東方幻想郷〜刀夜録10話〜
紫の修行で刀夜はルーミア、チルノを退けることが出来た。いや、チルノは最終的には自爆したのだが(笑)――そしてその一方、刀夜に鼻血を流した顔を見られてショックを受け、走り去ってしまった魔理沙。そしてその魔理沙を探しに行った霊夢。そんな2人は今……
「…………」zu〜n
魔理沙は1人部屋の隅で壁に向って三角座り、落ち込んでいた。しかもその暗さは周りにキノコが生えそうな程であり魔理沙の周辺は最早別の空間と化していた。
「あ、あの……まりさ〜?」オロオロ
魔理沙を慰めると豪語していた霊夢であったが魔理沙を見つけたまではその勢いを保てたのだが予想を遥かに上回っていた魔理沙の様子を見て、早くも自分に彼女を立ち直らせることが出来るだろうかと言い知れぬ不安を抱いてしまっていた。
「…………」
「……ま、魔理沙?」
ZU-Nという擬音が聞こえる錯覚に陥りながらも霊夢は意を決して魔理沙に肩に触れ話しかけてた。
すると魔理沙はまさしく幽鬼の如くゆっっっくりと頭だけを回して霊夢へ向けた。
「……ほっといて」
霊夢はこれが口からではなく、まるで地獄の底から出ているのではないかと思える程暗い声を発した魔理沙に知らず知らずに一歩身を引いていた。意を決した霊夢であったが魔理沙のATフィールドに早くも心が挫けそうになっていた。
「(いや、私がなんとかしないと!!)い、何時までそうしてるつもり!? そりゃあショックかもしれないけど、そのことをウジウジと引きずったって何にもならないでしょ!!」
「…………」
「聞いてるの!?」
再三に渡り霊夢は魔理沙に呼びかけをかけ、自身の主張の全てをぶつけた。
「……霊夢」
「な、何?」
しかし、魔理沙の地の底から響いてきているのではないかと思えるような沈んだ声に霊夢は一歩身を引いてしまった。或いはこの時引くことがなければ霊夢は魔理沙を立ち直らせること出来たかもしれない、だが彼女は身を引いてしまったのだ……もう、霊夢には無理だった……
「……私と同じ状況になってもそんなこと……言えるか?」
「同じ状況……派手に顔からぶつけて刀夜に鼻血流してる姿を……い、嫌……」
霊夢は年齢の割に想像力が豊かなのか、その状況を相当リアルにイメージしてしまい、既にいっぱいいっぱいであった霊夢はあっという間にその顔をクシャクシャにして泣きべそを掻き始めてしまった。それを見た魔理沙は無言で体を部屋の隅から少しずらしもう一人座れるスペースを作り出し、ちょいちょいと手招きをして霊夢をそこへと座らせると……
「「………………」」zuーn
二人に増えた事でより一層暗く重い雰囲気を纏った一角が出来上がってしまったのであった……
閑話休題
「え〜と、どないしたらええんやろ?」
「……さぁ?」
困惑する刀夜に酷く疲れたと言わんばかりの空気を纏った紫は投げやりとしか思えない風であった。その理由は無論目の前で伸びている自爆妖精、チルノの姿が映っていた……
「食べちゃダメなのかー?」
「食べたらあかん」
チルノの近くに座りこんだルーミアがチルノをつつきながらさらっと怖いことを聞いてくるので刀夜は慌てて止めに入った。人喰い妖怪が妖精を食べるのかは分からないがそんな場面は見たくないであろう刀夜をよそにルーミアはあっさりと引き、刀夜の後ろへと回り込みピョンとしがみついた。
「食べたら馬鹿になりそうだからいいわ、食べなくても」
それに妖精よりも人間の方が美味しいしと刀夜の後ろでぼそりと呟くルーミアに一抹の不安と恐怖を抱く刀夜であったが直ぐ様持ち直したのかしがみついているだけのルーミアの足を持ち上げバランスをとる、所謂おんぶの状態を取り出した。当然ルーミアは戸惑いを隠せずに目を丸くしている中刀夜は平然と口を開いた。
「その前に、俺が腹一杯飯食わせたる、やから今は大人しゅうしとけ、な?」
「……うん」
その言葉を聞いて満足気な刀夜の背中でルーミアはほんのりと頬を朱く染め、刀夜の背中にしがみつく力を強めた……その小さな変化はこの場にいた者、おそらくルーミア本人にさえ気付かない程度の本当に小さな変化であった、これがどういう意味なのか分かるのはもう少し後のことである……
「それじゃ、戻りましょうか」
「――“あれ”はどないするんや?」
刀夜は両手が塞がっているため顎で指し示した先にいるのは未だに気絶し、起きる様子も見せないチルノの姿があった。その無垢な表情をみると刀夜には先程まで恐ろしい力を振るっていたとは到底思えず、チルノ以上の強さを誇る者がいるという事に内心戦慄を覚えていた。
『とりあえず連れて行くしかないんじゃない? 無理やり連れて来ておいて放っておくわけにもいかないだろうし』
「そうやな、じゃあ早速運ぶと……」ガシ「……何してんのやルーミア」
「……落ちそうになるから離しちゃ駄目」
今刀夜に何が起きているかというとルーミアが刀夜の両腕を自身の両足を巧みに使いガッチリとホールドしているのである。片や人間の腕力、そして片や妖怪の脚力、その差は生半可なものではなく決して外せるものではない拘束となっていた。
『いいわ、私が運ぶから』
「頼むわ。……ルーミア、そろそろ離してくれへん? そろそろ腕がヤバいんやけど……」
額に脂汗を掻いている刀夜の腕はパンパンに膨れ上がり尚且つ全体が紫色となりかなり苦しそうな状態となっていた。確実に腕に血が回らなくなっているのだろう。
「……もうしばらくこのままで」
「俺が何したんや!? 勘弁してぇな!」
「(なんか、すごく落ち着くのだ……)もう少し、もう少しだけ……」
ヘルプミー! と神様と紫に助けを求めるも顔を向けた途端に二人同時に顔を逸らされた。しかし刀夜は見た。神様も紫も横顔がにやけていたのを……
「(こいつら……覚えとけよ……)ルーミア、とりあえずもうちょい緩めてくれ、ちゃんとおぶったるから……」
「………………うん」
散々迷った挙げ句渋々といった感じにルーミアは足の拘束を緩めた。刀夜は右腕、左腕の順に腕を前に出し、腕を振るい血を流す。当然急速に血が流れた刀夜の腕は熱を発している為おぶさっているルーミアにもそれが如実に感じられることとなる。つまり……
「お尻が熱い//////」
「しゃあないやん! ってそこ! 冷めた目してるんやない!」
ガァーッと牙を向きかねない勢いで睨む刀夜の先には当たり前だがひそひそとや〜ね〜だのロリコンよロリコンだの言いながら冷ややかな視線を向けてくる幼女神と妖怪紫が……
しかしルーミアはお尻と言ったものの実はこれにもわけがあっての事であった。初めは霊夢達と同じ位かと思われたルーミアであったが実際におぶさっている平均的8歳児より大きい体をしている刀夜より更に大きい。大体10歳から12歳位であるがため刀夜は普通には背負えず後ろで腕を組み、その上にルーミアが座るという状態にあったのである。
「はいはい、そういう事にしときましょう。――行くわよ」
未だ軽く冷ややかな目をしている紫と神様は神社へと足を向けた。――その後ろではロリコンの烙印を押された刀夜とギュッとしがみついて離れる気がないらしきルーミアがついて行った。
諦めるんだ刀夜、お前はもうロリコンキャラ決定だ。
「やめぇぇぇえええ!!」
太陽が真上に登り、辺りの様子が良く見渡せる森に少年らしいまだ声変わりすらしていない高めの魂の雄叫びが轟いた。
刀夜達一行が神社に戻り、居間へと通じる廊下へ続く角を曲がった先には思わず声を詰まらせる光景があった。其処には……
「……………………」
居間に入ろうとしたものの直前で力尽きて倒れ伏している現博麗の巫女、博麗 霊華の見ていられない姿があった。その様子に紫を除く者は唖然としたものの唯一動じていない紫がしれっとした風に聞こえているかどうかもわからない霊華に声をかけた。
「あら、霊華帰ったの。ということは里の修復、やっと終わったのね」
「あれだけ派手に壊してたのにもう直ったんか……」
人里の惨劇を思い出したのか刀夜は軽く身震いをしている。そんな中々にカオスな状況の中正気に戻った神様は冷静に博麗の巫女である霊華を観察していた。
(あれが博麗の巫女……確かにかなりの霊力を持ってるようね)
霊華の帰還を紫は悠然と、刀夜は恐怖し、神様は探るように迎えている。そして、全く関係のない状態であるルーミアはというと……
「………………」
ただじっと刀夜の背中に体を隠し、時折様子を伺うようにして倒れ付している霊華を警戒していた。
「ルーミア?」
その不審な様子に刀夜が声をかけた。するとルーミアはしがみつく力を強め、良く言えば刀夜に縋る様に、悪く言えば刀夜を盾にするような体制をとった。少なくとも先ほどまでのような甘える仕草はまるで感じられない状態なのは間違いない。
「う〜、なんかその人間怖いのだ〜」
「霊華は妖怪退治を専門としている博麗の巫女だからね、妖怪の貴女には危険に映るのよ」
「――紫も妖怪やなかったっけ?」
『まぁ……紫だし』
ジト目で紫を見やる刀夜に神様はもはや悟りを開いているかのような口調で刀夜を諭した。その言葉は短く、単調なものであったがその意味深い言葉に刀夜の疑念は氷解のごとく溶けていく。
「ああ、そういうことか、納得出来たで」
未だ数日程度の付き合いとは言え刀夜は紫の力を垣間見ている。いや、それ以前にこの女性が誰かに恐怖しているところなどまるで思いつかないのだろう。全ての者に我を持って接する、まさしく雲のような人物なのだ、今更なことである。
「うふふ、お褒めに預かり光栄よ」
「――それって褒められてるのか〜?」
刀夜の肩の上にちょこんと頭を乗せ、可愛らしく首を傾げるルーミアに刀夜や紫、神様は予め打ち合わせをしていたのではないか思える程揃った動きをとった。
『「「いや、褒めてはないなぁ」わね」』
いや、正しくは刀夜と神様は冷めた表情で、その表情を向けられた紫は少し苦笑いという違いはあるのだが……
「じゃあなんでお褒めに預かり? わけわかんないのだー」
しかしそんな刀夜達の言い回しにルーミアは全くついていけずにいておりその困惑した表情に刀夜達は一気に毒気が抜かれたような気になり今後ルーミアがそばにいる時はヘンに面倒な言い回しはよした方が良いのだなと理解した。毎回こんな行動をとられたら色々なものが漏れだしかねないのである。
「もう少し大きくなったら分かるんとちゃうか……ああでもこのままでいて欲しいわ、純粋でいてくれ」
癒し系というのだろうか刀夜の中ではルーミアの言動から幻想郷に来て唯一と言っても過言ではない心の癒やしを感じているのである。やはりロリコンだろ。
「むぅ、これでも刀夜よりはずっと年上なんですけど?」
「――はぁ!? う、嘘やん! 嘘やと言ってぇな!!」
度重なる刀夜の子供扱いの言動に遂にルーミアが刀夜に驚愕の事実を刀夜に突きつけた。神様や紫が見た目以上に年が上なのは分かる。言葉や雰囲気といったものが所謂“大人”のものなのだ、故に刀夜も自身を存分に前に出せるのだが何分腹の探り合いのようなやり取りを繰り返しているのだ、中途半端に“大人”である刀夜はそれに疲れもする。そんな中で見つけた精神の安らぎもまた“大人”である可能性が出てきたのだ、刀夜の驚きの度合いは尋常なものではなかった。
「妖怪や神族を見た目で判断しない方が良いわよ?下手したら殺されるから☆」
「☆付けるなや、ええ年なんやから」
ルーミアの時とは打って変わってまるで多重人格のような変貌した刀夜は極寒をも思わせる程に冷めた目と言葉を投げかけた。しかし、紫の言葉で冷静さは取り戻せたようである。しかし彼は果たして気付いているのだろうか、自分が特大の地雷を踏んでいることに……
「……忠告したそばから言ってくれるじゃない……地獄見せるわよ?」
しまったと刀夜が自覚した時、既に遅く大妖怪の凄まじい殺気が刀夜へと襲いかかった。刀夜にしがみついているルーミアは声も出せずに刀夜の背中に体を隠した。だが刀夜を守ろうとしているのか妖力を放出し、刀夜の体を覆っていた。しかし所詮は薄い膜のようなもの、実質的な防御力は殆ど無く、刀夜は紫の殺気をひしひしとその身に受けていた。
「ルーミア離れぇ……俺は平気やから」
「んー!!」
しかしルーミアは離れない。正直に言えば逃げ出したい。だがそれは刀夜を見捨てる行為である。ルーミア自身何故かはわかっていない、わかっていないながらも彼女は刀夜を見捨てることは出来ないと感じていたのだ。
『はぁ……じゃあ何歳か言ってみなさいよ紫』
最初は刀夜の失言なのだから関与するつもりのなかった神様が助け舟を出した。(後に巻き込まれたルーミアを助ける為だと言っていたが……)
神様が出てきたことで紫も矛を収め始めたらしく徐々にその殺気を収めだした。
「そんなに歳じゃ……ないわ」
『どうだか、刀夜に指摘されたぐらいで癇癪起こすってことは自分が年取ったこと、自覚してるんじゃないの?』
「な、何よ? 女性の年齢を聞くなんて本当に無粋なことよ!?」
神様の指摘が鋭く突き刺さったらしく紫は半ば自身のキャラを壊しかねない勢いで狼狽し良く分からない言葉をまくし立てている。
紫の殺気が消えたことで刀夜やルーミアも心の内でホッとしていた。しかし未だ二人の心臓は早鐘のごとき速さで動いており平常となるまでは今少しほど時間を要した。
『ほら、言ってみなさいよ』
「嫌よ。それに貴女は私よりずっと上ではなかったかしら?」
『お生憎様、私は“今”はまだ数百歳程度よ、あんたはもう数せ』
「それ以上口を開いたら私は貴女の口を縫うわ。それに“中身”は万をいっt『だらっしゃぁあああ!!』貴女もやっぱり気にしてるじゃない!!」
既に十数分は続いているであろう恒例の紫と神様の口喧嘩、それはつい先程まで修復不可能なのではと思わせる程の溝の空いた者達とは考えられない程低レベルなものであった。
「良いじゃない! 言わなくたって! 女性なら誰だって自分の年を言いたくないものなのよ!!」
「私は気にならないけど?」
ピタリ、まるで時が止まったかのように紫と神様の動きが止まりギギギとかがみ合わせの様に首だけを横に向けた。光の消え失せた瞳がまっすぐに見据えた先には刀夜の頭上で眠気眼なようであるこの場にいる女性の一人であるルーミアがいた。ちなみに霊華はピクリとも動かず刀夜だけが死んでいるんじゃないかと心配していたのは後に判明することとなる余談であった。
『……ちなみに何歳なの?』
「1000歳位からは数えてないのだ〜」
ルーミアの暴露によって再びこの場の時が止まった。唯一違いがあるとすれば動きを止めた人物は“三人”であったということであろうか……
「……マジか?」
「えっへん」
意外過ぎた、刀夜の予想を遥かに上回るルーミアの年齢に刀夜は戦々恐々としていた。神様もほとんど同様で意外すぎるルーミアの報告に数秒思考停止状態に陥っていた……そしてただ一人、紫だけは違っていた。驚くこともなく、かといって戸惑うわけでもなくただただ無言でルーミアについて考え込んでいた。
「……それは妙な話ね、1000年も生きているにもかかわらずその程度しか力がないのはおかしいわ」
「そのリボンよ」
その問いへの答えは意外にも今の今まで倒れ伏し、生きているかも危ぶまれていた博麗 霊華から発せられた。
「あ、生きてたんや?」
「――勝手に殺さないで、というより貴方達少し位は心配してくれてもいいんじゃないの?」
心配こそしていたものの決して助け起こそうとしなかった刀夜や全く話題にすらしなかった紫や神様にムスッとした表情でいる霊華であるが未だ起き上がる気配は見当たらない。まだ立ち上がる程の力が戻っていないらしい。
「まぁ自業自得やし。……でリボンが何やって?」
「まぁ、そうなんだけど……ブツブツ……そのリボン、正確にはリボンじゃなくて封印のお札なのだけれど随分昔に博麗の巫女が施したものみたいよ」
霊華の言葉を聞き、神様は注意深くルーミアのリボン……いや、封印の御札を観察した。刀夜には感じとれないが神様の眼にはボンヤリと見覚えのある波長の霊力が映ったであろう。
『……みたいね、そのリボンに残ってる霊力が貴女のと近いものがあるから』
霊華と似ているものの異なり霊力、即ちそれが指すのは前世の力か……同門の術式かである。
「へー、そーなのかー」
……一瞬、これを言ったのはルーミアかと思われた。だが霊華から視点を動かした先には餌を頬張るハムスターようにプクっと頬を膨らませているルーミアとそれを苦笑しながらも宥めようとしている刀夜の姿であった。
「それ私の18番〜〜!!」
「すまんすまん」
小難しい話飽きたのかルーミアは次第に刀夜へと会話、もとい彼女なりのコミュニケーションをとり始め、刀夜もそれに応じた。その時チラリと紫へと目線で合図を送る事は忘れない。刀夜とてルーミアがどういう存在なのか気にはなるのだ。刀夜の意図は紫に伝わり、軽い首肯の後再び霊華へと顔を向けた。
「先を進めて頂戴」
「……その御札にはその妖怪の妖力の他に“何か”を封印しているわね、……流石に何を封印しているかはわからないけど」
『それだけわかるだけ凄いわよ。私には何が封印してるかなんてわからないもの』
何てことはない風に霊華は言うものの実を言うとかなりとんでもないことであった。ルーミアのリボンが御札ということは良い、しかしその内容を一部とは言えただ見ただけで看破するなど到底出来ることではない、事実神様でさえ言われるまで封印の事など全く気づいていなかったのだ。その卓越した観察眼は完全に人間の域を超えていた。
「――私も伊達で博麗の巫女をやってないのよ。それに何代前か知らないけど自分の祖先の仕事がわからないわけないでしょう?」
『なるほど、ね』
神様は先ほど同様本当にに何ということはないといった風の霊華の言葉に“ひとまず”は納得したようだが内心では如何な心境であったのだろうか……
「むぅ〜」
「あだだだだ、ちょ、痛い! 痛いって! 俺を食おうとすんなぁあああ!!」
そんな心境の神様を余所に刀夜は未だに頭上から離れようとしないルーミアに某噛みつきシスターみたく、これでもかと小さな口を大きく開いた状態で頭を丸かじりされていた。
「ほははふいはぁ、ほうほふははへふ(お腹すいたぁ、もう刀夜食べる)」
「やめい!?」
一体どの様にして行っているかは分からないが、とりあえず双方の間では意思の疎通が出来ているらしかった。
「ちょっと? 煩いわよ」
「食われかけとるんや!!」
『みたいね』
「軽!? 何でそない軽いん!?」
その間もルーミアは刀夜の頭をガジガジとまるで大きな氷をかじるように噛みついている。人間の頭には多くの毛細血管、神経が集中しているところだ、痛くないわけがない。そんな重要ポイントを妖怪であるルーミアに噛まれるということがどういうことか、また、それは刀夜にとってどれほど危険に映ったことか……
「カジカジカジカジほれはまおはえ〜はふはひひ〜♪(俺様お前〜丸かじり〜♪)」
「歌っとる!? 俺の頭歌いながらかじっとる!! ちょ、はよう助けてぇな!?」
本来なら刀夜自身が引き剥がせば良いのだろうが今の刀夜は両腕をルーミアによってロックされている。したがって紫、神様、霊華に何とかしてもらわなければかじり娘が剥がれることはないのである。
「まぁその娘も本当に食べる気はないみたいだしねぇ、コミュニケーションみたいなものと思いなさい」
すっと力なく立ち上がった霊華に刀夜は一瞬でも期待したことに後悔した。……この女が娘のため以外で誰かを助けるわけがなかった。と
「……これがコミュニケーション? マジで痛いんやけど」
小さな期待すらも打ち砕かれた刀夜は最早ルーミアを引き剥がすことをあきらめ、ルーミアのやりたいようにすることにした。霊華の言う通り、本当に食べる気ならとうに自分は骨になっているだろうことに気がついたのだから。
「……はふ」
「お? 噛む力が弱くなった」
するとやはりというかルーミアは噛みつく力を抑え、ほとんど甘噛みに近い力となった。先程までのは彼女なりのジョークであったのかもしれない。
「それにしても、妖怪にここまで懐かれるなんて……貴方一体何したのよ?」
「いや、これといって特には……」
霊華にジト目で見られる刀夜であるが、本人には本当に心当たりがなかった。一度は命(刀夜のみだが)をかけた死合いをした仲である。懐かれる要素など見当たる余地もない。
『んなもん本人に確かめたら良いでしょう――貴女は何故に刀夜に懐いてるのよ?』
その方が手っ取り早い、面倒な事が嫌いな神様の性格である、推測云々よりルーミア自身に直接理由を聞いてしまった。
「ん〜、わかんない。なんとなく刀夜のそばにいると落ち着くから、かな?」
「なんで落ち着くんや?」
仮にも死合った仲やで? と言う刀夜だがルーミアもまた良く分かっていないらしく眉をひそめてウンウン考え込むばかりである。
「だからわかんないんだってば」
「ふ〜ん、まぁ、ええけどね、ところでいつまでかじってるつもりや、そろそろ止めい」
「ひゃだ(やだ)」
考える事に飽きたのかルーミアは再び刀夜の頭をハムっという擬音が聞こえそうな可愛らしい噛みつきを行ったものの流石に頭のよだれが気になってきたのかルーミアは応じなかったものの刀夜はそれを戒めた。
そんな二人を見て紫と神様は部屋の隅で内緒話のように小さな声で話し合っていた。
なお、神様が連れていたチルノは部屋に入った時からずっと隅に寝かされている。
(紫? どう思う?)ボソボソ
(どう思うも何も……確定でしょうね)ボソボソ
二人は神社に来るまでの時から思っていたのだ、ルーミアの様子がただ懐いているだけでは決してないと……そして、それは遂に確信へと至ったのだ。ルーミアは刀夜に惚れたのだと……
(霊夢、魔理沙に続いて3人目……まだ幻想郷に来て3日よ? どうなってるのよハーレムでも築く気なんじゃないの?)ボソボソ
(人柄というか……惹き寄せるものがあるんでしょうね子供に好かれやすいような)ボソボソ
やはりロリコンなのか……そんな空気が二人の間に漂い始めた時、その間に割り込んで来た者がいた。
(ちょっと? 今霊夢っていった!?)
紫と神様が如何にも面倒くさそうな表情をしたがそもそも霊夢の名前が出たことで超バカ親である霊華が黙っているワケもない、そして霊華は半ば勝手に内緒話に参加し始めた。
ルーミア
(はぁ……あの妖怪が霊夢や魔理沙と同じ状態にあるかもしれないってことよ)
(霊夢と同じ? どういうことよ? というか魔理沙って誰よ?)
何の事かわからないといった風の霊華に紫と神様は再び揃った表情をしている。今度のは呆れた表情ではあるが……
(まさか、気づいてないの? あと魔理沙は刀夜、霊夢の友達よ)
(つまり、霊夢と魔理沙とルーミアの三人が刀夜に惚れかけてるってことよ)
紫がそう言った瞬間、霊華がその動きをピタリと止めた。そして、時間が丁度五秒経ったその時、再び霊華の時が動きだした。
「なんですってぇぇぇえええ!?」
霊華は紫と神様からの機密情報(霊夢、魔理沙にとってはであるが)に思わず声を荒げてしまった。そんな霊華に刀夜は驚いてそちらを見やり、紫達が何かしてたのを察し、ルーミアは噛むのを止めて刀夜の後ろに隠れてしまった。
「『声が大きい!!』」
「霊夢が刀夜を? ……霊夢に恋人なんてまだ早い、早すぎるわ!!!」
急に大声を出した霊華に慌てて止めに入るも霊華の耳には何も届いておらず、彼女は完全に自分の世界に入り込んでしまっていた。
「き、聞こえてないわね」
「――なぁ、何か嫌な予感がするんやけど……」
霊華の様子に既視感を感じたらしい刀夜は遠巻き、しかしそれでいて冷や汗をダラダラと掻きながらも紫達に話かけた。
『その予感は大当たりね、いい勘してるわ』
これから起きるであろう事態を想像しているのか、神様は何処か遠い目をしている……それを見た後、霊華の方を見た刀夜は……直ぐに逃げなかった事を後悔した。
「………………………………………」
「あ、こらあかんわ(前も同じセリフ言うたなぁ……もうお約束なんやろか?)」
「ウフフフフ、レイムガ、レイムガトウヤヲ?……、ミトメナイ。ゼッタイミトメナイワヨ……」
「み、巫女が壊れたのだぁ〜〜〜〜!?」
半泣きであるルーミアの絶叫が部屋中に響き渡り、刀夜の耳に突き刺さった。しかしそれが功をせいしたのか刀夜はいち早く正気に戻り、今の現状の打開策を懸命に模索……その結果
「あれを止められるのは霊夢や、霊夢を連れてこな……」
「私達が足止めしておくから、刀夜は早く霊夢を連れて来て!!」
「あいよ!」紫の言葉を素直に受け止め、刀夜は霊夢を探すために居間から走り去って行った。
「私も行くのだ〜、というか置いてかないで〜〜〜〜!!!」
その時の勢いで刀夜の背中から剥がれ落ちたルーミアはゆらりと動く霊華の狩り人の瞳を抹消面から見てしまい、心の芯から恐怖してしまったルーミアもまた、刀夜を追いかけて部屋から去って行った。
『――で、足止めって言ったけどどうするのよ、何か考えがあってのことでしょうね?』
「……ないって言ったら?」
はぁ!? と言いながら紫の方を向く神様だが紫の冷や汗ダラダラの表情を見て冗談などではなく、本当に策を思いついていない事を悟った。目の前の人間は、紫ですら危うい存在であると、幻想郷に来たその世、霊華は紫を文字通り吹き飛ばす程の力量であることを……
『どうしても無理なの!?』
しかし万が一にもという事もある。神様はそれに賭ける為に神様は懸命に紫に策を講じるように申し立てるものの……
「んー……無理かも☆」
『だから……年考えなさいって』
はぁ……と大きく溜め息と共に神様は一気に脱力してしまった。今までひどく真面目に考えていた事に呆れてしまった……
「ひ、酷いわ。心はいつまでも17歳なのに。……よよよ」
『はっきりと言うわよ?キモいわ』
「な、何ですって!?」
紫を睨んで悪態を付く神様に紫は簡単に挑発に乗る。刀夜がいる時には決して見せなかったであろう憤怒の表情、それはいたく珍しい表情であり恐らく心の友人となった神様にしか出せない紫の一面、だが……
「チャバンハスンダノカシラ? モウトオシテモラウワヨ? ……コタエハキイテナイケド」
「『茶番じゃn』」ピチュピチュ〜ン。
それは今の状況において何一つ役に立たず、霊華という存在の前では全くの無意味なのであった……その結果、霊華の足止め時間はおよそ……20秒。
「霊夢はどこやぁあああああ!?」
「待って〜〜置いてかないでぇええええ!!」
「「……………………」」zu〜n
「トウヤ、レイムハゼッタイニワタサナイワ。ダカラ……ウフフフフ」
今此処に、尋常ではないカオスな空間が誕生した。まともな精神の者はただ一人としておらぬ空間……刀夜は霊華に捕まる前に霊夢を見つけられるのか?霊夢と魔理沙は無事、立ち直れるのか? ルーミアは先を行く刀夜に追いつけるのか? そして、霊華は刀夜をどうするつもりなのか? その全ては……次話に続く。
第11話に続く
おまけ
霊華が紫、神様を吹き飛ばして居間を出て行った二、三分程しか経っていない内に居間で動きだした者がいた……
「う、う〜ん。……はっ!? 此処は誰!? あたいはどこ! って此処……どこ? そもそもあたいったら何でこんなところで寝てたんだっけ?」
H、もといチルノ思考中。だが所詮はHである。考えてる事は9秒で終わった。
「あ、思い出した!! 確かあの人間としょーぶしてたんだった。……あれ? あの人間は? ……はっはぁ〜ん。なるほどね〜あたいのさいきょーなところを見て思わず逃げ出したのね」
自爆した際に顔面に氷をぶつけたチルノはどうやら気絶直前の記憶が曖昧となり、あまつさえ自分に都合の良いよいに改変すらしてしまっていた……
「ほんとあたいったらさいきょーね。……でもあの人間も結構強かったなぁ……よし、あの人間、とー……にゃだっけ? 」
いや、頭を打たなくても変わらないのかもしれない……しれないのだか……彼女の為にも頭を打った事にしておこう……
「とーにゃ!! 貴方をライバルと認めてあげる! 感謝しなさいよね!!」
今この場に刀夜がいたら非常に有り難迷惑な顔をすること間違いなかった……そしてチルノが自身の氷の羽が溶けるのではないかと思える程熱くなった次の瞬間。
ぐ〜〜
「あ〜お腹すいちゃった。帰って大ちゃんとご飯食べよっと。ついでにとーにゃの話もしよっと」
勝手なことを散々言った後チルノはパタパタと羽を前後に震わせ、スッ〜と何処かに飛んで行った。ちなみに彼女が住処にたどり着いたのは十時間も後のことであり、泣きべそかきながら辿り着いた頃には既に刀夜のことを忘れてしまっていたのであった……
あとがき
こんにちは、ブレイドです。ようやく、10話を投稿致しました。10話はルーミアフラグとカオス空間の誕生を書きましたwwオリキャラである霊華さんのキャラが色々と濃くなってきましたww
次の11話でもっと物語の中心となることが始めるつもりなので、これからが頑張りどころです。そしておまけですが、やっぱりチルノのHな所は癒されますねぇ。……いや私はロリコンじゃあないですよ? 子どもは可愛いから好きですけどね〜wwそういえば妖精ってお腹すくのでしょうか?それではこのあたりで、ここまで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m