各種手榴弾――単純に攻撃目的の物、強烈な閃光によって敵を無力化する物、電子機器を無効化する物、煙を発生させる物……。

多種様々な手榴弾を『ドコにそれだけの物が入るんだ?』と疑問を感じずには居られないサイズのポーチに放り込んでいく。

次に別のポーチに各種回復アイテム類、ポーションは言わずもがな、大抵の異常を素早く除去してくれる万能薬等を先程と同じく

詰め込んで行き、最後に多数の機能を備えたツールナイフ、他の仲間達と連絡を取り合う通信機等も同じポーチへと押し込んだ。

最後に三つ目のポーチには拳銃のマガジンを『これでもか!』と言わんばかり、ありったけ、あるだけ全部、ドコから取り出した

のか解らないほど大量に放り込み……否、押し込んで完了として、用意したポーチを頑丈そうなブッといベルトに通す。

自分が使い易い位置にポーチを移動させた後、青年は近くに置いてあったガンケースから一挺の拳銃……。

発砲時の音を極限まで小さくするサプレッサーを取り付けたオートマチック拳銃を取り出し、明日から通う事になった学園の制服。

ブレザー型の内ポケット(※改造されている為、拳銃を収めるスペースが確保されている)の中に収め、セーフティをかける。

 

 

「――しかし、何で今更『学校』なんだ……?」

 

 

彼はある組織――『国境無き軍隊』と呼ばれる特殊な外人部隊、その筋の人間なら知らぬ人間は居ないと言われている伝説の傭兵。

『BIGBOSS』と呼ばれている者が総司令官となり、設立された部隊に所属している青年であり、同部隊で様々な経験をしてきた。

あらゆる武器に関する知識や扱い方に戦い方、車は勿論ながら装甲車や戦車、それに戦闘ヘリや戦闘機に至るまで、あらゆる兵器の知識

に運用法、それを扱っての戦い方を身につけた生粋の兵士であり、様々な作戦に参加して結果を残し、同組織に貢献してきている。

元々――彼は『絶滅社』と言う何とも物騒極まりないネーミングの民間軍事企業に所属していた――『人としての限界を超越した者』

微小機械・ナノマシンの血液、軽量且つ強靭な強化骨格に常人を遥かに超える身体能力を与える人口筋肉、それ等を併せ持つ『強化人間』

それが彼であり、同社が抱えている『この世ならざる者』を一匹残らず殲滅し、人類に恒久的な平和を与えると言う非常に大層な理想を

完遂すべく生活費を稼ぎながら戦って来たのだが……同社のあんまりにもあんまりなハードワーク&低賃金に嫌気を差して除隊した。

 

――さて、これからどうしようかと言う所を『国境なき軍隊』にスカウトされる。

 

彼は『ウィザード』と呼ばれる者。

この世ならざる化け物達に対峙出来る力を秘めた『夜闇の魔術師』であり、同時に絶滅社で極めて高水準での戦闘訓練を受けている。

そんな人間が野に下っている事を聞いた『国境無き軍隊』は彼とコンタクトをとり、破格の賃金と衣食住の保障を条件に引き入れた。

 

それから彼の受難は始まる……。

 

 

 

凄い数の兵員が配備されている拠点に『一人で』潜入して情報を持ち帰れと言われたり……。

 

敵が使用している装甲車や戦闘ヘリ、挙句の果てには戦車を鹵獲しろと言われたり……。

 

機種転換訓練も受けていない輸送機や戦闘機を敵拠点から奪取しろとか言われたり……。

 

国境無き軍隊総司令・BIGBOSSこと『スネーク』の潜入支援の為、敵機甲部隊の足止めを命令されたり……。

 

スネークが持ち帰った情報を元に判明した島に行き、トンでも無いバケモノとも交戦させられたり……。

 

国境なき軍隊の本拠地に襲撃してきたトンでも無いバケモノの一種と戦わされたり……。

 

実戦テストだと、所有している機動兵器・メタルギアZEKEと一対一で戦わされたり……。

 

敵が繰り出してきた大型機動兵器を倒し、内蔵されてるAI記憶板を抜き取って来いとか言われたり……。

 

出現したエミュレイターの群れを殲滅して来いとか言われたり……。

 

 

 

他にも様々な無理難題、無茶無謀、泣きたくなる位の内容の任務を副司令・カズヒラ=ミラーに押し付けられた事は記憶に新しい。

あんまりにもムカついたので支給されたスタンロッド、接触させた敵に強烈な電流を浴びせて昏倒させる武器を食らわしてしまった。

『バチバチッ!』と強烈な電撃音に青白いスパークが弾け、問題のカズヒラ=ミラー、俗称・カズは『あばばばばばば!』と電流を

マトモに浴びてその場にブッ倒れて頭の上に星を浮べて昏倒していた、ちなみにその星の数は五つだったと追記しておく。

なお、カズが起きた時に反逆者にされそうになったが、騒ぎを聞きつけたスネークに事情を説明したら、呆れ顔のスネークによって

CQCを掛けられた後で国境無き軍隊、俗称・MSFの本拠地である洋上プラントの甲板からカズは海へと叩き落とされていた。

 

とりあえず思う事は――『よく生きているなぁ』

 

この一言に尽きる。

カズの無茶な任務大乱舞のお陰で何度も実戦を経験する事は出来たし、様々な武器を好きなだけ扱えた事は感謝しなければならない。

他にも装甲車や戦車、戦闘ヘリに輸送機、そして戦闘機の操縦方法を覚えたし、MSFの整備班の人からそれ等の簡単な整備法も

教えて貰ったから悪い事ばかりではなかった(※どうだ、俺のお陰だろう!とかホザく副司令にはもう一度スタンロッドを喰らわした)

 

 

そんな彼、クレイル=ウィンチェスターに下された新しい任務が――『学校に行け』と言う任務。

 

 

最近になって開校された超ド級の大型学校『生まれたての風学園』と呼ばれる学園の理事長から依頼があったらしい。

何でも、様々な場所から多くの生徒が来る事になり、その中には訳アリの生徒、親が政治家だったり資産家だったりする生徒も多数居る。

そんなだから外部の悪意ある者達に狙われるかもしれないし、危険が及ばないとは言い切れないから、ある種の潜入ミッションが用意された。

 

生まれたての風学園の生徒となり、外部からの悪意を排除せよ。

 

頭が痛くなる様な内容だし、長期ミッションになるとの事だが――幸いな事に今回はちゃんとしたマトモな援護が得られるとの事。

同校の警備員として国境無き軍隊・MSF総司令、スネーク事BIGBOSSが配属されるし、国境無き軍隊と繋がりがある『ミスリル』と

呼ばれている傭兵組織から人員が送られ、彼等と共同する事が出来るから――何とかやって行けそうな気はしないまでも無い。

 

 

「まぁ、受けたモンは仕方ない――精々、後れを取らない程度に気楽にやるさ。」

 

「ついでに学園の可愛い女の子達を写真に収め、フルトン回収システムでマザーベースに送れ。

 お前が納めた写真の子の可愛さのランク、シチュエーション次第で追加報酬を……あばばばばばばばばばッッッッ!!!?」

 

 

何時の間にか部屋に入ってきて、フザけた事を抜かしている副司令・カズヒラ=ミラーことカズに振り向き際にスタンロッドを喰らわす。

 

 

「ちょっと、何するの!?副司令に向かってスタンロッド喰らわすなんて、酷いと思わな――ぶべらっ!!?」

 

 

電圧が足りなかったようなので、CQCを掛けて投げ飛ばし、カズを沈黙させようとする。

 

 

「次、フザけた事言うと司令にチクり入れますので。」

 

「良いじゃねぇかよぅ……こんな海の上でムサい野郎に囲まれてる俺らの身になってみろ。」

 

「――で、何か用でもあるんですか?」

 

「おおっと、そうだった。お前にコレを渡しておこうと思ってな。」

 

 

カズは持って来ていた……見るからに『頑丈!』と言わんばかりの外観と大きさに長さを備えたガンケースを『ズドン!』と置く。

クレイルは『何ぞ?』的で訝しげな表情をしながら、慎重にガンケースを開けて見ると――中には『自分が使っていた数々の銃』

が収められており、そのドレもが完璧な状態で整備されている事が解るし、使用する弾薬類については別に用意されたケースの中に

『これでもか!』と言わんばかりにみっしりと詰まっており、暫くの間は補給を行えなくても戦えそうな数量だと言う事は解る。

ケースの中に収められていた自分と共に戦った相棒たちを手に取りながら構え動作を取るクレイルを見て――カズは不敵に笑った。

 

 

「おおっと、驚くのはまだ早いぞクレイル。

 困難なミッションに赴くお前にMSF研究開発班からプレゼントだ。」

 

「プレゼント……コレじゃなくてですか?」

 

「はっはっは、見て驚け聞いて……笑うな、感動しろ!」

 

 

ドコに収めているのだろうか?と疑問が残るサイズのアタッシュケースを一つ、再び長大なガンケースを取り出したカズに疑問を

抱くのだが、目の前の副司令官はそんなクレイルの視線と疑問をサラリと受け流し、不敵な笑みを浮かべ、無意味に勝ち誇った

笑顔をしながら暗に『早く開けろ!そして驚け!』と言わんばかりなので、とりあえずアタッシュケースを開けると――。

 

 

「潜入・戦闘用装甲強化服『スターイーグル』――オクタヘドロンから流れてきた戦闘スーツだ。

 ……あー、詳しい事は解らんが、精神感応金属とやらを利用した繊維で造られたらしく、耐刃・耐弾性は勿論。

 更にはスーツ側からのアシストで攻撃力を飛躍的に高める事も可能とし、ある程度の魔法的防御力も備えている。

 後、我がMSF研究開発班が勝手に……ゴホン!試作的に取り付けた機能もある、使用する前に同封したマニュアルを読む様に!」

 

 

……学校の任務が主となるのに何でそんな『今から戦いに行け!』的な装備を渡してくるのだろう、と思ったが口に出さない。

備えあれば憂いなし――明らかに学校での任務には過剰気味だと思うが、良い装備はあって困る物でも無いから在り難く頂戴する。

次に――明らかに、そして無意味に、勝ち誇った顔で説明し終えたカズは無言で『ソコのガンケースの中身を確認しろ!』と訴えて来た。

とりあえず、溜息を付きながら長大かつ頑丈そうなガンケースを開けてみると……。

 

 

「これは―――。」

 

「フフフ……我がMSF研究開発班の日々の努力により、我々はレアメタル!先ほどのスターイーグルにも使用されている金属!

 ファンタジー小説や、ゲームで御馴染みの超金属である『オリハルコン』の精製に成功し、それを用いて造ったのがソコの二振りだ!

 ……いやぁ、優れた能力――具体的に技術レベルMAX近い兵員を探すためだけに各地でフルトン回収……説得しては配属と解雇を

繰り返し、研究開発レベルを高めた日々が懐かしい……。」

 

「微妙に作者のメタ発言が入ってますね。」

 

 

ナイフの刀身をそのまま長くした様な剣――柄の所に小さな鍔状の部分が設けられた直刀型の剣が一振り。

その隣には刀身がやや短い、言うなれば小太刀の様な短剣が一振り、専用シース(※鞘)と共に収められており、クレイルは手に取る。

 

 

「ナイフや剣での戦闘術に長けたお前の為に造り上げた珠玉の一品!

どうだ!我がMSF・研究開発班からのプレゼント、喜んで貰えたか!」

 

「ありがとうございます。……しかし、一つだけ懸念が……。」

 

「何だ、不満でもあるのか?」

 

「いえ、貰った装備はどうやって運ぶのだろうかと……。」

 

「…………。」

 

 

数々の銃器・弾薬の入ったケース、先ほど貰った装備の収められたケース……。

此処、MSFの本拠地であるマザーベースに居る時は全く問題ないのだが、今回の任務を遂行するにあたってクレイルは此処を離れる。

問題の学校『生まれたての風学園』の近くに用意されたセーフハウスに居住する事になるのだが、そこまでどうやって運ぶのだろう?

ダンボール支援による輸送では落下時の衝撃で武器は破損してしまう恐れがあるし、弾薬類に限っては『ドカン!』と行く可能性もある。

他の輸送手段を用意してくれている物だろうと思ってカズを見てみると、汗をダラダラ流しながら硬直しており、何か『しまった!』的な

表情を必死で隠している様子すら伺えるから……輸送手段は用意されていないのだろうと自己完結した。

 

 

「ま、まぁ、武器の輸送に関しては此方の方でどうにかしよう。」

 

「…………。」

 

「ええい!そんな目で俺を見るな!!早く寝ろ、この野郎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、明日から学校か……だりぃ、うぜー、サボりてー。」

 

「いきなりだな、オイ。」

 

「陣耶、お前だけ良い子ぶろうったって無駄だぞ、俺の予定ではお前の奢りでパチンコツアーだ。」

 

「パチンコ関連ならケイだろ。

 ついで、俺のサイフはベルにタカられてすっからかんだ、タカるなら他所を当たれ。」

 

「何と言うリア充。デスノートに名前書いてやる。」

 

「ベルの気まぐれに振り回される勇気があるなら、何時でも代わってやるぞ。」

 

 

ケイスケ=マツダ、そして皇陣耶は――此処、海鳴で話題の喫茶店『翠屋』の床に洗剤を撒き、汚れごと床を削り取らんばかりの勢いで

がしゅがしゅ、わっしゃわっしゃと床磨きに精を出していた(※手抜きしてるのがバレたら給料差っ引かれる恐れがあるので)

そうやって二人が他愛も無い会話を行いながら床の汚れと挌闘していると――厨房の方から『パリーン!』と言う甲高い音が響き……。

 

 

『ちょっと!あんた、また皿割ったわね!!』

 

『う、うるせぇ!今月入ってまだ三枚目だ!!』

 

 

などと言う怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 

「おい、陣耶。

 お前の嫁が暴れない内に止めて来ないと後始末が大変だぞ。」

 

「……物凄く引っかかる物言いだな、オイ。」

 

「いやはや、この世界があらゆる意味で素敵かつ広大極まりないカオス世界とは言え――。

 世界を滅ぼし兼ねない最強クラスの大魔王、可愛いとは言え魔王を口説き落とした奴に何を言われてもだな。」

 

「ぬぐぐぐ……。」

 

 

そう、皇陣耶と言う少年は――ケイスケとの話題で上がった魔王、それも掛け値無しでこの世界を滅ぼしかねない力を持つ大魔王。

この世であってこの世でない場所より現れる正真正銘の化物たる『侵魔』と呼ばれる者達を統べる――太古の神である者。

万物を飲み込んで消滅させる『虚空』の力、そして光の根源たる『天』の力に愛された魔王・ベール=ゼファー。

そんな存在を皇陣耶は口説き落とし、更に『アンタが私をその気にさせ続ける限り、世界滅亡させる気は無い』と言う言葉も頂戴している。

……何でこうなった、どうして彼女を口説き落とそうとか考えたのか解らないし、ベール=ゼファーことベルに聞かれても『惚れたから』

としか答えない(※その場の成り行きで〜とか、なんとなく〜とか言おう物ならマジで殺されかねない、世界滅亡レベルの危機になる)

 

まぁ、彼女を口説き落とした事で良い事もあった。

 

ベルが何故か自分の家に居座って掃除・洗濯・炊事をやってくれるし彼女の配下となる侵魔からは襲われなくなった。

ついでに最近現れ始めた『冥魔』とか言う新種についてだが、ある程度の強さを持った奴が現れたとしても――彼女が排除してくれる。

つまる所、自分自身の身の安全は今の所は完全保障されているのも同じである。……ベルが居る限り。

ちなみに、デメリットとして空気を読まないウィザードから度々襲われる事もあるし、ベルを強烈にライバル視しているアホの子。

超公・パール=クールとか言う金髪ロリツインテールによって何度も襲撃されるが、その度に翠屋のシュークリームを献上する事で撃退。

若干のリスクで最大限の効果を得られるこの手法を以って、超公……巫女服に身を包んだロリツインテールの魔王にお帰り願っている。

他にも多数の名前のある魔王、著名な魔王が翠屋にやってきては――自分とベルを散々からかって、最後に何らかの菓子を買って帰ると言う

言わば一種の『魔王寄り合い所』と化してしまった事に挙げられるが、店長は『売り上げが上がるし、綺麗で可愛いから絵になるわー』

等と状況が解ってない発言をする始末。

 

 

「――うし、掃除終わり。」

 

「厨房の方は?」

 

「片付いてない方に100万ガバス。」

 

「奇遇だな、俺もそっちに100万ギル。」

 

「ちっ、賭けになりゃしねぇ。」

 

 

掃除用具をロッカーに放り込み、二人は片付いてないだろうと思われる厨房に足を運ぶ――。

 

時間にして30秒、この翠屋の心臓部ともいえる部分に足を踏み入れた瞬間、それは目に入った。

可愛らしい顔を膨らませ『私、不機嫌です』と言わんばかりの様子でテキパキと動いている――陣耶の嫁と称された美少女魔王・ベル。

そして、ドコにあったのか解らない、ぶっといロープで簀巻きにされて隅の方に転がされているのは……自分達と同じく、此処翠屋にて

バイトしている『竹之内ケイ』であり、彼の置かれた惨状を見て何があったのかを二人は瞬時に悟り、何を言うまでも無く作業に入る。

 

 

「……聞くまでも無いけど、何があった?」

 

「ケイが皿を更に二枚割ったから、邪魔にならないように簀巻きにしてやったわ。

 レジ閉めはアギトがやってるから、後は此処だけ片付ければ終わりね。」

 

「なるほど……。」

 

 

『ねぇ、今どんな気持ち?どんな気持ち?』とドコぞの大型掲示板で生み出されたウザい事この上ないAAの様なセリフを吐きながら

簀巻きにされたケイをからかっているケイスケを見て溜息をつきつつ、洗われて綺麗になった調理器具を指定の場所に収納していく。

……にしても、喫茶店でバイトしてる魔王ってどうなのよ?と、横でシャカシャカ動いているベルを見てそう思うが……まぁ、何事も

平和が一番、日々平穏――何事も起こらない、退屈なくらいで丁度良い。

 

 

「ベル、こっちは終わったぞ。」

 

「ご苦労様。それじゃ、奥に居る桃子さんに全部終わったって言ってきて。」

 

「解った――で、ケイは?」

 

「帰る時まで放置。」

 

「ん。」

 

 

……いや、放置するのかよと思ったが反論するのはヤバイ、後でこっそり助けてやろう――昼食一回全額奢り条件で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翠屋の店長・高町桃子に全作業が終了した事を告げ、その後素早く着替えてイチ早く店を出て、どこぞのステルスアクションバリに

シャカシャカと自分の居城へと戻るケイスケだったが、ここで懐に収めていた携帯が『笑点』のテーマをかき鳴らし始め、取り出す。

携帯のモニターには『メール受信:1件』と表示されていたのだが、誰がメールを送って来たのかは解り切っているので無視。

再び、どこぞのスニーキングミッションよろしく素早く、迅速に、そして誰に見つかるでも無く帰宅していると――再び携帯が鳴る。

……溜息をつき、シカトして帰路につこうとした時……今度は着信が掛り、しかも中々切ろうとしない。

 

 

「……何だよ、スバル。」

 

『あ、やっと出た!あのねケイスケ、明日の事だけど――』

 

「明日は自主的休業です。じゃあな」

 

 

ぴ、と電話を切って素早く自分の居城に――戻る前に近くにある安さ自慢のスーパーに出向き、タイムセール品をごっそりと入手。

そして家に帰って『テキトー』に料理作って、食って、そして寝る、明日行われる開校式なんざかったるくて行ってられん。

開校式とか言う時間の無駄以外何も無い催しよりもバイトしているか、パチンコ打ってる方が余程有意義だ――と、とことんまでに

トリーズナー思考で帰宅していると……目標ポイントその1、豊富な品揃えに加えて良心的な値段で各種食材から生活用品まで販売

している人気の店……『スーパー・毛皮骨肉店』と言う名前的にどうなのよ?と思わせる店名だが……まぁ、良いだろう。

とりあえず、毛皮骨肉店に入りカゴを手にあらかじめ目をつけていた物資(?)を次々に放り込み、閉店間際で賑わう店内――違う。

戦場を駆け巡り、時にはオバちゃんと物品の取り合いになりながらも、何とか確保してレジに持っていく途中で……。

 

 

「――む?」

 

「あ、居た居た。ケイスケー!」

 

 

にぱー、と脳天気な笑顔、元気120%と言う言葉が似合いそうな健康的な笑顔を浮かべ、手を振りながらこっちにくる青い髪の少女。

自分の幼馴染であり、小学校上がる前から腐れ縁が続き、今も尚絶好調でその腐れ縁が続いている、赤い糸と言うより一種の呪い?

そう錯覚させる位にず〜〜〜っと居る少女、スバル=ナカジマがまるで子犬が飼い主の所に戻るが如く、パタパタとやってくる。

……何でコイツは自分限定でこんなにサーチ能力が高いのかと毎回思うし、知らず知らずの間に発信機でも取り付けられているのかと

思わされるほどピンポイントで探してて来るし……逃げても逃げても追っかけてくる、撒いたかと思えば追いつかれている事が多い。

 

 

「……何か用か、スバル?」

 

「えと、ギン姉からケイスケを連れて来る様にって。」

 

「ほぁ?ねーさんが俺に何か用でもあんのか?」

 

「ケイスケは経済危機を迎えてそうだから、連れて来い……だって。

 あ、ちなみに今日はお鍋だよ。お肉も沢山買ったし。」

 

「なん――だと。」

 

 

『鍋』そして『肉』と言う言葉に超反応するケイスケ。

ナカジマ家の鍋は凄まじい程の大ボリュームであり、以前、自分や陣耶にケイを混ぜて鍋パーティーをやった時――。

超☆大飯喰らいのスバルにその姉であるギンガが居て……それでも、自分達が十分に食べれる量の肉や魚が用意されていた。

つまり――マトモな飯をたらふく喰える事を悟ったケイスケは眼をザクのモノアイが如く『ギュピーン!』と輝かせる。

その様子を見たスバルは一瞬、たじろぐが直ぐに笑顔になって――。

 

 

「来る?」

 

「行く!」

 

「ん、それじゃギン姉にメールしとくね。」

 

「ゴチになりやす!」

 

 

HAHAHA、これでたらふく食えるZE!とケイスケは内心で思いつつ、買い物を切り上げてスバルと共にナカジマ家に向かう。

――買い物の後、居城の掃除や『部屋に散らばっている武器』の整理などをする予定だったが、そんな事よりも食糧補給が優先である。

一人暮らしだと如何に金を掛けずに食糧補給をするかが重要となり、尚且つ『ケチる所はとことんケチる、使う所はトコトン使う』が

モットーだから、日ごろの支出はなるべくなら抑えたい所故、たまにこうやって招待してくれるスバルは在り難いと思う。

 

 

「あ、ケイスケー。」

 

「なんぞ?」

 

「ギン姉から伝言、武器とか買う暇があったらちゃんとご飯食べろ!だって。」

 

「…………。」

 

 

スバルから発せられた『武器』と言う言葉にギクリとなるケイスケ。

 

……ケイスケ、陣耶、ケイの三人もまたウィザードとして活動しており、訳の解らん化物と遭遇する機会が常人より多い。

それらを撃退ないし『フルボッコ☆』して日々の生活費を稼いでいる(※最近はあんまり依頼が来ない、侵魔も不景気なのだろうか?)

ので武器を購入して保管しているが――こう、何と言うのだろうか?無意味な収集癖が働いて、彼は色々な武器や装備を買う癖がある。

武器に関しては共産圏で使用されているアサルトライフル、それも違法製造された物や粗悪なコピー品では無い、ちゃんとライセンス品

をウィザードが使用する携帯から繋がるサイトで購入していたり、その――AK−102とか言う銃のオプションパーツや取り付け式の

グレネードランチャーを始め、中近東のゲリラや反政府組織に武装勢力御用達の対戦車用ロケットランチャー『RPG−7』など……。

他にも、周囲の風景に溶け込む事で敵の目を欺く事を可能にしたスニーキング・スーツ『オクトカム』と言うスーツに始め、色々な物が

ケイスケの居城たるアパートに転がっている。

 

 

「ケイスケー、武器の収集癖を抑えたらもう少しマトモな生活できると思うよ?」

 

「もう直ぐだ、もう直ぐオクトカムのローンを払い終わる――それが終われば節制生活も同時に終わる……!」

 

「でも、また違う武器を買って節制生活に逆戻りしちゃうんでしょ?」

 

「ソレは言わないで!?」

 

 

くっ、流石は腐れ縁が続く幼馴染――良く解ってらっしゃる。

内心そう思っていると、スバルはケイスケに頭を向けて……

 

 

「ね、ケイスケ。」

 

「あン?」

 

「私の家においでよ。

 父さんもギン姉も反対しないし、むしろ『来い!』って言ってるから。

 私の家に来たらごはんも食べれるし、家賃も払わなくて良――」

 

「却下!」

 

「い、一瞬で否定しないでよ!?」

 

 

成立しそうになったフラグを粉々に破壊するケイスケ。

『フラグ?フラグよりも自分の生活の安定と、フリーダムが最優先でしょ?バカなの?死ぬの?』的、見事としか良い様が無い

フラグ粉砕っぷりである、しかも反論の余地をはさむ事の無い、真正面からの大否定ゆえに取り付く島すら見当たらない。

 

 

「スバル、俺は自由、そう自由と書いてフリーダムが好きなのだ、解るかねワトソン君?」

 

「自由って言ってる割に、結構拘束されてるよね、いろんな物に。」

 

「…………。」

 

「あれ、どうしたの?」

 

「……いや、なんでも無い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっそー、ベルの野郎……思いっきり縛りやがって……。」

 

「皿を割るケイが悪いんだよ。……桃子さん良い人だから、割った皿の金払わなくて済んでるけど

 本来なら支払わないといけない位に割ってんだぞ、ケイは。」

 

「う、うるせぇ!俺が皿洗ってると割れるんだからしかたねぇだろ!!」

 

「……皿にまで嫌われたのかよ……」

 

 

ハァ、と溜息を付きながらふよふよと飛んでいる――妖精サイズのミニチュアな彼女、アギトは手足に縄で縛られたような痕をつけている

ケイを見ながら『皿を割るな!』と釘を刺しているが、どうも本気で『皿』と言う物事言わぬ無機物の塊にすら嫌われているらしい彼の代わり

に自分が厨房に入るべきなのだろうかと思うが……それだとレジをやる人間も居なくなるし、さてどうした物かと思案する。

そして――そんな自分の苦労も知らず、横でパチンコ雑誌を読みながら『打ちに行くかぁ』等と呟いているケイの頭にハリセンの一撃を叩き込んだ。

夜の闇、街灯の無機質な白い光が照らす中に『スパァーン!』と言う綺麗な音が響き渡る――。

 

 

「〜〜〜ってぇな!何しやがる!!」

 

「何しやがる、じゃないだろ!!

 またパチンコに行くつもりか?また負けるだけなのに!」

 

「ま、負けるって言葉を連呼するな!勝負してないのに負けるとは解らんだろ!!」

 

「ケイがパチンコでボロ勝ちしたらこの世界に何が起こるか解んないだろ!

 負けるならまだ良いけど、圧勝なんかしたら春なのに雪が降る、なんて生易しい物じゃない!

 大地震、火山噴火、記録的暴風雨、下手すりゃそれ全部に加えて津波まで来そうだろ!!」

 

「そこまでかよ俺!?」

 

 

最早、ボロクソやボロカスと言う言葉を軽く超越し、存在否定に入りかけている位の勢いで責められるケイ。

 

 

「だが、断る!」

 

 

しかし、彼にとってパチンコとは文化。

リリンが生み出した文化の極み――と何処かの使徒の如く、文化の一環と称してパチンコ屋に金を寄付している。

……たま〜に勝つ時もあるが、天気予報で『快晴』となって居る筈なのに、大雨が降ったり、電車が止まったりと何らかの出来事が

発生しているから周囲に止められたり、パチンコやっても良いが勝つな!とまで言われたりしているが、辞めない、止まらない。

 

 

正に泥沼……っ!

 

嵌っている……首までっ!

 

負けたから……次は勝つと言う悪魔の囁きっ!

 

囚われているっ……!

 

ギャンブルの魔性にっ……!

 

 

「この竹之内ケイはパチンコを辞めろと言う人間に対して真正面から『NO!』と言ってやる事を――。」

 

「……あ、もしもし、桃子さんですか?アギトですけど、あのですね、次からケイの給料をアタシの通帳に……。」

 

「ちょっと待てぇえぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇ!!!何してんだお前はァァアァァァァァアァァァァァァッッッ!!!?」

 

 

急いでアギトが抱えている携帯を奪取しようと目論むが、アギトはひらりとそれを回避して電話の向こうに居る店長に話をつける。

 

 

「はい、はい――あ、良いですか?それじゃ、それでお願いします。はい、失礼します、お疲れ様で――」

 

「待て!俺に代われ!何が悲しくてお前に俺のバイト代を管理されなきゃいけないんだァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

「うっさい!少し黙ってろ!!」

 

「みぎゃあああああっっ!!眼がァッ!!眼がァァァァァァァアアァアァァァッッッ!!」

 

 

ギャーギャーと近所迷惑知ったことかと言わんばかりに大声を張り上げるケイを沈黙させる為、アギトは自信が持つ火炎の力を応用した技。

一瞬だけ強烈な閃光を発する事で対象を怯ませる――護身用の技を食らわし、その有用性を確認すると同時にケイを無力化させた。

最も、無力化には成功したが更にやかましくなり、とりあえずケイの首筋に当身を入れて気絶させて黙らせ、引きずりながら連れて帰る事にする。

この際、妖精サイズのミニチュア型から普通の人間サイズ(※それでも子供サイズだが)になり、自分達が住むアパートまでずるずる引きずって――。

 

 

「はぁ、やっぱケイはアタシがついてやんないと駄目だなー……。」

 

 

引きずって帰る途中、アギトは呟きながら――『確変キタコレ!!』等と夢の中までパチンコ打っているケイの頭をドツきつつ、帰路に着く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――かくして、役者は揃った……ならば、後は彼らの舞台を用意し、我々は彼らが輝ける様に裏方に徹するのみ――。」

 

 

一見すると簡素に見えてその実、静かに気品を醸し出している机に椅子――此処、生まれたての風学園・学園長室の窓から景色を眺めつつ

窓ガラスに映った己の眼、そして駐車場に悠然とそびえ立つ愛機、自身が盟友だと思っている技術者が造り上げた黒き鋼の侍『スサノオ』

を見据えながら、決意を――この学校の教師として生徒を導き、彼ら一人一人が後に大空へと羽ばたける様、惜しみない援助をする。

そう決意を固める男が一人。

 

 

彼は誰よりも空を愛した男。

 

彼は何よりも信念を追い続けた男。

 

彼は戦いの果てに己が目指すべき道を見出した男。

 

 

彼の名は――グラハム=エーカー。

 

独立治安維持部隊・アロウズと言う軍に所属していた彼は紆余曲折にすったもんだの末に何故か、何故かこの学園の教師として招かれた。

機動兵器を操縦して戦う事しか出来ない男に何が出来るか解らない、だがこんな男でも何かを教える事が出来るならば――教師となろう。

グラハムは己の心を覆い隠してきた黒き鬼の仮面を捨て、己の居る意味と、世界の意味、そしてコレからを担う若者達の意思を見極める為に

軍を抜け、両手に携えた刀を――戦いの道、修羅の道を置き、人を導く為の教鞭を手に取った。

 

 

「……あの、グラハム先生?

 格好良く決めている所を悪いんですが……私の背後で何をしてるんですか?」

 

 

厳粛なムードを見事にぶち壊す言葉。

 

綺麗なエメラルドグリーンの髪をポニーテール状に纏め上げ、年齢と老いと言う言葉を嘲笑い、驚異的なまでに若さを保っている女性。

このカオス極まりない、闇鍋にして混沌の坩堝、作者の手に余りそうな学園を造り上げた『学園長』のリンディ=ハラオウンはジト目で

背後に立ちながら無意味なまでに『只者じゃない』オーラを放っているグラハムに話しかけた。

 

 

「フッ――これからの日々を思い、私の決意を改めて確認していた。

 奇縁ではあるが、この様な機会に出会えようとは……正に僥倖ッ!!

 生き恥を晒した甲斐があったと言う物!!」

 

「あ、あの?グラハム先生……?」

 

「思えば私の戦いはガンダムから始まり、ガンダムに敗れた事で一応の決着となった。

 ……そこで私の戦いは終わったのだろうが、今度は私の力が及ばない場所での『戦い』だ!

 個人的な勝敗と言う訳ではない、生徒の誰一人でも脱落者が出ればそれは私の敗北となるだろう。

 ――望む所だと言わせて貰おうッ!!私が居る限り、私の部隊からは誰一人として脱落者など出させんッッ!!!」

 

 

真面目なのは良いのだが、こうやって間違えた方向に暴走――否、トランザムして突っ走る傾向があるグラハム教諭。

てか、部隊って何だよと思うがそんな突っ込みが彼に届く訳が無いだろう、華麗に鮮やかにグラハムスペシャルでスルーするに違いない。

 

 

どうやら、学園長の苦悩は続きそうだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは――いつか夢見た話の続き。

 

 

これは――様々な人物が織り成す複雑怪奇で優しい物語。

 

 

 

 

 

 

常に世界に生まれ、流れる風が吹く場所に落とされた暖かいお話――。

 

 

 

 

 

 

 

生まれたての風学園――始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

:あとがかれの様でそんな事は無かったぜ!:

 

 

隊員募集!

 

〜君も我々の『潜 友』にならないか?〜

 

我々、国境無き軍隊・MSFは世界の『抑止力』となる為に結成された軍隊である。

凶悪化・多様化するテロ、武装勢力や犯罪組織による犯罪、それらを排除し、力を持たない者達に代わり『抑止力』となる。

我々をタダの戦争をビジネスとしているならず者、美辞麗句を並び立てただけのテロリストと言う人間は居るだろう。

しかし、テロリストや武装組織に対抗するには『言葉』だけでは足らない、残念ながら武力によって対抗するしかないのが現状だ。

独自に武器や装備を持ち、訓練を受けている彼らを力無き一般人が止める事は不可能だろうと私は断言する。

だからこそ、我々『国境なき軍隊』はそう言った者達の為に存在している。

力無き人々に代わり、力を持つ我々がテロリストや武装勢力に対する『抑止力』となる事。

そうで無ければならないと我々考えている。

 

最後になるが、私とて平和を願っている。

 

銃を手に取り、矛盾を抱えながら――真に人々に銃や兵器が必要無い世界が訪れる時まで、国境無き軍隊は存在し続けるだろう。

 

 

国境無き軍隊 副指令・カズヒラ=ミラー

 

 

 

 

国境無き軍隊の此処が凄い!

 

1.充実した人材の数々!

 入隊直後の皆さんは解らない事ばかりでしょう。

しかし、MSFのスタッフが優しく、丁寧に潜入の基本から武器・爆薬の扱い方、CQC技術を指導致します!

また、当部隊には英雄『BIGBOSS』から直接的にそれ等の技術を学ぶ機会もありますし、他の部隊に転属して

様々な技術を獲得し、自分の物にする機会に恵まれています!

 

2.福利厚生バッチリ!ブラックとは無縁です!

 各種保険や有給、特別休暇もありますし、任務が無ければほぼ毎日が休日の様なのも我が部隊の特徴でしょう。

世間で言う労働基準を無視したブラック企業とは無縁も無縁、ちゃんと給与も支払う事を約束します!

 

3.豊富な装備類!

 最新鋭の装備からマニアックな装備、装甲車に戦闘車両、戦車に戦闘ヘリや各種輸送ヘリ、輸送機に戦闘機まで

様々な物を実際に触れられる、操縦できるのでメカ好きやミリオタにとってのヘヴンだと言えるでしょう!!

 

 

他にも各種イベント等も企画しています。

不明点や疑問点、または入隊希望などございましたら『国境無き軍隊』までお電話下さい。

 

代表:Tel−○○○○−×××−■◇■◇

 

 

 

 

 

「……おい、カズ。」

 

「ん?どうしたんだ、スネーク。」

 

「何だ、そのチラシは?」

 

「何って……生まれたての風学園に送る求人案内のポスターだが?」

 

「…………。」

 

 

 

 

 








作者ユウさんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。