偶然、と思いたいと思った事はないだろうか?
俺は今、猛烈に偶然だと思いたい。
これを必然とかいう奴がいたら、俺は全力でそいつをぶん殴ってやろうと思う。
とにかく、これは偶然だ。
偶然、踏み入ってはならない処に踏み入ってしまっただけだ。



騎士の誓い第一話『こんにちわ、偶然』



空では、この世ではありえない光景が展開されている。
薄暗い空間。空飛ぶ少女。焔が舞い、光が走る。どこをどう見ても非常識のオンパレードだ。
さらに言うならば数年ぶりに見る空の戦いだった。

(どうやら俺が見つかったって訳じゃなさそうだな)

そんな事を考えていると、場の雰囲気がかわった。

「……あれ? もしかして俺、とてもまずい位置にいる??」

俺と白い女魔導師の間にバインドを喰らっている男がいた。
薄闇でなのか、はたまた左腕の所為なのか―多分、後者だろうが―俺がいることに気付いていない。
即座に踵を返し走り出す。どんな魔法が繰り出されるかわからないが、早くこの場から離れないと。
しかし、無常にも女から放たれたピンク色の光が一直線に向ってくる。

「あー、こりゃ避けれ……」

そんなお気楽な発言途中で、俺は光に飲み込まれた。


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高町なのは、フェイト・T・ハラオウンが気付いた時はなのはが得意の魔法を放った後だった。
敵を捕らえられると踏んでフェイトがバインドという保険をかけ、なのはが放った。それは見事に敵に当たり一段落かと思った。
しかし、射線上に予定外な人がいた。暗闇だった事で気づくのが遅かった。その人は自身の放ったの光に飲み込まれてしまったのだ。

「エイミィさん!! 今、人が!!」
『嘘!? サーチャーには反応ないよ!!』

エイミィ・リミエッタの言うことは本当だった。戦闘範囲にあった反応は犯罪者の男と魔道師の少女二人のみ。
これ以外の反応はなかったのだ。だが、なのは、フェイトは見たと言う。

「っ……」

大急ぎで着弾点に向うなのはとフェイト。だが、その足はすぐに止まった。

「……な、に?」
「この魔力は!?」

二人は着弾点から異様な魔力を感じ取ったのだ。立ち上る黒煙が次第に晴れていき
そこに立っていたのは真紅のコートを身に纏い、真っ赤な槍を持った仮面の男が立っていた。


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咄嗟の事とは言え、晒したくない力を使った。
それは忌むべき力、強大なる力、人を不幸にする力、悪魔の力と称されるロストロギア。
俺の周りにあった黒煙が晴れると上空に白と黒の魔導服を纏った女の子二人が俺を見ていた。

「……あー」

俺が言葉を発すると二人ともビクッと体を震わせ、持っている武器を構え始める。
もしかして怪しい奴だって思われている?

「……」

彼女達の顔は見て瞭然、それは怖いものを見ている顔だった。
こりゃ完璧に怪しい奴だと思われているな。
にしても、あの二人。どこかで見たような?

「まぁ、どっちでもいいか。さてと……」
「?」

二人は首を傾げる。俺の言葉の意味がわからないのだろう。
わかられても困るけどな。だって俺はこれから。

「面倒な事はさようなら、だ!!」

――逃げるのだから!!

「Ignition」

俺の一言の呪文で足元に魔方陣が描かれる。
魔方陣から噴出するのは炎。それが俺の持つ槍に包まれ、頭上で槍を旋回。

「そんじゃ、さいなら!!」

さらに勢いを付け、燃え盛る炎を辺りに撒き散らした。

「きゃっ!?」

俺に近づこうとしていた二人の魔導師は炎によって足を止められ、
止まっている間に俺は全速力でその場から逃げ去った。


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「で、その赤い男は逃亡したと」

時空管理局巡航8番艦アースラブリッジに艦長クロノ・ハラオウンと通信指令エイミィ・リミエッタ、そして先程まで戦闘を行っていたフェイト・T・ハラオウンと高町なのはが集まっていた。
話は二人が出会った赤い男について。ちなみに、二人が先に扱っていた事件はさっさと本局に送られていった。

「こっちで観測した時にだけど」

コンソールをカタカタと打ちモニターに男のステータスを映し出した。

「瞬間的なものだから誤差はあるけど、それでもA級だったよ」
「!?」

なのは、フェイトは驚いていたがクロノはどこか納得した顔をしていた。

「なんでこの街はロストロギアが集まるのだろうな?」
「クロノ君?」
「そいつの持っている槍、あれは紛れも無くロストロギアだ」
「え!?」

クロノがモニターに出したのは男の持つ槍と瓜二つの槍だった。

「やはり『血滾る槍』だな」
「ちたぎる槍?」
「あぁ、第一級捜索指定遺失物だ」

ロストロギア『血滾る槍』
今現在判明している特徴は二つ。一つは術者の血を吸い、それを力に変える魔槍ということ。
二つ目は・・・・・・

「前に確認されたのは今から6年前だな」
「6年前?」
「あぁ、その時の契約者はこれに血を大量に吸われ、死亡したと報告されている。これはあの闇の書と一緒で、契約者が死ぬと自動的に次の契約者に転送されるんだ」

自動転送ほど厄介なものはない。次の契約者が自ら名乗り出なければ誰が契約者なのかわからないのだから。
そう思うとクロノは考える。

(なぜ今になって姿を現した? 偶然だろうか? とにかくこれは・・・・・・)今まで確認されなかったのは謎だが、本格的に調査する必要がある。エイミィ」
「了解。本局に連絡します」

エイミィは直ぐにコンソールを叩き、案件を作成し始めた。
それを確認したクロノは二人に向き直る。

「今日はご苦労だった。二人とも明日、学校だろ? もう休んでいいぞ」

エイミィの指示の後、なのはとフェイトも何かしら指示されると思っていたが、見当違いな事を言われ数秒固まってしまう。

「どうした二人とも?」
「クロノ……艦長。私もなにか」
「何かしてもらう為に言ってるんだ。槍は海鳴市にある。俺の言いたい事わかるな?」

動く時期は自ずとやってくる。それまで身体の状態を万全にしておくこと。とクロノの言っている事を理解した二人は大人しく自室に戻ることにした。


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俺こと水無月コウキは普通の中学二年生だ。そう普通だ。
左腕が動かないと言う状態だが、それ以外は至って普通だ。
普通じゃないって言う奴がいるなら俺は本気でぶん殴ろうと思う。

昨日の非日常的夜が明けて朝になる。
気分はとてつもなく低い。学校でもサボってやろうかと思うぐらいにだ。
だが足は学校へと向っていく。なんて律儀なんだ俺は。

昇降口を通り階段を上がり自分のクラスに入って、硬直する。
クラスの真ん中にアリサ・バニングスと言う女性がいる。この学年のアイドル的存在で、ハイレベルな容姿をしていて狙っている男は学年問わず多々といる。
さて硬直している原因だが、原因はアリサ・バニングスではなく、彼女の周りにいる二人の内の一人にあった。
昨日の非日常的夜に見た白の魔道師と黒の魔導師。どこかで見たことがあったなと思ったら

「……マジか」

黒の魔道師、フェイト・T・ハラオウンだったのか。あぁ、俺と同じクラスだったな。

「おーい、水無月?」

後ろにクラスの友人が立っていた。どうやら俺が邪魔なようだ。

「あぁ、悪い」

友人と教室に入り自分の席に腰をかける。コウキの席は窓側の一番後ろ。そこからチラッとハラオウンを見る。

「(……うん、俺は何も見なかった。そうしよう)」

全てなかった事にし、いつも通り襲ってきた眠気に抵抗せず現実逃避するかのように眠りに入った。

次に目が覚めたのはお昼頃。

「丸々寝てたのか」

時計は12時を回っていた。周りには弁当を広げてる人や、パンを食べてる人とまちまちだ。

「そうよ。いくら揺すっても起きなかったんだから」

そこに頭上より声が振ってくる。上を見るとアリサ・バニングスが目の前にたっていた。

「なんか用か、姫?」

俺だけがアリサの事を姫と呼ぶ。それにはちゃんとした理由がある。

「今日の放課後に学園祭でやる劇の練習があるのよ。帰らないでよ」
「はいはいりょーかい」

一週間後にこの学校の学園祭がある。
そしてこのクラスの出し物は演劇に決まっている。さらに不本意ながらその演劇の主役を俺がやることに決まっていた。
なんで俺みたいな奴が主役かというと、今さっきみたいに寝ていて主役を決めるとき寝ぼけて手を上げてしまったのだ。そしてそのまま決定となった。
俺はその時の記憶はないと言ったのだが、無駄だった。
ちなみに、囚われのお姫様役はアリサ・バニングスである。役に合ってないと思うが、それは決して口に出してはならない。一度口に出してしまった時があるのだが、あの時は酷かった。
とにかく捕われのお姫様と言うイメージが付きにくかったのでその改善策として学祭までの間は彼女の事を姫と呼ぶ事にしている。
姫も最初は恥ずかしかったようだが、時が経てば慣れてしまうもので、本人だけではなくクラス全員が俺がバニングスの事を姫と言うのに違和感がないと答える。
その逆で、バニングスと呼ぶと違和感があると言われるのはナゼだろうか?

「マジでだりーな」

気分はいつまで経っても低いまま。こんな状態で練習したら、周りの足を引っ張るのが
目に見えている。そこで俺は考えた。
授業はサボって屋上で寝ようと。
青空の下で寝れば気分が少しぐらい上がるだろうと思ったのだ。
思ったからには直ぐに行動するのが水無月コウキ。
俺は無駄に気配を消し、教室を出て屋上に向った。

屋上で寝ていること約2時間。
時間的に6限目の終わりといった所だろう。そんな時間に屋上にいるのは授業をサボっている人間以外いるはずがない。
人の気配を感じ閉じていた目を薄っすらと開けると

「!?」

俺の顔を覗きこむ様に見ている奴がいた。それに驚いて目を開くと
覗いていた奴も驚いて2、3歩あとず去った。

「にゃ、にゃははは」

終いには苦笑いしてやがる。

「なんだよ」

安眠を妨害されて怒らない奴はいないはずだ。
それが例え昨夜に会った白い方の魔道師だろうと関係ない。

「(あぁ、あれは高町だったのか。どうりで見たことがあるわけだ)」

いきなりなこと過ぎて驚いたのは内緒だ。かわりに悪態ついてやった。

「……こ」
「こ?」
「こんな所で寝てると風邪ひくよ?」

季節は夏から秋になったぐらい。肌寒いとは思うが、まだ大丈夫だと思うぞ。

「大きなお世話だ。それよりあんた、サボり?」

腕時計を見ると後10分程で6限目が終わる。
何度でも言っておこう。この時間にいると言うことはサボり確定である。
なら聞くなと言うツッコミは却下だ。
だが、高町は慌てながら

「ち、違うよ、サボってるわけじゃないんだよ」
「……」

ジーッと細目で睨み続ける。

「ち、違うもん」
「……」

ジーっと細目で

「だからね……」
「……」

ジーッと

「……はい、授業を休んでます」

ようやくサボっていることを認めた高町。
サボりとは言わずに休んでいるという足掻きがあるが、そこはスルーしておいてやろう。

「あんた、優等生に見えんのに。人は見かけによらない、か」
「わ、私は用事があるんです! そう言うあなただって・・・・・・」
「あぁ、サボってるがなにか?」
「……」

高町はあっさりと認める俺に驚いている。
しつこいが何度でも言う。この時間にここにいると言う事はサボ(ry
それに俺はサボりの常習犯である。何を今更と言った感じだった。

「つーか、屋上に用事ってなんだよ?」
「あ、あなたには関係ないです」

至極真っ当な返答。俺はもう少し面白い答えが欲しかったけど。

「まぁ、そりゃそうだよな。だったら、さっさと教室にでも帰ったら?」
「帰りますよ。……あなたは?」

一向に動こうとしない俺を見て首を傾げる高町。

「寝るんだよ。どっかの誰かさんに邪魔されたからな」
「駄目です!!」
「……は?」

なぜ駄目と言われる?

「さっきも言ったけど、こんな所で寝たら風邪ひいちゃうよ」
「大丈夫だろ。つーか、眠いんだ。邪魔すん……!?」

高町を無視して寝る状態に入る。が、両袖を掴まれ強制的に立ち上げられた。
この女、なんちゅう力してんだ?!

「眠かったら、保健室行って寝てください」
「保健室は病人の寝る場所だろ。サボりが寝るのは屋上だ」

前者は真っ当、後者も真っ当。
これが違うと言う奴は400字詰め原稿用紙10枚をフルに使って説明しろ。

「それ誰が決めたんですか?」
「もちろん、世間だろ」
「と・に・か・く!」

おい、聞いといて無視か?

「こんな所で寝るのは駄目です!!」

未だに右袖を離そうとしない。むしろ引きずって行こうとする気満々だ。
こいつ、結構頑固者なんだな。人は見かけによらない。

「はいはい、戻りますよ」

仕方がない。戻るフリをして別れたらまた戻ってこよう。

「うん♪」
「……」

戻る事に応じたので気分が良くなったのか高町は笑った。
その笑顔に素直に可愛いなと思ったのは内緒だ。



あとがき
はじめまして、ヒノカマと言います。
魔法少女リリカルなのは〜騎士の誓い〜を読んでいただきありがとうございます。
このストーリーはAs〜STSの間のお話です。
いろいろとおかしなところはあると思いますが、よろしくお願いします。







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