「ま……まだかよ」


 シャドウの残骸の山を背にしてスケアがへたり込む。

 先程の戦闘が七回目となる。一回ごとに、つまり奥に進むごとにシャドウの数は多くなり、消耗戦を強いられた。

 一体一体が雑魚でも数が揃えば厄介だ。事実、先程の戦闘では後半になって苦戦を強いられた。回復アイテムの残数も心もとない。ハセヲとメイプルはまだいくつかを要しているようだが、スケアは既に使い果たしていた。


「マップ見る限りじゃ、次で最後だ。行き止まりの小部屋になってるからな」


 『妖精のオーブ』――マップを探索するアイテムを使ったハセヲが扉を睨む。ほぼ一本道となっていたこのダンジョンで、未踏の場所はこの先だけだ。


「もう少しだね、頑張ろ!」


 へたり込んでいるスケアの肩をメイプルが叩く。

 特性上、率先して先鋒を切っていたスケアが三人の中で最も疲労が顕著だった。


「気楽に言ってくれんじゃねえよ、こっちは最前線なんだぜ? もう少し休ませ――」

「“憤怒の爆バクドー――」

「だあぁぁぁ!? 解った、すぐ起きるからやめろ! もう回復アイテムも残ってねえんだぞ!?」


 慌ててスケアが飛び起きる。メイプルは呪紋の詠唱を中断した。その表情が多少残念そうだったのは何かの間違いだろう。

 メイプルにせっつかれ、スケアが渋々と扉に手をあてる。

 ハセヲはスケアのやや後方に待機し、メイプルは更にその後方についた。扉が開くと同時にハセヲが飛び込み、スケアがそれに続く形だ。さしたる打ち合わせをしないまま、三人はそれぞれの役割を理解していた。

 スケアが二人を見る。視線で肯定の返事が返り、スケアは扉を押し開けた。

 扉が完全に開ききる前に、ハセヲが隙間から部屋に滑り込む。スケアが後ろに続き、メイプルが更に一拍を置いて部屋に入る。


「……あれ? モンスターいねえじゃねえか」


 スケアが拍子抜けした声を漏らす。ここまで来た部屋とは違い、柱や瓦礫による影もない。周囲の壁にとりつけられた燈台がぼんやりと部屋を照らしているが、それによって出来ている僅かな影も薄く小さい。

 ここまでの戦闘では、より濃い影から出てきたシャドウの方が強かった。影の濃さが戦力にそのまま直結するのだろう。逆に言えば、薄い影からは雑魚のシャドウしか現れない。この部屋の弱々しい光に照らされた薄い影では、実体化してもさほどの脅威も感じない。


「あ、あそこ。部屋の奥に祭壇があるよ」

「やけに派手な宝箱がのっかってんな。あれを取ればクリアってことか」


 スケアが祭壇に登り、宝箱の錠に手をかける。

 そのとき、ハセヲは経験上の直感から一つの疑問を感じていた。

 ここまでの戦闘でそれなりの苦戦はした。しかし、それは敵の数が膨大であるが故の苦戦だ。敵が強いゆえの苦戦ではない。

 このクエストを依頼したNPCは『正体不明の強いカゲ』が現れたことに対する問題の解決を求めていた。今まで、さしたる強いカゲは出てきていない。そしてこのクエストは――宝箱を手に入れることが目的ではない。

 ――罠だ。


「ちょっと待て、スケ――!」


 ハセヲが叫ぶ。だが遅かった。スケアが宝箱の錠を外し、蓋を開ける。

 次の瞬間、宝箱から凄まじいまでの閃光が放たれた。


「ク――――!」


 宝箱を中心として、目を焼かんばかりの強烈な光が室内に満ち、その光によって色濃い影が三つ生み出される。

 スケアの背後、そしてメイプルとハセヲの背後。

 閃光によって出来た、三人の影が。


「なんだ!?」


 影が蠢き、実体化する。ただしその形状は獣ではなく人のそれ。シャドウはそれぞれ人間の形でその姿を露わにした。

 大柄のカゲは大剣を、痩身のカゲは双剣を、そして背の低い女性的なフォルムを取ったカゲは魔典を、それぞれ構えていた。


「――ドッペル、ゲンガー!?」


 応える様に、ドッペルゲンガーがそれぞれの相手へ攻撃を仕掛けた。




















 速い。

 ハセヲは舌打ちを一つして応戦した。

 双剣を巧みに操って襲い掛かってくる敵の正体は聞いたことがある。映し鏡のように瓜二つな姿を取り、どこまでの深い闇で表面を覆った影のモンスター。プレイヤーの影である存在『ドッペルゲンガー』。

 時に繊細に、時に強引に、力と技が噛み合った攻撃を絶え間なく繰り出してくる。同等の技量で防御するハセヲにはその攻撃は届かない。だが同時に、同等の防御能力を有しているドッペルゲンガーにもハセヲの攻撃は届かなかった。

 実力が拮抗する、どころの話ではない。同等だ。

 力も、技も、速度も、そして戦術までも等しい。どちらも付け入る隙など作らず、またどちらとも付け入る隙など与えない。

 ――ゆえに、このままではハセヲの敗北は決定的となる。


(やつは――万全の状態だ。傷一つ無い、最高の状態で実体化した。だが――)


 それに対するハセヲは万全ではない。ここまでの戦闘で多少のダメージを負っている。呪紋でほぼ全快させてはいたものの、最高の状態ではない。

 拮抗が崩れていく。ドッペルゲンガーの攻撃が僅かにハセヲの身体を掠め、ハセヲの攻撃が徐々に余裕を持って回避されていく。ジリ貧だ、このままでは負ける。ハセヲは瞬時に判断を下し、声を張った。


「メイプル、スケア、代われ!」


 代われ。

 ただその一言。

 それだけでスケアとメイプルはその意味を察し、部屋の中央に向かって走り出した。

 ハセヲもまたドッペルゲンガーの攻撃を弾き返し、中央へ駆け出す。二人の背後にはドッペルゲンガーがそれぞれ追っていた。恐らく自分の後ろにも同等の速度で追ってくるドッペルゲンガーの姿があるのだろう。

 二人の目を見る。スケアがハセヲの背へと視線をやり、メイプルは併走するスケアの背後に視線を飛ばした。視線の動きで意志を交わし、ハセヲはメイプルの背後を凝視する。

 部屋の中央に三人が到達し、交差する。次の瞬間にはそれぞれがドッペルゲンガーと再び戦闘を始めていた。

 違うのはその相手。三人ともが、先程までと違うドッペルゲンガーを相手としていた。

 まずスケアがハセヲとすれ違いざまに大剣を薙ぎ、その背後を追っていた双剣のドッペルゲンガーを吹き飛ばした。

 メイプルは中心に至ると同時に右、併走していたスケアへと振り向き、短く唱えた呪紋を放った。小さな竜巻がスケアの背後へと発生し、ドッペルゲンガーを拘束する。

 呪紋を唱えたことによって硬直したメイプルに向かい、呪紋を放つ魔典を掲げたドッペルゲンガー。それに呪紋が完成する寸前にハセヲが襲い掛かり、刃の柄で腹を打ち、呪紋の完成を阻んだ。

 戦闘相手の交換。これが、三人の導き出した現状の最良手段、そしてクエストを達成する為の唯一の手段だった。


「オオオラァアァアァ――!!」


 スケアが吼える。

 スケアはこれまでの戦闘のせいで三人の中で最も消耗していた。そのため、先程の戦闘では苦戦が顕著なものとなっていた。


「散々ボコってくれやがった張本人に仕返ししたかったことなんだがな……とりあえず、その貸しはオマエに払ってもらおうかぁ!?」


 怒り心頭といった様子で大剣を振るう。怒りのままに振るわれた大剣の一撃は双剣でさばききれるような軽いものではない。全ての武器の中で最重量、最高攻撃力を誇る大剣は双剣の防御をいとも容易く打ち破る。

 防御を突き破り、弾き飛ばし、壁に跳ね返ったところで更に追撃を加える。下段から石造りの地面ごと切り上げ、飛礫と大剣の両方でドッペルゲンガーを襲う。

 致命的な一撃クリティカルヒット。ドッペルゲンガーの胸に大剣が切り裂き、影色の血が舞う。そのままなす術もなく地面に叩きつけられた双剣のドッペルゲンガーはトドメの一撃をその身に受け、崩れ去った。


「――やっぱ偽者は所詮偽者だな」


 スケアは崩れゆく影を一瞥して一言、


「アイツはこんなもんじゃねえ。こんなにあっさりやられてくれるはずがねえからな」


 顔をしかめつつ吐き捨て、ハセヲの加勢をすべく駆け出した。

 二人がかりで魔典のドッペルゲンガーを容易く始末し、最後に残った大剣のドッペルゲンガーを三人の一斉攻撃で沈める。

 苦悶の悲鳴も無く、全てのドッペルゲンガーは葬り去られ、カゲは再びただの影へと還っていった。




















 マク・アヌのカオスゲートの広場。

 全ての街の中で最も多くの人間が訪れるこの街で、最も多くの人間が集まっている場所、それがこのカオスゲートの広場だ。

 その広場に新たに三人のPCが訪れた。転送された光を零しつつ、広場の出口へと歩き始める。一番後ろを歩くPC――メイプルが胸をなで下ろしつつ言う。


「ふう……強かったけど、なんとかなったね。けど、スケアの形をしてるドッペルゲンガーを倒すのは少し心が痛んだなぁ」

「おかしいな、俺にはオマエが凄まじい笑顔で呪紋を撃ってたように見えたんだが……」

「目の錯覚だよ」


 ね? と笑顔付きでメイプルは返答を返す。

 スケアは返答に窮し、とりあえずは気にしない方向にしておくことに決めた。


「漫才やってねえで、とっとと報告しようぜ。倒した証拠ってのはこれで間違いねえはずだしな」


 ハセヲは手にしている黒い石に目をやった。何やら複雑な紋様の刻まれた曰くありげな石だった。閃光の放たれた宝箱の中から見つけられたものだ。

 この石を手に入れる為には宝箱を開けなければならない。しかし、開ければ閃光が放たれ、その場にいた全員の影からシャドウ――ドッペルゲンガーが出現する。

 同等の実力を有するドッペルゲンガーの相手をしながら石を取り出すことなど出来ない。石を取って帰ることが出来るのは、ドッペルゲンガーを倒した者達だけということになる。証拠としては十分だろう。

 カオスゲートの広場は街の中心地から海を隔てた小島にある。中心街との交通経路は、マク・アヌ名物の黄昏が一望できる長橋のみだ。

 橋を渡り、ギルドショップの立ち並ぶ商店通りに入る。

 カオスゲートから街に入る上で必ず通らなければいけない場所にギルドショップが置かれているのは商戦上の戦略だろう。行き交う人間に声をかけて客引きをしているショップがあれば、黙っていても人が押し寄せてくるようなショップもある。

 その商店通りの一角に、クエスト屋は置かれていた。

 受付のNPCに話し掛け、クエストの成功を報告する。


「はい、確かにこれは討伐の証拠品として十分ですね。こちらで預かっておきます。依頼人のディンゴさんをお呼びしますので少々お待ち下さい」


 報告を済まし、ハセヲは未だ何やらを言い争っている二人の元へと歩み寄る。数分もしないうちに依頼人がどこからともなく現れるだろう。しかし、ハセヲにはその前に二人に聞きたい事があった。


「よう、お前ら」

「ん、どうしたの?」

「あんだ?」


 言い争い――と言っても、スケアが一方的にまくしたてていただけだが――を中断して二人がハセヲへ向き直る。


「なんでこのクエストを受けたんだ? 何か欲しい報酬でもあったのか?」


 真面目にハセヲは問う。それは道中でずっと気になっていたことだった。

 クエストであれば他にも簡単なものはたくさんある。ラッキーアニマルの調査や、この世界の動力機構を支える生物『チムチム』の捕獲を頼んでくるようなクエスト、果てはイカれた迷子のロボットを探し出してくれなどという実にユニークに富んだクエストが数多くある。

 それは、通常のプレイでは体験することの出来ない、クエストならではの楽しさを含んだものだ。初めてのクエストであれば、そういった普段とは違う楽しみを得られるものを選ぶのが普通だ。

 しかし、今回のクエストはモンスターの討伐といった、普段やっていることとさほどの変わりの無いものだった。

 無論、謎解きや予期せぬ展開、いつもと違ったエリアに行けると言った普段とは違う楽しみを味わえはする。だが、モンスターを倒すのが主目的だという点ではいつもと変わらない。初めてのクエストであるにもかかわらず、わざわざ討伐クエストを選んだのは何故か。ハセヲはそこに疑問をもっていた。


「おぅ、ちっと見てみたいものがあってな。このクエストの報酬でそれが見られるらしいんだ」

「見たいもの……限定アイテムかなにかか?」

「ちょっと違うかな。シラバスさん達が教えてくれたの、ハセヲとこのクエストをすればきっとそれを見られるだろうって」


 なんだそれは、とハセヲはいぶかしむ。

 具体的に聞き出そうと口を開いたところで、視界の片隅からノソノソとずん胴のNPC――依頼人のディンゴが歩いてくるのが映った。

 三人ともがディンゴに向き直る。


「よう……無事に、かどうかは知らんが影を倒してきたらしいな……。ひよっこだと思ってたが、やるじゃねえか」


 芝居のかかった口調だとハセヲは感じた。

 それも当然。話している依頼人はNPC――プレイヤーの操作していないキャラクターだ。『The World』において、ディンゴはそういった役割を与えられているのだろう。


「いいだろう……貴様の力を認めてやる」


 ディンゴが右手を突き出す。その指先から小さな光の玉が放たれ、ハセヲの胸を穿った。


「な――!?」


 予想もしないことに、ハセヲは困惑する。

 ハセヲの身体がゆっくりと宙に浮かぶ。胸を穿った光の玉は膨張を繰り返し、ハセヲの全身を包み込んだ。


「さあ、目覚めるがいい……貴様の秘めたる力に!」


 ディンゴが鋭く放つと同時、光が紋様となり多重のリングでハセヲの身体を覆う。リングから螺旋の光が伸び、ハセヲの纏っている衣に注がれ始める。

 光は衣を分解し、新たな形で再構築をしていく。露出させていた腹部に新たな黒衣が巻かれ、肩にはプロテクターが、手には手甲が装着された。

 腰から下衣が伸び、脚部の防具も一回り装甲が厚くなり、その形状も微調整が行なわれ、より防御力の増す形へと再形成された。


「これは――」


 全身の衣が一回り厚くなり、より頑強な形へと変貌を遂げた。身体の各所を露出させていた衣は全身をくまなく覆い、軽鎧へと姿を変える。

 最後に、光はハセヲの両頬を撫で、そこに刻まれていた紋様を分解した。

 雷の紋様は消え、新たに刻まれたのは風と雷の紋様。頬に鋭く刻み込まれた、戦士の紋様。ハセヲはこの時、新たな存在として再び世界に降り立った。

 本来であれば二度と刻みなおされることの無い紋様。『The World』で禁忌である再度の刻印を許された唯一の存在――錬装士。その錬装士が新たな刻印をその身に受け、より強い力を得るための儀式。それこそが――


「ジョブエクステンド!?」


 覆っていた光のリングが消失し、ハセヲの身体がゆっくりと地面に降り立つ。そこに在ったのは今までの軽装ではなく、戦士として鎧を纏った姿だった。


「おー、すっげー!」

「おめでとうね、ハセヲ!」


 儀式を見届けた二人がハセヲに拍手を送る。


「ちょ、ちょっと待て。それじゃ、このクエストは――」

「期間限定のジョブエクステンド用のクエストだ」

「凄かったね、あんな風に姿が変わるんだぁ」


 はっきりと見て取れるほど狼狽したハセヲの横で、当然のようにスケアとメイプルが言う。


「お前ら、なんでわざわざジョブエクステンド用のクエストなんか選んだんだよ!?」

「だーから、言ったろ? 一度ジョブエクステンドするの見てみたいな~と思ってな。それに――」

「やっぱり勝負は引き分けだったからね。私達ばかりの都合には合わせられないし……シラバスさん達がジョブエクステンドのこと教えてくれたから、丁度いいかなと思って」

「――――」


 唖然。

 最初に感じたのは困惑で、次に訪れたのが呆然だった。


「ほら、受け取りな……これが、貴様の新しい力だ!」


 ディンゴが低い声で言うと同時に、ハセヲの眼前に光の粒子が零れ出した。

 ハセヲはスケアとメイプルを見る。

 メイプルは静かにコクンと、スケアは親指を立てて突き出しながら白い歯を見せて頷きを返す。

 ハセヲは一度目を閉じた後――迷い無く光へと右腕を突き刺した。ぶち抜くようにして引き抜きだされたのは鋭利な牙を連ねた長大な剣。全ての武器の中で最高の攻撃力を誇る重装武器――大剣。

 二、三度試し振りをする。以前の――1stフォームの身体では扱えなかった大剣を苦も無く振るえた。思い通りに、長年使い込んだ武器のように手に馴染む。

 再び『死の恐怖』は幾人ものPKを蹴散らしてきた武器を、大剣を己が物とした。


「だが小僧、貴様の道はこれで終わりではない。時が来ればまた会おう……お互い、生きていればな」


 ディンゴが時代のかかった台詞を残し、去った。

 ハセヲは見たことの無い自分の姿に、しばしの間黙り込む。以前の『死の恐怖』の姿――3rdフォームになった時は、ある特殊イベントによって1stから3rdへと一足飛びに姿を変えていた。2ndフォームへになるのはこれが初めてとなる。

 拳を握りこむ。そこには力が感じられた。大剣を自在に扱えるほどの力。それが新たに自分の力として備わっていた。


「――――」


 顔をあげる。スケアとメイプルの二人は黙ってこちらを見ていた。


「――クエストは、これでクリアだな」

「おぅ、お疲れさん! ジョブエクステンドも見れたし、大成功だな」

「それじゃ時間も遅いし……また明日、かな?」

「そうだな……後で時間と場所をメールで送る」


 じゃあな、とクエスト屋の前で別れる。

 今回のクエストはスケアとメイプルの都合にハセヲが付き合ったものだ。賭けの上で約束されたこととはいえ、その事実関係は変わらない。ゆえに、礼を言うべきはスケアとメイプルの二人であり、ハセヲが礼の言う立場では決して無い。

 だが、と自身の心に言い訳をした。


「落ちる前に、一つ言わせてもらうけどよ――」


 港へと向かう二人の背に向かって言う。

 二人は夕焼けを背にして振り返り、朱に照らされたハセヲを見た。

 ハセヲは二人が完全にこちらを向くのを待ち、


「お前ら――とんだ物好きだな」


 ログアウトを実行した。

 光となって螺旋を紡ぎ、僅かな残滓を残してハセヲが『The World』から姿を消す。スケアはハセヲが完全に去るのを待ってから、


「ったく……こっちでも素直じゃねえのな、アイツ」


 苦笑混じりに言った。

 皮肉とも取れるハセヲの置き言葉を二人はしっかりと理解している。それゆえの苦笑だった。

 ふとスケアが横に視線をやると、困ったように微笑んでいるメイプルの顔が見えた。恐らくは自分と同じことを考えているのだろう。

 つまり、ハセヲは言外にこう言っていたのだ。

 ――ありがとう、と。

 捻くれた親友を想いつつ、スケアはメイプルを連れて再びエリアへと出掛けた。なにせ明日からのアリーナでは優勝が目的なのだ、少しでもレベルをあげてハセヲに追い付いておかなければならない。

 明日の試合の時間は既に調べてある。リアルでの休息の時間を差し引いても、レベル上げの出来る時間は残されていた。


「んじゃ、いくか」

「うん」


 それ以上の会話は無い。

 胸に残る心地よい想いに浸りつつ、スケアとメイプルはカオスゲートへと足を運んだ。















To be Continue












作者の蒼乃黄昏あおのたそがれです。

小説を読んでいただきありがとうございました。

簡単な一言でいいので、ご感想を頂けると嬉しく思います。

ご感想をメールで下さった方には、お返しに

『第零話:終わり逝く世界』をお送りさせて頂いてます。







作者蒼乃黄昏さんへの感想、指摘等ありましたらメ-ル投稿小説感想板に下さると嬉しいです。







.hack//G.U.Chronicle

第三十九話










追えば逃げられ


逃げれば追われる


影人は今もすぐそこに