地球の遥か彼方の宇宙を漂う巨大な母艦『アースラ』

その内部では、大きく地球の映像が映し出される。

金髪黒眼の男は地球の映像を見詰めていた


「あそこが地球かリンディ提督?」


金髪黒眼の男は隣に座ってる女性に問い掛ける。

翡翠色の髪をしたポニーテールの女性『リンディ・ハラオウン』が座っていた。

リンディは緑茶の中に角砂糖四個とミルクを入れてかき混ぜ、そのまま平然と茶を啜る。

男はあからさまに嫌そうな顔つきでリンディ茶を見る。

地球の映像をお茶を啜りながら、見始める。


「ええ、とっても良い星でしょ。きっと貴方も気に入るわ」


その表情はとても柔らかに笑顔を振り撒いていた。

とても14歳の息子が居るとは思えない若さだった。

男は僅かに眉間に皺を寄せ、映像の照らし出された地球を見上げた。


「さあな。俺は俺の任務を遂行するだけだ」

「固いわね。もう少しリラックスしたらどう?」

「生憎と職務中なのでな」


リンディは溜息を零す。

その溜息が聞こえたのか、男はリンディ睨み付ける。

リンディは咄嗟に口元を隠す。


「まったく……俺から言わせて貰えばお前は緊急感が無さ過ぎる」

「いいじゃない。今の所問題が無いんだから」


今度は男からも溜息が零れるが、直ぐに表情を引き締める。

そして、リンディを見詰める。


「……それより本題なのだが」


その言葉にリンディも真剣な表情に変わる。

其れと同時に地球の映像から魔道師の映像が切り替わる。

しかし、どれも皆、重軽傷を負った魔道師達の映像だった。


「地球に居た魔道師がリンカーコアを奪われる事件が多発している。その件は聞き及んでいるな?」

「ええ…」

「それと数日前、その件で調査を行っていた魔道師も何者かに襲われリンカーコアを奪われた」


リンディは驚きで目を見開くが、直ぐに真剣な眼差しで男を見詰める。

しかし、その表情は僅かに暗かった。

男は尚も言葉を紡いでいく。


「上の奴等は早期解決を望んでるらしいが、管理内世界で無いという理由で踏み切れんらしい」

「仕方ないわ。調査でも大勢の魔道師を差し向ける訳にはいかないもの」

「まあ……行き成り空を飛ぶ人間が居れば、魔法を知らない市民は大パニックだ」


男は踵を翻し、その場から去ろうとする。

リンディは怪訝な顔付きで男を見る。


「何処に行くの?」

「早期解決を望んでいるんだろ? ならば、やる事は一つだけだ」


男はそのまま立ち去ろうとする。


「待って」


しかし、咄嗟にリンディが呼び止めた。

男は振り返らず、その場で立ち止まる。


「何だ?」

「貴方のデバイスはまだ試作段階の途中よ、そんな状態で大丈夫なの?」


男は視線を下ろし、ペンダントを見る。

金色の球体状のペンダントは僅かに煌く。


「問題ない」

「……そう」


男はそのままブリッジを抜け出した。


「気をつけてね神楽」


リンディは誰にも聴こえない声で静かに呟いた。








魔法少女リリカルなのは A’S

刃煌く黄昏の魔道師 第一話【始まり】










第97管理外世界『地球』のある小さな町『海鳴』。

其処に住む深紅の髪に黒い眼をした小柄な少年。

私立聖祥大付属小学校の制服を身に纏い、鞄にはキッチリと『赤宮勇人』という名前が書かれてた。


「勇人くん!」


背後より聴こえる声。

勇人と呼ばれた少年は振り返る。

其処には彼の幼馴染『高町なのは』が駆け寄ってきた。

その隣には彼女の親友『月村すずか』と『アリサ・バニングス』も居た。


「おはよう。なのは、すずか……アリサ」

「ちょっと! なんでアタシだけ微妙に間があるのよ!」

「別に。そんなに声を荒げるんじゃねえよ、近所迷惑だろうが」

「何ですって!」


アリサは声を荒げ、顔を紅潮させる。

勇人はクツクツと笑みを零す。

その間で挟まれたなのはとすずかは戸惑っていた。


「何笑ってんのよ!」

「くくく……悪い悪い。お前の顔が面白くてな」

「何ですって! もう一度言ってみなさいよ! その面張り倒すわよ!」

「ニャーーーーーーーー! アリサちゃんも勇人くんも喧嘩しないで!」


なのはが二人の間に割って入る。

その顔は困惑と悲しみが染まっていた。

勇人とアリサは横目で其れを見る。

そして、勇人は小さく舌打ちをした。


「分かったよ、これ以上しねえよ」

「本当!?」


なのはの表情が困惑と悲しみから喜びへと変化する。


「ああ……それでいいだろアリサ」

「まあ……なのはに免じて許してあげるわよ」

「じゃあ仲直りの握手」


なのはの発言に硬直する勇人とアリサ。

勇人は渋々右手を出す。

アリサもゆっくりと握手をし、そのまま思いっきり握り締めた。

勇人は表情に出さなかったが、青筋が僅かに浮かんでいた。


「宜しくね勇人」

「ああ……よろしくな」


二人は笑みを浮かべながら握手する。

しかし、その周りはどす黒い空気が纏っていた。

どす黒い空気を感じ取れないなのはとすずかも笑みを浮かべていた。


「良かったねなのはちゃん♪」

「うん」


四人はそのまま校内へ入っていく。

勇人とアリサのどす黒い空気を振り撒きながら。



























四人は教室の中へと入っていく。

そのまま四人は自分の席へと座っていく。

勇人も窓際の席に着くと、一人の友人がやって来た。


「おっす赤宮。昨日のサッカー見たか! すげえ試合だったよな〜!」

「悪い。昨日は眠たくて見る前に寝ちまった」

「え〜! すげえ試合だったんだぜ! お前もちゃんと見ろよな!」


友人はつまらなそうな表情をする。

勇人も同じ表情をしていた。


「お前もちゃんと試合見てればな〜」

「別にいいだろ」

「良い訳ねえだろ! 昨日は優勝決定戦だったんだぜ!」


友人の言葉に心に突き刺さり、ますます不機嫌な表情へと変化していく。


「仕方ねえだろ! 寝ちまったんだから! 俺様だって疲れてたんだよ!」

「もういい! そういや……一つ気になったんだけど何で俺様って言うんだ?」

「別に……何時の間にか癖になってんだよ」

「へ〜……なかなかカッコイイじゃん! 俺もしてみようかな!」

「止めとけ。似合わねえぜ」

「え〜! 俺様だってちゃんと似合うよ!」

「……似合わねえ」


そのまま友人を無視する事にする事にした。

友人が話しかけても無視し続ける。


(俺様って……何時から言うようになったっけ?)


勇人は何時の間にか着いた癖に疑問を感じる。

ただ何時の間にか自然に着いた人称で、特に理由は無い。

疑問を数分で片付けた勇人。

すると、友人は大きく息を吸い始めた。

其れを横目に未だに無視し続けた。


「好い加減に人の話を聴きやがれ!」


耳元で大きく響き渡る声。

あまりの声の大きさに一瞬意識が朦朧し始める。

だが、直ぐに意識を立て直し、勢い良く立ち上がった。

表情は怒りに染まっていた。


「てめっ! 耳元で大声で叫ぶんじゃねえ!」

「だって、俺の話を聴かねえのが悪いんだよ!」

「あ? 話って何だよ?」


友人は唇を尖らせ、不機嫌になる。

勇人は怪訝な顔付きで友人を見る。


「やっぱ聴いてないじゃん!」

「だから、話って何だよ!?」

「もういいよ! 赤宮のドアホ!」


そのまま友人は立ち去っていく。

理解出来ず呆然としていた。


「話を振って置いてこれかよ」


ガックリと椅子に座る。

友人に対しての悩みの種だった。

自分のペースをかき乱され、グッタリ。


(というか、結局話って何なんだよ?)


勇人の思惑は虚しく、学校のチャイムが鳴り響く。

不意になのはへと視線を向ける。

視線の先には苦笑いをするなのはの姿。

その姿にムッとする勇人。

先程の行動を見られた恥ずかしさと苛立ちで募っていく。

茹蛸のように顔が真っ赤になっていく。

やり場のない怒りはどうしようもなく、椅子に座ってるしかなかった。

机の下で拳をギュッと握り締める。


(ちくしょう。アイツに見られるなんて一生の屈辱だ!)


とにかくこの時間が終わる事を切実に思った。

今は絶対アリサとすずかの方へ振り向かないと誓った瞬間だった。
























時間はあっという間に過ぎ去り、昼休み。

屋上で一人、弁当を食べる勇人。

友人を誘おうとしたが、うるさいので止めた。

そして、それと同時になのはに見られた事を脳裏に浮かび、思いっきり顔を顰める。


(……忘れよう、あんな恥ずかしいのは思い出したくねえ)

「居たー!」


突然発せられる声に見向く。

其処には、なのは、すずか、アリサが居た。

片手には弁当箱を携えていた。

その光景に嫌そうな顔をする勇人。

アリサも不機嫌な表情で近付く。


「何よ。その嫌そうな顔は?」

「別に。お前らには関係ねえだろ」


すると、アリサは思い出したような表情をする。


「はっはーん。アンタまだ朝の事、引き摺ってるんでしょ」

「アリサちゃん。それ以上言ったら可哀想だよ」

(……コイツ等)


アリサとすずかの言葉に、勇人はますます不機嫌になる。


「で、何しに来たんだよ? からかいに来たならどっか行け」

「一緒に弁当を食べに来たんだけど、駄目かな?」


なのはは二人の間に割り込み、両手を合わせ、首を傾げる。

その行動に勇人は僅かに顔を赤らめる。

口からは溜息を零す。

しかし、その表情は何処か嬉しそうだった。


「仕方ねえな。好きにしろ」

「本当!? やったねアリサちゃん! すずかちゃん!」

「なのはがそう言うなら仕方ないわね」

「まあまあ……アリサちゃんも素直じゃないんだから」

「それどういう意味よ!」

「……さっさと飯食いたいんだが」



大喜びするなのは。

共に喜びすずかとアリサ。

その光景を横目に勇人は再び溜息を零す。

ようやく周囲に座り始めるなのは達。

待ちに待った弁当の蓋を開ける。

なのは達の視線が注がれる


「……日の丸弁当か」

「だね」

「おい……なに哀れむような目で見てるんだよ」


周囲は愕然とする。

特に理由は無く。

アリサは少し哀れむような視線を送る。


「アンタさ。料理出来るんだからもう少しマシなの作れないの?」

「ほっとけ! 仕方ねえだろ、寝坊したんだからよ」

「在り来たりな言い訳ね」

「うるせえ! そんなうるせえ事を言う奴はこうだ!」


勇人はアリサの弁当に箸を伸ばす。

一瞬で中に有った卵焼きを掴み、そのまま口の中へ放り込む。

アリサは口を開けて、愕然としていた。

徐々に顔が赤くなっていく。


「アンタね! 人の卵焼きを食べないでよ!」

「人の弁当をケチつけた報いだよ!」

「何よそれ!」

「にゃはは……私の唐揚げ上げようか?」

「いいのか?」


なのはの弁当箱にまで手をつけようとする。

箸が唐揚げを掴もうとした。

しかし、唐揚げを掴む事は無かった。


「何しやがるアリサ? ちゃんと許可を貰って取ろうとしただけだろ」


その幾手を阻むアリサの箸。


「駄目に決まってるでしょ! もう少し遠慮ってモンを持ちなさいよ!」

「そうだよ勇人君。流石になのはちゃんのまで取っちゃ駄目だよ」

「ケチ臭えな」


しぶしぶ箸を降ろす勇人。

すると、日の丸弁当に置かれる二つの唐揚げ。

不意になのはを見る。

其処には笑顔を向けるなのはの姿が。


「食べていいよ」

「……ありがとよ」


口元を緩み、笑みが零れる。

置かれた唐揚げの一つを口の中へ入れる。

美味しそうに味わう勇人。

しかし、なのはの表情に僅かに影が覆う。

その光景にアリサとすずかは少し心配そうな目をする。


「いいの、なのは?」

「そうだよ。全部置かなくてもいいのに」

「平気平気、今日はそんなにお腹がすいてないんだ」


なのはは二人に笑顔を振り撒く。

勇人はイラつきを感じた。

なのはの弁当に唐揚げを一つ返した。

怪訝な顔付きで勇人の顔を見るなのは。


「……勇人くん」

「俺様も別に腹減ってねえから、二つもいらねえ」

「でも……」

「つべこべ言わずに受け取ってろ!」

「はい!」


大声を張り上げる勇人。

なのはは驚きの余り立ち上がってしまった。

勇人は立ち上がったなのはを見て、呆然とする。

今度はくつくつと笑みが零れ始める。

軽く顔を赤らめるなのは。


「勇人君! 酷い!」

「悪い悪い。急にお前が面白い事するからよ」

「もう!」

「二人とも本当に仲が良いね」


すずかは微笑む。

隣に居るアリサも笑い声を発していた。

なのはは徐々に顔を赤くする。


「皆してからかわないでよ!」

「御免ねなのは」

「ごめんなさい」


二人とも謝り始める。

なのははゆっくりと座る。

未だにくつくつと腹を抱えてる勇人。

アリサは未だに笑う勇人を睨み付ける。


「アンタって本当にデリカシーってものが無いわね」

「悪いって言ってるだろうが」

「それで笑ってたら説得力なんて無いわよ。それに元はと言えばアンタの所為じゃない!」

勇人は顔を顰め、そのまま睨み付ける。

アリサも勇人を睨み付ける。

二人の間には火花が飛び交う。


「んだよ!」

「なによ!」


再び口喧嘩を始める二人。

その横で困惑するなのはと、呆れるすずか。


「止めようよすずかちゃん!」

「放っておきましょう」

「でも!」

「良いから。今日は最後までやらせてあげよう」

「……うん」


満面の笑みを浮かべるすずか。

すずかの満面の笑みにビビッてしまうのなのはだった。

その横では口喧嘩を繰り広げる勇人とアリサだった

こうして昼休みが終わっていった。


























学校が終了し、下校していく生徒達。

勇人となのはもその中に居た。


「ようやく終わった〜!」

「にゃはは……ほとんど勇人君は寝てたけどね」

「うるせえ! そもそも算数なんて面倒なんだよ」

「そう言ってるから点数が悪いんだよ」

「ほっとけ!」


他愛の無い会話で帰宅していく二人。

その表情はとても明るく、幸せそうだった。


「ところで、今日はどうするの?」


なのはの言葉が、先程とは打って変り勇人の表情を暗くする。

地面へと視線を俯いたまま、歩いていく。


「悪い。昨日のカレーがまだ残ってるから」


なのはの表情も暗くなる。

だが、顔を上げて向き合う。


「でも、皆で食べた方が美味しいよ!」

「別に……カレーを腐らせる方が勿体ねえよ」

「そう簡単にカレーは腐らないよ!」

「……今日は御免」

「……分かった」


なのははしぶしぶ頷く。

その表情は暗かった。

それを見た勇人は小さく溜息を零す。

勇人からしたら悪い話ではない。

寧ろありがたい話だ。

だが、勇人にとったらありがた迷惑でもある。

高町家は家族愛が立派な家庭だ。

家族の居ない勇人に取ったら、何よりも幸せでもあり、苦痛な時間でもある。

親は居る。しかし、仕事で家には居ない。

それが勇人の家庭である。

だから、勇人にとっては家族愛に溢れるあの家庭が苦手なのだ。


「悪いな、なのは。今度ちゃんと食べにいくからよ」

「本当!? 約束だよ!」


なのはの表情は明るく変化する。

明るくなったなのはを見て、勇人にも笑みが零れる。

なのはの明るさに心が温かくなる。

それほどまでなのはの影響力は大きいのだ。

二人は再び他愛のない話をしながら、進んでいく。

学校の事、友達の事、勉強の事、家族の事、趣味の事。

色んな事を話してるだけで時間があっという間に過ぎ去っていく。

二人の目の前には分かれ道。


「じゃあな、なのは」

「また明日」


別々の道を進んでいく。

少しだけ寂しさに襲われる。

だが、徐々に寂しさにも慣れていく。

勇人は何時もの日常へと変わる。


(正直、寂しさなんかに慣れたくねえけどな)


家まで駆足で進んで行った。



























午後7時45分

辺りは夜へと変わり、町の灯りが彼方此方に輝く。

周りには色んな人が行き交っていた。

勇人も町の灯りの中を一人歩いていた。


(そういや牛乳を切らしてたの忘れてたなんて。マジで面倒臭え)


勇人は溜息を零す

不意に今日の出来事を思い浮かべる


(そういや今日、何回ため息を吐いたんだ? まあいいや)


脳裏に浮かんだ疑問消し去り、帰路へと歩んでいく。

すると、不意に襲い掛かる違和感。

怪訝な顔付きで周囲を見渡す。

徐々に驚きへと変わっていく。


「どういう事だよ! 何で何処にも人が居ねえんだよ!?」


先程まで歩んでいた道を見渡す。

だが、人も灯りも全てが消え去っていた。

驚きで目を見開き、状況がまったく出来なかった。

まるで夢を見ている気分。

勇人は顔面をビンタする。

しかし、夢のような状況は一向に晴れない


「いったい何がどうなってるんだよ! これは夢か!? 夢なのか!?」


大声で叫んでも、何も返って来ない。

ただ虚しく木霊する。


「マジで俺様は夢の中に居るのか? いや……有り得ねえだろ」


大きく深呼吸する。

そして、もう一度顔面をビンタする。

赤みを増す頬。

しかし、何も変わらず。

だが、同時に少しずつ冷静になっていく。


「しかし、本当に此処は何処なんだ? 海鳴だって分かるんだけどよ……ん?」


上空から接近する物体。

緑色の服を着たショートボブの金髪の女性が空から飛んでくる。

何処か清楚と漂わせる雰囲気だった。

だが、勇人にしたら関係ない。

それよりも異常な光景に目を丸くする。

人が空を飛ぶという常識外の行動が勇人の目の前で行われた。

飛行機も何も使わずに人が空を飛ぶ光景に。


「……まだ俺様は夢を見てるんだな。そうだ、絶対そうだ」

「何言ってるんですか?」

「オバサンは黙ってろ」

「オバッ……酷いじゃないですか!」


金髪の女性の言葉は敢えてスルー。

正確には現実逃避とも言う。

それだけ勇人にとって、信じ難い現象が目の前で行われていた。

だが、今はこの状況を打破する唯一の手掛かり。

直ぐに金髪の女性へ振り向く

オバサン発言をされた金髪の女性は心が傷付いた様子。

両目に涙を溜めていた。



「オバサンなんて言わないで下さい!」

「うるせえ! とにかく此処から俺様を出しやがれ!」



金髪の女性は目を見開く。

視線を下ろし、脇にある本を見る。

そして、勇人に見詰める。

勇人は怪訝な顔付きで金髪の女性を見詰めた。


「あなたも魔道師?」

「魔道師? おいおい……ファンタジーの話だろそりゃ」

「そう……」


金髪の女性は地面に降り立つ。

ゆっくりと勇人の方へ歩み寄ってくる。

勇人は歩んでくる女性を見詰める。

何処からか押し寄せる嫌な予感。

それと同時に背筋に言いようの無い恐怖を感じていた。

足が震え、額からは冷汗が滴り落ちる。

全身に襲い掛かる恐怖心と緊張感。


「クラールヴィント」


金髪の女性は指輪に語りかけると、僅かに指輪が煌いた。

女性の右手がそっと勇人の胸に触れる。

すると、徐々に胸の中に移動していく。



「あ……ああぁあ……」

「ごめんなさいね」



女性の声が小さく呟く。

しかし、勇人の耳には届かなかった。

今の勇人には恐怖のみが押し寄せていたからだ。

徐々に胸から抜かれていく右手。

それだけでも勇人にとっては最大の恐怖だった。

ようやく抜き終えると、其処には小さな深紅の玉

勇人は怪訝な顔付きで小さな玉を見る。

しかし、突如として襲い掛かる心労


(あれ……なんだこれ?)


そのまま地面に倒れて行く。

女性は悲しい表情で見下ろす。

しかし、女性は踵を翻し去っていく。

勇人に女性を見る余裕は無い。


(力が入らねえ……やべえ……死ぬのか?)


理解出来ない状況。

徐々に消えていく感覚。

朦朧とする意識。

荒くなる呼吸音。

襲い掛かる死の恐怖。

どれもが勇人を死の恐怖へと駆り立てる。


(いやだ……死にたくねえ! 誰か助けてくれ! 誰か!)


必死で声を叫ぼうとする。

しかし、声がまるで出ず、拳をギュッと握り締める。


「おい……生きているか?」


すると、突如として抱き上げられる人影。

自分を覆う影で男だと分かった。

勇人は朦朧とする意識の中で男の襟元を鷲掴みにする。


「死にたく……ない……」


殆ど出ない声で呟く。

そのまま襟元を離し、力尽きる。

勇人は抱き抱えたまま、立ち上がる。


「こちら神楽少将、アースラ聴こえるか?」

「こちらアースラ、通信キャッチしました」

「リンカーコアを奪われた少年を発見した。本局の医療班及び施設を要請したい」

「えっ……分かりました!」


通信より聞こえる女性の高い声

神楽は勇人を抱き抱えたまま、転送魔法を構築する。

金色の輝く魔方陣が地面に展開される。

不意に腕の中で眠る勇人の顔を見る。

神楽の口元が僅かに緩んだ。


「死にたくないか……それなりに面白そうな小僧を拾ったものだ」


転送魔法は勇人共々神楽をその場から消え去った。






















後書き


初めまして、シリウスです。

始めてみました、なのは小説。

この小説は三期まで行く予定です。

正直何年掛かるか分かりませんが、それまで見守ってくださるとありがたいです。

では、これにて失礼します。





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