「―――すまん、やりすぎた。」


杖を片手に目の前で頭のてっぺんから煙を上げて倒れている少年・シック=クローツェルを見て、シグナムは呟いた。
この少年は物覚えは悪い。しかし、それを補って余りある程の努力と、向上心を持ち合わせており、ヒマな時は訓練に付き合っている。
……本当に、本当にスローペースではあるが、一つずつ教えた事を物にして行こうとするシックに少なからず好感を抱いていた。
だからこの日、ミッドチルダの武装官訓練所で練習訓練用の人型を模した魔道機械を相手に悪戦苦闘していた彼に声を掛け、訓練を行う。

ベルカの騎士が一人、烈火の将・シグナム

一騎当千にして永き時を戦い抜き、仕えるべき主が為にその刃、炎の魔剣・レヴァンティンを振るう高潔な騎士。
彼女はどんなに叩き伏せられようとも、威力を最低限に落としているとは言え――並みの打撃よりも遥かに威力の高い攻撃。
鞘に収めた状態でのレヴァンティンによる殴打を受けようとも立ち上がり、シグナムの言葉を聞き、有効な防御・反撃の手段を模索。
更にそれを実践しようとする彼に対して――こう、熱血教師がごとく『熱の入った指導』をしてしまい、一瞬だが我を忘れて本気の一撃。
その脳天に思いっきりレヴァンティン(※鞘に収めた状態)を振り下ろしてしまい、彼をノックアウトしてしまった。


「う――ぐ……まだまだ……大丈夫……です。」

「そのひたむきな向上心、努力する心構えは敬意に値する。
 だが……これ以上は止めておいた方が良い。」

「でも……シグナムさんに……特訓を付き合って貰ってるんです……うぐぐ……!」


シックは手にしたデバイス――武装官に支給される量産型デバイスを杖の代わりにして立ち上がり、ヘロヘロになりながらも構える。
……シグナムは訓練を止めるつもりだったが、彼の行動を見てもう少しだけ彼を指導する事にしてレヴァンティンを構えた。
シックは彼女がレヴァンティンを構えた後、今までに彼女が取った行動、迎撃された自分の攻撃を分析したのち、しっかりとした足取りで
駆け出し、デバイスを突き出した!


「先程よりも気迫の篭った良い突きだが―――!」


突き出されたデバイスをレヴァンティンで払い、無防備になった彼の脳天に左手の手刀を振り下ろした。


「まだまだ、私から一本取れる突きではない。」


電光石火の手刀を受けたシックは意識を刈り取られ、そのまま真っ暗な闇の中に落ちていった……。






―――そんな思い出があった。


―――ひたむきに頑張る彼の力になれれば、と思って指導をした。


―――しかし、必死に頑張った彼は今は管理局には居ない。


―――でも、もし彼が管理局に戻ろうと……いや、例え管理局に戻る事じゃなくとも


―――指導して欲しいと言ってきたならば全力で応えよう。



烈火の将・シグナムは八神家のリビングでレヴァンティンの刀身に映る自分自身を見てそう思っていた









「……シック君、全然笑ってくれないんだよ……。」


少女・高町なのはは悲しそうな表情で――管理局で偶然会った少女・八神はやてに……昼食時にする会話には少々重過ぎる話。
高町家の家族になったのは良い。兄に、姉に、母に、父に暖かく迎え入れられたが――笑わない、例え笑ったとしても空虚な笑み。
偽りの笑いである事は誰もが気付いていたが……あえて触れず、皆は何時か必ず笑ってくれると信じて待つことにした。

……でも、なのははすぐにでも彼に微笑んで欲しかった。

シグナムやザフィーラに指導されている時の笑顔、どんなに吹き飛ばされても立ち上がり、前を見据えて行く――人を力付ける笑顔。


一目見ただけで自分を勇気付けてくれた笑顔。

子供の様に真っ直ぐで純粋な笑顔。

そして……自分が惹かれたその笑顔。


今すぐでも見みせて欲しい、その笑顔で私を勇気付けて欲しい、何時もの変わらない表情で笑って欲しい。
しかし、そんな彼の表情は―――言葉で言うならば空虚。何も無い、空っぽな表情に体裁と言う言葉を貼り付けただけの表情。
見ていて悲しくなる笑顔しか浮かべない、心が凍ってしまった彼の事をはやてに話した。


「なのはちゃん、なのはちゃんがシック君の笑顔を取り戻したいんは解る。
 でも、急ぎすぎはアカン。……今は心を落ち着かせる事が大事なんやと思う。」

「でも―――」

「なのはちゃん、傷が治りきらんうちに薬を使っても治る所か、化膿してしまう事もあるんや。
 ……今は見守ってあげる事。手を差し伸べて、歩き出すんはソレからでも遅く無いと思うで?」


はやてはなのはに言い聞かせ、どうにも早めに行動を起こそうとしているなのはに『待つ事』を言い渡した。
なのはの気持ちも解るが、今はシックにとっても大事な時期、気持ちの整理をつけて、自分で歩き出す事を決めさせなければならない。
手を差し出して立ち直らせようとするのも優しさだが、時には待って見守る事も優しさだと――はやては言った。


「―――幸せ者やな、シック君。」

「……?」

「だって、なのはちゃんにこんなに好かれとるんやし。」

「え……ち、ちちち違うよ!た、ただ私は、シック君に立ち直って貰いたいだけで―――!!」


あうあう言いながら頭から白い煙を噴出しているなのはを見て『くくく』と微笑む(?)はやて。


「でも、そうなると――ユーノ君がどーなるか…やな。」

「ゆ、ユーノ君はただの友達だよ!それ以上でも以下でもないよ!」

「……なのはちゃん、今、さりげなく酷い事、言わんかった?」

「へ?何のこと?」


頭上に「?」を浮かべているなのはを見てはやては溜息をつき、「ユーノ君、強く生きるんやで」と呟く。
対照的になのはは何故、シックに関する会話でユーノ……今は無限書庫の司書長をやっている『ユーノ=スクライア』の
事が出てくるのか理解できず、渋い表情をしながら紙パックのオレンジジュースを飲んでいるはやてを見続ける。


「まぁ、ユーノ君は置いといて……結論から言うと――今は待ちの一手。
 なのはちゃんも辛いかも知れんけど、今は待つんや。」

「……うん……解ったよ。」

「……なのはちゃん、わたし等で良かったら相談に乗るから、いつでも相談してや。
 わたし等に出来る事は出来る限りするし、シグナムとかザフィーラとかも協力してくれるはずや。」


笑顔で、凄く優しい笑顔でなのはに微笑みながらはやては――惜しみなく協力する、と言う意思を告げた。
はやての笑顔を見て、はやての温かい言葉を聞いたなのはは思わず涙を流し、うつむいてしまう。


「な、なのはちゃん!?ど、どないしたんや!?わたし、マズい事でも言うたんか!?」

「ち、違う……違うよ……嬉しくて……はやてちゃんの言葉が……!」

「そ、そんなん……当たり前やんか。わたし等は『友達』やで?友達が困ってたら助ける。
 至極真っ当、当然で当たり前や……ほら、泣かんと。可愛い顔が台無しやで?」


持っていたハンカチを取り出してなのはの涙を拭き取り、再び笑顔を向けるはやて。


「―――そうだね……私が泣いてちゃいけないよね……!」

「そうやで。なのはちゃんまで泣き顔やったら、シック君を笑顔になんて出来んで。」

「……うん!ありがとう、はやてちゃん。私……頑張るから!」


涙を拭いて笑顔で立ち上がり、そのまま走って行くなのはを見て手を振るはやて――。






笑顔を置いてきてしまった少年の笑顔を取り戻すのに――自分が笑顔を忘れてはいけない。

彼が笑顔を取り戻す、思い出すまで――私は彼の隣で笑顔で居続けよう。

そして何時か……何時か彼が笑ったときは、一緒に歩き出そう。

なのはは心に誓い、走り出した………。










<後書かれ>
 皆様から温かいお言葉を頂き、一安心しているユウと申します。
まずはご感想を送ってくださった皆様、有難うございます。
見て頂いて有難うございます、最弱な主人公君を受け入れてくれて有難うございます。

今回の話は――なのは視点のお話で、主人公ことシックの笑顔を取り戻そうとするお話ですが――。
まぁ、彼女は突っ走る傾向が非常に強い為、勿論――その事が彼女の美徳であり、強さの原動力でもあるのですが…。
そんな彼女のストッパーとしてはやてさん。……なのは系二次創作では、何故かセクハラ魔神として描かれている事が
多い彼女にご登場願い、ご意見役と言うか相談役と言うか……なんとも微妙な立場で出ていただきました。

……え?冒頭部のシグナムさんですか?私のシュミです(何

それでは次回の後書かれでお会いしましょう。失礼します。




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