Dream 第四幕 癇癪

 

 家に戻ると、観鈴は食事もとらずにそのまま自室にこもってしまった。ドアを開こうとしてみたものの、内側から鍵がかけられているようで、ドアに触れてもガチャッという鈍い金属音が返ってくるだけ。まるで、今の観鈴の心のようだった。

自分の殻に閉じこもり、誰とも会おうとしない。

夜、俺は晴子との晩酌につき合わされていた。今日も俺の目の前には一升瓶が一本置かれている。コップに残ったわずかの酒の匂いが鼻をつく。

「なんや居候、今日はぜんぜん飲んでないねんな」

「そんな気分じゃない」

 俺は……何をしてるんだ? 観鈴が苦しんでいることを知っていながら、なんでこんなことをしている。

「口移しで飲ましたろかー」

けたけたと笑う。いらつく……。

「なあ、晴子」

「酒のつまみが足らんなぁ」

席をたつと冷蔵庫まで歩いていく。餌がなくなったから取りに行く。動物と同じだ。自分のためだけに動く。こいつは、何も知らないのだろうな。観鈴のことも、周囲からどう見られているのかも。きっと自分の利益にならないことには、何の興味も持っていないのだろう。

「あんたは知っているのか? 観鈴が一人ぼっちのこと」

口走った後後悔した。こんなことを人に言いふらしても何の意味もない。

ただ暗い思いが伝染していくだけだ。ただ…観鈴が傷つくだけだ。

枝豆をつかんでいた手が止まり、晴子はゆっくりとこちらに振り向く。

「知っとる」

落胆した表情でため息をつく。瞬間、ぐつぐつと煮えたぎった怒りが音を立てて腹の底からこみ上げてくる。

「ふざけるな……なにが『知っとる』だ。だったら、なんでいま観鈴が部屋に閉じこもってるかの理由も大体想像がつくだろ。そんなときに男と二人で酒を飲んでるのが母親のやることか!」

「酒についてはお互い様や。あんただってどうすればいいか分からんから、こうしてうちの晩酌に付きあっとるんやろ」

…そうだ。鍵を閉めて返事をしないということは、そっとしておいて欲しいという自己主張なのだろう。それが分かっているから、俺もこんなところで時間をつぶすことしかできないでいる。

「ま、あんたがここに来る前からうちと観鈴は親子やったんや。せやから、あとから出てきたあんたにいちいち言われんでも、観鈴のことは分かっとるつもりや。それにな、何も知らん奴が偉そうに人に説教するのは、単なる自惚れやで」

「何も知らんって、何を知らないっていうんだよ」

「観鈴のことや」

「観鈴の? どうゆうことだ、観鈴に何か秘密でもあるような言い草だな」

「…いや、なんでもないわ。さ、飲も」

喉まででかかった言葉を押し流そうとでもするように、晴子はコップを握るとそれを口に押さえつけた。

 

 

 それから数日。

神尾の家にやっかいになり始めて、今日でちょうど一週間くらいだろうか。目覚めると、いつも通り目の前で制服姿の観鈴が真っ白なリボンを髪に結んでいるところだった。あんな出来事があって、てっきり「学校は休む」とでも言うかと思っていたが、意外にも観鈴はあの後も補修のため、毎日学校に通い続けていた。だから俺も、あの日のことについては何も触れずにいた。

「往人さんは本当にいらないの」

「金もらってもな」

いつもの通学路、残念そうに紙パックの中のジュースを飲む。

ずずずずず。

「美味しい」

笑顔になる。本当にころころと表情が変わるやつだ。

「おまえさ、陽光みたいだよな」

「ん、どうゆうこと?」

「別に、ただ言ってみただけだ」

いつも通りの観鈴がそこにいた。

誰かの撒いた水が染みる地面。また陽が高くなれば、それは跡も残さず消えてゆくのだろう。こいつも、観鈴も同じだった。どんなことが起きても陽光を輝かせて、きっと誰にも気づかれないうちに、元のような笑顔に戻るのだろう。

…いや、元通りになったふりをするだけか。

繰り返していく夏。何千年も昔から何も変わらず、変わっていたとしても、誰も気づかない。だとしたら、それはが止まっているのと同じことではないのだろうか。今も仰げば同じ空がある。変わらず、そこに。

 延々と、それは続くと思っていた。それなのに、俺の中の世界はぐるりとその姿を変えた。見慣れたこの青空でさえ、どこかよそよそしく見える。幼いころから、ずっと追い求めてきたはずの空なのに。

…この空の向こうには、翼を持った少女がいる。

…それは、ずっと昔から。

…そして、今、この時も。

…同じ大気の中で、翼を広げて風を受け続けている。

心の中にその姿が広がる。美しい風景。なのに、どうしてかそれは悲しみに満ちていた。

視線を地上に戻す。

俺の旅の目的。この空に今もいるという少女を探し出すこと。探しだして、そしてどうするかなんて決めていなかった。

ただ、幼い日に母から聞かされていた俺の中に生まれたイメージ。それを追い求めているだけだった。それだけが、母の手がかり。

悲しそうな顔をした少女。悲しい色に染まった夢。

空の蒼は、いつの日も悲しみの色だった。

『もうひとりのわたしが、そこにいる。そんな気がして…』

もし、その少女がこの地上に降りていたら、それはこんな姿なのだろうか。うっとりした顔でジュースをほおばる娘が一人。

「観鈴、おまえに翼はあるか」

「ふばさ?」

紙パックを口から離すと、またにははと微笑んだ。

「あるわけないよ。あったらいいなとは思うけど」

空にいる少女が観鈴のはずはない。それほどまでに観鈴の笑顔は近くにあった。なぜそんなことを考えたのだろう? 自分でもよくわからない。

「へんな往人さん」

その通りだった。

「あ、ちょうどいい時間」

校門前で振り返り、誇らしげにピースサインをして見せる。

「帰ったら、一緒に遊びたいな」

「一人で遊んでくれ」

「あ、そうだこの前の約束。覚えてる?」

 俺の言葉を無視して観鈴は一人で言葉を続ける。

「忘れた」

「わ、ひどい。わたし言ったよね、海に行きたいって」

そういえば、そんな約束をした気もする。

時計を見ると、そろそろチャイムが鳴り始めそうな時間。

とりあえずこいつを送り届けるのが先決か。

「補修が終わったらな」

「ふふ、楽しみ」

嬉しそうに校門をくぐっていった。

やれやれ……、これで昼からもあいつのお守りか。

面倒だとは思ったが不思議と嫌な気にはならなかった。

 

 

神尾観鈴のことについて、少し話そうと思う。

遠野美凪は明らかに神尾観鈴のことを避けていた。が、別に彼女が嫌われているというわけではない。誰とでも分け隔てなく等しく接することができ、他人を尊重し敬うその考え方は、むしろ誰にでも好かれる存在といえる。

事実、彼女に対して好意的でない人間を探すほうが難しい。では、なぜ彼女は避けられるのか。

「にはは、海楽しみ」

国語教師がいろいろと教科書を片手に朗読していたが、おそらく観鈴の耳には届いていないだろう。もう彼女の頭の中は、往人と遊びまわっている自分の姿でいっぱいだった。

友達と一緒に海で遊ぶ。幼いときに描いた些細な夢。それがもうすぐ現実になろうとしている。それは観鈴にとって、何よりも嬉しいことなのだろう。

ぽたっ

小さく音がして、ノートの上に小さな染みが一つできる。

「あれ……、なんだろこの染み」

そう思った瞬間、ぽたぽたと音が続く。音が一度鳴るたびに、染みが一つずつ増えていった。観鈴は慌てて自分のほおに触れる。返ってきたのは、体温ほどの温度の水の感触。知らず知らずのうちに、泣いていたようだった。

「だ、だめだよ……遊べるんだから……がんばらないと」

ぽたぽたぽたぽた。

止まらなかった。すでにノートは湯船にでもつけたように、ぐしゃぐしゃに湿っている。

 嫌だ、違う。これは単なる汗、わたしは平気。あと少しで海に行ける。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

「で、この文章は―――」

詩を書き写していた教師が観鈴の異変に気づく。

「ちょっと、神尾さん。どうしたの!」

「ああ……うぁ……ああ……っく」

耐えられるのはそれまでだった。必死にこらえていたのに、その瞬間、積み木のように一気に崩れ落ちる。教師のほうもどう対応したらいいのか分からないようで、おろおろとしている。

「椎名君、頼まれていたプリントのコピー持ってき――」

「あああ、ちょうどいいところに。神尾さんいきなり泣き出しちゃって、もうどうしたらいいかわからなくて」

プリントを持ってきたベテランらしい顔つきの老人は観鈴を数秒凝視すると、

「か……急いで霧島さんのところに連絡を」

慣れた感じで指示をくだした。

 

 

 地震には初期微動というものがある。本格的な揺れが来るまえに、小さな揺れが起こって前兆を知らせるのだ。

…今思えば、あの駅での一件が初期微動だったのかもしれない。

 商店街。聖が診療所の前で芸をやっていいという許可をくれたので、俺は人形を舞わせていた。だが、ちらりと買い物途中らしき主婦が見るくらいで、いまだこれといった収穫はない。

「往人君、あたしどうして往人君が貧乏なのかわかった気がする」

でかリボンが言う。大きなお世話だった。

キィィィィィィ。

田舎の商店街にはおよそ不釣合いなブレーキ音。いつだったか、最初にこの町にきたときに納屋に突っ込んだバイクと同じものが俺の目の前で止まった。赤いレザーのスーツに身を包んだ女の後ろには、ぐったりとした姿の少女。

髪止めとして白いリボンが二つ。今朝、観鈴が髪に結んでいたものと全く同じものだった。嫌な予感がしてバイクに駆け寄る。

おそるおそる少女の髪をあげ、顔を確認する。

「…観鈴」

 そこにいるのは、間違いなく居候先の娘だった。

「すまん先生、また癇癪や」

バイクの音に驚いて飛び出してきた聖の瞳が、医者のそれに変貌していく。観鈴の右手のつけねを軽く指で押さえ脈を測ると、

「佳乃。二号室のベッドをすぐに使えるようにしろ。念のために点滴の用意も忘れるな。それと、神尾さんはソファーに観鈴ちゃんを横にさせておいてくれ」

流れるように指示をだしていく。

取り残された俺には、ただ観鈴が何か病に侵されたと、そう頭で認識するのが精一杯だった。

観鈴が二号室というところに運ばれていって、ロビーには俺と晴子の二人だけが取り残されることとなった。目をつむり祈り続けている晴子を見ると、俺のほうから話しかけることはどうしてもできなかった。

じっと、向こうから話しかけられるのを待つ。

………

沈黙。時間に換算すれば数分なのだろうが、俺にとってその沈黙は、永遠とも思えるほどの長さだった。

「さて、居候に説明せなあかんな」

やがて、ゆっくりと口を開く。

「癇癪ゆうてな、小さいころからずっとや。誰かと友達になれそうになったら、ああなんねん。精神的なもんやろうし、大きなったら、みんな治る思てたんや」

だからか……、そういうことなら駅での遠野の態度にも納得できた。

みちるのような小さな子どもの目の前であんなふうに観鈴が倒れてしまったら、当然みちるは自分のせいだと思い込むだろう。

『みちるちゃんを悲しませたくないだけだから』

いつかの観鈴の言葉が脳裏をよぎる。

あいつはいつも人のことばかりだ……。

「なんで治らへんのやろな」

遠野は、それを未然に防いだだけのことだった。

「あんたをうちに招き入れたのも、あんた、なんかいい加減そうな性格やったし、癇癪おこさんように上手くやっていけるかな思たんやけどな」

心の奥底に違和感があった。なんだろう…俺はいつかこうなることを知っていたような気がする。

『彼女はいつでもひとりきりで…』

「でも、やっぱダメやったんやな」

違和感の原因だった言葉は、するりと消えてしまった。

なんだったんだ……今のは。

「ほんま、いつまでもあの子の友達でいたってや」

自嘲するような晴子の声。まるで自分は蚊屋の外のような言い草。それが、妙に癪にさわる。

「あんたは、無責任だな」

不思議そうな顔をされる。

「それは俺の役目か? あんた、母親の役目じゃないのか。あの子の友達であるべきなのは、俺よりもむしろあんたの方じゃないのか。どうしてそんな、自分は無関係って顔ができる」

「居候、あんたなんもしらんからそないなことが言えるんや。なんもしらんで、えらそうな口利くな」

「なにやら深刻なムードだな」

声を挟んだのは聖だった。佳乃の姿が見えないことを聞くと、まだ観鈴のそばにいるという答えが返ってきた。

「先生、観鈴の容態はどうなんや」

俺が聞くより早く、晴子のほうが聖に詰め寄っていた。

「いつも通りだ。一通り泣き終わったら、あとはぐっすり」

「…そうか」

安心したようで、再びソファーに腰を落ち着かせる。一息ついたあと、晴子は俺に向きなおって言った。

「居候。うちまだ仕事が残ってるから、あの子の目が覚めたら家まで連れいってくれへんか」

 

 

 その日は満月。しばらく前から雲が出始めていた。てっきり一人にして欲しいとでも言われると思っていたのに、意外なことに観鈴は俺を部屋の中に招き入れた。

 はじめてみる観鈴の部屋。デスクの上には教科書とノートがまばらに置かれている。足元を見回すと、トランプや恐竜のぬいぐるみがあちこちに散らばっていた。部屋の隅に置かれたベッドは、俺が横になれば足が外にはみ出してしまいそうなくらい小さい。そんなベッドに、観鈴は座っていた。

「片づけくらいちゃんとしろよ」

ぬいぐるみを一つ一つ抱きかかえ、『おもちゃばこ』と下手糞な文字で書かれたダンボールに入れていく。その間も観鈴はずっと黙ったまま下を向いていた。

「怒ってる?」

最後のぬいぐるみをダンボールにしまおうとすると、ようやく口を開いた。

「なにを」

「わたしが病気のこと黙ってたの」

「…そりゃな」

満月に雲がかかり、部屋の中が急に暗くなる。

「電気つけるぞ」

蛍光灯のひもをひっぱると灯りが戻ってきた。人工的な灯り。自然の力ではない、偽りの灯り。観鈴の顔をのぞくといつの間にか笑顔に戻っている。蛍光灯の灯りのように作られた笑顔。今の俺にはそうとしか見えなかった。

「ごめんね。本当のことを言ったら、往人さんもわたしから離れていっちゃうような気がして……だから、黙ってた」

「そうだな。離れていくかもな」

悲しそうにうつむく。

「友達なんて言っておいて、都合の悪いことは話してくれないのか」

観鈴は静かにシーツを握り締めていた。

「話せよ」

ぼそっと声を漏らした。その言葉があまりにも意外だったのか、「えっ?」と驚いたような返事が返ってくる。

「友達なんだろ、だったら何もかも話してみろよ。お前はなんでもかんでも一人で抱え込もうとするから、だからそうやって後悔ばかりするんだ。そんなに他人のことが信用できないのか?」

それは、自分に言い聞かせるような言葉だった。

俺はたった一人で旅をしてきた。空の少女を探す旅。もちろんそんなことを人に話しても馬鹿にされるのがオチで、それが分かっていたから、だから誰にも話すことなく、一人きりでずっと探し続けていた。

最初からそんな少女いないんじゃないか。そんな考えを押し殺して、必死で探し続けた。だけど、やっぱり見つからなかった。

「で、でも……」

「観鈴、もう少しさ、『友達』に頼ってもいいんじゃないのか?」

そうして、俺は観鈴に出会った。初めて空の少女のことを他人に話した。

満月にかかっていた雲が、風に吹かれて流れていき、月の光りが戻ってくる。

「往人さん」

悪夢から覚めたようなまなざし。澄んだ瞳が、じっと俺の横顔に注がれる。少し横に移動して、ベッドに人が一人座れるくらいのスペースを作ってくれた。俺はそこに腰を落ち着かせる。

「往人さんは友達。だから、わたしのことみんな知ってほしい」

綺麗な月夜だった。

「夢を見るの。不思議な夢だった。空の夢」

ぴくりとその言葉に反応して観鈴の顔を見ると、じっと空を見上げていた。俺も同じように見上げる。

「自分はそこにいるの」

ゆっくりと話し始めた。

「そこは、見たこともない世界。だって、こうしていれば、ほら…自分の上に雲はある」

もやのように、雲が空いっぱいにかかっている。観鈴は足元を見つめた。

「なのにそこでは、自分の足の下に雲が張りつめていて、雲の隙間からは海の青が見える。でも、そこまでがどれくらいあるかもわからない。どこも無限に広がってる」

何のことだかまったく理解できない。だけど、俺の体が一字一句聞き逃すな、そう告げていた。

「そしてその空では、雲は逆に流れている。消えた場所から雲は生まれて、生まれた場所に消えてゆく……、その繰り返しをじっと見ながら、わたしは風を受け続けている」

瞳を閉じた。大きく深呼吸しているようだ。やがて、

「そんな夢」

俺のほうに向きなおった。

手を伸ばそうとした。必死で観鈴をここにとどまらせようとした。彼女が空に溶けていってしまう、そんな気がしたから。

「おまえは、おまえは誰なんだ」

「わたし? わたしは、神尾観鈴」

「違う…その夢の中でだ」

「それはやっぱり…わたしだと思う。もうひとりのわたし」

『もうひとりのわたしがそこにいる。そんな気がして』

いつか観鈴はそんなことを言っていた。そうだな、その通りかもしれない。

「だからおまえ、空に想いを馳せてるのか」

「うん……どうしてわたしはそんな場所にいるのかなって」

言って、観鈴は笑った。

「お腹大丈夫?」

「ん、どうして」

「お昼から何も食べてないよね」

「ああ。そういえば、腹が減ったな」

「じゃ、何か作るね」

「いや、いい。何か適当に作って自分で食べる」

ベッドを降りようとした観鈴を引きとめると、俺は部屋をあとにした。廊下にはひんやりとした空気が流れている。

腹が減ったなんていうのは嘘だった。部屋からでて、ひとりで考えるための口実。何を考えなければならなかったか。

…そう夢についてだ。

観鈴が見たという空の夢。今なら、彼女が受けた風までも感じることができる。それほどまでに、観鈴の語った夢は現実味を帯びていた。

握っていた手を開く。指の先まで汗で濡れていた。こんなに取り乱していたことがばれなくてよかったと思う。

彼女の見た夢は、俺の想像していた光景と同じだった。それは、幼い日から俺が描いていた絵だった。そこに少女がいると聞かされたときから生まれた情景。その澄んだ空気の向こうに描いた夢。

彼女はひとりきり、どこまでも続く雲の地面を見ていた。

それを思うと、ただ胸が熱くなって、小さくうつむいてしまう。俺も幼心にわかっていた。彼女の悲しみを。

神尾観鈴。

海辺の町で偶然に出会った少女。なのに、なぜだかわからない。その声やたたずまいを、なつかしいと感じている自分がいた。

………。

……。

…。

『あなたの血が、その子と引き合うから』








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