ARMORED CORE NEXUS OVER AGAIN

 

1話 Mr. Eleven――ある男、ある女、ある少女

 

 

 

 

 

 

空は晴天。どこまでも広がっているかのような荒野には、十メートル前後ほどの人の型をした鋼鉄の巨人が二機、数十メートルの距離を挟んで直立していた。

周辺では中途半端に四隅に鉄筋や外壁が直立しており、いかにも建設中であると伺える。

≪そんな機体で勝負するつもりか? なめられたものだ≫

モノクロを基調としたカラーリングの機体――その内部のひどく狭いコックピットに、侮蔑を込めた相手の男の声が響く。

そのモノクロの機体に搭乗している男のパイロットは、モニターから相手機であるベージュ色の、相手の機体を睨み、言い放つ。

「テメエに言われる筋合いは無い。このネタ野朗が」

≪ふん。後で吠え面かくなよ? ミスター・イレヴン≫

その言葉を聞いた瞬間、男の目が変わった。まるでその言葉が秘儀金であったかのように黒の双眸が、果てしない怒りに染まる。

男は怒りに震える拳を抑えることなく、レバーを握った。

「・・・・・お前、アモーとか言ったな?」

ミスター・イレヴンは妙に冷静な声で言う。アモーと呼ばれた男は、ミスター・イレヴンの怒りに気付いてはいないようで、侮蔑の調子を崩すことなく捲し立てる。

≪ああ。それがどうかしたか?≫

次の瞬間、彼のコックピットに、ミスター・イレヴンの呻くかのような声が響く。

「・・・・お前、生きて帰れると思うなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかは定かではない昔、『大破壊』と呼ばれる災厄があった。それにより人口が大きく激減した人類は、地下に住むことを余儀なくされた。

『大破壊』の原因は定かではないが、ただ言えることは、かつての人類、そして文明社会を絶滅の一歩手前まで追い詰めた。これは事実である。

災厄から生き残ったわずかな人類は、大破壊以前にいくつか建築されていた地下都市へと居を構えることとなった。

それから二百数十年後の世界、荒れ果てていた地上は復活の兆しを見せていた。人々は地上へと進出し、再び人類が住めるように開発を行った。
『大破壊』の後、“政府”という組織は消え去り、代わりに人々を先導――もしくは支配というべきか――したのは『企業』であった。

企業が何もかも支配する世界。しかし、例外的存在が唯一あった。

アーマード・コア――通称ACと呼ばれる機械兵器を駆り、傭兵組織レイヴンズアークに所属し、依頼者からの報酬により依頼を遂行する傭兵たち。人は彼らを『レイヴン』と呼んだ。

今もどこかで黒煙が立ち込めるこの混沌とした世界は、彼らを中心に回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください。次のアリーナでの対戦相手が決まりましたよ」

端正なスーツを着込んだ、丸メガネが特徴的の女性は、ソファで高いびきをかきながら、やけにボロくさいジャケットを着込んだ、だらしなく眠り込んでいる黒髪の男を揺さぶる。

しかし、男は一向に起きる気配はなく、泥のように寝込んでいる。まるで眠り姫のようである。

女は「はぁ・・・」とため息をつくと、彼にとっての禁句を言った。

「ミスター・イレヴン。起きてください」

「誰がミスター・イレヴンだ!」

今まで眠りこけて居たのが噓の如く、ミスター・イレヴンは飛び起きた。そんな彼を見て、女は肩をすくめ呆れる。

「・・・俺を馬鹿にした奴はどこだ」

「そんなことより、グライヴ」

女は不機嫌そうな面持ちのレイヴン、ミスター・イレヴン――否、グライヴ・ロウ・イヅキに話しかける。極東生まれを裏付ける黒の双眸が彼女を激しく睨む。

「次のアリーナの日時と対戦相手が決まりましたよ」

「だが断る」

即答すると、グライヴは再びソファへと横になる。毎度毎度のことではあるが、彼は一戦を終えると、まるで冬眠の動物の如く心身共に動かないのだ。

現に、先日のアモーとの一戦以降、彼はまるで冬眠している動物のような状態である。

「グライヴ! どうしてあなたはそうぐーたらなんですか!?」

「おいおいレベッカ、考えてみろ」

グライヴは横になったまま、プリプリと怒る女――レベッカ・エクランドを半目で見、指差す。しかし、視線は彼女の特徴とも言える、大きなバストを向いている。

「アリーナを学校のテストと置き換えてみろ。数日置きにテストなんてお前も嫌だろうが」

「まあ・・・そうですが・・・・」

「そういうことだ。俺は寝る」

「グ・ラ・イ・ヴ!」

次の瞬間、激怒したレベッカの拳が彼の頭に振り落とされたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、グライヴとレベッカはレイヴンズアークが運営している、多目的演習施設へと足を運んでいた。ここでは定期的に観客を集め、アリーナが行われていた。

アリーナとはレイヴン同士によるACの決闘のようなものである。

そもそもACとは、地下都市での復興の初期段階の際に企業が開発したもので、機体に構成するためのパーツを用途に応じて交換可能という既存の概念からは考えられなかった兵器だ。

人類復興に大いに役立ったACは、その優れた性能から、瞬く間に戦闘兵器として転用され、今に至るということになる。

今週最初のアリーナ一戦目あと五分ほどに控え、決戦場を囲むかのように存在する観客席は大いに盛り上がっていた。だが、グライヴとレベッカの二人だけは、なぜか異様に冷めていた。

「グライヴ、不機嫌な顔をしないでくださいよ」

「これが俺の素だ。喧嘩売ってるのかお前は」

彼はいつも眉をしかめ、不機嫌そうな面持ちをしているが、別に怒っているのではなく、あくまでもこれが彼の普段の顔であるのだ。

目鼻顔立ちはそれなりに良く、はたから見れば美男に見えるが、いざ彼と親しくしようとすると、この“素”のせいで「自分は嫌われている」と思われ、いつの間にかその人物は消えていたりする。

よって、彼には友人と呼べる者がほとんどいないのだ。

「まったく・・・。今日は本当ならあなたが出るんですよ? それを蹴るだなんて信じられません」

「俺は面倒がきら――」

グライヴの言葉は、突然鳴ったブザーによってかき消された。それは、お待ちかねのレイヴンの乗るACが表れたことを告げるものだった。

観客の興奮は頂点に達し、歓声が決戦場に響かんばかりに膨れ上がる。

「来たか」

広大なドームの両端のガレージから、それぞれ一機のACが現れる。右手にマシンガン、左手にハンドガンを装備した、燃えるような赤色の逆間接型AC。

対するは両手にショットガンを装備した紫色の四脚型ACであった。

レイヴンの乗るACにもそれぞれ個性があり、ACの一番の特徴は脚部の違いであろう。

脚部は細かく分類すれば、軽量二脚、中量二脚、重量二脚、逆間接、四脚、タンク、フロートの七つに分けられる。それぞれ一長一短のため、最強のパーツは特にはない。

ちなみに、グライヴの乗るAC――名をグルンギィハウンドという――は高機動力を旨とした軽量二脚である。

「レベッカ。この勝負、どっちが勝つと思う」

「やはりランクが上であるあの赤いAC――ええと、名前は・・・・」

レベッカは強化ガラス越しに、設置されている巨大なデジタルパネルに表示されているレイヴンの名前、そしてACの機体名をまじまじと見た。

「・・・・ヴァーミリオンですね。一年半ほど前に現れたレイヴンですが、現行8位という驚異的なスピードでのし上がっていますから、グライヴも油断はできませんよ?」

レイヴンズアークに登録されたレイヴンは依頼を受け、完遂した場合はそれ相応のレイヴンポイントをもらう。

そして、そのポイントが多ければ多いほどランクは上がるのだ。ただ、ランクが上がればハイリスク・ハイリターンの依頼が増えるという弊害もある。

「マリア・ラインメタル・・・・。あの噂の女か。俺よりも1つランクが上とはな」

「ええ。若干18歳ですが、腕前はかなりの程ですね」

「あのラトーシ力武威とかいう奴、ズタボロにされるだろうな」

グライヴの言葉の直後、試合開始を告げるブザーが鳴った。観客が歓声に喚く中、二機はブースターを吹かし、目の前の相手へと向かっていった。

ラトーシ力武威の乗るクラーケンアズールは得物である二丁のショットガンを活かすため、接近戦を試みる。

しかし、マリア・ラインメタルが搭乗しているヴァーミリオンは、接近まであと十数メートルのところで急上昇を行ったのだ。

クラーケンアズルールはヴァーミリオン目がけてショットガンを撃ちまくるが、接近戦でならともかく、上空数十メートルまで飛んでしまわれたら、弾丸はあまり当たらない為、それほど威力はない。

「終わったな」

それからは上空へと飛んだヴァーミリオンの独壇場だった。

両手のマシンガンを狂ったかのように撃ち、放たれた弾丸はクラーケンアズールへと直撃する。装甲がガリガリと削れ、弾丸はたまわず頭部のカメラアイにも直撃し、とうとう機能を失う。

機体全体から火花を上げるクラーケンアズールはよろけながらも懸命に立ってはいるが、誰が見ても彼の敗北は目に見えている。

一方、悠々と着陸したヴァーミリオンは、クラーケンアズールの眼前に立つと、右手のマシンガンをバカスカと撃った。

ただでさえ機体が限界に近付いているというのに、ヴァーミリオンの攻撃は容赦なかった。このままクラーケンアズールは鉄屑になってしまうのではないかと思われた、その時だった。

レベッカは呆気にとられ、グライヴは腕を組み、意外だと言いたげに目を少々見開いた。

「あらら」

「降参、か」

デジタルパネルに“KRAKEN AZURE:GIVE UP”と大きく表示された。これはもう無理だと観念したのだろう。しかし、観客がそれで納得するわけがない。

観客らはボロボロの機体のコックピットから這うように出てきた金髪の青年に非難の声を上げる。

「出場しなくて正解だったな」

「・・・ええ。彼には気の毒ですが」

二人は優雅にガレージに戻るヴァーミリオンと、地面で膝を抱えて座り込むラトーシ力武威を交互に見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜、二人は多目的演習施設から少し離れた位置にある酒場――エリーの酒場――に足を運んでいた。その酒場は企業や金持ちの住むビルの間をいくつか潜り抜け、裏通りを突き進んだ所にある。

見た目は一見普通の酒場に見えるが、近所の人間ならどんな事があれ、そこへは立ち寄らない。理由は酒場の扉の前に立った時に否が応でも気づく。

中からは活気の良い酔いどれの声が聞こえるが、それ以上に罵声や怒声が多い。中には銃声さえも混じることもある。

要はゴロツキや裏社会の人間が立ち寄る酒場ということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリーさん、ジン・トニックを一つお願いします」

「俺はラム酒で」

「はいはい。ちょっと待ってておくれ」

華奢な体をせわしく動かしながら、この酒場の女主人であるエリーは答える。

御歳30を超えてはいるが、二十代前半と見間違えるほどの美貌は男女問わずファンが多い。

そして豪傑な性格から、周りから、そして大抵の人物は名指しで言うグライヴさえも「エリー姐さん」と呼ばれている。

要は皆の姉御的存在なのだ。

エリーは注文の品を二人の目の前に置くと、カウンターに肘をつき、グライヴに話を振る。

「聞いたよグライヴ。アリーナの依頼を蹴ったんだって?」

「ああ。やる気が起きなかったからな」

普段の通りの苛立っているかのような声でグライヴは答える。

「もっとも、今回は止めておいて正解でしたけどね」

レベッカはグラスを口に傾けながら、残った片手でパソコンのキーボードを叩く。画面にはメールや企業のロゴが表示されている。

「グライヴ、ミラージュから依頼ですよ」

「どういう内容だ?」

「駐屯地を建設するが、他企業の妨害が予想される。護衛してくれ、だそうです。どうしますか?」

「防衛の依頼か。めんどくせえなぁ」

ミラージュとは現行世界最大の企業であり、AC産業においてはトップシェアを誇る存在である。噂では全ての企業を手中に収めるのが最大の野望といわれているとか。

「・・・・・」

グライヴは普段よりも渋い顔でグラスの中のラム酒を飲みきる。

元来めんどくさがりな性格のグライヴだが、飯と酒――他では水道代や電気代、ACの修理費、弾薬費などなど――の種が絶たれるとなると、話は別である。

新たにラム酒を注ぐと、グライヴはため息交じりにレベッカを見やった。

「・・・・仕方ない。その依頼、引き受けるとするか」

「了解です」

にっこりと笑みを浮かべると、レベッカは素早くキーボードを叩く。

それから幾分が過ぎただろうか。月が頂点に達した時刻、エリーの酒場はさらに活気づいていた。

ジャンカーの狂った笑い声。娼婦の猫なで声。人を殴る音。銃声。

その間に、酒場の入り口である頑丈な樫の木の扉が開く音がし、グライヴは目線をわずかにそちらへと向ける。

酒場へと入ってきたのは、年端も行かぬ少女であった。

首の付け根当たりで切り揃えられた金髪。タンクトップの上に、襟に毛皮の付いたジャケットを着込み、ミニスカートを穿いている、比較的顔立ちの良い少女。

見た目、十代前半終り、もしくは十代後半か。あと5年ほど待てば世間で言う美女になるだろう。

あまりに場に合わない存在に、一部の酔いどれが茫然と少女を見る中、その張本人は周りの視線を気にすることなくグライヴの隣の席に座ると、エリーに向かい、注文を頼んだ。

「マスター。ビールを一つちょうだい」

「生憎だけど、未成年に酒は出せないね」

ある程度常識人のエリーはきつい口調で言う。

「・・・それじゃ――」

「ミルクなんて言ったら出て行ってもらうよ」

「・・・・・・ジンジャエールを一つ」

エリーは眉を少々しかめると、「はいよ」と答え、グラスにジンジャエールを注ぐ。

そしてグラスを置き、少女がそのグラスを手に取った、その時だった。

バン、と入口の扉が乱暴に開けられ、グライヴとレベッカはタイミングを合わせたかのように首を向けた。

その光景に、二人は渋い顔をした。

「これは・・・まずいことになったな」

「ですね」

入口にはガスマスクを装着し、様々な銃器を手にした数人の者達が客らに向かってそれを構えている。

二人は顔を見合わせ頷くと、レベッカはパソコンを脇に抱え込み、グライヴは呑気にジンジャエールを飲んでいる少女の首根っこをつかむと、スタントマンの如くカウンターの中へと飛び込んだ。

一瞬遅れて、銃弾の雨が酒場内部を覆った。

「何だってンだい、あいつら!」

床下から古い型のショットガンを取り出すエリーはヒステリック気味に叫ぶ。目の前に陳列されている酒のビンや樽が流れ弾で割れ、カウンターはアルコールの匂いに満たされていた。

「レイヴンハンターだな。恐らく」

グライヴはジャケットの裏に忍ばせていたハンドガンを手に取ると、腕だけを出し、無意味な反撃をする。

レイヴンハンターとは、文字通り傭兵であるレイヴンのみを狩る暗殺者の事である。一人で行う者もいれば複数で行うなど、パターンは数えきれない。

レイヴンズアークは全力を挙げて捜査をしているが、なかなか足がつかないことから、企業も依頼をしているのではないかと噂されている存在である。

グライヴ自身も何度か被害に遭ったことはあるが、ここまで大胆な行動を見るのは初めてであった。

「やはりグライヴが目的でしょうか?」

ポトリと落ちてきた高級ワインのビンの栓を開け、ついでに持ってきたグラスにそれを注いで飲んでいるレベッカ。

「かもしれないな。俺も一応、色々と恨みは買っているからな」

空のカートリッジを取り出し、新たにカートリッジを装填するグライヴ。その前にチェンバー内に弾丸を装填するのは忘れない。

その横で、ジンジャエールを飲み干した少女は、グライヴの肩をツンツンと叩く。

「ねえ、ちょっと」

「あぁ?」

グライヴは眉間に皺を寄せ、少女を見る。

「グライヴってことは、あなたもしかして・・・・あのミスター・イレヴン?」

「っ!」

嬉々として禁句を言った少女を、グライヴは目を剥いて怒ろうとしたが、悪意を持っていったわけではないと落ち着かせると、うんうんと頷く。

「そうだけど・・・って、その呼称知ってるってことは、お前もレイヴンか?」

ミスター・イレヴンという彼の通称はレイヴン業を行っているものしか知らない。だとするなら、彼女もレイヴンであることは確実である。

「ええ。わたしはマリア・ラインメタル。よろしくミスター・イレヴン。会えて光栄だわ」

「・・・・・・・・・・えっ?」

エリーが必死で応戦している中、グライヴとレベッカは茫然とした。

あの百戦錬磨のレイヴン――マリア・ランイメタルを、このような場所で見かけるとは。なんという偶然。

「・・・・いや、こちらも噂のレイヴンに会えるなんて光栄だ」

「私もです」

グライヴとレベッカが手を差し伸べると、マリアは力強くその手を握る。

「ええ。よろしくミスター・イレヴン。えぇと・・・」

「レベッカ・エクランドです。彼のオペレーターをしています。レベッカと呼んで構いませんよ」

「俺もだ。できればあだ名じゃなくて名前で呼んでほしい」

「それじゃわたしの事も呼び捨てでいいわ」

「わかったマリア。改めてよろしく。お互い、戦場で会わないことを願おう」

「よろしくグライヴ」

「ちょっとアンタたち! 駄弁ってないで手伝いなさい!」

間にエリーの厳しい叱咤が入った。こっそりとカウンターから覗いてみると、エリーや店に居る客の反撃によりある程度人数は減ってはいるが、それでもまだ多いほうだ。

「さて、どうする? 一気にあいつら倒してトンズラしたいところなんだがな」

早くここを抜けださなければ警察が来て色々とややこしいことになる。

「ね、グライヴ。いい物があるんだけど」

「何だ急に」

マリアはごそごそとコートの中から楕円形の何かを取り出した。

その何かは、グライヴにはすぐわかった。

「何で手榴弾なんて携帯しているんだ・・・」

「護身用よ護身用」

どこの世界に護身用として手榴弾を携帯している奴がいる、とツッコみたかったが、今はそれどころではないと思い、やめた。

とにかく、この場をしのぐ為、エリーの酒場には少々犠牲になってもらわねばならない。思い立った彼は、床下からサブマシンガンを取り出したエリーに大声で話しかける。

「おい! エリー姐さん!」

「何よ!?」

さきほどから響きっぱなしの銃声で聞こえづらいのか、エリーは体をグライヴ達に傾ける。

「これを使いたいんだ!」

グライヴは掌の上にある手榴弾を見せる。それを見て何をしたいかを理解したのか、彼女は渋い顔をし、舌を打つ。

「やってもいいいけど、店の修理の費用、半分以上払いなさいよ!」

「わかった!」

「みんな! 伏せなさい!」

店の客がテーブルを盾に隠れるのを見届けると、グライヴはすぐさま手榴弾の安全ピンを引っこ抜く。そして銃撃の間隙を縫いながら、手榴弾を勢いよく投げた。

宙を数秒舞った手榴弾は天井をかすめ、そしてコロコロと前方へと転がっていく。

そこには。レイヴンハンターがいた。

「――――――!」

彼らが気づいた時には全てが遅かった。レイヴンハンターらの足元で小爆発を起こした手榴弾は、破片が周辺へと飛散し、彼らへと突き刺さる。

だが同時に破片は店のあちこちに飛び、たまわず壁や天井を傷つける。

「よし。逃げるぞ。――と、そうだ。酒の金だ」

「ごちそうさまでした。修理が終わったらまた来ますね」

「じゃあね!」

それぞれするべき事をし、言いたいことだけ言うと、3人は全速力で外へと駆け出た。

騒動が終わり、エリーはカウンターから身を乗り出す。目の前の光景は、あえて言うまい。

度重なる銃弾、そして締めの手榴弾の破片により、店の内部は完膚なきまでに半壊状態と化していた。

一度全部吹き飛ばしたほうが楽なほどに、酒場はボロボロであった。

「こりゃあ・・・・8割はふんだくってやんないといけないね・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大通りは既に警官隊のパトカーで埋め尽くされていた。

あの乱痴気騒ぎの終焉から十分ほど経ち、グライヴたちは警官隊と野次馬を後方から見ていた。

「さて、帰るか」

グライヴはそう言うと、溜息を吐き、どこぞへと向かっていく。レベッカも「そうですね」と答えると、彼へと付いていく。

その時だった。マリアのポケットから電子音が断続的に鳴った。

マリアはすぐに電子音を発する物――携帯電話を取り出した。

「あ、ソフィア。何か用? ・・・・・・・・・・えええっ!?」

マリアの驚きに、二人はどうかしたのかと尋ねる。すると彼女は頭をかかえ、落胆の面持ちを見せる。

「わたしの家とガレージが・・・・・木っ端微塵にされてるって・・・・・」

「何があったんですか?」

「・・・それがね――」

彼女は厳しい顔で事情を話した。

自分がいない間、企業の支配に反対するテロ組織がMT――マッスルトレーサーという元・作業用機械である――で暴れたらしく、テロリストの機体が撃ったミサイルやレーザーなどが家に運悪く直撃したらしく、ものの見事に吹き飛んだ、というのが事の顛末だと、マリアのオペレーター、ソフィア・フェイラックが言ったのだ。

ACは大丈夫なのか?」

「あー。ACはアークに修理に出してるから大丈夫。パソコンはソフィアに預けてるし。けど・・・・」

「けど?」

ACが戻った時どうしよう・・・・」

レイヴンは大抵、自宅かそれに準ずる場所の近くにACを格納するためのガレージを設置している。だが、それが壊れた場合の保証はないのが現実である。

「あのー、グライヴ。お願いがあるんだけど」

「・・・何だ?」

妙にヘコヘコと腰を曲げるマリアに、グライヴは少々嫌な予感を覚えた。

「お願い! あなたのガレージに私の機体入れてください!」

パン、と掌を合わせて懇願するマリア。

相手は上位ランカーのマリア・ラインメタル。ここで恩を売っておけば後々・・・・という考えが一瞬よぎったが、グライヴは自分と彼女にとっても最善の策が考え付いた。

「いいが、条件がある」

「な、何!?」

まるで捨てられた子犬のような眼をするマリア。一瞬可愛く思えたのは内緒にしておこう。

「俺とコンビを組むこと。これが条件だ」

「コンビって・・・」

「文字通りだ。悪くはないだろう?」

レイヴンズアークの規定ではレイヴン同士がコンビを組むことは別に違法ではない。最近ではトラッシャーとヴェルトハントというレイヴンがコンビを組んでいることで有名である。

そして、自分が組もうとしているのは噂のランカーレイヴン。敵に回せば恐ろしいが、味方となればこれほど心強い相手はいない。

マリアは少々考えるそぶりをすると、ニヤッと笑みを浮かべ、

「よし! 乗った!」

「交渉成立だな」

今ここに、ミスター・イレヴンことグライヴ・ロウ・イヅキと、新気鋭のレイヴン、マリア・ラインメタルが手を組んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の自宅は、昨今の耐久性に重きを置いた住宅ではなく、今時珍しい木造一戸建ての家だった。

家に入った瞬間、マリアは見たこともないモノをまず見た。

「あれ? 何で、玄関で靴脱ぐの?」

「俺の生まれ故郷の習慣だ。まぁ、知らないのも無理はないな」

マリアの生まれ故郷では、靴はベッドに上がる時に脱ぐものだと教えられた。これがカルチャーショックなのだとマリアは思った。

家へと上がり、3人はリビングへと入る。さすがにリビングはどこにでもあるフローリングの床だったが、さらに横につながっている部屋は見たこともない床で覆われていた。

「な、何なのこれ・・・・?」

そう言い、その床を踏みしめる。よくよく見ると、稲で構築されているのがわかった。そんな彼女を後ろから見て、グライヴは床について説明した。

「畳だ」

「何それ?」

「おれの故郷で使う寝具だ。見たこともないのか?」

「うん。私のトコはそういうの見なかったし」

それからマリアはしばらく彼の生まれ故郷での習慣などの講義をレベッカから受けた。

その間に、グライヴはリビングのすぐそばに設置されているキッチンで、何やらいそいそと料理に勤しんでいた。

「そういえばさ」

レベッカと共にテーブルに肘をかけ、テレビを見ていたマリアは、急に彼女に話を振る。

「なんでしょうか?」

「レイヴンとオペレーターが一緒に暮らしてるってのは聞いたことあったけど、この目で見たのは初めてだわ」

「確かに、そうですね」

ほとんどのレイヴンとオペレーターはパソコンでのメール、もしくは電話でのやり取りでしか連絡を行わないが、一部ではグライヴとレベッカのように、一つ屋根の下で住んでいる者もいるのだ。

「彼が新人の頃――五年くらい前ですね。たしかメールで、炊事はともかく、洗濯掃除ができないからメイドでも雇おうか、って来たんですよ。それだったら私が行くって返信して、今に至ります」

「それって・・・ある意味押しかけ女房みたいなモンよね」

「そんなものですね」

ニッコリと笑うレベッカだが、キッチンにいるグライヴはなにやら苛立った調子で話す。

「勝手に上がりこんだやつがよく言うな」

「でも、まんざらでもないんでしょう?」

「黙れデカメロン」

料理を終えたグライヴは、皿に海鮮類らしき食品を乗っけて、テーブルへと座る。

「タコのマリネだ。それと――」

どこから取り出したのか、グライヴはやたらと大きなビンを取り出し、テーブルにドンと置く。

「それは何? ウオッカ?」

「焼酎だ」

「聞いたことがないわね。それも生まれ故郷の?」

「ああ。飲みたいのなら強制はしない。あとで昏倒しても知らないがな」

その忠告を聞き、マリアは冷や汗をかき、「・・・やめとくわ」と答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さんざん飲んだくれた3人は、風呂へと入り、歯を磨くと、すぐさま床に入った。

そこでベッドが足りないことに気づいたグライヴは、当初は

「俺はソファで寝るから、レベッカは俺の部屋で、マリアはレベッカの部屋で寝ろ」

と言ったが、2人の意見により、グライヴは自室でレベッカと共に寝、マリアはレベッカの部屋で寝ることとなった。

そしてベッドで横になっているマリアは、少々思案に耽っていた。

(変な同居生活が始まっちゃったなぁ。まるでマンガみたい)

神の好奇心による些細な悪戯か。それとも運命なのか。

よりによって、あの様々な意味で有名なレイヴン、グライヴ・ロウ・イヅキとコンビを組むことになろうとは。

だが、悪い気はしない。腕のほどは確か。頼れる相棒になるのは確かだろう。

(さて、ACが戻ったら、思いっきり暴れてやろう)

そんな思いを胸に馳せ、マリアは部屋の灯りを消し、寝入った。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうもこんにちは。もしくはこんばんは。ホウレイです。

とうとう書いてみました。私の二次創作小説第二弾、男の浪漫とネタが詰まったゲームが原作、『アーマード・コア』を執筆してみました。

最初に言っておきますが、私は『アーマード・コア ネクサス』とその続編しか所持していないので、「2を書け」とか「サイレントライン書け」と言われても無理ですので悪しからず。

劇中に出た「レイヴンハンター」とは、私が考えたオリジナルの組織です。いや、アンチレイヴンな組織があったっておかしくはないかな、という単純な理由から生まれました。

話は変わりますが、私ってロボットモノは結構好きなんですよ。

『マ○ロス』とか『ガ○ダム』とか『AN○BIS』とか『機○飛翔○モン○イン』とか、一番古いのは『ゴ○モン』のゴ○モンイ○パクトであったりと(ぇー

なんていうか、男の浪漫がぎっしりと詰まったモノが好きなんですよ。

ですので、リリカルなのはもその範疇です(ぇ

恐らく――というより、確実に続編もやる可能性大なので、一年越しか、もしくは数年越しになるかもしれませんが、どうかお付き合い願います。

 

 

 

 

続いてオリジナルキャラクター紹介です。

ちなみにCVの部分がありますが、私の妄想ですので、脳内で変換するかしないかは皆様にお任せます。

 

 

 

 

グライヴ・ロウ・イヅキ(27)

CV:千葉一伸    星海3のア○ベルあたりがベース

 

本作の主人公。レイヴンズアークに所属し、AC『グランギィハウンド』を駆るランカーレイヴン。

生まれはとある極東の島国。普段から機嫌の悪そうな顔つきと、唸っているような声音のため、第一印象はかなり悪い。

AC乗りとしてそれなりに腕前は良く、たまに企業から懇意に頼まれることもある。オペレーターであるレベッカ・エクランドとは自宅で同居している。

ミスター・イレヴンという愛称で通っているが、本人にそれを言うとタコ殴りの刑にされる。(悪意のない場合は除く)

炊事ができて洗濯掃除ができない変わり者。

 

 

 

 

 

 

 

レベッカ・エクランド(25)

CV:皆口裕子     k○nonの秋○さんあたりがベース

 

グライヴのオペレーター兼事務的仕事を務める女性。大きな丸メガネが特徴的。公私共々グライヴの相棒にして、彼の事を一番よく分かっている者の一人。

なお、劇中にグライヴが「デカメロン」と彼女に発言したが、これは彼女のもう一つの特徴である大きなバストを揶揄して言ったものである。

ちなみにスリーサイズはB:93 W:64 H:89 というないすぼでー。

 

 

 

 

マリア・ラインメタル(18)

CV:水樹奈々   某ストロベリー100%の南○唯あたりがベース

 

新気鋭の女性レイヴン。グライヴと同じくレイヴンズアークに所属し、AC『ヴァーミリオン』を駆るランカーレイヴン。

レイヴンとして1年半ほどしか経っていないが、その活躍は凄まじく、今ではランキング8位にのし上がるなど、若き天才として名を馳せている。

マリアという名前だけに『鋼鉄(アイアン)()聖女(メイデン)』として呼ばれることもあるが、その通り名を知っている者は稀である。

ひょんなことからグライヴと共にコンビを組むことになり、さらには同居することになった。

なぜ学校を退学してまでレイヴンになったかは不明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリー・フォルマティカ(3?)

ゴロツキ相手に酒場を経営している女主人。どのような相手が来てもビビらないその肝っ玉と豪傑ない性格から「エリー姐さん」と呼ばれている。

 

 

 

 

 

 

続いて機体構成です。都合上、ASMコードは載せることはできないのでご了承ください。

え? ゲームやってないからどういうパーツかわからない? その場合はお手数ですが自力で調べてください

 

 

グルンギィハウンド 搭乗者:グライヴ・ロウ・イヅキ

 

グライヴが搭乗している黒色の軽量二脚型AC。

グルンギィとは米俗語で「みすぼらしい」という意味。ハウンドは「猟犬」の意。

 

頭部:HO2−WASP2

コア:YC07−CRONUS

腕部:CR-A88FG

脚部:CR-LH79L

ブースターB04−BIRDIE2

FCS: MIROKU

ジェネレーター:CR-G91

ラジエーター:ANANDA

インサイド:無

エクステンション:E02RM−GAR

肩装備(右):WB01M-NYMPHE

肩装備(左):WB01M-NYMPHE

右腕装備:WHO1R−GAST

左腕装備:WL14LB−ELF2

 

 

 

ヴァーミリオン 搭乗者:マリア・ラインメタル

 

マリアが搭乗する逆間接型AC。

ヴァーミリオンとは「朱、朱色の」という意。

 

頭部:CR−YH85SR

コア:CR−C69U

腕部:CR−A94FL

脚部:LR04−GAZELLE

ブースター:B-04−BIRDIE2

FCS:MF05−LIMPET

ジェネレーター:G02−MAGNOLIA

ラジエーター:R04−LAUREL

インサイド:I05−MEDUSA

エクステンション:CR-E90AM2

肩装備:CR-WBW89M

右腕装備:CR-WR69R

左腕装備:WH05−SYLPH

 

 

 

 

それでは、最近、某管理局の白い悪魔の中の人ACシリーズに出演していたのを知ったホウレイでした。次回もよろしくお願いします。

 

 

 

 


作者ホウレイさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板に下さると嬉しいです。