美由希の隠行毒物料理によって起きた腹痛も久遠の看護のおかげで(?)ようやくおさまった。つーかいまさら回復されても困るんだが……。
そして高町家+α一同も二泊三日の旅行から帰ってきた! 
 のんびりと温泉に浸かってきて、気分もリフレッシュしただろうと思いきゃ……、約一名が旅行前より意気消沈している……。
 ぶっちゃけ、なのはのことだが。
 元気になるはずが、前より落ち込んで帰ってくるってどういうことよ!?
 皆に聞いてみてもわからないって言うし、本人に聞いたとしても
「なんでもないよ」 って返されるのは目に見えてるし……、
一体旅行先で何があったのやら……?





リリカルなのは――力と心の探究者――

第七話『言えないことと、言わなければいけないこと』
始まります





「なのは、洗い物が終わったらちょっといいかしら?」
「うん……」

 夕食後、士郎、恭也、美由希は日課の夜の鍛練に出かけ、桃子となのはの二人だけ。
 桃子は二人きりならばと考え、話をすることにした。
 このところのなのはの様子が気がかりだったからだ。
 家族みんなで話をしているときは元気な風にしているが、時折見せる溜息や元気のない表情、母としては心配でならなかった。
 もちろん、他の家族も気づいていた。いや、気付かないはずがないのだ。だからこそ、今回は気を利かせていつもよりも早い時間に家を出ている。
 なのはの方から話してもらうのを待つというのもあるが、なのははああ見えて精神的に大人びた面もある。心配をかけまいといつまでたっても話さずにいるかもしれない。
 そのため今夜、意を決して話を聞くことにしたのだ。

「それでお母さん、どうしたの?」
「どうしたのって…、それを聞きたいのはお母さんの方なんだけど」

ソファーに座り、ゆったりしたところで話が始まる。

「この間の旅行から、ううん、それよりも前から一人で考え事をしてたり、溜息をついてたり、それなのに何もないなんて言われても、お母さん、納得することはできないわよ」
「うん…その……」

 何とか言葉を絞りだそうとするも歯切れが悪く、後が続かない。
そのまま沈黙が続いてしまう。

「なのは、あなたが皆に心配かけないようにしてるんだってことはわかってるの。でもね、お母さんとしては、あなたに甘えてほしいし、心配もさせてほしいの。私はなのはのお母さんなんだから、そうすることが当たり前なの」
「…………」

 なのはは答えない。答えてくれない。どうあっても心配かけたくないということなのだろうか? それとも……。

「今はまだ話せないということ?」
「……うん」

 話そうにもどう話したらいいのか分からないという感じだ。やはり今はまだ駄目なようだ。

「そっか……、仕方ないわね」

 無理に聞き出そうとしても駄目そうだ。桃子はこの話を打ち切る。

「なのは、話せるようになったら話してね。お母さん、頼りにならないかもしれないけど」
「そんなことないよ、お母さん。ありがとう」

 桃子はなのはの頭をなでて、そのままなのはを部屋へと戻す。
居間には桃子が一人残る。

「はぁ〜……、なのははああ言ってるけど、私って頼りにされてないな〜……」

 やはり自分では無理かと桃子は頭を抱えて悩んでしまう。
 思い起こされるのは、夫の士郎が仕事で大けがを負い、家族みんなが忙しさのために、なのはにかまってやれなかった時期のこと。
 なのはは幼いながらも、皆の忙しさを理解し、迷惑をかけまいといい子にしてくれていた。
 同時にそれがなのはと家族に溝を作ってしまったのだ。
 士郎の怪我が治り、仕事の方も軌道に乗った後も、なのははいい子でい続けた。もうそんな必要はなかったというのに。
 そうしていることが普通となってしまい、我儘を言おうにもどうすればいいのか分からないという風な感じだったのだ。
 桃子たちもまた、なのはにどう接すればいいのか分からず、表面的には仲の良い家族だったが、どこかなのはを疎外していた感があったのだ。
 親としてそれを恥じながらも、互いに歩み寄れない時期が続いていた……。


 でもそれは終わったはずだった。彼が現れたことによって。

「あの子になら、話すのかな……?」

 桃子の脳裏に浮かんだのは、二年前から現在まで交流が続いている一人の青年の姿が。
 自分たちの溝に、踏み込むどころか突撃してきた少年のころの姿が。
 
 桃子は他力本願だとは思うが、彼がなのはの力になってくれることを祈らずにはいられなかった。





 部屋に戻ったなのははベッドに座りこむと、ハア〜、おおきな溜息をついた。

「どうしたのなのは、 お母さんと何かあったの?」
「ううん、何も。というか、何も話せなかったんだけど」
「あ…、その。ごめん……」
「だから、ユーノ君が謝るようなことじゃないよ。仕方ないもん」

 ユーノは自分の事情に巻き込み、それどころか家族にさえ秘密にしなければならないこの状況に恐縮してしまったようだが、なのはは気にする必要はないように言う。
 家族に秘密にするのは心苦しくはあるが、どうしようもないのだ。
 自分が関わっているのは魔法という、この世界においては未知の力。知ったところでどうすることも出来ないのだから。
 心配掛けたくないのならば、徹底的に隠し、悟らせないようにするべきなのだろうが、九歳の女の子にそうしろというのは酷というものだろう。

「それじゃあユーノ君、おやすみ」
「うん、おやすみ、なのは」

 ジュエルシードの探索、家族への後ろめたさ、さらにはこの間の旅行で出会った黒衣の女の子。
さまざまな問題で悩んでいても、明日はすぐにやって来る。気持ちを切り替えるべく、なのはは眠りへとつく。





「いい加減にしなさいよっ!!」
「えっ!?」

 アリサの怒声が教室中に響く。
 その声で思考の海に沈んでいたなのはは意識を現実へと戻される。
 ここは聖祥小学校三年の教室内。
真正面には怒りで顔を染めたアリサが、すぐ隣には困惑した表情のすずかが、周囲にはアリサの大声に驚いたクラスメート。
 
「こないだっから何を言っても上の空でボーっとして!」
「ご、ごめんねアリサちゃん…」
「ごめんじゃない!! 私たちと話してるのがそんなに退屈なら、一人でいくらでもボーっとしてなさいよ! 行くよっ! すずか」

 なのはの態度にすっかり腹を立ててしまったアリサはそのまま教室の外へと出ていく。

「ア、アリサちゃん……」

 すずかは突然の事態に驚いていたが、すぐになのはの方へと向いて話しかける。

「なのはちゃん……」
「……いいよ、すずかちゃん。今のはなのはが悪かったから」
「そんなことないと思うけど……、取り敢えずアリサちゃんも言いすぎだよ。少し話してくるね」

 そう言ってすずかはアリサの後を追いかけていく。
 残されたなのはは、ますます意気消沈していく。

「怒らせちゃったなぁ…」

 一体何をしているのだろう。なのははそう思わずにはいられなかった。
 フェイトの件があるとはいえ、そればかりにかまけて目の前にいた友達をないがしろにするなどと。
 あの時、温泉に行った時、自分はフェイトに話し合いで解決できないかと呼び掛けた。なのに今の自分はどうだろうか。自分は今、家族や友達と話すことすらできていないではないか。
 
『話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ、きっと何も変わらない。伝わらない!』

 今の自分はまさにそうではないのだろうか?
 心配かけたくないから? それもあるかもしれない。
だけど本当は、家族や友達に話しても解決できないからではないのだろううか?
 だとしたら矛盾している。
 こんな自分が、どうして話なんて出来るというのだろうか……。
やはり自分は、あの子と話すことはできないのだろうか……。




「アリサちゃん!」
「なによ」
 アリサを追いかけていたすずかは、階段でアリサを見つけ呼びとめる。
 対するアリサの言には不機嫌が隠されておらず、苛立ち気味だ。

「なんで怒ってるのか、なんとなくわかるけど……」

 自分だってそうだから。だからこそ、アリサのようにハッキリと態度に表せることができない自分が少し恨めしい。だけど……。

「駄目だよ、あんまり怒っちゃ」

 なのはにも、きっと言えない訳がある。それを理解しているからこそすずかは感情的になれない。

「だってムカつくわっ!」

 すずかの宥めの言葉を聞いてもアリサはおさまらない。
 だが、アリサはなのはが自分の話を聞かないから怒っているわけではない。

「悩んでるのが見え見えじゃない! 迷ってるの、困ってるの見え見えじゃない! なのに…、何度聞いても私たちには教えてくれない……」

 友達であるはずの自分たちに何があったのかを話してくれない、相談してくれない、頼ってくれない……、

「悩んでも迷ってもいないなんて嘘じゃんっ!!」

 だからこそアリサは怒っている。
 自分たちは何なんだ! 友達じゃないのか! と。
 
「どんなに仲良しの友達でも、言えないことはあるよ。

しかしすずかは、アリサのそんな気持ちを理解しながらも、ただ賛同することはできない。

「なのはちゃんが秘密にしたいことだったら、私たちは待っててあげるしかできないんじゃないかな?」

 友達といえど、むやみに抱え込んでいることに踏み込んでいけるわけじゃない。友達だからこそ、その気持ちを第一に考えて、尊重してあげる。
「待ってる」と言えることもまた、大切ではないのだろうか。

「だからそれがムカつくの! 少しは役に立ってあげたいの!

 アリサとてそれがわからない訳じゃない。
わかっていても歯がゆくてしょうがないのだ。

「どんなことだっていいんだから。何にもできないかもしれないけど、少なくとも一緒に悩んであげられるじゃない……」

 一緒に分かち合うことも出来ない。それが悔しくてしょうがないのだ。
 そしてそれはすずかも同じ。

「私も……、なのはちゃんが一人で何かを抱え込んでいるなんて辛いよ。でもねアリサちゃん、私たちが無理に手伝おうとしたら、なのはちゃんを余計に困らせることになっちゃうよ。だから、ね……」
「…………」

 アリサは俯いて黙りこんでしまう。
 それこそ自身が望むことではないからだろう。

「私だってわかってる! なのはは私たちに心配かけたくないだけなんだって! 私たちじゃああの子の力になってあげられないんだって! だったら私は…………」

 そこから先の言葉が出てこない。今まさにそうしていることだから。

「ふふっ」
「なによ……」

 突然笑い出したすずかにアリサは不機嫌気味に聞いてくる。

「やっぱりアリサちゃんも、なのはちゃんのことが好きなんだね」
「そんなの当たり前じゃないの!」

 顔を赤らめながら、自分と同じ気持ちを言葉にする親友に、すずかは微笑まずにはいられなかった。
 この子はきっと怒りながら待つだろう。
 だから、一緒に待とう!
 今はあの子の力にはなってあげられないけど、目の前でその子のことを想っている親友と共に……。



〈なのは視点〉
「ただいま……」

いつ以来だろう……。こうやって一人でお家に帰るなんて。

「お帰り、なのは」

 今、お家にはユーノ君しかいない。みんな学校だったり、仕事だったり。
 お兄ちゃんは大学生だからなのはより早く帰る日もあるけど、今日は翠屋でお仕事。

「なのは、どうしたの?」

 ユーノ君が心配気に声を掛けてくれる。
 いけないいけない!!
 家族やお友達に心配をかけといて、ユーノ君にまで心配かけちゃ……。



「そっか、喧嘩しちゃったんだ……」
「違うよ。私がボーッとしてたから、それでアリサちゃんに怒られちゃっただけなんだから」

 ユーノ君が申し訳なさそうにしてるけど、これはほんとに私が悪かっただけなんだから、気にしなくていいのに。
 
「親友、なんだよね……」
「うん。入学してからすぐのころからずっとね」

 私はあの頃を思い出す。
 すずかちゃんに意地悪してたアリサちゃんを止めようとしたんだけど、止められなくて、最後はつかみあっての喧嘩になっちゃって……。
 言葉で止めようとしたけど、それがうまく伝わらなくて、伝えられなくて、最後は力づくで、なんてことになっちゃった。
 あの後、先生やお父さんに思いっきり怒られて、その時お父さんから言葉が届かなかったからといって力だけで止めようとしたことを注意されて。
 今でも、それならどうしたら良かったのかわからないけど、私のお父さんとアリサちゃんのお父さんの仲が良かったから、自然と私とアリサちゃんの仲も良くなって、一緒になってすずかちゃんを気遣っていくうちに、いつの間にか三人一緒にいるのが当たり前になっちゃった。
 美由希お姉ちゃんはその時のことを、どんな形であれ、気持ちをぶつけあうことは大事だよ、って言ってくれたけど、言葉で止められなかったことは今でも悔しい。
 そして今、小さな事件の中で出会った、寂しげな眼をした女の子。
 私、あの子とお話ししてみたい! でも、できるのかな……。

「なのは……」

 ハッ!? ダメダメ!! ユーノ君の前でこんな顔をしちゃ!
 
「はい、こっちユーノ君の分ね」
「あ、ありがとう、なのは……」

 私はおやつのタイ焼きを半分こにして、片方をユーノ君に渡してあげた。
 
「今日は塾もないし、晩御飯の時までゆっくりジュエルシード探しができるよ。一緒に頑張ろう!」
「うん…、頑張ろう……」

 何とか笑ってみたけど、ユーノ君の心配する顔は消えなかった。
 お母さん、アリサちゃん、すずかちゃん、そしてユーノ君。みんな……、心配ばかりかけてごめんなさい。
でも、このことが解決したら、きっとこんな見せかけじゃない、本当の笑顔でいられるから……。

 



〈第三者視点〉
「ありがとうございました〜」
「竜馬〜、次の客のオーダー頼む!」
「あ、はい!」
 翠屋から出ていく客に声を掛けて、竜馬はすぐさま次の仕事に取り掛かる。
 時間は夕刻。店内は学校帰りの女子高生が多くにぎわいを見せており、大忙しだ。

「よっと!」

 下げた皿を奥で皿洗いしている恭也と忍のところに持っていく折、二人の声が竜馬の耳に届く。

「やっぱり…私じゃ駄目?」
「いや、そうじゃない。忍には話さないんじゃなくて、多分誰にも話さない。あれは昔から、自分ひとりの悩み事や迷いがある時はいつもそうだったから」
「そうなんだ……」

 二人の会話から察するに、おそらくなのはのことを言ってるのだろう。というより、今近しい人間の中で悩んでいる様子を見せているのは彼女だけなわけだが。

「ま、あんまり心配はいらないさ。きっと自分で答えにたどり着く」
「そっか」
「(それしかないのか……)」

 恭也の言うとおり、確かに自分の悩みというのは自分で答えを見つけなければいけないものだろう。だが、人によっては一人だと悶々と悩み続けてしまい、場合によっては悪い方向へと行きついてしまうこともある。
 とはいえ、迂闊なことも出来ないのはわかっている。
 直接聞くのは無理、ただ待っていてもいつ話すかわからない。となれば……、

「(話す気にさせるしかないよな……)


 しかし、言うのは簡単だがそれを実行するとなると容易なことではない。
 ましてや、自分は家族でもない、知人友人にすぎない。家族にも話さないようなことを自分に話してくれるはずもないだろう。
 少なくとも自分には何もできないだろう。
 やはり、ここは恭也の言うとおり、自分で答えを見つけさせるしかない。
 そう結論付けて、二人きりの中に飛びこむのは憚られる思いをしながらも、仕事なので勘弁してもらおうと入っていく竜馬だった。



〈なのは視点〉
 
あれから外に出てジュエルシードを探しながらあれこれ考えてみたけど、やっぱりわからない……。
 このままフェイトちゃんに会っても、このあいだと同じことになっちゃう……。

「はぁ〜……ってうわっぷ!?」

 突然目の前が真っ暗になっちゃった。
 突然夜が! ってそんなわけないよね! これって誰かに目隠しされてる!?
 こういうことをする人ってお兄ちゃんかそれとも……。

「む〜〜、竜馬さん、意地悪しないでください〜」
「ありゃ、ばれたか!?」

 私の目を覆っていた手の平がよけられて、私はすぐ後ろを振り向いた。
 そこには竜馬さんが苦笑しながら立っていた。

「いや〜、なんかもう、目隠ししてください〜、っていう背中をしてたもんだからさ」
「そんな背中してません〜〜」

 笑ってるけど、ホントは今の私にとって笑っていられる状況じゃない。
 でもこの人に文句なんて言えるはずもない。
 竜馬さんは、いい人なんだけど、時々お兄ちゃんみたいな子供っぽい悪戯をしてきてくれる困ったお兄さん。
 そして私にとっては、家族との仲を取り持ってくれた人なの。
 本人は「何かした覚えなんてないけど」 って言ってるけど。

「悪かったよ、これでも飲んで機嫌を直してくれ」

 そう言って私に缶ジュースを渡してくれた。

「なのははそんなに安い女じゃありませんっ

「どこで覚えたよ!? そんなセリフ……」

 言いつつも私はジュースを受け取って飲んじゃった。
 だって歩き回っていたから喉カラカラだったんだもん。

「ごちそうさまでした」
「はいよ」

 それからしばらく談笑してた。といっても竜馬さんが世間話を振ってきて、私がそれに答えてるだけなんだけど。
 竜馬さんがここにいるのって偶然……なのかな?
 私を探して会いに来てくれたのかな?
 竜馬さんもみんなみたいに私を心配してきてくれたここに来たのかも。
 でも、私に何があったのかとか聞いてこない。いつもどおりに話しているだけ。
 気をつかってくれてるのかな? 
それとも心配してくれてるなんて、私の思い込み?
 何だか不安になってきちゃった。
 あれ!? なんで不安に思っちゃうんだろう……?

「あ、あの〜竜馬さん」
「ん…!? なに?」

 思わず私の方から話を振っちゃったけど、どうしよう…、 なんて言ったらいいんだろう〜〜!!

「えっと〜、あの〜」
「うん」

なかなか言葉が出てこないけど、竜馬さんは黙って待っててくれてる。

「その……、人とお話をするにはどうしたらいいんでしょうかな〜って」
「なんだいそりゃ!?」

 はうっ! やっぱりそう思っちゃうよね……。えっと〜、

「私…今やらなくちゃいけないことがあって、でも私と同じことをやろうとしている子に出会ったんです。その子と話し合いをしようと思ったんですけど、できなくって……」
「なんだ? 喧嘩にでもなったのか?

「…そんなところです……」

 喧嘩……っていうのかなぁ……。それどころじゃ済まないような気が。魔法の撃ち合いになっちゃったし
 
「次に会ったとき、今度こそ理由を聞きたいって思ってるんです

「理由?」
「はい。…あの子、どうしてかはわからないんですけど、とっても……哀しそうな眼をしてたんです。なのに、それでもがんばろうとしてて、どうしてそこまでしようとするのか、それが知りたいんです。そうした上で話をしたいんです

「なるほど……」

 ちょっと前まではそう思ってたんだけど。

「でも、ここのところは、聞いちゃいけないんじゃないのかな、とも思ってるんです。あの子にはあの子の事情があるだろうし」
「確かに、他人に聞かれたくない、知ってほしくないってのもあるだろうしな。俺だったら、教えたくないなら無理には聞かないけど」

 やっぱり聞いちゃいけなかったのかな……。今度会っても戦うことしかできない……。
 
「ああ、勘違いするなよ。別に聞こうとすること自体が悪いってことじゃないぞ」
「え!?」

 私の心がわかるかのような言葉に驚いた。

「どうしてですか? 竜馬さんだって、相手が話したくないなら聞かないんでしょう」
「そりゃ俺がそうだってだけで、なのはまでそうしなきゃいけないんだなんてことはないさ」
「そうかもしれませんけど……」

 でも私、友達は家族、そして今、目の前にいる竜馬さんにも詳しい事情を話せてない。なのに人のことを聞こうだなんて……。

「相手に話さない権利があるなら、なのはにだって聞く権利はあるさ。誰彼から間違ってるだのなんだの言われる筋合いはないと思うぞ? ま、それが嫌ならやめるっていう手もあるけど

「そ、それは……」

 それもできない。ジュエルシードのこともフェイトちゃんのことも、このままになんてしたくない!

「…できません。もうやめられないところまで来てますから。もう放っておくなんてできませんから」
「そっか……」

 そのためにもまずはあの子から理由を……、

「とりあえず詳しい事情まではわからんけど、このままじゃ駄目なんだってのはわかったよ。にしてもその子って相当な事情を抱えてそうだな。なのはの事情を知っても、自分のことは話さないとなると


 え!?

「あの〜、私の事情って……?」
「え!? そりゃ話したんだろ? 今俺に言ったことをその子にも」

 ……そう言えば私、フェイトちゃんに何も話してなかったような……。

「…もしも〜し、お嬢さーん。もしかして一方的に聞いてただけとか……?」
「ア、アハハハハ……」
「…そうなんだな……」
「……はい…………」

 うぅ……、私ってばなにやってるんだろう……。

「いくらなんでも、聞きたい相手に自分のことを話さずに聞くのは難しいと思うぞ?」
「…ですよね……」

 全然気づいてなかった……。聞くことばかり考えてその前にしなくちゃいけないことを忘れちゃってた……。
この間だって、いくら攻撃されてたからといっても話さずに魔法を使っちゃってたし。
 私が俯いていると、頭に何か感触が……。
 見上げると、竜馬さんが私の頭を苦笑いをしながら撫でてくれてる。

「ははは、ちょっと前のめりすぎてたみたいだな。でもこれで一歩前進できるかな?」
「……はい。でも、私のことを話したら、お話、してくれるでしょうか……?」
「……そうとは、限らないだろうな……。でも、いい子……てのは違うな、悪い子じゃない……でもなくて、捻くれた子でもなければ可能性はなくはないだろうな」

 フェイトちゃん、まだちゃんと話せてないけど、竜馬さんが言う捻くれた子じゃないと思う。むしろ、お兄ちゃんやお姉ちゃんのように、なにか、強い意志っていうのかな? そういうのを感じた。
 フェイトちゃんにとって、私の事情なんて、どうでもいいことなのかもしれないけど、相手のことがわかりたいなら、まず私自身のことをわかってもらわなきゃいけないってことがわかったから。

「あ〜、なのは。一応言っとくけど、自分のことを話したからってそれで向こうも理由を話してくれるとは限らないぞ? それどころか、干渉するなって反発されるかも……」
「わかってます!!」

 でも、これでまず私は何をしなくちゃいけないことが分かったから。

「ありがとうございましたっ!!」
「あ、ああ……」

 私は立ち上がって、竜馬さんにお礼を言ってその場を離れた。
 まだ時間は大丈夫だよね? できれば今日中に会えればいいんだけど……。

「なのは……」
「うん! 大丈夫だよ!!」

 突然走り出した私にびっくりしたのか、ユーノ君が恐る恐る声を掛けてくる。
 でも、本当に大丈夫だから!
 竜馬さんのおかげで、何かをつかめた気がする。ほんのちょっとだけど、ちょっとしたことだけど、あの子に、フェイトちゃんに言うべき言葉が見つかった気がするから……。





「やれやれ、猪突猛進というか、思い立ったら一直線というか……」
 
 走り出したなのはを見送りながら俺は苦笑するしかなかった。
 結局、なにがあったかなんて知ることも出来なかった。まあ、家族を差し置いて知るなんていうのも何様な話なんだが。
 ここでなのはに会ったのはホントに偶然だった。偶然見つけたと思ったらどうだよ? 背中から私、元気ありませんオーラが全開だったんだもんなぁ……。
 下手に踏みこんじゃいけないとはいえ、さすがに知り合いのあの背中を見といて何もしないというのは、薄情を通り越して人でなしだろう。
 とりあえず、話を聞けたけど、まさかどうしたら話ができるのか、とはねぇ……。また難しい難題を抱えていたもんだ。
 一応俺なりの意見を言ったつもりだけど、我ながら綺麗事を言ったもんだよなぁ……。どうも俺は人に嫌われることが随分と嫌いなようだ。こういう場合、なのはのやろうとしてるのは、他人の心にズカズカ踏み込む行為だってケチつけることが正しいはずだろうに……。
いや、あのくらいの年の子にそんな事を言う方が残酷か。なのはに言ったように、聞いちゃいけないなんて事はないだろう。
 なにも俺のように捻ることなんかない。 なのはは、まっすぐに進んでいる方がきっと似合うから……。




あとがき
 皆さま、しばらくぶりでございます。はおうです。
 前回から時間がだいぶあいてしまい申し訳ございません。
 今回の話はいかがでしたでしょうか? 今回はなのはのフェイトと話をするまでの悩みをメインとしてみました。
 原作第六話において、終盤、なのはは突然フェイトに対して自分の事情を話しておりましたが、自分的には、そこにたどり着くのに、周りの人間のフォローがなかったのが気になったので自分なりに表現してみました(はしょった感がありますが)。
 それにしても原作でもそうでしたが、なのはとアリサとすずかの友達としてのつながりは(特にアリサの怒りながら待ってるだなんて)とても九歳のものとは思えません。普通なら、そのまま離れてったり、ズカズカと踏み込んできたとしてもおかしくはないでしょうに……。
 
それでは、次回は予定では、彼らとオリキャラをわずかながら登場させつもりです。原作七話がメインになってしまって、今回同様、竜馬の登場は少し控え目になってしまいますが(ああ……、竜馬の、“ホントに俺主人公?” って声が聞こえてくる……)どうかお楽しみに。
 それでは失礼します。









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