VANDREAD The Third Stage

 

 

 

♯3  Feel My Heart

 

 

 

 

 

ニル・ヴァーナは順調に太陽系へと道を進めていった。

火星へ向かうための旅に出て、既に四ヶ月が経つ。

それまでに地球からの攻撃は幾度とあったが、全て迎撃している。

が、マグノやブザム、メイアやクロウなどの主だったメンバーは違和感を隠せなかった。

敵がキューブやピロシキのみの小隊だけなのだ。

今までの相手が相手なので、かなり気味が悪い。

まるでこの静寂は、嵐の前の静けさのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

カフェ・トラペザでは異様な空気が漂っていた。

その場にいる誰もがその光景に押し黙り、見入っていた。

クロウとガスコーニュの昼飯のポイント代を賭けた熾烈な戦いである。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

互いに薄ら笑いを浮かべている。二人とも、自身の勝利を確信しているのだろうか。

「いっくぜぇ、ガスコーニュさんよぉ・・・」

「さてと、勝負!」

同時に二人がカードを公開した。

クロウ:フルハウス

ガスコーニュ:フォーカード

「よっしゃ、アタシの勝ちぃ!」

「んノオオオオオオオオオオ!」

右腕を高々と上げるガスコーニュに、悲鳴を上げながら頭を抱えるクロウ。

戦闘の時のあの真面目顔は何処へやら。

「約束どおり、昼飯おごってもらうかね、クロウ・ラウ大尉?」

意地の悪い笑みで、ガスコーニュはクロウを見た。

そこには、まるでロスタイムにゴールを入れられてしまったサッカー選手のような姿のクロウがいた。

 

 

 

 

 

同じ頃、ブリッジではマグノとブザム、そしてブリッジクルーがいた。

「ベルヴェデール、アマローネ、レーダーに異常は無いか?」

ブザムが言う。

「いえ、特に何もありません。」

「近くにメテオロイド帯がある以外は特に・・・」

順に、ベルヴェデール、アマローネが言う。

報告に、ふう、とブザムは息を吐いた。

「やっぱアンタも気になるかい、BC?」

マグノの言葉にブザムは振り返る。

心なしか、マグノの顔は緊張感があるように見えた。

「ええ。ここまで静かだと違和感を感じえませんね」

「アタシもさ。まるで嵐の前の静けさ、だね」

その時だった。不意に警報が鳴った。

「前方の空間に強力なエネルギーを感知!」

「て、敵機、来ます!」

「バカな・・・・・」

ブザムは前方の宇宙空間を見つめた。

漆黒の宇宙が不気味に捩れ、そしてその捩れがニル・ヴァーナを覆った。

そして、捩れが終わった途端、レーダーに無数といっても過言ではないほどの敵機が映し出された。

その光景に、一同は息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

けたたましい音量の警報が、ニル・ヴァーナ全体に響き渡る。

「た、助かった!」

そう呟いたのはクロウである。寸での所で、ポイントを使われかけたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘は、数でドレッドチームが押されていた。

「ああ、くそっ! ナンだよこの多さは」

「うえ〜ん! 多すぎて目が回るよ〜〜!」

「ヒビキ、左舷に回ってブッ放せ。 そこなら一度にたくさん倒せる!」

ため息を吐きながら、通信を切る。

「空間が捩れていきなり現れた、か・・・・・」

ブリッジクルーが言った言葉を反芻した。

「・・・・待てよ、あれなら・・・・―!!」

機体に衝撃が走る。どうやら考える暇も与えてくれないらしい。

途端に飛行形態を解き、人型形態に変化させた。

カノン砲はダメージが蓄積しすぎ、使えない。残っている武器は近距離戦用ブレードと防御用のバルカン砲が二門。

ブレードを引き抜き、横一閃に薙ぐ。

数体のキューブが爆散するが、無意味だった。

さらに数十体のキューブが突っ込んできたのだ。文字通り、キリがない。

Damn it!」

口惜しげに呟いた。

それと同時に数十体キューブがセイヴァーを羽交い絞めにし、ニル・ヴァーナへと押し進めた。

「なっ!? くそっ!」

急いで背部のブースターをフル稼働させる。

このままでは、ニル・ヴァーナのシールドへと衝突してしまう。

なんとしてでもそれは避けなければならない。

「このっ、このっ!」

だが、無駄だと言わんばかりに、今度は偽ヴァンドレッド・ディータが機体を掴み、ニル・ヴァーナへと押した。

 

 

 

 

 

 

 

「大変です! 敵機が艦へと味方機を押し進めています!」

ベルヴェデールが言う。

「味方機? 誰だ!?」

「解析でました! クロウ・ラウです!」

セルティックが悲鳴のような声で言った。

「二十秒後にシールドに接触します!」

ブザムがチィ、と舌を打つ。

艦内庭園にはペークシス・プラグマがある。もし衝撃でペークシスに異常でも起きたら、艦が動かなくなるかもしれないのだ。

「誰か動ける者を援護に当てさせろ! 機関クルーは総員、総員その場から退避させろ!」

「ラジャー!」

ベルヴェーデル達の声がブリッジが、周りの爆発音と同時に響いた。

 

 

 

 

 

 

「頼む、誰か援護を!」

クロウが言った。

だが、殆どの者が他の敵に集中しているため、援護は絶望的だった。

見事にしてやられたと言えるだろう。

これまでの襲撃はおそらく、油断させるため、もしくは“いつ大群が来るかわからない”と怯えさせるのが目的だったのだろうか。

ふと、機体のモニターに目を移す。

“接触まで残り十秒”

クロウが口惜しげに歯噛みした、その時だった。

突然、目の前にいた偽ヴァンドレッド・ディータの頭部が爆散し、機体から離れた。

ヒビキとディータであった。

“今そっちに行く!”

ヒビキが言った。

と、直後、

「! マズい、ヒビキ!」

クロウが一瞬モニターを見、叫んだ。

一瞬遅れて、ヴァンドレッド・ディータに赤い光のビームが直撃した。

後方にいた偽ニル・ヴァーナの攻撃だった。

ヴァンドレッド・ディータは強制的に分離され、ヒビキとディータの機体がもみくちゃになる。

それと同時に、見計らったかの如く、鳥形とウニ型がヒビキへと攻撃を加えた。

モニター越しに、ヒビキの悲鳴が響く。

「ヒビキ、ヒビキ!」

ディータが瞳に涙を浮かべながら叫ぶが、返事は返ってこない。

おそらく意識を失っているのだろう。

久しぶりの、最悪の状況である。

 

 

 

 

「クロウ機、接触まで5,4,3,2,1・・・」

次の瞬間、艦全体に衝撃に揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

「があああああああああああああああああああああ!」

クロウが痛みに悲鳴を上げた。

途端、背部にあったカノン砲が衝撃に耐え切れずに爆発した。

それと同時に機体全体が火花を上げ、今にも爆散しかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、艦後部のシールドのエネルギー減少!」

「あと十秒後に突破されま―キャアアアアア!」

ブリッジクルーが衝撃に悲鳴を上げる。

それほどまでに戦況は厳しいのである。

ドレッド隊の大半は負傷のために帰還し、要のヴァンドレッドもヒビキがいなくては合体は不可能である。

泣きっ面に蜂とはよく言ったものである。

と、その時だった。

「シールド、突破されました。強化ガラスに穴が! 機密漏れが生じています!」

 

 

 

 

 

同じ頃、機関室では盛大に機械をぶちまけながら空気が宇宙へと流れていた。

そして当のセイヴァーは、見るも無残な姿だった。

シールドの衝撃を受けた背部は殆ど原形を留めておらず、ブースターユニットがわずかに残っている程度である。

コックピット周辺も装甲がひしゃげていた。

 

 

 

 

 

「全機に告ぐ。ただちに帰還だ。艦はこれよりメテオロイド帯へと進行する! バート、進路を三、三、二に! 最大戦速だ!」

ブザムが声を張り上げた。

同時に、ニル・ヴァーナ全体がよりいっそう慌しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トンガリ坊ちゃんと火星の坊ちゃんの容態はどうなんだい?」

「命に別状はありません。ですが、戦闘への参加は見込めません」

ドゥエロの報告に、重いため息をマグノは吐いた。

主力の一員であるヒビキ、メイアと同等の腕前を持つクロウは怪我で参戦できない。この状況で、数少ないパイロットで切り抜けると言うのはあまりにも過酷だった。

それに、いつまでもメテオロイド帯にいてもいずれは見つかる。

自席に寄っかかりながら、重いため息をついた。

「万事休す、絶体絶命かい・・・。先人の方々はよく言ったもんだ」

皮肉げにマグノが呟く。

どうしようもない状況であった。

 

 

 

 

 

 

会議室ではメイアやヴァロア、バーネットなどの前線でのメンバーが議論を交わしていた。

問題は如何にして効率よく敵を殲滅である。

数にして千を超えるキューブや偽ヴァンドレッドをどうやって一気に破壊するか、だ。

「ガスコさん、装備はあとどれくらいありますか?」

メイアが言う。

「ガスコじゃないよ、ガスコーニュ! ・・・ミサイルはまだすこし余裕はあるけど・・・・バカスカ当てるほどは無いね。そのほかの武器も殆どぶっ壊れててねぇ。今修理しているけど・・・艦の修理もあるし、使えないと諦めたほうがいいね」

はあ、と全体にため息が漏れる。

「私達、ここで死んじゃうのかなぁ・・・」

パイロットの一人が呟いた。

「バカを言わないで! こんな所で死ぬなんて真っ平よ!」

激昂しながらジュラがいう。

だが、パイロットの一人がそんなことを言うのももっともである。

追い詰められ、絶体絶命の状況。

絶望するのも無理は無かった

と、その時、会議室のドアが開く。

そこにはなんと、

「景気づけに花火でもぶち上げてみるか?」

クロウであった。

上半身は包帯で巻かれ、特に腹部は血で滲んでいる。

足取りもおぼつかないのも含めても、明らかに重症である。

それでも、余裕ある笑みを浮かべながらメイア達へと近づいてきた。

「お前、重症のはずでは・・・」

「まあ重症っちゃあ重症だな。体中ズキズキするし。特に腹だな。痛えのなんの。はっはっは」

ケラケラと笑うクロウに一同は心配を超えて、呆れていた。

すると、急に表情が真顔となった。

本当によく分からない男だ、とメイアは思った。

「ガスコーニュさん、この船に馬鹿でかい威力の武器はあるかい?」

「馬鹿でかい・・・・ん〜・・・・・・・、おっ、一つあったよ!」

名案だと言わんばかりに、指をパチンと鳴らした。

「レジに“カミカゼアタック”ってのがあるんだけど、それに積んである反陽子爆弾が一番だね」

反陽子爆弾とは中性子爆弾に次ぐ第四の核兵器と言われる兵器である。

勿論、核兵器ゆえ威力は半端なモノではない。

「そりゃあいい。それがあれば奴らを一発で吹き飛ばせる」

「だが、どうやって当てる? 敵が分散していたら意味は無いぞ」

その場にいる者たちの代弁するかのように、メイアが言った。

「・・・俺にいい案がある」

ニヤリとしながら、クロウは言った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・こりゃあ・・・・・・・・」

格納庫でクロウが呆然としながら呟く。

無理も無かった。さっきまでポンコツ同然の機体が、傷一つない新品同様の機体となっていたからだ。

カラーリングはそのままであるが、ブースターユニットは元の機体より生物感が増し、閉開型の翼のようであった。

モノアイであった筈のカメラアイも二眼タイプに変わっていた。

言葉で表すなら、変貌という言葉がちょうど良い。

「一体どうして・・・・?」

顎に手を乗せ、考える。

「少なくとも俺が機体を離れたのは救助される時・・・・。落ちた場所は確か・・・・ペークシスの近く・・・・」

だとするならペークシスが関与している可能性が一番高い。

火星でもペークシスの詳細は未だに未知の部分が多い。

その“未知”の部分が、この機体を変貌させたのだろうか。

回収した整備クルーも、来たときにはもうこの姿になっていた、と話していた。

やはり、ペークシスが機体に何らかの力をもたらしたのか。

「まあ、ちょうどいい。修理の手間が省けたし」

階段を急いで駆け上がり、コックピットへと飛び込んだ。

「コックピットは変わってないか・・・・」

そう呟くと、クロウは通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

「ほう。その後、ドでかい花火を打ち上げるってのかい」

“ああ。その為にはクルー全員に奮起してもらう必要があるけどな。 ・・・それで頭、賛成してくれるかい。かなり危険だが、成功すりゃあ一網打尽だぜ?”

ニヤリとしたままクロウが言う。

少し間を置き、フンと鼻を鳴らし、マグノは答えた。

「・・・・・・・いいだろう、ノッてやろうじゃないか」

“・・・了解!」”

そう言って、クロウは通信を切った。

同時に、

「トンガリ坊ちゃん並にアブない事考えるよ、あのオトコは・・・・」

穏やかな笑みを浮かべ、マグノが言った。

「ちょ、ちょ、お頭ぁ!」

中央のモニターに、操舵手のバートの顔が映る。

「その作戦、いくらナンでも無茶苦茶ですよぉ!」

バートが抗議するのも無理はなった。

何せ、その作戦とは、ニル・ヴァーナをおとりに使うと言う作戦なのだから。

 

 

 

 

 

クロウが考案した作戦とは、まずニル・ヴァーナを前線に出し、とにかく逃げる。

その後、艦を停止させ、二十秒ほど敵機をその場に留めて置く。

その間にドレッドチームを(反陽子爆弾を搭載したドレッドは遠方で待機)敵のド真ん中へと切りこむ。(到着次第、ニル・ヴァーナは退避)

リミットになったら反陽子爆弾を発射。離脱する、というものである。

 

 

 

 

 

現行、何とか動ける機体がニル・ヴァーナを中心に集結した。

そして、クロウをリーダーとした部隊がフォーメーションを展開していく。

怪我をした腹を押さえながら、クロウは言った。

「皆、準備は言いかぁ!? 行くぞぉ!」

“ラジャー!”

仲間達の声を聞き、クロウは

“とりあえず元気になったか・・。”

と思った。 

さっきまで意気消沈だった彼女達が見事なまでに活気を取り戻した事がとても嬉しかった。

陽気までとは行かないが、暗い気持ちで戦うよりかは遥かにマシである。

「よぅし、作戦開始!」

 

 

 

 

ニル・ヴァーナがシールドを張りながら、メテオロイド帯から脱出した。

時を同じくして、キューブや偽ヴァンドレッドが襲い掛かる。

「バート、全速力で艦を発進させろ!」

「りょりょ了解っス!」

悲鳴に似た声を上げながら、バートは艦を進ませた。

同時に、何千体もの敵機が襲い掛かる。

 

 

 

 

 

「よし。バーネット、ヴァロアはそこで待機。 俺が合図を出したらぶちかませよ!」

「了解したわ。 チャンとやってよ!」

「花火の点火は任せな!」

二人の言葉に、クロウは鼻で笑った。

「よっしゃ! 全機、突撃ぃ!」

 

 

 

 

 

「ひえええええええ! まだかよまだかよ、うわああああああ!」

「シールド、第三レベルまで後退! あと三十秒で全シールド消滅します!」

「機関室に火災発生! もうもちません!」

クルーが悲鳴に近い報告をする。

もはや艦は崩壊しかけていた。

凄まじい猛攻に、艦に亀裂が入る。それとシンクロするようにバートの体に裂傷が入る。

「痛え、痛え! まだかよおおおおおおおぉぉぉぉ!」

と、その時、

「バート、下がれ!」

クロウの声である。

作戦の第二段階が発動したのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

変貌する前のとは段違いの速さで敵をなぎ倒すクロウ。

まさに鬼神のような強さであった。

機体の性能の向上もあるが、パイロットの腕が良いというのもあるだろう。

やはり只者ではないようだ。

「クロウ、無理をするな! 重症なんだぞお前は!」

メイアが言った。

すると、フッ、と自嘲的な笑みを浮かべながらクロウは答えた。

「心配してくれてるのか?」

冗談交じりに言ったクロウに、メイアは怒ったように叫ぶ。

「当たり前だ! お前は指揮官なんだぞ! もし倒れたら皆が―!」

「安心しろ。無理には馴れっこだ! おおおおおおおおおりゃあああ!」

ブーストを吹かし、セイヴァーはさらに敵の中心へと突っ込んで行った。

それを見たメイアは

「・・・・・まったく・・・・・」

と呆れながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

何分が経ったであろうか、もはや時間の経過を忘れる程の疲労がチームの全員に襲い掛かる。

「まだなの!?」

ジュラが言った。

「まだだ・・・・」

敵の攻撃をかわしながら、クロウが答える。

「まだ・・・・・」

“もう限界よ!”

“ダメ! 無理よぉ!”

次々とパイロットから悲鳴が伝わる。

“きゃあああああ! もうダメぇ!”

ディータの声。

「まだ・・・・・まだ・・・・」

己に言い聞かせるようにクロウは呟いた。

“まだか!?”

さらにメイアの声。

と、

「・・・・・・・・・今だ! 全機離脱!」

待っていたといわんばかりに、その場にいたドレッドが急速反転し、離脱する。

時を同じくして、バーネットとヴァロアが反陽子爆弾を発射した。

「行け行け行け行け行け行け行け!」

発射された反陽子爆弾を、興奮した様子でクロウは叫んだ。

 

 

 

 

 

凄まじい爆音とともに、ニル・ヴァーナとドレッドチームに目もくらむほどの光が降り注ぎ、艦が激しく揺れる。

 

 

 

 

暫くして、あたりは静寂に飲まれた。

反陽子爆弾は直撃。爆発の衝撃でレーダーは機能していないが、間違いなく全て消滅したであろう。

見事、作戦は成功したのだ。

「・・・・・・・ヤッタアアアアアアァァァァ!」

ニル・ヴァーナ内、そしてパイロット達から歓声が上がる。

あまりにも無茶すぎる作戦は、一人の犠牲者もなく成功したのだ。

「はあ・・・・はあ・・・・、ザマあ見やが―がうぅ・・・・」

分泌していたアドレナリンが切れたのか、疲れと同時に腹部に激痛が走った。

だが、今ではそれも今を生きているという生命の実感する要因であった。

腹を押さえてうずくまりながらクロウは呟く。

「ヘヘヘ・・・・してやったりだ・・・・」

半分ボーッとした面持ちでシートによっかかりながらモニターを見た、その時だった。

一瞬にして、表情が蒼白となった。

 

 

 

 

 

爆炎がおさまり、原因となる物体は姿を現した。

なんとそれは・・・・・

 

 

 

 

 

「スーパー・・・・・ヴァンドレッド・・・・・」

バーネットが呟く。

目の前にいるのは確かにスーパーヴァンドレッドのコピーである。

だがその容貌はオリジナルとはかけ離れたデザインで、生物的で、悪魔を模したような機体であった。

大きさもオリジナル以上で、ニル・ヴァーナの倍はある程の巨体であった。

 

 

 

 

「な・・・・あああ・・・・」

「ウソ・・・・・」

次々とクルーから失意の呟きが漏れる。

皆、クロウの提案した作戦に全力を尽くしたのだ。

もはや抵抗する気力と体力も無かった。

この男を除いては。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

雄叫びを上げながら、ゼイヴァー―クロウ―が一直線に偽スーパーヴァンドレッドへと向かった。

「こんな所でええええぇぇぇぇぇ!」

偽スーパーヴァンドレッドから集束されたエネルギーが、拡散し、セイヴァーを襲う。

エネルギーは正確にセイヴァーを直撃する。

しかし、それをもろともせず、セイヴァーはさらにか速度を上げる。

「オオオオオオオオオオ!」

額から流れる血が目に流れ、文字通り血涙となる。

腹部の傷も悪化し、血が服とコックピットを濡らす。

痛みもハンパではない。

「死んでえええええぇぇぇぇ!」

腰のブレードを引き抜き、フルスピードで偽スーパーヴァンドレッドへと突っ込む。

しかし、ブレードが触れる寸前、赤色のバリアが攻撃を弾いた。

途端にクロウの顔が驚愕に歪む。

これではダメージを与えたくとも不可能である。

「くそっ!」

急いで離脱した途端、偽スーパーヴァンドレッドの巨大な手が、セイヴァーを掴む。

再び、クロウが悲鳴があげる。

機体が火花を上げ、今にも潰されかけていた。

と、その時、

「クロウ!」

声とともに、セイヴァーを掴んでいた偽スーパーヴァンドレッドの腕が小爆発した。

急いで離脱し、白いドレッド―メイア機―に近寄る。

「大丈夫か!?」

やはりメイアであった。

「ナンで・・・・・来た?」

フッ、と微笑し、メイアが言った。

「生憎、中途半端で終わるのは一番嫌いな性分でね・・・」

「ハッ・・・・奇遇だな。 ・・・・俺もだ!」

可変し、飛行形態となり、偽スーパーヴァンドレッドへと突っ込む。

メイア機は旋回しながら偽スーパーヴァンドレッドへと向かう。。

攪乱しながら弱点であろう頭部を狙う作戦である。

言わずとも分かるのは、同じような性格だからなのかもしれない。

「同時に攻撃すれば対処しきれないはずだ。行くぞ!」

「おうよ!」

勇ましい声とともに、二人が同時に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

戦況は五分五分に近い状況であった。

偽スーパーヴァンドレッドは目の前のハエを追い払うが如く、エネルギーをありとあらゆる方向へと放つ。

しかし、元々スピードの速いドレッド、飛行形態のセイヴァーはそれを器用に避け、ヒットアンドアウェイの戦法でダメージを与えた。

「・・・・・うん!」

それを見ていたディータは呟くと、機体を急発進させた。

すかさずブザムが通信を入れる。

「待て、ディータ!」

「私、行きます! このまま終わりたくない! 死にたくない! ヒビキに会えないなんて嫌! だから、戦います!」

そう言うと、通信を切った。

すると、次々にパイロット達は

「そうよね・・・。死んだら何もかも終わりよね・・・・」

「みんな! ディータに遅れをとるわけにはいかないわ! 全機、攻撃開始!」

次々にブーストを吹かし、偽スーパーヴァンドレッドへと向かった。

「どうやら皆、肝が据わったみたいなじゃないかい?」

いつもの茶目っ気の溢れた笑顔で、マグノが言った。

「・・・・その様ですね」

半分呆れた面持ちでブザムは言った。

そして捨てるように息を吐くと、自席に戻り、ブリッジに響き渡るような大声で命令を下した。

「バート! 艦をドレッド隊の後方へ! 援護に回るぞ!」

“了解ッス!”

こちらも腹が据えたのか、勇ましい限りであった。

 

 

 

 

 

「イイイィィィィィヤッハアアアアアアァァァァァァ!」

奇声にも似た雄叫びを上げながら、クロウは機体の性能を遥かに超えた動きで偽スーパーヴァンドレッドを翻弄した。

だが、それ以前に体の方が既に限界を超えていた。

コックピットのシートは血に塗れ、体全体が軋むように痛みが駆け巡り、今にも意識を失いかけていた。

もはや、自分との勝負でもあった。

「クロウ、一旦下がれ! これ以上は無茶だ!」

「ここまで来て・・・・引き下がれるかぁーーーーー!!」

鼓膜が敗れんばかりの大声であった。

直後、飛行形態から人型形態となり、機体を偽スーパーヴァンドレッドへと向かわせた。

「無茶ばかりして・・・!」

怒気を露にしながらも、メイアは同じく偽スーパーヴァンドレッドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

―ドレッドに気を向いている今なら・・・!―

セイヴァーはブレードを引き抜き、一気に加速をかける。

偽スーパーヴァンドレッドが周りのドレッドに気を向かしているなら、今が絶好のチャンスである。

その隙に頭部に一撃を入れ、倒す。

クロウはそう考えた。

だが下手をすれば、捨て身の特攻と同然のものである。

「・・・・・・・」

さっきとは打って変わって、無言で一点―偽スーパーヴァンドレッド―を見つめる。

その時だった。

「援護する・・・・」

メイアからの通信だった。

「死に来たか?」

自嘲気味に笑いながら言った。

“前みたいな危なっかしい奴を放ってはおけん。 それだけだ”

「へーへー」

いい加減っぽく答えると、クロウは機体を急加速させる。

それに負けじと、メイア機も追いついてくる。

「これで・・・・・・・」

機体の足元から一直線に頭部へとに向かう。

「終わ―!」

その時だった。

胸部の辺りに来た途端、なんと偽スーパーヴァンドレッドの押しつぶされかけてしまったのだ。

「ぐあああああああああ!」

「うあああああああああ!」

機体がミシミシと音を立て、遂にはコックピットにもヒビが入る。

あと数秒もすれば、間違いなく押しつぶされてしまうだろう。

「ぐうううう、む、ぐう、ああああ・・・・!」

それでも二人の瞳には絶望と言う文字は無かった。

絶対に生きる。

ただそれだけであった。

「こんな・・・・・所でぇ・・・・・」

「し、死んで・・・・」

まるで合わせるかのように、二人は呟いく。

同時に二人の機体が青緑色に光った。

そして、痛みを堪え、歯を食いしばりながら、雄叫びのような大声を上げた。

「たまるかあああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

辺りに目が眩むほどの青緑色の光が偽スーパーヴァンドレッドを中心に光った。

「これは・・・・・!」

ブリッジで見ていたマグノは呟く。

この光には見覚えがある。

この光は・・・・・・。

その時だった。

光が収束した途端、偽スーパーヴァンドレッドの腕が爆発したのだ。

それと同時に、アマローネから報告が入る。

「新たな反応を感知! これは・・・ヴァンドレッド・メイアです!」

 

 

 

 

 

ヴァンドレッド・メイアは敵機から離脱すると、機体を一旦停止させた。

「・・・・・・・」

驚きのあまり声が出ないのはまさにこの事であろうか。

セイヴァー―クロウ―と合体したのだ。

ヴァンドレッドに。

―クロウ―

そう思うと、ハッとし、すぐに前席を見た。

そこには息を荒げに、腹部を抑えながら蹲っているクロウがいた。

「よお・・・。奇跡が起きたみたいだな・・・」

息は荒いが、いつもの軽い口調であった。

それを見たメイアは、一瞬、ホッとした面持ちになった。

「・・・・お前、やっぱ笑ってる方が似合うな」

ハハッと、含み笑いを浮かべながら、クロウが言った。

「なっ・・・・・! こんな時に何を言ってる!」

恥ずかしくなったのか、メイアは頬は赤く染まった。

こんな状況でこんな軽口が言えるのはそうそういないだろう。

「赤くなった顔も可愛い、可愛い。ハッハッハ」

「う、う、うるさい! い、行くぞ!」

「ハハッ・・・・・了解ぃ!」

 

 

 

 

二人はヴァンドレッド・メイアを発進させた。

途端、ヴァンドレッド・メイアはヒビキとの合体のとは遥かにかけ離れたスピードをたたき出した。

勿論、二人に掛かるGも並ではない。

なお且つ、重傷を負っているクロウには拷問に近いようなモノだ。

「ぬ・・・・く・・・・う・・・・!」

「うく・・・・・くう・・・・!」

それでも機体をさらに加速させた。

目指すは、偽スーパーヴァンドレッドの頭部。

機体は音速を超え、もはや目視では捉えきれないほどのスピードをと化す。

やがて偽スーパーヴァンドレッドは背中のビットから大容量かつ拡散型のビームを放った。

しかし、機体の性能とクロウとメイアの長年の経験による腕前をもってすれば、ビームはひとつもかすりはしなかった。

それに激怒したのであろうか、偽スーパーヴァンドレッドは生物的な咆哮を上げる。

そしてそれと同時に、掌から巨大で真っ赤なブレードを抜き打ち、振り下ろした。

だが、ヴァンドレッド・メイアはそれと軽々と避ける。

「よし、今だ!」

クロウが叫ぶ。

数秒の間、偽スーパーヴァンドレッドがブレードを振り下ろした時の隙を、見逃さなかったのだ。

「これで!

「終わりだあああああぁぁぁぁぁああああ!」

嘴に全エネルギーを集約させ、偽スーパーヴァンドレッドの頭部に向かって、必殺技の“ファイナル・ブレイク”を叩き込んだ。

全エネルギーを纏ったその姿はまるで流れ星のようである。

シールドが無ければ、もう紙切れに穴を開ける位容易である。

ヴァンドレッド・メイアは偽スーパーヴァンドレッドの頭を跡形も無く吹き飛ばした。

数秒経って、偽スーパーヴァンドレッドが爆発した。

その炎の突っ切って、ヴァンドレッド・メイアはドレッド隊へと合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その壮絶な戦いから一週間が過ぎた。

クロウはあの戦闘の後、急いで医療室に運ばれ、手術が行われた。

そして一週間が過ぎた今では、嘘のようにピンピンしていた。

ちなみのヒビキは意識はあるものの、今でも安静にしていなければならなかった。

こう見ると、やはりクロウは只者ではない、と感じるクルーも増えたという。

 

 

 

 

今彼は、再び同じ場所でガスコーニュと懲りずにポーカーで一日の食事(間食も含める)のポイント代を賭けた戦いをしていた。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

無言のまま、二人は山からカードを抜き、捨てていく。

二分ほど経ったであろうか、二人は抜くをやめた。

勝負である。

一日のポイント代がかかっているのだ。

二人の目はかなりマジであった。

「勝負!」

同時に二人が言う。

「もらったね! ストレートフラッシュだ!」

「王手だ! ロイヤルストレートフラッシュ!」

途端、クルーからの歓声が湧き上がる。

「なあああ・・・・・・」

「うおっしゃああああああ!」

前回とは打って変わって、まるでチャンピオンベルトを手にしたボクサーのようなポーズでクロウは雄叫びを上げた。

これで紙吹雪でも吹けば最高のシチュエーションである。

「・・・・・・・」

それを無言で傍観していたメイアは無言のままクロウを見つめる。

メイアに気づいたクロウは満面の笑みをブイサインを作った。

それを横目に見ながら、メイアはカフェ・トラペザから去って行った。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

終わった  orz

前回とは打って変わって二十二枚も使っちゃいましたよ、ええ。

しかも完成時刻は深夜1:10・・・・・

学生ですが何か?

 

オリジナルとの兼業ですのでまたいつ第四話が完成するかは自分でも分かりまs(ペークシスキャノン)

・・・・とりあえず期待しないで待っていてください(ぉ

キャラ設定は次回辺りに書きます。もう書く気力が無いなんて口が裂けてもいえない。



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