東方幻想郷〜刀夜録〜第7話


此処は幻想郷に住む人間たちが住まう人里、その上空で二人の少女が相対している。
一人は博麗 霊夢、もう一人は霧雨 魔理沙である。二人のどちらが刀夜を連れて行くか?
それを決める少女達の勝負が今始まろうとしていた。
 

 
 

「な、何するつもりなんや?」
 

「弾幕勝負よ」
 

「!?」
 

「はぁ〜い、刀夜」
 

刀夜はいきなり後ろから声をかけられた。いかに油断していたとは言え、刀夜も剣を使う者、後ろに誰かがいれば気づくことが出来る。
にもかかわらず刀夜は声の主に気づくことが出来なかった。刀夜はすぐさま距離を取り、後ろを振り向いた。
其処にはやはりというかなんというかスキマから姿を現している紫がいた。
 

「……紫か」
 

「うふふ、貴方も中々隅に置けないわねぇ、このこの」
 

紫はスキマから上半身を出しながら移動し、刀夜の横にやってたかと思えば扇子で刀夜の頬をツンツンつつきだした。
刀夜はそれから逃れるため、半歩横に移動し、紫の言葉の意味について問うた。
 

「な、なんや? 何のことや?」
 

「まさか……本気で言ってるんじゃないでしょうね?」
 

紫がジト目で刀夜を見やる。刀夜は少しばかり考えに耽ったが数瞬後にとある可能性に気づいた。
 

「……いやいや、それはないやろ」
 

刀夜はハハハと乾いた笑いをし、自らの辿り着いた結論に否定の言葉を紡いでいた。
内心ではそれが当たっている気がしてならなかったのだが……
紫はそんな刀夜をニヤニヤとしつつ、さらに混乱させるようなことを口走る。
 

「わからないわよ〜? 特に乙女心はね?」
 

「確かにそれは俺“ら”にはわからんことやな」
 

紫に攻められ続けていた刀夜であったがせめてもの報いからか“ら”の部分を強調した。
その瞬間紫の笑みがピシリと凍りついた。紫はギギギと擬音が聞こえそうな様子で刀夜の方を向き、笑っていない目で刀夜を見ている。
「あら? どういう意味かしら?」
 

「さぁ? どういうことやろうなぁ?」
 

紫の問いかけを刀夜はぼかしてはいたがそのしてやった顔、わざとらしい喋り方がその意味を如実に物語っていた。
しかし意外にも紫はそれ以上刀夜を問い詰めなかった。今言ったところで刀夜は知らぬを通すであろうからだ。
そして、二人の間の雰囲気がだんだん重くなっていくのを遠くで見ていた里人は生きた心地のしない様子であった。
 

「……うふふ、ずいぶんと敵意を持ってるようね?」
 

「ああ、あんたは何考えてるかまるで解らんからなぁ」
 

先に口を開いたのは紫、その口調からは先ほどまでの雰囲気は感じられなかった。それに伴い刀夜も敵意を若干ではあるが緩めた。
其処に先ほどまでの重苦しい空気はなく、旧友と話しているかのような雰囲気でさえある。
これが二人の軽いコミュニケーション、お互いにジャブを繰り出す程度のものなのだ。
これを見て二人がまだ出会って二日しか経っていないなどと誰が信じようか?
 

「私はもっと仲良くなりたいのだけれど?」
 

「はっ、初対面で殺気かましてきた奴がどの口で言ってんのやら。……で? 弾幕勝負って何なん?」
 

刀夜は未だ多少の棘を含ませてはいるが肝心の弾幕勝負について紫に問いかけた。
紫はどこからともなく取り出した扇子を口元に持っていき、今まで上半身しか出してなかった体をスキマから完全に出し、
開いている筈のスキマに腰を落とし、刀夜の質問に答え始めた。
 

「弾幕勝負は各々の持っている能力、まぁ、大抵霊力、魔力、妖力等ね。
それを弾の形にして打ち出し、相手に当てて先に被弾した方が負けるという勝負よ」
 

その後、紫は弾幕勝負の簡単なルールを説明を続けいき、そのすべてが終わったところで刀夜が始めから抱いていた疑問を問いかけた。
 

「……危険の程は?」
 

弾幕勝負において、怪我等はするのか、最悪の場合は存在するのか、そういった意味を込めた質問であった。
当然、それは紫も気付いている。
 

「まぁ、場合によっては大怪我じゃあ済まないわね」
 

「何やて!?」
 

場合によっては大怪我では済まない、それは刀夜が考えている最悪の場合が存在することを匂わせている言葉であった。
刀夜はすぐに霊夢と魔理沙の勝負を止めさせようと大声を出そうと肺一杯に空気を溜め始めた。
そしていざ声を出そうとした瞬間紫が刀夜の目の前に扇子をかざし、それを制した。
 

「大丈夫よ、場合によってはって言ったでしょう? 
それは本気で勝負した場合でのことよ、大抵の場合では死ぬようなことがないように弾幕にある種の制限がなされているわ」
 

それを聞いた刀夜はようやく肺に溜めた空気を解放した。それなりに長い間溜めていたので若干その顔は赤い。
 

「じゃああの二人がやろうとしてる事には危険はないんやね?」
 

「当り前よ、精々少しばかり怪我する程度でしょうね」
 

「そっか、それならまぁ、止めんでええかな?」
 

「あら、止めてくれって言うかと思ったのだけれど?」
 

刀夜の言葉が意外だったのか紫は多少目を丸くしている。
刀夜は空高くに佇んでいる霊夢と魔理沙に眼を向けつつもどこか達観している顔をしている。
 

「要はちょっと派手な子供の喧嘩や、止めんでもええやろ」
 

「うふふ、そういえば貴方は18歳なのよね、“中身は”」
 

「うっ!! ここでさっきの仕返しかいな」
 

刀夜は紫の含みのある言葉としてやった顔を見て即座に先ほどの先制ジョブの原因の仕返しと気づき、苦虫を噛み潰した顔をしている。
紫はその顔を見て相も変わらず底の見えない笑みをしている。
 

「うふふふふ、やっぱり貴方は面白いわ。……ねぇ、あの子たちの喧嘩が終わるまで暇でしょうからお茶でもしないかしら?」
 

スキマから完全に体を出した紫は手に持った扇子を近くの茶屋の暖簾がかかっている店へと指し示した。
刀夜は数秒考えた後、首を縦に振り、その誘いを受けた。
 

「……まぁええか、少しは紫のことも知りたいしなぁ」
 

「あらあら、今度は私かしら? 手が早いわねぇ」
 

先ほどと同じくにやけた顔の紫に刀夜は鼻で笑い、言葉を返した。
 

「はっはっは、手なんか出したら逆に食われてしまいそうやから止めとくわ」
 

「あら、本当に食べてあげましょうか?(性的にだけど)」
 

「……勘弁してください(妖怪やからなぁ、マジで食われそうや……)」
 

「あらそう、残念ねぇ」
 

「あはは、ほな行こか」
 

微妙に食い違ってはいるものの話しに区切りが着いたので紫と刀夜は茶屋に歩を進めた。
いざ、茶屋の暖簾を通ろうとしたその時、紫が何か思い出したように口を開いた。
 

「そうそう、刀夜」
 

「ん? 何や?」
 

「後できっと面白いことが起きるわよ」
 

「面白いこと? 何が起きるんや?」
 

「それは後のお楽しみよ、じゃあ行きましょう」
 

「?」
 

紫の言葉に首をひねっている刀夜だがその疑問が解けるのはもうしばらく後のことであった。
刀夜と紫が会話している間、霊夢と魔理沙の方でも会話がなされていた。
 

「魔理沙? なんで貴女は刀夜を乗せようとしていたの?」
 

「さぁ ?何でだろうな?私にもわからないぜ」
 

「そう、実は私もわからないわ。何でかしらね?」
 

「だからわからないんだって」
 

霊夢の問いかけに魔理沙は苦笑を浮かべ、霊夢もまたその口に笑みを浮かべている。
……しかし二人の眼は全くと言っていい程笑っていない。
 

「でもね……」
 

「……ああ」
 

「「貴女がお前が刀夜といると何かいやなのよ!(だぜ!)」」
 

もう言葉を境に少女二人による弾幕勝負の幕が切って落された。
 

「こっちからいくぜ、『マジックミサイル』!!」
 

魔理沙から20を超えるであろう魔力で形成された弾が発射された。
霊夢はその弾幕に少しばかり眼を奪われていたがすぐにその顔を引き締めた。
 

「へぇ、綺麗な弾幕ね、でもこの程度……」
 

霊夢は魔理沙の弾幕を次々に避けていく。次期博麗の巫女となるべく霊華に鍛えられている彼女には特に問題ないようである。
 

「へ、これだけじゃあないぜ? 『イリュージョンレーザー』!!」
 

「!!」
 

魔理沙はミサイルだけでなく、レーザーも時折織り交ぜて弾幕を放つ。
ミサイルで霊夢の逃げ場を特定させ、そこに速度の速いレーザーを放つ。
刀夜は簡単に避けていたがこのレーザー、速度はかなりの物であり霊夢は完全に避けること叶わず服の一部にかすってしまっていた。
 

「くっ、やるわね、こっちからもいくわよ。霊符よ!!」
 

霊夢は袖から数枚符を取り出し魔理沙に向って投げた。
 

「へ、そんな遅い弾幕当たってやらない……な!?」
 

符の直線状から逃れた魔理沙であったが符はそれに合わせて軌道を修正し、再び魔理沙を射程にとらえた。
 

「確かに速度は貴女のよりは遅いわ、でも私の弾は追いかけるの」
 

霊夢はそう言うと再び符を取り出し投げた。これで魔理沙を狙う符は先ほどの倍、十を超える量になった。
 

「……やっかいだぜ」
 

魔理沙のミサイルもレーザーも基本的には直線に進む。霊夢の符を避けながら霊夢に向けて撃つことはかなり難しくなっていた。
 

「もらったわ!」
 

「だが甘い!」
 

「!?」
 

「私の武器はまだあるんだぜ? 私の最大の武器は……スピードだぜ!」
 

箒に跨った魔理沙のスピードがぐんと上がった。それも霊夢の符が全く追い付けないほどに。
 

「は、はやっ!?」
 

「これで終わりだぜ!」
 

魔理沙は符から距離をとると反転し、霊夢に向って一直線に最高速度で飛んできた。その手には魔力の弾が形成されている。
 

「返り討ちにしてあげるわ!!」
 

「マジック……」
 

「霊符よ……」
 

「ミサイル!!」「いっけえ!!」
 

ちゅど〜ん!!
 

霊夢の符は魔理沙に、魔理沙のミサイルは霊夢に命中した。つまり……
 

「相打ち……」
 

「そうみたいだな……」
 

「魔理沙って強いのね」
 

「霊夢も中々だぜ」
 

先ほどまでの刺々しい雰囲気は何処に行ったのやら、霊夢と魔理沙の表情はどこかスッキリしている。
 

「さてと戻りましょうか」
 

「そうだな、また刀夜置いてきぼりにしたしな」
 

「……あ、そう言えばそうだった」
 

「気付いてなかったのか……」
 

魔理沙はしまったという顔をして明後日の方向を向いている霊夢にジト目で見やっている、確実に呆れているのだろう。
時間にしておよそ十秒、霊夢にそれ以上に感じた時間、なんとも言えない微妙な空気が二人の間に立ちこめていた。
 

「ま、まぁ大丈夫でしょ、流石に人里の中まではそうそう妖怪なんて入ってこないでしょ」
 

「それもそうだな、人里まで入ってくる変わった妖怪なんかそうそういないぜ」
 

ジト目に耐えられなくなった霊夢の口から出たのは最早言い訳でしかなかった。
しかし魔理沙もこれ以上追及せず霊夢の言葉に相槌を打ち、二人は刀夜の元に戻るために高度を落とし始めた。
ちなみに霊夢と魔理沙はいないと言ったが……
 

「それが此処にいるよねぇ」←変わった妖怪。
 

「誰に言ってるん?」
 

「何でもないわ」
 

「……ボケたk」ゴツン「ったぁ!?」
 

紫が何の脈略もなく訳のわからないことを言ったので余計なひと言を言ってしまった刀夜、
ついに紫から一撃見舞われたのは全くの余談である。
 

霊夢と魔理沙が元の場所へ戻った時、其処には刀夜の姿はなかった。
それもそのはず、現在刀夜は紫と近くの茶屋に行っているのだがら。そしてそれを二人が知るわけもなく、
刀夜がいないことに大いに混乱している。
 

「刀夜がいない」
 

「まさか迷子にでもなったのか!?」
 

「わからないわ。……どうしよう!?」
 

「どうしようって、どうしよう!?」
 

霊夢達は予想外の出来事に混乱している。
そしてその声はかなり大きなものであったため刀夜と紫のいた茶屋にも彼女たちの声が届いていた。
 

「あら、あの子達戻ってきたみたいね」
 

「お、帰って来たか。ちと呼んでくるわ」
 

刀夜はそう言うと食べている途中であった団子を食べ終えた後、ゆったりとした足踏みで茶屋を出た。
声の出所を探るべく視線を右へ左へ動かしていると割とすぐ近くの所で霊夢と魔理沙はオロオロとしていた。
 

「お〜い、こっちやこっち!!」
 

「「刀夜!?」」
 

刀夜が声をかけるとまるで鏡合わせのように霊夢と魔理沙が刀夜の方へと振り向いた。
そして二人の少女は無言でズカズカと刀夜の前まで歩を進めたかと思うと眼尻に少しばかり涙を浮かべて刀夜を睨んでいる。
二人の雰囲気に多少気押されそうになった刀夜であったが平然を保とうとのんびり顔をしている。
……微妙に口の端がヒクついてはいたが。
 

「け、結構早かったんやな」
 

「何処にいたの?」
 

「ん? 茶屋」
 

「何で茶屋にいたんだ?」
 

「待ってる間の時間つぶしや」
 

「「一人で?」」
 

「いや、紫と……あ」
 

はい、地雷がど〜ん。
霊夢、魔理沙、そして二人同時による追及によって刀夜は最早言い逃れが出来ない状況になってしまった。
このまま霊夢と魔理沙にフルボッコになる姿を想像したのか刀夜は既に覚悟を決めた表情をしている。
しかし、何時まで経っても二人から何もされない。
刀夜がそのことに疑問を抱いていると固まっていた霊夢がやっとのことでその口を開いた。
 

「……紫? あの、大妖怪の八雲 紫?」
 

「そう……やけど?」
 

「「……」」
 

霊夢と魔理沙は開いた口が塞がらなかった。
それもその筈、八雲 紫と言えば幻想郷を管理している大妖怪として里で知らぬ者はいないと言われるほどの超大物なのだから。
しかし刀夜は紫がそれほどまでの大物などと知らない、精々人を脅かすのが趣味のとんでもない力を持っているバb……
お姉さん程度にしか思っていないのだから。
 

「紫がどないしたん?」
 

「どうしたって、何でお前あの八雲 紫とお茶してるんだ!?」
 

「紫の方から誘ってきたんや」
 

「……うそ!?」
 

「いやいやほんまやって。今もそこの茶屋におるは……ず!?」
 

刀夜が言い終わる前に二人は刀夜が指示した茶屋へと駆けて行った。茶屋の暖簾をくぐった先には優雅にお茶を飲んでる紫がいた。
 

「ほんとにいたぜ……」
 

「な、なんでこんな所にいるの?」
 

「いきなり失礼ね〜お茶しに来たのよ、刀夜と」
 

霊夢と魔理沙に電流が走る。二人は倒れそうになりながらも何とかこらえ、次の質問に移った。
 

「な、なんで刀夜と?」
 

「そ、そうだぜ。なんで刀夜なんだ?」
 

「う〜ん、刀夜に興味があるから、かしらねぇ?」
 

「「!!」」
 

紫のとどめと言える意味深な言葉に霊夢と魔理沙は稲妻にうたれたような様子でその場にへたり込んでしまった。
 

「ふ〜、一体何なん……ほんまに何があったん!?」
 

二人が座り込んだ直後、刀夜が茶屋に入ると其処には如何にも楽しそうな笑顔の紫と放心状態の霊夢と魔理沙がいた。
 

「なんでもないわ」
 

「……あまりやり過ぎたんなや?」
 

霊夢と魔理沙の様子を見て何があったのか大体把握したらしい刀夜は紫に釘を刺す。
しかし紫は怪しい笑みを浮かべるばかりで刀夜の言葉は聞いていないようである。
 

「さて、貴女達もいつまでそうしてるの、さっさと元に戻りなさい」ペシ、ペシ
 

「「ハッ!!」」
 

紫は霊夢と魔理沙の頭を軽く扇子で叩き二人を正気に戻した。
そして茶屋の店主に代金を支払うと刀夜達の方へと振り返り、扇子を一閃させてスキマを作り出した。
 

「さてと、そろそろ神社に行きましょう、刀夜を幻想郷に連れて来た理由とかを話すから」
 

「寝ぼけて落として連れて来たの?」
 

「暇潰しじゃなかったのか?」
 

「……貴女達スキマへ落とすわよ?」
 

「そういう風に思われるって一体どんな認識されてるんや? ……まぁどうでもええわ、教えてもらおか、俺を連れて来た理由とやらを」
 

「うふふ、じゃあ行きましょう」
 

紫が筆頭にスキマを潜ると刀夜、霊夢、魔理沙の順にスキマをを潜っていき、全員が潜り終わるとスキマは勝手に閉じて消えた。
……ちなみに置いて行かれた霊夢の母、霊華はというと
 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメ……あれ? 霊夢は?」
 

一人で謝り続けて一時間、ようやく娘がいないことに気が付いた。そしてようやく正気に戻った霊華に人里に住んでいる皆さんは……
 

「「「「「やっとかよ!てか里直してけ!!」」」」」
 

なんて余談もあったらしいが……本当にどうでもよかったと後に刀夜は語ったという。

                                                              第8話へ続く
あとがき
こんにちは、ブレイドです。第7話をお送りしました。第7話は第一次少女合戦の話でした(笑)。
しかし、話が全然進んでませんね。申し訳ありません。ちなみに原作と違う点は紫のことを霊夢と魔理沙が知っているということです。
そして次話にてようやく刀夜の能力が判明いたします。ほんとようやくといった感じなのですが……
それではこのあたりで、ここまで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m








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