此処はとある神社の境内、時刻は夜中そんな時間神社には誰もいない筈である。
しかし今神社の境内には三人の人影が見える。
正確には立っている二人はそれぞれ“神様”と“妖怪”八雲 紫で神様に掴まれているのが“人間”鉄 刀夜なのであるが……
「ねぇ?」
『何?』
「何故彼は気絶しているのかしら?」
確かに紫は神様に刀夜を連れてこい(プロローグ参照)とは言ったが気絶、
それもかなり手酷くやられた状態で連れてくるとは思っていなかったのか刀夜の状態を見て少し引いている。
『気にしないで』
神様は刀夜をかなり乱暴に地面に置いた。というか投げた。
しかし投げられたのもかかわらず刀夜は目を覚まさない
「まぁいいわ。なんとなく想像できるし(無理矢理連れて来たって所かしらね)」
『じゃあいいじゃない。早く幻想郷に行きましょう』
刀夜が起きていないにもかかわらず早く行こうと急かす神様。刀夜が起きる前に事を進めたいのが見て取れる。
「まぁ、彼が目を覚ますまで待ってもいいでしょう?」
『え!?い、いやその……』
紫の言葉に神様は明らかに狼狽している。それもそうである。
神様には先ほどまでの刀夜とのやり取りを再びやり合う気は到底ないのだから。
「……うぅ」
「あら、ナイスタイミング♪」
『あ〜あ起きちゃった』
刀夜が目を覚ますのを紫は興味深げに、神様は疲れたように見ていた。そんな中で刀夜は目を覚ました。
「こ……ここは?」
「此処は神社よ」
「!!あんた誰や!?」
いきなり後ろから声をかけられたので刀夜はすぐさま体制を立て直し、声をかけた人物と距離をとりつつ向き合った。
「初めまして、私は八雲 紫“妖怪”よ。貴方のお名前は?」
「!!あんたが八雲 紫……俺は鉄 刀夜“人間”や。あんた、俺を幻想郷に連れて行こうとしてるそうやな」
いきなり謎な人物、いや、妖怪なので人物ではないのだが、が現れたのも関わらず刀夜は冷静だった。
普通の人間ならとうにパニック状態になっていてもおかしくない筈なのに、この肝の大きさは大したものと言える。
「ええ、そうよ。貴方にはあそこにいる彼女と一緒に幻想郷に来てもらうわ」
紫が顔を向けた先には神様がいた。
その表情は何かあきらめたような顔である。
『まぁ、そういうこと、じゃあいきましょう』
此処でも刀夜の意見を聞かずに行こうと言う神様に刀夜は待ったをかける。
無論納得がいかないためである。
「待たんかい!俺は行かへん言うてるやろ!!」
『今更何言ってるのよ!覚悟決めなさい!!』
(やっぱり無理矢理連れて来たのね)
口論している2人を紫はやっぱりという顔で眺めていた。しかし今回の口論は意外にも早く終了した。
「人を誘拐しておいてよう……そん……な……此処どこや!?」
刀夜は今更ながら自分が何処か分からない場所に連れてこられてるのに気が付いた。気づくのが遅すぎやしないか?
『さっき紫が言ったでしょう?此処は神社、[博麗神社]よ』
「博麗神社?聞いたことないな〜」
聞いたこともない名前だったので刀夜は胡散臭そうな顔をしている。紫はさも当然といった顔で話を続け始めた。
「まぁ当然ね、博麗神社は人里から随分離れたところにあるから」
「は?じゃあ俺どうやって来たんや?俺ん家ってかなり都会に近いところにあるんやで?」
『あ、ああ私が飛んで連れてきたのよ』
神様はその場で浮かんでみせて刀夜を納得させようとしたが紫の一言でその作戦は崩れ去った。
「貴方の頭を掴みながらね♪」
紫は刀夜の頭を掴むジェスチャーをしながら説明すると刀夜の顔はみるみる赤くなり、神様の顔はみるみる青くなった。
『ちょ、紫!?』
「なんやて!?道理で頭と首が痛いと思たわ。何してくれんねん!!幼女!!」
『だから幼女って言うな!!!』
再び神様の右パンチが刀夜の体めがけて放たれた。しかし……
「何度も同じ手が食らうか!!」ヒョイ
『なっ!!』
「へぇ〜」
刀夜は避けた。
神様は信じられないように、紫は感心したようにそれを見ていた。パンチを避けた刀夜は反撃しようとしたが……
「さてと反撃返……し…や?あれ?俺の刀は?」
手にしていた刀が見当たらないのか辺りを見回す、しかしこの場に刀がある筈もない。
『あ、覚えてないの?あんたの刀私が叩き折ったわよ?』
そう、刀夜の刀は今やただの鉄くずに等しい存在となって刀夜の部屋に置いてあるままなのである。故にこの場にあるわけがないのだ。
「な、なんやて〜〜〜!?」
神様の放った言葉で刀夜はその場に倒れこんでしまった。いわゆるorz状態である。
「あ、あれ高かったのに……」
『あら、それはごめんなさい。ところで』
いつの間にか刀夜の目の前にまで間合いを詰めていた神様は笑顔を浮かべながら刀夜を見下ろしている。
「何や?」
『何か忘れてない?』
「へ?あ……」
刀夜は今の自分の状況を思い出した。それと同時に、ドゴッ!!!と神社に轟音が鳴り響く。
刀夜は悲鳴すら挙げることもできずに気絶した。
頭に大きなたんこぶをこさえて……
「あらまぁ」
刀夜は薄れゆく意識の中、紫のどこかのんびりしたような声が聞こえた気がした。
数十分後、ようやく刀夜は目を覚ました。
いったい何回気絶すれば気が済むのだろうか?
「痛たたたた」
刀夜は頭を押さえながら神様を睨んだ。しかし神様は刀夜をにらみ返しながら
『次言ったら天罰食らわすわよ?』
と返した。
今までのは天罰ではなかったのだろうか?
「これは天罰やないんか?」
刀夜は頭のたんこぶを指さしながら尋ねた。神様はさも当然と言った顔で
『当たり前でしょう。それとも今食らう?』
神様は別に食らわせてもいいのよ?と言わんばかりの笑顔で刀夜に微笑んだ。本当に子の少女は神様と言えるのだろうか?
「勘弁してぇな……」
「まぁまぁ、もういいじゃない」
そんな二人を紫がなだめるが空気の悪さはぬぐえないようである。
『はぁ……次言ったら本当に天罰食らわすわよ?』
「わかった(覚えてたらな)」
心の中ではいつか復讐してやると決めた刀夜であった。……それが成される時が来るのかは定かではない。
そんな脱線もありながらようやく話は幻想郷のことに戻り始めた。
先に口を開いたのは紫、刀夜に対して真剣な面持ちで問いかける。
「さて、話を戻すわね。さっきも言ったけど、貴方には幻想郷に来てもらうわ。必ずね」
紫がそう言った瞬間、刀夜へ向けて殺気を飛ばした。それもかなりどきついのを。
『ちょっ!紫!?』
神様はそんな紫を止めようとしたが…
「行かへん言うたら殺す気か?八雲 紫?」
神様が止める前に刀夜が口を開いた。
神様はまさかといった表情で刀夜のほうを見ると、そこには紫の殺気をまともに受けてケロッとしている刀夜の姿があった。
『!?』
「あら、何のことかしら?」
「あれだけの殺気出しといて何言ってんねん」
紫のとぼけた言葉に刀夜は鼻で笑って返す。それに紫も笑みで返し、殺気を消した。
殺気が消えた途端に神様が刀夜に詰め寄った。
『な、なんで貴方平気な顔していられるの!?普通の人間にあの殺気に耐えられる筈がないのに!?』
「ん?ああ、親父との稽古で殺気にはそれなりに慣れとるから。……まぁ紫の殺気程やなかったけどな」
「あら、ありがとう♪」
紫はにっこりと笑ったが刀夜は紫を睨みつけている。完全に刀夜は紫を警戒しているようである。
「はぁ、……わかった。行くわ幻想郷」
『え!?』
「じゃあ決定ね」
いきなりの刀夜の意見変更に神様は信じられないと言った風に聞き返し、紫は笑顔と決定の言葉で返した。
「行く前に準備したいから一度家戻りたいんやけど?」
刀夜は気絶中に神様に連れてこられたので何一つ持って来ていないのである。
その状態でよくわからない所に行くほど愚かな行為はないだろう。
「わかったわ」
「あ、でもどうやって戻ろ?家までかなり距離あるんやろ?」
「大丈夫よ。一瞬で行けるわ」
そう言うと紫は手を空中で無造作に縦に切った。
「!?」
すると切った所に亀裂ができその亀裂左右に広がり空間に穴が開いた。
「ああ、貴方はさっき気絶してたから見てなかったのよね。これが私の“能力”境界を操る程度の能力の1つよ」
「……」
刀夜は呆然としていた。まぁ当然である。
空間が裂けていてその中は何色もの絵具を混ぜたような色をしている上に大量の目玉が刀夜を見ていた。正直気持ち悪い。
『まぁ、初めて“スキマ”を見た奴は人間、妖怪、神だろうと言葉をなくすからね』
「“能力”?“スキマ”?」
聞き覚えのない単語に刀夜は聞き返して質問した。……スキマからは目を逸らさなかったが
『“能力”っていうのは特別な者が持っている力のこと。“スキマ”ってのはこの空間に開いた穴のことよ。』
「だから私はスキマ妖怪なんて言われているわ」
「へぇ〜、これ俺ん家につながってるん?」
「ええ」
「じ、じゃあ行くか」
刀夜、おっかなびっくり移動中
「おお、ほんとに俺ん家や!!」
刀夜は驚きを通り越して感激していた。完全なる瞬間移動である。
「あ、そやそや、準備せな」
刀夜は大きめの鞄に着替え、現金(向こうで使えるか分からんけど)、食料、水、小太刀、を入れた。
「これで良し。もっぺんココ通ったらええんやろうな」
刀夜移動中(危険はないと判断した)
「おまっとうさん」
『来たわね』
「じゃあ行きましょうか幻想郷へ」
紫は再び空中で手を動かし、スキマを作った。今度は幻想郷に繋がっているのだろう。
「ほんなら行きますか」
三人はスキマに入った。幻想郷まで距離があるのだろうか、先ほどと違い瞬間移動ではなかった。
『やっと幻想郷に行ける♪』
「貴女相当行きたかったのね。もしかして100年間ずっと?」
『当たり前じゃない♪ずいぶん待ったのよ?』
「あなたにとって100年なんてあっという間でしょう?」
『まぁね〜』
「なんや、ババァやったか」ボソッ
ザ・ワールド!!神様と紫の時が止まった。スキマ内の目玉達が一斉に目を閉じた。
……これから起こるであろう惨劇を目の当たりにしないために。
「ん?」
そして時は動き出す。
『「と〜う〜や〜?」』
ビクッ!!!
神様と紫がものすごい笑顔で刀夜を見た。無論目には一滴の笑いもなかったが。それを見た刀夜は動けなくなってしまった。
『「今、何て言った?」』
「え、いや、その、何もイッテナイデ?」
『「今、何て言った?」』
「あ、あ、あの」
『「今、何て言った?」』
まったく同じセリフをまったく同じ口調、しかもそれを無表情で言われるとかなり怖い。もはや刀夜は蛇に睨まれた蛙の心境であった。
「な、なんやババァやったか、と言いました」
刀夜半泣き。
『「……」』
神様、紫共に無言。しかしその姿から発せられる見えない重圧は今にも刀夜を押しつぶそうとしていた。
「え、えっとその申し訳ありませんでした。!!!!!!」
刀夜土下座。しかしその程度で怒りに満ちた2人を抑えきれるわけもなく……
『「ユルサン」』
「あ、あ、あ」
今、刀夜を襲っている怒気は先ほどの紫の殺気が可愛く思える程の強力なものであった。
しかもそれが2人分、その中で気絶しなかっただけ刀夜はよく頑張ったと言いたい。しかし、おそらくそれも叶わないだろう。
「さっき言われたわよね?」
『今度言ったら“天罰”食らわすって』
「い、いやそれは幼女と言った時『「ああん?」』すんません!!!」
刀夜もはや全泣きである。これから自らに起きるであろう“天罰”に恐怖しているのである。
(俺、生き残れるのかな?)
刀夜は自らの不注意さを心の底から反省した。
反省したところで“天罰”が無くなるわけではないのだがいくらか心の負担が軽くなったような気がした刀夜であった。
『さて、じゃあ“天罰”いきますか』
「どんな“天罰”にする気?」
『こんなのどう?』ゴニョゴニョ
「こういうのは?」ゴニョゴニョ
数分ほどどんな“天罰”にするか話し合いが行われた。神様と紫は実に楽しそうに、刀夜は震えながら時間を過ごした。
そして……“天罰”が決まった
『決まったわよ』
「ど、どういった“天罰”や?」
「それはね……」
『これよ!!』
神様が刀夜に手をかざした瞬間刀夜の体が光り始めた。
「うわっ!?」
刀夜はまともに見ることが出来ないほどにに発光しているからかスキマ内の目達が目を細くしている。
彼らは目しかないためこういった現象から自らを守る術がないのがいたたまれる。
『「うふふふふ」』
光が収まりだした時から神様と紫の黒い笑いがスキマ内に響き始めた。
「な、なんや?」
『だいせいこ〜う♪!!』
イエ〜イとロータッチ(神様と紫の身長が合わないため)をしだし始める神様と紫。
しかし刀夜には何が起きているのかさっぱりわからない。
「へ?」
「自分の体を見てみなさい」
神様と紫はイイ笑顔である。刀夜は自分の体を見てみた。すると……
「な、なんじゃこりゃ〜〜!!」
刀夜の体は小さくなっていた。大体8歳くらいだろうか?まるで某見た目は○○頭脳は○○な探偵君である。
「何言ってるん?」
『うふふ、私を幼女とか言った罰よ。あなたも再び子供なるが良いわ』
「あれ?でもこれってあまり罰になってないんちゃうか?」
体が子供になったくらいでは正直それほど重い罰ではないような気がするのだろう、
刀夜はそれほどショックを受けてはいないようである。……紫からことの真意を聞くまでは。
「いいえ。そうでもないわ」
「?」
「幻想郷では外の世界と違って妖怪がうようよいるのよ?そして妖怪は人を食べる。しかも子供の肉なんかは妖怪の大好物なのよ。」
それを聞いた刀夜は妖怪に食われる想像でもしたのかその顔をみるみる青くしていった。
「しゃ、洒落になってへんねんけど?」
「あら、洒落じゃあないわよ」
『まぁ、精々食われないようにしなさい。ちなみに体力とかも子供の頃にしといたから♪』
鬼である。この2人は真の鬼である。
((まぁ、食べられるより危険なことのほうが多いけどね、それは教えないわ。これがババァと言った罰よ))
訂正、この2人は“悪魔”である。
2段階のお仕置き、しかも刀夜の知られざるところでなされる2段目のお仕置きとは本当に性質が悪い。流石は“悪魔”だ。
「ああ、妹よ兄は見知らぬ土地で息絶えることになりそうや」
思わず、実家にいるであろう妹に思わず語りかけてしまった刀夜の心境は失意の底にあるのだろう。というか妹居たんだね、君。
「さぁ、もう着くわよ。何時までぶつぶつ言ってるの?」
「!お、おう」
『ああ、ついに来たのね』
紫の言葉でとりあえず復活した刀夜と目を輝かせている神様、奇妙な3人組はついにスキマを抜けた。
その先にあったのは……また神社であった。
「また神社やん!!なんやったん!?さっきまでのスキマは!?」
『これは!!』
神様は何かに気づいたようである。そして紫は刀夜に対して
「うふふ、刀夜?気づいてないのは貴方だけよ?」
とだけ教えた。
「?」
刀夜はそのことを奇妙に思い、とりあえず周りの様子を見渡した。するとある違和感をおぼえたのか首を傾げ始めた。
「あれ?この神社こんなに整備されてとったっけ??」
ようやく刀夜は神社の異変に気づいた。そう、この神社は先ほどと比べてきれいすぎるのである。……古い神社なのは変わらないのだが。
「そう、ここは外の博麗神社とは違うわ。ここは幻想郷の博麗神社よ」
「……なるほどな。つまり、この博麗神社が幻想郷と外の世界との中継地のような場所ということやな?」
鋭い刀夜再び参上である。
先ほどもこれくらい鋭かったならば“天罰”を受けることもなかったろうに
「アハハハハ、それを言わんといて」……大丈夫なのだろうかこの主人公。
「そういうこと、中々聡いわね。この幻想郷では生きるためには必要なことよ」
紫は子供が良いことをした時のように刀夜の頭を撫でた。
「やめて〜な」
当然刀夜はそれに対して嫌がるのだがそれもませた子供の行動にしか見えなかった。
『いいじゃない、少なくとも見た目は問題ないから』
「中身は18やで!?恥ずかしいだけや!!」
((どう見ても、背伸びしてる子供にしか見えないわ……カワイイ))
神様と紫が良からぬことを考えた時刀夜の背中に悪寒が走った。
「今、良からぬこと考えへんかった?」
『「い、いいえ!?」』
慌てて否定したことに刀夜は疑問を抱いたのだが特に深く聞かなかった。(深く聞くとまた何かされそうな気がしたから)
「まぁ、ええか。とにかくここが幻想郷ってのは理解したで。」
『ええ、そのようね』
「うふふ、それじゃあ二人とも?」
「『?』」
「ようこそ、幻想郷へ」
その時の紫の笑みは珍しく心から2人を歓迎している笑みであった。
あとがき
こんにちは、ブレイドです。第3話は幻想郷入りのお話でした。いかがでしたでしょうか?
今回ついに刀夜がついに子供になりました。自業自得のような哀れのような……
さて、4話の予告ですが、前回のあとがきでも書いた通りオリジナルでいこうと思います。(原作キャラは登場させるつもりです。)
新人の自分がオリジナルなんか書けるのか?という不安はありますが頑張りたいと思います。ではこのあたりで失礼します。
ここまで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m