VANDREAD The Third Stage

 

 

♯5 あの日夢見た願い

 

 

 

 

最近、クロウとメイアはクルーの中でも、ジュラとバーネットに並ぶほどの仲のよさと噂されている。

しかし、“仲のよいカップル”と言ったら、彼らを忘れてはいないだろうか。

クロウとメイアの影に隠れて最近目立つことのなかった彼らを。

そう、ヒビキとディータを。

 

 

 

 

 

「おいヒビキよ」

湯船の縁に寄りかかりクロウは言う。

今、大浴場にはクロウとヒビキしかいない。なんとも寂しく、むさい風景である。

「何だよ?」

「お前、最近ディータちゃんとはどうなんだよ?」

「・・・どういう意味で言ってンだ?」

ヒビキは顔をしかめる。

「進展はどうだって意味さ。最近来た俺よりも進展が遅いってどういうことだよ」

「・・・・」

ヒビキは押し黙った。

「お前、女に行動で示してもダメなんだぜ。女には言葉で示さにゃ、想いは伝わらんぞ」

そう言うとクロウは湯船から上がった。逞しい体躯が露になる。

今のヒビキには足りないのは度胸だ。あともう一歩、踏み出す度胸がない。

だからこそ今でもディータとのあの約束を果たせないでいるのである。

振り向きヒビキを見ると、肩を落とし、落ち込んでいるのが見えた。

どうやら、相当堪えたようである。

(やれやれ。仕方ない、恋のキューピットにでもなってやるか)

肩をすくめながら苦笑し、クロウは大浴場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキは自室のベッドで横たわっていた。

脳裏にはクロウの言葉が駆け巡っていた。

“進展はどうだって意味さ。最近来た俺よりも進展が遅いってどういうことだよ”

自分でもよくわかってはいる。自分には、あと一歩踏み出す度胸がないのだ。

一歩踏み出せば楽になれるのに、言い出せない。クロウなら「ヘタレが」と罵るだろう。

「約束、まだ守ってねえよなぁ・・・・」

まだ故郷へと向かう旅路の頃、ディータとの約束を未だヒビキは果たせていない。

ディータの部屋に行く事。

ただ行けばいいだけなのに、なぜ躊躇ってしまうのはなぜなのだろう。

「はあ・・・・・」

ただため息が出るだけであった。

 

 

 

 

 

 

同刻、ディータも同じようなことを考えていた。

クロウとメイア、そしてヒビキのことについてだ。

ここ最近、ディータはクロウとメイアの仲に嫉妬していた。

いや、むしろ羨望に近い感情だった。

「いいなぁ、軍人さんとリーダー・・・」

最近、クロウの行動はエスカレートしていた。クルーの目の前で平然とメイアとキスをしたり、抱きついたりしている。

昨日はメイアの耳を舐めたりしていた。

別にそのような行為をしてもらいたいわけではない。クロウは行為を後には必ず「愛してる」だとか「好きだ」だとか言うのである。

要はディータもヒビキにそんな甘い言葉を囁いてもらいたいというわけだ。しかし、ヒビキにそんな甲斐性があるわけがない。

仮に言ったとしても、すぐに赤面して逃げるのが関の山だろう。

「わたしもあんなことされたいなぁ・・・」

そんな淡い思いを馳せているうちに、ディータはいつの間にか寝てしまった。

 

 

 

 

 

「―――というわけだ。わかったか?」

「・・・・なぜ私が協力しなければならない?」

しかめ面のメイアが言った。

不機嫌の発端は、朝食を食べている最中に起きた。

いつものように首に抱きつかれ、甘い言葉を言われる。そこまでは普段と同じであった。甘い言葉を言われた後、クロウは突然メイアにとある話を持ちかけたのだ。

――ヒビキとディータを二人きりにさせる。

それがクロウの目的である。どのような手段を使ってもいいから、彼らを二人きりにさせる。そのあとはもう言わずともだ。

その為には同じような境遇のメイアが一番適任であると判断したからだ。

「頼む、メイア。お前だってあいつらを見ててもどかしいだろ?」

クロウの言うとおり、メイアもヒビキとディータを見てて、もどかしいと思うときもある。クロウ程までとは言わないが、もう少し素直になったほうが良いと思ったこともあったりする。

「・・・わかった。手伝おう」

「よし! ノリがいいぜ、メイ――」

直後、メイアはクロウの唇を人差し指で押さえる。少し驚いた顔で、クロウがメイアを見る。

「ただし、条件付きだ」

そっと指を離すメイア。心なしか、なぜか妖艶に見えるのは気のせいではない。

「・・・・・・何だよ?」

怪訝そうな面持ちでクロウが言った。

「今日を含めて一週間分の食事のポイント代、私の分を全てお前が払え。それが条件だ」

「え!? おい、それじゃ俺腹へって力出ねえって!」

「ならこの話は無かったことに――」

言うと、メイアは席から離れようとする。クロウはメイアの腕をつかみ制止した。

「わかった、わかったよ! 払えばいいんだろ、払えば!」

ヤケクソ気味にクロウが言った。それを聞き、メイアはニャリと笑う。

さっきの発言は半分本気ではあるが、半分冗談である。何も全く食べさせないわけではない。弁当くらいは作るつもりではある。

(このぉ。いつか寝込みを襲ってやる)

メイアの企みを知らず、内心復讐に燃えるクロウであった。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇっくしょい!」

格納庫で、ヒビキの大きなくしゃみが響く。

「誰か噂でもしてやがんのか・・・・?」

鼻を啜ると、ヒビキは蛮型の整備を再開した。

普段、この時間帯ならディータと仲良く―少々一方的なところもあるが―朝食を食べている時間である。しかし、今日は違った。

昨日、クロウが言ったことを気にしているのである。今ディータに会ってしまったら、恥ずかしさゆえに、多分酷いことを言ってしまう。それが怖いのだ。

「・・・・・・くそっ」

立ち上がり、その場から立ち去ろうとした、その時、

「やっぱり、ココにいたか」

不意に背後から声がした。

「ィよっ」

クロウだった。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、メイアはディータと共に艦内公園にてヒビキのことについて話していた。

公園のほぼ中央にあるベンチで、二人は並ぶように座っていた。

「――つまり、言い出すのが恥ずかしい、と?」

ディータは頬を熟れすぎたトマトのごとく、頬を赤らめ、頷く。

メイアは「はあ」と呆れ顔でため息をつく。もっと深刻な事で悩んでいるかと思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。

「だって、だっていざ言おうとなると、頭が真っ白になって、それで、それで――」

「わかった。わかったから落ち着け」

メイアは両手でディータを制した。

「とりあえずだ、ディータ。言う気はあるのだろう?」

ディータはコクリと頭を下げる。

「だったら、本人の目の前でそう言わないと思うぞ?」

「・・・・・・・・」

ディータは暗い顔で俯いた。ちょうどその顔に、陰鬱な気分を表すかのように影が入った。

 

 

 

 

 

 

「テメエもよぉ、男だったら一発ビシッと言えよ。情けねえったらありゃしねえ」

「うるせえなぁ。関係ねえだろ!」

「あるね。大いにある」

プイッという擬音が似合うほどにそっぽを向けるヒビキに、クロウはいつになく真剣な顔で言う。

「テメエのせいで俺はメシ抜きになりかけるんだ。言ってもらわなきゃこっちの気が治まらないんだよ」

「は?」

「とにかくだ。言え。言いやがれ!」

ヒビキの胸倉を掴み、目を回してもおかしくないほど揺するクロウ。その目は血走っており、まるで化け物のようであった。

「わ、わぁーたから! や、め、ろぉぉぉぉお!」

言うと同時にヒビキを揺する手が止まる。クロウはいやらしい、下卑た笑みを浮かべる。

「よし。今の言葉、ハッキリと聞いたぞヒビキ」

クロウは手を離すと同時に、ヒビキはしたたかに床に尻を打ちつける。

「さてヒビキ。早速だが、艦内庭園まで行ってもらうぞ」

「いてて・・・何でだよ?」

「鈍いなお前も。ディータちゃんに告白するんだよ」

途端、ヒビキの顔が真っ赤に染まる。

「い、今なのかよ!?」

「あったり前だ。今言わなきゃお前、はぐらかすだろう?」

「うっ・・・・」

痛いところを衝かれ、ヒビキは苦虫を噛み潰した様な面持ちでクロウを見る。

「図星か貴様」

クロウはやれやれと言った表情で肩をすくめる。

「ほら、さっさと・・・行けっ」

ヒビキの背中を叩き、行くよう促すクロウ。ヒビキは渋々と顔で、艦内庭園へと足を向けた。

そんなヒビキの後ろ姿を見て、クロウは腕を組み、笑みを浮かべた。

「さて、第一段階成功だな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「それと、言い忘れていたが、もうすぐヒビキがココに来ることなっている」

メイアが言い放った途端、ディータの体がビクンッ、と跳ねる。体が沸騰しかねないほどに熱くなる。

「それまでに、気持ちを整理しておく事だな」

メイアは席を立ち、その場を後にした。艦内庭園にはとうとうディータ一人となってしまった。

 

 

 

 

 

 

艦内庭園の道をヒビキは早足で向かっていた。顔は平静を保ってはいるものの極度の緊張で、背中と掌は汗で濡れ、心臓は早鐘の如く高鳴っている。

いっそ逃げたい気分だったが、逃げればクロウに罵倒され、拳が一発か二発とんでくるかもしれない。いや、それ以前に、ディータへの告白は自分へのけじめである。言葉で表す以前に既に伝わっているかもしれない。しかし、声に出して言わなければ本当の意味で伝わらない。

ヒビキは気合を入れるかのように両頬を強かに叩いた。

そしていつの間にか、ヒビキは艦内庭園に足を踏み入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・・」

「・・・・よお」

そっけない挨拶を済ませると、顔を赤らめたまま、ヒビキはムスッとした面持ちでディータの隣に座った。気まずい沈黙が二人の間に漂う。

「・・・・・・・な、なあ、ディータ」

「な、なに? ヒビキ?」

二人はまだ、お互いの顔を見れない。

「その・・・なんだ。お前に・・・・・・・」

「え・・・?」

ヒビキはすぅ、と息を吸うと、ディータを見、静寂を打ち破らんばかりの大声で言った。

「お、お前に言いたいことがあるんだよ!」

この時、二人は始めて互いの顔を見た。どちらとも顔が真っ赤になっている。自分でもなぜ大声で言ったのかわからない。五感がハッキリしない。

ヒビキはディータの両肩を乱暴に掴むと、顔を真っ赤にさせながらも、真剣な面持ちでディータを見つめた。

「俺は、俺はなっ!」

肩を掴んでいる手が震える。心臓の鼓動が臨界点を超えかけている。

「お前がっ―――――!」

好きだ、と叫ぼうと瞬間、見計らったかのように警報音が鳴った。けたたましい音量が艦全体に響き渡る。

肩を掴んだままの姿勢のまま、顔を俯かせ、ワナワナと震えるヒビキ。

「・・・・・・・むがーーーーーーっ!!」

あまりの怒りに、突如として立ち上がると、両手で頭を抱え地団太を踏み、奇声を発した。

「誰か俺に恨みでもあんのかこんちくしょおおおぉぉぉぉぉ!」

「うがー」やら「ぬがー」と一通り叫ぶと、ヒビキは息を荒げながらディータに言う。

「・・・・・行くぞ!」

「え、あっ、うんっ!」

戸惑いながらも、ディータは格納庫へと向かうヒビキの後をついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「うおりゃああああ!」

ヒビキのSP蛮型によって一機のキューブが真っ二つに裂かれる。爆発を確認するやいなや、ピロシキへと猛スピードで向かっていく。

『おい若いの。そんなに熱くなってるとコロッと死んじまうぞ』

小ばかにしているような顔のクロウがモニターに映される。

ヒビキはフン、と呟くと無視を決め込む。そんなヒビキをクロウは鼻で笑った。

『どうやら告白は寸でのところでダメだったみたいだな』

『なっ・・・・! テメェ、何で知ってやがる!?』

『うん? そうだったのか?』

クロウはわざとらしく惚けた仕草をした。カマかけられた、とヒビキは拳を震わせる。

『まあ落ち着けや。今さっき言ったが、熱くなってると告白すらできないぜ?』

「うるせえ! 余計なお世話だっつうの!」

ヒステリック気味に叫ぶと同時に、「へっへっへ」と笑いながらクロウが通信を切った。

ヒビキは気を取り直すと、改めてピロシキへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「いやはや、若いってのは元気があっていいことだな。メイア」

「お前、こんな状況でよく呑気な話ができるな」

クロウとメイアが合体したヴァンドレッド・メイアは偽ヴァンドレッドの軍団に背後から猛烈な勢いで攻撃されている。メイアの言うとおり、こんな状況で軽口が叩くなど普通ではない。

「なに、こんなの火星にいたころと比べりゃガキと遊んでるようなもんだ!」

突如、ヴァンドレッド・メイアは急加速にすると、垂直上昇に次いで横転に入り急激な方向転換を行った。インメルマンターンと呼ばれる戦闘機動である。

背後を取られた偽ヴァンドレッドの軍団は、加速を乗せたファイナルブレイクが直撃し、爆散した。

 

 

 

 

 

 

ヒビキは単機で突っ込んだことを後悔した。クロウの言うとおり、熱くなったほうが死ぬというのは本当だったと今更わかった。

ヒビキは今、偽ヴァンドレッド・ディータの大群に囲まれていた。その数、10。SP蛮型一機では到底勝ち目はない。

もはやこれまでと諦めた、その時だった。

ヒビキを囲んでいた偽ヴァンドレッド・ディータの一機の頭部が爆発した。機体はそのままグラリと傾いた。

ヒビキは一瞬、呆気に取られた。と、次の瞬間、自身のコックピットに聞きなれた少女の声が響く。それは、自分が唯一愛しいと感じる少女の、澄み渡る美しい声。

 

 

 

 

 

「ヒビキィー!」

ディータのドレッドが目の前を通る。偽ヴァンドレッド・ディータを倒したのはディータだったのだ。

ディータはSP蛮型に横付けすると、通信を入れる。

「ヒビキ、大丈夫? 怪我はない?」

ディータは早口でまくしたてる。先ほどまでしおらしさが嘘のようである。

正面のモニターにヒビキが映し出される。

(よかった。怪我はしてないみたい)

内心ホッとしたディータは微笑を浮かべる。

『馬鹿ッ! どうして一人で来やがった!』

「それは私の台詞よっ!」

初めて見るディータの険相に、ヒビキはたじろいだ。ここまで怒る彼女を、ヒビキは見た事はない。

「どうして一人で行っちゃうの!? たしかにヒビキは強いけど、一人じゃできないこともあるんだよ!」

「――――っ」

「一人でできない事があったら、わたしがいるから! わたしがずっと傍にいるからっ!」

ディータの双眸からボロボロと涙が溢れる。そんなディータの姿を見てヒビキは髪を掻き、苛立ち気に叫ぶ。

『・・・・あぁ、わかった、わかったよ! わかったから泣くなぁ!』

ヒビキの声に、ディータは泣いて充血した眼でヒビキを見る。

『なんだ・・・その、この戦闘が終わったらよ、言いたい事があるんだ。格納庫で待っていてくれるか?』

その途端、ディータの心臓が一瞬高鳴った。ディータは涙を流す。しかし、それは悲しみの涙ではない。嬉し涙である。

「・・・・うんっ!」

この時、ようやく二人は素直になれた。あとは・・・・・・・・。

「――――――きゃあっ!」

二人の甘い雰囲気を破壊せんとばかりに偽ヴァンドレッド・ディータがビーム攻撃を仕掛ける。

二人は回避行動に移ると、直ちに体勢を立て直した。

しかし、その隙を縫って、一機の偽ヴァンドレッド・ディータが拳を振り上げた。

その拳はヒビキを捉えていた。

「ヒビキ、危ないっ!」

ディータの想いに反し、拳は無慈悲にヒビキへと向かっていく。

「えっ・・・・?」

その時だった。ヒビキに攻撃を加えようとした偽ヴァンドレッド・ディータの上半身が跡形もなく吹き飛んだ。

二人は呆気にとられていると、両人のモニターにメイア、そしてクロウの姿が映された。同時にヴァンドレッド・メイアが猛スピードで現れた。

『言ったろヒビキ! 熱く(・・)なってると死んじまうってな!』

『こいつらは私達が引き付けておく。お前達は今の内に合体を!』

「はいっ!」

『おうよ!』

二人の機体は螺旋を描く。両機が重なり合った瞬間、青緑色の閃光が辺りを包む。

閃光が消え、そこには真の青の巨人、ヴァンドレッド・ディータが姿を現していた。

 

 

 

 

 

 

「ディータ。ブッ飛ばすぞ!」

「うんっ! 行こう、ヒビキ!」

今の二人なら何でもできる気がした。たとえ敵がいくら現れようとも。

『ヒビキ、ディータちゃん! バッタモンの大群がそっちに向かってるぞ!』

ヴァンドレッド・ディータの前に文字通り偽者の大群が姿を現す。同時に雨の如く、ビームが発射される。しかし、それは今の二人には意味のない行動だった。

ヴァンドレッド・ディータはペークシスキャノンを放つ。偽者の大群の一角が吹き飛ぶ。続けてヴァンドレッド・ディータはキャノン砲を腕にスライドさせると、大群へと突っ込んでいく。

「いっっっっっくぜえええええぇぇぇぇぇ!」

敵陣のド真ん中に突っ込んだヴァンドレッド・ディータは敵を斬る。殴る。貫く。斬る。殴る。貫く。ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキはSP蛮型を格納庫に収容させると、コックピットから出ようとした。

敵の大群を全滅させ、帰還する際、ディータよりも少々遅れてしまった。

コックピットから這い出た直後、ヒビキは約束を思い出し、自身の大切な(ひと)へと向かおうとした。

だが、その必要はなかった。

「ヒビキィー!」

「うぉわっ!」

ディータが前から走ってきた勢いをそのままに抱きつく。ヒビキはなんとか足と腰に力を入れ、衝撃に耐えた。

「あっ・・・・・・」

「ふふっ・・・・」

ヒビキは顔を赤らめ、ディータも顔を赤らめるが、違うのは笑みを浮かべていることだ。

ヒビキはディータの腰に手を添え、抱き締めた。そして、呟くかのように耳に囁く。

「ディータ、あの時、言いたかった事、言うぞ」

「・・・うん」

二人は互いの顔を見つめ合う。

「俺は、お前が――――」

心臓があの時とは比べほどにならないほど拍動している。それも、止まりかねない勢いで。

しかし、ヒビキはそれを無視すると、ゆっくりと言った。

「―――――好きだ」

ヒビキの言葉に、ディータはまたしても大粒の涙を流す。しかし、懸命にも顔は笑みを保ったままである。ディータはしゃくりあげながらも、応える。

「わたしも、わたしもヒビキが―――――」

ディータの抱き締める手が少し強くなった。

「――――――大好き」

しばらく二人は見つめ合うと、どちらからでもなく、唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アイツ、ようやく言いやがったか)

格納庫をすぐ出た通路の壁に寄りかかりながら、クロウが呟く。手は右耳に当てられている。

実はヒビキを見送る際、肩を叩いたときに小型の盗聴器を仕掛けたのだ。だからこそ、戦闘の際にヒビキが告白に失敗した事を知っていたのである。

(さて、俺もアイツにもう一度合いの告白でもしてみるか。なんて顔するかね、アイツ)

微笑を浮かべ、クロウはそこを後にした。

ニル・ヴァーナが太陽系到達するまで、あと少しであった。

 

 

 

 

 


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