これは、ありえるかも知れない未来の物語。

 

孤独の剣士の“もしも”の話。

 

 

 

 

 

 

リリカルなのはStrikerS放映記念+生まれたての風七周年記念小説 

 

To a you side 外伝  if

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

″リョウスケ!″

 

 

頭の中に警告が響いた瞬間、既に動いていた。

 

体を沈め、後方から襲い掛かってくる一撃をかわす。

 

魔力光が頭上をかすめ、水色の髪が数本、宙を舞う。

 

 

「数が、多過ぎる!」

 

″文句を言う前にどうにかしてください!″

 

「うるせえ!」

 

 

叫びながら、振り向きざまに接近し刃を翻す。

 

虹色の光を纏った刃が、カプセル型の機械兵器――――ガジェットドローンを斬り裂いた。

 

内部部品をまき散らして崩れ落ちていくガジェットを見遣る間もなく、良介はその場を飛び退く。

 

次の瞬間、蒼色の光芒が二つ前と後ろから挟み込むように、良介のいた場所に降りかかった。

 

魔力の一閃が紙一重で空を切る。

 

避けられた魔力は、目標を失いそのまま直進した。

 

爆発音が二つ辺りに響き渡る。

 

互いに相手を撃ち抜いたガジェットは、閃光を発して四散した。

 

動揺したかのように、ガジェット達の動きが止まる。

 

その隙をついて良介は突撃した。

 

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 

斬る。

 

斬る。

 

斬る。

 

斬る。

 

斬る。

 

斬る

 

斬る

 

斬る

 

斬る――――!

 

 

虹色の軌跡が、ガジェットの集団を斬り崩していく。

 

優美さとは程遠い大雑把な動き、どこまでも荒々しく無骨な、しかし同時に、どこまでも迷いの無い斬撃であった。

 

ガジェット達は次第にその数を減らしていき、残るは数体のみである。

 

 

「一気に決めるぞ!」

 

″わかりました!″

 

 

叫びつつ、良介は刀を振り上げる。

 

 

「ミヤ!」

 

″はい!″

 

 

ミヤが、刃に魔力をこめていく。

 

 

「こいつで――――」

 

 

刀身に虹色の煌きが収束する。

 

 

――――終わり、です!″

 

 

そして――――

 

 

 

――――轟ッ!!!!!――――

 

 

 

七色の極光が、世界を染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝――――海鳴公園

 

ゆっくりと息を吐きながら、四肢から無駄な力を抜いていく。

 

次に、吐いた時よりもゆっくりと息を吸いこみ、精神を研ぎ澄ませる。

 

昨夜に降った雨のせいなのか、吸い込んだ空気はひんやりとしていて心地よかった。

 

 

――――今日の朝は涼しい方か……

 

 

思いつつ良介は鞘から刃を抜き両手で構え、上段に持ち上げた。

 

腰を落とし重心を低くする。

 

そのまま、じっと動かなかった。

 

風が吹き、木の葉のざわめく音が聞こえる。

 

まだ、動かない。

 

風の流れに添って、どこからか三枚の落ち葉が舞い込んだ。

 

瞬間――――

 

 

「しぃっ!」

 

 

鋭い呼気と共に白刃を上段から真正面に振り落とす。

 

ついで、手首を返し噴き上げるようにして、斜めに切り上げる。

 

二枚の落ち葉が真ん中から二つに裂け、四つの欠片となって散っていく。

 

しかし、残りの一枚は良介の視界にはなかった。

 

すぐさま周囲を見渡す。

 

巻き起こされた剣圧によって飛ばされたのか、落ち葉は良介の間合いから離れた位置を舞っていた。

 

慌てて刀を脇に構え、地を蹴り駆ける。

 

だが――――

 

 

「っ!?」

 

 

地面に落ちていた小石に足が躓き、姿勢が乱れた。

 

それでも、なんとか勢いを殺さずに迫る。

 

 

――――一閃――――

 

 

不安定な姿勢から繰り出された一撃は、落ち葉を裂くことなく空を切った。

 

 

「……ちっ」

 

 

舌打ちし、躓いた小石を腹立ち紛れに蹴り飛ばす。

 

小石は放物線を描き、木立の中に消えていった。

 

刀を鞘にしまい、近くのベンチに歩いていく。

 

掛けていたタオルを手に取り、背中を預けるようにして座る。

 

タオルで額の汗を拭いながら、目を閉じた。

 

先の動きを思い出す。

 

落ち葉に意識を集中し過ぎていて、足元の小石にすら気づけていなかった。

 

シグナムや恭也であったならば、このような無様は晒さないだろう。

 

いや、それ以前に木の葉を飛ばすようなことはせず、一瞬にして全て斬り裂いていたはずだ。

 

十年間、毎日のように続けてきた剣の修練。

 

多くの修羅場もくぐりぬけてきた。

 

しかし、未だに高みは見えてこない。

 

自分に才能がない事は分かっているが、さすがに辟易して――――

 

 

――――馬鹿だよなぁ、俺も

 

 

そんなことを考える自分に苦笑して、想いを噛み殺す。

 

嘆息していると、

 

 

「お疲れさん」

 

 

という声と共に、頬に冷たい感触がする。

 

顔を向けると、一人の少女が屈託のない笑顔で麦茶の入ったペットボトルを差し出していた。

 

 

「悪いな」

 

 

受け取ると、少女は嬉しそうに頷き良介の隣に座る。

 

キャップを開け中身を飲む。

 

よく冷えているのか、口の中に清涼感のある苦味が広がっていく。

 

飲みながら良介は、横目で自分にとって大切な少女――――八神はやてを見た。

 

彼女は東の空に昇る朝日を見やり、その眩しさに目を細めている。

 

さらりとした黒髪が陽射しを受けて、淡く輝いているように見えた。

 

綺麗だと、素直に良介は思う。

 

見つめていると、視線に気づいたのかはやてがこちらを向き、目が合った。

 

微笑んで小首を傾げるはやてから慌てて視線を戻す。

 

中身が半分に減ったペットボトルを脇に置き、ベンチの端に立て掛けていた刀を取り、急いで立ち上がった。

 

良介の行動にはやてが可笑しそうに笑う。

 

聞こえてくる笑い声に、良介は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

 

 

「し、仕事はどうしたんだよ?」

 

「今日は休みなんよ」

 

「……へ?」

 

 

こみ上げる恥ずかしさを紛らわせようと聞いた良介は、はやての答えに間抜けな声を漏らして振り返る。

 

そんなことはないはずだ。

 

数日前に会った時、「これから忙しゅうなるから暫くは休み取れへんわ」と本人が愚痴っていたばかりである。

 

その事を聞くと、彼女は照れくさそうに答える。

 

 

「それがな、皆に『働き過ぎだ』って無理矢理休暇取らされてん」

 

「…………」

 

「なんか前から皆でこそこそしとるなぁ、て思うとったんやけど、前日になっていきなり言うてくるんやもん。それに私のやるはずやった仕事は全部終わってるし、びっくりしたわ」

 

「……なんつーか、あいつ等らしいというべきか……」

 

「まあ、良介も特に用事がなかったみたいやし、丁度ええ機会やし休むことにしてん」

 

「丁度いい?」

 

 

おうむ返しに問うと、はやては、「うん」と頷いた。

 

 

「私が新しく部隊を立ち上げたんは、知ってるやんな?」

 

「あ、ああ」

 

 

知ってるも何も、それが忙しくなった理由である。

 

 

――時空管理局 古代遺失物管理部 機動六課 部隊長 八神はやて二等陸佐――

 

 

それが今の彼女。

 

少女は溢れんばかりの才能とまっすぐな心を持って、確実に実績を重ね、遂には自分の部隊を持つまでに至った。

 

しかし、それまでの過程に自分が関与したことは殆どない。

 

関わるとしても外部の人間として、管理局の依頼を受けるだけだった。

 

はやてが管理局に入る時も、ミッドチルダに引っ越す時も、その誘いを断って此処海鳴の町に自分は残った。

 

その事にはやては納得していなかったようだが。

 

 

「そこの実働部隊に、良介をスカウトしにきてん」

 

「はぁっ!?」

 

 

突然の言葉に仰天する良介を、意に介さずはやては話を進める。

 

 

「なのはちゃんやフェイトちゃんの分隊の方は、有望な新人に目ぼしいのがおるから問題はないんやけど、私の本隊にも遊撃戦力として一人くらい人員が欲しいねん」

 

「ザフィーラがいるじゃねぇか」

 

「あの子には部隊全体、特に新人達の護衛を任せるから無理や」

 

 

良介の反論をあっさりと切り捨てる。

 

はやてはベンチから勢いよく立ち上がり、良介の横を通り過ぎながら続けた。

 

 

「局も人手不足で優秀な人材が乏しいねん。その点、良介は実戦経験も豊富やし、法術っていう希少技能も持ってる。何より、今まで局の依頼を片付けてきてくれた事が結構評価されてんねん。だから、少しの期間訓練校にいけばすぐに部隊に配属出来る」

 

「どうやろ?」、と顔だけ振り向いてはやては聞いてくる。

 

しかし――――

 

「…………っ」

 

 

はやての提案に対して良介は何かに耐えるような表情で黙り込んだ。

 

そんな良介の様子にはやてはため息をついた。

 

 

「そうやって良介は、数年前もなんの理由も言わんと、私の誘いを断った……なんでなん?」

 

 

何故か。

 

自分みたいな凡人が彼女の傍にいてもいいのか。

 

そう何年も悩み続けてきたが、答えは一つしか出てこない。

 

 

「……いいだろ」

 

「えっ?」

 

「別に、俺じゃなくてもいいだろ」

 

 

はやては一瞬驚きの表情を見せた後、

 

 

「なんで……そんな事言うん?」

 

 

信じられない、といった風に問うてきた。

 

良介は、情けないと分かっていても言葉を止められなかった。

 

 

「俺の力じゃお前を護る事が出来ない……そんな自分が許せねえんだ」

 

 

だから、はやての誘いを断り、別の道を自分は選んだ。

 

しかし正式に所属する事はなくても、管理局の依頼は受けていた。

 

護れなくても、せめて彼女の負担ぐらいは減らしてあげたかったから。

 

 

「それが……理由……?」

 

「そう、だ」

 

「……なんやの……それ」

 

「はやて……?」

 

 

良介の答えを聞いて、はやては呆然と呟いた。

 

その震えるような声音に良介は訝しげに少女の名を呼ぶ。

 

すると――――

 

 

「私は良介に一方的に護って貰おうなんて、思うてない!」

 

 

はやてが唐突に声を荒げる。

 

良介は目を丸くしてはやてを見た。

 

はやては顔だけでなく身体も良介の方に向けている。

 

良介を見上げるその目は赤らんでいた。

 

 

「私は強うなった! もう護られてるだけの存在やない! 良介と一緒に闘える! 良介を護ってあげられる! 」

 

 

赤らんでいたはやての目に、涙が滲む。

 

 

「昔に言うたやないか、私は良介と一緒に歩いていけるって……私は良介のおらへん安心なんていらん……それを、何で分かってくれへんのや……」

 

 

そこまで言って、はやてはうつむき嗚咽をもらす。

 

 

「――――」

 

 

良介は無言で見つめ続けていた。

 

悲しみに涙を零す少女の姿を。

 

 

「そうか……そうだよな……」

 

 

唖然としていたその表情が、次第に自嘲の笑みに変わっていく。

 

 

―――――やっぱり、俺は馬鹿だな

 

 

そう、気づいてしまえば簡単なこと。

 

剣技は未熟、魔力は貧弱、ミヤがいなければ魔法も満足に使えない。

 

この身は、他者の想いで強くなる法術使い。

 

元より一人では、戦えない、誰も護れない。

 

そんな男が、何を思い違いしていたのだろう。

 

今の自分は一人じゃなかった。

 

仲間が、友達が、家族が、そして、はやてがいる。

 

だったら、彼女達と共に歩めばいい。

 

彼女達の想いで自分を満たして貰おう。

 

そうすれば、戦える、護る事が出来る。

 

才能がないから、と諦める以前の問題だった。

 

最初から戦い方を間違えていたのだから。

 

 

――――それに、俺は……

 

 

自分の力なんて最初から関係なかった。

 

 

――――はやての傍にいたい。

 

 

その想いだけで十分のはずだ。

 

 

――――もう、間違わねえぞ……

 

 

彼女と共に在り、最後まで刃を握っていよう。

 

最後まであがいてこう、もがいていこう。

 

それは決して美しくも、潔くないかもしれないけれど――――

 

 

 

悩んでいた自分が阿呆らしくなった。

 

同時に、そのことを気づかせてくれた少女に、愛おしさと、済まなさを感じる。

 

はやてはうつむいたまま立ち尽くしていた。

 

 

「すまん……」

 

 

そう言って良介は、はやてを抱きしめる。

 

 

「え――――?」

 

 

突然の行動に、はやては泣く事も忘れて狼狽した。

 

そのまま、良介は言葉を紡ぐ。

 

 

「俺は今でも、こうやってお前を泣かせてしまう大馬鹿だ……一緒にいても迷惑をかけちまうかもしれない……」

 

「良介……ううん、そんな事気にせえへん、私は良介といられる事が一番の幸せや」

 

 

はやては抱きしめられたまま、ゆっくりと首を振って良介の言葉を否定する。

 

子共を諭す母親のような優しさを込めて。

 

 

「ああ、俺は大事なことを忘れていた」

 

 

頷いて良介は告げる。

 

 

「お前との出会いが俺に力をくれた、お前がいてくれたから俺は戦ってこれたんだ」

 

 

自分の想いを、ありのまま彼女へと。

 

 

「俺には、はやてが必要だ。だから――――」

 

 

抱きしめた身体を一度離し、子どものような笑みを浮かべながら良介は宣言する。

 

 

「――――覚悟しろよ? もう離さないからな」

 

「っ!?……うん、もう離さんといてや」

 

 

はやては微笑んで答える。

 

悲しみではなく、喜びの涙を流しながら。

 

良介もまた微笑んで、はやての頬を伝う涙を指で拭い取り、手を添え、顔を上向かせる。

 

同時に、はやては上半身を伸ばし、目を閉じて――――

 

 

「……ん……」

「あ……ん……」

 

 

――――二人は唇を重ねる。

 

 

しっとりと吸いつくような唇の感触。

 

胸に押し当てられたふくよかな双丘は溶けそうなほどにやわらかい。

 

甘く漂う髪の香り。

 

感触が、匂いが、体温が、鼓動が、はやての全てが良介の思考を麻痺させる。

 

 

「……!」

 

 

良介の腕が、きつくはやての体を抱きしめた。

 

はやては良介の首に手をまわし、口付けを深める。

 

舌を絡めんばかりに、どこまでも深く、深く――――

 

 

白み始めた空、昇る朝日が重なる二人をいつまでも明るく照らし出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれた虹の奔流は、残ったガジェット達を跡形もなく消し去った。

 

後に残ったのは、静寂と熱された空気、そして、辺りに散らばる機械の残骸だけだった。

 

 

「ミヤ、周囲に反応は?」

 

″残存反応ありません、全て破壊出来たようです″

 

「そうか」

 

 

呟くように言って、良介は地上に降下した。刀を地に刺し、「ふーっ」と長い息を吐く。

 

 

「ま、こんなもんか……」

 

 

一人ごちる良介に、ミヤが話しかける。

 

 

″出現の頻度も回数も増えてきていますね″

 

「ああ、動きも段々賢くなってきてる」

 

″でも、これ位ならまだ私達でも十分対処出来ますね″

 

「新人達にはキツイかもしれないけどな」

 

″手が足りないんですからそれは仕方ないですよ″

 

「ま、その為の新部隊だしな――――」

 

「おーい、リョウスケーー!」

 

「――――あん?」

 

 

大声が聞こえた方向に目をやると赤髪の少女――――ヴィータがグラーフアイゼンを片手に持ち、空いた方の手を大きく振りながらこちらに向かって飛んできていた。

 

 

「無事か!? ケガはねえか!?」

 

「ええい! ひっつくな、鬱陶しい!!」

 

 

美麗な顔立ちを心配に歪めて胸に飛び込んできたヴィータを、良介は乱暴に引き剥す。

 

 

「なんだその態度は!? アタシは心配してやってんだぞ!」

 

「はいはい、子分想いの親分で嬉しいねえ」

 

「こ、この野郎ぉぉっ!!」

 

「はい、そこまで」

 

「わぁっ!?」

 

 

どうでもよさそうな良介の返事に憤慨したヴィータは、良介に飛びかかろうとする。

 

が、突如として地面から現れた手に足を引っ張られ、盛大にすっ転んだ。

 

 

″ヴィ、ヴィータちゃん!?″

 

「旅の鏡……シャマルか」

 

「はい」

 

 

囁くような声が返ってくる。

 

虚空の空間が歪み、その中から一人の女性が現れた。

 

陸士部隊の制服の上に白衣を着たシャマルである。

 

柔和な表情を浮かべて彼女は降り立つ――――

 

 

 

 

 

 

 

「ふぎゅ」

 

 

 

 

 

 

 

――――ヴィータの上に……

 

 

「良介さん、ご苦労様です」

 

 

奇妙なうめき声を上げるヴィータ、それに構わず良介に微笑みかけるシャマル。

 

そんな状況の中、良介は暫く逡巡し――――

 

 

「――――どうでもいいが、シャマル」

 

「なんですか?」

 

「その白衣似合ってないぞ」

 

「ひ、酷いです良介さん! 気にしてるのに!」

 

「だったら、脱げよ」

 

「こんなところで脱げだなんて……良介さんも大胆ですね」

 

「何勘違いしてんの、こいつ!?」

 

″それ以前につっこむところが違いますー!″

 

「照れなくてもいいんですよ、良介さん……私はあなたの為なら何時だって――――」

 

「あきれてんだよ!?」

 

″聞いてるですかー! 二人とも!″

 

 

頬を染めて恥らうシャマル、怒鳴る良介、話を聞かない二人に怒り出すミヤ、と事態は収拾がつきそうにない様相を呈してきた。

 

と、その時――――

 

 

「ど……きやが、れぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「――――きゃっ!?」

 

 

叫びながらヴィータがいきなり跳ね起きた。

 

それによって、ヴィータを踏みつけていたシャマルは勢いよく吹き飛ばされる。

 

吹き飛ばされたシャマルは空中で見事に一回転、白衣をはためかせながら難なく着地する。

 

 

「シャマル! テメェどういうつもりだ!」

 

「あら? ヴィータちゃん、いたの?」

 

「…………」

 

 

シャマルの言葉に、ヴィータは無言でピンポン玉サイズの鉄球を四つ取り出す事で応えた。

 

 

″シュ、シュワルベフリーゲン!? ヴィータちゃん、それは――――″

 

「ブッ殺ぉぉぉぉす!!!」

 

 

ミヤの静止の声を怒りの咆哮で遮り、ヴィータはグラーフアイゼンでシャマルを狙い次々と鉄球を打ち出す。

 

しかし、シャマルはその凶弾をヒラリ、ヒラリと優雅な動きでかわしていく。

 

 

「まったく、こいつらは……」

 

 

一連の遣り取りをうんざりした表情で眺めていた良介は、ぼやきながら空を仰いだ。

 

ビルの壁に囲まれているような空間。

 

明かりが点いていないせいか辺りは妙に薄暗い。

 

ビルの間から見える月が、唯一の光源だった。

 

月明かりが、先の戦闘で昂ぶっていた良介の気持ちを落ち着かせていく。

 

 

「――――ん?」

 

 

月に見入っていた良介は、そこでふと気づいた。

 

先程まで響きわたっていた、怒声やら破砕音やらがなくなり静かになっている事に。

 

視線を正面に戻すと、シャマルに攻撃を加えていたはずのヴィータが、何故かこちらを物凄い形相で睨んでいた。

 

 

「……おい、シャマル」

 

「はい」

 

「どうして俺の後ろにいる?」

 

「……ごめんなさい良介さん、一緒に死んでください」

 

「シャマルを庇うとはいい度胸じゃねえか! ああ? リョウスケ」

 

「ちょっと待て! ふざけんなよ――――どわぁぁっ!?」

 

″リョウスケ! 逃げてくださ〜い!″

 

 

理不尽な展開に悪態をつくが、直後にそれどころではない事態に直面し、良介の罵声はかき消される。

 

打ち出されたシュワルベフリーゲンがシャマルに――――正確にはシャマルの前にいる良介に――――向かって飛来する。

 

 

深夜のミッドチルダ都市部、その一角に轟音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――かくして――――

 

 

 

「ゴホ……ゴホ……こ、の馬鹿!」

 

″ヴィータちゃん、やりすぎですー!″

 

 

 

――――剣士は孤独を捨て――――

 

 

 

「なんでテメェは無事なんだよ!? シャマル!」

 

「愛の力よ」

 

 

 

――――人との繋がりを選ぶ――――

 

 

 

「盾にしただけだろうが! ったくヴィータもいい加減にしろよな」

 

「うう、うるせぇ! 元はといえばリョウスケが悪いんじゃねえか!」

 

 

 

――――されど、孤独だった過去を――――

 

 

 

「お前達、何を騒いでいる」

 

「ザフィーラ、貴様今まで何処にいた!?」

 

 

 

――――心の弱かった自分を――――

 

 

 

「嫌な予感がしたのでな、隠れていた」

 

「あぁっ! このクソ駄犬!! いっぺんブン殴りてぇ……」

 

 

 

――――今更否定する事は無い――――

 

 

 

「止めておけ、お前には無理だ」

 

「んだとぉ!? 上等だコラァァァァァッ!!」

 

 

 

――――何の益にもならない意地を張り続け――――

 

 

 

「あ〜あ、リョウスケも変わんねえなぁ……」

 

「そうね……でもそんな良介さんだからこそ私達はいつまでもこうしていられる……そうは思わない?」

 

 

 

――――その結果、何度も人を傷つけ、悲しませてきた――――

 

 

 

「へへ、そうかもな」

 

″落ち着いてください! リョウスケ!″

 

 

 

――――そんな自分を受け入れてくれた人達がいる事を――――

 

 

 

「くたばりやがれぇぇぇぇぇっ!!」

 

「ふっ、甘いな」

 

 

 

――――決して忘れず、前に進んでいく――――

 

 

 

「さて、仕事も終わった事だし帰りましょうか」

 

「おう」

 

 

 

――――これより始まるは新たな物語――――

 

 

 

「はやての……いや! アタシ達の新部隊」

 

「機動六課へ」

 

 

 

――――不安の種は尽きないけれど――――

 

 

 

「よろしく頼むぜ――――」

 

「――――宮本良介、副隊長さん」

 

 

 

――――仲間が、愛する少女がいる限り――――

 

 

 

″ふえ〜ん、誰かリョウスケを止めてくださ〜い!″

 

「ザフィィィィラァァァァァッ!!!」

 

 

 

――――彼ならきっと大丈夫――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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