とらいあんぐるハート3×魔法少女リリカルなのは 未来の破片 エピソード0







―部下と上司―















『――御免なさい。わたし、交際している人がいるのです。気持ちは嬉しいですけど、お付き合い出来ません』
『そんなっ! ど、どんな人なのですか?』

『強い人です――わたしより、ずっと』





*****





「――それで、また朝から絡まれたんっすか?」

「そうだよ。出会い頭に攻撃魔法ぶつけてきやがった」


 休暇明けの鬱陶しい朝、俺は苛々しながら机を叩いた。

無機物相手に八つ当たりはみっともないが、休日中に突然攻撃された俺の心情を理解して欲しい。

もっともこれが初めてではなく、今俺にお茶を入れてくれた後輩は驚きよりも、呆れた顔をしている。

愛用の湯呑みより、熱い日本茶が湯気を立てている。

お盆を手に、管理局の制服を着た後輩が苦笑した。


「私的な魔法の行使は厳罰ものっすよ。隊長に訴えたらどうっすか?」

「何度も訴えているけど、自分の不始末は自分でやれと相手にしてくれない。
同じ隊の一員ともなれば家族も同然と言っておいて、きっちり差別しやがる」

「先輩が問題ばかり起こすからっすよ」

「問題ばかり起こす先輩といても出世しないぞ、後輩」

「自分、チカ・ヨツバ一等陸士っす。
名前覚えてくださいよ、宮本良介三等陸士殿」





*****





「リョウスケ!」


 温かい師弟の会話を、問答無用で切り裂く声。

聞く者の表情を緩ませる幼い少女の声に、俺は背筋を凍らせた。やばい、すぐ近くまで来ている。


「突然だが、緊急任務を与える! 最重要かつ最優先、お前にしか出来ない仕事だ」

「は、はい!」


 俺より階級が上の後輩が、慌てて敬礼する。

俺は急いで机の横に置いていた袋の口を閉じ、後輩に押し付けた。


「これ持って、どこか遠くへ逃げろ! 万が一ターゲットが来たら、安全な場所へ隠せ! 最悪、飲み込め!」

「デバイス飲んだら死ぬっすよ!」

「どこかに隠してもいいから、とにかく見つからないようにしろ! 早く、部屋の奥の非常口から逃げろ!」















―兄と妹、男と女―















「……流石先輩ですね、私尊敬しちゃいます」

「……至近距離で釣り目を尖らせるな、怖いから」

 俺は自分でも分かるほど引き攣った笑みを浮かべる。

隣に座る少女の純粋無垢な微笑みが眩しい。


目鼻立ちの整った容貌なだけに、笑顔が綺麗で――恐ろしく映る。


「本当にビックリしました。あ、大丈夫ですよ。コレが先輩の仕業だなんて、私思っていませんから」

「あ、ありがとう、信じてくれて。お前に信頼されるのが一番嬉しいよ、俺は」

「私は全っ然、先輩に信頼されていませんけどね。今日の約束も守って頂くのにとても苦労しました、うふふ」


 凶悪な微笑を浮かべる女の子、ティアナ・ランスター。

磨き抜かれた意思に輝く瞳、通った鼻筋、形の整った薄桃色の唇。同姓でさえ見惚れる凛々しい横顔に、強く惹き付けられる。


「ところで先輩――素直に告発すれば、今なら軽い刑罰で済みますよ。安心して下さい、自首扱いにしますから」

「信用してねえだろう、これっぽっちも!」


「今すぐ黙らないと、貴様らから撃つぞ!」


 険悪に顔を歪めた男が、口喧嘩していた俺達を威喝する。

大声だけの罵声で、特に俺もティアナも怯まない。

俺達は念話に切り替えて、密談を続ける。


『……迂闊に取り押さえようとするのは危険ですね』

『全員銃で武装しているからな。まさか魔法万歳のこの世界で――銃器が拝めるとは思わなかったよ』


 時空管理局本局古代遺物管理部『機動六課』所属、ティアナ・ランスター二等陸士。

俺――宮本良介を含めた民間人、大多数。


武装集団『ERASURE OF MAGIC』理想成就の為、レジャービルにて人質にされていた。





*****





『魔法使用禁止の法の成立と、ミッドチルダからの全魔導師の永久追放を要求してきた』

『えっ――む、無理にきまっているじゃないですか!』


 執務官を目指すティアナは、絶句している。

奴らの目的は、次元世界全域における魔法の消去――

その先駆けに、高度に発達した文明を持つミッドチルダの魔導師及びデバイスの破壊を行う。

今回のテロ活動は手始めに過ぎないのだろう。

俺は監視するテロリストを見て、心の底から嘆息する。


『あんな要求、管理局が真剣に受け入れると思っているのか? あの馬鹿共』

『要求が飲まれない場合、人質はどうなるんですか?』


『三時間待って返答がない場合、十分毎に一人射殺』


『無茶苦茶じゃないですか! 万が一要求を相手側が飲んだとしても、どうやって確認するんですか!』

『分かったから、俺に怒鳴るなよ。テロって大概そんなもんだろう。無茶な事を要求するんだよ』


 科学技術満載の魔法を否定する気持ちは分かるけど、罪のない一般市民を巻き込まないでほしい。

別にこの世の正義を訴えるつもりはないが、一般人を犠牲にしてまで掲げる理想ではない。

所詮、連中の我侭なのだ。用意周到な計画を練っていても、根幹が駄目ではどうしようもなかった。


『何とか隙を見つけて、私と先輩で彼らを取り押さえられませんか? 二人で協力すれば――』

『俺を数に入れるなよ』

『どうしてですか、非常事態なのですよ!』

『俺は民間人だ、周りに居る連中と同じだぞ』

『それはそうですけど……先輩は強いじゃないですか』

『完全武装した連中が、周囲を取り囲んでいるんだぞ。迂闊に動けば、蜂の巣にされる』

『幻術で撹乱させて――駄目か、人質が多過ぎる。ならクロスミラージュとの連携で、先輩と――』

『――本人の許可無く作戦に入れているところ申し訳ないが、魔法は使えないぞ。
念話はともかく、複雑な構成が必要な術式は完全に無理』

『ど、どうしてですか?』

『此処からだと見え辛いけど、ビルの外に巨大なアンテナが付いた車が停まっている。
多分アレ、新型のAMFだ。ビルを主軸に周囲一帯を覆って無力化している』

『AMF機能搭載型! そんな技術を何処で――』

『珍しくもないだろう。ガジェットで使用されて、効果は実証されている。
時空管理局が徹底して情報漏洩を防いでも、どうしても漏れてしまう。ミッドチルダだけじゃない。
州域の世界でも被害が出てるんだぜ。

魔法を拒絶する連中にとって、うってつけの技術さ』





*****





刻一刻と近づくタイムリミット――


時間が経過していくにつれて、ティアナの顔から焦燥の色が濃くなっていく。

たく、こいつのこんな顔を見る為に来た訳じゃねえってのに……

俺だって男だ。折角誘ったデートで、相手に不愉快な思いをさせてはいけない。

そっと肩に手を触れると、ティアナは大仰に震わせた。セクハラだと思われたかな。


『……せ、先輩』

『もうちょっと肩の力を抜け、お前』

『とてもそんな気分にはなれません。もうすぐ二時間が経ちますが、管理局が動く気配もない……
何か対策を立てないと、ここに居る誰かが殺されるのです』

『そう悲観的になるなよ。タイムリミット一分前に、ヒーローが助けに来るのが王道だろう』

『こんな時によく軽口が叩けますね……感心します』

『お、久しぶりの毒舌だな。最近可愛げがあったのに』

『わ、私だって怒りたくて怒っているんじゃありません! 先輩がいつも私を怒らせるんじゃないですか!

今日誘って下さって、楽しみにしていたのに……』

『……ティアナ?』

『い、今の言葉は忘れてください! も、もう無駄話はやめましょう。対策を考えます』


 動揺こそ顔には出していないが、頬が赤らんでいる。柔らかな胸に手を当てて、懸命に動悸を抑えていた。

緊張から漏れた感情なのだろうが、誘った甲斐が充分にあったと確信出来た。

才能が無くとも栄光に輝く夢を持ち、真っ直ぐに努力する純粋な少女――苦難や挫折はあれど、彼女には頑張って欲しい。

銃器担いで喜んでいるミリタリー連中に、ティアナの夢を汚す事など許されない。


ちょっとだけ――やる気が出てきた。





*****





「背中を向けたまま、弾丸をかわすとは……化け物め」


 額から夥しい血を流したまま、憎悪に塗れた顔でリーダーが銃を手に立っていた。

リーダーは俺の手にある小さな刃を、せせら笑う。


「貴様、正気か。カッターナイフ一本で、我々を制圧出来ると思っているのか」

「残念だが、後はてめえ一人だよ」

「止めて下さい、先輩! そんな怪我で――」


 クロスミラージュを起動させ、ティアナはリーダーに銃口を向ける。俺は手を広げて、彼女を制止。

銃を突きつけられているのに、正面から向き合った。


「一体何者だ、貴様……カッターナイフ一本で、銃に立ち向かうとは。魔導師か!?」

「いいや――俺は、魔法使いさ」


 俺の目を真っ直ぐに見つめ、リーダーは沈痛する。

奴の人生に何があったのか、知らない。魔法にどれほどの憎悪を抱いて愚行に出たのか――理解もしない。

男が選んだ道であり、分かり合える事はない。

剣も、銃も――既に価値を失っている。

時代に取り残された剣士と銃士が、向かい合った。


「俺の本気が見たいと言ったな、ティアナ。

その願い――特別に、全世界中継で叶えてやる」















―機械仕掛けの人形達と孤独の剣士―















 ジェイル・スカリエッティ、研究者。

研究内容は違法だが間違いなく歴史に残る天才であり、探求への欲は無限に等しい。

その正体は管理局最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した存在、とは本人から聞いた話。


――つまり、人間ではない。


『そんな人でなしのお前に、今日は日本の文化を教えに来てやったぞ』

『……他者への配慮は私も気にかけてはいないが、君も大概酷いな』

『馬鹿野郎、俺はお前と違って気遣いくらいは出来る。今日は数字に強いお前の為に、日本の伝統カードゲームを用意した』

『何だい、この折々の花が描かれたカードは?』

『花札だ』


 一組四八枚に、十二ヶ月折々の花が4枚ずつに書き込まれている札。

「おいちょかぶ」は知っていても、「こいこい」を知らない若者が増えているらしい。やれやれである。


『なるほど、ルールは理解した。退屈凌ぎにはなる、勝負しようじゃないか。
この私に数字で勝負する愚かさを知るがいい、フハハハハハハ』

『花札は絵柄によって数字が変わるから注意しろよ』

『――なに……? 待て、絵柄の説明を受けていないぞ』

『日本人は短気だからな、習うより慣れろだ。勝負しながら覚えろ』

『無理を言うな。点数配分が分からなければ、計算が成立しないだろう!』

『遊んでいれば自然に覚える、それが日本人だ。自信がないのか、アルハザードの遺児さん』

『いいだろう、それもまた面白い。未知なる分野への挑戦に心が躍るよ』



 こうして研究者は、ギャンブルの奈落に落ちていった。





*****





『ドクターをギャンブル地獄に落としたそうですね……私とも勝負しなさい!』

『雪辱戦か、いいだろう。俺が負ければジェイルに土下座してもいいぞ』

『その言葉――嘘偽りないわね?』

『その代わり、日本の伝統で勝負してもらおう』

『いいでしょう。貴方御得意の勝負に私が勝てば、ドクターの優位性が証明される』

『ふふ、どうかな。優勢と勝利は似て非なるものだぞ』

『貴方の戯言など聞くつもりはないわ。勝負内容を言いなさい』

『双六だ』


 古代エジプトで遊ばれたセネトが、後の盤双六の原型となった遊戯。

さいころを二個振り、双方が出した目が形勢を左右するゲーム――

奈良時代から江戸時代にかけて行われた「バックギャモン」の和名が、現代の双六となったようだ。


『――待ちなさい。貴方から聞いたルールならば偶然性に頼る要素が大きいでしょう!』

『複雑な思考も同時に必要とされる。自分の頭脳に自信がないのかな、ジェイルの秘書さんは?』

『フッ、そんな安い挑発に乗ったりはしないわ』

『じゃあ、その凶悪に握り潰されたサイコロは何だ!』





*****





 戦闘機人ナンバーズ六番、セイン。

水色の髪のセミロングな女の子。明るい性格で物事を気にしないが、姉妹やジェイルの事を大切に思っている。

姉と妹の間に立って両者を繋ぐ役目を果たし、家族の仲を取り持つ優しい一面も持つ。


――つまり、愛想の良いロボットさんである。


『来てくれたんだ、ありがとう!』

『うわっ! 大袈裟に抱きつくな、お前は!』

『だって、嬉しいんだもん。元気にしてた? アタシは毎日楽しくやってるよ』

『そのにやついた顔見れば分かる。今日は土産を持って来てやったぞ』

『本当に! 嬉しい……何だろう、指輪かな。なーんちゃって』

『何だ、その期待に満ちた目は!? モグラの分際で生意気な!
ウェンディほど極端じゃないけど、お前はもうちょっと落ち着きを覚えるべきだ――これをやろう』

『ただの赤い糸に見えるけど……?』

『あやとりだ』


 日本の女の子の伝統的な遊びで、外国でも類する遊びは見られる。

輪にした糸を両手首や指先にかけて、さまざまな形を作り出していく古風な遊戯。

一人で両手の指で操作しながら作り出すやり方と、二人で受け渡しながら互いにやりとりをするやり方がある。


『だったら二人で一緒にやろうよ! 教えてくれる?』

『いいよ、別に。どうせ暇だろう、日本の伝統技を教えてやる――何で小指と小指に絡めようとする?』

『うふふ、これも日本の伝統だよね?』

『正確に言えば違うわ! 何故それを知っている!』















―孤独の剣士のある日常―















 蒼天の妖精ミヤは、家の押入れを寝床にしている。

真っ暗で狭い空間の中、はやて手製のミニ布団でぬくぬく寝るのが好きらしい。

お日様のような明るい笑顔が似合う女の子だが、実は根暗なのだ。


「違います! 失礼な事を言わないで下さいです!
何というか……ちょっと落ち着くのですよー」


 お前は蒼い狸のロボットか!

――あれ、そのポジだと俺ってアヤトリガンマン?

弱いけど強い、強いけど弱い少年――実はあの眼鏡少年が、俺の理想像なのか?


誇るべきか恥じるべきか、その日真剣に悩んだ。





*****





「リョウ、手伝いに来てやったぞ!」

「……何故、今日の予定を知っている?」

「お前は頼りないけど、アタシのマスターだからな。知っていて当然だろ」


 美しい炎の髪にルビーの瞳、黒い翼の精霊。

古代ベルカの剣精が玄関先で威張っていた。


「今日は朝から忙しいんだ。お前と遊んでいられるか」

「手伝ってやると言ってるだろ!」

「いらねえよ、帰れ」


 しっしと追い払うと、アギトは傷付いた顔をする。

勝気な瞳を悲しみに揺らして――憤然とする。


「そっ……そうかよ……何だよ、折角アタシが――もういいよ! 二度と絶対に手伝ってやらねえからな!」


 アギトはツンツンして、そのまま大空へと舞い上がる。黙って見送っていると、不意に烈火の剣精の華麗な飛行が停止した。

小さな拳を震わせて、肩越しに振り返る。


「止めるなら、今だけだぞ! お前以外にもマスター候補はいるんだ! そいつのとこ、行っちまうぞ!」


 選り取りみどりなどと言いながら、アギトの表情が必死過ぎて笑えてくる。

このまま無視すれば愉快痛快だが、アイツは号泣して飛び去るだろう。

普段は強気だが、寂しがり屋な面もあるのだ。その辺が可愛くて、ミヤとは違った魅力がある。

このままシカトしたい――その時の困りきったアギトの顔を見たい。

だけど、後でルーテシアや旦那からクレームが来るのは間違いないだろう。

俺がモタモタしている間、アギトから余裕が消えていく。中空を右往左往、顔を悲しみに曇らせていった。


――さて、どうするか。





*****





 近頃、営業妨害する輩が出て困っている。

永遠の宿敵である女銭形への通報を検討中――

ちなみに関係ない話題だが、ギンガは近年女性局員の憧れの的となっているらしい。

スタイル抜群の美女であるのは認めるが、あの勤勉さはどうかと思う。

ともかく、俺は最近難敵に悩まされている。


「……だから、金がないと絵は描けないの」

「……どうしても?」

「駄目」


 黒いドレスを着た美少女ルーテシアの瞳に、じわっと涙が浮かぶ。

何も言わずに立ち上がり、そのまま背中を向けてトボトボと帰って行った。


――引き止めれば負け。


分かっていても、人間の善なる本能が悲鳴を上げる。俺のような生まれ持った悪党でも、アレは堪えるぞ。

孤独になりたい――



























































<続く――『未来の破片』>







とらいあんぐるハート3×魔法少女リリカルなのは短編集、『未来の破片』
八神はやて、ティアナ・ランスター、ナンバーズなどの短編小説
2011年5月に通販予定、どうぞよろしくお願いいたします

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