「なぁ、リョウスケっ! リョウスケったら!!」

「――んだよ」

太陽がサンサンと輝く、暑苦しい夏の午後。
俺は時間と睡眠を等価交換させながら、ソファーで身体を横にして休息を得ていたが
その矢先、赤髪の少女――ヴィータがユサユサと身体を揺すぶってきた。

「これって何だ?」

差し出されたのは、料理の本。
この活発という単語をそのまま人間にしたかのような少女に料理の本。
ハンマーやドリルの方が遥かに似合うような少女に料理の本である。

「くっくっく……」

「な、なに笑ってんだよ!?」

「いや、お前が料理をするなんてな」

「う、うるせぇ!!」

思わず吹き出してしまったことに腹を立てたのか、ヴィータは持ってきた
本を投げつけてくる。
だが、毎日欠かさず続けている朝の鍛錬の賜物だろうか――俺は、
真上から落下してきた本を首をヒョイとずらすことで回避する。
ったく、少しは物を大事にしてもらいたいもんだ。

「あらあら、リョウスケさん、お料理ですか?」

「ほう……宮本が料理をするとは珍しいな」

先ほどの会話を聞いていたのか、物腰が柔らかそうな金髪の女性―シャマルと
長身の桃色髪の女性――シグナムがリビングにやってくる。

(やれやれ、これじゃ今日も騒がしそうだな……)

そんなことを考えながら、ふとソファーの下に無造作に落ちている本を手に取る。
何やら、折り目のようなものがついており、開かれたページには――

「――寿司か」





To a you side 三次創作 「そんな一日」





夕食が決まれば、次にすることは買い物である。
俺は出前で済まそうと『鈴村寿司』にこっそり電話をかけようとしたがはやて達に
見つかってしまい、止む無く家から2kmほど先にあるスーパーへ
はやてとシャマルと共に買出しに行くことになった。

「大体なぁ、なんでもかんでも出前やコンビニで済ますのが現代人の悪い癖やねん」

「そうですよ、リョウスケさん。料理は愛情なんです」

「――はぁ」

何やら二人して独自の料理論を語ってくれている。料理に関しては欠片の知識もない
俺には何も言い返すことは出来ず、ただただ生返事を繰り返すばかりだ。

「現代人は栄養が偏りすぎとんねん、全く」

「……」

お前はほんとに小学生か、と突っ込みたかったが。




「なぁ、はやて――足は平気か?」

「うん、最近痛みもなくなってきとるんよ」

「そうか、そりゃ良かったな」

俺の居候先の小さな主――八神はやては、足に障害を負っている。
先天性のものらしく、2本の足の代わりに車椅子を自身の脚としている。
自然治癒する確率は極めて低いと言われているが、本人はその可能性を信じて
疑わないかのように週に4度のリハビリを続けている。
仮に俺に魔法のようなものが使えたならば真っ先にこの少女の脚を治してやりたいが
生憎と俺は魔法使いでもないし、奇跡を起こすような偉人でもない。
してやれることと言えば、こうして励ますことくらいか。



休日ということもあってか、昼間に分類されるこの時間でもスーパーには
それなりに客が入っているのが、その活気から察することが出来た。

「リョウスケ、お魚は何がええかな?」

「そうだなー……まぁ、そこのお刺身セットで――」

「却下! なんでリョウスケは楽しようとするん!?」

どうやらはやての逆鱗に触れてしまったらしい。どうにもこの少女、料理に限らず
手作りに凝る傾向がある。これはまぁ、居候し始めて気づいたことだが。

「はやてちゃん、これなんてどうでしょう?」

「鯛かぁ、うん、これは買いやな」

放っておいたら1時間でも2時間でも説教を続けそうなはやてにシャマルがフォローに入る。
なるほど、後方支援担当の守護騎士の名は伊達ではないようだ。


シャマルが魚を選び、はやてと俺が吟味し、時には口論しながら決める。
まぁ口論と言ってもほとんど俺への説教のようなもので
小学生に説教されるという状況はなんとも情けないものがあるが。

これを繰り返しながら――

「こんなもんかな?」

「そうですね、色合いも良いですし」

「むぅ……」

「どうしたん? リョウスケ」

確かに色合いも良い。偏りもなくバランスも良い、合計した値段も手頃だろう。
だが決して気づいてはならない――



リョウスケが最初に選んだ『お刺身セット』と大差ないことに。



暑さと時折聞こえるミンミンという虫の鳴き声が夏という季節を実感させる。
時間は2時を過ぎたあたり。
本来ならば子供が遊んでいてもおかしくない時間帯だが、この暑さだ。
時折通り過ぎる公園からも子供の遊び声はほとんど聞こえてこない。
おそらく、家の中で遊戯に没頭しているのだろう。

日差しが暑い、いやほんとに暑い。

暑い――というよりはむしろ

(重てぇ……)

はやてとシャマルは袋を一つずつ、俺はパンパンに膨らんだ袋を二つ。
別に自分をフェミニストだとか自称しているわけではないが
それでもこの二人に重たいものを持たせるのはどこか気が引けた。
その結果がこれである。自業自得と言えばそれまでなのだが。

(おのれ、ザフィーラめ……)

その鬱憤をはやて宅で悠々自適に過ごしているであろう盾の守護騎士にぶつける。
まぁ八つ当たりである。





パタパタパタ

「おい、シグナム! それ細すぎだろ!?」

「問題ない――それよりヴィータ。サラダというのはただ掻き混ぜれば良いわけじゃないぞ?」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ねっ?」

パタパタパタ

「『手巻き』に『握り』、結構いろんなのがあるんですね」

「そうやな。私は『ちらし』なんかも好きやけどな。ザフィーラはどうや?」

「主はやての好物ならいかなる物でも」

「あはは、ザフィーラらしいな」

パタパタパタ

(なんで俺だけ酢飯作りなんだ?)

ちょっぴりブルーになってしまう俺だった。
まさか酢飯作りがこんなに孤独で単調作業だったとは。


どうせ作るんやったら皆で作ろう、というはやての意思により全員での寿司作りを
開始したのだが、普段から料理を仕切っているはやてとシャマル以外は素人同然である。
必然的に俺=酢飯、ザフィーラ=セッティング、ヴィータ=サラダ、シグナム=包丁
といった具合に役割分担させられてしまった。
セッティングとかいう訳の分からないものよりはマシだと割り切ってこの仕事を請け負ったが
失敗だったかもしれない。



『いただきます』

時刻は6時過ぎ、昼の暑さが嘘のように一変し、涼けさと静かさが夜の到来を告げる。
完成した料理を前に、全員で手を合わせて、そう言葉にする。

なんだかんだ、文句を言いながらも完成した料理はそれなりに魅力的だ。
大皿いっぱいに盛られた手巻き寿司、その隣にある中皿にはマグロと鯛の握り寿司。
他にも見渡せば、ボールに飾り付けられたサラダとノンアルコールのシャンパンが2本。
そりゃあ、料亭や専門店のそれに味は及ばないかもしれないが、人に作って"もらった"ものと
違って自分たちで作ったものには味に『工程』というスパイスが塗してある。
だからこそ、こんなにも――



「リョウスケ、酢の分量量ったん?」

「なぁ、リョウスケ……ご飯、固いぞ……」

「リョウスケさん、もう少し、お酢は薄いほうが……」

「宮本、水の分量は量ったほうが良いぞ」


――美味しい、はずだったのだが。

なにやら、かなり不評を買ってしまったリョウスケ専用シャリ。


「ヴィータ、これ手で千切っただろ?」

「うるせぇなぁ……シャマルが大体で良いっていうから」

「あら、私のせいですか、ヴィータちゃん」


まぁ、一つだけ救いがあるとすれば――





いつも以上に皆が笑顔だったことくらいか。






いや、続きませんよ?



独り言

三次創作プチブームに乗っかってみた。反省はしていない(´・ω・`)

大体リリカルなのはは登場人物が多すg(ry









作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。