ピクピク――ピク
おお、刀夜、死んでしまうとは情けない。しかたない、今一度復活の呪文を唱えるのだ。
「ドラク○か!?」
刀夜は地の文にツッコミをいれれるようになった▽
「はっ夢か?そうやんな〜自分を神とか言ってたちびっ子も夢やん……な?」
その時、刀夜は後ろに誰かの気配を感じた。誰かが刀夜を見ているのである。
いや、見ているなんて生易しいものではない、見つめているような視線だ。
その視線を背中で受けながら刀夜は自問自答を繰り返していた。
(いやいや、あれは夢やったんや。やからこの部屋にちびっ子なんかおらん、おらん筈や!!)
刀夜は何度も自問自答し、そしてついに意を決して振り返った。その先には……
ニッコリ。
神様いました。
刀夜は先ほどのことが夢でないことを自覚すると同時に心の底からショックを受けた。
「……」
『ようやく目が覚めた様ね』
「……。」
『一瞬本気で殺しちゃったかと思ったわよ』
「……」
『ちょっと?聞いてるの?』
神様の問いに刀夜は答えることが出来なかった。
半ば放心状態に陥っているためである。
「ハハハ、マダユメノナカナンヤ、ハ、ハヨオキナ」
『夢じゃないわよ』
思わず言葉がおかしくなってしまった刀夜の精一杯の現実逃避も神様の一言によって粉砕されてしまった。
刀夜の顔はもはやこれ以上ないくらいに青くなっている。
「う、嘘やろ?」
『本当よ』
「よ……」
『よ?』
「幼女に……負けた?」
『誰が幼女か〜!!!』
ドゴッ!
「グフッ!」
刀夜の失言によって神様の左パンチが刀夜の脇腹に突き刺さった。
刀夜はその身を床に落とし、プルプル震えながら苦しんだ。十数秒経ってしゃべれるようになったのかようやく口を開いた。
「て、手加減せぇよ」
『してるわよ、本気なら貫通してるわ』
神様はしれっと恐ろしいことを言った。
とても手加減してるようには見えなかった一撃だったのだがその顔からは嘘をついているようには見えなかった。
「わ、わかった。もう言わん。やから……もうやめて」
18歳の青年が見た目幼女に土下座している。なんとも情けない図である。こんな主人公で本当に大丈夫なのであろうか?
『話が大分それちゃったわね。話を戻すわよ?』
「話?なんやったけ?」
刀夜はすっかり忘れてしまったようである。まぁ、あんな出来事(アイアンクロー)があれば仕方がないような気がする。
だから話進めて神様、これ以上脱線しないでください。
『……まぁいっか、最初から説明するわよ?』
有無は言わせない、そんな気配を漂わせていたので刀夜は特に何も言わずに了解の首肯を行った。
『先ず、私は神よ』
「それは覚えとる。ところで口調変わってへん?」
『悪い?こっちが地なのよ。貴方を相手にそれらしい口調でいるのは無理よ。わかったら黙って聞け。』
「……ハイ」
神様は怒りを隠さずに直接的に刀夜を脅した。先ほどの拳やアイアンクローを思い出したのか刀夜は震えている。
軽いトラウマになっているようだ。
『そして、私は貴方を迎えに来たの』
「迎え?まさかあの世からやって来たんか!?嫌や〜まだ死にとうない〜〜〜!!」
神がいるのはあの世?→その神が迎えにくる?→……あれ、俺死ぬの?という方程式が刀夜の頭の中で成り立ったのか
刀夜は大いに混乱してしまった。
……先ほどの神様の脅しを忘れてしまうほどに……。その結果が
『黙れ』
再びドゴッ!!「ブッ!!」今度は右のパンチが突き刺さり刀夜は床に倒れ伏した。
神様は右利きなのか威力も先ほどより大きい一撃であった。
『私は何て言った?黙って聞けと言った筈よ?なのに何大声出してるの?殺すわよ?』
怒気が殺気に変わった瞬間であった。
やはりこの神様はかなり沸点が低いようである。
「ゴ……ゴメンナサイ……」ぴくぴく
おお、刀夜、死んでしまうとはなさ「そ、それはもうええ」今回は意外と早い復活をとげた刀夜であった。
……その顔は脂汗で一杯であったが。
「後ろに飛んでダメージ減らしたんよ。今回はギリギリ間に合うたわ。それでも死ぬかと思ったけど」
『続けるわよ』
刀夜がさらっと凄いことしているにも関わらず神様は何事もなかった風に話を続け始めた。
刀夜も今度は余計なことを言わないため口を閉じている。
『迎えに来たと言ってもあの世じゃあないわ。[幻想郷]よ』
「げんそうきょう?何や?それ?」
聞いたことがない地名なので思わず聞き返してしまった刀夜はまた攻撃されるのではないかと身構えたが……今回は攻撃が来なかった。
『幻想郷は現世より浮き出た者たちが集いし郷。幻が行き交い、その果てに辿り着く郷。想いが交差し合い行き場をなくした先にある郷。
すべての“モノ”に忘れられた“モノ”が住まう郷と言われている場所よ』
神様はテンションが上がっているのか早口にこれを述べた。
しばしその言葉の意味を考えるのに時間をかけてしまったが大体の意味を把握したのか、刀夜は神様を問い詰めた。
「な、何やねんそれ、わけわからん。なんでそないとこから俺に迎えが来んねん!」
刀夜自身そんな所に招待される覚えもないのでいきなり迎えに来られても困るというものである。
『さぁ?私は連れて来いと頼まれただけだから知らないわ。知りたかったら紫(ゆかり)に聞いて』
「紫?その人が俺を呼んでるんか?」
『そうよ。正確には“人”じゃないけどね』
「“人”やない?じゃああんたみたいに人外の生き物ってことか?」
『(人外って……まぁ間違っちゃいないけど何か傷つくわね。)そうよ、紫は“妖怪”よ』
刀夜に人外宣言されて意外と精神的なダメージを受けている神様であった。
あれだけ攻撃的であったのに自分は傷つきやすいとは随分な神様のようである。
「“妖怪”?またけったいな言葉が出てきよったな〜」
そんな神様の様子に気が付かない刀夜であるが“妖怪”という単語をすんなり受け入れてしまっていた。
既に非常識な存在(神様)が現れたことで半ばヤケになっているだけかもしれないが。
『とにかく、私は貴方を連れて行かなきゃいけないからさっさと準備して』
「……」
何やら刀夜は考え始めていた。
その様子に神様は疑問を抱いたが特に気にはせず、刀夜を急かしている。
『何してるの?早く準備して』
「なぁ」
『何よ?』
神様の言葉を無視した上で刀夜は神様に質問をし始めた。
先ほどから感じていた違和感を確かめるために……
「何であんた紫って妖怪の頼み聞いてるん?」
『!!』
いきなりの刀夜からの問いに神様は答えることが出来なかった。しかし刀夜は止まらない。
刀夜は神様が言葉を紡ぐ暇が無いほどの速さ問い詰めている。
「あんた神なんやろ?神が妖怪の頼みを聞いて人間を迎えに来るってのはちとおかしないか?」
『……』
「それこそ脅されてるか……自分に利をもたらすかでもない限り神が妖怪の頼みを聞くなんて妙なことない思うんよ」
刀夜は以外と頭が切れるようのか、これまでの様子とは一変して、その鋭い眼光は神様を射抜いている。ぶっちゃけ意外である。
「やかましい」失礼いたしました。
『中々鋭いわね。そう、貴方を連れて行くことで私にも利が生じるわ』
観念したのか神様は刀夜の推測が当たっていることを認めた。
刀夜はやっぱりといった顔をしている。そして刀夜は次の質問に移る、先ほどの問いの続きとも言える質問を。
「ちなみにその利はなんや?」
『それは……』
「それは?」
しばし静寂の時が過ぎた。時間にしておよそ1分ほどだろうか?神様はやたらとタメる。
刀夜がイライラし始めた頃になってようやく神様は続きを言った。
『私も幻想郷に行けるのよ!!』
「は?」
神様、実にうれしそうに言った。
刀夜はその答えに唖然としている。開いた口が塞がらないとは正にこのことであろう。
「じゃあ何か?あんた自分が幻想郷行くために俺を連れていくんか?」『そうよ』
即答であった。
刀夜の問いに対して即答で返した神様のテンションはかなり高くなっているようである。
「なるほどね。理解した」
刀夜はその答えにあきれ果てしまっている。
しかし、神様は興奮しているためかそのことに気付かない。
『というわけで、さっさと準備しなさい』
「だが断る」
一瞬時が止まった。いや、正確には神様の動きだけが止まったのだが……しかしそれもすぐに動き出した。
『ど、どうして?』
「あんたが幻想郷に行きたいがために俺を連れて行くなんてあほらしいことに付き合いきれんからや」
正論である。そんな身勝手な事情で誘拐されてはたまらない。
それなのに神様はまだ粘る。
『そ、そんなこと言わずに、ね?』
「しらん、帰れ。もう寝る」
それだけを言うと刀夜は神様に背を向ける形で横になった。
『……』
「……」
しばし静寂が続く。
『……』
「……」
『……』
「……だぁ〜〜〜!!」
ビクッ!!
その視線に耐えられなくなった刀夜の大声に神様は驚いた。
「いつまでおる気や!?」
『貴方が行くと言うまでよ』
「ありえん」
『いいじゃない!実家に勘当されて此処で一人暮らししてるよりは!!』
その一言で刀夜の様子が大きく変わった。
何というか空気ががらりと変わったのである。今の刀夜からは……計り知れない何かが見え隠れしているのだ。
どうやら神様は刀夜の逆鱗に触れてしまったようである。
「おい」
『な、何よ?』
刀夜のあまりの変化に神様は思わず萎縮してしまった。それほどまでの怒気、それほどまでの眼光を今の刀夜は放っているのである。
「実家の話はするな」
『わ、わかったわよ』
それだけを言うと刀夜は再び神様に背中を向けて横になった。先ほどまでと違い、今部屋の中には重苦しい空気が漂っていた。
「……」
『……』
再び静寂が続く。
「……」
『あ、あの……』
「……」
『御免なさい。そんなに怒るなんて思わなくて』
「……」
『えっと、その……ん?』
神様は刀夜の様子がおかしいことに気づいた。反応がなさすぎるのである。
『ちょ、ちょっと?』
「……zzz」
刀夜は寝てしまっていた。しかも先ほどの空気は何だったのだろうかと言わんばかりの爆睡で。
『……』ブチッ!!
刀夜が寝ていることに気づいた神様はキレた。怒りがいきなりの最高峰である。
『コ、コノガキ……』
「zzz」
『起きろ〜〜〜〜!!!』
「!!うわぁ!!!!」
怒り最高峰の神様の大声で刀夜は目が覚めたが、文句を言う前に神様によって何も言えなくされてしまった。無論物理的に、だが
「あだだだだだだだだ!?」
『私が謝ってるのに何寝てるの貴方?』
飛び起きた刀夜に右手でアイアンクローを掛けながら神様は言った。その声からは怒気をとうに通り越して殺気を感じられる。
「痛だだだだだだだだだ」
今度は気絶しないよう加減しているようだがそれがまた刀夜に生き地獄を見せているようである。
『もういい。無理矢理にでも連れて行く』
「痛だだだ、はあ!?ふざけんなぁああああああああああ!?」
刀夜が文句を言おうとしたが握る力を強くされたのでそれ以上言うことが出来なかった。
『さてと、紫の所に行くとしましょうか』
そう言うと神様は空中に浮き始めた。……右手に刀夜の顔面を掴みながら。あまりの威力に刀夜はあっという間に気絶してしまっていた。
「……」刀夜の顔は白目を向いて口を開けながらというかなりひどい状態であった。
神様と刀夜移動中、その間刀夜は何度か目覚めかけたがその度に神様に握る力を強くされ気絶。その繰り返しであった。
神様はとある神社にやってきた。……やっぱり右手に気絶した刀夜の顔面を掴みながら。
『紫〜?連れて来たわよ〜?』
神様がそう言うと何もない筈の空間に亀裂が入った。亀裂はどんどん広がり最終的には人が通れるほどの大きさの穴になった。
「遅かったわね」
その穴から片手に日傘、もう片手に扇子を持った女性が現れた。
この女性こそ神様に刀夜を連れて来るように頼んだ“妖怪”八雲 紫(やくも ゆかり)である。
あとがき
こんにちは、ブレイドです。第2話の修正版をお送りいたしました。ちなみに神様のパンチは軽く200キロ越えの設定です。
手加減してこの威力なのでとんでもないですね。そして刀夜にツッコミスキルが付きました。後々進化するかもしれませんww
そして3話の予告ですが、次の話で刀夜と神様が幻想郷に行きます。そしていきなりオリジナルから始めます。
具体的な案はある程度纏まってきているので生暖かい目で見守っていただきたく存じます。
ではこのあたりで失礼します。ここまで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m