FenrirFang 1stPhase『encount』












藤原拓真は両親の顔を知らない。


二人とも共働きで、仕事を最優先にするタイプだった。かといって、親に対する恨みつらみは別段抱くことはなかった。


というよりも物心ついたころから彼の傍に両親の姿はなく、一度も会ったことのない人たちに対して何の感情も抱けるはずもないというのが正直なところだ。


それに、彼には祖父が親代わりとして育ててくれているので特に不満もなく今まで生活してきた。


唯一、あまり乗り気のしない剣術の修行を除いてではあるが。


今日も早朝の素振りと筋トレを終えてからの登校である。


正直、体がだるくて仕方がない。


そのため、学校の体育以外の授業では大抵夢の世界に旅立つことが彼の日常となっている。


(祖父ちゃん普段は優しいけど、剣術のことになると鬼だからなあ。俺、まだ小学生なのに容赦なさすぎだろ)


深い溜息をつきながら、いつもの場所で立ち止まる。


彼の通う聖祥小学校は登下校にバスが出ているため、それを利用しているのだ。


「便利というかお金持ちというか……」


楽ができるので文句はないが、どうも自分の通っているところは金銭感覚が庶民とずれている気がする。


中には本物のお嬢様もいるので懐は相当温かいのだろう。


そんなところに通っている自分も自分なのだが。


普段通り時間に来たバスに乗り込み空いている席を探していると、最後部の座席に三人で座っている少女たちの姿が目に入った。


幼いながらもその整った容姿にファンクラブが出来ているとか言われている、学校では中々に有名な存在である。


学年が違うため話したことはないが、彼女たちの顔と名前については拓真も一応知っていた。


(あの有名なバニングスと月村のお嬢様と確か……高町、だっけか)


興味が無いわけではないが、彼女たちとは何の接点もないので、直接話したことはない。今後も特に関わることなく終わるだろう。BR>

三人が仲良く話しているのを傍目に、運良く空いていた運転席の真後ろの席に座ることにした。














「そろそろ起きろよ藤原。もう放課後だぜ」


「ん……ふぁあああ、ああ良く寝た。んじゃ帰るか」


軽く背伸びをして体をほぐす。周りには既に人はなく、拓真と起こしてくれたクラスメイトしか教室に残っていない。


時計が3時を回っているので、もう皆帰ったか部活に行ったかだろう。


「……お前ってほんとよく寝るよな。二限ぶっ通しで授業中寝るなんて俺でも無理だわ」


「寝る子は育つんだよ。よく言うだろ?」


「ばーか。んじゃ、俺は部活あるからもう行くな」


「ああ、お疲れさん」


教室を出ていく同級生を見送った後、帰る用意をして学校を出る。


行きとは違い、帰りは家までランニングで帰る。


これも剣術修行と同じく、拓真にとっては日課となっている。


(言いつけどおりにしないと雷が落ちるけど……やっぱめんどくせえや)


学校から家前での道のりを考えると、溜息しか出てこない。


祖父は、他のことには寛容というか放任主義的なのに、修行に関することにはやたらと厳しいのである。


なぜかは分からないがランニング等傍で見ていないものでもさぼればわかるらしく、描写するのは控えたいほど恐ろしいお仕置きが待っている。


かといって、それで本人のやる気が上がるわけでもない。


それに、買い食いも禁止されているので何一つ楽しみがないというのもきつい。


普段通りに退屈という名の苦痛に耐えながら、ただひたすらに走る


しかし今日に限って普段通りではないことが起こることに、この時点では彼には知る由もなかった。














《我……求め……》


「……ん?」


ランニングの途中、突然どこからともなく聞こえてきた声に立ち止まる。


しかし、まわりには人のいる様子はない。


気のせいかと思い、また走り出そうとした時にそれは拓真の頭に直接響いてきた。


それも、先ほどよりも確実にはっきりとした声で。


《我が声を聴く資格を持つ者よ。我と契約を》


「な、なんだこれ……頭に、響いて……ってあれは?」


遠くの方でかすかに光る何かが見えた。石か何かが反射しただけかとも思ったが、先ほど聞こえてきた声のせいかやけに気になる。


近寄ってみると、狼が彫られた指輪が落ちていた。


「誰かの落し物か? ってうわ!」


拾い上げた瞬間にその指輪が強く光った。同時にまた頭にあの声が響く。


《我と契約を。さすれば、我は汝が敵をかみ砕く牙となろう》


「っつう……まさか、さっきから俺の頭で聞こえてるのって……」


恐る恐る指輪を見つめる。と、それに応えるかのようにまた響いた。


《まだ気づいていなかったのか。先ほどから汝に語りかけているのは我だ》


「……マジかよ。ドッキリとかじゃないだろうな、これ」


《疑っているのか?》


「いやだって……なあ? 普通指輪がしゃべるとかないだろ。ひょっとして、俺まだ寝てるんじゃないか?」


頬を思い切り抓ってみる。かなり痛かった。


「いてえ……てことは夢じゃないのか? これ」


《事実を否定しても、何の解決にもならんぞ? これは紛れもない現実だ》


その指摘は正しいはずなのに、癪に障るのはなぜなのだろう。


明らかに非現実的な存在に常識をさとされたからではないと思いたい。


「確かに少しは刺激が欲しいかなとは思ってたけど、ここまでアレなのは流石にいらんかった……」


がっくり項垂れる。


認めたくないが認めざるを得ないらしい。


自分にはこの指輪の声が聞こえるのだと。……甚だ不本意だが


「で、契約とかがどうこうって言ってたけどありゃなんだ?」


《我が声が聴こえる者は、須らく遠くない将来に戦いに身を置くことになる。


我は、その者の障害となるものを砕く力となるものだ。契約を交わした者に限るがな》


「えらく迷惑な話だなおい。厄病神じゃないかそれ。やだやだ、俺はごめんだね」


《では、汝には契約する気はないと?》


「当たり前だ。そういう物騒な話には関わらないことにしてるんだよ、俺は。他に話を聞いてくれる奴を探せよ。じゃあな」


言って、指輪をその場に置いて背を向ける。だが、視界に映ったのは所々に電柱があるだけの普通の道ではなく。


《そうか……ああ、言い忘れていたことがあった。我が声が聞こえるのは、その時において唯一人。そして、先ほど述べた様に声が聞こえた者は――――――》


『SHAGYAAAAAAAAAAA!!!』




全身を黒い何かで覆われた巨大な異形の姿だった。


《須らく遠くない未来に戦いに身を置く運命にある。本人の望むと望まざるとに関わらずにな》


「……!? なんだ、こいつ!?」


『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』




吠えると同時に、ソレは無数に生えた触手のようなものの一つを拓真に向って振り下ろしてきた。


「っ!!」


即座に後方へと飛んで避ける。直後、彼がいた場所のコンクリートが粉々に砕け散った。


あんなものを喰らえば、死ぬどころか体がバラバラだ。ぞっとしないどころではない。


『GRRRRRRRRRRRRRR……』


すぐに次が来るかとも思ったが、向こうは一撃を放ったままその場を動かずにこちらを見ていた。


(何かを警戒してる? 何を……って、こいつか?)


先ほどの衝撃の余波で飛ばされたのか、いつのまにか足もとにあった指輪を拾い上げて異形に向ける。


それに合わせて異形が後ずさる。


(間違いない。あの化け物はこいつを恐れてる)


喋る指輪、訳のわからない黒づくめの化け物。常識で言えば絶対にあり得ないものに二回も遭遇してしまった。


今でも目の前に広がる光景を否定したい気持ちはある。だが、それよりもまず身に迫っている危険を潜り抜けることが先決だ。


このままただじっとしていれば、よくて大怪我、悪ければ死ぬ。


ならば、どうするか。


逃げる、もしくは助けを呼ぶという選択肢は駄目だ。騒ぎと被害が余計に大きくなるだけだ。


かといって、自分ひとりで立ち向かうのはただの無謀であって勇気ではない。


とすれば、残るのはこの指輪くらいしかない。


(意外と冷静だな、俺。もっとテンパってそうなもんだけど)


いつでも冷静でいろと常日頃祖父に修業させられている賜物かもしれない。


先の攻撃を避けれたことと含めて、初めて修行していて助かったと思う。


「おい」


《何か?》


「あの化け物、さっきからお前のこと警戒してるみたいなんだが、あいつをどうにかできるか?」


《当然だ。あの程度であれば造作もない。だが、なぜそのようなことを聞く?》


「ほんとは嫌で仕方ないが、状況が状況だ。お前と契約してやる」


《良いのか? 面倒は嫌だと言っていたではないか》


「お前が言ったんだろうが、否応なしに巻き込まれるって。それよりも早くしろ。向こうがしびれを切らしかけてんだからよ」


流石にこの膠着状態に苛立ってきたのか、異形が震えているのが分かる。あれは何かあればすぐに拓真に飛びかかってくるだろう。


《了解した。ならば新しき我が主よ。我が名を呼び、セットアップと叫べ。さすれば我は主の力となろう》


「そんだけでいいのかよ。えらく簡単だな……それで、お前の名前は?」


《フェンリルだ》


指輪をはめる。ちょうどいい大きさだ。


フェンリル。確か北欧神話に出てくる巨大な狼だったか。


拓真の好きなゲームの主人公が乗っていたバイクの名前でもある。悪くない。


「いい名前だ……フェンリル、セットアップ!!」


直後、周囲が黒い光に包まれる。矛盾しているようだが、そうとしか表現のしようがない。


全てが黒一色に染まるのと同時に、服が足元から剥がれるように消えていく。


「うわ!? お、おいこれは!?」


《案ずるな。ただ戦装束へと切り替わるだけだ。終わればすべて元に戻る。それよりも想像し、創造しろ。主の戦装束を》


「想像しろっていきなり言われても……まあいいや、これに決めた!」


光が消えると同時に彼が身につけていたのは、左肩にのみ肩当てのついた藍色の服だった。


防御よりも動きやすさを重視した、先ほど挙げたゲームの主人公が着ていたものと同じである。


そして、彼の手にあるのはこれまたその主人公の持っていたものによく似ている片刃の大剣である。


違いは、ゲームでは二つ穴が開いていた部分に黒い宝玉のようなものがはまっているくらいだろう。後は見た目に比べて異様に軽いことか。


小学生の自分が振り回されないちょうどいい重量だ。


それにしても……


「これじゃまんまアレのパクリだな……まあ、いいか」


《何の事だかわからんが……来るぞ》


待ちきれなくなったのか、それとも危険を察知したのかはわからないが異形は触手ではなく体をぶつけてきた。


今度は避けずに大剣で受け止める。衝撃は予想よりも軽く、手が少ししびれた程度だ。


「あれ? こんなに軽いはずはないんだが」


どうにもおかしい。触手ですらコンクリートを砕くほどなのに、全身での体当たりがこれほど弱いはずがない。


《今の状態の主の身体能力は本来よりも引き上げられているからな。この程度ならば、問題ないはずだ》


「そうなのか。そりゃいい、や!」


流石にこんな近距離で睨みあいは勘弁なので、撫で切りにしながら押し返す。


『GAAAAAAAAAAAA!!』




身悶えして苦しんでいるところを見ると、想像以上にダメージを与えられたらしい。


どれだけ力が上がっているのかは知らないが、これならいけそうだ。


「あんまりちまちまやるのは好きじゃないからな。一気に決めるにはどうしたらいい?」


《刀身に全ての力を集中させろ。その一撃ならば、奴を葬ることが可能だ》


「力を集中って、どうすりゃいいんだ?」


《簡単だ。刀身に意識を集中させて、奴にぶつければいい》


成程、単純な話だ。それなら毎日祖父に嫌というほどやらされている。


(いつも通りにやればいける。祖父ちゃん相手にやるように……)


少しずつ、刀身が輝きを増していく。それをみて異形が怯えすくんだように見えた。


《充分だ。さあ、奴に牙を突き立てよ!!》


「はあああああああああああああ!!」


全力疾走で距離を一気に詰め、直前で跳び上がる。


そして、引力も味方につけ全ての力を異形に叩きつける!!


「くらえ、ブレイバー!!!」


斬!!




『GYAAAAAAAAAAAA!!!』




真っ二つに裂かれた異形は、断末魔の叫び声を上げながら溶けるように消えていった。


「我ながら凄い威力だなこれは。地面までパックリ割れてら」


《最初にしては上出来といったところだな。しかし、ぶれいばーとはなんだ?》


「ああ、まあ何だ。その場のノリってやつだ。というか切羽詰ってたから言わなかったけど、お前剣だったんだな」


《そういえばそうだったか。これが我の真の姿だ。通常時は指輪の形態をとっており、有事の際にはこのように本来の姿となる》


《ふむ……まあそのことについてはいい。それよりも今後についてだが、如何様にするつもりだ?》


「今後、ねえ」


改めて、手に持っている大剣と身につけている服を見る。


(こいつ……フェンリルの言う話も嘘じゃなさそうだし。そうなれば、ここでこいつとおさらばしても俺はこの先も同じような目にあうって訳だからなあ)


先のことを考えるとうんざりするが、嘆いてばかりいても仕方ないのも事実。


もしそうなら、とりあえずしばらくはこいつと付き合っていた方が対処のしようがあっていいだろう。


「とりあえず俺が落ち着けるようになる当てはあるのか?」


《そうだな…おそらく此度の件については一つ考慮される要素があるが……》


「……ん? 何だあれ?」


今まで気づかなかったが、異形を叩き割ったところに蒼い宝石が落ちていた。


おっかなびっくりに拾い上げてみるが、特に何か起きる気配もない。


「なんだこれ? フェンリル、わかるか?」


《それこそが我の言った要素に該当するもの。ジュエルシードというロストロギアだ》


「ロストロギア?そりゃ……」


いったい何だと声を続けようとしたが、それは突然の介入者によって遮られた。


拓真の目の前に降り立った、自身の金色の髪と同じ色の刃を持つ鎌を構える美しいという形容詞がついても差し支えない少女と、それに付き従う狼のようなモノ。


「お願いです。それを渡して下さい」


それが、彼が魔法という非常識な世界に巻き込まれたきっかけとなる出会いだった。


クラスメイトが見れば発狂しそうなほどの美少女とついさっき相棒になったばかりの大剣を見比べ、拓真はこう思った。


ああ、今日は間違いなく厄日だ、と。それも、短いながら今までの人生で最悪の。
















SorrowBradeを読んでくださっている人はお久しぶりです。それ以外の人は初めまして。AREXです。



ほんとはSorrowBradeの方の続きを書かなきゃいけない所なんですが、どうにも詰まってしまって。



期間も空いてしまったので、リハビリも兼ねてなのは単独で一本行こうと思って出来上がったのがこれです。



でも、原作の主役級は名前だけ、台詞だけという……。全然なのはじゃないです。すみません。



フェンリル関係に関してはモロアレです。ていうか、主人公の言ってた通りパクリといって差し支えないレベルです。(何



しかも、魔力だとかデバイスだとかいう単語も一切なし。かろうじてセットアップくらい?



というか、契約がこの程度で済んでいいのだろうか……



いろいろと突っ込みどころはありますが、一応フェンリルについても含めて次で補完するつもりなのでご容赦を。



それではまた次回お会いしましょう。








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