩の甲羅の獰猛な亀に似た生物が転がっている。

「これで二つか……。チッ、もうちっとサクサク行かねえとな……時間も無えし…」
“ヴィータちゃん!!”
「おわっ!何だよ、シャマル!ビックリしたじゃねえか!!」
ヴィータと呼ばれた少女は、頭に響いた声に怒鳴った。
“それ所じゃないわ!シグナムから連絡があって、ザフィーラがやられたって!!”
「っ!ザフィーラが!?」
念話が伝えた事実に、ヴィータの顔色が変わる。
“至急こっちに来てくれって。念の為、ヴィータちゃんも向かって!”
「っ…!しゃあねえ……すぐ行く!!」
ヴィータの足元に三角を模した魔法陣が展開される。
(シグナムが救援を呼ぶなんて……!どんだけヤバイんだ…!?)
そして、赤い光が天空に上った。



   魔法少女リリカルなのはA’s シャドウブレイカー

       第二話   血風、嵐となりて



「紫電一閃!!」
「玄水破刃!!」
ぶつかり合う力に、バチバチとスパークが奔る。

炎が水を蹂躙せんと喰らい付き、水が炎を屠らんと暴れ狂う。
「ググッ……!」
「ぬぅう…!!」
魔導は僅かにシグナムが有利。
しかし、純粋な力は連音が僅かに上回っていた。それゆえの拮抗。
「ウァアアアアアッ!!」
「……ッ!!」
シグナムが咆哮し、重厚な刃を更に押し込む。
連音はその瞬間、瞬刹を使い間合いを離した。

敵を失い、炎熱の魔剣は雪原に叩きつけられた。
雪が、一瞬で蒸気へと変わる。

「……後少しで、その剣ごと叩き斬ってやる所だったものを」
「………っ」
その言葉に連音は渋い顔をした。
炎と水は消失し、晒されるのは互いの刃。

レヴァンティンはギラリと刃を輝かせる。
対して、葉霞は―――。

(武器の性能が仇になったか……)
その刃を欠けさせていた。

西洋剣は重量を以って叩き潰す事を重点に置いている。
対して日本刀は隙間を縫い、斬る事に重点を置いている。
忍者刀は狭い空間での使用を前提に刺突に特化した、小太刀サイズの直刃が特徴である。


真っ向から打ち合い、その勝敗を分けたのはやはり純然たる武器の性能差だった。


(それなら、戦い方を変えるだけだ……)

欠けたといっても、刀が使えない訳ではない。

敵のカードは色々と見えてきた。
接近しての近距離戦闘。中距離以上にも、何か手を隠しているだろう事も予想できる。
炎の力は驚異的だが、五行剣の通じる範囲だ。

琥光のサポート無しでの幻術は中々きついが、弐位ぐらいなら問題なく使える。

戦いで得た情報と自分の手札から、戦い方を再構築していく。
連音は三枚の術符を取り出し、構える。

シグナムが雪原をスレスレに飛翔し、連音に迫る。
「ハァッ!!」
横薙ぎに振るわれた剣閃を、上空に跳んで躱し、そのまま飛翔する。
すぐさま、シグナムもその後を追いかけた。

飛行速度はシグナムの方が上で、徐々にその間合いを詰められていく。
シグナムが脇に添えるように剣を構え、速度に乗ったままの一閃を狙う。

連音はそれに気付きながら、そのまま全力で真上に飛び続けた。

連音の行動に何かしらの企みの気配を感じながら、しかしシグナムは更に速度を上げた。
“シグナム…!”
ザフィーラの念話が届く。
“分かっている……しかし、奴が一瞬でも速度を緩めれば、その瞬間に企みごと斬り伏せる!”

シグナムが更に加速したその瞬間。
「―――ッ!?」
視界から連音の姿が消えていた。
“後ろだッ!!”
「なっ…!?」
ザフィーラの声にシグナムが振り返る。
後方には、さっきまで前にいたはずの少年がいた。
眼前には術方陣を展開させている。

その時、シグナムの視界に入った物があった。
ヒラヒラと舞う、四枚の紙。
表面には何らかの文字が書かれ、その中心に描かれているのは―――術方陣。
それらが共鳴し、凄まじい光を放っていた。
シグナムの表情が凍りついた。

「――爆砕せよ」
連音の言葉を引き金に全てが一斉に爆発。
吹き荒れる爆風と爆煙が、剣の騎士を一瞬で呑み込んだ。


ザフィーラはその光景に驚きの表情を隠せないでいた。
遠目で見ていたから分かった。

シグナムが速度を更に上げた瞬間、連音は《真上に向かう姿勢のまま》真下に移動していた。
それも、上に行くのと差分の無い速さで。

ザフィーラですら、それを認識するのに僅かに時間を要した。
眼前でそんな事をされたシグナムには、認識する事さえできなかっただろう。

急ぎ、背後に回られた事を伝え、シグナムは足を止めて振り返った。
その瞬間、シグナムがいた場所が突然の爆発を起こした。

連音が魔法陣を展開していたことから、何かの攻撃と判断できた。
問題は、そのタイミングだ。
シグナムがいた地点は、連音が消えた地点だった。
つまり、予めそこに何らかの魔法を設置していたという事になる。

自分達がここに来たのは偶然。事前の仕込みでない事は分かる。
つまり、あの瞬間に気付かれる事無く、仕込んだという事だ。


ザフィーラは痛む傷を押さえながら考える。

シグナムが負けるとは思わない。まともに打ち合えば、勝つのは間違いなく彼女だ。

しかし、敵の少年の持つ底知れなさが不安を覚えさせる。
ヴォルケンリッターが主とする人物と、同い年ぐらいの少年。
不意打ちとはいえ、一撃で自分を戦闘不能近くに追い込み、将であるシグナムと光まで渡り合える実力者。

更に、真っ向勝負は分が悪いと感じるや否や、その戦い方をあっさりと変えてしまう。


自分より強い敵には、如何にして対するべきか。それを徹底的に叩き込まれ、そして自身も理解している。

故にどんな手を打ってくるか、全く予想がつかない。

だからこそ、底知れない感覚に不安が消えない。



そして黒煙が晴れ、その下からシグナムの姿が現れた。
直前に防御魔法を使ったのだろう。騎士甲冑が所々焦げてはいるが、ダメージはそれ程でも無い様だった。



シグナムはギリッ、と奥歯を噛み締めた。
敵は予想を超える強さを秘めていた。

魔力ではこちらが上回っている。
しかし、接近しての一撃。そのスタイルに対して余りにも相性が悪い。

戦い方が変わった様だが、その本質は同じ。
高速機動からの一撃必殺。
先の攻撃も防御が間に合わなければ、意識を強制的に刈り取られていた。
今の攻撃も、障壁が間に合わなければ殺られていた。

いや、それ以前にザフィーラの声が無ければその時点で、だ。


必殺の紫電一閃も、水の剣によってその威力の尽くを削り取られた。


一瞬で反撃に転じる速さを持った、炎を打ち消す水の使い手。

間違いなく、今までで最強の使い手だった。


主の道に人の命を犠牲にする事だけは避ける。
騎士の誇りを捨て、誓いに背き、それでも残した最後の一線。

しかし、眼下の敵はそれを嘲笑っている様に見えた。


戦い方で分かる。
幼き身で、戦場を知る者と。
その手で命を奪う、その意味を知る者と。


レヴァンティンが炎を吹き出す。
殺さずに済む自信はなかった。

それは今までの事。
ここからは――

「ハァアアアアアアッ!!」
殺す気で刃を振るう―――!



「――クッ!」
術符を四枚も使い、仕掛けた罠は見事に防がれた。
魔力にダメージはいっただろうが、肉体的にはほぼゼロ。

貴重な攻撃を透かされた上、敵はその気配を明らかに変えた。
振り下ろされた剣撃を受け止め、そのままサイドに流して一撃を狙った。

しかし、受けた一撃は明らかに重かった。
威力がどうという話ではない。

気迫――否、覚悟の重さだった。


(これは……マズイ!)
連音はサイドに流すと同時に、間合いを一気に離す。

“Schlange form”

排気ダクトがスライドし、レヴァンティンの鍔のダイヤルが回った。
同時にその刀身に幾筋もの線が走った。

「せやぁあああああっ!!!」
「ぐぁっ…!?」
明らかに遠い間合い。しかし、剣閃は連音を切り裂いていた。
鮮血が飛び散り、苦悶の声が響く。

装束を斬られ、左腕に絶え間無く血が滴る。獰猛な牙に腕の肉が抉られていた。

シグナムの剣は異様な姿へと変じていた。
短い無数の刃の間を金属のワイヤーが繋ぐ、斬撃の鞭。
シグナムが小手を振るうと、生物のようにうねり、連音に向かって襲い掛かってきた。
「チィッ…!」
追撃を躱す連音。しかし、斬撃は留まる事を知らず、一気に連音を包囲してしまった。

「噛み砕け……シュランゲバイゼンッ!!」
シグナムが大きく腕を振るい、包囲が一気に狭められる。
連音は苦無に術符を使い、五行の力を『二つ』付随させる。
「五行術式……金剛発破!!」
黄と赤の二色の光で苦無を包み、狙いを包囲で最も大きい隙間に定め、それを投擲。
巨大な爆発を巻き起こした。

「なっ…!」
「おぉおおおおおっ!!」
爆炎を貫き、連音が包囲を抜け出す。そのまま一気にシグナムに迫る。

中距離を制する刃の鞭。
しかし、言い換えれば敵の接近を許さない為の攻撃でもある。

今の連音には、中距離以上を制する手はなかった。
術符も手裏剣も、完全なる使い捨てである。
シグナムを倒すには、最初から接近戦以外の選択肢はなかった。


敵の手は剣と炎。自分のような飛び道具があるなら、もっと早く使う筈である。
そこから、敵には飛び道具はないと判断した。
となれば、中距離以上の戦い方は何か。

それがどんな物にしろ、使わせれば接近戦に弱点が生まれる筈。
この世に、槍と剣と短剣とを兼ね備えた武器は存在しないのだから。

連音は葉霞を構え、最短距離で突撃する。
シグナムが刃を振るい、何度も掠めるが止まらない。
「これで―――!」
「――ッ!!」
「終わり――!!」

刃がシグナムの胸を―――


「ぬぉおおおおおおっ!!」
「「―――ッ!!?」」

突如、影が割って入り、連音の一撃を寸前でくい止めた。
ギリギリと食い込む刃先を、銀の盾が防ぐ。
「ザフィーラッ!?」
「クッ…!死に損ないの身で……!!」
連音が苦々しく言い放つと、ザフィーラはカッと目を見開いた。
「我は盾の守護獣ザフィーラ!!仲間を、将を、主を守る絶対の盾だ!この程度の一撃で、貫けると思うなッ!!」
ザフィーラが咆哮し、連音の刃を弾き返した。

「うぁっ!!」
剣を弾かれ、バランスを崩した連音を、直刃の剣が襲った。
「せぇえええええいッ!」
「ぐぅッ!」
葉霞で一撃を受け止める。だが、その刃がミシミシと音を立てた。
「うぁあああっ!!」
シグナムが刃を振り切り、連音は真っ逆さまに雪原に落ちていく。

ドォォォォン!という音を上げて叩きつけられ、白煙が上がる。

「動いて大丈夫か、ザフィーラ?」
腹部からの出血を手で押さえるザフィーラに、シグナムが声を掛ける。
「心配ない……奴の剣が鋭かった事が幸いした。痛みはあるが、動けなくはない」「だが…」
シグナムの言葉を遮り、ザフィーラは何事かをシグナムに呟く。
それを聞いて彼女の目が見開かれるが、すぐに細まった。
「奴は戦い慣れている……これ以上、時間を割く訳にも行くまい」
「…………分かった」
レヴァンティンの柄が稼動し、現れた隙間に弾丸状の物を放り込む。
“Nachladen”
(カートリッジ残り四発……一気に決める……!)


「くっ……!」
連音は上空を見上げ、顔を顰めた。
二対一の状態を避ける為に不意討ちを決めたというのに、その不意討ちが甘かった。

仕留め切れなかった事が、絶好のチャンスを逃す結果となった。
シグナムとザフィーラが雪原に降り立つ。

傷を負っているザフィーラはシグナムの後方に下がっていた。
恐らく攻撃には加わらず、シグナムの防御に徹するのだろう。
連音には厄介な状態だった。
あの防御力が加わったら、今の連音に勝機は無い。


シグナムは鞘に剣を収め、居合いの型を取った。

(ならば……)
連音はここで新たなカードを切った。

柄を強く握り、刺突を構える。


張り詰めた空気が二人の間を埋めていく。
「………」
「………」
静まり返る銀世界。
緊張が頂点に達した時、二人が同時に動いた。

シグナムが鞘走りから、鋭い斬撃を放つ。
連音は電光石火の刺突撃を最短距離で繰り出した。

「「うおぉおおあああああっ!!」」

剣閃は僅かにシグナムが速い。連音の刺突もその軌道上にあった。

「…ッ!」
斬撃が連音を捉えた瞬間、連音の姿が砕け散った。
竜魔幻術、蜃の二位が生み出した幻の連音。


「―――ッ!」
そして、連音はザフィーラの眼前に現れた。
大きく振り上げた刀を一気に袈裟懸けに振り下ろし、刃がその屈強な肉体を切り裂く。

二対一で戦い、倒せるのは一度で一人。
ならば、深手を負っている相手を狙う。当然の考えだった。

態々、不利な状態でシグナムを無理に相手にする事は無い。



だからこそ―――。
「……なっ!!」
「グゥウウオォオオオオオオオオオッ!!!」
―――――動きを、読まれた。

ザフィーラの手が葉霞をガッシリと掴み、その動きを封じる。

どんな速さでも、どんな手でも、来ると分かっている攻撃ならば気力で耐えることは可能だ。
「―――捕らえたぞ…縛れ!」
連音は葉霞を離し、離脱を図るが、それよりも早く、ザフィーラの魔法が発動した。
「――鋼の軛!!」
突き出した銀の牙が連音の足を貫く。
「ぐぁああっ!!」
同時に、ザフィーラが全力で飛び退いた。

シグナムが鞘に剣を収めたまま、カートリッジを爆発させる。
紫の魔法陣が展開し、溢れ出す魔力が嵐となって駆け巡る。

鞘ごと上段に構え、居合いを構える。
自らを囮にチャンスを作ったザフィーラに報いる為に、シグナムは必殺の一撃を放った。
「これで終わりだ………飛龍!」
「―――くっ!!」
剣が抜き放たれ、紫炎を纏った連結刃が翻る。その勢いのまま、レヴァンティンを一気に振るった。
「――一閃ッ!!」


雪原を抉り走った煉獄の龍が、連音を呑み込み、薙ぎ払った。
















「がはっ…!」
戦いを終え、ザフィーラは限界に達し、膝を着く。今度はもう立ち上がれそうに無かった。
幾ら耐えられるといっても、ダメージは余りにも大きい。
「大丈夫か……もうすぐシャマルが来る、耐えてくれ」
「あぁ……心配は要らん。それよりも、早く蒐集を」
「…あぁ」
シグナムは倒れ伏した連音に歩み寄る。
その手にはいつの間にか、一冊の書があった。
茶色の表紙に金色の剣十字の付いた、古めかしい洋書。

「ぅ……ぁ………」
飛龍一閃を喰らったその背は、無残にも刃で斬り裂かれ、炎によって焼け爛れていた。
僅かに動く指先に、シグナムは悲しい顔を浮かべた。
「すまない……だが、これも……」
シグナムが書を掲げると、ふわりと書が浮かび上がった。
「…っ!ぐ…ぁぁぁあ…………!!!」
連音の体から琥珀色の光が浮かび上がった。

“Sammlung”

白紙だったページに次々に文字が書き込まれていく。
それに従い、琥珀色の光が徐々にその光を弱めていった。

やがて輝きが蛍の光程度にまでなったところで、書は自らを閉じた。

「我らが、悲願の為……」

シグナムは書を持ち、念話を送る。
“シャマル、今どの辺りだ…?”
“もう少しで着くわ。ヴィータちゃんが先行してるけど……大丈夫?”
“何とかな……。だが、急いでくれ。ザフィーラと、戦った相手が不味い状態だ”
“え、えぇ!?何でそんな事に…!?”
“とにかく…っ!?”

念話の最中、シグナムはゾクリと冷たいものを感じた。
(何だ……この寒気は……!?)
シグナムだけではない。ザフィーラもそれを感じ取っていた。
“…シグナム?”
“すまん、切るぞ”
“えっ?どうし――”


念話を一方的に切り、シグナムの注意は彼方の人影に注がれていた。
雪に溶けそうな灰色の髪の、袴姿の女性。

それはまるで、雪景色の生んだ幻想のよう。

―――その影が、消えた。


「――っ!!」
ギュッ、と雪の踏まれる音が、シグナムの背後でした。

振り返ろうとした瞬間、シグナムの視界が掠れる。
次いで衝撃と、激痛が襲った。

そして、世界が回転した。
「グァアアアッ!!」
「シグナム…!グォッ!!」
ザフィーラも一瞬で吹き飛ばされた。

舞い踊るように蹴りが放たれ、それが自分達を襲ったのだと理解したのは、十数メートルもの距離を飛ばされた後だった。

二人は、ただの一撃でまともに立つ事も困難な状態に陥らされる。
「貴様……何者だ……!?」
それでも立ち上がり、シグナムが女性に叫ぶ。
しかしそれに構わず、女性は膝を折り、連音の容態を窺っていた。

(これは……魔導核が弱まっている。それに、不味い…脈拍が低下している)
女性は立ち上がり、パチンと指を鳴らした。
すると、その場に二人の女性が現れる。

「早く、霊廟へ」
「「承知致しました」」
連音を抱え、二人が消える。

それを見届け、女性はゆっくりと振り返った。
「―――さて、我が弟子が随分と世話になったようだな……?」
「…ッ!!」
シグナムとザフィーラはその瞳を見た瞬間、全身が凍りついた。

その全身から立ち上る、圧倒的な殺意と敵意。
そして、強大な魔力。

連音との死闘が、幼子の御遊戯にしか思えない程に、絶対的な差だった。
「人の世の争いに干渉をする気は無い…が、我ら竜魔を狙った事……その償いはしてもらう」
「―――クッ!」
「我が名は牙丸。その名を刻み……朽ち果てよ」

牙丸は一気に踏み込む。シグナムはとっさに防御するが、その上から巨大な鉄塊をぶつけられた様な衝撃が走った。
「ゴホ…ッ!!」
その衝撃に視界が白み、シグナムの口から鮮血が吐き出される。

それだけではない。
レヴァンティンにも大きく亀裂が走った。

ガクリと膝から崩れ落ちる。

(つ……強い……!)
何とか顔だけを上げる。
見下ろす瞳は冷徹。こちらの一挙一動を見逃しはしないだろう。

連音との戦いでダメージを負った事を抜きにしても、牙丸は強過ぎた。

“シグナム……!”
“蒐集は終えた……何とか離脱をするぞ……!”

そう言いながら、シグナムにはその手段が無かった。


しかし、諦める事はできない。
必ず、あの方の元に帰ると約束しているのだから。



“Schwalbe fliegen”
「ッ!?」
牙丸は反射的にその場を飛び退いた。

それを追い、四つの鉄球が飛び掛かる。
「今だ!二人ともッ!!」
その声に見上げれば戦鎚を振り上げた少女。

「ヴィータ!」
「急げッ!!」

その叫びに、残る力を全て使ってその場を離脱する。

「逃がさん…!」
牙丸は鉄球を一薙ぎで粉砕し、離脱するシグナムらを追って飛ぶ。

二人はヴィータの横を通り過ぎ、その場を離れていく。
「ならば……!」
牙丸はその狙いをシグナム達からヴィータへと変える。

「へっ!手前の相手なんかするかよ!」
ヴィータの手には紅く輝く光球があった。
「吠えろ、グラーフアイゼン!!」

“Eisen geheul”

ヴィータは光球に戦鎚を力いっぱい叩きつけた。

同時に轟音が響き、閃光が迸った。
「ぐぁぁあっ!!」
牙丸の視覚、聴覚は常人のそれとは比べ物になら無い程に鋭い。
その感覚に、至近距離からの攻撃は痛烈だった。


「――――おのれ……やってくれるな」
牙丸が感覚を取り戻した時、その空には一つの影も残されてはいなかった。





戦いの場よりそれほど遠くない所にある洞窟。
シグナムとザフィーラは、そこでシャマルに治癒の魔法を掛けてもらっていた。
「――ふぅ、後は安静にしていれば大丈夫よ。特にザフィーラは出血しないように大人しく、
シグナムも、ダメージが大きいから少し休まないと駄目よ」
「そうも言ってられん。時間は無いのだ……」
「大丈夫よ。昨日で28ページ、今日で24ページ!二日で一気に52ページよ!!」
「…?確か、奴のページは17と半分だった筈だが……?」
「ヴィータちゃんが蒐集したコアもあるのよ。ちょっとだけど休んで?
その間の蒐集は、私とヴィータちゃんでするから」
「しかし…」
「うっせーな!黙って休んどけよ!」
シグナムはすぐに何かを言おうとするが、すぐにヴィータに阻まれた。
「これからもっと厳しくなるのに、怪我人に中途半端でうろつかれたらこっちが迷惑すんだよ!」
「ぬっ…!むぅ……」
シグナムは少し考え、頷いた。
「分かった……しばらく私とザフィーラは主の護衛に専念しよう」
「そん代わり…治ったら、しこたまこき使うかんな?」
ヴィータがニッと笑う。釣られる様にしてシグナムも笑った。
「フッ…、覚悟しておこう」


「ところで、ザフィーラの怪我は誤魔化せないよな……どうする?」
「とりあえず、近所の野良犬と縄張り争いしたことにしましょ」
「お、それ良いアイデア!」
「待て、ヴィータ、シャマル…!我は狼――」
「問題解決!よーし、帰るか!!」
「待てと言うに!!」



















連音とヴォルケンリッターの戦いから数日。
透明な円筒上の物体に、黄色い溶液が満たされている。その中に浮かぶのは連音だった。
「それで、彼の容態は?」
「現在、肉体の修復率64%です。リンカーコアは……自然回復を待った方がよろしいかと」
「そうか…仕方あるまい。一度、刻印も使った体だ。時間の許す限り、徹底的に治すとしよう」
美しい白髪の女性は、小さく溜め息を吐いた。

「夜天の…今は闇の書……か」
だれにも聞こえないような大きさで、女性――永久は呟いた。













それより更に数日後。
辰守家の大広間には、竜魔の主だった者達が集まっていた。

「何故です!何故奴らの討伐を命じて下さらないのですかッ!!」
「連音様は本家の血筋!嫡子でないとはいえ、この里の希望!!」
「雪菜様がその命を引き換えられて守られた御方!」
「それを襲った者を……何故です!?」
皆、一様に気を荒げ、宗玄に迫っていた。

宗玄はゆっくりと皆の顔を見回し、口を開いた。
「彼奴らの討伐……それだけでは事は終わらぬ」
「……どういう事ですか?」

「それは私から言おう」
襖が開き、永久が大広間に現れた。
彼女の登場に、全員が驚いた。
「此度の事……姫様は辰守連音に、任をお与えになられた」

その言葉に、ざわめきが一気に膨れ上がった。
「一つ、奴らの狙いは魔導核である事。調査によって奴らが奪える魔導核は一人に一度のみ。
一度奪われた者は二度、奪われる事は無い。
二つ目は、今回の事に例の時空管理局が関わる可能性が極めて高い。
竜魔の存在をこれ以上、奴らに掴まれる訳にはいかん」
その説明に、ざわめきは徐々に小さくなっていく。
「先の務めで連音は管理局と接触している上、一度奪われている。故に連音に務めを与える事。これが、姫様の決定である」
永久は宗玄に視線で合図を送る。

「では、各里に通達。警戒態勢を維持。もしも彼奴らが現れたその時は……」
「その時は……?」
「遠慮は要らぬ。全力を以ってこれを討ち取れ…!」

宗玄の命を受け、全員が一瞬でその場から消え去った。

「――すまんな、宗玄」
「いえ……あれは、戦えるのですか?」
「傷の方は既に。リンカーコアも、もう少し掛かるが完治する」
永久の言葉に、宗玄は複雑な表情を浮かべる。
「あれに、真実を伝えるのですかな…?」
「いや。己で辿り着かぬ真実に意味など無い。背負うのも、捨てるのも、他者の責任にて、するべきではない。
あれが真実を知った時……どうするかは、あれが悩み…決めるべき事だ」






それから二日後。
連音は目を覚ました。

眠り続けたせいで、気だるい頭を掻きながら現状の把握に努める。
だだっ広い和室。パッと見でも三十畳はある。
そのど真ん中に布団があり、そこに自分が寝かされていた。
脇には着ていた服と、コートが綺麗にたたまれて置かれていた。
襖も欄間も、細かな造りで明らかに値の張る物だ。

「屋敷じゃ……ない…?」
これだけの大部屋を連音は見た事が無かった。
少なくとも、辰守の屋敷には無い。

「目を覚ましたか」
襖が開かれ、現れた女性に連音は驚かされた。
「と、永久様ッ!?どうして、ここに…!?」
「どうしても何も、ここは星詠の宮……我が主、朱鷺姫様の居城だ」
「なっ…!」
永久の言葉に連音は目を見開いた。
「ど、どうして……何で…!?」
「覚えていないか?お前は奴らに敗れたのだ……。そして、魔導の力、リンカーコアを奪われた」
「―――ッ!!そうだ……あいつらに……クッ…!」
脳裏に甦る戦いの記憶に、連音はギュッと布団を掴む。

「その辺り、色々と話さなければならない。とりあえず、身を清めて来い」
パンパンと、手を鳴らすと別の襖が開かれ女中がズラリと現れた。
「うげ…!」
「では、また後でな」

クルリと踵を返し、永久が去るとその背に連音の悲鳴が届いた。

「………苦手だとはと聞いていたが…やれやれだな」




二時間後。色んな意味でグッタリとした連音は暗い部屋の中にいた。服装は着物と袴である。
そこは朱鷺姫への謁見の間である。
「大丈夫ですか?随分と疲れているようですが……?」
「問題はありません」
「永久様、それは自分が言う事だと……」
「それはさておき……姫様」
「そうですね」

「……………はぁ」
自分の主張はあっさりと聞き流されたと理解し、連音は何も言わなかった。
代わりに、小さく溜め息を吐いた。


「さて、辰守連音……あなたが戦った者達ですが」
「――はい」
「彼らはヴォルケンリッター。我らと同じく、滅び去りし世界の残り火。
魔導核を喰らい、破滅と再生を以って永遠を生きる禁断の魔導書……ロストロギア、『闇の書』の守護者です」
「ロストロギア……闇の書…?」
連音の呟きに永久が頷いた。
「ロストロギア……つまり、先のジュエルシードと同じく滅亡した世界の遺産だ。しかし、これは半端な代物ではない。
何故ならば……これは、まともには破壊する事も封印する事も出来ないからだ」
「そんな…ッ!?破壊も封印も出来ない…!?そんな物が……!?」

「辰守連音……朱鷺姫の名に於いてそなたに命じます」
「ハッ……!」
「方法は問いません。この闇の書の完全なる破壊……それが、そなたの任務です」「あれが完全に目覚めれば、この世界は確実に滅びる……連音よ、これを」
永久が連音の前まで歩み寄る。
その手にある物を連音に差し出した。

「これは…琥光…!?」
差し出された頼もしい相棒に驚き、永久の手をまじまじと見てしまう。
「さぁ、受け取るが良い……これはもう、お前の物だ」
「……」
連音は緊張の面持ちで琥光を受け取る。
“起動”
「えっ!?」
勝手に起動した琥光に思わず間抜けな声を上げてしまう。

それを見て、永久と朱鷺姫はクスクスと笑った。
「琥光も、あなたにその姿を見せたかったようですね……」
朱鷺姫の言葉に、連音はいつもの形態になった琥光に視線を落とした。

「これは……!?」
連音はそれにすぐに気が付いた。
刀身が一回り大きくなり、その根元に排気ダクトが追加されている。
今までもあったが、それは六角柱型の鍔の中に収められていた。
それが押し出されているという事は、何を意味するのか。

「それが、琥光の本来の姿……いわば真打だ。以前は補助機能と汎用性を考慮し、本来の機能を封じてあったのだ」
「………琥光の、本当の姿」
「今のお前になら使いこなせよう。これの本当の力を、な」



連音は永久から琥光の機能について色々と説明をされ、それを聞く度、驚き、戸惑った。

「どうだ、理解はできたか…?」
「はい。それは問題ありませんが……」
特殊な機能ゆえ、いきなり実戦で使う事は避けたい所だった。
しかし闇の書の脅威がある以上、すぐに行動を起こす必要もあった。

連音が迷っていると、突如空間モニターが出現した。
『永久様ッ!!』
「何事だ、姫様の御前であるぞ!」
モニター越しに叱り飛ばされ、男性は「ヒッ!」と短い悲鳴を上げ、肩を竦めた。
「それで、どうしたのだ?」
『は、はい……霊廟のセンサーが封鎖結界の反応を掴みました』
「――場所は?」
『ただいま……』
男性は手元のコンソールを操作し、現地名を検索した。

『場所は………出ました、海鳴市です!!』


「海鳴市ッ!?」
その名を聞いて連音は立ち上がり、そのまま謁見の間を跳び出して行く。
「待て、連音!!」
永久の制止を聞かず、連音は一気に廊下を駆けた。

部屋に戻ってコートを引っ手繰り、外へと裸足のまま跳び出す。


「ッ!琥光!!」
“装束展開”
主の思いを理解し、琥光も力強く輝いた。
一瞬で忍装束を纏った。その姿も以前と違う物となっていたが、今の連音には気が付く余裕は無かった。
そのまま地を蹴り、一気に舞い上がる。
(海鳴市……だと!?)


連音の頭に多くの人達の顔が浮かぶ。

その中で、魔導――魔法の資質を持つ二人。
狙われたのは、この二人のどちらか。
もしくはどちらもか。


湧き上がる怒りのままに、琥珀色の弾丸が空を舞った。




















封鎖領域の中に、爆音が響く。

もうもうと上がる黒煙を貫いて飛び出す人影。
純白の衣と、紅い瞳にも似た宝石の付いた杖を持ち、足に輝く桃色の翼で空を駆ける少女。

高町なのは。
この町に住む、新米魔導師の少女である。


「いきなり襲い掛かられる覚えは無いんだけど…!何処の子ッ!?一体何でこんな事するのッ!?」
なのはは襲撃者に叫ぶ。視線の先にいるのは、紅いゴシックドレスの少女。
戦鎚を携えた赤い戦騎。

襲撃者の名はヴィータ。ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士である。

ヴィータはなのはの言葉を無視し、更に攻撃を構える。
左手を開いてなのはに向かって掲げると、その指先に鉄球が出現した。
「教えてくれなきゃ……分からないってば!!」
それを見て、なのはも腕を振るった。
すると、後方から二つの桃色の光球が高速で飛来した。

爆煙を抜けると同時にはなった、ディバインシューターである。
それに気が付いたヴィータが攻撃から防御に転じる。
一撃目を躱し、二撃目をシールドで受け止める。
拮抗の後、シューターが爆散。それを確認し、ヴィータは苛立ちの声を上げる。
「こっの…ヤロォおおおおお!!」
なのはに向かって突進し、ハンマーを振りかぶる。
“Flash Move”
その一撃を高速移動で回避し、レイジングハートは砲撃形態へと変形する。
“Shooting mode”

先端をヴィータに向け、レイジングハートの周囲に帯状魔法陣が形成される。
光が徐々に強く輝いていく。
「話を……!」
“Divine”
「聞いてってばぁっ!!!」
“Buster”

衝撃波と共に、閃光がヴィータに向けて放たれた。
砲撃魔導師としての真骨頂、ディバインバスターである。

しかし、それはヴィータの右を掠め、その衝撃でヴィータは左に弾かれる。
「…!?」
すぐさまバランスを立て直したヴィータはハッとして後ろを見やった。
そこには彼女の被っていた帽子が、ボロボロと欠片を散らしながら落ちていく姿があった。

それを見た瞬間、ヴィータの頭にある光景が過ぎり、同時に烈火の如き怒りが湧き上がった。
ギリギリと歯軋りし、怒りの眼をなのはに容赦無く向ける。
「ぅ……」
その余りに真っ直ぐな敵意に、なのはは不味ったかなと思ったが、既にヴィータの怒りは治まりそうになかった。

足元に赤い魔法陣を展開し、雄々しく戦鎚を振るって叫ぶ、
「グラーフアイゼン、カートリッジロードッ!!」
“Explosion”
先端がコッキングし、何かが爆発した。
“Raketen form”
ハンマーの両端がそれぞれ、鋭い三角錘状のスパイクと、ロケットブースターのような形状に変化した。
その余りにも攻撃的なデザインに、なのはは目を見開いて驚いた。
「え、えぇ…!?」
あれを彼女はどうするつもりなのか。
「ラケーテン――」
考えなくても分かっている。
こっちに攻撃するに決まっている。

ブースターが火を噴き、その推進力でヴィータがハンマー投げの選手のようにグルグルと回転しだす。
その遠心力が生み出すエネルギーをそのままに、一気に軌道を変えてなのは目掛けて突進してきた。
「ぉおおおおおおおっ!!!」
横薙ぎの一撃を躱すが、そのまま更に一撃を放たれる。
「っ…!」
シールドを展開し、なのはは真っ向から受け止めた。
しかし、それに構わず攻撃は更に食い込んでいく。

ついにシールドが砕け散り、レイジングハートに直撃した。
「ぁあ…ッ!!」
ヴィータはそのまま一気にグラーフアイゼンを振り抜いた。

「――ハンマァーーーーーーッ!!」

「キャアアアアアアッ!!」
圧倒的な破壊力に、なのはは錐もみ回転のまま、オフィスビルに叩き込まれた。

「ゲホ…ゴホッ……ゴホッ!」
デスクをなぎ倒し、全身を襲った衝撃にむせ返るなのは。しかし、すぐさまヴィータはそれを追って突進を駆けた。

「っえええええええいッ!!」

「なっ!」
なのはが視線を上げれば、グラーフアイゼンをロケット噴射のままに振りかざすヴィータの姿。
“Protection”
襲い来る破壊の一撃に、レイジングハートがバリアを張った。
激突する二つの力がスパークとなってオフィスに轟く。
ここを抜かれまいと、レイジングハートは先のシールド以上の強度でそれを維持し続ける。
だが―――。

「―――ぶち…抜けぇえええええええッ!!」
“Jawohl”
更に推進力が上がり、徐々にバリアが歪みを持ち始める。
そしてついに限界を突破し、砕け散った。

その牙がなのはに迫った瞬間、光と共にバリアジャケットが砕け、そのダメージを可能な範囲で相殺した。
しかし、そんな最後の防御手段――バリアジャケットパージですら、ヴィータの攻撃を受け切るには至らなかった。

「きゃあぁあああああっ!」
なのはは悲鳴を上げ、棚を薙ぎ倒して壁に叩きつけられた。
息が強制的に吐き出され、喉から乾いた音が吐き出される。
そして、ズルズルと床に崩れ落ちた。


ヴィータは興奮で乱れた息を整えつつ、頭を冷やす事に努める。
排気ダクトから残滓魔力が吐き出され、ハンマーヘッドがスライドし、薬莢が排出される。
怪我をさせても、殺してしまってはならない。そんな事だけは絶対に。
ヴィータは頭の中で繰り返しつつ、なのはに近付いていく。
「っ…ハァ……ハァ……」
震えるような息をしながら、しかしなのはは杖をヴィータに向ける。
レイジングハートは所々がひび割れ、砕け、赤い宝石部も亀裂だらけで、点滅を繰り返すだけ。

まだ戦う意思があると悟ったヴィータは、グラーフアイゼンを振り上げた。
デバイスを弾き飛ばし、一撃を入れて昏倒させる。
その後でゆっくり、リンカーコアを蒐集すれば良い。

簡単な事だ。



なのはは揺らぐ視界の中で、震える手で必死にレイジングハートを向けていた。
その視界の中で、ヴィータはその手のハンマーを振り上げていた。
まだ、終われない。終わってはいけない。
その思いとは裏腹に、なのは達には戦う力は残されてはいなかった。

只の一撃を耐える余力さえ無い。

(こんなので……終わり……?)
何も分からないまま。ただ、やられて、それで?
(嫌だ……)
遠くに離れてしまった友達と、もうすぐ会える筈なのに?
(ユーノ君…クロノ君………!)

しかし、容赦なく最後の一撃は振り下ろされた。

(フェイトちゃん……!!)





ギィイイイイイイン………ッ!!


ギュッと目を閉じた耳に届いた、金属音。
その音に、恐る恐るなのはが目を開く。

「……ッ!?」
なのはは息を呑んだ。
そよぐ風になびく、黒いマントとツインテールに結んだ金色の髪。
その手の黒き戦斧は、ヴィータの一撃を寸での所で押さえていた。

見間違える筈が無い。でも、遠い世界にいる筈の少女の姿に、なのはは困惑した。


「ゴメン、なのは。遅くなった」
と、なのはの肩に添えられる手。
振り向けば、何処かの民族衣装に身を包んだ、優しい顔立ちの少年。
彼もまた、遠くの世界に行ってしまった筈の大事な友達。
今のなのはを、与えてくれた人。

「ユーノ……君?」
「…ッ!!仲間か……!?」
突然の新手にヴィータが苦々しく吐き出す。

鍔迫り合いから、ヴィータは一気に間合いを離した。


ヴィータから視線を外す事無く、少女は戦斧を掲げる。

“Scythe Form”

どこか怒りを含んだような声で、先端のパーツが九十度動き、魔力刃が構築される。
その姿は正に、死神の鎌であった。


それを大きく構え、少女――フェイト・テスタロッサは静かに返した。



「―――――友達だ」










では、拍手レスです。いつも本当に有難う御座います。


※犬吉氏
ツバサの黒鋼の技は連音に似合うと思います。
黒鋼も忍者だし、技命に必ず龍が入るし。

>黒鋼さんの技ですか!?
確かにあの方も忍者ですし、良い感じですよね。技もカッコイイですし。
実はあの方は宗玄の若い頃のイメージモデルなのです
黒鋼さんを白髪、白髭の老人にしたら大体宗玄ですwww
あ、でも技なら関係ないのかな…?(邪推)


※犬吉さんへ
シグナムの名乗りが夜天になっていましたが、闇の間違いでは?

>これは、A’s7話のザフィーラの台詞「夜天の主の元に集いし雲」という台詞からの引用です。
名乗りとしてカッコイイかなと思い、言って貰いました。
『夜天の書』の守護騎士。ではなく、『主である彼女の為』に闘う守護騎士。という意味合いです。
書の名前は忘れていても、『夜天』という言葉を忘れてはいないので、おかしくは無いと。
………おかしかったら修正します(ペコリ)









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