日付は2/17。

うちのメイドさんとの素敵な話し合いの末、
2日間、丸々意識を失った俺は六課もお世話になった事のあるあの病院に入院していた。

何で話し合いで2日間も意識をなくしたりしたのか、そのナゾは秘密の小箱に仕舞っておくとして。

「今回は大変だったわねぇ」
「顔が笑ってると説得力に欠けるぜ?リンディ提督様よ」
俺の病室にはリンディが来ていた。
一応見舞いってことらしい。

俺が意識を回復するまでの話を色々と教えてくれた。
「例の組織、リーダー格のも含めて逮捕できたけど、
まだ構成員が残っているかもしれないみたい。
下手したら…よろしくね?」
「何を!?」

「なのはさん達、何度もお見舞いに来ていたらしいわよ?」
「あいつら、もう平気なのか…」
「今日まで入院だったけどね?」
「見舞いされる立場じゃねえか!?
自分の事何とかしろよ!!」

と、言ってるそばから病室のドアが開いた。
「良介!目ぇ覚ましたんか!!?」
「はやて?」
そこにいたのははやてだった。
肩にはミヤも乗っている。
「あぁ〜良かったわ。意識が戻って」
「こんぐらいで死なんわ」
「でも、屋外訓練場使用不能やで?」
「どんだけ凄い事に!?」
「まあ、無事やったら良えんよ……」
いいのかよ。
「でな、これ……」
と差し出してきたのは…包装された小さな箱。
これってまさか…。
「バレンタインのチョコレート…もう終わったけど……」

うっ。たぬきのくせに子犬みたいな顔をすんな!
リンディが念話を送ってきた。

"受け取ってあげなさいよ?"
"何でだよ。もうバレンタインは終わってんだぞ!?"
"大事なのはそこじゃないわ。込めた思いを受け取ることよ?"
"尚更やだ"
"……借りは早めに返した方が良いんじゃないかしら?"

……くそ。
悩んだ末、仕方なく俺は手を出した。
「ほれ」
「りょ!良介…!」
「誤解するな?バレンタインはもう終わってるからこれはただのチョコだぞ!?
それと、受け取るのはもったいないからだ!」
……沈黙。
はやくしろ、そう言おうとはやてを見る。
「っ!?」
「うぅ〜〜〜……!!」
泣くなぁ!!
「ちゃうんよ…だって…今まで全然受け取ってくれへんかったから……
また、無駄になるんやないかって…」
「……泣くなら受け取らんぞ?」
「ちょっ!何や、その感動ぶち壊し発言は!」
そう言いながらはやては俺の手にチョコを乗せた。
包装を解き、蓋を開ける。
上に敷かれた紙を……ゴミ箱にイン。
「迷わず捨てたぁ!?」
アホか。
何で婚姻届なんか入ってんだよ。

とりあえず泣いてる狸はスルーして。
観想を言えば
「うん…流石だな。美味い」
「エへヘ……」
本当に嬉しそうだな。

と、またドアが開かれた。
「あれ、なのはちゃん!?」
「はやてちゃん、リンディさん!?」
今度来たのはなのはだった。室内に誰かいるとは思わなかったのだろう、
リンディとはやてに驚いた顔を見せた。
て、お前は入院中だろうが。
「さっき退院しました、自主的に!!」
おい。
「で、お前何しに来たんだ?」
「ひどいです!お見舞いを持ってきたのに…」
そう言いながら出してきたのはもう言わなくてもわかるな。
「チョコレートか」
袋に入ったチョコレートだった。
「食べみてください!」
う。はやての視線がものすごく痛いぞ。
とりあえず袋を縛っている紐を解く。

中からは包装された………そのまま戻してポイ。
「あぁ!何で捨てるんですかぁ!!」
「やかましい!!何で包装紙が婚姻届なんだよ!!」
「そうや!常識を考えんとあかんやろ!?」
「お前が言うな!!」


はやては仕事があるというのでこれにて帰っていった。
なのはは予想通り看護婦に連れて行かれた。
今度はきっとベッドに括られることだろう。


「もしかしてまだこんなのがあるのか?
そして何時までいるんだ、リンディ!?」
「もう少しね。何か面白そうだから」
他人事とお思いで。

と、はやてが閉めそこなったドアの隙間にチョロチョロと見えるものがある。

おさげ髪だ。

位置からしてちびっ子だな。

リンディも気が付いているのか、くすくすと笑っている。
しょうがねえな。

俺はわざとらしく大声を出した。
「あ〜あ、せっかくならもっと変わったのが良いなぁ〜!」
「あらぁ、何が良いの〜?」
リンディものってきた。
「そうだなぁ〜、ガトーショコラなんていいかもなぁ〜!
でも、そんなのある訳ないかぁ〜ッ!!」

バーーーーーーーーン!!

勢いよくドアが開かれた。
壊す気ですか?

「よ…よよよよヨォ!き…奇遇だな!!リョウスケ!!」
「ここは俺の病室だぜ、親分?」
リンディは向こうを向いて震えていた。
きっと涙目だな。

そんな事にも気が付かずヴィータは俺に箱を突き出した。
俺はそれを受け取り、徐に開けた。
「これって、ガトーショコラか!?」
そう、やはりガトーショコラだった。
あの後また作っていたことをはやてから俺は聞いていたので
予想していたが…。
「なかなか美味そうだな。もしかして手作りか?」
「う、自惚れんな!誰がお前の見舞いの為にわざわざ作るもんかよ!!」
ククク。俺の誘導に引っかかったな?
「あれ〜?俺はただ手作りかって聞いただけだぞ?」
「うっ!」
「別に俺の見舞いの為にわざわざ作ったのか?なんて聞いてないないんだけどなぁ〜?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!テメェエエエエエエ!!!!」
うぁあああ!!!やり過ぎたぁあああ!!!

その後、ハンマー片手のちびっ子に散々追い掛け回されました。


夕方になる頃、やってきたのはフォワード共とヴィヴィオだった。
ティアナはいなかった。
何でも部屋で死んでいるそうだ。
まだSLBの影響が残ってるのか?

そういやヴィヴィオとは会ってなかったな。
フォワードはヴィヴィオの付き添いだそうだ。

「はい、ばれんたいんのちょこれーと」
といってヴィヴィオが出したのはくしゃくしゃの包装がされた箱。
何度も失敗したのか、変な所に折り目がついているな。
「宮本さん、開けてみて下さいよ」
「ヴィヴィオががんばって作ったんですよ?」
「お…おぉ…」

破かないように包装を解いて、箱を開ける。
「…………おい」
「…?」
ヴィヴィオはきょとんとしていた。
スバルがいぶかしんで箱を覗き込んだ。
「…あ」
中にあったのは歪なチョコレート。
多分ハート型にしようと頑張ったのだろうがハートというより

台形だ。

それは良い。別に大した事じゃないさ。
問題は…そこに書かれている文字だ。
黒のチョコ上にホワイトチョコレートで書かれた文字。
これまた歪な文字でこう書いてあった。

『だいすきなぱぱへ』

「なぁ…この文字書くのになのはに相談しなかったか?」
「ふぇ!?すご〜い、どうしてわかったの?」
やはりな。

とりあえずどうするか。

………わかった。食うからそんなキラキラした目で俺を見るな!

パクリと一口。
「どう?おいしい??」
「普通だな」
「ふぇ〜!?」
「美味くもないし不味くもない。いたって普通だ」
「ちょっと、宮本さん!何でそんな事言うんですか!!
こういう時は嘘でも美味しいって言うものでしょう!?」
「うそなの???」
「あぁ〜、そういう意味じゃなくてね」
やれやれ。仕方ない。
俺は泣き出しそうなヴィヴィオの頭に手を置いて…
「ふぇええええ!!?」
わっしゃわっしゃとなで繰り回した。
「次作るときには美味いの作れよ?」
と言ってやった。
泣きだいっそうな顔が一転、満開のひまわりのように笑顔が咲き乱れた。
「うん!!」
あぁ〜、自分のクサさにサブいぼがたつぜ。


コンコン。
「ん?ギンガ?」
返事も待たずにあいたドアからギンガが入ってきた。
そして、そのまま中に入ってくると
「これ、お見舞いですから」
と、チョコアソートの袋を渡して去っていった。
何だ、見舞いならメロンをもってこいよな。
「あの子、なかなか不器用ね」
あの〜、何時までいるんですか、提督。



で、次の日の朝。
俺は退院することになった。

結局、アリサは一度も見舞いには来なかった。


「おかえり」
「お…おぉ……」

帰ったら普通に出迎えられました。

そういえばアリサにはもらってないな。
いや、期待してるわけじゃないが、なんとなくそう思ってしまっただけだ。

リビングまで進んだところでアリサは振り返って
「これ、バレンタインのチョコレートね」
と言って渡してきた。
「あ、あぁ、ありがとな」
もう終わっちまったけどな。
すこしだけ罪悪感。

「まだ…終わってないわよ?」
「は…?」
「ほら、テーブルの上…」
アリサが指差したテーブルの上には置き時計が置いたあった。
俺が海鳴で買ったカレンダー付きのアナログ時計。

【2/14 11:59:59】

で、止まっていた。

「ね、終わってないでしょ?」
アリサは俺から顔を背けたままだ。
だが、耳まで赤くしているのが分かる。


参った。俺の負けだ。完敗だ。
このメイドさんは時間を止めてしまったのだ。

いくら何でもそこまでやられたら俺に勝ち目なんて1%もない。

俺は敗北の味を噛み締めた。
ブランデーの効いた大人の味。
だが、

それを味わいながら
俺は時計に電池をはめた。
なんとも甘い事だと思ったが、
この戦いの終わりにはこれが相応しいかもしれない。


そして、秒針が最後の時を刻んだ。


すいーとうぉーず りざると

アリサ・ロ−ウェルVS宮本良介
勝者アリサ・ロ−ウェル
(勝因 時間を止めて待っていて)


無限の欲望
最強のメイドさんに襲撃される→全治一ヶ月

ナンバーズ
5、8,10、11以外未だ復活ならず
特に3と6はダメージ甚大

黒の提督
翡翠の提督に呼ばれる
ある映像を見せられる
「これ…なにかしら?」
「ギャァ!!」

『時空開放同盟』
一連の騒ぎもまとめて押し付けられる←三提督の策謀
「ギャァ!!」


おまけ

「どうしたチンク?」
「これを受け取ってくれ…ウェンディからだ……」
おいおい、目の下にものすごいクマじゃねえか!?
「アイツ…本当に枕元で泣き続けて……ガクッ」









おまけ2



「で、ご主人様。今年のバレンタインの感想は?」
「バレンタインのない世界に行きたい」









2/14 本当に終了






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