東方幻想郷〜刀夜録〜第8話 後編


一方小太刀を持って行くために鞄を置いてある部屋へとむかっている刀夜はというと
 

「ええっと、確かこの部屋やったな」
 

先程まで眠っていた部屋の前までやってくるとおもむろに襖を開くと部屋の中に入った。
目当ての鞄は部屋の隅に追いやられてはいたがキチンとあった為に安堵の声を漏らした。
 

「おお、あったあった。いやぁ最初に寝泊まりした部屋になかったからもしかしてと思たけど良かったわぁ見つかって」
 

神様か紫が運んどいてくれたんかなと思いつつ鞄に手を掛けようとした刀夜の目に“とある光景”が入ってきた。
 

「「あうあう/////」」
 

未だに羞恥心で悶えている霊夢と魔理沙の姿である。かれこれ一時間はその状態だったのか刀夜達が去った時と体勢が変わっていない。
 

「……てい」
 

「「あいた!?」」
 

里の茶屋で紫がやってみせたことを思い出した刀夜は二人の頭を叩いて正気に戻らせることに成功した。
 

「おお、意外と上手いこといったな」
 

「なにするのよ……」
 

霊夢は叩かれた頭をさすりながら恨めしそうな顔で刀夜を問い詰めるが対する刀夜は溜め息を一つ零して二人に事実を突きつけた。
 

「ずっとあうあう言いながら混乱してたから叩いて戻らせることにしたんや」
 

「う、嘘だろ?私らそんなことしてたのか?」
 

「ああ、してたで」
 

信じらんないと表情をしている魔理沙であったが少々言いずらそうにしていた刀夜の一言に撃沈されてしまった。
 

「そ、そんな……? なにしてるの?」
 

霊夢もまた、自分の痴態にショックを受けていたが何やら刀夜が鞄を開いて何かを探していることに気づいた。
 

「ん〜? 紫が実戦で俺を鍛えるそうやから武器をな〜。お、これこれ」
 

刀夜が鞄から白木の鞘と柄の小太刀を取り出すと即座に半身の体勢を取り、抜き放った。
霊夢と復活したらしい魔理沙はいきなりのことに驚き、部屋の隅にまで後ずさっている。
そのことに気づいた刀夜は急ぎ小太刀を鞘に収めて二人に謝罪した。
 

「じ、実戦って……何と戦うんだ?」
 

「まさかあのスキマ妖怪とじゃあないでしょうね!?」
 

「さぁ? どうやろ? 後で聞いてみるわ。……霊夢と魔理沙も一緒に行くか?」
 

刀夜がそう言うと霊夢と魔理沙は一瞬お互いの顔を見て大きく頷いた。
準備の整った刀夜達は居間へと向かっているその途中で魔理沙が何かを思い出したように声を荒げた。
 

「そういや刀夜の能力っていったい何だったんだ?」
 

「あれ? 知らんかったんか? [刀を創り出す程度の能力]やとさ」
 

「……何? それ」
 

「なんでも霊力と魔力を超圧縮して刀にしとるんやと」
 

「「???」」
 

刀夜の説明に二人は全く理解出来なかったのか頭上に疑問符を浮かべている。
そこで刀夜はまだ二人が8歳であることを思い出しより分かりやすい表現がないものか思考を巡らせた。
 

「(あかんなぁさっきまで紫と神様と話してたからどうも上手く話せへん)あ〜つまり……固めてるんよ、霊魔力を」
 

「「……へぇ」」
 

二人の反応はかなり薄い、というか理解出来ていないのだろう、現に二人共目が泳いでいるのだから……
そうこうしている内に刀夜達は居間へとたどり着いた。結局刀夜には上手く説明することが出来ず、紫に丸投げする事になったのだが……
 

 
 
 
 

「紫〜準備終えたで〜って何や? 何かあったんか?」
 

刀夜の眼前には不機嫌にそっぽを向いている神様とそれに申し訳なさそうにしている紫というなんとも奇妙な光景があった。
 

『ああ、貴方達か……気にしなくても良いわよ。ちょっと紫と揉めただけだから』
 

神様の口調はまだ少し荒い。どうやら刀夜達が居間へと来るほんの少し前まで揉めていたらしい。そのことに刀夜は驚いていた。
自分が出て僅か10分程だというのにその間に目の前の二人が、
いや、見る限り神様が紫に腹を立てる“何か”があったというのだから……
 

「な、何があってん?」
 

『――紫が何か隠してるのを問い詰めたんだけど……まだ話せないの一点張りなのよ。それでちょっと』
 

そう言いながら神様は横目を紫を見やっている。
紫もそのことに気づいているようだが話を逸らす為に刀夜達と入れ替わり廊下へと足を運んだ。
 

「……じゃあ表に出ましょうか」
 

「ちょ、おい何があってん!? 紫!」
 

刀夜は足早にその場を立ち去った紫を追いかけて行き、
困惑状態の霊夢と魔理沙も2、3度神様と廊下を見比べていたが最終的には刀夜の後について行った。
後に残された神様は一人先程まで行っていた尋問を思い返していた。
 

『…………』
 

 
 
 
 

(……ごめんなさい、まだ言うことは出来ないのよ)
 

(はぁ!? まだ隠し通すつもり!? 私に誘拐までさせておいて肝心のことは何も教えないの!?)
 

(本当にごめんなさい。今はまだ……)
 

(またッ! もう良いわ、話したくなければ勝手にすれば良いわよ!)
 

(いつか、来る時が来れば話すわ。だから……それまで待って)
 

 
 
 
 

『そういえば、紫があそこまで頑なに話したがらないなんて初めてね……』
 

誰もいない居間で神様はポツリと呟きだした。何かを思い出すように、何故自分はこんなにも腹立てていたのかを考える為に……
 

『思えば紫と出会って二千年以上経つけどこんなにまで怒ったことなんてなかったなぁ』
 

数年、長い時は数十年以上会わなかったり逆にずっと共にいたり、そんな関係だった筈なのだ。
しかしとある時期から急激にその関係は変わってしまった。
 

『そう、紫が幻想郷の管理者となった時から』
 

それを境に紫はあまり外の世界に現れなくなり、神様は一人でいることがおおくなった。
時々スキマから顔出して宴会はしたりしたがそれ以外で出会うことはまずなかった。そのことに神様は深い寂しさを感じていた。
 

『紫以外にも友人はいたけど、紫以上に長くて……話していて楽しいのはいなかったから』
 

紫は何時も変わらず底が知れない雰囲気を醸し出しており、時折使う謎な言い回しや例えなどは神様を楽しませる良い刺激となっていた。
 

『その紫があんなに弱々しくなってるなんて……』
 

神様の知っている紫は何時だって強く、気高く、我が道を通していた。それ故に迷いを生じている紫の姿を許すことが出来ない。
 

『……はぁ、なんだ、そういうことなの』
 

ようやく何故自分がこんなにも怒りを感じていたのか理解した神様の表情はすっきりとしたものである。
 

『さてと、私も行くとしましょうか。紫に言うこともあるしね』
 

そう言うとスッと立ち上がり紫達がいるであろう外へと足を進めた。
 

 
 
 
 

「紫! いい加減何があったか教えろや! 一体何があったんや!」
 

「しつこいわよ、私は話す気がないと何度言わせれば気が済むのかしら?」
 

もう何度このやり取りをしたのかわからない。刀夜はひたすらに事の説明を求めるが紫は一向に話そうとしないのだ。
そして刀夜達から少し離れた所では霊夢と魔理沙がどうしたら良いものかとオロオロとその場をウロウロしており、
この場に混沌とした空気が渦巻いている。
 

「ッ! 強情やな……なら!」
 

刀夜は極短刀を右手、小太刀を左手にそれぞれ構えた。
本気で攻撃する訳ではないがそれなりの対応をさせてもらうという意思表示のつもりなのだ。
しかし、それは予想外の出来事によって阻まれることとなった。
 

『そこまでよ。紫がその気にならなくても貴方なんか一瞬でミンチに出来るわよ?』
 

その声の主に刀夜は勿論のことながら紫も目を見開いている。
霊夢と魔理沙に至ってはもう状況についていけず、倒れる一歩手前まで精神的に追いやられている。
 

「あ、あんた! 何で此処に……」
 

「…………」
 

刀夜は神様の様子から今しばらくは此処へ、紫の所へと来ないだろうと思っていたらしい。
紫もまた同じ事を思っていたのかその表情からは驚愕を隠せないでいた。
 

『私が来たらそんなにおかしいの? 良いじゃない別に来たって』
 

先程までの不機嫌は何処へ行ったのかと言いたくなるほど神様は普段通りの口調で真っ直ぐ紫の方へと向かっている。
 

「――貴女、どうして……」
 

紫が目を見開いたまま神様へと問い掛けた。すると神様は急にその目を鋭くし、その視線で紫を貫いた。
 

『勘違いしないで、私はまだ紫を許した訳じゃないわ』
「ッ! それは、そうでしょうね。私は貴女を裏切ってしまったに等しいのだから本当にごめ『ただ』!?」
 

紫が再び謝ろうとしたその瞬間、神様が半ば叫ぶように紫の言葉を遮る。
そして紫が何かを言う前に一気に自分の言いたいことをまくし立て始める。
 

『ただ私も、少し言い過ぎてしまった所もあるから、反省の意味も兼ねて……待つことにするわ、紫が話してくれる時まで』
 

「――え」
 

『二度は言わないわよ』
 

茫然自失している紫を神様はそう言い終わるとすぐさま紫に背を向けてしまった。しかしよく見ればその耳は真っ赤な茹で蛸になっていた。紫がその事に気づかない訳がなく、ほどなくして彼女の顔は満面の花が咲き誇ってたのであった。しかし惜しいかな、神様のその真っ赤な顔も紫は満面の笑顔もそこで行われていたこと全てが離れた所にいた刀夜達三人からすれば丸見えだったのだから……
 

「「「……」」」ポカーン
 

『………………み、見るなぁ!!』
 

ツンデレ乙ww
 

 
 
 
 

しばらくして、ようやく全員が落ち着いたらしく話は刀夜の実戦修行へと移り変わった。
 

「それで俺は何と戦えばええんや?」
 

「最下級妖怪である“毛玉”と戦わせるつもりよ」
 

“毛玉”という単語に刀夜と神様は頭上に疑問符を浮かべているが霊夢と魔理沙は渋い顔をしている。
 

「“毛玉”かぁ、素人の刀夜にはきつくないか?」
 

それどころか魔理沙は“毛玉”は厳しいのではと言ってきたのだ。その表情から“毛玉”とは中々に厄介な妖怪らしいことがうかがえる。
 

「刀夜なら大丈夫でしょう。じゃあ呼ぶわよ」
 

何を根拠に言っているのかはわからないが、紫はピュイーという高い音の口笛を吹いた。
するとどこからともなく何やら白くて丸くて毛むくじゃらな物体が現れた。
 

「……なるほどなぁ、確かに“毛玉”や」
 

『そうね、これは“毛玉”以外の何者でもないわ、でも』
 

「『何、この顔は!?』」
 

そう、“毛玉”には顔があった。そりゃあ妖怪とはいえ生物だから顔があってもおかしくはない。しかし全部これ→(゜Д°)はないだろうww
 

「おい! 何だこれは!?」
 

「『?』」
 

だが“この光景”に異論を唱える者がいた。……魔理沙である。彼女は最早飛びかかる勢いで紫に詰め寄っている。茫然自失としている霊夢も“この光景”に顔面を蒼白にしている。しかし言い詰め寄られている紫は何を言っているといった顔で魔理沙を見据えているだけである。
 

「何って、“毛玉”以外に見えるかしら?」
 

「そうじゃなくて、数よ数!」
 

不思議そうな顔をしている紫に指摘をしてきたのは魔理沙ではなく、正気に戻ったばかりの霊夢である。
そう、紫が呼んだ“毛玉”の数はゆうに50を超えており、最早埋め尽くされていると言っても過言ではない。
 

「刀夜ならこれ位いけるでしょう?」
 

「ん〜そやね、多分いけるなぁ」
 

語尾が疑問系ではあったが紫の口調、自信に満ちあふれた顔は微塵も疑っておらず、
刀夜もまた、のんびりした雰囲気の纏いつつ紫の問いに肯定を返した。
 

「「うそ!?」」
 

「ほんまほんま、動きも遅いし単調やし」
 

そう言うと刀夜は再び右手に極短刀、左手に小太刀を構え、“毛玉群”を見据えて突撃の態勢をとる。
 

「いっちょやりますか!!」
 

足に溜めた力を最大限に解放し、“毛玉群”に向って風の如く駆けだした。
                                                              
 

第H話へ続く
 

あとがき
こんにちはブレイドです。8話の修正をうPしましたが……
長ぇww元は5000ちょっとだったのに13000程になっちまいましたよ……
いや、設定増やしたし地の分の描写増やしたけど自分でもビックリなくらい増えました。
もっと長く書いている人もおられますが自分の中では快挙なんです、思わず前後編に分けました。
この話だけ超長くなりましたwwまぁ重要な設定だし仕方ないですよね?
では次回予告です。
次話では刀夜の戦闘シーンを書きたいと思います。そしてあのキャラも登場の話にするつもりです。
レギュラーキャラになる予定ですのでお楽しみにww
それではこのあたりで、ここまで読んでいただきありがとうございます。m(_ _)m








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