Sideキャロ
10:58
今日は2/14
昨日は、まさかこんなことになるなんて予想もしていなかった。
良介さんと無事に…かどうかは置いといて、なんとか合流できた私たちが向かったのは時空管理局・陸上警備隊『第108部隊』。
第108部隊になんとかたどり着いた私たちを待っていたのは、隊舎に鳴り響く、緊急事態を知らせるアラームだった。
そして、そのアラームの原因は・・・。
「…フェイトさん」
そう、私とエリオ君の保護責任者であり、機動六課ライトニング分隊の隊長。フェイトさんだった。
普段のフェイトさんは、とても穏やかで優しくて…。
私にとっては、姉のような存在だった。
でも、今のフェイトさんは
「あいつ…、完全に戦闘モードかよっ!!」
そう口にしたのは、良介さん。
(うん、今のフェイトさんは戦ってるときのフェイトさんだ)
でも、戦闘モードに入っているのはフェイトさんだけじゃない。
ルーテシアの守護者とも言えるガリューもである。
先ほどから、戦闘モードのフェイトさんに当てられたのか、いつでも戦えると意思表示するかの気迫を放出しつづけている。
「ガリュー、落ち着いて? …うん、そうだね。
…リョウスケ、私とガリューが出るよ。大丈夫。地雷王達も居るから、なんとかなると思う。」
「ルールーが出るならアタシも行くぜ!」
「ダメ」
「っ!? どうしてだよ、ルールー!」
「アギトは、リョウスケとユニゾン出来るでしょ?
…今は痺れ薬の影響でダメだけど、とにかく絶対に離れちゃだめ。
私やエリオ達と、もしもはぐれた時に、誰がリョウスケを守れるの? アギトしかいないんだよ?」
「うぅ…、解ったよっ。アタシはリョウスケの傍にいる。絶対離れねぇっ! 約束する。だからルールー…」
「うん、ちゃんと帰ってくるよ。
…エリオ、キャロ、フェイトさんは私とガリューが押さえるから…。」
「待ってルーちゃん! フェイトさんの相手は…、私がする」
「「「「えっ!?」」」」
私のいきなりと言えばいきなりな発言に、その場に居た全員が驚く。
「はぁっ!? おい待てキャロ。お前正気か? 相手はフェイトだぞ?」
ー俺の事で、フェイトとお前たちを戦わせたりしたくないー
良介さんはそう言いたいのだろう。
口にこそしないが、私の知っている良介さんはそういう人である。
…だからこそ、フェイトさんもこの人を好きなったのであろう。
傍からどう思われるのなんて気にしないで、ここまで追いかけてくるくらいに。
「しかも、お前一人で相手っ!? 馬鹿も休み休み言え!お前一人でどうこう出来る相手じゃねぇだろっ」
そう、私の実力は、担当しているポジションの違いはあれど、
とてもではないがフェイトさんと一対一なんて出来るほど高いわけじゃない。もちろんそれは分かっている。
「良介さんやルーテシアが心配してくれているのは…、解ります。でも、二人とも、一つ勘違いしています」
「勘違いじゃねぇだろっ! お前達とフェイトは」
「家族です。だから、これは良介さんだけの問題じゃありません。」
そう、今起きている事態は、良介さんの問題であると同時に、私とエリオ君、そしてフェイトさんの、私たち家族の問題でもあるのだ。
もし、フェイトさんが道を間違えたら、叱って連れ戻すのは私たちの役目だ。
では、今のフェイトさんが間違ってるのか?
私はもしそう聞かれたら、間違っていない、そんなはずないと答えると思う。
矛盾していると自分でも思う。けど、私だってフェイトさんと同じなんだ。
『好きな人を追いかける事が間違っている』などと言われたらきっと辛い。ただ見ているだけで何も出来ない。
そう考えるだけで、胸がチクリと痛む。
でも、私は良介さんを守るとギンガさんに約束した。
そのギンガさんは、自分の危険も省みず私たちを逃がしてくれた。
それだけじゃない、良介さんは今日という日が始まって、現時点で起きた事だけでも充分すぎるくらいに命の危険に晒されている。
…これ以上、状況が悪化するのだけは避けなきゃいけない。
そのために私は…。
「キャロ…」
その声に、私はエリオ君の方を向く。
私の顔を、まるで自分の事のように心配している顔で見ている、私と同い年の男の子。そして、私の一番大事な….
「エリオ君、お願い。今回は私に任せてくれないかな? 私、フェイトさんと話したいの」
「いいよ」
「え?」
「キャロが一人で行くって事は何か考えがあるんだよね? だったら僕はそれを信じる。
僕ら、ライトニングのガードウィングとフルバックだろ? …キャロ、頑張って」
エリオ君はあっさり納得してくれた。緊急事態なのに、気持ちが通じ合ってるみたいでちょっと嬉しくなるのはなんでだろう?
「エリオ君、ありがとうね」
「ちょっと待て、お前らだけで話進めてるんじゃねぇっ!
俺は納得して…」
「いいじゃねぇか。やらせてみろ。良介」
そう言ってくれたのは、今まで黙って話を聞いていたゲンヤさんだった。
「おっさん!? でもな…」
「子どもが一つの事を頑張ろうとしていたら、大人のやる事はただ一つ。
何かあったらすぐに助けに行ける距離から、ハラハラしながら見守ることだけだぞ? まぁ、これは育児書の受け売りだけどな。
それに、穣ちゃんには何か考えがあるんだろ?」
「はい、上手くいくかは解りませんけど・・・」
「ならやってみろ。ただし、一つ約束してもらうぞ?
もし、傍から見て明らかにどうにもならないと感じたら、なんと言おうと勝手に割り込ませてもらう。
俺としても、自分の基地内で好き勝手やらせるわけにはいかねぇしな」
「はい、我がままばかり言ってすみません」
私はゲンヤさんにそう言いお辞儀をすると、気持ちを即座に切り替える。
そう、戦うための気持ちに。
「キャロ…」
良介さんが申し訳なさそうな顔で私たちを見ている。
普段からは想像できないような表情…。
私がこんな表情をさせているのかと思うと、非常に心苦しい。
「良介さん。そんな顔しないでください。絶対に大丈夫ですから!」
私は、今出来る精一杯の笑顔を浮かべる。
そんな私の様子に、ついに諦めたのか。
ため息混じりに、良介さんはこう続けた。
「…解ったよ。ただし、絶対に怪我とかするなよ!いいな?」
「大丈夫ですよ。良介さん。それに?」
「それに?」
私はピッ!っと右の人差し指を天井に向かって立てると、こう言い放った。
「知ってますか? こういう時の女の子は…、絶対に負けないんですよ?」
場の空気を変えたくて、スバルさんに以前借りて読んだ漫画のヒロインが言っていたセリフを私は動きも再現して口にした。
…次の瞬間、空気は確かに変わった。が、それが良介さんを中心とした大爆笑だったのはどうしても納得がいかない…。うぅ…。
10分後、私は108部隊の屋外演習場に出ていた。
今まで居た隊長室からそこまでの移動。
その間に、これからやるべき事の復習。
たったそれだけの作業で、それだけの時間と使ってしまった。
…あの人は、きっと待っている。
「キャロ」
演習場に出た途端に呼びかけられる。
そう、私がよく知っている声に。
「フェイトさん…」
見慣れたバリアジャケット姿。髪型はいつものストレートヘアの先をリボンでまとめた髪型と違い、ツインテール。
これが、戦闘状態のフェイトさんの姿だった。
いつもの穏やかで物静かな印象のフェイトさんも素敵だと思う。
けど、バリアジャケットに身を包んだフェイトさんも、いつもとは違う、凛とした、戦う女性の美しさを感じて、私は好きだった。
「ゲンヤさんから『リョウスケと会わせる前に話して欲しい人が居る』って言われて待ってたんだけど…、キャロだったんだね」
「私がお願いしました。フェイトさんと、どうしても話したくて」
「そっか…。それで、何かな? 話したい事って?
…リョウスケのこと?」
「そうです。」
さぁ、ここからが本番だ。
「フェイトさん、ここへ来たのは良介さんにチョコを渡すためですか?」
「え? …うん、そうだよ。」
そう、私はそれを知っている。だって、昨日の夜、フェイトさんに教えてもらいながら一緒にチョコを作ったのだから。
その時に、その話はしている。
当然、フェイトさんの顔は疑問に満ちている。
さぁ、次だ。
「フェイトさんは、良介さんにチョコを渡した後、良介さんをどうするつもりですか?」
「え? ちょっと待ってキャロ。それは…」
「答えてください」
私は毅然とした態度を装い、フェイトさんに発言を促す。
「う、うん…。チョコを渡した後、リョウスケと…」
そこまで言うと、フェイトさんの顔は急激に赤みを増した。
表情も、光悦としているというか…。
思考がどこか別の世界へ行ってしまってるような感じである。
正直、思考を現実へと引き戻すのが気の毒ではないかと思うほど。
かといって、このままでは話が進まない。
私は意を決して…。
「あ、あの…、フェイトさん?」
「はっ! あ、え、えっと、その、ごめんね? やっぱり…、恥ずかしくて言えないよ。それに、キャロにはまだ早いと思うし!」
この言葉に、私はコケた。
『恥ずかしいから言えなくて、私にはまだ早い事って…、一体何を考えてたんですかっ!? フェイトさん!!』
そう叫びたくなるのを必死でこらえる。
なんだか、私までよく解らないが顔が熱くなってきてる。
ふらふらと起きて、深呼吸をしながら、荒れた呼吸を整えると…、
「キャ、キャロ? 大丈夫…?」
「はい、何とか…。もう細かい事はいいです…。とりあえず、良介さんと二人っきりになりたいってことですよね?」
「あ、うん。そうだね」
「…でも、それは難しいと思います」
私が発した言葉に、場の空気が凍りつく。
フェイトさんの表情も同様である。
「…どうして、そう思うのかな? キャロ」
「それは、私が…、いえ、私たちが今まで良介さんと行動してきたからです」
そして、私は、今まで起きたことを話した。
ギンガさんに良介さんの力になって欲しいと頼まれて、今の今に至るまでのことを。
フェイトさんは、黙って私の話を聞いてくれた。
「…そっか、キャロはリョウスケの力になりたいんだね」
「はい、ギンガさんと約束しましたから」
「なら、私とは敵同士ってことに…なっちゃうのかな?」
フェイトさんは悲しそうな笑みを浮かべてそう口にした。
心なしか、バルディッシュを握る手にも力が入っているように見える。
「そうなるかどうかは、これからです。…フェイトさん、一つ聞いてもいいですか?」
「うん、なにかな?」
「もしここで、フェイトさんが良介さんを連れて行ったとして、それをなのはさん達や、ナンバーズの人達が放っておくと思いますか?
…私は必ず追ってくると思います」
「確かにそうかも知れない。でも、私が必ずリョウスケを」
「守る、ですか? でも、それは無理です」
「キャロ、どうしてそんな事言うの? 無理じゃないよ?」
「…もう一度言います。無理です!」
私は、強く言い切る。大事な人に対して何故ここまで強い言葉を振りかざさなければならないのか?
自分で意味が解らなくなりながらも、呆然とするフェイトさんに対して言葉を続ける。
「例えばフェイトさんと、フェイトさん達を追ってきた『誰か』と闘うことになったらどうします?
その影響を、攻撃魔法等の危険な余波を、一番多く受けるのは誰ですか? …良介さんです。
フェイトさんは、好きな人をそんな危険な状態下に置く事を『守る』と言うんですか? 私には、そんな風には絶対思えません」
「そ、それは…」
普段の私からは絶対考えられないような辛らつな言葉に、言葉を詰まらせるフェイトさん。
心なしかその瞳にはいつしか涙まで貯めている。その表情を見るたびに、砕けそうな心に私は鞭を打つ。
もう少し、後少しだけ・・・。
「私は、フェイトさんの…ううん、フェイトさんだけじゃない、今回の件で良介さんを追いかけている方々の気持ち、解ります。
好きな人を追いかけたい気持ち。一人占めにして自分だけのものにしたい気持ち、すごく解ります!
でも、もしそのために良介さんの身が危険にさらされるのなら、それは絶対に見過ごせません!
私が、私たちが全力で皆さんを止めて見せます! 私たちにとっても良介さんは大事な人ですから!!」
そう、それはギンガさんに協力を頼まれた時にエリオ君とルーちゃんとアギトちゃんと決めた事。
誰が悪いとか正しいとかそういう事じゃない。
みんな良介さんのことが好き。その気持ちは同じ。だから守る。…理由はそれだけでいい気がした。
「キャロ…」
「今日だって、良介さんと合流した時だってそうです。
スカリエッティのアジトから吹き飛ばされてきたのを見た時は、すごく怖かった!
心の中で『良介さんなら大丈夫』って、何度も何度も繰り返しても、無事を確かめるまではずっと…怖かった」
そこまで言うと、関を切ったように涙が溢れ出した。
だめ、こんなとこで泣いたら、フェイトさんのこと止められない。
もっとしっかりしなくちゃ…。
そう思って涙を拭おうとする私を温もりが包み込む。
…私は、この温もりを知っている。
「キャロ、大丈夫?」
フェイトさんだった。
「フェイトさん…?」
今のフェイトさんは、陸士部隊の制服にストレートヘアーのさらさらとした髪。その先を黒いリボンで一つにまとめている。
そう、フェイトさんは、さっきまで装着していたバリアジャケットを解除していたのだ。
懐からハンカチを取り出して、私の涙を拭いている
「バリアジャケットは…?」
「あ、解けちゃってるね。なんか、キャロの泣いてるの見たら居ても立っても居られなかったからかな?」
『キャロはそんなことないようにね』と付け加えて、フェイトさんは言葉を続ける。
「私、キャロに叱られちゃったね」
「あの、すみません…」
フェイトさんは、私のそんな言葉に首を振り
「どうして謝るの? 悪いのはきっと私の方。いっぱい辛い思いさせちゃったね。ごめんね、キャロ」
フェイトさんは私を抱き締める力を強める。
(そんなことないです。フェイトさん)
私だって、きっとフェイトさんを傷つけた。
大事だって言いながら、フェイトさんの良介さんを思う気持ちを傷つけた。どっちが悪いと言うなら、私の方がずっと悪い。
そう思いながら、私はフェイトさんの肩に顔を埋める。
「…ね? キャロ」
「はい」
「キャロが言いたい事はよく解った。リョウスケを必要以上に危険にさらしてまで、自分の意地を通したいとは私には思えない。
でも、私はリョウスケの事が好き。だから、どうしても譲れない事があるんだ」
「はい…」
「…チョコレートは渡してもいいよね? せっかく作ったし、リョウスケに食べて欲しいし」
なにやらモジモジしながらそう口にするフェイトさん。
その予想してなかった答えに私は拍子抜けする。
でも、同時にそんなフェイトさんがすごく素敵に見える。
フェイトさんの質問への私の返事はもちろん…。
「はいっ! きっと良介さん喜びます!!」
「そうだと嬉しいんだけど。それと、私もキャロ達に協力させて」
「えっ!? い、いいんですか?」
「うん、というより、そのつもりだったんだよね? 最初から」
そう、私の狙いはフェイトさんをこちらへ引き入れる事だった。
フェイトさんとじっくり話すために、一人で会う事を選んだ。
もし、ガリューやルーちゃん、エリオ君が居た場合、それが出来ない可能性があったのだ。
…予定していた物より、だいぶ酷い展開だったけど。
「…いつ解りました?」
「気付いたのはついさっき。 変だなって思ったのは最初からかな。キャロ一人で来る時点で何かあるなって思ってた。
あと、普段のキャロだったら絶対に言わないような事ばかりだったから。…良介の提案?」
「いえ、私です。どうしてもフェイトさんと戦いたくなかったんです。
それで以前、良介さんに『敵を説得して戦わずして勝つ方法』というのを少し教えてもらったことがあったのを思い出して、それで…」
それだけの一心だった。
私が良介さんに教えてもらったのは基本の一つ「下げて持ち上げる」
「話の最初はとにかく叩く。でも、後半は誉めて誉めて褒めちぎっておけば、叩いた分だけ相手の印象はよくなる」という点のみだった。
今回やろうとしたのはそれである。
でも、良介さんみたいには全く出来なかった。
私がやったのは、自分の気持ちをぶつけて、フェイトさんを傷つけた。説得でもなんでもない。
良介さんなら、それこそ湯水が湧き出すようにスムーズにやれたはず。お互いに傷が残らないように、最大限の配慮をしながら…。
「リョウスケは、その辺りの才能が突出しているから、比べるのはやめたほうがいいよ」
フェイトさんが、苦笑しながらそう話す。
…確かにそうかもしれない。
「それに、私は気にしてないから。ね?」
そう言って、いつもの笑顔を私に向けてくれるフェイトさん。
その笑顔にを見ていると、また涙が溢れ出してくる…。
「あの、フェイトさん」
「ん、なに?」
「…もう少しだけ、こうしててもいいですか?」
今がどういう状況かはよく解っているつもり。
でも、少しだけ、この温もりに包まれていたい。
「…うん、いいよ」
そう言うと、フェイトさんは私をさっきより強く、ギュッと抱き締めてくれた。
そして、私はフェイトさんの肩に顔を埋め、少しだけ泣いた。
何に対しても涙かは、私にもよくわからなかった。ただ…。
私を痛いくらいの抱き締める強さが、今はとても心地よかった…。
すいーとうぉーーず りざると
Sideキャロ
現時刻 11:13
第108部隊 敷地内→第108部隊 屋外演習場(キャロのみ)
単独でフェイトと対峙
フェイトの説得に成功
フェイトとの同盟フラグ成立
敷地内で良介、ルーテシア、アギト、エリオ待機
(ガリュー、出番を取られてちょっと落ち込む。ルーテシアとアギトに慰められる)
良介、エリオ、モニター越しに演習場の様子を逐一チェック
ハラハラする。
ゲンヤ部隊長、それを見て呆れ気味
良介の麻痺回復までまだまだ
取得アイテム
強い決意
乙女の恋心
家族の絆
大事な約束
未完成な扇動力
フェイト・T・ハラウオン脱落
(キャロによる説得のため)
夜天の王
スルナカン上空
金色の死神の反応のあった場所へ全速力で飛行中
既にユニゾン済み
白の魔王 無限の欲望のアジト破壊後、ヴォルケンリッターと接触。一触即発の状態に
夜天の王VS金色の死神
バトル発生フラグ
未だ健在
夜天の王VSライトニング+α
バトル発生フラグ
未だ健在
白の魔王VSヴォルケンリッター
バトル発生5秒前
2/14終了まで
―12時間47分―
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