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メイドさんのお仕置きによる入院生活から無事に脱出し、時を止めると言う究極技により甘い甘い敗北を味わうこととなった日から翌々日。

俺は、機動六課隊舎へと来ていた。

「・・・良介さーん!!」
到着した途端に俺を呼ぶ声。
その声の主は俺が良く知る少女のもの。
機動六課ライトニング分隊所属のフルバック。
今回の事件においてギンガ達にその将来を色々な意味で不安視された少女、キャロ・ル・ルシエだった。

「おーっす、キャロ。久しぶりだな! 元気してたか? 身長も随分伸びたな?
前に会った時はこんなのだったのに」
「はい! ・・・って、三日前会ったばかりじゃないですか!
それに、私はそこまで小さくありません! ミヤさんじゃないんですよ!?」
まぁ、気にするな。出会い頭のちょっとした冗談だ。
それはいいとして、一つ聞いとかなきゃいけないことがある。

「・・・なぁ、あいつはどうしてる?」
「あいつ? ・・・ひょっとして、心配してきてくれたんですか?
それなら、是非会ってあげてください! きっと良介さんの顔を見たら元気になってくれると思います!」
「そうしたいのはやまやまなんだが、これからすぐにジェイルのとこに行かなきゃならないんだよ」
「スカリエッティさんの所にですか・・・?」

そう、俺はこの後ジェイルの所にお見舞いに行かなければならないのだ。
うちのメイドさんの粛清により、一ヶ月は絶対安静を言い渡されてベッドで唸っているという話だ。
・・・あと、これは入院中にリンディから聞いたのだが、やつはレプリカガジェット事件の協力に対する報酬を最初の段階で断ったらしい。
なんでも、『科学者としてのプライドを、報酬のやりとりなどと言う次元の低い事で片付けられたくなかった』という理由だそうだ。
この話をしていたリンディが、俺を見ながら終始ニヤニヤしていたのには疑問だったが、気にしないことにする。

話が剃れたが、結論を言うと、やつは今回の件に関わったことで、ただただ痛い目に遭っただけと言えるのだ。

その話を聞いた俺はさすがに不憫になり、自分の科学者としてのプライドのために無償で俺たちと戦う事を選んでくれた、あの不器用なマッドサイエンティストに礼を言うのも兼ねて、お見舞いすることにしたのだ。
まぁ、これも怪我をさせた張本人のご主人様たる俺の勤めと言える。
ここに来たのは、そのついでになる。
・・・ホントだぞ?

「そうですか・・・。残念です」
あぁ、ホントに残念そうな顔をするなっ!
お前にそんな顔されると、さすがに罪悪感が沸いてくるだろうが!!
「そう思うならスカリエッティさんは放っておいて会ってあげてください! きっとウーノさんあたりに看病されてて大丈夫なはずですから!」
思考を読まれてるっ!? まさかお前、さっきのは確信犯か!
つーか元敵とは言え、扱いが酷いなオイ・・・。
まぁ、それは置いておくとして、キャロとここで会えたのは丁度いい。ついでに頼んじまおう。
「・・・キャロ、悪いんだがこいつを頼めるか?」

そう言って、俺はキャロの身長近くもある大きな袋を渡す。
「はい。それは構いませんが・・・、これは?」
俺から袋を受け取りつつ、疑問を口にするキャロ
「あぁ、今から説明する。いいか、これはだな・・・なんだよ。
で、この・・・・・・を・・・・に渡してくれ。中身は見るなよ?」
「了解です!! きっと喜んでくれると思いますよ?」

何かを察したようにニヤニヤとした表情を浮かべるキャロ
・・・なんかあの一日を超えてからこいつ性格変わってきてないか?
「良介さんの気のせいです。それじゃあ、スカリエッティさんにお大事にと伝えてくださいね? これは、私が責任を持って渡しますから」
「あぁ、頼んだぞキャロ。皆にもよろしく言っといてくれ。
近々また遊びに来るからってな」
「はい。良介さんもお気をつけて!」

自分の身長と同じくらいの袋を抱えながら手を振るキャロに見送られながら、俺は大事な友人の見舞いに行くべく、歩を進めた・・・。



Side ティアナ

・・・最悪だ。
あの戦いが終わって、魔力切れで眠りに落ちた私は夢を見ていた。
あの人にチョコレートをなんとか渡せた夢。

でも、それは夢でしかなかった。
眠りから覚めた私に突きつけられたのは、目が眩むほどの朝日と既に日付が変わってしまったという事実。

私が買ったチョコは賞味期限が比較的短い、生チョコのようなモノで、あの人が目を覚ました頃には、もう食べられないものとなっていた。

勇気をだして、日が過ぎているのを承知での上で、もう一度チョコを用意して八神部隊長やなのはさんのように渡しに行くという手もあった。
でも・・・結局はそれも出来ず、AMF下でのSLB発動という無茶による疲労の回復を理由に、部屋から医務室へと場所を変えて寝ているありさまだ。

そんな私を心配して診てくれたシャマル先生は察しがついたらしく『隊長達には私から言っておくから、少しの間だけ休んでいなさい。・・・落ち込みたい時は、落ち込んでいいのよ?』と優しい言葉を貰えた。正直に白状すると、その言葉を聞いた瞬間、不覚にも泣いてしまった。
シャマル先生は、なにも言わずにそんな私を強く抱き締めてくれた。
そこに、同じ痛みを抱える女同士の友情が確かにあったことは、言うまでもないだろう。

スバル達も心配してくれて日に何度も来てくれてる。
けど・・・、いつものように笑う事がどうしても出来なかった。

自分でも馬鹿げていると思う。
バレンタインは来年も来るのだ。
来年頑張ればいい。今年の悔しさも、来年の2/14にぶつけてやればいい。
来年こそ、あの人に・・・。
頭では分かっていても、心がそれじゃあ動いてくれない。

そんなことを考えて、泣きそうになる。・・・ここ数日、それの繰り返しである。
ほら、今だってそんなことを考えていたら泣きそうに・・・。



「失礼します。ティアさん、今大丈夫ですか?」



その声に私はビクッとする。
声の主は私のよく知っている子。
うちのフルバックであり、あの人によって妙なスイッチを入れられて、どうしても将来に不安を覚えてしまうようになった少女、キャロだった。

「ティアさん、それいくらなんでも酷すぎます・・・」
そう言って、頬を膨らませるキャロ。
って、思考を読まれてるの!?
「良介さん譲りの日本の伝統があれば、これくらいの事は可能です!」
「・・・お願いだから、フェイトさんだけは泣かせちゃだめよ? キャロ」
心からそう思う。私やギンガさんが泣くのは、きっと仕方ないのだろう。

「で、一体どうしたの? フォワードだってバレンタインデーの時の報告書やらの作成でフル稼働のはずでしょ?
心配してくれるのはありがたいけど、仕事を放って来たらダメよ?」
「スバルさん達にはちゃんと言ってきました。大丈夫です。
・・・えっと、ティアさんにお届け物です」

そう言って、キャロが差し出したのは少し大きめのオレンジ色の箱。
私がキャロから渡され、手に取ると、箱からひんやりとした冷たい感触がした。
「早く開けてみてください」
そうキャロに促されて私が箱を開けると、その中には楕円形の容器がまた入っていた。それも同じように開ける。

「・・・キャロ、これってもしかして!」
「はい、良介さんからのお見舞いの品です」

その容器の中に入っていたのは、箱と同じオレンジ色のアイスだった。
どこからか持ってきたのだろうか? 
準備よくキャロが用意していたスプーンを受け取ると、それでアイスをすくい口に入れる。

口に入れた瞬間、オレンジのさわやかな甘味と酸味が口に広がって、心底疲れていた心と身体が一気に目を覚ますような感覚に襲われた。
・・・間違いない、先輩が作ってくれたアイスだ。
スバルと一緒に何回か食べた事があるから分かる。
この優しい味は、お店で売っているのとはまた違う。
絶対に忘れないし、間違えない味だ。

「良介さん、バレンタインデーの時に助けてくれたお礼だって言って、わざわざ持ってきてくれたんですよ?
・・・口には出しませんでしたけど、ティアさんがあれ以来沈み込んでるって聞いて、心配だったんだと思います」

あの人が・・・、私を?
・・・信じられない。いや、別にあの人が他人を心配するわけがないと思っているんじゃなくて、私なんかを気にかけてくれるとは思わなかったから。

「先輩は? 今隊舎に居るの?」
「いえ、これを私に預けてすぐに行っちゃいました。なんでも、スカリエッティさんのお見舞いもするそうです」
「・・・そっか」

顔くらい、見せて欲しかったな・・・。
そんな事を思いながら箱を見ると、さっきは気付かなかったが中に容器以外にビニールに厳重に包まれた何かを見つける。
私はそれを取り出し、ビニールの中からそれを取り出す。

これは・・・手紙?
私は封を開け、手紙に目を通す。

『ティアナへ。

よぉ、スバル達から聞いたが、随分調子悪いんだって? 大丈夫か?
ギンガ達もそうだが、バレンタインデーではお前にも色々助けてもらったからな。
このアイスはその礼だ。
オレンジ味にしたのは、お前があの時撃ったSLBの魔力光から思いついた(結構難しかったんだぞ?)

・・・正直、お前がアレを撃てるようになってたのには驚いた。
なのは達とバカやりつつも、しっかりと努力してたんだな。
そんなお前に俺からの忠告だ。
お前、自分では凡人とかなんとかぬかしてやがったが、そういうのは今後一切止めろ。

お前はもう凡人なんかじゃねぇよ。
ティアナ・ランスターは機動六課、いや、時空管理局が誇るエースで、ストライカーの一人なんだからな。
ディエチや、メガ・リーゼとの戦いを見てそれは強く思った。
凡人以下の俺が言うんだ。間違いねぇよ。
ほんとに強くなったな。ティアナ。

つか、お前はあんな凶悪魔法を凡人がひょいひょい撃てると本気で思ってんのか?
もしそうだったら、俺にとってはとても恐ろし・・・、いや、なんでもない。
とにかく、俺が言いたいのはそれだけだ。
アイス食って、とっとと元気になれ!
それじゃあ、今日は顔見せてやれなくて悪かったな。
また近い内に隊舎に遊びに行くから、その時はよろしくな。


宮本良介』


・・・・・・・・・先輩。

嘘みたいだ。
あの人が、私の事をこんなにも認めてくれてたなんて・・・、知らなかった。
最初はすごく疎ましかった。
能力が無くて、色んな人間からあることないこと言われて、それでもヘラヘラして、楽しそうにしているあの人を見ているだけで疎ましくて、イライラして・・・。

なのに、いつからだろう?
私の中であの人の存在が大きくなっていったのは。
執務官になる。その夢と同じくらいに大事だと思うようになったのは・・・。
そんなあの人が、ここまで認めてくれた。

それだけで、今まで落ち込んでた気持ちが全て吹き飛んでしまう。

「・・・ティアさん、良介さんにお返ししなきゃいけませんね」
「お返し?」
「はい、お返しです。あの後、バレンタインデーに興味があって少し調べてみたんですけど・・・」

キャロが言うには、私たちが聞いた「女性が好きな男性にチョコレートを渡すのと一緒に自分の気持ちを伝える」という風習は、先輩やなのはさんが生まれた国固有のものだそうだ。

「それ以外の国では、好きな人というのはもちろんなんですが、それだけじゃなくて、恋人や家族に友達。そういった親しい人に、普段の感謝と愛情を込めてプレゼントを渡す日なんだそうです。
それは、チョコレートに限らないそうですし、渡す側も、女性だけでなく、男性から渡したりするのもOKなんだそうです。だから・・・」

キャロは一旦そこで言葉を区切り、そしてその先を口にした。

「バレンタインデーのお返しを渡す日、3/14にホワイトデーというのがあるそうなんです。
その日に、このアイスのお礼を良介さんに渡してみたらどうでしょうか?」

その言葉は、消えかけていた私の心のモヤモヤを全て消し去るには、充分すぎるくらいの力を持っていた。
ううん、それだけじゃない。
立ち上がって、足元を踏みしめて駆け出す力までくれた。

「・・・うん、そうね。そうするわ」
「良介さん、きっと喜ぶと思いますよ!
・・・あ、それじゃあ私はそろそろ戻りますね? ティアさん、早く良くなってくださいね」
「・・・キャロ」
医務室を出ようとするキャロを私は呼び止めた
キャロが不思議そうな顔をしている。
・・・この子は全て分かってた上でここに来たんだろうな。
「どうかしましたか?」
「ありがとうね」
「・・・はい!!」

私の言葉に満足したのか、満面の笑顔を浮かべて部屋を後にするキャロ。

そして、私は一人残された。
でも、気分は先ほどとは違って晴れやかだ。

そうだ、まだ終わっていない。
きっかけはあの人がくれた。・・・おそらく自覚無しで。
それがチャンスだというのは、キャロが教えてくれた。

だから・・・、あきらめない。
先輩、今度は絶対に捕まえてみせますからね?

そう強く思いながら、私は一人、自分の魔力光と同じ色のアイスをパクパクと食べ始めた。



おまけ

「あ、キャロ〜。どこ行ってたの〜?」
「すみません、スバルさん。ちょっとティアさんの所に行ってました」
「・・・ティアの様子、どうだった?」
「もう大丈夫だと思います」
「そっか、よかったー! じゃあ、早く皆で宮本さんのくれたアイス食べようよ〜。早くしないと溶けちゃうよ?」
「はい!」
「でも、宮本さんもひどいなぁ。ティアはティアで別に作って、私たちのはお徳用サイズのおっきいのなんだもん。
まぁ、美味しいからいいけど♪」
「ティアさんの事、良介さんも心配だったんですよ。・・・それとスバルさん、頼みがあるんですけど」
「ん、分かってる。私たちもアイスや手紙もらったことは、ティアには内緒ね? みんなにはもうお願いしてあるから大丈夫だよ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいっていいって。それより早くしよ? アイスアイス♪ 好き好き大好き〜♪」



ざ・すいーとうぉーずエピローグ
Side ティアナ


これにて終幕






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