サアアァァァァ―――




熱いシャワーが俺様の眠気を覚ます。

まだ少し頭が重てえが……まあいいか。

シャワーの栓を閉め、手元に置いてあったバスタオルで身体を拭く。

まあ、髪もしっかり拭いとくか。

これで少しでも濡れてたらアイツもうるせえし。

ドライヤーで乾かすのも手だけど、正直言って面倒だしな。

そのまま籠に置いてあった服やズボンに手に取り、着替えて出ていく。

台所に掛けてる時計を見るとPiPiPiと目覚ましがアイツの部屋から聞こえてくる。

数分経っても一向に止みやしねえ……。

ったく……起こしに行くか。



「お〜い……何時まで寝てるんだよ」



ドアのノブをゆっくりと回し、押すと未だに眠るベッドの主――『アリサ・バニングス』が目に入る。

相変わらず寝相の悪い事で……。

アイツの手元に置いてある目覚ましのボタンを叩き付ける。

これで音は止んだ。

後は……アリサの奴をどう起こすか、だ。



「おい、起きろ」

「ん……もう少しだけ……」



軽く身体を揺すって反応ありか。

何がもう少しだけだよ、このまま起きねえ気だろ。

仕方ねえ……これだけは使いたくねえんだが……。

後で怒鳴られる覚悟でアリサの耳元まで顔を近づける。



「おい……何時まで寝てやがる。さっさと起きねえと……食うぞ」

「ッ! 朝っぱら何言ってんのよ!」



一秒にも満たない見事な起き上がりだな。

10年経って髪の毛はショートボブにして、大人っぽく変えても、中身は変わらねえな。

ってか、そう顔を赤くしながら睨むなよ。

この反応を見れただけでも良しとするか。

でも、まあ……少しからかってやるか。



「あ? もしかして期待したか?」

「そんな訳ないでしょ! 大体何で私がアンタに期待しないといけないのよ!」



顔を赤くさせながら言うなよ。

ほとんど説得力0だぞ。



「ったく……そこまで言うか、普通?」

「アンタの所為でしょう!」



だから、顔を赤くさせながら言うな!

精神的にてめえのその顔が一番キツいんだよ!

……言ってる方が恥ずかしくなってきた。



「いいからとっとと起きろ。一応飯くらいは作ってやるからよ」

「当たり前じゃない。朝食も食べずに帰って堪るものですか」

「相変わらず口は減らねえな」

「……お互い様でしょ」



はは、違いない。

だから、こんな関係をずっと続けていられると思うだけどな。

踵を翻し、部屋から出ようとする。

でも、その前に一目を見ようと振り返る。



「それと言い忘れてたんだが、おはよう」

「……おはよ」

「うし、それじゃ飯を作ってくるけど二度寝すんじゃねえぞ」

「分かってるわよ……」



俺様はそのまま部屋を後にした。

今日は和食でいいか……。






魔法少女リリカルなのは 

刃煌く黄昏の魔道師『アリサIF』








アリサside


あ〜……朝から心臓に悪い。

いきなりあんな方法で起こしに来るなんて……。

ああ! もう! 思い出したらまた恥ずかしくなってきた!

何で反応したのよ私!

まあ、アイツがそんな事を気にするような奴とは分かってるんだけど……。



「はぁ〜……」



口から何時の間にかため息が零れた。

よく世間で言う恋する乙女ってこういう気持ちなのよね?

でも、絶対あいつの前で言ったら笑われそう。

そりゃ10年でお互いに変わったと思うけど……。

アイツも大分身長は伸びて、身体つきも大分締まってるし。

まあ中身は昔のままだけど……。

って、何考えてるのよ!

……早く顔を洗って忘れよう。

床にゆっくりと足を付け、そっと立ち上がる。

そのまま歩いていきながら部屋を後にする。



「ん……良い匂い……」



この匂いは味噌汁か。

という事は、今日の朝は和食ね。

目の前の階段を降りていくと、エプロン姿で料理に勤しむアイツの姿が有った。

ここに泊まっている以上、アイツが朝食を作るのが筋よね。

昨日はアタシが夕食を作ったんだし……反応はイマイチだったけど。

少し思い出しただけでイライラしてくる。

そりゃ上手く作れないけど、少しは労いの言葉を掛けてくれてもいいじゃない。



「……おはよ」



不機嫌さが出て、少し低い声が出てきた。

その声で振り返ったアイツは何故か驚いた顔をしてる。



「……なんだ、その面?」

「何よ?」

「……いや、それよりとっとと顔を洗って来い」

「分かってるわよ……」



アイツが何で驚いてるか分からないけど、何とか朝の事は誤魔化せたと思う。

それにあの様子からして分かってないようね。

分かってても困るんだけどね……。

横目でアイツを見ると、また料理に勤しんでいる。

まだ出来上がるには時間が掛かりそうだから、今の内に顔を洗わないと。
















勇人side




……驚いた。

いや、いきなり低い声が聞こえて振り返ったら、アイツの不機嫌そうな面をしてからマジで驚いた。

やっぱ朝の目覚ましが原因だよな……。

だが、それでも起きなかったアイツが悪いし、別に謝る気はねえ。

それか別の事に原因でもあるのか?

それでもこれと言って覚えはねえし……。

いったい何で不機嫌なんだ?

まあ、聞き出してもいいけど面倒臭い事になりそうだしな。

軽く味噌汁を煮込んだ後、小皿に適当に汁を入れて味見をする。


……味噌、少し入れ過ぎたな。


考え事しながら料理を作るもんじゃねえな。

何時もと微妙に味付けが変わってるし、この分じゃ焼き鮭も少し変わってるかもな。


……頼むから気付かないでくれ、アリサ。


焼き鮭を皿に置き一応見栄え良くする。

某投影魔術師の言うように料理は見栄えも大事だ。

一人で食べるなら兎も角、一応一緒に食べてくれる人が居るからな。

棚から器に味噌汁を注いだ後、直ぐに二人分の茶碗を取り出す。

ちなみにアリサのマイ茶碗だ

最近泊まる度に物が少しずつ増えていってる気がするな。

歯磨きやらタオルやらこの茶碗やら……まあ、下着や服は流石に置いてないか。

というか、置かれても迷惑なだけだ。

そのままの足取りで炊飯器の蓋を開けると白い湯気が噴出してくる。

その中には出来立ての白米に良さに頷く。



「よし……今日も良い出来だな」



適当に茶碗にご飯を盛り付け、テーブルに置く。

それと同時にアリサの奴がこっちに来て、テーブルの前の椅子に座る。

しかも、新聞まで読み始めてやがる。

ちったぁ手伝えよ、おい。

朝っぱら喧嘩する気はないから口には出さず、愚痴る。

この10年でようやくコイツの悪口を流す事が出来るようになった。

その時の感動は今でも覚えてるし、成長したんだなという実感も出た。

この事をすずかに言ったら呆れられたが……。



「よし、完成だ」



ご飯に味噌汁、焼き鮭に漬物を見栄え良く置けば完成と……。

適当に手を洗った後、直ぐに椅子に座り、手を合わせる。



「いただきます」

「いただきます」



アリサの奴も手を合わせて言うと、味噌汁を手に取って口に運んでいく。

そのまま気にせず、そのまま飲み干してくれ。



「……なに見てんのよ」

「いや、何でも……」



おっと、少し見過ぎてたか。

まあ、別に気にしても仕方ないか。

俺様も味噌汁を手に取り、一口飲む。

うん……やっぱ味噌を分量間違えた。




















数十分後、俺様は食べ終えた茶碗や皿を洗う。

その間、アリサは後ろでまた新聞を読んでやがる。

この野郎、マジで手伝いやがれ!

しかも、最近主夫気味てる自分にも嫌になってくる。

特にアリサが泊まりに来た時は毎回こんな事ばっか。

まあ、大抵泊まっていく時は夕飯を作ってくれるのはありがたいが……。

その分、休めて楽してるがな。



「ねえ……」

「あ?」



後ろから聞こえる声に振り返らず返事をする。



「今日アンタ、暇?」



暇か……今日は日曜日で特に大学やバイトも予定も無いし、これといってする事もないな。



「ん、暇だな」

「なら、今日付き合ってくれない?」



付き合ってくれって、えらく直球だな。

ここで断ると何かと面倒だし、特に断り理由もねえな。

まっ、良いだろ。



「いいぜ」

「じゃあ11時に翠屋に待ち合わせで」

「あ? 今から行くんじゃねえのかよ?」



あ? 何でそこで呆れてるんだよ。

別におかしな事を言った覚えはねえけど。



「アンタね……私だって用意ってものがあるの。それに荷物も一旦家に持ち帰らないといけないのよ」

「あぁ、それもそうか」

「まったく……少しは察しなさいよ」



察しろって言われも、自慢じゃねえが空気や状況なんざ読めた試しがねえぞ。

そのうえ、女心なんざ言われても無理だ。



「分かったよ。で、待ち合わせは翠屋で11時だったな」

「ええ。絶対に遅れないでよね」

「はいはい……」



出掛けるとなると、問題は服だな。

今日は寒い訳でもねえし、適当に白のTシャツとジーンズ、黒のジャンバーでいいか。

アリサにしたらもう少し良いモン着て来いと言わそうだが、まあいいか。



「それじゃあ、私は準備してくるから」

「おう……」



振り返らず片手を上げて返事をする。

階段を響かせながら昇っていく音が聞こえる。

どうせ部屋で下着や服でもバックに詰め込むんだろう。

何にしても俺様は目の前の皿どもを何とかしねえとな。

スポンジを軽く揉んで泡を引き出す。

さあて……時間が押してるんでな、始めるか。

適度に鼻歌を交えつつ、皿を少しずつ洗い続けていく。

ようやく半分終えた所で、今度は階段を降りてくる音が聞こえ始まる。



「ようやく荷物は纏まったか」

「待たせて悪いわね」

「別に待ってねえよ」



アリサは玄関へと進んでいく。

俺様もその後を追っていく。

一応見送るのはせめてもの礼儀だ。



「それじゃあ、また後でね」

「おう。遅れるんじゃねえぞ」

「アンタの方こそ遅れるんじゃないわよ」



そのまま扉を押して、外に行く。

ん? 急に立ち止まって何だよ?



「ねえ、勇人……」

「何だよ?」

「……ちゃんと味噌汁作りなさいよ」



気付いてやがったのか!?

クソッ、知ってて黙ってたのかよ!

朝から失敗なんざしやがって……俺様の馬鹿野郎!


















10時52分か……。

携帯に備えられてる時計を目に入れ、ポケットの奥に突っ込む。

掃除も皿洗いも終わらせ、喫茶翠屋の前で立っている。

しかし、相変わらず繁盛してるな。

まだ午前中なのにテラスなんざ殆ど埋まってるじゃねえか。

この中にアリサは……居ねえな。

となると、中か。

扉まで歩いていき、扉を押して店内へと入る。



「いらっしゃいませ、あら、勇人君」



真先に出迎えてくれたのは桃子さん。

なのはの母親なんだが……やっぱり疑っちまう。

なんせ10年前と同じ格好で出迎えてくれた記憶がある。

何だろうな、一向に歳を取ってる気配がねえ。

でも、まあ気にしてても仕方ねえか。

今はアリサを探すのが専決だしな。



「桃子さん、アリサの奴来てますか?」

「ええ」



桃子さんの視線の奥にアリサが座ってる。

っと、そこに行く前にやる事があった。

一応メニューを頼んでおかないと。



「それとメニューなんですけど、コーヒーだけで」

「偶にはケーキとかも食べて欲しいんだけどな」

「すみません」

「いいのよ。食べたいときに食べてもらった方が私も嬉しいから」



微妙に罪悪感が感じるんだが……。

でも、甘い物はどうしても苦手なんだよな。

気にしてても仕方ねえし、今はアリサの所に急がねえと。



「悪い、待たせたか?」



そう言いながらアリサの前の席に座る。



「ううん、私もさっき来たばかりだから」



それにしても随分とラフな格好で来てる。

長袖のTシャツとジーンズ、それに白のロングコートか。

俺様の格好とさほど大差ねえな。

さてと、そろそろ本題に入るか。



「なあ、付き合って欲しいと言ったけどよ。何すりゃいいんだよ」

「別にたいした事じゃないわよ。ただ今日仕入れた物を運んで欲しいだけ」



ようは荷物持ちって事かよ。

でも、約束しちまったからには、やるしかねえか。



「いいぜ。まあ、やる気はしねえがな」

「でしょうね。でも、今日はとことん付き合ってもらうんだから」

「とことんは勘弁しろ。そこまで暇じゃねえんだ」



とことんまで付き合ってたら、それこそ時間が幾つ有っても足りねえよ。

ってか、何でムッとした顔になってんだよ。

あのな、夜まで付き合う気なんざ俺様にはねえ!


ん? この香りは……ようやく来たか。


テーブルに丁寧に置かれるコーヒーと、それを運んできた桃子さんを見上げる。



「駄目よ、勇人君。そこは喜んで頷く所よ」



そう諭してくれるんだが、悪いが素直に頷けねえ。

どうしても納得出来ねえには変わりねえし……。



「あの……」

「いいんですよ、元からこういう奴だって知ってますから」



俺様が言う前にアリサの言っちまった。

……桃子さん、何でそこで微笑ましそうに笑ってるんですか?

しかも、視線まで微笑ましそうに見てくるのは何で?

別にこれと言っておかしな事は無かったんだが……。



「そう。大変だと思うけど頑張ってね」



そのまま奥の方へと行っちまいやがった。

気にしてても仕方ねえか。というか、気にしねえ!

絶対面倒事に決まってるからな……。

はぁ〜……こんな事となら断れば良かった……。

机に置かれてるコーヒーを一口。

……相変わらず美味いな。

俺様もここまで上手くなりてえな。

っと、話が反れちまった。



「で、何処まで付き合わせる気だよ?」

「新しい服とか買うだけだから、時間はかけないわ」



新しい服か、それ位なら時間は掛からないか。

それに新しいジーンズが欲しいしと思ってたしな。

まっ……話も有るし、付き合うか。



「それならジーンズを買うけどいいよな?」

「いいけど、それはアンタが買いなさいよ」

「チッ……」

「当たり前でしょ。それはアンタの買物なんだから」

「はいはい、分かったよ」



ったく、細けえな。

ちったぁ奢ってくれも良いだろうが……。

はぁ〜……金大丈夫かな。

最近金の出費が激しいからな。

結構今回の買物、少し痛いかもしれねえな。

俺様は手元に置いて有ったコーヒーを飲み干す。

ごちそうさまっと。



「それじゃあ、そろそろ行くか?」

「そうね。一応ここは私が済ましておこうか?」

「アホか、これでも支払う余裕くらい有らぁ!」



レジへと進み、それを桃子さんに手渡す。

だから、何でそんなにも微笑ましそうに見るんだ!?



「どうかしたの?」

「いえ、何でもありません」

「そう、それじゃアリサちゃんと仲良くするのよ」

「ッ! 言われなくても分かってます!」




レジに小銭を叩きつけ、後ろに居たアリサの手首を掴む。



「行くぞ、アリサ」

「え! ちょっと!?」



そのままコイツを引っ張って、この店から出ていく。

後ろで何か聴こえるが無視だ! 無視! 



















アリサside



今、私はコイツの強い力で手首を握り締められながら引っ張られてる……。



「いい加減、離しなさいよ!」



思いっきり腕を引っ張って、手を振り切る。

ほんと強く握り締めて、絶対赤くなってるわね。

握り締めてた張本人は視線を反らしてるし。



「まったく……何で不機嫌になってんのよ!」

「別に……何でもねえよ」


「嘘ね。アンタがそういう顔をしてる時は大抵怒ってる時か何か隠したい時に決まってるから」


10年以上の付き合いなんだからコイツの事は分かる。

それに直ぐに顔に出るしね。

ほんと昔から全然変わらないんだから……。



「何でそんなに不機嫌かは知らないけど、折角付き合うんだからもう少しマシな顔をしなさい」

「……ああ」

「ほら、言ってる側から暗くならない!」



これだけ言えば十分ね。

後はコイツ次第でしょう。



「で、少しは落ち着いた?」

「ああ、少し頭が冷えた」



ようやく少しはマシな顔になったようね。

ほんとさっきまで顔は酷かったんだから。

そのうえ、空気までイライラしてるって丸分かりだし。

ほんと世話の掛かるわね。



「なら、さっさと行くわよ」

「分かったよ……」



目的地まで隣を歩く。

あっ……手をポケットに入れてる。

ポケットに手を入れてないで、ちゃんと出しなさいよ!

でないと、手を……握れないでしょう……。

って、何でこんな事ばっか考えてるのよ!

今日は付き合ってもらってるだけなんだから……。

別に疚しい事なんてこれっぽちも考えてないわよ!



「はぁ〜」

「ため息なんざ吐いて、どうしたんだ?」

「何でもないわよ。それより右手出して」

「あ?」



言った通り、手を出してくる。

悪く思わないでね、実力行使で行かせてもらうわよ。

そっと差し出された手を小さな力で握る。



「お、おい……」

「こうでもしなきゃ、アンタの方から握ってくなんて先ず有り得ないでしょうから」

「……うるせえ」



不機嫌な顔して視線を反らしているけど、嫌がってる風には見えない。

嫌がってるなら真先に手を振り解こうとするし。

コイツにしてみればまんざらじゃないって所かな。

それにしても温かい手ね。

ポケットに入れてたから当然なんだけど。

それに結構固い感触……。

何度か繋いだ事はあるけど、コイツの手は鍛えられた独特の感触があるのよね。

毎日竹刀振ってるんだから当然か。

でも、今は……。




















勇人side


手を繋ぐって……マジで恥ずかしいな。

柔らかくて、それでいて力強く握られてる感触が、どうしてか慣れねえんだよね。

それでも離せねえというか、離したくねえというか……。

って、たかが手を握ってるだけじゃねえか!

なのに、何でゴチャゴチャと考えてるんだよ!

何か気を、気を反らせるもの!


全然浮かばねええええええええええ!


こうなりゃ話をするしかねえ!



「あ、あのさ、大体どれ位で着くんだ?」

「そうね、あと少し位ね」



あと少しもこの体勢かよ!?

冗談じゃねえ! 先ず俺様の心臓が持たねえよ!

早く! 早く着かねえのか!



「ぷっ……」



……今笑いやがったな。

しかも、必死で笑いを堪えてやがる。

……この野郎!!

人がテンパってるのに笑いやがって!



「いや〜……アンタがそんなにもコロコロと顔を変える所なんて久し振りに見たから」



ようやく笑いを堪えやがったか。

おい、目に涙が溜まってんぞ

それでも可愛いと思ってしまうから性質が悪りいな。



「う、うるせえ!」

「ほら、今だって顔、真赤よ」



マジで口が減らねえな、コイツ!

それと、ニヤニヤしてんじゃねえ!



「なかなか良いもの見れたわ」

「人で遊びやがって、ほんと良い性格してやがるな」

「一応褒め言葉として受け取っておくわね」

「褒めてねえよ!」



もういい、疲れた。

これ以上やったらボロボロになりそう……。



「着いてくるんじゃなかった……」

「今更後悔したって遅いわよ」



ああ、今思いっきり後悔してる。

家でごろごろしとけば良かったってよ。



「そう落ち込まず、さっさと行って買物済ませましょ」

「ああ、済ませたら俺様は帰るぞ」

「あら? 買物が終わってもまだ付き合って貰うんだから」



はぁ!? まだ付き合わねえといけねえのかよ!?



「あのな、それ以上は俺様でも御免だぞ」

「勇人……」


あ? 何時になく小さい声だな。

しかも、何時になく真剣な顔と目をしてやがる……。

……コイツのこんな顔するなんて珍しい。

って、何言おうとしているんだ俺様!

さっき言う事を効かないって決めたばかりじゃねえかよ!



「嫌なら、別にいいのよ。どうせ大した事じゃないしね」



それでも期待している声で言うんだよな。

ちくしょう、自分のお人好しさに嫌気が挿しやがる。



「……今回だけだぞ」

「ほんと?」

「ああ、本当だ」



結局こうなったのか……。

コイツと付き合うとなると、どうしても断り辛くなるんだよな……はぁ。

我ながら情けねえ性格してやがる。

















で、目的の服屋に着いたんだが……。

俺様にとって目の前にある服屋は天敵だ。

なんせ平気で一万以上のモンを売って来る事で有名。

でも、品揃えと品質が良いから手が出ちまうから面倒なんだよな。



「なあ、財布と相談していいか?」

「駄目よ。ちゃんとしたジーンズ買いなさい、唯さえボロボロなんだからな」



いや、このボロボロさはファッションだ。

膝を剥き出しにしたワイルドな感じがまだ分からねえのかよ。



「分かったよ。でも、絶対にお前の服まで買わねえぞ。そこまで買ってたら、それこそ財布の金が空になるわ」

「ほんとケチよね。奢ってやろうって気はないの?」

「あったら、とっくの昔に破綻してる」



だから、呆れたようにため息すんな。

頼むから俺様の財布の事も少しは考えろ。



「もういいわ。それより早く中に入るわよ」

「はいはい……」



自動ドア開かれ……って、はあ!?

何で従業員がニコニコ顔で並んでやがる……。

嫌な予感がするんだが……。



「アリサ……嫌な予感がするんだが」

「奇遇ね。今、私も逃げたい気分よ」



で、何で出口まで塞いでるんだ!?

逃げようにも逃げれねえだろうが!

初老のスーツを着たオッサンが少しずつこっちに近付いてくる。



「お客様、おめでとうございます」



はい? おめでとうございます?

俺様達、何かしたのか?

アリサも見ても訳分からないような顔もしてる。



「あの、何がですか?」

「お客様は当店一万組のカップルでございます。ですから、その記念としまして」



店員が店の奥から……ちょっと待て!?

あれが何でこの店にあるんだよ!?

その手に紛れも無く純白の……ドレス。



「これを貴方方カップルにプレゼントさせて頂きます」

「……マジで?」

「マジでございます」


……運が良いのか悪いのか微妙だ。

こう、嬉しさが込み上げて来ねえし、他の客の視線が妙に痛い。

とにかく……。



「アリサ。それを貰う前にちょっと着てこい」

「え!?」



顔真赤にして驚くなよ。



「あのな、着てみねえと、サイズが合ってるかどうか分からねえじゃねえか」

「あ! それもそうね! もし合わなかったら問題だし」

「分かったなら、とっとと着てこい」

「分かったわよ。それと、感想聞かせてね」



はいはい、分かったからとっとと行って来い。

女性店員を連れて、奥へと移動する。

その間、俺様は新しいジーンズを探すとするか。

サイズと値段を見ながら、適当に見繕ってくる。

しかし、どれも一万円以上ってどんだけ俺様の財布にダメージを与えるんだよ。



「お客様、お連れの準備が出来ました」

「ん、分かったよ」



迷ってる最中にどうやらアリサ出来たみてえだな。

さあ! 思いっきり笑ってやらぁ!



「ここです」



店の奥から店員の手に連れられてアリサッ!?

やべえ……顔が赤くなってんのが自分でも分かる。

金髪の髪が白のドレスに引き立ってるし、それに身体の細さがドレスの綺麗さをより引き立ってやがる。

日頃の付き合いってすっかり忘れてた。

コイツは、なのはやフェイトと同じ位、女性の美しさを持ってる事に。



「どう? 似合ってる?」

「……ああ、充分過ぎるほどにな」

「ほんと?」



上目遣いで見るな!?

今のてめえじゃ、かなり殺傷クラスまで危険なんだよ!



「本当だから、これ以上見てくんな!」

「どうしてよ?」

「どうしてもくそもねえ!」



って、何でニヤニヤしてんだよ。

この顔は大抵悪い事を考えてやがる時だ……。



「ようやくアンタにも女の子を見て、そんな顔をするようになったんだ」

「うるせえ……」

「だって、アンタってお世辞の一つもなかなか出ないんだから、こういうにもなかなか新鮮よね」



なに頷いてるんだよ。

そりゃ、お世辞とかは得意な方じゃねえが……。

とにかく話題を反らさねえと、俺様の心臓がもたん!



「兎に角だ! 目的のサイズはピッタリか?」

「ええ、嘘みたいにピッタリよ。戸頃で、これは本当にプレゼントですか?」

「はい。当店での一万組カップル記念でございます」

「そう、ですか」



そりゃシックリこねえか。

なんせピッタリのドレスだしな、それに理由も怪しいし。

だけど、俺様としては金が浮いて大助かりだがな。



「で、もう買物を終わらせるか?」

「まだドレスを貰っただけじゃない。ちゃんとするわよ」

「だったら、とっとと元の服に着替えて来い」

「分かったわよ。ほんとお世辞の一つ言えないかしら」



そう言って更衣室に戻っていくアリサ。

悪かったな、お世辞の一つも言えなくてよ。

どっちにしたって綺麗だって事は変わりねえんだから、別に良いんじゃねえか。

手元に掛けてある一枚1万2千円をジーンズの籠に入れる。



「お待たせ」



手元にドレスの入った箱を持った袋を片手にアリサが帰ってくる。

やっぱ何時もの格好の方が落ち着くな。



「で、アンタはそれだけでいいの?」

「良いんだよ。これといって欲しいモンねえし」

「そうなの? そういえばアンタってファッションとか興味ないの?」

「これといって興味ねえな」



とか言いつつ、ジーンズを漁ってる俺様。

なんせ服屋なんて中々来ねえからな。



「アンタってさ、前から思ったんだけどその場に来てから優柔不断になるタイプでしょ」

「いや、うん……まあ、そうだな」

「やっぱり」



……うん、情けない。

それに何か恥ずかしいな。



「まあいいわ。少し予定が狂ったけど、これから私の買物をするから付き合いなさい」

「分かったよ。こうなりゃ自棄だ、自棄。何処へなりとも行ってやろうじゃねえか!」

「よろしい。なら、行くわよ」



ああ……誰か金をくれ……。




























アリサside


あ〜……楽しかった!

ドレスに加えて、新しいTシャツや予備のスーツも買えて一安心ね。

それに有名なレストランで美味しいご飯を食べれて幸せ。

後ろで何か項垂れてる奴が一人居るけど……。



「まったく……たかが数万円程度のレストランを払った位でなに落ち込んでんのよ」

「ほっとけ! その所為で気付けば今月ピンチだぞ!」

「安心しなさい。もし住めなくなったら私の執事として雇ってあげるから」

「お断りだ。一生扱き使われて終わりそうな人生なんざ……」



ほんと失礼な奴ね!

もしそうなっても、雇ってあげないんだから!



「で、最後に付き合って欲しい所で何処だよ?」

「そうね……まあ、付いて来れば分かるから」



だから、そんな不安そうな顔しないでよ。



「別に、今度は金を使う訳じゃないんだから、そう心配しなくていいわよ」



それに、これから行く所はアンタにも関係してる所なんだから……。




















勇人side


随分と懐かしい場所に来たモンだな。

10年前のあの日から何も変わってねえな……。

まあ、この街が変わる事なんて滅多に無いんだが。



「懐かしいでしょ、この場所?」

「そりゃあな。なんせ此処は終わりだったからよ」



夕暮れを差し込む海岸沿い。

10年前のあの日、闇の書事件を終わらせた場所。

ここで暴走した闇の書をなのはやフェイト、はやて達と一緒に戦い、そんで終わらせた事件。

通称闇の書事件。

俺様にしたら魔法を知り、始まった切っ掛け。



「で、俺様をここに連れてきた理由は?」

「特に無いわよ。ただアンタの気持ちを確認したくて」



そんな事を聞いてどうするんだよ?



「私と一緒にいて、後悔とかしてない?」

「はぁ!?」

「お願い! いいから答えて!」



真面目な顔。でも、必死さを含んだ顔で見詰めてくる。

普通なら慰めたり、安心させる言葉を吐くんだろうな……。

でも、俺様はそんな芸当出来ねえ……。

目の前まで歩いて……思いっきりアリサの髪を掻く。



「ちょ、ちょっと! こっちは真面目に聞いてるのよ!」

「はぁ〜……お前も何年の付き合いだと思ってんだよ」

「え?」

「後悔なんかしてたら、お前等の事なんざ、ほっといてなのは達の所に行くに決まってるだろうが。それにな、後悔してまでお前等と付き合いたいとは思わねえよ」



なのは達からの新部隊への協力という話がある。

でも、それは俺様じゃなくても出来る事だ。

それよりも今の俺様はお前等と一緒に居る方が大事なんだ。

恋愛感情とかよく分からない。でも、コイツを見ていると一番落ち着く。

どんな些細な事でも熱くしたり、安らいだりする。



「勇人……」



そっと俺様の胸に額を当てて、身体を震わせている。

でも、コイツはどうしていいか、分からない不安をずっと抱えていた。

コイツとは色んな事で遊んだり、喧嘩したりする。

でも、こんな風に泣いてる姿はほとんど見ねえ。

俺様は壊れ物を触るような力加減で、そっとコイツの身体を抱き締めた。



「……何よ?」

「理由なんかねえよ。単にこうしたかっただけだ」

「そう……ねえ、勇人?」

「あ?」

「もしこれから先、一緒に居ても後悔しない?」

「そん時は……絶対来ねえよ」



なんせ俺様はお前の事が……。



















あとがき


お久し振りです。そして、明けましておめでとうございます。


二ヶ月ぶりですね。何故こんなにも遅れた原因は……私のゲームのし過ぎです


さて本題へ、本編も書かずに何書いてるんだと思われる方。


そして、三人称じゃなくて何で一人称なんだと思われる方が居ると思います。


ですが、本編では元の三人称に戻すつもりです。


では、前回の7話で着た拍手は本編を仕上げてから返します。


これにて失礼します。


ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。