神社から忽然と姿を消した霊華を追うために人里に行き、そのすぐ手前で霊夢は地に降り立った。
……なお、いきなり霊夢に引っ張られて連れてこられた刀夜は急激なGと不安定な体勢からブラックアウトを起こし、
ぴくぴくと痙攣しながらその場に倒れ伏している。



「はぁ、はぁ、あそこが……人里よ」

「……きゅ〜」


霊夢は肩で息をしており、飛ぶために使用した霊力も底を尽いたのか疲れ方が尋常ではない。
霊夢はしばし呼吸を整え、ある程度回復してから刀夜の方を向いた。


「……」

「……きゅう〜」

(……私一人じゃ動かせないし、刀夜は置いていこう。これくらい里に近かったら妖怪も来ない……よね?)


霊夢はそう考えると早々に刀夜を置いてきぼりに先へ進んでいった。
……先程も述べたが刀夜の気絶の原因は急速なGによるブラックアウト、つまり霊夢が刀夜を急に引っ張って行ったことである。
しかし、当の本人はそんなことも知らないのだが……
数分後、刀夜が気絶している付近にキノコのような姿の人影がやって来た。人影は小さいことから子供のようである。
キノコに見えたのは帽子であった。子供は辺りをキョロキョロと確認し、誰もいないのを確認すると持っていたリュックを地に置いた。


「さてと、今日はこのあたりでいいかな」


声の主は先ほどの子供。大きな帽子を被っていたので分からなかったがどうやら少女のようである。


「此処位離れてないと親父に見つかっちゃうんだよなぁ」

「……キュウ〜」


実は近くに刀夜が気絶していたのだが草が影になっていたのか少女は気づかなかった。
いや、気づかないというより他のことに注意がいっていたのできちんと確認できていなかったのもあるのだろうが……
それはさておき、少女はリュックから何やら本を取り出すと、ペラペラとめくり、目的のページを探し始めた。


「ええっと確かここら辺に……あ、あったあった♪」

「……H〜」

「ええと、ここがこうなって〜こうやるのかな? ……お、いい感じ」


少女はページを開いたまま何かをおこなっているようだが……“それ”が完成する直前、刀夜がもぞもぞと動き始めた。
どうやら目が覚めた様である。


「……う、う〜ん、此処はどこや?」


刀夜は何気なく起き上がるが少女は予想外の出来事に戸惑いを隠せないようであった。
実際先ほどまでその手の上にあった“モノ”は霧散し、消え失せてしまっていたことから集中力が切れてしまったのは確実であった。
少女はそんなことも気にせず、急に現れた(ように見えた)刀夜から距離を置き、警戒しながらも刀夜に問いかけた。


「だ、だれだ!? 何で此処にいるんだ?」


刀夜はあたりを見回し、自分しかいないので今の問いかけが自分に対してだということが解ると苦笑した。


「ちょっと人里へ行くんや、用があってなぁ。君こそ此処でなにしてるん?」


刀夜から逆に問いかけられた少女は一瞬キョトンとしたが次の瞬間には再び警戒をし始めた。


「人里だって? あ、さてはお前親父の使いのものだな!?」

「……は?」


親父も何も刀夜は人里に行ったことすらない。そんな刀夜が目の前の少女の父の使いな筈がないのだがそんなことは少女は知らない。
刀夜が事情を説明しようと少女に近寄ろうとするが……


「そうはいかないぜ。いくぜ! 最近覚えたての新魔法!」

「いやいや、なんか勘違いしてるって。それに魔法なんてあるわけ……」

「『イリュージョンレーザー!!』」

「うお!?」


少女の掌から何やらビームのようなものが飛んできた。
かなりの速度であったが直線な上それほど大きくなかったので刀夜はそれを避けることが出来た。


「ん〜直線にしかいかないのが弱点か。」


少女はいつの間にか取り出していたメモ帳らしきものにメモを書いている。いきなり攻撃してきた割には隙だらけである。
当然刀夜はその隙を逃さなかった。


「隙ありや」

「きゃっ!!」


少女はとっさに逃げようとしたが刀夜はそれをも読み切り、少女の腕ガシッとを掴んだ。
当然、少女はもがき、離れようとするが刀夜の腕すらぴくりとも動かない。


「は、離せ!離してぇ!!」

「何か勘違いしてるみたいやから言っとくけど、俺は君の親父さんとは何も係わりないで?
先に人里に行った人に問題があってなぁ、それを追っかけてきたんや」

「はな……へ?」



少年、事情説明中



「あぁ〜その、いきなり攻撃してすまなかったぜ」

「ええよええよ、気にせんで。怪我もないことやし」


少女が申し訳なさそうにしているので刀夜はわざとらしく腕やら首やらを動かして大丈夫なのをアピールする。
そんな刀夜を見て、少女は笑顔となった。そしてそれを見て刀夜もまた笑顔になる。
二人が声を上げて笑いだすまでそう時間はかからなかった。


「お前いいやつだな。私は霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)お前の名前は?」

「鉄 刀夜や」

「刀夜か! ……よし、私が人里まで案内してやるぜ」

「ん? いやいや、人里目と鼻の先やから案内なくても行けるけど」


しかし刀夜の言葉を全く効かずに魔理沙は既に進み始めていた。


「早く来ないとおいていくぜ?」

「お〜い、聞いてるんか〜? ……まぁええか」

「そうそう、気にしたら負けなんだぜ」

(やっぱり聞いてない振りなんか……)


諦めたらしい刀夜と魔理沙と共に人里へと向い始めた。
その間に刀夜は自分が外から来たこと、里には霊華を止めに来たことなどを簡単に説明し、
魔理沙は外の世界のことなどを聞きながら移動していた。そして……


「「……」」


刀夜達が人里へ入るやいなや騒然たる様子に開いた口が塞がらなくなっていた。
人里はもの凄いことになっていた。
家は何軒も崩れ、吹き飛び、地面は抉れ、人々は遠く離れた所に固まり、“とある二人”を恐ろしい者を見る目で見ていた。
その二人とは……


「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」


無言の重圧をもって自分の母親を見下している霊夢と自分の娘に土下座しながらひたすら謝っている霊華であった。


「な、何があったんだぜ?」

「……さぁ?」


自分の住んでいる人里がまるで台風に襲われたが如き状態になっていることに放心一歩手前の状態になっている魔理沙。
そしてこれを起こしたであろう人物をたった一人で鎮圧したであろう霊夢に恐れている刀夜。
そして、今まで無言の重圧をかけ続けていた霊夢が刀夜達の存在に気づくまでおよそ20秒。


「あ、刀夜。やっと来たの?」

「あ、ああ。……何があったんや?」


刀夜が恐る恐る霊夢に事の詳細を尋ねると霊夢はしれっとした顔で一体何があったのか説明し始めた。


「別に? 人里で大暴れした大バカに大っ嫌い!! って言っただけよ……」

「……なるほど、よ〜くわかった」


早い話が親バカが子供に言われたらショックなセリフランキングNo1(作者が勝手に考えたランキング)を言われたのである。
超親バカである霊華にとっては何よりも効く言葉であろう。刀夜が呆れた様子で霊華を見やっていた。
しかしそんな時、霊夢がふとあることに気づいた。


「ところで刀夜?」

「ん? 何や?」

「その後ろにいる女の子、誰?」


霊夢は刀夜の後ろで霊華を見やっている魔理沙を指し、刀夜に尋ねた。霊夢の表情は少しばかり硬い。


「あ、ああ人里に来る前に会った子なんよ。名前h「ふ〜ん。ねぇ貴女は誰?」お〜い?」


刀夜の言葉を遮り、霊夢は魔理沙に詰め寄って問うた。
刀夜は霊夢の様子がおかしくなりつつあるのを敏感に察知し、霊夢を止めようとするが失敗。一睨みで委縮してしまった。
そんな霊夢に詰め寄られた魔理沙はというと特に委縮することなく、至って普通の対応をしていた。


「人に名前を聞くときは自分から言うものだぜ?」


魔理沙から思いもよらない反応が返ってきたので霊夢は一瞬その動きを止めた。
がしかし、それも直ぐに消え、言われたとおりに自分の名前を告げた。


「それもそうね。――私は博麗 霊夢。次代博麗神社の巫女よ」

「私は霧雨 魔理沙。魔法使いを目指してるんだ」


霊夢が名乗ると同時に魔理沙も名乗りを上げる。霊夢は名前を聞くやいなや魔理沙にとあることを尋ね始めた。


「そう、それでなんで刀夜と一緒にいたの?」

「ああ、私は刀夜を人里まで案内してたんだぜ」

「あら、それはありがとう。でもたしか刀夜を下ろした所は人里からそんなに離れた所じゃないんだけど?」


魔理沙の言葉に霊夢が多少言葉に棘を含ませて返す。がしかし、その言葉に魔理沙の眉が顰めらる。
言葉の棘に、ではなく霊夢の言ったことに疑問を抱いたためである。


「へ〜じゃあお前が刀夜をあそこに置いてったのか?」

「うん、そうだけど?」

「……あそこは時々だけど人喰い妖怪が出てくる。夜中が多いけどな。そんな所に気絶した刀夜を置いてったんだな?」

「……え?」


魔理沙の言葉に霊夢の表情が固まった。知らなかったとはいえそんな所に一般人の刀夜を置いていってしまったのだ。
霊夢の胸中にもしも刀夜が妖怪に襲われてしまっていたらという思いがよぎる。


「刀夜から大体の事情は聞いたよ、母親の暴走を止めに来た、それはありがたいが……あそこに刀夜を置いて行ったのは間違いだったぜ」

「……ごめんなさい」

「それは私じゃなくて刀夜に言うセリフだぜ?」

「そうね。……刀夜、貴方を置いて行ってごめんなさい」

「はっはっは、気にすんな、結果論やけど無事だったわけやし」


霊夢はしゅんとうなだれた様子で謝ってくる。がしかし、刀夜はそんな霊夢は笑って許しの意を告げる。


「……ありがとう」


霊夢は刀夜が特に気にせず、自分を許してくれたことが嬉しさを感じながらも申し訳なさからかその表情は晴れてはいなかった。
そこで刀夜は話のすり替えに移行することにしたのか急に魔理沙に話を振り始めた。


「しっかし、魔理沙って結構男らしいやな?」

「(うっ!!き、急に振るなよ!?)そ、そういう刀夜も結構器が大きいんだな?それとも楽観的なだけか?」

「かもしれへんな〜」

「……馬鹿なだけだったりして」


刀夜と魔理沙の会話に恐る恐るではあるが乗っかる霊夢。
その意外な毒舌っぷりで刀夜と魔理沙が口火に徐々に笑いの声が上がり始め、
一分も経たぬうちにそれは“三人”のものとなり、そのすべてが満面の年相応の笑みを浮かべている。


「「「あはははははは」」」


これがきっかけですっかり仲良しになった三人であった。
そんな三人をさておいて、里に甚大な被害をもたらした現博麗の巫女、博麗 霊華はというと……


「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」


ただひたすら謝っていた。すでに霊夢がいないことにも気付かずに……
その後しばらく雑談をしていた三人であったが、刀夜の腹からグゥーという音が聞こえるとともに霊夢が話を切り始めた。


「さて、そろそろ神社に戻りましょうか」

「……この人里はどうするん?」


人里は今は嵐が過ぎたのかと言わんばかりに荒れていた。その原因はいまだ正気に戻っていない。
霊夢は数秒考えた後、笑顔でその解決策を提示した。


「あのバカ母にやらせりゃいいわよ」

「……そうやな」


刀夜は少し罪悪感に苛まれたが霊華のしでかしたことを思い出すやいなやその罪悪感も消えうせたため、神社に戻ることを決めた。


「じゃあ魔理沙、私達はもう行くわね」

「おう、さっそく行こうぜ。道を知らないんだ」


いつの間にか箒に跨った魔理沙がいた。明らかについてくる気満々である。


「まさか、神社に来るつもりなんか? というか何で箒?」

「あったり前田のクラッカーだぜ。それに魔女は箒に乗るものだぜ?」


魔理沙の言うことにいまいちピンと来ていない刀夜をさておいて、
霊夢と魔理沙がどんどん話を進めていき、結局ついてくることが決定したらしい。


「……お茶くらいしか出ないわよ?」

「かまわないぜ、お菓子は常に常備してるから」


魔理沙はそう言いながらどこから出したのか饅頭が入っているらしき箱をぶらぶらと揺らしていた。
刀夜は不思議そうに魔理沙を見つめ、霊夢は目を光らせて饅頭を見つめている。


「そう、じゃあ刀夜、つかまって」

「はいよ〜」

「ん? 刀夜は飛べないのか?」


刀夜が自身の力で空を飛べないことが意外だったのか魔理沙は目を丸くしている。
それを見た刀夜は苦笑いを浮かべている。


「いやいや、普通、飛べへんって」

「そうなのか?」

「少なくとも外の世界に自力で空を飛べる人間はいない筈や。俺の知る限りは……やけど」

「ふ〜ん……あ、じゃあ私の箒に乗ってけよ。少なくとも宙ぶらりんよりは楽だぜ?」


そう言いながら魔理沙は自分の後ろのポンポンと叩いた。確かに後一人くらいは余裕で乗ることが出来そうなスペースが残っている。
確かにぶら下がるのよりは刀夜も霊夢も楽であろう。だがそれに動揺するものが現れた。それは……


「ま、魔理沙?」


一番キツイであろう作業から逃れられる筈の霊夢であった。霊夢は急にオロオロしだしたが刀夜も魔理沙もそれには気付かない。
それどころか刀夜はこのタイミングで霊夢に更なる追い討ちをかける。


「う〜ん、じゃあお言葉に甘えようかな。」

「刀夜!?」


刀夜自身が選択した以上、それを尊重するのが道理である。
そのことを幼いながらも理解しているのか魔理沙は有頂天になりながら霊夢に向って勝ち誇った顔をしている。


「へっへっへ〜♪ じゃあ霊夢、道案内、よろしく頼むぜ」

「……わかったわ、でも刀夜はこっちよ!」


しかし霊夢はあきらめなかった。刀夜の腕を掴み、魔理沙から引き離しにかかる。
が、魔理沙もそうはいかないのかもう片方の腕を掴み、それを死守する。


「何言ってるんだ? 刀夜がこっちを選んだんだぜ?」

「刀夜? こっちに来るよね?」

「え!? ……あ、ああじゃあそうさせてもらおかな?(なんか霊夢怖いから……)」


霊夢の有無を言わさないオーラを敏感に感じ取り、刀夜は霊夢のほうに行こうとする。が、やはりそうは問屋が下さなかった。


「刀夜? 行くのか? そっちに?」

「ま、魔理沙?(こっちも怖えぇぇ!?)」


魔理沙が無表情で刀夜の腕を思いっきり掴んでいた。
否、もはやこれは掴むなんて甘いものではなく、絞めつけると言った方が正しいような気がするのであるが……


「「刀夜、どっちを選ぶ?」」

「(こ、これはどっちかを選んだら……どっちかに殺される!?)え、ええっとやな……」

「「どっち?」」

(こ、怖えぇぇぇ!!)


もはや刀夜を襲っている二人のオーラは八歳のものとは到底言えず、
殺気には慣れているがこういったオーラにはまるで耐性がない刀夜にはとても耐えられるようなものではなかった。
しかし、刀夜が限界を迎えるその一歩手前でそのオーラの矛先が変わった。


「……刀夜は選ばないみたいだから」

「……ああ、しかたないぜ」


そう言いながら霊夢と魔理沙はお互いに距離を取り、その闘気を高めていく。
刀夜は二人の様子が尋常でないことを悟ると二人の間に割って入り、止めようとする。


「ちょ、ちょい待った!? 何するつもりや!?」

「大したことじゃないよ?」

「そうそう、此処(幻想郷)じゃあそう珍しくないぜ?」

「ただ」

「ちょっと」

「「派手な喧嘩みたいなものよ!」だぜ!」



そう言うと二人は空を飛んで行った。刀夜は状況が把握できず、再び置いてきぼりとなった。


「な、なんや知らんけどまた置いてきぼりなんか……」


そして現博麗の巫女はというと……


「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」


まだ謝っていた。刀夜は誰も聞いていないのにもかかわらず、虚空に向ってぽつりとつぶやいた。


「いつまでやってんのやろあの人?」


さぁ? とそんな投げやりな答えがどこかからか聞こえた気がした刀夜であったが……
その場にいたのは刀夜だけでだった故にだれが言ったのかは謎に包まれるのであった。





                                                             第7話へ続く あとがき

こんにちはブレイドです。第6話をお届けしました。そして登場しました。霧雨 魔理沙、原作東方projectのもう一人の主人公。
人物設定は再び下の方にあります。なんていうかいつの間にか霊夢と魔理沙がwwなんででしょう?
最初の考えではヒロインになるかも程度に考えていたんですがwwまぁその場の勢いで書いてるからなんですけども……
次話では原作の設定を変えることになりそうです(すでに変ってるところも結構ありますが……)。
ではこのあたりで失礼します。ここまで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m



霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)

プロフィール
原作東方projectの主人公、現在8歳、魔法使いを目指している。現在のところマジックミサイルとイリュージョンレーザーが使える。
ヒロインになる……かも?(もうなってる?)一応まだ実家に住んではいるが、いつか出て行くつもりである。
能力:魔法を使える程度の能力







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