Air 第十二幕 ゴール

 

 夏祭りの日の夜。時間にすれば深夜なのだろう。二人は寄り添ってじっとしている。観鈴は母と一緒に捕まえた生き物を抱いて。母は、その観鈴の肩に顔を埋めて。

「………」

「おかあさん……?」

「………」

 よほど疲れているのか、晴子は観鈴の呼びかけにも答えなかった。いつもなら、すぐに返事を返すのに。

「ずっと、寝てないんだよね。わたしのために……おかあさん、すごくよくしてくれた……もう休ませてあげないとね」

 晴子の体が、ぴくっと動いた。

「は……いかんっ……」

 飛び起きる。

「今、寝てたな、うち。堪忍や」

「おかあさん、ねむたいんだよね」

「観鈴が気にすることあらへんよ。うち、ずっと観鈴を見ていたいだけなんや。せやから、起きてる、な」

「ううん、寝よ。いっしょに寝たいな」

 晴子の背後を、不吉な影がゆらりとうごめく。

『最後の夢を見終わった朝……』

「あかん……あんた、寝たらあかんのや……」

「どうして?」

「痛いんやろ……」

「ううん……もういたくないよ」

「ほんまか…?」

「うん、ずっといたくないよ。どうしてかな」

「ほんまにほんまか……? 全然痛くないんか?」

「うん。だから寝たい。いっぱい寝て、もっと元気になる」

 すぅーっと、背後を被っていた不気味な気配が消えていくように感じた。そうだ、観鈴はやりとげたのだ。だからもう、おかしな夢に惑わされることなんてないのだ。そうに違いない。

「そか……よかったわ……観鈴、頑張ったもんな。報われてたんやな……」

「だから、一緒に寝よ」

「ええよ。観鈴が寝たら、うちも寝るから。観鈴、先に寝や」

 少し考えるようなそぶりを見せた後、

「うーん……じゃ、そうするね」

「ああ、そうし。うち、観鈴の寝顔見て安心したら、寝るからな」

 ぱふっと布団をかぶり、目を閉じる。観鈴の表情は、安らかなものだった。晴子は、ずっとそばでそれを見守っていた。

 しばらくの後、

「観鈴……大丈夫なんか?」

「………」

 返事は返ってこない。どうやら本当に寝入ってしまったらしい。観鈴の寝顔は、安らかなものだった。幸い悪夢にうなされている、というわけではないようだ。

「ええ寝顔や……ほんまにもう、大丈夫なんやな……」

 ………。

「はあっ」

 全身の疲れが、どっとあふれ出す。

「よかったわ……ほんまによかった。もう、ええんやな……うち、安心して、ええんやな……な、観鈴」

 娘の寝顔を見つめていた母親の顔が少し下がって、晴子は観鈴の顔のすぐ隣に、自分の顔を沈めた。

 静寂とした空気が、部屋全体を包み込んでいく。そして……。

 ………。

 ……。

 …。

 観鈴はゆっくりと目を開いた。隣には、ベッドにしがみつくようにして晴子が体を休ませていた。

「よかった……寝てくれた。ごめんね、おかあさん……うそついて。そうしないと、休んでくれそうになかったから……」

 観鈴は身体をねじ曲げて、そして、苦しそうに息を吐いた。

「ねたら、ダメなんだよね……わたしは……」

 でも、眠い。とても眠くて、まぶたがものすごく重かった。でも、頑張った。

「まだ、痛みとれないな……せなかじゃないんだけど、どうしてかな……ねようかな……ダメかな……」

 少しだけ考えてみる。でも、答えは決まっていた。

「やっぱり、ダメだよね。今晩だけ……一日だけ……がんばるね。おかあさんが起きるまで、がんばるね……ゴールは、ふたりでむかえたいもんね。青空の下で、むかえたいもんね。そうだ……絵日記かこうっと」

 ベッドから立ち上がると、机に向かう。

「この夏休みは……たくさん楽しいことあった。恐竜の赤ちゃんも買ってもらった。にはは、よかった」

 かりかりかり。

鉛筆で文字を書く独特の音だけが、いつまでも、室内に響きわたっていく。

 夜の帳が下りていく中を、いつまでも、いつまでも……。

 そしてまた陽が、二人を照らし出す。まばゆい光の中で、最初に目を覚ましたのは晴子のほうだった。

「観鈴……」

 呼びかけると、彼女の目がゆっくりと開く。不思議そうに辺りを見回し、

「わたし、ねてた」

 ぽつりと、それだけ言葉をこぼす。

「あんた、ほんまに寝とったんやな。身体、痛ないか? うちのこと、覚えてるか?」

「………」

 無言のまま観鈴は目の前の女性を見つめ続け、

「おかあさん、おはよー」

 元気よく、あいさつをかわす。

「はは、よかったわ。観鈴、元気で笑ってくれとる。こんな朝を、うちはずっと待ってたんや……」

「にはは」

「な……うち、ごっつ嫌な夢見てたんや……」

「どんな?」

「あんたが一晩中寝んと、トランプしとる夢や……まだひとりで頑張っとる夢や。そんな悪夢や。観鈴は、ちゃんとぐっすり寝とったもんな」

「うん。わたしも夢、見たよ。おかあさん、聞いてくれる?」

「はは。あんた、夢は秘密やったんちゃうの?」

「ううん。もういいの。今日の夢はね、羽根のある恐竜さん。気持ちよさそうに、がおっーて飛んでた。そのもっと上を、わたしが飛んでるの。わたし、肩からうしろを見てみた。そしたらね、つばさがあったの。真っ白なつばさで、わたし、空を飛んでた……」

「そか、ええ夢みたな」

「ううん。かなしい夢だった。世界で一番かなしい夢。でもね、わたしはだいしょうぶだよ。わたしの夢は、今日でおわりだから。これからは、ずっとおかあさんと一緒にいるの」

「そか……あんた、前に言うとったな。最後まで夢を見れば、きっと助かるって。あんたはきっと、最後までやりとげたんやな」

「うん」

「そかそか……よかった。うち、不安やったんや……ずっと不安やった……それから解放されたんやな……観鈴が朝起きても、笑ってくれてる……。そんな朝が当たり前のように、毎日続いてゆく……そんな幸せ……どこにもあらへん」

 身体の中にたまったわだかまり全てを吐き出すようにして、晴子は言葉を続けた。

「…まるで長い夢見とったような日々やった。やっと終わったんや……これからはずっと、観鈴の笑顔見ながら生きていける……うち、ごっつ幸せや……幸せすぎて、うち涙出てきそうや……はは、観鈴にもう言えへんなぁ。うちも泣き虫さんや……」

「泣いたらあかんよー」

 まるで子供をあやすように、観鈴は楽しげに晴子の頭をなでる。

「せやな。悲しいこと、なんもないのに泣いたらあかんな。笑ってな、あかんな」

「にはは」

「はは……」

 まぶしい陽射しがカーテン越しに射し込んできて、晴子は目を細める。

「外はよう晴れてるで……昨日の雨が……って、昨日も晴れてたんやったな、はは……」

「…外にでたいな」

「そか。そやな」

「太陽の下にでたいな。それで、みんなに教えてあげるの。遠野さんにも霧島先生にも、元気になったよーって」

「はは、ええなそれ。ちょっと待っとき、ふたりに電話入れてやるから。そや、ついでに敬介にも連絡いれたろ。あいつも観鈴の病気、心配しとったみたいやでな。せやけど、その前にうちの愛情ご飯やで。ちゃんと食べて、もっと元気になるでー」

「うんっ」

「よっしゃ」

 ちゅ、と観鈴の額に晴子が口をつける。

「作ってくるわ」

 そして二人は、陽の光を体中に浴びる。

「気持ちええ。ごっつ気持ちええなー」

「うん、ごっつ気持ちいいねー」

「夏の匂いがするわ……」

「うん、する」

「そうかー。どんな匂いがする?」

「潮のにおい、陽のにおい、それに……」

「ん、まだなんかあるんか?」

「おかあさんのにおい」

「そうかー、うちの匂いかー。って、自分の匂い、ぷんぷんしてたら嫌やんっ!」

「いっぱいするよ、おかあさんのにおい」

「ほんまかいな……そらまあ、自分の匂いなんてわからんのやろうけど……」

「うん。この夏は……おかあさんのにおいがたくさんした。大好きなおかあさんのにおい」

「そか……くさかったら、たまらんなー」

「たまらんねー、でもいいにおいだった」

「そか。よかったわ」

 車椅子の揺れる音が、アスファルトにきっこきっこと響いていく。美凪たち三人との待ち合わせ場所まではまだもう少し距離がある。だから、ふたりにはまだ話し合う時間がたっぷり残っていた。

「な、観鈴。あんたの考えてること当てたろか」

「うん」

 自動販売機のほうに首を傾けていた観鈴が頷く。

「ジュース飲みたいなー」

「当たり。すごいね」

「誰かて当てられるわ」

「しゃあないなぁ。うちのおごりや」

 財布を取り出すと、小銭をかちゃりと入れていく。

「またこれか? どろりなんとか言う……」

「うん」

 ボタンを押すと、四角い紙パックの容器が下に落ちてくる。

「うちはなんにしよかなーっと」

「えっとねー」

「あんたと同じはもう嫌やで」

 また金を払ってへんなものを飲まされたくはなかった。

「ゲルルンジュースってのがおすすめ。すごくおいしい」

「ほんまかいな……ま、どろりしてへんかったらなんでもええわ」

 このとき、晴子は気づいていればよかった。観鈴の味覚が、まともでないことに……。

「なんやこれっ! ごっつ重っ!」

「がんばれば、おいしい」

「なんやそれっ……ジュース飲むのに頑張るてどんな意味やっ。頑張れへんかったら不味いんかっ!? わけわからへんっ、謎すぎるでっ」

「おかあさん、ふぁいと」

「応援されとる……なんやわからんけど、飲んでみよっ」

 ぷすっ。ちゅーーーー…。

 晴子の顔が、真っ赤に染まっていく。

 ちゅーーーーーー。

 ちゅーーーーーーーーーーーーーーー!!

「ぜー……はー……こんなジュース、いるかーいっ!」

「わ、捨てたらダメ」

 思わず地面に投げ捨てようとするのを、慌てて観鈴に止められる。

「これはね、ぎゅっぎゅってして飲むの」

「ぎゅっぎゅっ?」

 両手で紙パックを強く握ってみる。

「うおっ、ゲルっぽいん出てきた」

 ストローの先から、水色の物体Xが姿をあらわす。

「うん、びっくりするでしょ」

「ジュースでびっくりしたないわっ」

「しかもおいしい」

「まあ、まずかあらへんけど……うち、のど渇いてたんやけどなぁ……」

 どう考えても、喉を潤してくれそうにはない。

「わたしの飲む?」

「それ、粘土の上にコンクリート流し込むようなもんやろ……はぁ、ほんま夏は閉鎖しとかんとあかんのちゃうの、あの自販機。間違うて買うた子、かわいそうやで……」

 そんなことを言っているうちに、遠くのほうに三人の人影が見えはじめる。

風が追い風となって、自然と車輪の回転が速くなっていく。

「お久しぶりです、神尾さん……」

「にはは、二日ぶりくらいかな? 遠野さんに会うの」

 車輪を止めて、晴子と観鈴はそれぞれに挨拶を交わしていく。

「晴子、観鈴の病気は、もうよくなったのか?」

「ああ、順調に回復していっとるみたいや。近いうちに、車椅子なしでも歩けるようになるかもしれへん」

「そうか。それはよかった。まだ夏休みが少し残っていてね、ときどきあなたの家に観鈴の顔を覗きにいきたいんだが、いいかい?」

「ああ、いつでも来いや。歓迎したる。今度は、ほんまに歓迎したる」

「神尾さん、もう本当にえらくないのかい? 無理してたりしていないだろうな」

「だいじょうぶです先生。心配してもらって、ありがとうございます」

 車椅子の上で、観鈴は聖に向けてぺこりと会釈する。

 あたりを包み込んでいくのは、たっぷりと潮の香りを含んだ風の匂いと、セミたちの合唱。

「夏休み……だね」

「せやな。夏休みや」

 五人は風を受けつづけ、たわいもない世間話に華を咲かせていた。その中で、観鈴はひとり、瞳を閉じていた。安らかな顔。まるで、すべてをやり終えた後のような……。

「まだ夏休みのまっただ中や。うちらも遊ぼな。遠野さんも、霧島の先生も、居候が帰ってきたら、あいつも巻き込んで、みんなで遊ぼな」

 いつの間にか、観鈴の瞳が開かれていた。

「ね、おかあさん……」

「うん? どしたん?」

「ちょっと先に行っててほしい」

「ん? なんでや。なんかあるんか?」

「うん」

「そか。あんたがそういうんやったらそうする」

「遠野さんも、みんなも、おかあさんと同じ場所に行っててほしいな。にはは」

「え……、あ、はい……」

 言われるがまま、美凪たちも観鈴と距離をとる。

「ここぐらいでええのん〜?」

「どれぐらいある?」

「せやなぁ。十メートルぐらいや」

「うん。そこで待ってて」

「なんや? なにが始まるんやぁ?」

「えっとね、わたしががんばるの」

「はい〜?」

「よいしょ」

 車椅子の両脇の手すりに手をかけると、それを軸にして、観鈴は二本の足で立ち上がる。車椅子からアスファルトの地面へと降りる。

「観鈴っ、無理するな。まだ病みあがりなんだから」

「そうや。待っとれ、いまうちが行ったるっ」

「ううん、ひとりでがんばるの」

 近づこうとした敬介と晴子にその場で立ちどまってくれているように促すと、観鈴はふらついた足取りのまま、ゆっくり足を前へと踏み出していく。

「がんばって、そこまで歩いてみる。だから、おかあさんも、みんなも、そこで見てて。なにがあっても、絶対になにがあっても、来たらダメだよ」

「なにがあってもって……あんたが転げたりしたら、うち助けにいくで? ええやろ?」

「ダメ。おかあさんは、そこに立ってるの。ゴールだから」

「そか。うち、ゴールか……」

「うん。みんながいるそこが、ゴール」

「神尾さん、観鈴ちゃんが自分の力でやり遂げようとしてるんだ。付き合ってあげましょう。大丈夫、私も見ています。どうしてもダメそうなときは、私が助けに入りますから」

「はぁ……しゃあないな。わかった待ったる」

 聖に説得されて、ようやく納得したようだった。

「ゆっくりでええで。なんぼでも待ったる」

 とて……とて……。

 ときにふらつきながら、ときに転びそうになりながら。

「観鈴、大丈夫か? しっかり歩けるか?」

「うん、だいじょうぶ」

 言って、観鈴は歩き続ける。とてもゆっくりとした歩幅で……。

「ここやっ……観鈴、うち、ここや」

 とて……。

 とてとて……。

「ええ調子や……そうや、ゆっくりでええ……後はあんたさえ元気になればええだけや。きっと元気になれる。こうして頑張っていけば、絶対元気になれる。一緒に頑張っていこ。観鈴っ、こっちや、ここまでや」

 突然に観鈴は立ちどまり、観鈴は晴子たちのほうに目を向ける。

「神尾……さん?」

「どないしたん、観鈴。もうちょっとや。後、三歩でこれる。目の前やで。お母さんは、あんたのすぐ目の前や。ほら、ここやで」

 晴子が観鈴に早く歩くように促す。けれど彼女は歩くのをやめ、じっと母を見つめ続けていた。やがて、彼女は言う。

「もう、いいよね」

「ん? なにがや?」

「わたし、がんばったよね」

「なに、言うてるんや? ここまでまだあるで。手、抜いたらあかんで。観鈴やったらできる。もっと頑張れる。ここまでこれる」

「…もうゴール、していいよね。後、三歩。そこまで辿り着いたら、もうゴールしていいよね」

「そか、もう疲れたか。よし、ゴールしたら家に帰って――」

「ダメです! 神尾さんを止めてっ!!」

 その場にいたなかで唯一観鈴の本意に気づいた美凪が、悲鳴のような声をあげる。彼女は、これに似た光景をかつて見たことがある。経験したことがある。

みちるという名前の、もう一人の妹との、永遠の別れ……。

「わたしのゴール。ずっと目指してきたゴール。わたし、がんばったから、もういいよね。休んでも……いいよね……には……は……」

 観鈴の笑みが消えてゆく。

「え……あんたまさか……痛いんか? ほんまは……痛かったんか……?」

「………」

 観鈴は何も答えない。でもその沈黙が、真実を物語っていた。

「嘘や……嘘や言うてや……これからあんた……元気になっていくんやろ? 悪い夢は終わったはずやろ……? せやろ……? な、観鈴……嘘や言うてや、観鈴」

「ごめんね、おかあさん……でもわたしは、ぜんぶやり終えることができたから……だから、ゴールするね……」

「あかん……まだ頑張るんや、観鈴は。これから、まだまだ頑張るんや。ゴール、まだまだ先や……ずっと先にあって、こんなところにはあらへん……あらへんはずや……そうやろ、先生!!」

「当たり前だ! 観鈴ちゃん、諦めたら、何もかもそこで終わってしまう。だから、諦めるな、きみのゴールは、こんなところにはない。もっともっと、ずっと遠くにある。だからっ!」

「ゴール……するね」

「あかん……観鈴、きたらあかん……ゴールしたらあかん。始まったばかりやんか。昨日、スタートきれたんやないか。ずっときれへんかったスタートや。これから取り戻してゆくんや……十年前、始まってたはずの幸せな暮らし……これから、観鈴と取り戻してゆくんや……遊んで、笑って、取り戻してゆくんや……まだまだある……まだこれからやんか……なにもかも、始まったばかりやんか……うちらの幸せは始まったばかりやんか……」

「ううん……ぜんぶした。なにもかも、やりとげた。もうじゅうぶんなぐらい……この夏に一生ぶんの楽しさがつまってた。すごく楽しかった」

「あかん、ちがう……まだまだこれからや……うちら、なんもしてへん。家族になって、なにひとつしてへん……うち、たくさんしたいことあるんや……大好きな観鈴と、たくさんしたいことあるんや……全部これからなんや」

「おかあさんとたくさん思い出つくった。夏まつりもいっしょに出た。恐竜さんも捕まえた。宝物もできた」

「あかんっ! まだ来年もあるし、再来年もある……」

「もう一度だけがんばろうって決めた、この夏休み……往人さんを見つけたあの日からはじまった、夏休み。いろいろなことあったけど……わたしがんばってよかった。つらかったり、苦しかったりしたけど……でも頑張ってよかった。ゴールは幸せといっしょだったから、わたしのゴールは幸せといっしょだったから。ひとりきりじゃなかったから……」

「そうや。観鈴はもうひとりきりやない。ずっと一緒や、みんな、みんなずっと観鈴と一緒にいてくれる。せやから……観鈴……」

「だから……だからね……もうゴールするね……」

「あかんっ……これからやっ……これからや言うてるやろっ……」

 とて……。

「観鈴っ!!」

「観鈴ちゃんっ!」

「神尾さんっ!」

「観鈴……きたらあかんっ! これからや言うてるやろっ!」

 そして彼女は、最後の一歩を……歩み、きる。

「ゴール」




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