それは、無謀な行いだった。

 『どちらが』と問われれば『どちらも』と答えるしかない。

 勝ち目の無い突撃を敢行する少年が無謀ならば、それに割って入ろうとする女性もまた無謀だった。


「それが……人間、かしらね」


 ――少年は駆けて行く。余りにも遠すぎる敵の下へ、がむしゃらにただ駆けている。

 到達したところで出来ることなど何もない。開眼しておらず何ら攻撃手段がない現状では、そこに至ったとしても無意味な攻撃を繰り出すだけに終わる。

 それを知りつつ、それでも少年は逃亡ではなく疾走を選択した。

 ――女性は跳んで行く。ここで少年が倒れようと、それは仕方の無いことだ。それでも見過ごすことが出来ないでいる。

 『AIDAとの接触』という手段を強行した以上、一度きりしか試せないこの開眼の機会を、第三者の介入で台無しにするなど許されない。女性が介入してしまえば、それは自らの手で少年の開眼の芽を摘み取るということになる。

 それを理解して、それでも女性は傍観ではなく介入を選択した。


「見届けさせてもらうわ。貴方たちの――選択の行方を」


 ヴェラは子を見守るかのような瞳で、二人をただ見続けていた。










      *****










 何故駆け出したのかと聞かれれば『知ったことか』と答えるしかない。

 恐らくは理屈ではない。ただ、これを逃せば開眼の機会が無くなるという事実がそこにはあった。

 そして、志乃を意識不明にさせたような奴らから逃げ出すことを許さない自分が、そこにいた。

 理由と概念づけるのであれば、その二つ。矛盾の入り混じった答えと知りつつ、それでも駆け抜けた。

 声にすらならない咆哮を放っているのを自覚する。恐らくは表情もさぞ獣じみていることだろう。この疾走はさながら死に向かって駆け出す自殺者のソレだ。まともな行いではない。


「――――――」


 しかし――自棄になったわけでも無かった。

 パイは言った。強い爆発的な感情、そして心的ショックが鍵となり開眼できる可能性があると。ならば、今以上にそれに相応しい状況は無い。

 AIDAには碑文の力で対抗することが出来る。ならば開眼することが出来れば生き残れるという事実がここにはある。文字通り死中に活を求める行為を、ハセヲは選択したのだ。自身を、谷底に追い込むように――。


「――――!!」


 AIDAが閃光を放ってきた。廊下は直線。左右に逃げても躱し切れない規模の攻撃。開眼しなければ――死ぬ。

 駆け抜ける脚はそのままに、目を閉じて集中し、精神を研ぎ澄ませる。心的ストレスは最高点。感情はとうの昔に煮え滾っている。今この瞬間以上の危機感などない。かつてないほどに力を望んでいる。

 それでも――


(なんで……なんでだ――!?)


 碑文に繋がることも、感じることでさえも……出来なかった。


「ち、く、しょおおぉぉぉ――!!」


 閃光が視界一杯に差し迫る。

 終ぞ開眼することの出来なかったハセヲは、その閃光により精神ごと破壊され、志乃と同じく意識不明者に――


「どきなさい――!!」


 閃光が着弾する――その寸前。

 ハセヲの眼前に、紫光により形成された壁が展開された。

 その壁は不可侵領域の境界線となり、閃光は壁の前に弾かれ消えた。


「全く――なんで逃げないのよ、アナタは……!」


 その形成された壁の手前、桃色の影がハセヲを庇うようにして立っていた。


「本当に嫌になるわ……まるで、どこかの誰かさんみたいでね!」


 言って、桃色の人影――パイは何かを迎え入れるように両手を広げる。








 ――コォーン――







 かつて聞いた――そして、いつか鳴らすべき鐘の音色が響いた。

 鐘の音は世界を満たし、ある一点に事象存在を集結させる。


「来なさい」


 それは宣誓にして言霊であった。

 世界に対し、己に対し、そして“己以外の誰か”に対しての誓いの祝詞。


「“復讐する者”――」


 果たして祝詞は、鐘の音に乗り世界へ響き――


「――タルヴォス!!」


 宣誓者が光と化し、虚空に抱かれた。

 目も眩むような――否、目を焼かんばかりの苛烈なる紫光。

 光はパイの身体を包み込み、神を導く紋にして門を創りあげる。

 空間は分解され破砕され侵食され変革され構成され、果て無き地平へ姿を変える。

 其処に光臨するは一個の存在。

 現れ出でるは原典に刻まれた八柱にして直系の神。

 復讐の名を背負う聖杭の担い手。

 第七相“復讐する者”――――≪タルヴォス≫


≪キァアァァアァァ――!!≫


 悲鳴にも似た、それでいて旋律を思わせる声が響く。

 蝙蝠のような鋭い羽を広げ、その姿からはか細い女性的なフォルムが連想される。

 その痩身はまるで罪人のように、両腕両脚を聖釘によって貫かれ、はりつけとなっている。

 にも関わらず、それは圧倒的な神々しさを感じさせられ――そして寒気がするほど美しかった。

 神秘を纏うその神――タルヴォスはAIDAを睨みつけ、両翼から八本の棘を撃ち出す。棘はAIDAを包み込むように飛来し、逃げ場さえ許さず全弾が命中した。

 その攻撃でAIDAを覆っていた『何か』がひび割れ、破砕音と共に弾け飛ぶのをハセヲは知覚した。

 タルヴォスは杭に穿たれた両手を翳し、一個の魔弾を形成する。どこまでも深い闇でありながら、何よりも強い光を孕んだその弾丸は、一際強い閃光が走ると共に撃ち放たれ――AIDAを、喰らった。

 分解されるAIDA。その残骸を喰らい尽くす暴虐の光。しかる後の時が過ぎ去った後、残ったのは一柱の神と一人の人間だった。


「…………」


 呆然。

 言葉も出ない。

 ただ、助かったと言う事実と――助けられてしまったという事実のみをハセヲは認識していた。


「ハセヲ――大丈夫?」


 纏った光を拡散させると共に、元のPCボディ『パイ』へと再構成を終えた彼女が、宙からゆっくりと降り立った。


「どうやら……無事のようね」


 ハセヲは余波で倒れていた身体を起こし、下から舐め上げるようにパイを睨んだ。


「なんで……なんで手を出した!?」

「開眼に失敗したと判断した為よ。最後の攻撃が当たる寸前まで待ってみたものの、碑文の力を感じ取れなかったわ」


 それは嘘だ。あの一瞬の攻防でそんなことが見極められるはずも無い。

 しかし、開眼に失敗した、という事実は相違なかった。


「これで判ったでしょう……、今回の試みは最後の手段だったわ。それに失敗した以上、アナタには開眼する素質がないと判断せざるを得ない」


 淡々と語られていくそれを聞く意味は無い。

 失敗すれば、そう言われるであろうことは判りきっていた。


「……一つ、聞かせろ」

「なに?」

「なんで、助けた?」

「さっきも言ったでしょう。貴方が、開眼に失敗したことが判ったから――」

「そんな建前を聞いてんじゃねえ! 俺を助ける必要なんて無かったはずだっ! なんでわざわざ手を出したのかって聞いてんだよ!!」

「――――」

「俺を助けるメリットなんてものはねえ筈だ……。テメェらのことだ、『ハセヲ』が破壊されても碑文が無事なように細工でもしてんだろ! なんで助けた!?」


 吐き出すように、ハセヲは感情をぶちまけた。

 碑文に細工が施されているかどうかなどに確信は無く、ただ口からついて出た程度のものだった。そして同時に、自分が助けられた理由についてもどうでもよかった。しかし、押し黙って開眼に失敗した事実をかみ締めることが出来るわけでもなかった。ただの八つ当たりのだったのかもしれない。


「答えろ……!」


 だが、聞いてしまったからには追求する。相手が押し黙ってしまったのならば尚更だ。こんな不愉快な気分のまま、何もかも放り出すのだけは御免だった。


「理由なんて、無いわよ」


 やがてポツリと、パイは唇を開いた。


「ただ気づいたら割って入ってただけ。考えなんて無かったわ。あえて答えを出すなら、助けるべくして助けた……といったところかしらね」

「……なんだよ、それ」

「さあね……私にも、よく判らないわよ」


 それを最後に沈黙が満ちた。

 二人とも口を開かない。何を言うべきか、何を言っていいのかもわからず、ただ口を閉ざしていた。

 ややあって、ハセヲがその沈黙を破る。


「なんで、アンタは――」


 ――刹那。

 一つの事象がそこに展開された。

 ハセヲの背後。パイの視線の先。先ほどまでAIDAが存在していた場所。

 完全に破壊されたはずのAIDAが存在していた場所に、一粒の黒い泡が、滲み出ていた。


「――――!?」


 ハセヲは背を向けている。気づいていない。パイは咄嗟にそう判断した。そして――


「――――あぶない!!!」


 増殖するように数と規模を増した黒泡がハセヲの背に襲い掛かる寸前、思い切り突き飛ばした。

 襲い来るAIDAの直線状に、自分の身体が割って入ることにも構わずに――パイは、ハセヲを庇った。


「アアアアああああAAAAaaaa!!!」

「なっ――!?」


 突き飛ばされたハセヲはその悲鳴を聞いて初めて、自分が庇われたことを知った。

 黒点に身体を貫かれたパイが、倒れこむように膝をつく。ハセヲは、崩れ落ちるパイの口から零れだした黒い泡を見てしまった。零れ出た黒泡も再びパイの身体へと溶け込み、宿主に苦悶の声をあげさせる。


「う……あ、ふっ……くぅ、ぅ、あ……! ああぁぁぁ!!?」


 パイは掻き毟るようにして自分の体を抱き、必死に何かを押しとどめようとしている。

 だが、それは傍目にも絶望的な抵抗であるように見えた。


「お、おい――やべえ、のか!?」

「近づかないで!!」


 ハセヲの走り寄る足は、その一言で止められた。

 パイは拒むようにかざした手をそのままに、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


「ハセ、ヲ……私、から……逃げ、なさい……!」


 ――“ヤバイ”

 ハセヲの感じた言い知れぬ悪寒は、簡潔すぎるその一語に凝縮された。


「クーン、を……呼びなさいっ……! 彼、の……憑神で……ワ、たシ…を……」


 苦悶に喘ぎながら、抵抗を続けるパイは――


「『データ・ドレイン』……すル、のよ……!!」


 必死に、死に物狂いの形相でそう告げた。

 それを皮切りに、先ほど見た紫光が彼女の身から放たれ始める。


「駄目、駄目、駄目、駄目、駄目…………!!」


 そして黒点は、内側から蝕むソレを拒み続ける彼女を嘲笑うかのように――


「だめえぇぇぇえぇぇぇぇえええ――――!!!!」


 無慈悲に侵蝕改竄憑依を強制した。















 光。

 眩い光がパイの身体を包む。

 つい先ほど目にしたばかりの、苛烈なる紫光。

 やや輝きを失っているものの、その光は今もなお強大な力を誇示し、保有していた。

 空間は再び変革され、無限に広がる仮想領域にして果て無き戦場を創造する。

 その自らが創り、生み出した世界に降り立つ紫神。

 胸と両手両脚を杭に穿たれ、磔と成りながらも、視るものを畏怖させる寒気のするほどの美しさはなお健在。

 蝙蝠翼は鋭く優雅にはためかせられ、翼に刻まれた六つの忌眼がハセヲを睨む。


≪ハ、セヲ……早く、逃げ……≫


 空間に強いノイズが奔る。その言葉を最後に、パイの意識は深い闇に囚われた。


「――――」


 ハセヲは無駄な行動だと判っていながら、周囲を見回した。

 周囲に他の存在は皆無。創り出されたこの空間に存在するのは目の前の憑神と自分の二人のみ。

 先ほどの――AIDAと対峙していた時よりも更に最悪な、これ以上ないというほどに絶望的なこの状況。

 AIDAを相手にしていたときの、あの絶望感が馬鹿らしく思えてしまう。今のこの状況に――神と対立しているこの状況に比べれば、あんなもの些事にすら含まれぬ出来事でしかないだろう。

 ――つまり、それほどに、どう足掻いても、どうにもならない状況だということだ。

 クーンを呼べと彼女は言った。それは正しい。AIDAに対抗できる憑神と戦えるのも、また憑神のみ。それぐらいは自分にも理解できる。そしてそれは、憑神が無くては抗うことすら出来ないという事実をも指していた。

 私から逃げろと彼女は言った。それも正しい。今の憑神は……彼女は、AIDAに乗っ取られている。そして、他にAIDAのいないこの状況下――“俺しかいない”この状況下で憑神を喚び出す理由は一つしかない。だから彼女は、逃げろと言ったのだ。

 ならば、創りだされたこの空間は戦場などではない。ここは罪人を一方的に虐殺するだけの――刑場だ。


「――――」


 パイに指示されたことは正しい。それが最善の手段なのは自明の理。ここにいても無慈悲に消されるだけ。憑神には憑神でしか対抗できない――ならば、憑神を使える者でなければ対峙することさえ許されない。

 それらを嫌になるほど、芯の髄まで理解している。だが――


「今からクーンを呼んでも間に合わねえ――」


 もう、助けを呼ぶ時間など無いこともまた、理解してしまっていた。


「悪いな……アンタの言うことは聞けねえよ」


 助けを呼んでいては、取り返しのつかないことになる確信がある。そんなことをしている間に、彼女がどうなってしまうのかがはっきりと予測できてしまっていた。

 憑神は憑神でしか対抗できない。故に、この場で彼女を救う手段があるとすれば、それは一つだけ。すなわち――



「――――――――来い」



 深い闇に意識を沈降させる。


 凝視するべきは眼前の神ではなく、自己に棲む己以外の誰か。


 感情を糧に心を燃やし、激情の篝火が闇に燈る。灯火を手に、更に奥へと視界を飛ばす。



「来い――」



 そう命ずるのは他の誰でもなく己自身に他ならない。


 絶対の律を含ませ、ただ純粋に求め命ずる。


 求むのは誰か。求むのは何か。求むのは何故か。


 それすら判らず――しかしそれをも理解し、更に求める。



「来い――!!」



 全てがあり、恐らくは何も無い其処に自分だけが在る世界を創造。


 ――否、ハセヲの世界は既に創造されている。


 新規にそれを生むことは不可能。


 ならば事象を改竄し、門を生む紋の形成地として利用。ヤツは今も其処に在る。



「来い――!!」



 零と壱の狭間に建造された揺り篭、そこに眠る無と有に属さぬ胎児を直視。


 仮想遺伝子に刻まれた記録を紐解き、目覚めるに必要な項目を羅列検索。


 此処に揃うは存在知識感情原典。満ちぬは鍵。足りぬは鍵。求むべき鍵。


 残る一点、鍵を希求し沈降探査検索を続行。



「来いよ――!!!」



 欠片を集め知識を得て感情を糧に照らそうとも、闇は深く視界は遠い。


 己が放つは無色の感情。闇に灯る無色の炎は色持たぬが故、強く周囲の闇を照らす。


 神が目覚めるに相応しき鍵。雄雄しき扉の開封する鍵。其れを求め、意識は堕ちてなお渇望。



「ウ――オオォォォォォォォオォォォ!!!!」



 沈黙探査失敗沈降検索成功算出入手失敗理論改竄記憶補填。


 求めろ求めろ求めろ求めろ心を燃やし過去を抉り意識を張り巡らせてなお求めろ。


 いつまでだ。いつまでだ。いつまで忘れているつもりだ。いつまで忘れているのだと自分を騙し続ければ気が済むのだ。


 俺は識っているはずだ。『ハセヲ』はかつて碑文と対話したはずだ。


 現実を直視しろ。死を恐れるな。死は既に二度経験している。今更恐れる必要などない。


 鍵は在る。其処に在る。ここまで歩んだ系譜が意味を持つならば『ハセヲ』の記憶に鍵は必ず存在する。


 ならば探せ。掠れた記憶を浮き彫りにし、古傷を抉ってでも探し出せ。そして引き摺り抉り出し、鍵をこの手に掴み取れ!


 今しかないんだ。俺しかいないんだ。俺が今此処で目覚めなければならないんだ!!


 俺がこの手で……救わなければいけないんだ――――――!!!








『ミ・ツ・ケ・タ…………!!!!』








 ――瞬間。

 世界の全てが闇に堕ちた。

 誰からも望まれず、ただ産み堕とされただけの世界。

 闇。それだけしかない世界。光。そんなものはない世界。

 全てがあり、同時に何も無いその世界には“ハセヲ”だけが存在していた。

 脳裏に響く言霊は闇の中においてなお重く、記憶の水底に波紋を生む。

 そして――ハセヲの脳裏に一人の男が投影された。


「――――!?」


 それは初めて世界に降り立ったときの映像。灰色に染まるセピアの記憶。其処に男は立っていた。

 色眼鏡をかけ、不釣合いに巨大な筒で左腕を封じ、どこか放浪者を思わせる佇まいとその姿。

 記憶の中のその男は、まるでそうすることが決められていたかのような滑らかな動作で、ハセヲへと右手を差し伸べ――


『――Welcome To “The World”』


 鍵を静かに、手渡した。


「――――!! オーヴァアァァァァァァァァァン!!!!!」


 全てが――――揃った。








 ――コォーン――








 咆哮に応えるように、深く重く静かな闇に三つの紅光が灯る。

 紅光は三つでありながら一つの意志を生み、三崎亮でありハセヲであり■■である存在を新たなる名で誕生させる。



「――――来た」



 激情が闇を照らし尽くし、世界がその全景を顕す。



「来た……!」



 紅光は門である紋を象り創り、現れ出ずる神を迎える。



「来た……!!」



 在り得無き心臓が稼動し鳴動し蠕動し駆動し鼓動する。

 其は新たなる心臓。虚数にて実体を得た心臓はその活動を連鎖で繋ぐ。



「来た……来た……来た、来た、来た、来た!!!」



 故に、世界は新たなる世界によって侵蝕改竄否定変革され――



「来たぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ――――!!!!!!」



 神が、光臨を果たした。



≪グヴォォオオオオオォオオオオオオオオオオオオオォオオン!!!!≫



 咆哮するは一個の神。血のように朱く赤く紅く光る紋章を破り出で、纏いし衣を振り払う。

 其が爪は鋭く、其が腕は雄々しく、黒く紅い躯体はどこまでも猛々しく、視る者全てに畏怖の念を抱かせる。

 その身の全ては深き闇。その身が纏うは紅き闇。その身を誇るは互いの名を共とする、血と闇に染まった混血児。

 第一相“死の恐怖”――――≪スケィス≫


「カハァ――――」


 肺に詰まった息を吐き出し、強張っていた体の緊張を解く。

 ジジ、と断続的に奔るノイズ。それはまるで、空間が自分に恐れをなして震えているかのようだ。

 手を見やる。そこに慣れ親しんだ両の手はなく、ただ殺傷能力のみを追求した刃物のような爪が存在していた。


「――――――――」


 そこで確信を得た。『ハセヲ』が開眼した事実を知った。

 しかし、その余韻に浸ることは許されない。高く広くなった視界の前方を、強く見据える。

 形成された空間、無限と化した仮想戦場に立ち聳えるは二柱の憑神。

 この身の力は神のモノ。強大な力を孕み、世界を震え上がらせる、原典に記述された至高存在。

 それは相手とて同様。対峙する敵もまた神。

 憑神は憑神でしか対抗できないという事実。それは逆を返せば、憑神であっても憑神を倒せる保証は無いということだ。


「アンタには、さっき助けられた借りがある」


 それでも、“死の恐怖”は僅かな淀みすらなく右腕を翳し――


「借りは返す……。だから――」


 世界に対し、己に対し、彼女に対し――


「俺が必ず――――アンタを助ける!!!」


 高らかに吼え、宣誓した。














To be Continue












作者の蒼乃黄昏あおのたそがれです。

小説を読んでいただきありがとうございました。

簡単な一言でいいので、ご感想を頂けると嬉しく思います。

ご感想をメールで下さった方には、お返しに

『第零話:終わり逝く世界』をお送りさせて頂いてます。






作者蒼乃黄昏さんへの感想、指摘等ありましたらメ-ル投稿小説感想板に下さると嬉しいです。







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第二十八話 : 憑神開眼












――来い――