何処とも知れぬ次元の狭間。本来ならば塵一つ存在しない世界。


生あるものを拒むはずのその世界を『彼ら』は彷徨っていた。


『彼ら』の行動原理は唯一つ、ただただ命じられたことを遂行するのみ。


『彼ら』に与えられた任務、それは……











SorrowBrade第五話「Trust」―前編―












なのはとはやてに真実を打ち明けてから時間にして一日が経過したが、今のところラダムが現れる様子はない。


その後自分の部屋へと戻った時、扉の前で待ち伏せしていたリンディから自分が眠っていた間の状況を聞かされた。


まず自分の処遇についてだが、身柄についてはこのアースラ預かり、つまりリンディに任されるとのことだった。


艦内の移動については艦内を破損しなければある程度は自由にしていいということだったが、要は体のいい軟禁だ。


自由に動いてもかまわないということは、いつも何処かしらから監視の目に晒されているはずだ。


これほどまでに高度な技術で造られた艦だ、自分一人の監視など簡単なことだろう。加えて魔法のこともある。


いつでも対処できる自信があるのだろう。でなければ余程のうぬぼれだろうが。


ラダムの襲撃に関しては、自分が気を失った後すぐに奴等は撤退したらしい。戦力面や攻め方から考えれば、あれは


自分を狙っていたというよりも管理局の戦力を測っていたようにも思える。


もしも本気で潰しにかかって来ていたならテッカマンが出てくるはずだ。だが、そのような姿は一切確認されていなかったという。


(……何が狙いだ。奴等は俺を殺すために追ってきたのではなかったのか?)


ラダムの目的が何なのかはわからない。自分の中にあるラダムの記憶を辿っても答えらしきものは浮かんでこない。


今回の戦闘で死者はかろうじて出なかったものの、かなりの人的被害が出たということで各部隊の再編や組織の立て直しで


管理局は相当混乱しているという。


むしろ誰も死なずに済んだということに驚きを覚える。


前の世界では、ラダムに襲われたものはほぼ例外なくその命を奪われていた。


それを思えば、このような結果に終わったのは僥倖といえる。


最後に、アースラは巡回を終えて一度あの本局に戻るとのことだった。整備と報告を兼ねてのことらしい。


意外なことに、彼女の口からフェイトの話題が出ることはなかった。


リンディがフェイトの母親だということは聞いていたため、何かしら言われるかとも思っていたのだが。


あくまでも、艦長として伝えるべきことを伝えに来ただけだったということだろうか。彼女個人からしてみれば


自分に言いたいことは山程あるだろうに。


こちらから切り出すべきかとも思ったが、出来なかった。言葉では何も解決しない。


ならば行動と結果で示すと誓ったばかりなのだ。あの場で謝っても仕方がない。


だが、この体は時限爆弾を抱えている。それも途方もなく凶悪な。


(次の戦闘でも、俺は無事生きて戻ることが出来るのか……?)


結果的に敵を倒すことが出来ても、その時自分が暴走していては同じことだ。


自分がわからなくなれば、それは死んだも同じこと。いや、周囲に破壊を撒き散らす分余計に性質が悪い。


しかし、その時のために伝えるべきことは伝えた。後は、あの二人がそれを実践してくれるか他の者に伝えてくれることを


願うばかりだ。


今は身体を休めておかなければならない。僅かな間であっても眠れるだけは眠っておかなければ。


(……そういえば、あの後から二人と顔を合わせていないな。追いかけてくるかと思ったんだが)


二人の、特になのはの驚いた顔が頭に浮かぶ。そんな表情もよく似ていた。


(あいつも、昔俺たちがふざけておどかした時にはあんな顔していたな……)


どうしても面影がかぶる。


心配しているときや困ったときに浮かべる表情、そして何より笑っているときの顔が。


(だから、かもしれないな……あいつらに話そうと思ったのは)


認めざるを得ない。なのはを含めて、あの三人の少女と話している時の自分はあの頃の自分に戻っている。


それを無理に押さえつけて突き放していた。


妹のように感じていたからこそ、だろう。過去を切り捨てた筈の自分にとって、それは認めるわけにはいかないものだった。


もし認めてしまえば、弱くなってしまう気がしたから。誰かに心を許してしまえば、それが奴等の突け入る隙になる。


だから、これ以上自分のような者を出さないために誰も巻き込むわけにはいかない、関わり合いを持たないと決めたのだ。


自分のことで傷つき悲しむ人を見たくはなかったから。


けれど、自分はもう充分過ぎるほどにこの世界の者達と関わってしまっている。


彼らが元の世界の軍の奴等と違うということはとうにわかっている。


少なくともこの艦の連中はそうだろう。でなければ、今頃は研究材料としてモルモットのような扱いを受けていたはずだ。


先の戦闘では互いに協力もした。こういった関係に相応しい名前は何なのか。


「……仲間、か」


恐らくそうなのだろう。確証はないが、あの少女達は自分をそのように扱ってくれていたように思う。


少しは認めてもいいのかもしれない。彼らが自分にとってそうなのだと。


そう思った途端、強烈な睡魔に襲われた。


なんだかんだで、戦い始めてから今まで緊張の糸が張り詰めたままだった。休む間も、本当に安らいだことなどなかった。


ようやく本当の意味で安らぐことができそうだった。それは、共に戦う仲間という存在のおかげかもしれない。


体を休めることも、時には必要なことだと言い聞かせ、ベッドに体を横たえる。


今は彼女が目覚めることを願って戦うしかない。そして彼女に謝らなければ。


来るべき時までの休息だと思い、睡魔に身をゆだねて眼を閉じた。














「ねえ…レイジングハート」


“What?”


「私、どうすればいいのかな……?」


あれからずっと考えていたが、なのはには答えは見つからなかった。


Dボゥイは万一の時になったら自分を殺してくれと言ったが、なのはにそんなことが出来るはずがなかった。


はやても同様だ。今頃自分と同じように悩んでいることだろう。


(それに、どうしてかわからないけど……)


それまでに比べて優しい眼をしていたような気がした。突き放すのではなく、しっかりと向かい合って話をしてくれた。


だからこそ、彼の頼みを聞くわけにはいかないのだ。死なせてはいけないと感じた。


“Please do as you like,master”


「え…?」


意味が良くわからなかった。どうすればいいのかわからないのに、自分の思うようにしろというのは矛盾していないか。


“If you want to follow him,I will help master”


彼を助けたいのなら自分が力になる。だからあなたの好きなようにして下さい。


自分がしたいと思うこと、正しいと思うことをやればいい、そう言ってくれている。少なくとも、なのは自身にはそう聞こえた。


「ありがとう、レイジングハート。でも……」


自分はどうしたいのか、何をすればいいのかが彼女にはまだ見えていなかった。














同じ頃、同じ悩みに頭を抱える少女がもう一人いた。


(止めたところでDボゥイさんは言うこと聞いてくれへんやろうし、どうすればええんや)


あれからずっと考えてはいるものの、良い方法など一つも思いつかない。


彼が何故ラダムと戦うことになったのか、その理由はわからない。しかし、彼の決意が非常に固いものだということはわかる。


自分達が止めたところで戦うことをやめるということはまずないはずだ。


ラダムという組織がどれほどのものかは知らないが、彼らとの戦いはこれから何度も繰り返されるだろう。


その度に彼は三十分という時間とも戦わなければならない。


「大丈夫ですか、はやてちゃん」


その声に、愛らしくいつも笑顔を絶やさない文字通り妖精のような少女がこちらに向けて


心配そうな表情を浮かべているのに気づく。


「うちはいつでも元気やで、リィン」


どうにかして笑顔をつくり言いつくろってはみたが、誤魔化されたことに対してかリィンは少し怒った顔をして


「嘘です。はやてちゃん、さっきからずっと困った顔してましたです」


内容が内容なので皆にはまだ話していないし、気取られてはいけないと気をつけていたのだが、周りに誰もいなかったためか


気が緩んで顔に出てしまっていたらしい。この娘のことを忘れていたというわけではないのだけれど。


「何か悩み事があるなら相談してくださいです。リィンはそのためにはやてちゃんと一緒にいるんですから。


……あの人のことですか?」


ため息が漏れる。姿を見せてはいなかったが、リィンもDボゥイの話を聞いていたのだ。


それなら、この娘にだけは話してもいいのかも知れない。あまり気を使わせたくはないが、言っても本人は


頑として譲らないだろうし。


「Dボゥイさんのことを考えるんやったら、戦わせないように止めるのが一番やってことはわかってるんや。


けどそう言っても聞いてもらえへんいうことも想像がつく。ならどうしたらええんか、ずっと考えてるんやけど


何にも思い浮かばん」


リィンならどうすればいいかわかるかと聞いてみたが、返ってきたのは申し訳なさそうなごめんなさいという一言だけだ。


何が最善か、誰に聞いたところで恐らく納得のいく答えは得られないだろう。


結局のところ、彼が戦うことを止めるという成功する見込みのない考えしか出てこないのだ。


「リィンにはわからないですけど、はやてちゃんが後悔しないようにすればいいと思うです。


何もしなかったら、何もかわりませんですから」


微笑みながらそう慰めてくれたが、なのはのようにはやてにも光明は見出すことは出来ないままだった。














「で、殴ってそのまま帰って来ちゃったって言うの?」


驚くというか呆れるというか。どちらともとれるような表情を浮かべながらシャマルはシグナムを見た。


「奴の顔を見ていたらそうせねば気がすまなかったのでな。流石に自分でも短慮ではあったと思うが」


そう言いながら、その顔には反省の色はあまり見えない。


Dボゥイのことを許せないと思っているのは事実なのだ。彼は結果的にフェイトを見捨てたのだから。


「どうせならもっとやっちまえばよかったんだよ、あんなやつ」


「ヴィータちゃんそういうこと言わないの。……どうしたのザフィーラ?」


シグナムが戻ってきて事の一部始終を聞いている間も、彼は何も言わなかった。ヴィータはそれくらい当然という顔で


あったが、ザフィーラの方は目を瞑ったまま何事か考え事をして途中から話を聞いていないようですらあった。


「どうにも腑に落ちんのでな。先程の戦いの中で僅かばかり言葉を交わしただけで確証を持っては言えんが、俺には奴が


そのような男だとは感じられなかったのだ」


そう、ザフィーラがDボゥイと顔を合わせたのは二回だけ。それも口をきいたのは一回だけだ。


だが、その一回でなんとなく程度ではあるがわかったことがある。


高町なのはが共同戦線を申し出た時も、シグナム達が思っているような性格の者であれば無視していただろう。


だが、その後彼は主である八神はやてから彼女と共に戦ったとも聞いている。


「ザフィーラの気のせいじゃねえの。実際にあいつが逃げたせいで未だにフェイトは目を覚まさないんだし」


「だからわからんのだ。だが、主はやてはあの男に助けられたと言っていた。仮にお前達が考えているような男であれば


主も同様の立場になっていたか、あるいは……」


敢えてそこで言葉を切る。皆まで言わずとも何を言いたいかはわかることだ。


彼が助けに入らなくても何とかなったかもしれないが、そうであったとは誰にもいえない。


むしろ彼がいなければ最悪の状況となっていたかもしれないのだ。


「しかし……」


反論しようとしてはいるが、シグナムの口調は最初のそれとは違っていた。


ザフィーラの言うことも一理あるのだ。


確かにフェイトのことだけであれば、ヴィータや自分のような考えをもってもおかしくはない。


現に、アースラの大半が同意見なのだ。


その事に気を取られ失念していたが、はやての事をふくめて考えればそうとも言い切れないのだ。


「そういえば主はやては?」


話に出てきて思い出したが、自分達の主はこのあてがわれている部屋には見当たらなかった。


「はやてちゃんなら、一人で考えたいことがあるからってさっき出て行ったわ。大分悩んでたみたいだったけど」


シャマルの顔が曇る。その度合いから見て、はやてが相当思いつめた表情をしていたのだろうと伺える。


「昨日あの男と話をしていたとリィンが言っていたが、その後からだな。高町なのはも同じようなものらしい」


「言われてみればそうね。何があったのかしら……」


一度Dボゥイと話をしてくると言って出て行った後、戻ってきた時から様子がおかしかった。


話を振ってもまるで上の空で、返事はするもののすぐに黙ってしまうということの繰り返しがずっと続いている。


「なんならあたしが聞いてきてやろうか?」


「やめておけ。主が話さないのならば私達が詮索すべきことではない。時が来るまで待て」


Dボゥイについては意見が分かれているが、このシグナムの言葉には他の二人も同意を示した。


はやてが自分達に打ち明けないのには余程の事情があるのだろう。でなければそうまでして悩んだりはしないだろう。


何より、はやては自分たちのことを家族として見てくれている。その家族として隠し事を嫌う彼女が何も言わないのだ。


聞いたところで答えてはもらえない可能性が高い。シグナムの言うとおりはやてから話してくれるまで待つしかない。


(はやてちゃん……)


未だ苦悩しているであろう主を思うと、シャマルは胸が痛んだ。














どれほどの時間が経過したのか正確にはわからないが、かなり長い間眠っていたらしい。


流石に丸一日潰すほどではないが、それでも眠りにつく前よりも時計の短針が180度近く移動している。


予想していた以上に疲労していたらしいが、充分に休養がとれたおかげか大分体が軽くなっている。


いつ戦闘になろうともこれならば存分に戦うことができる。


まずは顔を洗って目を覚まさなければ。そう考えてベッドから下りた直後に警報が鳴り響いた。


「!?」


この艦が本部に到着したのなら何かしら連絡が来るはずだ。だが、そのようなことはなかった。


ならば未だ次元の狭間を航行中ということになる。


次元の狭間という空間は、管理局の巡航艦を除けば何も存在しないと言っていた。


ではこの警報は何を知らせるものなのか。


その答えは日を見るよりも明らかだ、考えるまでもない。


(奴等が攻めてきたということだ!)


ベッドのすぐ脇に置いておいたクリスタルを掴み、部屋を飛び出す。


ダガーかあるいは他のテッカマンがいるかどうかはわからないが、いようといまいと関係ない。


(全て俺が葬る……!!)














「テッカマンブレード、ラダム獣と戦闘開始しました!」


「向こうの数は?」


「す、少なくとも三十はいます。こんなに……!?」


オペレーターとクロノのやりとりに、ブリッジが騒然となる。


無理もない。先日あれ程苦しめられた相手なのだ。


それがこの艦一つに対して三十以上も向かってきているのだから。


「とりあえずアースラは現状を維持して。武装局員は指示があるまで待機です」


「あの、リンディさん。私達は……」


自分は出るとその瞳が行っていたが、なのはに対してリンディは首を横に振る。


「悪いけれど、なのはさん達もこのまま待機していてもらうわ」


「せやけど……!」


それでは彼一人を危険にさらすことになる。


身を乗り出してそう反論しようとするはやてだったが、その言葉を言い切る前に


「これは命令です。あなたたちも管理局員である以上、私に従ってもらいます」


リンディにそう言われてしまっては何も言えず引き下がるしかない。


「はやてちゃん、気持ちはわかるけどここは我慢してくださいね。次元の狭間での活動は魔法を使える者であっても


非常に危険なものですから」


「そうです。それに、あの男が敗れた場合には我々がこのアースラの守りとならなくてはなりません。その時のために


ここは抑えてください」


シャマルやシグナムの言っていることは至極当然のことであり、それに従うのがこの状況下では最善だろう。


そんなことはなのはもはやてもわかっていた。だが、昨日Dボゥイから聞かされたことを考えれば彼を一人で戦わせるわけには


いかないのだ。最悪、この艦だけでなく管理局そのものすら壊滅的な被害が出ることになる。


何より、そうなる前に自分を殺せと言ったあの青年を放っておく事など自分達にはできない。


だが、この場に至っても彼女達は他のものにその事を話すだけのふんぎりはついていなかった。


(Dボゥイさん……)


(お願いやから……)


二人に出来るのは、三十分というリミットを迎える前に彼がこの戦いに勝利するよう祈ることだけだった。














「ハァ…ハァ……くっ…!」


自らのスピードに半ば振り回されながらも、どうにか体勢を崩すことなく刃を振るう。


テッカマンの姿は見当たらないが、ラダム獣の数は相当なものだ。


アースラに向かわずこちらに向かってくることから考えて、敵の目的は自分とみて間違いないだろう。


ダガーの姿がないことに疑問が残るが、いないものを気にしていても意味がない。


それよりも問題なのは敵の数である。


多ければ多いほど時間がかかる。それはつまり、自分が暴走する危険が高くなるということだ。


既に二十分近くが経過している。


(時間がない……!)


焦りは動きを鈍らせる。そんなことは百も承知の筈だったが、理屈では感情は量れない。


何体目になるかわからないラダム獣を屠った直後、そうして出来た一瞬の隙を突かれた。


「…ちぃっ!!」


回避しようとしたものの、逃げられず体を四方八方から糊のような粘性の物質で雁字搦めにされてしまった。


「しまった……!」


最悪だ。このような次元の狭間での戦闘では魔導師連中の支援は期待できないというのに。





『次元空間には虚数空間というのがあって、そこでは一切魔法が使えないの。そうね、ブラックホールのようなものと言えば


わかりやすいかしら。だから、最初にあなたに会ったときになのはさん達が生身で飛び出していったのは


本来非常に危険なことなのよ。下手をすれば、二度と帰ってこられなくなるかもしれなかったわ』





普段あの穏やかな表情を浮かべているリンディが真剣な表情でそう言っていた。


彼女の言うことをまとめれば、魔法に頼らずにこの空間を動けるのは自分だけということになる。


つまり、この状況を一人で潜り抜けるしかないということだ。


この空間に出ること以上の窮地に追い込まれない限り、彼らは出てくることはない。


逆を言えば、彼らが出てくるその時には自分は既に最悪の状況を迎えているということを意味している。


(くそっ! 俺には…俺には時間がないんだ……!)














「ブレード行動不能! ……! 敵一部がこちらに向かってきます!!」


「総員直ちに迎撃体制に移行してください。武装局員にも発進準備の連絡を」


「了解しました!」


メインモニターには敵に拘束され、無防備に攻撃を受けるブレードの姿が映っている。


あの様子では自力での脱出は到底無理だろう。誰かが助けに行かなくてはならない。


それに、最大の懸念である時間ももう殆どないはずだ。


「はやてちゃん、このままじゃ……!」


「わかってる。もう出るのが危険なんて言ってられる状況やない。うちらがあの人を助けてあげなあかん!」


「うん! ……リンディさん!」


絶えず忙しそうに指示を出しているところを邪魔するような形になってしまったが、それどころではない。


「何かしら?」


「私達も行きます! 行かせてください!」


「もう時間がないんです。早くしないとあの人が危ないんや!!」


必死に二人が懇願するが、しかしリンディは首を横に振った。


「そんな……!?」


「今はアースラを守ることが最優先です。彼一人のために乗員全てを危険にさらす訳にはいかないの。


残念だけど……」


確かに、ブレード一人とこの艦を天秤に掛ければどちらを取るかは艦長としての彼女の立場を考えれば


その判断は至極当然のものである。……普通ならば。


「そうやないんです! このまま時間がたてば、あの人もアースラも皆が危ないんや!」


はやてのその言葉に、なのは以外の者は一様に首を傾げる。


彼のことだ。自分たち以外にはあのことを話していないに違いない。


「どういうことです、主はやて。時間がないとはどういうことですか?」


シグナムのその問いに、はやては俯きながら答える。


彼女がどのような表情を浮かべているか、陰になって見えないがその体は震えていた。


「Dボゥイさんは……あの姿でいられるんは三十分が限界なんや。それを超えると意識を失って暴走してまうって……!」


「なのは、それは本当なのか?」


「本当だよ。昨日、Dボゥイさんが私たちにだけ話してくれたんだ」


その答えに、ため息をつきながらクロノは頭に手を当てた。もう少し信用されているかと思っていたのだが。


「どうしてそういう肝心なことを言わないんだ、あいつは!」


「あまり信用されてなかったみたいね。仕方のないことかもしれないけれど」


「………」


ヴィータは激昂しシャマルは嘆息、ザフィーラは黙して語らず。だが、その表情には苦いものが窺える。


「それは違う! Dボゥイさんはちゃんと私らのこと信じてくれてたんや!!」


思いのほか大きな声に、一瞬全ての視線がはやてにそそがれる。が、すぐにスタッフは己のすべきことに集中する。


幸いにして、先ほどの暴走のくだりは聞こえていなかったようだ。


後を継ぐようになのはが口を開く。彼が自分たちに教えてくれたことをここにいる全員に伝えなければいけない。


「あの人はこうも言ってたんです。もしも三十分以上経ってしまったら、少しの間自分は無防備になる。


だからその間に、自分が意識を支配される前に殺してくれって……」


「なっ……」


皆が絶句する。自分を殺してくれなど、相手が信頼している者だとしても軽々しく言えるようなものではない。


ましてや、付き合いも短いような互いのことをよく知らないような間柄ならなおさらである。


「それは……本当なのですか? あの者が本当にそう言ったと?」


「本当です。リィンは隠れてたから良く見えなかったですけど、Dボゥイさん辛そうだったです……」


己が主の言葉を疑うわけではなかったが、容易に納得できる事でもなかった。


だが、リィンまでもがそう言っているとなると最早疑いの余地はない。


「ならば、あの者は我々に自らの生死を託したと……?」


「そうや……ってどうする気やシグナム!?」


はやてが答えるのを待たずにシグナムは背を向けて歩き出した。


「あの者の救出には私が行きます。彼に謝罪せねばならないこともあります故」


「謝るって何をや?」


「あー、それはこっちの話」


何のことか気になるが、追及している時間はない。


早く行かなければ間に合わなくなってしまう。


そう思い転送ポートに向かって走り出そうとした矢先、シグナムとシャマルだけはクロノによって静止させられる。


「待つんだ、シグナム。君とシャマルはここに残ってくれ。後のメンバーは直ちにこの艦の防衛に当たってもらう」


「何故だ? 戦闘要員ではないシャマルはともかく何故私まで残らなければならない」


「彼を救うためだ。とにかく言うとおりにしてくれ。彼が出撃した時間から計算すると、あまり余裕がない」


彼の言うことに納得がいかないが、このまま一人で飛び出したところでこちらに向かってきているあの化け物どもに


邪魔されるのは目に見えていた。渋々ながら承諾する。


「じゃ、あいつらはあたし達にまかせてくれ。そんじゃ行ってくる!」


「俺たちでアースラは守護してみせよう。お前たちはお前たちの為すべきことを為せ」


そう言ってヴィータとザフィーラは先に出撃する。


「はやてとなのはも迎撃に回ってくれ。……心配しなくてもいい、彼は必ず助ける」


不安そうな目をこちらに向けている二人にもクロノはそう声をかける。


納得したようには見えないが、二人も頷き皆の後に続く。


二人が出撃したことを見届けてからシグナム達の方へ向き直る。


「で、残った僕たちの役割だが、彼の元まで直接移動。その後彼を救助、共闘して残りの敵を殲滅する」


「直接移動? ……そうか、シャマルの旅の鏡か!」


首肯する。


「できるか?」


「本来なら、人を転移させるものではないけれど……やってみます」


Dボゥイと面と向かい合って話をしたことはないから、シャマルにしてみれば未だ彼がどのような人物なのか


殆どわかっていない。だが、彼がその命を自分達に託したというならばそれに報いなければ。


そして、自分達ベルカの騎士の主である少女を悲しませてはいけない。


出来る出来ないではなくやらなければいけないのだ。


「ならやってくれ。シグナムもいいな?」


「無論」


意識を集中させる。位置を間違えれば、彼らが虚数空間に落ちてしまう。


慎重に、だが迅速に空間と空間を繋ぐ。


「行けます!」


シャマルがその言葉を紡ぎ切る前に二人とも穴に飛び込む。


自分が出来ることは二人を送り出すだけ。後は信じるしかない。


タイムリミットまで後二分―――――










後書き


もうとにかくごめんなさいとしか言いようがありません。無駄に間が開いた上にまたもや前後編という事態……。

しかも、中身が伴っているのか自信が殆どない作者のAREXでございます。

日常らしさなど皆無な上に戦闘なんて殆どありません。

以下数行に渡って言い訳(ぇ


ブレードの能力的制限やらなんやらの話を描こうとなるとその説明それだけで結構な量になってしまいます。

しかし、前回でも触れましたがテッカマンブレードという作品の性質上どうしても外せない話でもあるので。

原作でもこのエピソードがあったから信頼関係がより強固なものへとなっていくことに十分な説得力を持ちえたと

思っています。

で、今回はようやくシャマルさんが少し出せたかなと思いますがどうでしょうか。

どうやったら残り時間ぎりぎりの状態でブレードの元へたどり着けるかしらと悩んでいたところ、そういやシャマルさんの

旅の鏡があるじゃないかと思い立ちこのような展開となった次第です。

一応この先の予定としては次回後編の後二、三話でダガー編(別名かませ犬一号編)終了の予定です


その後に一本くらい閑話休題的なお話を一本挟んでダニー・ボーイ、ソルテッカマンと行こうと思います。

その次でようやくこいつがいなきゃ始まらないテッカマンエビル登場という進行予定です。

次回はとうとうペガス顔見せなるかというところです。……出来たらいいな(ぉ

それではこの続きは後編で。感想や誤字脱字の報告などの報告お待ちしています。

以下蛇足という名のおまけ






Dボゥイ(以下D)「急に呼び出されたかと思えば誰もいないじゃないか。全く……」

シャマル(以下シャ)「あらDボゥイさん。どうしたんですか?」

D「いや、作者に話があると言われたんで来てみたら見当たらないんだ。そっちこそどうしてここに?」

シャ「私も同じです。大事な話があるからって呼ばれたんですけど……あら?」

D「どうした?」

シャ「Dボゥイさん、足元に紙が落ちてませんか」

D「これか。……何か書いてあるな」

『まだ序盤もいいところだけど、個人的に君達の絡みが一向にないのが気になるのでお話の場を設けてみた。

この機会に是非親睦を深めてくれたまえ。作者より』

D「……何を考えてるんだ、あいつは。この場は本編とは関係ないだろうに」

シャ「それで…どうします? 私は構いませんけど」

D「そうだな…このまま何もせずに帰るのもなんだから、少しだけつきあってくれ」

シャ「じゃあこちらもお願いします……ふふっ」

D「? 何かおかしなことを言ったか?」

シャ「何か全然印象違いますね。今のDボゥイさん凄い柔らかい雰囲気です」

D「基本的に本編と違って某SRPG終了時の俺ということらしい。よく分からないが、全てにけりが着いた後の俺だと

考えてもらえばいい」

シャ「じゃあ、今のDボゥイさんが本当のDボゥイさんなんですね。はやてちゃんが言ってた通りの人でよかったです」

D「はやてが?」

シャ「他人を突き放そうとしてるけど、本当はとても優しい人だって。それはもう凄い熱の入れようでしたよ」

D「……そうか」

シャ「あれ、もしかして照れてます?」

D「まあ……そこまでストレートに言われれば、な」

シャ「うふふ」




はやて(以下は)「なんやシャマルの様子がおかしいと思って後をつけてみれば……これはあかんな」

リィン(以下リ)「何がですか?」

は「リィンもよう覚えとき。この話はテッカマンブレード主体、つまりDボゥイさんが主役なんや」

リ「それがどうかしましたですか?」

は「要するにDボゥイさん中心で話が進む。せやから敵はともかく私達はあの人と関係が深い人物ほど

登場回数が多くなるんや。裏返せばあまり親しくない人物はあまり出てこれへん」※そんなことはありません

リ「そ、それじゃリィンも危ないですか!?」※二度目になりますがそんなことはありません

は「そうや。だからシャマルにも気を許したらあかん! 出し抜くくらいのつもりで行くんや!

そしてヒロインの座をゲットするんや!!」※くどいようですがそんなことは全くもってありえません

リ「はいです! 頑張るです!」※いいかげんしつこいですが(以下略




続きません……多分。なんだかシャマルさん題材にして一本書きたくなってきたような……





ペガス「……次回ハ、SorrowBrade第五話「Trust」―後編―、デス。……仮面ノ下ノ涙ヲ拭エ」








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。