Dream 終幕 夏影

 

息を吸うと、潮の匂いが鼻をつく。目の前に広がるのは見知らぬ田舎の風景。視線を前に向けると、地平線の彼方まで灰色の地面が延々と続いている。

戻ってきた。最初の場所、バス停。ここから堤防に向かって観鈴と出会った。結局、海まで連れて行くことはできなかった。堤防の下は、もうすぐそこが海だというのに……。

もう考えるのはよそう。この町には二度とこない。観鈴とも二度と会うことはない。体の調子も良くなっている。足も軽い。観鈴だって、今頃けろりとしているかもしれない。

空を見上げる。一面の蒼。悲しみの色。それを見ているのが辛くて、俺は瞳を閉じた。そうしてもなお、目に浮かぶ光景は一面の空だった。

『一緒に行く?』

それは、母の言葉。ひとりだった俺を旅に誘う、あの日の言葉だった。人形を手に、ベンチに腰掛ける。子供たちの遊ぶ声が耳に響く。賑やかな歓声が、幼い日の情景と重なっていく。

国崎往人。それが僕の名前だった。すごく小さいときから寺でお爺ちゃんと二人で暮らしていた。お母さんは僕をお寺に預けたままどこかに行っちゃって、行方不明っていうのだった。

「爺ちゃん爺ちゃん爺ちゃん」

「なんじゃそうぞうしい」

「どうして今日は町のほうがあんなに賑やかなの?」

「たくっ、そんなことも知らんのか。祭りじゃ。お祭り」

「おまつり?」

「興味があれば行ってきてもいいぞ」

 町の通り、そこに人が集まっていた。たくさんの人の足元をすり抜けて、人だかりの一番前に出る。

「うわぁ」

 思わず声が出た。

ボール、ナイフ、鏡、リボン、懐中時計……いろいろなものが宙に浮いて、飛び交って、くるくると回っていた。僕はその光景を夢中で見ていた。

よく見てみると、たくさんのその道具たちは一人の女の人が操っているみたいだった。その人が扇を持って舞うたびに、命を吹き込んでもらった小道具たちが空中を踊っている。

 わぁぁぁぁ、と歓声があがって、みんなが拍手していた。

 小さな夢のような世界。僕も必死で手をぱちぱちと叩き続けていた。

「こんにちは」

 みんながいなくなった後、さっきの女の人が僕に話しかけてきた。

「僕、お母さんは?」

その人は、すごく綺麗な人だった。宝石のようにきれいな長い髪、大きいまん丸とした目。どうしてか分からないけど、僕にあってとっても嬉しそうに見えた。

「知らない…」

 そう答えると、その人は少し悲しそうに目を伏せる。でもそれも一瞬で、すぐに視線を元に戻すと、

「僕、お名前は?」

「国崎往人」

「そう、往人って言うの」

 言って、少しだけ目を閉じた。何かを考えているようだった。そして、

「ねぇ往人、今からわたしがお母さん。あなたの母親」

 いきなりそんなことを言われても、どうしたらいいのか分からなかった。

戸惑って逃げようとすると、その女の人は、腰に下げていたポーチから人形を取り出した。

「この人形はね、人を笑わせる。楽しませることができる道具。ほら、持ってみて」

 手渡される。僕の手に、絹の温もりが触れる。

「動かしてみて」

どうすればいいのか全然分からない。手を引っ張ったり、顔をつついたりしていると、その人の手が僕の手に触れて、人形に指を押し当てさせる。

「指先を当てて。思えば通じる。思いは通じるから」

 それでも、人形は動かなかった。

「今、往人はどう思ってる? 人を笑わせたいと思ってる? そうじゃないと動かないよ。動かしたい思いだけじゃなくて、その先の願いに触れて、人形は初めて動き出すんだから」

 何を言ってるのかぜんぜんわからなかった。結局、人形を動かすことなんてできなかった。

 それから、数日。

「往人、来なさい。こっちよ」

手を引っ張られて行き着いた先は公園だった。僕と同じくらいの子がたくさんいる。人形を手渡された。

「その力でみんなを笑わせてあげるの。わたしじゃ、ダメみたいだから……だからね、行ってくるの」

 どうしてそんなことをするのか分からなかった。だから、人形を持ってその中にいっても、人形を動かすことなんてできなかった。誰もいなくなった後、ひとりで立っていたら、肩を抱かれた。

「往人は誰にも笑って欲しくない?」

 …分からなかった。

「わたしは笑って欲しいな。出会った人たちみんな」

 分からなかったけれど、もし本当にそうなれば、それはすごいことだと思った。

それから、その人はずっと一生懸命だった。僕に何かを教えようと、いつも不思議な、少し謎めいた言葉を僕に話してくれた。

「この空の向こうには、翼を持った少女がいる。それは、ずっと昔から。そして、今、この時も。同じ大気の中で、翼を広げて風を受け続けている。そこで少女は、同じ夢を見続けている。彼女はいつでもひとりきりで……。大人になれずに消えていく。そんな悲しい夢を、何度でも繰り返す……。わたしはずっと、旅を続けてきたの。空にいる少女を探す旅。わたしのお母さんも、お母さんのお母さんも、ずっとそうしてきた。そしてみんな、その子に出会った。とても悲しい思いをした。でもね、往人。わたしはあなたにそれを強要したくはないの。あなたはあなたの幸せを見つけて。ひとは、自分の幸せを見つけるために生きているんだから。ね、往人」

 そうして、一ヶ月がたった。

 ある日、その人は僕にこう言った。

「これから、わたしは旅に戻る。それがわたしの生業だから。いろんな人たちを笑わせるのが、わたしの生きがいだから。もし、もしね、こんなわたしでも家族だと思ってくれるなら……わたしはあなたを連れてゆくことができる。けど、わたしにそんな権利なんてないと思うから、それはあなたが決めて」

 僕は悩んだ。ずっと、ずっと考えた。たぶん、今まで生きてきた中で、一番悩んだことだと思う。

 初めてあったとき、その人は自分が僕の『お母さん』だと言ってくれた。僕にはお母さんがいなかった。だけどある日、それが変わった。

 あの人は一ヶ月ものあいだ、ずっと必死で何かを教えようとしてくれた。

あの日から、僕は何か変わったのかな? 何かを得たのかな?

 満月の夜。僕は、決意を固め歩いていた。

「爺ちゃん」

「…往人か」

 本堂に行くと、爺ちゃんはいつもの通り、仏様の前で座禅を組んでいた。

最近、爺ちゃんはどこか落ち着かない雰囲気があった。あの人が来てからずっと。たぶん、僕がここを出て行くかもしれないって話も聞いていたんだと思う。

「で、おまえはどうしたいんじゃ?」

「…僕は」

 今はまだ、ひとりきりの頃と変わらない。だから、僕は……。

気がつくと、爺ちゃんは笑っていた。笑って、僕の前にいつもと同じように酒瓶を出した。

「うるさいガキがいなくなって、これでせいせいするわ」

「爺ちゃん一人で大丈夫?」

「ふん、誰にものを言っておる。ワシはな、あと半世紀は生きてやるわ。それにおまえがいると食費がかさむんじゃ。まったく、おまえなんぞいないほうがいい。だからさっさと行っちまえ」

 貪るように酒を飲む。その姿は、どことなく何かを忘れ去ろうとしているようにも見えた。僕もそれに習って、少しずつお酒を口にいれる。下がピリピリする。やっぱり子供にお酒は早いと思う。

「これで、おまえとの杯も最後か」

「爺ちゃん、お酒、美味い?」

「ああ、おまえの顔を見なければもっと美味いだろうがな。それにしても、いつからこの酒はこんなにしょっぱくなったんじゃ?」

 爺ちゃんの瞳はぐしょぐしょに濡れていた。爺ちゃんが泣いているところなんて初めてだった。僕はだまってお酒を口に入れる。

 苦い。だけど、爺ちゃんの言うとおりどこかしょっぱかった。

 出立の朝。支度を終えたあの人が、朝日を背に立っていた。

「わたし、行ってくる。往人は、ここに残る?」

 この人と一緒に行けば、爺ちゃんと会えなくなる。それは、とても辛いことだった。だけど、僕はあの日から何も変わっていない。

「それとも、一緒に行く?」

「………」

「一緒に行く?」

「うん、お母さん」

 初めて、その人のことをそう呼んだ。

 お母さんとふたりで辿った旅路。一年もなかったと思う。

 小さな町に着くと、お母さんは早速道具を広げ大道芸を始める。大人も子供も目をきらきらと輝かせているのを見て、僕はそれが誇らしかった。夜は二人で寄り添って眠った。お母さんの温もり。始めての家族。あ、初めてなんていったら爺ちゃんが怒るか。

 人形を借りて念を込める練習もした。最初のうちは全然やり方がわからなかったけど、お母さんは根気よく教えてくれた。

 そうしてある夜、人形がひとりでに歩き出していた。

「うまくできたね」

 そう言って僕のあたまをなでてくれた。でも、どこか寂しそうだった。

 きっと人形を動かすのが下手だからだ。だから僕は一生懸命人形を動かし続けた。お母さんの笑い顔、それがもっと見たかったから。

それが、別れの始まりだとも知らず。

 夏の夜。屋台がたくさん並んでいた。「どうして」って聞いたら、今日はお祭りだからと教えてくれた。お祭り。お母さんと始めてあった日。

 その日は、月明かりの綺麗な夜だった。

「お母さん、見てて」

 よーく狙いをすまして弾を撃つ。

コンッ

コルクの弾は、ラムネのはいった入れ物を落とす。

「すごい、すごい」

 お母さんはまるで自分が落としたように喜んでくれた。

「はいっ」

 お店の人にもらったラムネをお母さんに手渡す。

 人形繰りを教えてくれたお礼と言って、プレゼントした。

 笑ってくれた。

 それから、色々なことをした。金魚すくい。ヨーヨー釣り。りんご飴なんてものも食べた。とても楽しかった。

 大木の梢がごうっと揺れ、あちこちで枝がぱしぱし鳴る音や、葉が落ちる音がした。いつの間にか、僕とお母さんは森の中にいた。

 お祭りの会場からはずっと離れてしまっている。僕の目の前では、焚き火がぱちぱちと激しく燃えていた。

「海に行きたいって、その子は言ったの」

穏やかな声で話し始めた。

「でも、連れていってあげられなかった。やりたいことがたくさんあったの。でもなにひとつ、してあげられなかった。夏はまだ、はじまったばかりなのに、知っていたのに、わたしはなにもできなかった。誰よりもその子の側にいたのに、救えなかった」

 一言一言、ていねいに語る声。

「女の子は、夢を見るの。最初は、空の夢。夢はだんだん、昔へと遡っていく。その夢が、女の子を蝕んでいくの」

 わからない言葉もあった。でも僕は、一生懸命に聞いた。とても大切なことを伝えようとしているのは、わかっていたから。

「最初は、だんだん体が動かなくなる。それから、あるはずのない痛みを感じるようになる。そして……女の子は、全てを忘れていく。いちばん大切な人のことさえ、思い出せなくなる。そして、最後の夢を見終わった朝……女の子は、死んでしまうの」

 そこで一度、言葉が途切れた。

 こみ上げてくるものを、必死で抑えているようだった。

「二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう。二人とも助からない。だから、その子は言ってくれたの。わたしから離れて、って。やさしくて、とても強い子だったの。だから……往人。今度こそ、あなたが救ってほしいの。その子を救えるのは、あなただけなのだから」

 そうして、人形をそっと持ち上げた。

「この人形の中には、叶わなかった願いが籠められているの。わたしのお母さんも、お母さんのお母さんも、ずっとそうしてきた。衰えてしまう前に、この人形に『力』を封じ込めてきた。いつか誰かが、願いを解き放つ時のために。だからわたしも、願いのひとつになる」

 お母さんは、僕から一度も目をそらさなかった。

 往人、と名前を呼ばれ、恥ずかしくて目をそらしそうになったけど、それでもじっと耐えた。

「今、わたしが話していることを、あなたは全て忘れてしまう。それもわたしが受け継いだ『力』のひとつ。あなたが思い出さなければ、わたしたちの願いはそこで終わる。これは本当なら許されないこと。あたりまえの日常に憧れ続けた、わたしのわがまま。あなたには自分の意思で、道を決めて欲しいから……」

 手のひらに、人形を乗せる。

「今からこれは、あなたのもの。これをどう使うかは、あなたの自由。ただお金を稼ぐためだけに、人形を動かしてしまってもいい。旅をやめてしまってもいい。人形を捨ててしまってもいい。空にいる女の子のことは、忘れて生きてしまってもいい。でもね、往人。きっと思い出す時が来る。あなたの血が、その子と引き合うから。どこかの町で、あなたはきっと女の子に出会う。やさしくて、とても強い子。その子のことを、どうしても助けてあげたいと思ったら……、人形に心を篭めなさい。わたしはあなたと共にあるから。その時まで……」

 そして、僕の目の前で信じられないことが起こった。お母さんの体が透き通っていって、お母さんの後ろにある大木の輪郭が、薄ぼんやりと見えはじめていく。

 消えかけているのだ。お母さんが。

「嫌だ!」

 言葉を張り上げ、夢中で抱きついた。透けていく体に、小さな手で、必死に。

それでも、止まらなかった。お母さんの体はどんどん透けていって、後ろの森の景色がどんどん鮮明になっていって……そして、消えてしまった。

 まるで、最初から存在しなかったように。

『さようなら』

 それが最後の言葉だった。気がついたときには、もう誰もいなかった。残ったのはちっぽけな人形だけ。何事もなかったかのように、炎がちろちろと燃えている。

僕は、忘れていた。空の少女のことも、人形のことも、それら全てを。

 置き去りにされた。

何もかも忘れてしまった僕には、そう考えるのが精一杯だった。そうして、人形を手にお母さんを探し続けた。来る日も来る日も探し続けた。

始まりは、母を探す旅。もう一度母の笑顔を見たかった。それだけだった。

母がいないことを受け入れた時、旅の目的は変わった。母から教えられた言葉のかけら。この空に少女がいる。その子はずっと悲しんでいる。

だから、その子を笑わせてみたいと思った。今度はそれを目的に歩き始めた。

 あの日失ったもの。それをもう一度、見つけようとしていたはずなのに、なのに俺は、人形を生きるための、金を稼ぐための道具としてみるようになっていった。ただ口上を言って、子供たちの親から日銭を稼ぐようになって、そして何度目の夏だろう。

 一人の少女と出会った。いつだって笑顔で俺のそばにいた。

 青空の下で続いてきた夏。ずっと隣に笑っていた観鈴。俺は見つけていた。あの日失ったもの。あの日から、それを探すために生きてきた。そして、それを見つけていた。俺はただ、笑ってくれる誰かがそばにいればよかった。そうして、人を幸せにしたかった。自分の力で、誰かを幸せにしたかった。そうしていればよかったんだ。ずっと探していたものとは、そんなありふれたものだったんだ。この手で笑わせてあげたいと思う存在。

 海辺の町で出会った少女。いつだって元気で、俺と一緒にいた少女。

 あいつはいつだって、俺のそばで笑ってくれていたのに。なのに今、俺はそれをなくそうとしている。いつだって、俺は気づくのが遅すぎる。また失ってしまうのだろうか。

 気づくとバス停に座っていた。日はとっくに沈んでいる。バスが来た。

「乗ってくかい?」

 運転手が言う。

 俺が首を横に振ると、バスは排気ガスをふかしながら去っていった。俺が今いくべき場所は、そっちじゃない。

 来た道を戻る。自然に足が早まる。息を切らして、角を曲がる。

見覚えのある風景、いつまでも続く夏の中で、たったひとつ足りないもの。

この町に降り立って間もない俺に、笑いかけてくれた一人の少女。

もう一度、その少女に会いたくて……。

 そして、たどり着く。

玄関をあけると、ばたばたと廊下に音を立てながら走っていく。暗い部屋に、クーラーの冷気が淀んでいた。

観鈴は眠っていた。寝息さえも、苦しそうだった。

その顔を見つめる。助けは来ないと、諦めた人の顔に思えた。

「観鈴、ここ座るな」

いつも寄り添っていた場所に、俺は腰を下ろす。

「戻ってきたんだ。もうどこにいかない。おまえと一緒にいて、おまえを笑わせ続ける。そうすることにしたんだ。だからな、観鈴……起きろ」

肩をそっと揺する。

「観鈴、俺だ」

 返事は、ない。それでも根気強く呼びかけ続ける。

「うん……、往人さん」

 単なる寝言かもしれない。だけど、それでも俺の呼びかけに答えてくれたような気がした。

「辛いなら、そのままでいい」

「う……ん」

 少しだけ意識があるようで、その目がようやく開かれた。

か細い声。もう何年も床に伏せている病人のようだった。

「いいか、これからおまえのために人形を歩かせてみせるから。だからよおく見てろ、また笑えるようになる」

 人形を取り出し、枕元に置いた。祈るように念を込める。

 とてとて……とてとて……。

「な、おもしろいだろ。観鈴、見てくれてるか。おかしいだろ」

 観鈴はもう、目を開けていなかった。

「観鈴、起きろよ。見てくれよ。それで、笑ってくれよ」

 その手を握る。かすかな力で、握り返してくるその指先が冷たい。

「俺、やっと気づいたんだ。俺はおまえのそばにいて、おまえが笑うのを見ていれば、それでよかったんだ。そうしていれば、俺は幸せだったんだ。だから、俺はおまえのそばにいる。もうひとりで夜を越えることもない。俺がいるから、俺が笑わせ続けるから。おまえが苦しいときだって俺が笑わせるから。だから、おまえはずっと俺の横で笑っていろ。安心して笑っていろ。な、観鈴」

 時間だけが過ぎてゆく。俺は一度も観鈴の元を離れなかった。ただ心を籠めて、人形を動かし続けた。

 観鈴……。

 俺は見つけたから。いちばん大切なものを。俺の幸せを。だから、ずっとここにいる。どうなろうとも……、俺がおまえがどうなってしまおうとも。ふたりはここにいる。居続ける。ふたりで幸せになる。

「な、観鈴」

………。

……。

…。

夜明け。

時は流れていく。誰の思いにも、関係なく。

ガチャ。

玄関の鍵が閉まる音。内側から鍵がかかったようだった。むろん、往人がこの家の鍵を持つはずがない。法術、ものを自在に動かす力。それを使えば、鍵をかけるなんてことは造作もないことだった。

「二人で幸せに……」

 

 

 商店街。幼い少女と観鈴と同じくらいの年齢の男が、連なって歩いていた。少女の顔は見覚えがある。いつか駅であった、みちるという女の子。

みちるは歩みを止めると、空を見上げる。

「ん、どうした。みちる?」

「鳥たちが騒いでる。もうすぐ、大きな風が来るって」

「風?」

「わたし、もう行かなきゃ」

「行くって、おい……どこに行く気だっ」

みちるは再び走り出す。今度は止まることはなかった。まるで、鳥たちに導かれるように……夜の闇の中へと消えていく。

 

 

 

 

 こうして、開幕ベルは鳴り響いていく。『夢』が終わりを告げ、千年の物語は、海辺の小さな田舎町でゆっくりと動き始めていく。

空からは、銀色の光りを放つ『羽根』が、ひらひらと舞い降りはじめていた。

Next season Feather

 

 

             あとがき

 というわけでこれにてDream編終了です。原作では最後に往人が子供にどうやったら人形劇が面白くなるかの教えてもらうわけですが、この話ではそのエピソードはありません。理由としては、それをやってしまうと往人のとった行動を完全に肯定してしまうからです。往人の取った行動は正しかったのか、それとも間違っていたのか。その部分をあいまいにするために、あえて子供のエピソードをカットしました。あの部分はいい話過ぎてどうしても話が肯定的になってしまいますからね。

 この作品ではほぼ原作のストーリーをなぞっていますが、それはこの作品がAirを独自解釈した二次創作だからですね。Airを知らない人にAirを知ってもらいたい、という考えが書き始めたきっかけのため、細かい部分は違いますが大筋は全く同じになっています。

 また今回の話を読めばわかるように、往人はほとんど再起不能といった状態なので、次の章では別の人物が主人公となります。

 Dreamでは世界観の紹介という部分が大きかったですが、次章ではもう少し深く様々なエピソードを掘り下げて行くことになるでしょう。

 それでは長くなりましたが今回はこれにて終わりとさせていただきます。







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