乱雑に歪む景色の中、小さいながらもその中にはっきりと自己の存在を主張する二つの色。


学生服のような印象を受ける白い服に身を包んだ少女と、マントを羽織り形容しがたい黒の衣装を纏った少女。


流石にここからではあまり細かいことはわからない。しかし、先ほどの閃光と光の槍が


あちら側から放たれたものであるのは事実だ。


(方向と角度から推測すれば連中があの砲撃を行った、ということなんだろうが……)


理屈で考えればそういうことになる。しかし、あの少女達と先ほどの攻撃がどうにも結びつかない。


自分達もその存在自体が異常だが、この状況下において場違いという意味では彼女達のほうが遥かに上だ。


「ブレード、貴様伏兵などと小賢しい真似を……!」


ダガーはあの二人がこちらの仲間だと勘違いしているらしいが、あのような連中とつるんだ覚えはない。


  「あんな奴らのことなど俺は知らない! 俺には仲間などいない……!」


最初と同じように、再びダガーと向き合う構図となる。違うのは互い全身に損傷を負っているということだ。


そしてもう一つ……こちらに残された戦闘可能な時間には制限があるということ。


その限られた時間の中でこいつを倒さなければならない。


それが可能な手段はただ一つ。それを使えばあの少女達の相手は出来なくなるが、今はそれどころではない。


ダガー以外にもテッカマンは――倒さなければならない敵はまだ多い。


(だから、こいつはこの場で……! な、んだ……!?)


だが、その想いは成就しない。突然身体が急に重くなり、自由が効かなくなる。


(こん…な、時に…! 一瞬、でいい……言う……ことを、聞け…!)


普通に動くだけで精一杯で、これでは到底戦うことなど不可能だ。


気づかれればそれで終わりだが、向こうは苛立たしげに少女達を睨み付けておりこちらの変化に気づいた様子はない。


そして、こちらを向く。全てが終わるかに思われたが、ダガーは信じられない行動をとった。


「あの様な力を持つ人間は、向こうの世界には存在しなかった。あの方にお伝えせねば……」


何事かつぶやくと、あろうことか相手は背後の空間に穴を開けその中へと飛び込んだのだ。


それとほぼ同じタイミングで鎖が解かれたように身体が軽くなった。


「逃げる気か、ダガー!」


挑発のつもりで言葉を放つ。ここでダガーだけでも葬っておきたいというのがブレードの心情だった。


だがそれに乗ってくることはなく、返ってきたのは憎悪に満ちた声だけであった。


「今回はこれで終わりにしてやろう…だが、次は必ず貴様を殺す! 必ずな!!」


直後、穴が閉じていく。逃さずに決着を着けたかったが、この状態ではそうもいかない。


ただ黙って奴らの本拠地につながっているであろう道が閉ざされていくのを見ているしかない。


穴が閉じきり、何事もなかったかのように周囲を静寂が包み込んでいく。


ブレードは虚空にダガーの姿を幻視し、それを怒りを含んだ目で睨む。


次で終わりにすると奴はいった。だが……


(次で終わるのは俺ではない……お前の方だ、ダガー…!)


しばらくそうして穴のあった場所を睨みつけた後、少女達のほうへと向き直る。


次はあちらをどうにかしなければなるまい。今度は話し合いで済みそうな相手だ。


飛び出したときにあの戦艦を破壊したことについても色々と問われるだろうが、仕方がない。


声が届く程度の距離まで近づく。杖と思われるものを構えてこちらを警戒しているが、それも当然の反応といえる。


この距離では相手の表情までは伺えない。しかし変化があれば気配でわかるので、相手がどう動こうと対処できる。


先程は自分を援護してくれた形になったが、まだ味方だと決まったわけではない。


憶測は時として非常に危険な、それこそ死を招くことすらある。


だが、今はテックセットを解く事が先決だ。時間が過ぎれば自分は――してしまう。


つくづく制限のあるこの体が悔やまれるが、それでも奴等と対等に戦えるだけまだましだ。


今この場で争う理由はないし、なるべくなら一時的にでも休息する場所が欲しい。


時間は後数分とは言わないが、そう時間に余裕があるわけではない。が、どう切り出すべきか判断しかねた。


「あの……」


白い服の茶色い髪を左右で分けた少女が、距離を詰めて躊躇いながら声をかけてくる。


同じ分け方をしているもう一人の黄色い髪の少女がそれに従うが、こちらは冷静そのものといった印象を受ける。


「私達は時空管理局に所属する魔導師です。色々と聞きたいことがありますから、私達についてきて


もらえないでしょうか?」


魔導師などというまた聞きなれない単語が出たが、彼の興味を引くほどのものでもなかった。


というよりも、それどころではないといった表現の方が正しいかもしれない。


白い服の少女の顔が見えた瞬間、彼女の別の少女の面影を見て彼は驚愕のあまり呆然となっていたのだから。


(似て……いる……)


どこが、というわけではない。しかし確かに似ているのだ、この少女は。


そう、失ってしまった彼の―――――――


「ミ……」


思わず口からその名前が漏れ出そうになるのに気づき、あわてて口を閉じる。


何を感傷に浸っている、もう自分にはラダムへの怒りと憎しみしか残されていないのだから。


過去に縛られている時ではない。悲哀も後悔も、全てが終わってからだ。


意識を現実に戻すと、二人とも怪訝な表情をこちらに向けている。当たり前だ。


自分達の言葉にも反応せず、口を開いたかと思えばすぐに押し黙れば普通は訝しむ。


「時空管理局、といったな。なら……お前達はあの艦のものか?」


頷く。頼んだわけではないが、あの艦にはぼろぼろになっていた自分の身体を治療してもらった礼がある。


それに、元々ある程度とはいえこちら側の状況を説明する約束を交わしていたはずだったことを思い出した。


向こうからの申し出はこちらからすれば願ってもないことだ。


「あの艦の連中には借りもある。素直に従おう、ただし……」


「わかっています。手荒な真似はこちらとしてもしたくありません」


「それに、白騎士さんにはそんなことしなくても大丈夫です」


何を根拠に、初対面の相手を大丈夫というのかはわからないが。


嘘をついている可能性も否定できないが、少なくともこの二人は問題ないだろう。


話し方や表情を注意深く見ていればその程度のことはわかる。それに、まだこの二人は幼い。


余程のことがなければ、平然と嘘がつけるようなものでもない。


飛び出す前に会ったあの二人はどうか知らないが。


「わかった。あの艦までの先導を頼む」


こちらも嘘のない証拠を見せるために武器をしまう。


それに安堵したのか、二人とも深く息を吐く。気を張っていたのだろうか、こころなしか


表情も多少緩んだように見える。この二人はやはり嘘をついていないという確信が強まる。


そうでないなら、こんなにわかりやすい変化は見せない。


「今から転移しますから、魔法陣の中に入ってください」


直後、少女達の足元に光輝く魔法陣が浮かび上がる。先ほど聞き忘れた魔導師という言葉と今回のもの。


両方とも意味の分からない言葉だがその説明は後でしてもらうことにする。


(……ん?)


魔法陣の範囲内に踏み入るのとほぼ同時に、先ほどのやりとりの最後に違和感を感じて少女達に尋ねる。


「そういえば、さっきの白騎士とはどういう意味だ?」


「えと…名前がわからないので見た目からとりあえずそう呼ぼうって、クロノ君が」


理由のほうはなんとなくわからないでもないが、クロノとは誰のことだろう。


名前を出されても誰のことか分からないが、あの少年だろうか。


「クロノは私の兄です。医務室で会ったと思いますけど」


やはりというかこの二人意外には彼ともう一人としかこの世界では顔を合わせていないのだから、


他に思い当たる人物がいなかっただけだが。


それにしても、この黄色い髪の少女の兄だったとは。そう似ているようにも思えないが


別に自分が聞くようなことでもない。


「そうか……。なら、一緒にいた女のほうは誰なんだ?」


答えを聞いて、ついでに思いついた質問をぶつける。


「それは……」


「この艦の艦長を務めている、リンディ・ハラオウンです」


その答えは目の前の少女達からではなく、背後から少年とともに自分に会いに来たあの女性の声で帰ってきた。











SorrowBrade第三話「they are "Radam"」












後ろから声して、振り向いて、自分が次元の狭間ではなく艦の中にいることに気づく。


一瞬で次元の狭間を移動したことから、今のものは時空転移の一種だろうと勝手に憶測を立てる。


振り向いた先には先程の二人にこの艦のスタッフと思われる制服を着ている連中、そして関係者だろう


風変わりな格好をした集団がいる。


柔和な表情をうかべているのはリンディと名乗るあの女性のみで、他は皆警戒心が表に強く出ている。


いや、一人だけ例外がいた。


風変わりな格好をした集団の内の一人、背中に六枚の黒い羽が生えたような服を着た少女だけは


何故か自分の後ろに控えている少女二人と同様、あまりこちらに警戒心は抱いていないように思える。


もう一人、その傍にいるそれよりも幼いだろう紅い人形のような服を着た三つ編みの少女は


警戒どころか敵意すらむきだしにしているようだが。


とりあえず、あまり時間もないのでテックセットを解く。


クリスタルフィールドの光が消えた後に現れた自分の姿を見て、どよめきが走る。「こんな少年が……」という


声も聞こえたが無視する。それを言うならば、そちら側も同じだろうとこちらが言いたいくらいだ。


「やっぱりあんたが艦長か。さっき見たときになんとなくそうだろうとは思っていたが」


「あら、それはどうしてかしら?」


「あんたからは威厳のようなものが感じられる。それが理由だ」


のんびりとした口調でこそあるが、リンディから感じられる雰囲気は他の者とは一線を画していた。


そして、それはあの羽のついた服の少女も僅かながらに纏っているものだ。


「それよりも、そっちは俺に聞きたいことがあるんじゃないのか」


向こうが本当に聞きたいことは、自分とラダムのことだろう。


なら、こんな意味のない話題で話を伸ばすことは時間の無駄だ。


今の一言で、リンディの表情が艦長のそれへと変わる。


「では、本題に入らせてもらいます。まず最初に、あなたのこととあなたと共に現れた生命体、それと


あなたと同じ存在であろう今回交戦した相手について話してもらえるかしら」


「わかった。だが、俺と奴を一緒にするな……奴は俺の敵だ!」


思わず叫んでしまった。驚くものの他に顔に厳しさを増すものもいる。


「はん、てめーだってあたし達の敵かもしれねえじゃねえか」


紅い服の少女が食ってかかってくる。彼女の言うことももっともだが、それはこちらも同じことだ。


向こうが自分に危害を加えないという保証はどこにもない。


「お前達も俺の敵じゃないと決まったわけじゃないだろう」


「何だと!?」


「ヴィータ!」


互いに剣呑な雰囲気になったところで、隣の三対の羽の少女が止めに入る。


「けどよはやて!」


「ええから! ごめんな、邪魔して。話続けてくれる?」


こちらに謝りながら、はやてと呼ばれた少女がヴィータと呼ばれた少女をなだめている。


彼女に注意されてか、ヴィータという少女は存外におとなしく引き下がった。


自分は納得していないという不満をありありと浮かべてはいたが。


多少申し訳なく思い、一応心の中だけで彼女に軽く礼を言っておく。


しかし、自分を奴らと同じ括りで扱われるのは我慢がならない。奴らと自分は違う。


まだ自分は心を失ってはいないのだ。


やはり、―――――に似た少女に出会ったことで多少感情的になってしまっているらしい。


どうにも調子が狂う。


「……すまない、俺と今回戦った相手についてから話そう。俺と奴は普段は普通の人間と変わらないが、


戦闘時にはテッククリスタルと呼ばれるこの結晶の力でさっきまでのようにテッカマンと呼ばれる


体形にテックセット―簡単に言ってしまえば変身だ―する。


それぞれ固有の名前を持ち、俺はブレードで奴はダガーという。その力は、あんた達が見た通りだ。


そして、テッカマン体形での活動は異様なほど体力を消耗する……といったところか」


言いながら、自身の持つテッククリスタルを見せる。半信半疑な目を向ける者もいたが、


実際に見れば納得せざるを得ないだろう。


「聞かせてもらいたいことがあるんだが……」


あの少年が割って入ってくる。この少年がクロノだろう。よく見れば、リンディとどことなく似ている。


「何だ?」


「悪いが、君が眠りについている間に身体を調べさせてもらった。確かに君の身体は僕達とそれほど違いはなかった。


テッカマンといったか、あの姿の時の戦闘能力は尋常じゃなかったが」


知らないうちに、勝手に自分の中を覗かれたようで嫌悪感が湧く。


「じゃあ、何が聞きたいというんだ? 別に何も嘘はついてないだろう」


抑えきれずに、言葉に苛立ちが含まれる。棘のある言い方になったかもしれない。


しかし、気づいていないのか、それともこの程度では気にもならないのかクロノは表情を変えずに聞いてくる。


「君の話は今の所嘘はない。僕が聞きたいのは、データから見れば今の君は僕らと変わらないが


本当に君は人間なのかということだ」


「なら逆に聞きたいが、あんた達には俺は何に見えるというんだ?」


今の自分はどうみても人間以外の何者でもない。角が生えているわけでも、牙があるわけでもない。


「普通の人間ならば、そのような変身能力は持っていないはずよ。でもあなたにはある。


だから、私達も判断しかねている部分があるの」


二人の疑問は、そのまま全員のそれなのだろう、皆一様に目がそう言っていた。


更に苛立ちが募る。こいつらが信じようとそうでなかろうと大したことではない、自分の邪魔さえしなければ。


そう思いながら、やはり嫌な思いは拭えないまま言葉を返す。


「確かに信じられないだろうがな、俺は地球人だ……次にいくぞ」


このままでは自分が何者であるかだけで堂々巡りとなってしまうと思い、半ば無理やりに先へと話を進ませる。


「あの世界に現れたときに俺が戦っていた化け物、そしてテッカマンダガー。奴らは、ラダムと呼ばれる生命体が


送り込んだ尖兵だ」


「ラダム……それが彼らの総称だとして、その目的は何なのだ?」


今度ははやてとかいう少女の後ろに控えていた、服とも甲冑ともつかない衣装に身を包んだ女性から疑問が飛んでくる。


女性ではあるが、その気配は剣のように鋭い。


「奴らの目的は侵略だ。奴らがあの世界に現れたということは、俺が元々いた世界の地球は


既に奴らによって壊滅したんだろう。これは俺の推測だが……多分、奴らの次の攻撃目標はあんた達だ。


今回の戦闘でラダムはあんた達の事を認識したはずだからな。


それに、こちらの地球も対称に含まれていることは間違いないだろう」


静まっていたどよめきが、今の一言でより大きくなって起こる。突然自分達が狙われることになると言われても、


今のように何故と疑問に思うのが普通だろう。


違う世界のこととはいえ、地球が襲われたということにショックを受けている者も何人かいた。


主に自分を艦に案内した二人と、あのはやてという少女達の集団だった。


恐らく、彼女達は自分が転移した世界の地球の住人なのだろう。


自分達の世界の地球も狙われているとなれば、少女達が受ける衝撃は相当なものであるに違いない。


多少は気の毒にも思うが、まだ対策を打てるだけいいではないか。


自分はもうどうしようもない。何をしても、過去を取り戻せはしないのだ。


「待ってくれ、今君は『自分の世界の』といったな。それなら君は地球出身なのか?」


「ああ、それがどうしたというんだ?」


今度は制服を着た連中が動揺している。別に自分はおかしなことを言った覚えはないのだが。


「なんでもないわ、ごめんなさいね」


何に彼らが驚いたのかはわからないが、今は気にするようなことではない。


聞かなければならないことは他にある。


いい加減質問に答えてばかりなのも疲れてきた。そろそろ交代してもいいだろう。


「今度は俺の質問に答えてもらおう。データがあるのならわかっているだろうが、通常兵器であれば


核を含めてテッカマンには傷一つつけられない。だが、この二人がダガーに放った攻撃は


多少なりとも効果があった。どういうことだ?」


先程から自分の後ろから動かないままの少女達を指して、こちらの一番の疑問をぶつける。


他にも色々と聞きたいことはあったが、さしあたって最も重要なことはそれだ。


「あれが既存の兵器によるものではないことくらい、俺にもわかる。


正直に答えてくれ、あれはなんだ?」


「お兄さん、魔法見たことないんですか?」


白い服の少女に逆に尋ね返される。魔法……? 本気で言っているのだろうか、この少女は。


「魔法だって? はっ、今時そんなもの子供でも信じやしないぞ」


呆れてしまう。魔法だなんてものは物語の中にしか存在しない御伽噺ではないか。


「けれど事実だわ。その子、なのはさんの言う通り、あれは魔法よ。ただ、お話に出てくるような


万能な力ではないけれど……」


「それに、君の世界にはなかったのかも知れないが世界は一つじゃないんだ。そして君達のような存在もいる。


それなら、魔法だってあってもおかしくはないだろう?」


リンディの言葉も一笑に付そうとしたところで、続くクロノの発言にそれを止められた。


なのはという名の少女も、他の者も真面目な顔でこちらを見ている。


テッカマンである自分の存在、そして自分達のいた世界以外に他の世界があるという事実。


確かにこれらの要素から冷静に考えてみれば、魔法という存在も頭ごなしに否定できるものではない。


「……次の質問だ。あんた達、時空管理局とは一体何だ?」


「無数に存在する世界を管理する、警察と裁判所が一つとなったようなものよ。各世界の文化管理や


災害救助といったものも活動の一つ。私達はそこに所属する役人、とでも言えばわかるかしら」


なんとなくではあるが、わからないでもない。要は彼女の言う通り、役所のようなものなのだろう。


それだけではなく、警察などの仕事も含まれているということか。


「そして、これが最も重要ともいえるが、次元世界の崩壊を招きかねないロストロギアについては最優先で対処する。


また、その可能性が高い事例についても同様だ。今回の君達のようにね」


ロストロギア、また聞きなれない言葉だ。そして自分もそれに関わっているかもしれないという。


転移した先の世界と自分の世界、一体どこまでずれているというのだろう。


平行世界という概念も信じていたわけではないが、これはもうそれどころではない。異世界としか言い表せない。


既に驚きを通り越して呆れすら感じる。


考えることを放棄したい気もするが、それが何なのか一応知っておかなくてはならない。


「次から次へと知らない単語が出てくるな。で、ロストロギアっていうのは何のことだ?」


「過去に滅んだ超高度文明によって生み出された、特に発達した技術や魔法の総称だ。


そのどれもが膨大な魔力―単純にエネルギーと考えてくれればいい―を持つものであり、使い方次第では


世界を滅ぼしかねない危険なものなんだ。だから、封印して悪用されないようにするというのが


ロストロギアに対する基本的な対処の仕方だ」


一息つくためか、クロノはそこで一度言葉を切る。そして、自分に鋭い視線を向けてこう続けた。


「君達の場合は魔力とは異なるようだが、転移してきたときに交戦していた相手に君が使用した攻撃から


膨大な、それこそロストロギアにも匹敵しかねないエネルギーが観測されたんだ」


「それで、あの時あんた達が俺の前に現れたということか?」


「そういうことになる。管理局としては、単体で転移可能な上にあれだけの力を持つ存在を


放置しておくわけにはいかないんでね。そんなものは世界を崩壊させる要因にもなりかねない」


膨大なエネルギーとはボルテッカのことだろうが、世界を崩壊させるなどというのはどう考えてもありえないだろう。


実際、元の世界ではそのようなことにはなってはいなかった。


だが、それを言ったところで聞き入れられる可能性は低い。


それに、こちらと向こうでは違う結果になるかもしれないという可能性は否定できない。


「じゃあ、この後あんた達は俺をどうするつもりだ? 封印とやらをして厳重に閉じ込めでもするのか?」


「まさか、そんなことはしないわ。あなたの話は否定できるものではないしね。ラダムという生命体に


関する情報を持っているのはあなただけだし、対策も考えないといけないもの。


ただ、状況が状況だから私達と一緒に行動してもらうことにはなるだろうけど……」


一瞬断ろうかとも思ったが、まだ連中に受けた恩を返していない。出て行くのはその後でもいい。


「構わない、あんた達には治療してもらった借りがある。ラダムと戦うことを邪魔さえしなければそれでいい」


「じゃあ、よろしくお願いするわ……あなた、名前はなんていうのかしら?」


「……覚えていない」


「何だって?」


ラダムと戦うことだけが全ての自分にとって名前など意味がない。もう過去に捨て去ったものだ。


「俺が覚えているのは自分がテッカマンであること、ラダムは必ず倒さなければならない敵ということだけだ。


……それに、今の俺には名前など必要ない」


「困ったわね、それじゃあなたのことをどう呼べばいいのかしら」


本当に困っているようだ。得体の知れない自分の名前などどうでもいいことだろうに。


「好きにしろ。名無しだろうがなんだろうが俺は構わん……疲れが溜まってるんでな、そろそろ休ませてもらうぞ」


「あらごめんなさい。そうね……それに、ふさがったように見えるけどまだ傷が治りきってはいないもの。


なのはさん、フェイト、悪いけれどその人を空いている部屋に案内してきてもらえるかしら。


あなた達もそのまま休んでくれていいわ。それと、シグナムさんもお願いね」


「あ、はい。わかりました」


「了解しました」


シグナムというのは先程質問してきた女性だ。大方、自分が何かしたときのための予防策ということだろう。


協定まがいのものは結んだが、あの程度で互いに信じられるほど馬鹿ではないということだ。


なんにせよ、これでようやく身体を休めことが出来る。


まだ問題は山積みだが、とりあえず今は眠りたかった。全ては体力が戻ってからだ。


「それじゃ、私達に付いて来て下さい。案内します」


「ああ」
















二人に連れられて彼がブリッジから出て行く。


と同時に緊張していた空気が一気に弛緩し、多くの者の口から深いため息が漏れる。


「ふう…何とか平穏無事に話が済んだわね。私、もっとこう激しい展開になると思ったんだけど」


クロノの傍でその他大勢の一人として、リンディとクロノ二人と少年を見ていたエイミィも何事もなく


会話(というより尋問と交渉のようなものだったが)が終わったことにほっとしていた。


彼とヴィータが言い争いになりかけた時には大いに焦ったものだったが、それ以外は波が荒立つこともなく


進行していったのは少々意外ではあったけれど。


「途中少しあぶなかったけどな。彼が素直にしゃべってくれたのはありがたかった」


「まあねえ。名前覚えてないなんて明らかに嘘っぽかったけどさ」


「そうだな、しゃべりたくない理由でもあるのかもしれないが……。一緒に行動してもらう以上、名無しでは困る」


名無しと呼ぶのは気がひける。どうしたものか。


「そうだ! なら、Dボゥイ君ていうのはどう?」


エイミィは自分ながらいい呼び名が思いついたという顔をしているが、クロノにはその根拠がさっぱりわからなかった。


「Dボゥイ? なんだそれは」


「デンジャラスのDよ。だって彼、クロノ君に掴みかかろうとした上に通りかかって止めに入った局員をなぎ倒しながら


出てったんでしょ。挙句その時にアースラの艦底壊していっちゃってるし…彼にはいい名前だと思わない?」


成る程言われてみれば確かに納得はいく呼び方だ。確かに彼は局員に怪我を負わせ、艦底を破壊して


外へ飛び出していったのだ。


彼がどう思うかは別として、本当の名前がわからない以上最も相応しい呼び方かもしれない。


「そうかもしれないな……艦長、彼の呼称は暫定的にDボゥイということでいいでしょうか?」


「そうね……それじゃあとりあえず、彼のことはそう呼ぶことにします。いいかしら」


リンディの言葉に間髪いれず、かつほぼ同時に全員が頷く。


皆エイミィと同じことを考えていたのだから、反論など出るはずもない。


中には痣ができている者もいる。彼らは実際に投げ飛ばされたのだから、このような場でなければ即座に


少年に文句の一つでも吐いていただろう。


「あの、私達は……」


話の途中割って入って申し訳ないという感じではやてが尋ねてくる。少年がいなくなった以上、彼女達もここに


いてもすることがなく手持ち無沙汰に感じているのかもしれない。


「ごめんなさい。あなた達も休憩してもらってくれて構わないわ。一応アースラで待機という形になるけれど、


いいかしら?」


「はい、わかりました」


はやてたちもブリッジからいなくなり、残っているのはスタッフのみとなった。


皆に余計な焦りや緊張を感じさせないよう、どこか余裕を感じさせる表情を浮かべていたが、


リンディはここでようやくそれを崩して深いため息をついた。


「それにしてもよかったわ、彼がこちらのいうことを大人しく受け入れてくれて」


でなければ魔法を使ってでも彼を拘束しなければならなかったし、そのせいで余計に状況が悪くなっていたことだろう。


彼がもう一度テッカマンというあの姿になり、こちらに牙を向いた場合のことも考慮にいれなければならなかった。


「本当に、杞憂に終わって良かったわ。これから私達が向き合わなければならない問題は


想像以上に大変でしょうけど……」


「彼の話の真偽がどうであれ、あのラダムという連中の対処も考えていかなくてはいけないですからね」


彼が嘘を話しているとは思っていない。そんなことをしたところで、彼にメリットはないだろう。


実際にこの目で見た以上疑いようがない。


放置すれば、大きな被害が出るだろう。早急に本局に報告し、対策を考える必要がある。


そして、気になることが一つあった。彼はまだ、自分達に何かを隠しているように思える。


少しでもラダムというものの正体を明らかにするために、知っていることは全て話してもらいたい。


しかし、無理強いしたところで彼は口を割らないだろう。自身から話してくれることを願うしかない。


何が起きるのか、それはまだわからない。しかし、それが良いものでないことだけは明らかだった。


そのことが頭に浮かび、再び場を重い沈黙が支配する。


「それにしても、これからどうなっちゃうのかな……」


エイミィがため息と共に呟いたその言葉が、その場にいるもの全ての心情を代弁しているかのようだった。
















少年は全てを語らない。彼がその胸の内に何を秘めているのかは誰も知らない。




そして、この先にどのような運命が待ち構えているかなど、神ならぬ身にわかろうはずもない。




しかし、彼等は出会い刻の歯車は静かに回りだした。




狂々、狂々と…………。








後書き


今回、非常に説明臭くなって冗長じゃないかとも思う作者のAREXです。

いろいろと突っ込みどころがあるとは思いますが、ある程度目を瞑ってくださるとうれしいです。

以下、説明という名の言い訳をば

多分今回一番重要なんじゃないかと思われるのはなのはさんですね。僕の技術不足なせいであまり

目立ってはいませんが、彼女は今回(半ば無理矢理)その名前がつけられたDボゥイにとって非常に大切な存在に

どことなく似ているということに本編ではなっています。一応ぼかしてはありますが、原作を見たことのある方なら

一発でわかっちゃいますね。彼女を含めて、未来のエースさん達(になるかどうかはわかりませんが)三人は

やっぱり今後メインで動いてもらいたいところです。どうなるのかはまだわかりませんが。

無理矢理話を切ったという印象が否めない第三話でしたが、今後もお付き合いいただけると幸いです。

それではその通りになるかどうかは全くわからない次回予告を(何



本局に到着して数日、ダガー率いるラダムの襲撃を受けその撃退にあたるテッカマンブレードと

少女達。だが、ブレードは戦闘の最中突然戦線を離脱してしまう。

(くそ……まだ奴らがいるというのに……!)

少女達に明かされる衝撃的な事実。心を閉ざしたはずの彼をそうさせたのは――を彼女に見たからか……

「そんな…! じゃあ、Dボゥイさんは……!」



次回、SorrowBrade第四話「Sudden Escape」



ちなみに、最後の狂々と、のフレーズはある漫画が元ネタです。多少古いですが、結構有名なので

知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それでは、今回はこの辺で。感想や誤字脱字の報告などの報告お待ちしています。







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に下さると嬉しいです。