StS After -Sibling Knot- Sister's High































──優しい人にはなれない僕らが



悲しい記憶を許せないように



疑う心やさまよう指先



迷った分だけ先へ進むんだ──



































Ash
































ようやく仕事を終え、本日の労働開始までのなけ無しの時間を睡眠に費やす為に家路を急ぐ帰り道の途中、明らかに怪しい者に出逢ってしまった。

こんな時間に局員に遭遇しようものなら確実に職質モノな怪しげな格好だ。


つまり、私の仕事な訳だが。




その様相は、


頭から被った灰色のマント……とは言い難いボロ布。

そこからはみ出る腕は黒々とした光沢を放ちながらも時折、陽炎の様に揺らめいていてかなり不気味で不快だ。

そんな前時代的な怪人めいた格好だが、しかし此処に蔓延る半端ではない死の臭いと異様な気配に私の本能が逃げろと告げている。


何よりそいつが眺めている足下に転がる血まみれの頭の様に見える真っ赤な球体が──




「──ッ!」







瞬間、クロスミラージュを構えていた。






「動くな(フリーズ)」




私の危険を察知する感覚は相も変わらず速やかにこの場からの撤退を進言している。

だが私の理性と、何より私の正義が今、目の前にあるこの状況を無視して逃げ出す事を良しとはしてくれなかった。恨むぞ、私。




「ソコのアナタ、速やかに手を上げてゆっくりこちらを向きなさい。」






初回勧告


しかし怪人は視線を落としたまま一向に従う様子はない。







「……もう一度言います。手を上げてこちらを向きなさい。」








再度通告


やはり動かない。





さながら幽鬼のように佇むソレは中心から端へ進むにつれて輪郭が不鮮明になっていく。





──まるで本当は其処に存在していないように


──自身の存在を否定するかのように。




そしてそれは私に得体の知れない恐怖感を与えるには十分な要素であり、その証拠に暑さのせいではない嫌な汗ががじわりじわりと滲んでくる。


イキモノを相手にしている気がしない。



アレはまるで──



そう思考しているところで怪人がいつの間にかこっちを向いていることに気がついた。





フェイトさんに付いてから一年、観察眼は十二分に鍛えてきたがそれでも目の前の怪人を見て分かる事は多くはない。せいぜい状況判断程度だ。




腕をだらんと下げ真っ直ぐにこっちを見ている。


背格好からして恐らくは男であろう。


顔は周りの暗さと相まって目深に被ったボロ布でよく見えない。


存在感が希薄で形容し難い不気味さを醸し出している。


ボロ布から覗く腕や足は真っ黒でソコだけは存在感が有るものの時折ふと思い出した様に歪んでいた。




そんなマンガから飛び出してきたような正体不明の怪人だが、一つだけはっきりと分かることがあった。







局員襲撃の犯人はコイツだ。







十中八九間違いないだろう。

何故ならソイツの足下に転がっているモノが管理局の制服を着けているからだ。







──モノと表したのは最早殆ど人としての原型を止めていなかったから。



──着けていると表したのは申し訳程度に胴体であったであろう部分に血に濡れ過ぎて判別困難になった制服の切れ端が残っていただけだからだ。








それを認識した瞬間、胃液が込み上げて来た。

街灯が当たっている部分しか判別出来ないのがせめてもの救いだった。

もし細部に渡るまで隈無く見えていたなら静止(フリーズ)を掛ける事もままならなかっただろう。

……正直、これでもかなり辛いがそんな事は言ってられない。

気を抜けば次にああなるのが私だということは目に見えている。






……時空管理局です。武器が有るなら速やかに捨てて投降して下さい。もし応じない場合は強制連行します。」




ようやくそんな言葉が口を吐いて出た。



大丈夫、震えてはいない。しかしクロスミラージュを握る手は汗ばんでいて不快だ。

そこで私は初めてシルエットも魔力弾も準備せずただただクロスミラージュを握っている事に気づいた。

失態だ。いくら相手が今は徒手空拳だからと言ってこんなミスをするなんて。


しっかりしろ、ティアナ・ランスター!





相手をよく見ろ、


どんな些細な動きも見逃すな、


手は上げていない、


投降の意志は残念ながら無いようだ、


シルエットの準備は出来ている、


クロスファイヤーも射てる、


後は相手の出方次第。











さっきまで私の皮膚を撫でていたじめじめした空気が張りつめていく。


自然と呼吸が速くなる。


辺りは静か過ぎて私の呼吸音と、少し古びているのか、何秒かに一度耳につく街灯の──ジジジ──という音だけがやけにはっきりと聞こえた。



この間、相手は動く事なくやはり直立不動であった。

よほど自分の腕に自信があるのか、このように相手の余裕を奪うのがやり方なのか、あるいはその両方なのか……

私には判断がつかなかったが下手に暴れられるよりは好都合だった。

あと10秒待って動きが無ければバインドをかけた後、魔力弾で周りを囲って終わりにする。

飛び回ってる目標ならいざ知れず、止まってる相手にバインドをかける事など今の私には雑作もない事だ。


いくぞ、ティアナ・ランスター。











カウント、スタート














──10、9、8




──相手は動かない。その様はただ座して死を待つ罪人のようであり──










──7、6、5




──己が存在を不条理の内に失くした廃人のようであり──










──4、3、2




──しかし、未だ眉間に、心臓に、首筋に、子宮に、全身の細胞にこびり付いた鎌首をもたげた''''のイメージは払拭されることはなく──












──1












刹那、


膨れ上がる殺気と共に私の拘束よりコンマ数秒早く





私の頬を、


腿を、


腕を掠める朱の流星。


そして私を射殺さんと牙を剥く黄昏の猟犬達。






























──0

















フルカウント





















そうして無数の魔力弾に囲まれた私と未だ自由の身である眼前の怪人。

いつの間に取り出したのか、互いにデバイスを構えてはいるもののその差は歴然。



ここに形勢は逆転した。



時間にして僅か10秒足らずの逆転劇。




ただ座して死を待つのは、不条理にも存在が消滅するのは怪人から私に変わり、変わらず私の全身を犯す死の気配。




……完全な敗北だった。何しろ反応さえ出来なかったのだ。

私と同じ銃型のデバイスだが、ずいぶんとゴツい。

にもかかわらずそれを抜いた瞬間も、セットアップする瞬間も、魔力弾を構成するところも、射つ動作さえもまったく見えなかった。

シルエットを使う隙も無く、今からクロスファイヤーを撃とうものなら私の弾丸が相手を射抜く前に私の身体は風通しが当社比三割どころか五割増しくらいにはなるだろう。






―つまりは、まぁ間に合わないということで―






や、撃たなくてもこの無数の牙に私の身体は食い散らかされて穴だらけになるのは目に見えてはいるのだが。


いるのだが……何故かこの魔力弾からは先ほどから感じ、今も現在進行形でへばり付く死の気配が感じられない。

しかし怪人は相変わらず不気味に佇んでいる。



いや、どのみち今のところ私の生殺与奪の権利はあちらに有る訳だからこの気配の差の推察も今は意味を持たない。

今は生き残る為にこの脳のリソースを使うべきだろう。このまま素直に死んでやることはさすがに御免被りたい。

ま、この程度で命を諦める様なら執務官なんて夢のまた夢よね。


気合いを入れなさい、ティアナ・ランスター!


なのはさんやフェイトさんのような一流のエースならいざ知れず、

今のこの窮地をあんな力技で突破出来ない凡人の私はなけ無しの知力を絞ってどうにかこうにか切り抜けるしかない。



考えろ、生きる為に。





クロスファイヤー、というか魔力弾は先も思考した通り実力差的にも現状況的にも"このままなら"私が蜂の巣になってオシマイだろうから論外。


同じ理由で収束砲も無理。というか、アレはまだ私に扱えるシロモノではない。




シルエットはこの囲まれた状況では使うに使えない。


幻術で相手を撹乱しようにも"初手で"打つべき対抗策が遅すぎる。


それに本体である私は相手の真正面。幻術体を構成しようものなら直ぐにバレて私はめでたく殉職者の仲間入りだ。


……まだ兄さんのトコには逝きたくはない。三途の川で蹴り返されようものなら私はめでたくリビングデッドの仲間入りだ。




最初から戦闘を念頭に置いていたなら色々装備も用意出来たけど出会い頭ではどうしようもない。


せめて会話とまではいかずともこちらの呼び掛けに反応らしい反応を見せてくれたならまだ幾らかやりようが有るのだけど……





射撃と幻術しか能がない事を苦々しく思う事常々だが今更嘆いても詮無い事だ。





……しっかし、今のこの状況は今までで三本指に入るくらいに最悪だと思う。

こういう状況の時はいつも相手が悪い。



有人操作のガジェットに、なのはさんに、ナンバーズに、更には正体不明の怪人──



これが全く簡素な試練だと言うのなら聖王さまは私が余程嫌いなのだろう。

……私、ヴィヴィオに嫌われるような事したかなぁ……

と、そんな事考えている場合ではない。……ではないが、打開策もまた無い。

こんな時にフェイトさんとは言わずとも、せめてスバルがいてくれたら……





我ながらなんて他力本願。ホント嫌になってくる。こんな事だから試験にも落ちるんだ。

大体、もうスバルとはコンビじゃないんだか、ら……ん?  いや、待て。スバル……………










--クロスミラージュ--




私は思い付いた作戦を伝えるべく、念話でクロスミラージュに話しかけた。




--Yes, my master.--

(はい、マスター。)



--今からちょっと無茶するけど、いい?--



--I can't approve depend matter.--

(内容いかんによっては賛同しかねます。)



--大丈夫よ、成功させるから。あのね、────────────────をやろうと思うんだけど、出来る?--



--I can. But it's very danger to you. I can't agree that operations.--

(可能です。しかし危険過ぎます。その案には賛成出来ません。)





クロスミラージュはこの作戦はお気に召さないようだ。





--でもこのままじゃジリ貧よ?  このまま何も出来ずに終わりなんて私は嫌。お願いクロスミラージュ、力を貸して。--




私の愛機は少し考えてからこう言った。




--....I see. But It go without saying that you already know, it control is very difficult. --

(……分かりました。言うまでもなく分かっているとは思いますが、制御はかなりの難易度ですよ。)



--分かってる。でも今は他にいい方法も思い付かないの。--



--It is hard to say best or better...... OK, Provided it was generated, I assist control. But for do well, we must are getting along very well with each other.--

(最良とは言い難いですが……分かりました、生成した後は私が制御を補助します。ですが、成功させる為には私たちの息が合っていなければなりません。)



--なに?  私達のコンビネーションに自信が無いの、クロスミラージュ?



--Not such but....I felt sad a few, because you didn't rely on me during you encounter it from now. Besides....

(そういうわけではありませんが……私は少し哀しかった。貴方はアレと遭遇してから今まで私を全く頼らなかった。それに……)



--それに?--



--No, it is nothing. How unlike me to such.--

(いえ、なんでもありません。私の柄ではありませんでした。)



--……とっても気になるんだけど。--



--First, we should solve somehow this situation now.--

(今はこの状況をなんとかするのが先決です)




確かにクロスミラージュの言う通りだ。先ずはこの死因、

「身体中に開いた穴から出血多量」

に直結するであろう状況を打破しなければ私は数刻先の朝日を拝むことなくデッドエンドに直行だ。

少々……いや、けっこう危険な作戦だが今はこれ以外のベターな道も無い。

それに、ノーリスクで手に入れた結果なんて大抵は大したものではない。

それで納得のいく結果が出せるのは結局のところ俗に言う天才達だけであって、私のような凡才はいつだってハイリスクでハイリターン。

そう、今回もいつも通りだ。いつも通りにハイリスクな状況でハイリターンな結果を出せばいい。

現状を打破してアイツを捕まえて、そして……




--分かった。でもこれが終わったら“お話”きっちり訊かせてもらうからね。--



   --I'll fix it.--

(考えておきましょう。)




相棒からそのらしくない態度の訳を聞かせてもらわなければ。

スバルじゃないけど相棒との関係は良好な方がいいに決まっているのだから。(まぁ実際あの”二人”の関係は羨ましいし)



そんな私の思いが伝わったのか、クロスミラージュが切り出した。




 --Here goes buddy.--

(いきましょうか、相棒)



--そうね。一緒にやっちゃいましょう、相棒--







その言葉に私も本心からの相づちを打った。















さぁ、それじゃあ反撃開始といきますか。凡人の闘い、“魅せて”やろうじゃない。





































──後になってこうだって気づくまで



何度だって奪い合って



朝になってくるまって見上げたら



窓に射す外光──





























あとがき




英語の文法間違いにはツッコミ入れないでー!!




どうも、光速ベスパです。


ええ、これでも頑張ったんです。現役学生の意地と根性で。

翻訳に頼ると大変な事になるのは分かりきってた事なんで。


……いや、やっぱり間違いはそのままじゃいけないですよね。最善は尽くしましたが気づかれた方は是非、教えていただけると助かります。




さて、三話目にしてようやくバトル臭の漂う話になって参りました。

そして私も参りました。筆が進みません。このままでは週一投稿なぞ夢のまた夢に……戦闘描写ってやっぱり難しいですよね。

巧妙に手口を変えながら次元世界を駆け巡る麻薬密輸犯と執務官チームとの頭脳戦と心理戦とかにすれば良かったかなとか思ったりもしましたが……

アレはアレで難しいし何より動きが無いので読む方が退屈でしょうからヤメ。



うん、これからもコレで頑張ります。




さてさて、次回はバトル一辺倒の予定です。宣言したからにはティアナさんに魅せてもらいましょう、凡人の戦いを



いや、まぁ私が言わせたんですけどね。









では、今回も読んでいただきありがとうございました。
























コメント返信









なんという策士!?



・・・・・・・えと初めまして、双月です。

前回のモノから連続で読んでみました。ティアナ死亡か!?と思いきや、実は違かったという・・・・・・・・

良い意味で予想を裏切ってくれましたね、どうしてくれるんですか?

私は毎日、ここに来てこれの更新を確認しなければならないという事態になってしまったではありませんか!?

・・・・・・・色々と書きましたけど、総括すると『とても面白かった。読んだ事は後悔していない。次の更新が楽しみ』って感じです。



私自身もなのはSSを書いていますが、こういったミスリード的なものは私にはできないのでとても羨ましく思います。

お体に気をつけて、次の更新を御待ちしております。



・・・・・・・・ヒメガミさん、若干怪しいように思えますが・・・・・・・・・

これはミスリードを誘っているのか・・・・・・いや、ミスリードと思わせておいて・・・・・・う~ん・・・・・・・・











慌てるな、これは孔明の罠だ!(挨拶



感想、ありがとうございます。嬉しくて2、30分ほど小躍りしてました。



えーと……ミスリード、楽しんでいただけたようでなによりです。

実は時間軸が行ったり来たりいっしてるので何書いてるか分かんないんじゃないかと若干不安だったりもしたんですが……

一応捕捉しておくと、ティアナ視点の部分の小タイトルの横には


(◯◯/1440)


ってのが付いてて、ご臨終になった方のには付いてないという分っかりにくいヒントがあったり。




どうしてくれるんですかなんて言われてしまったからには、責任を取ってこれからも続きが読みたいと思っていただけるような話を書きたいと思います。

あと、私は週一投稿を目標にしているので毎日見てもたぶん自分のはありませんよ?(あくまで目標ですが)

まぁ、ここには素晴らしい小説が沢山あるので毎日来ても絶対損はしないでしょうけども。



それではまた次回。読んでいただけたら嬉しいです。






P.S.

あの、もしかして運命の作者の方ですか?

作品、前から拝見させてもらってますよ。あ、違ったらすいません、スルーしてください。















拍手は、リョウさんの手によって区分されています。

感想を頂く身でありながら大変恐縮ですが宛名を書いていただけると幸いです。

リョウさんのためにも是非とも私宛に限らず拍手には宛名をお書きになるようお願いします。

































小ネタ






「ヒメガミくん、君、疑われてるよ?」



「神サン(作者)がそういう風な台本書くからでしょうが。俺はシロですよ?…………たぶん。」



「むむ、ずいぶん曖昧だねぇ」



「ここで下手な事言ったらアンタ、俺の出番減らすでしょう。」



「当然です。ネタバレは重罪。禁固100年ですよ。しかも話の中で、謂われもない罪で。結果、出番なんて皆無です。」



「うわぁ……それは勘弁です………………ん?…………でもそれじゃあ何で高町空佐の出番は……



「あーあ、言っちゃった。禁固100年ね。罪状はー、んー……下の名前が出てない罪。よし、法務担当に頼んでおくねー」



「し、しまった、孔明の罠か! あっ、ちょ、まっ」












終われ











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