かれこれ、海鳴町に居座って早十年。幾度となく死にそうな目にあい、ボロボロになるまで闘ってきた日々。
それと同時に、様々な人と出会った。それが、俺という人間に“居場所”を作ってくれた・・・。
ただ、今回ばかりは俺も困り果てていた。なんで孤独の剣士たる俺が・・・・・・・・・日本の伝統ともいえる・・・・“ヒーロー”にならなければならなかったのか？
全てはあの日・・・・・そう、二人の妹分とその子分が捕らわれたという報告を受けた・・・・あの日だった・・・。
To a you side StrikerS −通りすがりのDEN-O−
【Side良介】
「うーし、あと少しで終わり・・・っと」
「お疲れ、良介君」
洗い物を片付けていると、レジにて本日の収益の計算をし終わった桃子が声をかけてきた。あの日出会ってからもう10年経つのに、今だに若々しいその美貌には、さすがの俺も驚きは隠せない。
「おう、終わったぞ桃子」
「助かるわ〜本当に。ねぇ良介君、どうせだから正式に翠屋を継がない？」
「・・・普通は息子か娘に継がせるだろ？」
「うん。だからお願いしてるよ。目の前の可愛い息子に」
「それは過去に使ったからやめろ」
なんか、数年前にもこんなやりとりがあったような・・・・まぁいい。
「にしても、なのはは相変わらず仕事か。まぁあいつももう19だから別にいいか」
「う〜ん。桃子さんとしては、良介君となのはでこの翠屋を継いで欲しかったんだけど」
「・・・・さらりと俺をなのはの婿にすんな」
「あら、なのはが良介君に好意を持っているのは、見え見えだし」
そう言ってニコニコ笑う桃子。正直、なんかむかつく・・・。
「ねぇ、良介君はなのはとは恋人にならないの？それともフェイトちゃん？あ、家庭的な面ではやてちゃんかも」
「・・・どーして俺を結婚させたがる桃子よ」
「ん〜・・・だって、息子の晴れ姿は見たいから♪」
「だから同じネタは二度も振るな！！」
あ、危ねえ危ねえ。このまんまじゃ桃子のペースに巻き込まれっぱなしだ。とりあえず、なんとか話を・・・。
俺様の素敵な脳みそから、なんとか話題を出そうとしていると、突如頭の中に念話が響いてきた。
『今どこですかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！？』
「どわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！？」
とんでもない大声に、俺は思わずひっくり返った。桃子が驚く中、俺は声の主である“ミヤ”に怒鳴り返す。
「何いきなり大声かましてやがる！！俺の鼓膜が吹っ飛んだらどうしてくれるんだ！？」
『そんな事言ってる場合じゃないですーーーー！！な、なのはさんとフェイトさんが』
「なのはとフェイトが、どうしたんだ？また派手にやったか？」
大したことでもないだろうと、俺は軽く聞いていた。しかし、次の一言で、全てが凍った。
『なのはさんとフェイトさんが・・・・・・・・・・敵さんに捕まっちゃったんです〜〜〜〜〜〜〜〜！！』
―――あの二人が、捕まった？
俺の思考は十秒ほど凍ってしまっていた。しかしすぐに元に戻り、ミヤに問い詰める。
「ど、どういう事だ！？あの管理局の白い悪魔と黒き死神が捕まっただと！？冗談にも程があるぞ！！」
『冗談じゃないです〜〜〜！！機動六課スターズとライトニングに配属された新人が捕縛されて、投降させられたんです〜〜〜！！』
・・・なるほど。確かにあいつ等二人は面倒見がいいしお人よしだから、仲間のために捕まった・・・か。
「・・・っておい。だとしてもまだはやてがいるだろうが」
『はやてちゃんは、現在どう隠密に潜入出来るかのルート検索で精いっぱいです〜〜〜！！それで、はやてちゃんからリョウスケに応援を頼まれてほしいと言われてるです〜！！』
「・・・助けにいきたいのは山々だが、あいにく俺はお前との契約が切れて融合できん。それに、魔力が低いかつデバイスのない俺がいったところで、どうにかなる問題じゃ・・・」
苦虫をつぶすような表情になっていくのがわかる。そんな中、そんな沈黙を破る声が聞こえた。
『良介！！』
「・・・はやてか？」
『デバイスの件やけど、それなら問題あらへんよ』
「・・・何？」
『いずれ良介がこっちに配属された時のために、シャリオに頼んで良介用デバイスを作ってもらってたんよ』
「・・・激しくツッコミたい点があるが、今は我慢しよう。けど、俺に使えるのか？」
『良介用にしてるんやで、問題なしや！ただ・・・』
「ただ？」
『外見が・・・・・・ねえ』
「は？何言ってんだお前。デバイスに外見もクソもねえだろうが」
『うーん・・・まぁ、それは使えば嫌でもわかるわ・・・・ってそんなのんびり話してる暇はなかったんや！！良介、転移ゲート開くから、魔法陣が出たらはいってな！！』
そう言って、はやては通信を切った。そして、その場にベルカ式の魔法陣が出現する。
「・・・はぁ」
「いってらっしゃい、良介君。なのはを・・・・・お願いね」
おそらく、後ろを振り返れば涙を流しそうな桃子がいるだろう。だからこそ、俺は振り返らない。この女の涙なんか見たら後味が悪すぎる。
「心配すんな。明日にはあいつを意地でも連れて帰ってくるからよ」
「・・・うん」
「んじゃ、行ってくる」
そう言って、俺は管理局へと転送された・・・。
その頃、暗い部屋でなのは率いるスターズとフェイト率いるライトニングのメンバーが、複数の強力なバインドによって拘束されていた。
「くっくっく・・・よく来て下さりました。高町なのはとフェイト・T・ハラオウン」
「・・・貴方は？」
「名前を名乗るほどの者じゃありません。私は、あるお方の目的を達成させるために動く者」
「貴方が・・・・・レリックの情報を流したんですね」
「その通り。わざとレリックの情報を流し、貴方たちの部下を罠に嵌めた・・・というところです」
その言葉を受け、捕まっているスバル・ティアナ・エリオ・キャロの四人は悔しそうな顔をしていた。自分たちの不注意で、隊長たちを危険な目にあわせてしまっている事に。
「・・・貴方の目的は？」
「私は、貴方たちのデータを手に入れる事」
「データ？」
「ええ。貴方たちのデータが興味深いと、あのお方はおっしゃってましたから」
男の言葉を聞き、なのはは裏に大きな組織があるのを感じ取った。そんな中、男はデバイスを手に取り、その形状を鞭に変えた。
「まぁ・・・・そんな事は後でもいい。私はですね・・・・・女の悲痛な叫びを聞くのが大好きなんですよ！！」
そう言うと、男は鞭を振るった。なのははそれを避けるが、その鞭は後ろにいたスバルに襲いかかる。
「うわあ！！」
「スバル！？」
「これはいけませんね。貴方たちが避ければ、後ろにいる部下が傷を負いますよ？」
「・・・く」
悔しそうなフェイトに、今度は鞭が振るわれた。それにより、バリアジャケットの一部が切り裂かれる。
「あぐっ！！」
「いいですね〜その悲痛な叫び・・・・さぁ、もっともっとお聞かせ下さい！！」
そう言って、男はガムシャラに鞭を振るう。なのはとフェイトが盾になっているため後ろの四人は無事だったが、なのはとフェイトのバリアジャケットはボロボロになり、肌が見える箇所が多くなっていた。
「・・・酷い男の人っているのは知ってるけど、これはもうダメな人だね」
「・・・うん。リョウスケは酷い事するけど、最後は優しいから」
「・・・・のんきの男の話をしてるとは、よほどの苦痛がお望みのようで・・・」
そう言うと、男はデバイスをカートリッジロードさせた。それにより、鞭が硬質化し、刃のような形状に変わった。
「いいでしょう・・・・ならば、血でその身を汚しなさい！！」
スバルたちが悲鳴を上げる中、男の鞭が振り下ろされ・・・・・なかった。
―――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン
大きな音を立て、何かが天井を突き破って落ちてきたのである。
「な、何事！？」
男がその落下した場所を見た。そこには、銀と黒をベースにしたバリアジャケットとも騎士甲冑とも違う者を全身に纏った仮面の男が立っていた。腹部の中心にはベルトが巻かれており、その腰の左右には四つのパーツに分かれたデバイスが装着されていた。
「貴方・・・・・・管理局の者ですか？」
男が訊ねるが、仮面の男は何も言わない。そしてそのまま、一枚のデバイスカードを手にする。それを見たなのはとフェイトが、何かを思い出そうとしていた。
(あのデバイスカードって・・・・・はやてちゃんがシャーリーに開発を頼んでた・・・)
(確か、誰かの専用デバイスを作るって言ってた・・・・確か)
二人の考えが一つになったとき、二人は見合わせた。該当する人間が、一人しかいない事を。そして、仮面の男は答えた。
「バーカ。俺は管理局なんかじゃねーよ。俺はな・・・・・・そこにいる妹分二人を助けにきた・・・・・・通りすがりの剣士だ！！」
そして、仮面の男はデバイスカードをベルトにかざし、起動コードを詠唱する。
「Den-o-form、セットアッ・・・・・って言いずれぇってんだ！！変身！！」
その瞬間、ベルトの中央部が真紅に染まった。そしてそのまま、重装甲型の赤いバリアジャケットが装着されていく。そして、黒い仮面を覆うように赤い仮面が装着され、桃が割れたような両眼となった。その光景に皆が驚く中、仮面の男・・・いや、宮本良介が叫ぶ。
「俺、ようやく参上！！」
孤独の剣士・・・いや、電王が咆哮を上げた。
【Side良介】
(はぁ・・・・なんで俺がこんなモン着てるんだよ！！どう考えても、日本が生んだ某ヒーローに酷似してるじゃねえか！！)
俺がセリフとはまったく反対の事を考えていると、はやてたちがいる部屋の会話が聞こえてきた。
「よっしゃ、ナイスやでシャリオ」
「我ながらいい出来です♪ですが、俺をあっさりと着こなす良介さんも凄いですね。さすがははやて部隊長の旦那様で」
「えへへ」
・・・なにやらすげー殴り飛ばしたい発言をかましている二人にいらついていると、むぅっとなってなのはとフェイトがその通信に念話で入ってきた。
「はやてちゃん、いつ兄さんが旦那様になったの？」
「・・・リョウスケは、私と一緒に」
「う、ウチかて良介と一緒にいたいんやもん！」
こんな忙しい時に何を議論しているんだこいつらと怒りそうになっていると、放置されていた男が我に返った。
「貴方は・・・・なぜ私の邪魔をするのです！！」
「・・・テメエこそ邪魔すんな。こっちは(色々と)取り込み中なんだ。さっさと消えてもらうぞ」
俺はそう言うと、腰の両サイドに付属されているデバイス【デンガッシャー】を手に取った。
「行くぞ、デンガッシャー」
『御意』
そのまま、俺はデンガッシャーを放り投げた。すると、四つのデバイスはとある順番に合体し、デンガッシャー【ソードモード】へと変形したのだ。俺が手に取ると、魔力で出来た真紅の刀身が出現し、輝きを放っていた。
「行くぜーーーーーーー！！」
俺はデンガッシャーを構え、一気に駈け出す。
「おのれっ！！」
男は硬質化した鞭を振るう。しかし、そんなもの俺には通用しない。鞭を薙ぎ払い、そのまま更に突き進む。しかし、俺が突き進んだのを見て、男は不敵に笑った。それと同時に、なのはの叫び声が響く。
「兄さん、それは罠です！！」
「今さら気づいたところで遅い！！」
男はそう言うと、仕掛けていただろうトラップを発動させた。魔法陣が出現し、俺目がけて炎が放たれる。しかし・・・。
(こんなもん、なのはの鬼のようなアクセル連射や、フェイトのサンダーウォールに比べたらまったく怖くもないな)
俺は余裕綽綽で、デンガッシャーを振るって炎を消し飛ばした。その様子に、スターズやライトニングの新人共は目を疑っていた。
「さ〜て・・・・俺の妹分(仮)に手を出したんなら・・・・・覚悟決めとけよ！！」
俺はそのまま、男をヤクザ蹴りで吹っ飛ばした。そして、デバイスカードをベルトに再びかざす。
「デンガッシャー、決めるぞ」
『了解。全魔力収束』
持てる魔力をフルチャージさせると、俺はデンガッシャーを構えた。すると、デンガッシャーの真紅の刀身が分離した。
「テメエが運命を歪めるんなら・・・・・・・俺はその歪んだ運命を切り裂くまでだ！！喰らえ、俺の必殺技・・・・・・・・・【物干し竿】パート２！！」
次の瞬間、真紅の刀身が上空から振り下ろされ、男に直撃した。煙が晴れると、そこには意識を失った男が倒れていた。
「・・・ち、非殺傷設定じゃこれが限界か・・・・・・まぁいいか」
俺はベルトを外した。すると、俺を纏っていたジャケット？は解除され、元の俺に戻った。どうやら、ベルトの付け外しはかなりしやすそうだ。俺は振り返ると、そこには・・・。
「・・・兄さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん！！」
「リョウスケ！！」
・・・なのはとフェイトの全力全開なタックルがきやがった。俺は耐えきれず、そのまま地面に倒れ込むが、二人はそのまま俺様の頬にすり寄ってきた。
「な、なのはお前何してんだ！！フェイトもおい！？」
「兄さんだ・・・・・兄さん！！」
「リョウスケ・・・・待ってた」
二人とも、泣きながら俺に抱きつく。なんだかんだ言っても、こいつらはまだ子供。甘えたいんだろう。俺は仕方なく、二人の頭に手を乗せた。
「・・・ったく、俺がいなかったらやばかったんだから・・・感謝するように」
「うん・・・・・責任とって、兄さんのお嫁さんなるから」
―――イマ、ナントオッシャッタンダコノムスメハ？
「ず、ずるいよなのは・・・私も、責任とってリョウスケと一緒になるから」
―――ナンデノッテルンダ、オマエマデ。
なんだかんだで、騒ぎ出したこの二人に呆れながら、俺は翠屋で心配しているだろう桃子に向けてこう呟く。
「約束・・・・・守ったぞ」
さて、このバカ娘どもを止めるか。俺は二人に、きっちりと手加減無しで拳骨を叩き込んだ。
おまけ
「す・・・・凄い。あのなのはさんたちを簡単にまとめてる・・・」
「それもですけど、あのデバイスと戦闘能力は凄いですよ・・・・」
「敵に対して、恐れがまったく無かったです・・・」
スバル・エリオ・キャロの三人は、目の前の光景に驚きを隠せないでいた。それはそうだろう、突如皆の前に現れ、敵をアッサリと戦闘不能にした。純粋な戦闘能力だけなら、自分たちでもかなわないだろうと思えるほどに。そんな中、唯一言葉を発しなかったティアナを不思議に思ったスバルが訊ねた。
「ね〜ティア、どうしたんだよ黙り込んで？」
スバルが訊ねるが、ティアはまったく反応しない。スバルが不思議に思いティアの視線の先を見ると、そこにはなのはとフェイトを押さえる良介の姿があった。そんな中、ティアナがやっと言葉を発した。
「ねぇ・・・・スバル」
「ん、何いきなり？」
「あの人・・・・・・・カッコいいわね」
「・・・・・・・え゛！？」
どうやら、良介は本人が知らぬ内に新人一名を落としてしまったようだった・・・。
あとがき
すいません、とんでもないSSになってしまいました。良介の声に誰があうかと考えていた時に、電王のモモタロスの声がピッタシじゃないかと思い、なんとなく書いてみました。