ここ最近、俺の周りはようやく静かになった。
流石にこう長くネタを引っ張ると飽きてきたのかもしれない。

ま、元々がマメだぬきのストレス解消にはじまったことなんだし、
この事自体にこだわりが無いんだろう。
飽きれば止める。
それだけだ。


俺は久しくやっていなかった自室の片づけを行っていた。
昔、放浪の旅をしていたせいなのか、いまいち物を捨てるということが出来ない。
だからうちのメイドさんに
「みだりに買い物をするな!」
「いらないと思ったならちゃんと捨てるなり売るなりして!」
と怒られるのだ。

そう言われてもこればかりはどうにもならん。

だがやらないと後が怖いので俺は渋々部屋の片づけを実行していた。


「お…」
俺が見つけたのは浅黄色をした刀袋だった。
紐を解き、袋を外す。

中から現れたのは今も尚、真紅に染まる刀身。
俺が初めて手にした、俺だけの刃。
紅の竹刀。

俺は多くの戦いをこれと共に戦ってきた。
色々とあって今は使っていないが、それでも手入れを欠かした事はない。

今の俺が始まった…本当の意味での俺の原点。

「コイツ以上に俺に相応しい武器は…ないな」
柄を握る。それだけで手と一体になったような感覚。
軽く振り上げて…振り下ろす。
ヒュン、という音と共に空気が裂かれた。





「あかん……」
うす暗い部屋の中で八神はやては頭を抱えていた。
適当な気持ちで始めてしまった良介の武器探し。
だがそれはどんどんと変な方向に飛び火して拡大していった。
そんなのは日常茶飯事。
いつもの事だ。

だが、こうもライバルが増えてしまうと適当なものを出しては自分のインパクトが薄まってしまう。

「もうそろそろネタ切れも近いかなぁ…」
無論、世界にはまだまだ未知の剣が多数在るだろう。
だがそれを見つけるのもまた一苦労。
ストレス解消のためにわざわざ疲労とストレスを背負っては本末転倒である。

はやては少し考えた末にデスクからレポート用紙を取り出した。
「こういう時は新しい企画の立ち上げや!!」


その企画で苦労するのは結局同じ人物になるのだが…

そこは華麗にスルーしたのだった。









それからどうなったか?

 あえて言うなら、「とくになにも」ってところだな。
 いつも通りの日常が戻ってきただけさ。

 あれだけ騒がしかったのが嘘みたいに、今は平穏を謳歌してるぜ。
 はやての奴もネタが尽きたのか知らないが、最近は随分おとなしくしてやがる。
 うるさかった連中も、いつもの日常に戻った。
 いつまでも馬鹿やってるわけにはいかないしな。

 はやての気まぐれで始まった、変な毎日だったが、終わってみると何て事はねぇ。
 いつも通りややこしい事件が起きて、いつも通り病院のベッドで目を覚ましたり、
  何て事も、全部いつも通りの日常だったように思えるな。

「さて、この武器の山、どうすりゃいいんだ?」

 後に残った物といえば、連中の持ち込んだ多種多様な武器の数々。
 保管するには個人の手に余るが、かといって処分するわけにもいかない危険なブツだからな。
 アリサあたりに全部押しつけよう。 うん。

「でも捨てがたい物も中にはあんだよなぁ。 うーむ、もう少し手元に置いておくべきか・・・悩むな」

 いろいろあったが、いざ終わってみると、妙に物足りないのはなんでだろうね?
 ひょっとして自分でも知らない間に、俺の身体って刺激なしじゃ生きられなくなっちまったのか?

 ・・・・・・考えるのはやめよう。 何だか悲しくなってきた。

「これが日常と思えてきた自分が虚しいな、今度ゆっくり旅行でもしてみるか?」

 何て考えに行き着いて、やれやれと首を振る。

 平穏な日常が俺に似合うと思うか?
 面倒事を起こすのは、自分でも周りでも、どっちだって構わねぇ。
 いつだって、俺の人生は刺激だらけで、退屈なんて感じてる暇さえなかったろ?

 こうしている間にも、刺激ってのは向こうから勝手にやってきやがる。

 本当か、て?
 まぁ、見てな。

 

 甲高い音と共に勢い追いよく開かれる事務所の扉。
 そこから入ってきたのは、新しい遊びを思いついた子供のような笑顔を輝かせた、はやての姿。

「良介!! 新しい企画を考えてきたで!!!」

 そらな? 退屈させないだろ?
 誰が何て言おうと、どうやらこれが俺の日常らしい。

「今度は何だよ、はやて。 また面倒なのは勘弁しろよ?」

 なんて言葉とは裏腹に、自分の口元が期待に綻ぶのがわかる。
 向かい合うはやてと、たぶん同じ顔してんだろな。

 こうして、またいつも通りの日常の始まりだ。

 “刺激があるから人生は楽しい”、あんたもそう思わないか?







作者さんへの感想、指摘等ありましたら投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。